エクストラダンガンロンパZ 希望の蔓に絶望の華を   作:江藤えそら

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2018/12/4 今更過ぎますが、多機能フォームというものを利用してフォントとか文字色とかをいじりました。より学級裁判っぽくなってると思います。


chapter2 非日常編③ 学級裁判前編

「ようよう、よく来たな! ここで会うのは二度目だな! それじゃ、今回も学級裁判を楽しんじゃってくれ~!」

 いつの間にか完全に修復されたモノパンダのけたたましい声がこだまする。

 

 内装、証言台、モノ達の絢爛な座席。

 すべてに既視感を覚えていた。

 この空間は、前回のあの忌まわしき事件の時から、何一つ変わってなどいない。

 

 そう、ただ一つ。

 

 証言台に立てられた遺影が増えたことを除けば。

 

 

 ニッコリと満面の笑みを浮かべる土門君の像には、まるでその笑顔を真っ向から否定するかのようにバツ印がつけられている。

 普段とは違ってどこかもの悲しげな、しかし芯の強い目つきで正面を見据える釜利谷君の肖像、そして目の前の巨大な敵を一心不乱に睨みつけているかのような厳しい表情のリュウ君の肖像にも同じようにバツ印がつけられている。

 相変わらず、幸せな笑顔を振りまく津川さんの遺影も俺の横に鎮座している。

 

 前回は14人の人間がこの場で議論し、疑い、罵り、叫び、暴いた。

 あれから三人減った。

 だが、やることは同じだ。

 

 

 俺達はもはや反抗の意思も見せずに、黙々と自身の証言台に立った。

 リュウ君が亡くなった影響か、みんなのモノ達への敵愾心が一層挫けてしまったようだ。

 

 

『おっけーおっけー、みんなちゃんと集まってるね』

 不意に耳障りな声がした。

 正面の座席に這い上がる一匹のヌイグルミ。

 モノクマだ。

「おっす、校長せんせー!」

『モノクマキーック! 挨拶は丁寧に!』

「ぎひゃああ!? すみませんでした~!!」

 人が死んだという事実、俺達の心苦しい胸中も気にせずに二体のヌイグルミは子供のようにふざけたやり取りを展開していた。

 

 釜利谷君ならここで胸糞悪いとでも言って舌打ちしたのだろうか。

 リュウ君なら黙ってヌイグルミたちを威圧してくれたのだろうか。

 今となっては分からない。

 

『オマエラ、お久しブリーフ! 改めまして、この特別分校の校長ことモノクマ先生です! 本当は捜査時間の時に出てくるつもりだったんだけど、わけあって今まで出てこられませんでした! でももう大丈夫、ボクはぴんぴんしてるからね!』

 どこかで聞いたような古いネタとともにモノクマはえっへんと鼻を鳴らした。

 メンバーに不気味な沈黙が走る。

 

 

「出てこいよ」

 口火を切ったのは、目を真っ赤に腫れさせた前木君である。

「出てこいよ、犯人…! 俺は…俺は信じたくねえんだ……。俺のダチを、俺達の仲間を殺して、それで平気な顔して紛れ込んで、挙句は俺達を犠牲にしてここから出ていこうなんて…。そんな奴がいるはずねえんだよっ!!」

「いたから、こんなことになっているのよ」

 伊丹さんが冷静に、しかし僅かに愁いを帯びた瞳を向けながら答えた。

「あぁ……分かってる。分かってるよ。でもな……俺は信じてえ…。この場で名乗り出る程度の良心は残ってるって。なあ、だから頼むよ…! これ以上俺たちを苦しめないでくれ……」

 前木君の声が裁判場にこだまする。

 答える者はいない。

 

「友情なんぞは知ったことではないが、心理に訴えかけるという手法は評価する。事実、私もその手法で前回の犯人を探り当てたのだからな」

 御堂さんが冷徹な言葉を浴びせかける。

「だが、前木常夏の懸命の叫びも犯人には届いていないようだな。今度の犯人は前回と違ってかなりタチが悪いようだ。…まあ、それも些細な問題にすぎん」

 そして彼女は一息ついて、次の言葉を放った。

「出てこないのならば我々の手で引きずり出してやるまでだ。始めるぞ、真実の探求を」

 

 前木君はうつむいていた。

 彼の震える拳の上に、彼自身の涙がぽたぽたと零れ落ちる。

 だが彼は、もう何も言わなかった。

 

 

 

 

学級裁判・開廷!

