Fate/Zero Emiya's answer 作:旅人X
そして短いです。
突如の新たなるサーヴァントの襲来。それも、自らの真名を秘する所か、堂々とした態度と声量で自らの正体を明かしたライダーことイスカンダルが襲来して早五分。つい先程まで、二騎のサーヴァントが命のやり取りを繰り広げていた冷たい空気はそこには無く、在るのは何処までも居た堪れない空気だった。
戦闘に強引な手段で介入された二騎は元より、隠れているケイネスと姿を晒しているアイリスフィールまで何とも言えない表情で固まっていた。それというのも、乱入してきたイスカンダルのせいなのだが、当の本人はと言うと、シロウに馬鹿と告げられてこりゃ一本とられたと豪快に笑っていた。
その態度を見るに、どうやら生前にはシロウ程冷静に堂々と暴言を吐くような者は存在しなかった事が窺えた。それをカリスマと取るかそうでないかは別にしても、シロウからすれば当時の臣下達には同情の念を禁じ得ない。
ともあれ、そんな出来事があった為か暫くその場の空気は硬直していたのだが、やがてとある理由から、いの一番に文句が湧いてきたケイネスが、その身を隠したまま口火を切った。
『そうか、よりにもよって貴様か』
告げられた言葉は短く、淡白な物だった。しかし、その言葉に含まれた怒りと殺気は、告げられた言葉の量とは比較にならない程濃密な物だった。そして、その怒りの穂先は言うまでもない。乱入してきたライダーのマスターである、時計塔では彼の生徒であるウェイバー=ベルベットだった。
魔術師としては三流で、自信と意気込みとは裏腹に実際の殺し合いの経験等無い、あらゆる意味で素人のウェイバーは、その殺気をモロに受けた事で恐怖から硬直する。自分の意思とは別に、本能から震えだす体は両腕で抱きしめるように体を抱えても止まる事は無く、噛み締めた歯は上手く噛み合わずガタガタと音を鳴らす。
対してケイネスはと言うと、姿を隠したまま震えるウェイバーを見て、底冷えする様な低い笑い声を上げる。
『何を考えて私の聖遺物を盗み出したかと思えば、よもや君自身が聖杯戦争に参加する為だったとわね』
「う・・・・・・ぁ・・・・・・」
『ククッ、よかろう。可愛い教え子には幸せになって貰いたかったが、致し方ない。君には私自らが教えてあげようではないか。魔術師同士が殺し合うというその本当の意味。その恐怖と苦痛とを、余す事無く教えてあげるよ。光栄に思い給え』
強者が小者を詰るかの様に、粘着質な言葉遣いでゆっくりと告げるケイネス。時計塔での講義の時同様、含まれた数々の負の感情は、それだけでウェイバーの決して強くはない精神を削る。その震え様は、さながら天敵に狙いを定められた草食動物と言った所か。
しかし、ケイネスに震え怯えるウェイバーの肩を力強く、安心させる様にサーヴァントであるイスカンダルが叩いた。体を震わせながら、ゆっくりと顔を上げてウェイバーが己のサーヴァントの顔を見ると、見る者の不安を払拭する様な笑みを浮かべた漢が一度頷く。
それから一度大きく息を吸い込むと、姿を幻惑で隠し何処かに潜んでいる敵マスターであるケイネスへと、雷音の如き怒声を発した。
「おう魔術師よ。先程から余が黙って聞いておれば、随分と好き勝手に言ってくれるではないか。察するに、貴様はこの坊主に成り代わって余のマスターになる腹積もりだったらしいな」
『・・・・・・』
「だとしたら片腹痛いのぅ。余のマスターたるべきと自称する者が、己のサーヴァントとは共におらず、一人だけコソコソ隠れて覗き見とは。まるで盗人か、臆病者のするべき所業。そんな小心者が余のマスターに足る男とは、余のマスターに対する大きな侮辱ぞ?役者不足も甚だしい」
