UBW~倫敦魔術綺譚 (未改訂版)   作:冬霞@ハーメルン

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あの泣き黒子の麗人、男装の乙女、鉄拳の魔術師が満を辞して登場!
時計塔のカリスマ教授の元でも、ひそかに事態は加速する‥‥!



第二十七話 『伝承者の鉄拳』

 side Lord El-Melloi Ⅱ

 

 

 

 自室の奥、魔術的なものと物理的なものの二重のロックをかけた戸棚の前に私は立ち、その中に納められたものをただ突っ立って眺めていた。

 特殊な保管ケースに収められた、一枚の布地。博物館級の年代物であるそのボロボロの切れ端は、分かる人が見たのでなければ只の骨董品以下の代物にしか見えないだろう。

 だがそれは魔術師に‥‥否、私にとってはこの上なく大事なものであり、今の私が存在するためのきっかけとなったことへの数少ない縁でもある。

 そのボロ切れこそ、かつてマケドニアからひたすら西へと各国を征服しながら突き進んだ一人の男。アレキサンダー大王の名前で知られる英雄、征服王イスカンダルのマントの切れ端だ。

 

 

「ライダー、今年、時計塔に聖杯戦争の勝者が来たぞ」

 

 

 あの別れからどれだけの回数、このマントの切れ端を眺めたであろうか。くじけそうになる度、諦めたくなる度、これを見てあの日の王の姿を思い出す。

 1000の近衛兵団の先頭を切って、傲慢に挑戦者を待ち受ける金色の英雄王へと突撃していった我が王の英姿を思い出す。

 彼とその臣下達が寸分違わずその心に思い描いた熱い砂の平野を斬り裂いた乖離剣の一撃。

 名馬ブケファラスに跨り万を超すかという宝剣、名剣、神槍の軍勢へと立ち向かっていく巨漢。かつての従者、今の主君を。

 共に散ることを許されず、彼の姿を語り継ぐことを託された自分を思い返してまた立ち直るのだ。

 

 

「遠坂、だとさ。あの英雄王を召喚した遠坂時臣の娘だよ。しかも、この僕に後見人になれときた」

 

 

 極東の辺境で行われるとはいえ、聖杯戦争は超一級の魔術儀式だ。その割りにはあの戦争のことを知っている魔術師はそう多くない。

 魔術貧乏な日本の地で開催されるということもあるが、あの戦争に参加したものが尽く帰らぬ者となったのもあるが、それ以上に出場者に暗黙の了解として課された黙秘の義務がある。

 なれば自分が王の姿を語り継ぐことはできない。私とあの征服王との関係を知っている者は弟子の中でもごく僅か。私が王に寄せる忠誠を汲み取った者など片手の指にも満たぬだろう。

 大抵の連中は私がただのミーハーなのだとろくでもない勘違いをしていやがる。

 では自分は何ができるのだろうか? 決まっている。あの姿を忘れず、イスカンダルの臣下として恥じぬ生を歩むのみだ。

 

 

「なぁ、ライダー。いつか僕も連れてってくれるのか? お前が夢見た、あのオケアノスへと‥‥」

 

 

 死した時にこそ彼の王に見えることが叶うのだろうか。いや、私は自分があの『王の軍勢(ヘタイロイ)』にふさわしい人間だなどという自惚れをもつことはできない。私はよくも悪くも大人になってしまったのだ。

 

 

「あれから背も伸びたぞ。お前には全然届かないけど‥‥もう、『神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)』に乗るときだってお前にしがみつく必要なんかないんだ」

 

 

 願うことなら、自分がまた会う時に、胸をはって彼の臣下であると告げられるように。自分の人生を誇り、堂々と頭を垂れることができるように。

 

 

「ハ、私もとうとう中二病とやらに感染したらしいな。‥‥昨夜はネットをやりすぎたか」

 

 

 感傷に浸るのは個人の持つ特権の一つだが、エルメロイの名前を継いでしまったこの身にはあまり時間の余裕がない。もちろん愛すべきゲームのためならば骨身を削って捻出してみせるが、今は仕事の方を先にこなしてしまうべきだろう。

 私はケースを閉じてまた元通りに布を仕舞い、二重の鍵を再度念入りにかけ直した。思えばこれを厳重に保管するために、封印や結界関連の魔術は他に比して特に勉強したものだ。

 自分で言うのも癪だが、認めざるを得ない。私は凡才だ。どうしようもないほど非才で、魔術師としての力量は二流でしかない。

 普段は虚勢をはっていても、こうして一人でいると現実として認めるしかない。だが諦めはしない。私は、凡人にこそたどり着ける境地を発見してみせるのだ。

 