 

 

 

 

『それでは、議論に先立ってボクからもう一度学級裁判のルールを説明します! 学級裁判では、被害者を殺害した犯人をみんなで話し合い、投票で決めてもらいます! 正しいクロを指摘できればクロだけが、指摘できなければクロ以外の全員がオシオキされ、、クロは卒業となります! それじゃあ、真実に辿り着けるよう頑張ってくださーい!』

「教頭先生も応援してるぜ! ぎひゃひゃひゃ!!」

 二体のヌイグルミが大声で言い放つ。

 

「”オシオキ”がどんなものであるかは前回の裁判で思い知りましたからな……。文字通り命懸けで臨まねば…」

 丹沢君が冷や汗をいっぱいに流しながら言った。

「だが、命懸けなのは犯人も同じだ…。死ぬ気で隠蔽された事実を、僕たちは見抜かねばならない」

 夢郷君が険しい表情で述べた。

「ならば早速議論を始めましょう。まずは遺体の状況の確認からですね」

 入間君の提案にみんなが頷く。

 

「じゃあ、リュウの遺体の状況から確認しよっか」 

 亞桐さんが重い口調ながら言い放った。

 

 リュウ君。

 彼の遺体の状況は、はっきり言ってかなり異様だった。

 明確にしなければならないことが多数あるだろう。

 

 

 

【議論開始】

 

伊丹ゆきみ:「彼の死因は槍で刺されたことによる失血死。凶器はホールに転がっている槍のようなもので間違いなさそうね」

前木常夏:「…そんな情報だけで何が分かるっていうんだ…」

御堂秋音:「遺体そのものよりも、周囲の状況について考察の余地がある」

入間ジョーンズ:「確か、リュウさんの遺体が発見された大ホールには様々なものが散乱していましたね」

丹沢駿河:「しかし、散らばっていたものには何の共通性もなく……少々考察するには難しいかと」

安藤未戝:「きっと犯人が念力にて現場を荒らしたのであろう!」

小清水彌生:「誰かが争っていた、とか……?」

亞桐莉緒:「第三者が犯行に関わってきた可能性は?」

御堂秋音:「フン。こんなもの、考えればすぐに分かるだろうが」

 

 「小清水さんの意見に賛成だ」

 

【使用コトダマ:大ホールの状況

 

「大ホールの状況を思い出してみてほしい。ショベルカーとか、バッティングマシーンとかについては俺も何なのかさっぱり分からない。ただ、一つだけ、俺たちがよく知っているものが転がっていた。モノクマやモノパンダたちの多数の残骸だ」

 脳裏によみがえるのは、大ホールに累々と転がっていたヌイグルミたちの死骸。

「た、確かに大量にござりましたな…。まさか…」

「リュウ君は戦ったんだ。モノクマ、モノパンダと」

 丹沢君の言葉を補強する形で、俺は自らの考えを述べた。

「考えてみれば、ショベルカーとかバッティングマシーンとか、そんなものを脈絡もなく突然召喚するなんて無茶苦茶な真似、できるとしたらモノクマ達くらいしかいない。あいつらの残骸が落ちていた時点で、彼とモノクマ達の戦いがあったことは明白だ」

 そう言ってモノクマの方を見ると、『ギクギクギクゥ!』と分かりやすい反応を示していた。

 

 その時、その声は突然に、俺の意識に差し込まれてきた。

 

 

 

「意義ありぃっ!!!」

 

 

【安藤未戝の反論】

 

「確かにリュウ殿の屈強ぶりはみなが知るところ。されど、いかにリュウ殿が強かろうとあのモノクマ共に立ち向かったなどという話、納得できぬぞよ!!」

 安藤さんは興奮した様子で声を張り上げた。

 モノクマとモノパンダは初日の時点で、俺達に圧倒的な絶望を植え付けた。

 そんな奴らに立ち向かったなどという話、にわかに信じることはできないだろう。

 だが、状況はそれが現実として起きたことを物語っている。

 分からせるしかない。

 彼女に、真実という名の脚本を!

 

「この学園に閉じ込められてすぐ、我らはあのヌイグルミ共の恐ろしさを思い知らされたではないかっ! それを知ってなお歯向かうなど愚の骨頂!」

「でも彼にはそれができたんだ。忘れたのかい? 彼は弾丸より早い槍を見切って山村さんを救ったじゃないか!」

「だからといってあれに逆らえるものかっ!! 逆らえるのならなぜもっと早くそうしなかったのだ!? 吾輩に屁理屈は通用せぬぞよっ!!」

「なぜ彼が今になって動き出したかは分からない。動機が関わっているのは間違いないだろうけどね。けど、ヌイグルミ達をあれほどの数の残骸に変えるのは、彼にしかできないことなんだ!!」

 

 白熱する議論。

 俺も安藤さんも一歩も引こうとはしない。

 みんなはそれを、固唾を飲んで見守る。

 

 

 

 

 

「さっきからうだうだと………」

 