そう言って、大きな笑い声を上げるイスカンダル。笑い声には、隠しきれない嘲りが含まれており、黙って聞いていたケイネスはギリッと、言われた事もない侮辱に奥歯も砕けんとばかりに歯を噛み締めた。そして、主を侮辱されたディルムッドは、騎士として見逃せない諫言に、眼力だけで呪い殺さんと絶大な呪いの視線をイスカンダルに送る。
しかし、向けられた当人はと言うと丸で気にしていない様子。それどころか、そんな態度さえ気に入ったのか嬉しそうに笑みを浮かべる。
「それでどうだ、ランサーよ?この機会に、余の朋友となる事を了承し軍に降るというのは?余であれば、貴様に相応しい戦場を用意してやると約束するが?」
「愚問!!」
イスカンダルの言葉を、一笑に帰すディルムッド。そして、己の誇る魔の長槍をイスカンダルの心臓を穿つように真っ直ぐ向け、続く言葉を口にした。
「先程からの諫言を受け、マスターを侮辱されたこの俺が貴様に降るなど、天地がひっくり返ろうと有り得ぬ事だ。何より、貴様の問いは騎士たる者全てへの侮辱!!主の前で謀反を起こす者が、騎士クラスの座を与えられる事など無いと知れ、征服王!!」
「・・・・・・ふむ、成る程のぅ。騎士として、か。こりゃ一本取られたのぅ。それで、そっちのお前さんはどうだ?謎多きサーヴァントよ」
「理由は異なるが、そちらのランサー同様だよ。誰かを裏切るのは、この身には一度で十分だ。それに、誰かの下へ降るというのは性に合わないのでね」
クッと、自分を攻めるように小さく笑みを浮かべるシロウ。それを見たイスカンダルは、何か感じ入ったものがあるものの、顎に手を置いて思考を巡らせるが、結局何も言わず心の底から残念そうな溜息を一つ零すと、やれやれといった感じに両手を上げて首を振った。
「こりゃー完全に空振りだのぅ。見事なまでの交渉決裂だわい。勿体無いなぁ。残念だなぁ」
「解りきっていた結果だと思うがね。それに、こんな目の前で堂々と裏切る様な者が、君は部下として信用できるのかね?普通であれば、罠と決まっている様な者だ。みすみす、己の首級を明け渡す事になると思うが?」
「その時はその時よ。余が主として、王として魅了するに足りなかった漢と言うだけの事。自身が決め、そして行ったが故の結果であるならば、それがどんなものであれ結果は受け止めるさ。王たる者、その程度の度量は見せねば民はついて来まい?」
「・・・・・・成る程な、君のその意味不明なまでに自信のある思考は理解したくないが、一部は了承できる部分もある。ともあれ、結論は変わらないがな。だからそこ、そう期待に目を輝かせるのは止めたまえ!!」
シロウの理解を得たという言葉に、目を輝かせてそちらを見るイスカンダル。それに向けて、慌てて否定の言葉を断言するシロウ。そのやりとりは、息が合っていたが誰もそれにつっこむ者はいなかった。そんなやり取りの内、諦めの悪かったイスカンダルも、どうあってもやはり望みは無いと悟ったのか、今度こそ大きく溜息を吐いて勧誘を止める。
「勧誘の結果はゼロか。うむ、やはり少々無茶があったかもしれんな」
「最初から無茶しかないだろ、このバ―――ぎゃん!?」
言葉を吐き終える迄もなく、イスカンダルのデコピンに再び吹っ飛ばされるウェイバー。少女の上げる様な情けない悲鳴に、再びイスカンダルは大きなため息を吐くが、本当に呆れられるべきは誰であるのか。その誰かを口にする勇者はいなかったが、その視線が一人の大男に向けられていた。
シロウとしては、ただの馬鹿ではないと思いたかったが、余りにもふざけた諸々の態度に評価は現在進行形で低下中だった。そんな時だ。
「ま、それはそれとして・・・・・・そろそろ名乗り出でも良いのではないか?ええ?姿を見せぬ見知らぬサーヴァント共よ」
言葉を告げたのは、一瞬にして豹変したイスカンダル。その声色には、先程まであった妙な茶目っ気のあるものを感じない。声色には、覇者の威厳とでもいうべきものが乗っていた。それにも当然驚くべきだが、それ以上に告げた言葉の内容の方がその場にいた全員を驚かせる。