 

「失礼、ロード・エルメロイはいらっしゃいますか?」

 

「‥‥いるぞ。入れ」

 

 

 ふと部屋の入り口から少女の声がした。どうもうっかり失念して研究室の扉を開けっ放しにしてしまっていたらしい。私室の入り口は閉めていたから問題あるまいが、いやはや私も少々疲れているのかもしれないな。

 入り口の方から聞こえた、やたらとラテン語に近い古くさい訛りの英語は、声から察するにまだ年若いであろう少女が使うには些か不釣り合いのような気がした。あれは言語学やら神秘学やらの教授(かせき)共がもったいぶって使うものだ。一体何処で憶えたのかはしらないが、関心せんな。

 

 

「聞こえなかったのか? 開いているぞ、入れ」

 

「申し訳ありませんでしました、では失礼して」

 

 

 その時の私は本当に疲れていたのかも知れない。我が王と同様に記憶に刻み込まれていてしかるべきその声を、すっかり忘却の彼方へと追いやってしまっていたのだから。

 言い訳をさせてもらうと、あの頃の彼らは召喚された土地、乃ち日本の言葉を使っていた。だからこうして英語を聞いたときにピンと来なかったのも仕方がない話だとは思うのだ。

 

 

「さて、一体何の用だ―――」

 

「すいません、リン・トオサカから資料の返却を頼まれまして‥‥」

 

 

 だから私は、突然目の前に現れたその存在を見て、思わず思考を遙か彼方、十年以上昔の冬木の地へと飛ばしてしまったのだ。

 古きアインツベルンの城の庭で開かれた酒宴に集った三人の王。金色の甲冑の英雄王、一際目立つ巨漢の我が征服王。そして―――

 

 

「お前は‥‥騎士王―――!」

 

「‥‥! 魔術師殿(メイガス)、なぜ私の真名を知っている‥‥?」

 

 

 瞬間、私の研究室に凍りついた突風が巻き起こったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「‥‥ルヴィア、二番の鉗子をとってくれないか」

 

「よろしくてよ」

 

 

 時計塔の地下にある蒼崎の工房は、おおむね四部屋に別れている。今は物置と化している来客用の部屋、居間兼食卓、寝室、そして工房。二階建てという豪華な作りは当然ながらスペースも広く、だがその大半を工房に割かれているためにそこまで居住スペースは広くない。

 そしてその部屋も各々キッチンやら風呂やらお手洗いやらと色々に細かく別れてはいるのだが、とりあえず今俺達がいるのは工房の一つ手前にある作業場のような場所だ。伽藍の洞にある橙子姉の工房を小さくしたようなもので、真ん中に作業台があって辺りには様々な道具やら資料やら材料やらが転がっている。

 作業台は手術台にも使えるなかなかに高性能なもので、すぐ上には照明やら何やらまで完備されていて作業がしやすくなっていた。

 

 

「まったく、いくら橙子姉の作品だからって、こんな乱暴に扱ったら傷むのは当然だぞ‥‥」

 

「そういう仕事なのですから、仕方がないでしょう」

 

「そういうことじゃなくて‥‥はぁ、もういいよ‥‥」

 

 

 その人一人が寝そべることができるぐらいの作業台の上で、俺は肘まで覆う手袋にエプロンという中々にシュールな恰好で作業をしていた。手元で鉗子やらドライバーやらを突っ込まれているのは人の腕。否、本物のような精度まで完成された、蒼崎橙子謹製の義手であった。

 魔術とは、労力や採算を度外視すれば現在の科学力でも再現できるものを言う。一般的な―――と言っても時計塔の教授レベルの―――魔術師が作る義手は、最先端の生物化学や遺伝子工学を駆使すれば似たようなものを作ることができる。人工皮膚や内蔵されたからくり、筋肉や神経系の信号を読み取って動く仕組みなどは研究が進んでいるそうだ。

 だが蒼崎橙子という封印指定の魔術師の作る義手は、凡百のそれとは一線を画する。

 

 

「正直キツイんだよね、いくら簡単な整備だけだって言っても、橙子姉の作った義手は俺の手に余るのよ」

 

「報酬は十分に払っていますよ。それにこちらでアフターケアを請け負ってくれるという契約でした。しっかり等価交換は成立しているはずですが」

 

「いやね、やりますけどね? できれば壊すこと前提で使うのヤメテ」

 

 