「どういう事だ征服王?今この場に、俺達以外のサーヴァントがいると?」
「応とも。何せ、先程までのうぬらの死闘は真天晴れであった。異なる時代の英雄同士の死闘、聖杯戦争で競い合う相手に相応しい戦いぶりだったわい。そんな闘いを繰り広げられ黙っている様ならば、英雄などと後世に語られるわけがあるまい?」
「成程、確かに一理ある。とは言え、こんな混沌とした空気の中素直に現れるとは思えんがね。まぁ、余程の目立ちたがり屋か戦術というものを無視して襲いかかってくる、考えなしの愚か者だと言うならば分からんがね」
クッと、シロウは今は姿が見えない自身にとっては切っても切れない嫌な縁を持つ相手に向けて嘲笑を浮かべる。すると、そんな姿も見えない誰かを挑発する様な言葉を待っていたのか、イスカンダルが豪快に笑うと猛獣のように燃えたぎる瞳で闇夜を一覧し、その厚い胸板を張らせて両手を大きく広げた。
「この冬木の地の聖杯に招かれし、あらゆる時代の豪傑は今!この場に集うがいい。征服王たる余にここまで言わせて尚、顔見せを怖じる様な臆病者は、今この場にいる英傑共総ての侮蔑を免れぬ者と知れ!!」
告げられた言葉は、聖杯戦争というシステムを網羅し熟知している者からすれば、只の戯言に聞こえた事だろう。特に、サーヴァントを従えているマスターからすれば悪手以外の何者でもない。残っているサーヴァントのクラスを考えれば、白兵戦を好むようなサーヴァントはいないはずだ。
まともなマスター、そしてサーヴァントであるならばこんな誘いの一手に乗るような愚か者はいないだろう。それが例え、歴史に名を残した偉大なる征服王から告げられた言葉であろうとも。しかし、何事にも例外は存在する。そしてその例外と言うのは、大概が個人的感情で場を掻き回す傲岸不遜な輩と決まってきた。
「あれは―――!!?」
声を上げたのは、イスカンダルのマスターであるウェイバーだった。暗い闇の中、闇を照らす街灯の上に突如として黄金の輝きが光の粒子となって現れた。出現当初こそ、やたら派手に闇夜を照らすように舞っていた光の粒子は、やがて人の形大に纏まり、遂に完全な人型となってその場に顕現した。
黄金の髪と黄金の鎧を身に纏った男。僅かに鎧から露出した皮膚は、性別は真逆にしても尚美しく輝いてさえ見える、白磁の様な肌だった。そんな人物を一言で表すのならば、それは人としての黄金比の極地。どのような人物と比較しても、彼に勝る美を持つ風貌を持つ者など存在せず、比する事すら馬鹿らしくなる様な容姿をしていた。
だが、そんな男から感じるのはまかり間違っても純粋な美しさ等ではなかった。それは言うなれば、一片の慈悲もなく死を感じさせる恐怖がなせる美しさ。例えその男を見るのが英霊であろうとも、否。英霊であるが故に、本能的な何かがサーヴァント達に警戒を促した。
知れずと、槍を握るディルムッドと轡を握っているイスカンダルの手に力が入り、その男の厄介さを誰よりも熟知しているシロウは警戒に警戒を重ねて、黄金のサーヴァント、
「痴れ者共が。
「・・・・・・ああ、いや何だ。イスカンダルたる余は、世に知れ渡る征服王であるからして、容易く身も知らずの相手に頭を差し出すのは無理な相談でな」
「よくもこの我の眼前で、征服王等と大層な名を口にする者だ。貴様等が何であれ、歴史がどうであれ、唯一の絶対はこの我の降した決定だ。真の王たる英雄は、天上天下に我ただ独り。我が認めん貴様如き雑種が王を名乗る等、思い上がりも甚だしい」
「そこまで堂々と言い切られると、最早皮肉の一つも浮かばんわい。で、そういう貴様は何処の何者なのだ?まさか、真の王なんて自称する貴様が、己の威名を憚りはすまい?」