 作業台の上で沈黙したままのこの義手、外見はまるきり人形と同じだ。肌はセラミックか合成樹脂に似た質感、間接はスムーズな動きを可能とする球体間接になっていて、一般人が単体で見てもかなり良い出来だと評価するだろう。

 だがコイツの真価は装着した時にこそ発揮される。魔力を通せばまるで生きているかのように血が通い、元の腕と寸分違わぬ見かけになるのだ。間接部が見えなくなるなど序の口、質感や血管の脈動までそっくりそのまま反対側の腕と比べても大差ない。

 それだけではない。触覚や痛覚は言わずもがな、動かす際の神経系の伝達齟齬やタイムラグは殆どなく、頼めば各種ギミックの取り付けも可能。まさに人体に通じた最高位の魔術師である蒼崎橙子にしか作れない一品である。

 

 そして、それに比して整備も難しい。もちろん本来ならアフターケアも不要なほど頑丈に作ってあるのだが、そこは精密機械の常、あまりに乱暴な扱われ方をすればこうして頻繁にメンテが必要になってしまう。

 もちろん彼女がそういう荒事専門の仕事をしているのは百も承知。‥‥だけどね、マジで疲れるのよ、橙子姉の義手を整備するのわ。

 何べんだって言うが、仮にも封印指定謹製の作品をいじくるなど、いくら直々に教えをうけた俺にだって簡単に出来ることじゃない。今だって必死で繋げる部分を捜しあてミリ以下の精度で繋ぎ合わせているのだ。モノは大事に扱おう。MOTTAINAIじゃないか。

 

 

「前々から思っていましたけど、貴女はもう少しものの扱いを丁寧になさったらいかがですの?」

 

「そう言われましても、こういう仕事に使うと事前にミス・アオザキには申し上げているのですが‥‥」

 

 

 そんな俺の苦労を察したのか、作業場の隅に無造作に置かれたソファーに腰掛けていた男装の麗人は、心底申し訳なさそうに俯いた。

 化粧っ気のない顔だが、強い意思の宿った瞳の下の泣き黒子が気丈な仕事用の表情を崩した時のチャームポイントとなり、両耳に下がった大きめなルーン石のピアスは不思議とスーツに似合っていた。

 彼女が俺が今ひーこら言いながら整備している義手の持ち主。封印指定の実行者にして世界唯一の伝菌保持者(ゴッズホルダー)、バゼット・フラガ・マクレミッツだ。

 

 

「しかし本当に助かっていますよ、蒼崎製の義手には。まさか以前と変わらず仕事ができるようになるとは思いませんでした」

 

「その分こうして頻繁に整備することになるから、半々といったところかとは思いますけどね。一々呼ばれるのですから、私からもご注進申し上げますわよ、ミス・マクレミッツ」

 

「毎度すまないね、ルヴィア。なにしろ一人じゃ効率が悪くて仕方がないもんで‥‥」

 

 

 一々自分で器具を取り替えたりとかめんどくさくてしょうがない。機密みたいな部分もあるから作業自体を見せてやることはできないんだけど、神経使うから他のことに意識割いてる余裕ないんだよね。

 そんなわけでなんだかんだこの一年、バゼットに長期の仕事が入っていない時は月に一度はこうして俺の作業場に集まって義手の整備とお茶会をしている。あんなこと言ってはいるけど大概ルヴィアも付き合いがいいしね。

 

 

「そういえば、今期は日本から特待生が来たとか?」

 

「ええ、日本から」

 

 

 ひととおり作業が終わったので義手の外装を戻し、飛び散った人工血液を丁寧に拭って開かないように封印を施す。

 この橙子姉が作った義手、外見はまるきり人工物だが、中身はチューブやら軽合金やらの骨組みの間に人工筋肉と血液がある。ここまで来ると現代科学も真っ青で、正直な話、俺も5、6年かかってやっといじくることが出来るようになったのだ。しかも今だに原理がわからない。

 この中身こそが蒼崎橙子の英知の粋を凝らしたところで、技術を盗まれないようにココを開けるのは俺と橙子姉しかいない。

 

 

「遠坂嬢達のことかい? ああ、バゼット、上着は脱いで袖まくってくれないか? ‥‥いやいや、シャツは脱がなくていいから。それ下着だから」

 

 

 メンテの終わった義手を持ってソファーで高価い紅茶を水みたいにぐいぐい煽っている依頼主へと、ルヴィアが用意してくれた各種工具を受け取って近付く。

 薄いシャツの袖を無理矢理肩までまくらせ、切断面に俺の魔力を通わせて状態をチェック。‥‥よし、綺麗だ。阻害要素はないな。

 

 

「‥‥その者達が、第五次聖杯戦争の勝利者というのは」

 

「本当ですわよ。生意気に英霊まで連れて来ましたわ。希少なのは認めますけど、私達宝石魔術師には無用の長物のような気もいたしますけど‥‥」

 

 

 神経の状態を確認。限定範囲に結界を展開。魔力同調開始。‥‥接合準備完了。

 神経や魔術回路まで補う超高性能な義手の接合には存外手間がかかる。橙子姉ならこんなの一瞬で終わらせるんだろうけど、生憎なことに非才の俺では慎重に慎重を重ねて時間をかけて準備しないと失敗してしまう。

 飾りじゃないんだから適当に繋げると怪我や病気の元にもなりかねないし、結構気を使うんだよね。

 

 

「まぁ彼女達は主人(マスター)使い魔(サーヴァント)って言うより、家族か友達みたいなものだからね。そういう意味ではやっぱり離れ難かったんだと思うよ。‥‥よし、それじゃあ付けるから、リラックスしたら大きく息を吸ってー吸ってー吸って―――」

 

「吸ってばかりでは窒息するじゃないですか―――ぐぅ?!」

 

 

「よし付いた。お疲れ様」

 

 

 幾重にも張った術式でサポートし、付け根のカラクリを起動させて神経を繋げる。痛みはないが、その分言葉では表現できない気持ち悪さがあるのだといつぞやバゼットが言ってたけど、だとしたら顔色一つ変えないでコレを取り付ける式はやっぱり只者じゃないな。

 

 

「‥‥ふぅ、こればっかりはいつになっても慣れませんね。戦闘で負う痛みとはまた別の感覚です」

 

 

 念のため外れないかどうか確認するために引っ張ったり捩ったり抓ったりしてから、バゼットは義手に魔力を通して右腕と何ら代わりはないことを確認して上着に袖を通した。

 ふふん、橙子姉の作品に万が一にも誤動作なんてあるものか。まぁこの鉄拳魔術師みたいに雑な使い方したら話しは別だけど。

 

 

「お茶が入りましたわよ」

 

「ありがとうございます、ルヴィアゼリッタ」

 

「悪いな」

 

 

 作業台の片付けを終えると、ルヴィアが盆に紅茶の準備をして持って来た。お嬢様と侮るなかれ、『貴族は有事に備えて自分のことは全て自分で出来るようにしておくべし』というポリシーから、ルヴィアは紅茶の腕も一流なのだ。

 バゼットはルヴィアに礼を言うと居間へと向かい、俺は手を綺麗に拭ってから棚に仕舞っていたお茶菓子を取り出してテーブルに並べ、遅れて座ると温かい紅茶を一口啜って思わずほぅと吐息を零した。

 

 

「ミス・マクレミッツ、それは上等のダージリンなのですけど‥‥いぇ、貴女に言っても仕方がありませんでしたわね」

 

「何のことかは分かりませんが‥‥なんとなくすいません」

 

 

 渡された熱い液体を一息で飲み干したバゼットと、それを冷ややかな目で見るルヴィア。さしずめこの食生活貧乏がとでも言いたいんですねわかります。

 この鉄の女、本気で昼飯缶詰いくつかとかで済ますから並じゃない。最近ロンドンの街にも吉牛が出来たから今までよりは幾分魔ともになったけど、それでもジャンクフードや栄養補助食品にどっぷりと漬かりきってるあたり心配でしょうがないな。

 

 

「第五次聖杯戦争、ですか‥‥」

 

「貴女は確か、参加していたのでしたわね‥‥」

 

 

 ちょっと反省したのか二杯目の紅茶はゆっくりと口に流し込んで―――味わっているかどうかは定かではない―――いたバゼットが少しばかりいつもより暗い声で呟いた。

 彼女は先の聖杯戦争にランサーのマスターとして参加していた。否、もはや“参加しようとしていた”と表現した方が正しいだろう。

 時計塔屈指の近接戦闘のスペシャリスト、あまつさえ現存する宝具の担い手である彼女と、日本での知名度はさておき世界に名高いアイルランドの光の御子、クー・フーリンの組み合わせは最強とまではいかなくとも間違いなく最優と称すべき優勝候補であった。