明らかに挑発的な言葉を、アーチャーに向けるイスカンダル。常識で考えれば、そんな問いに素直に応える様な真似をする輩は存在しない。それは、常識破りのアーチャーとは言え例外ではない。例外ではないが、常識破りのその男はそんな戦術的な意味ではなく、完全なる個人的感情からイスカンダルの言葉に堪え様のない怒りをその身に宿して、殺気の矛先をイスカンダルに向けた。
「よもや、我の名を問う雑種が存在しようとはな。我を拝謁する栄に浴して尚、この面貌を見知らぬと申すならば、その様な無知蒙昧は最早存在する価値すらあるまい?」
「顔を見知らぬも何も、余の生きた時代に存在した人物でないのならば、知らなくても無理がないと思うがのう?」
「雑種は所詮雑種だな。我の告げた言葉の内を理解せず、愚直なまでにそのまま捉えようとは」
ハッと、鼻で笑い嘲笑を浮かべるアーチャー。イスカンダルとて、本当にそのまま告げた言葉では無かったのだが、それに対していちいち反論すると、また感の触る言い方をされると理解しているからか、敢えて何も言わなかった。アーチャーの方も、それは解っているのだろう。黙り込むイスカンダルに、それ以上向ける言葉はない。
そんな事よりも、アーチャーにはすべき事があったのだから。興味を失ったイスカンダルから目を逸らし、代わりに赤い外套を纏ってこちらを見上げる男、シロウに向けてその殺人的な眼光を向けた。本来、アーチャーがこの場に姿を顕したのも、イスカンダルではなくシロウの方に殺意を覚えたからなのだから。
殺気を向けられた本人であるシロウも、向けられた本人だからこそ理解していた。そして、この世界においても繋がった嫌な縁に内心でため息を吐く。その瞬間、まるでタイミングを見計らったかの様に、アーチャーが言葉を投げた。
「尤も、暑苦しい雑種よりも質の悪い雑種はいるようだがな」
「クッ、それは私の事かね?」
「貴様以外に誰がいると言うのだ、汚らわしい雑種が。この我の高貴なる目を、貴様の様な贋作者(フェイカー)風情の姿で汚しおって。その不敬は、万死に値する」
「言ってくれるな。君の方こそ、サーヴァント三騎が集うこの状況下で警戒も無しとは、慢心も過ぎるというものではないかね?」
「戯け。慢心なくして何が王か。そうでなくとも、貴様等雑種如き、この我が直接武器を持って手を下すまでもないのだ。それ以上は無駄というもの。何より、貴様の様な雑種の物差しで我を計ろうなど、不敬も程がある」
そう言うと、アーチャーは端正な表情を怒りで歪め、視線だけで射殺さんと眼下のシロウを睨みつける。同時に、アーチャーの背後の空間がぐにゃりと歪む。二つの黄金の波紋が浮かぶと、そこから音もなく二振りの武器が、シロウに切っ先を向け待機した。
「あれは!?」
「成る程のぅ、坊主の言っていたのはアレの事だったか。こりゃ確かに、奇っ怪な奴よ」
驚愕の声を上げるウェイバーと、不可解に眉を寄せるイスカンダル。姿は見せないケイネスと、戦場に立つディルムッドも声こそ漏らさないものの、目の前の光景に瞠目していた。彼らが驚愕した理由は、今まさに出現した二振りの武器にあった。
得体の知れないアーチャーが出したその二振りは、そのどちらもがとてつもない魔力を内包した武器、つまり宝具だったからだ。初見であれば、誰であろうと驚くのも無理はない。
そんな中でも、表情を全く動かさない黄金のアーチャーをよく知るシロウは、双眸を獲物を狙う鷹の様に尖らせて二振りの武器とその持ち主を睨む。その視線を受け、更に表情を怒りに歪ませるアーチャーは最早耐え難いとばかりに、スッと上げた右手を振り上げ。
「偽物は疾く失せるがいい、雑種!!」
烈火の怒声と共に、ミサイルの如き宝具が放たれた。
更新遅れて申し訳の次第もありません。
急な出張が入ったもので、予定外に遅れてしまいました。
次回ももう少々掛かると思いますが、楽しみにして下さる方々がいましたら、申し訳ありません。
そして、沢山のお気に入り登録ありがとうございます。これからも頑張っていきますので、よろしくお願いします。