 それが彼女、とんでもない世間知らずのお人よしであったため、旧知の仲であった言峰綺礼の騙し討ちにあってあえなく脱落してしまったと。

 そして半死半生、つまりは仮死状態でエーデルフェルトの双子館に倒れていた彼女は、危ういところで魔術協会から派遣されてきた調査隊に発見救出された。令呪があった左腕は半ばから切断されて多くの血を失った危険な体だったが、なんとか持ち直してこうやって復帰しているというわけだ。

 

 

「まだ、引きずってるのかい? 参加しなかった俺が言うのも何だが今回の聖杯戦争はとんでもないカオスだったと聞く。命があっただけでも儲けもんと思った方がいいんじゃないかな?」

 

「そうやって納得できるものでもないということは、紫遙君にもわかるでしょう‥‥?」

 

 

 とはいえ切断されてしまった左腕は戻らない。あまりツブシの効かない性格をしていた彼女にとって、封印指定の実行者という職を失うのはあまりにも痛手であった。いかに戦闘技能が高かろうと片腕一本失うのは相当の深手であり、戦力低下は否めない。

 そこでお金持ちの彼女が義手の作成を依頼したのが橙子姉であり、現地でのメンテを依頼されたのが俺というわけだ。使いっ走りみたいなもんだけど、まぁしょうがないか。

 

 

「しかしミス・マクレミッツ、魔術師にとって儀式や実験に失敗するのは日常茶飯事。自分の犯してしまった失敗を悔いる気持ちは大事ですけど、あまり思い詰めては反省を将来に活かすことも出来なくなってしまうのではなくって?」

 

「ルヴィアゼリッタ‥‥。えぇ、確かに貴女の言うとおりかもしれませんね」

 

 

 なんだかんだでこの一年ほどのつきあいになるからか、相変わらずの言い方ながらもバゼットを気遣って彼女なりに励ますルヴィア。やり方は雑だけど心はしっかりと通じたようだ。

 世間知らずでお人好しで、冗談が通じない堅物なところがあるバゼットにもルヴィアの気遣いが伝わったらしく、さっきよりも幾分表情を穏やかにして紅茶をすすり、頭を下げる。最近は口癖のように『一流の魔術師は身内に甘い余裕がありますのよ』と繰り返してきたのを知ってるから、礼を言われてちょっと照れくさそうにそっぽを向いたルヴィアの様子がおかしくて笑いがこぼれた。

 本来の孤高然とすべき魔術師のあり方からは外れているのかもしれないけど、俺たちもまだ若い。こういった友人同士の語らいってのは魔術師云々以前に青少年として必須なんじゃないかな。言い訳にしてはちょっとぬるいかもしれないけど。

 

 

「どうだい? このあたりで心機一転、何か挑戦してみたらどうかな? 今までやらなかったこととか、いろんな事情で敬遠してたこととか‥‥」

 

「挑戦‥‥ですか‥‥」

 

 

 場の潤滑剤とすべく投下した俺の言葉に、バゼットは顎に大木も難なく打ち抜く鉄の拳を当てて考え込んだ。気分転換ってのはどんなことにも、それこそ自分が大好きで大好きでしょうがなくてのめり込んでいることにも必要だ。

 体を動かすことが好きなバゼットならスポーツに取り組んでみてもいいし、全く逆に女の子らしい趣味をもつってのもいいかもしれない。時計塔の内外で鉄の女として通っている彼女だけど、内面は噂からは意外に思うだろう程に乙女チックなのを俺たちは知っている。

 何せここは華のロンドン、たいていのものはそろっているから問題はあるまい。

 

 

「‥‥では紫遙君、一つ頼み事を聞いてはくれませんか?」

 

「あぁ、俺に出来る範囲のことでよかったら」

 

 

 だからキッと顔をあげたバゼットに、俺はにこやかに協力する旨を伝えた。

 そりゃ彼女よりは私用でうろうろしてるとは言え、俺もあまりロンドンの街に通じているというわけではない。でもバゼットやルヴィアよりはマシだ。いざとなれば意外にもフットワークの軽いセイバーに相談してもいいかもしれない。

 

 

「その、第五次聖杯戦争の勝利者たちと会う段取りをつけてはもらえないでしょうか」

 

「「‥‥‥‥は?」」

 

 

 あまりにも予想外の言葉に、俺とルヴィアは同時に凍結(フリーズ)してぽかんと目の前に座るバゼットを見る。

 一体どういう思考手順を踏んでその結論へと達したのかはわからないが、ジョークや冗談を微塵も滲ませないその瞳から察するに、もちろんバゼット・フラガ・マクレミッツは本気であった。

 

 

 

 

 28th act Fin.

 

 

 

 

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