 

 だが、そんな中で声を上げたものがいた。

 

 

「つまんねーことで時間とってんじゃねぇぞオラァァァァァッッ!!!」

 

 怒声が俺と安藤さんを一瞬で黙らせる。

 

 その声の主はすぐに分かった。

 

 袖の千切れた道着を着て、頭には強敵(とも)の血で赤く染まった鉢巻を巻いた山村さんが、赤いオーラとともに咆哮したのである。

 これまでの議論では押し黙っていた彼女が、その胸の内に潜む闘争本能をむき出しにして動き出したのである。

 

「黙って聞いてりゃあ、随分勝手なことを抜かしやがるな安藤、あぁ!?」

「ひょえええ!? 吾輩はただ疑問を」

「黙れコラァァァァァッ!!!!」

「ぴょえええええ!!??」

「や、山村さん落ち着いて。君はリュウ君がモノクマ達と戦ったって確信しているんだね?」

 俺は彼女の真意を問う。

 

「確信も何も、アイツは…」

 山村さんは少し言葉を詰まらせた。

 

 

「アイツはッ、一人で戦いに行ったんだ!! オレを置いて、オレをぶちのめして!!!」

 

 一人の女性の叫びが空間を支配する。

 

「オレはアイツを止められなかった!!! 何もできずに眠らされたんだッ!!!」

 威勢の良かった彼女の語調は次第に怒気が抜け、萎びていった。

 怒りよりも、悲しみで怒鳴っているようだった。

 

「んでもってアイツは死んだ…。なんて馬鹿な奴だ」

 山村さんの頬を一筋の涙が伝う。

「二人なら、あんな奴に負けなかったのに…。二人なら、誰も死なずに済んだのに……。なんで、お前は……」

 そしてがっくりと頭を落とし、裁判台に向けてうなだれた。

「オレは弱い。弱い弱い弱い弱い弱い……弱すぎる……」

 囁くような小さい声でそう呟く彼女の無念ぶりは、その瞬間を見ていなかった俺達にも十分すぎるくらい伝わってきた。

 フォローの言葉すら見つからない。

 

 

「事実の整理をしましょう」

 伊丹さんの一声で俺達は我に返る。

「昨晩、見回りをしていたあなたはリュウ君に襲われ、気絶させられた。あなたは彼がモノパンダたちとの戦いに臨んだものと確信している。そういうことね?」

「確信もなにも…アイツは言ってたんだ。『連中を排除して、全てを終わらせる』って。だから、オレも一緒に戦わせてくれって言って……なのにアイツは……」

「ともかく、はっきりしたわね。リュウ君は昨晩、確かにヌイグルミ達と戦ったのよ」

 

 つながった。

 大ホールのあの異様な状況は、リュウ君がわざと校則違反を犯し、モノクマ達と壮絶な戦いを繰り広げた跡だったんだ。

 

「やれやれだな。状況確認だけでもすぐに分かるような事実をまとめ上げるだけでここまで時間がかかるとは」

 少々苛立った口調で御堂さんが言った。

「真実に辿り着かねば命が危ういのだぞ。もっと俊敏的確に頭を働かせろ、雑魚どもが」

「まあまあ、少しずつ事実を確認することも重要だと私は思いますよ」

 苦笑いを浮かべながら入間君がなだめる。

「吾輩のような石頭もおるのでな! ゆっくり進めてくれんと理解が追い付かぬわい!」

 安藤さんが無邪気な笑みを浮かべながら言った。

 

「まあいい。今度は釜利谷三瓶の死亡直前の様子を議論するとしようか」

 

 

 

【議論開始】

 

 

小清水彌生:「釜利谷君は首の骨を折られて殺害されていたのよね」

丹沢駿河:「うーむ、殺害方法だけで犯人を特定するのは難しいですな」

夢郷郷夢:「殺害現場に何か手掛かりは残されていなかったのかい?」

亞桐莉緒:「…手がかりなんてあったかなあ……」

前木常夏:「…三ちゃんは何も持ってなかったみたいだし、手がかりなんて……」

御堂秋音:「フン、見通しが甘すぎるぞ」

 

「前木君、それは違うよ」

 

【使用コトダマ:呼び出し状

 

 俺は懐から例の手紙を取り出した。

「これを見てほしい。釜利谷君が白衣のポケットに入れていた手紙だ。恐らくコンピューター室で秘密裏に印刷されたものだろう」

 

 

『一筆啓上 釜利谷三瓶

 貴殿の正体を看破した。AM2:00、2-Aまで。来る来ないは貴殿の自由に。』

 

 

「な、なんだよこれ……!」

 前木君が驚きの声を上げるのも無理はない話である。

「これを何者かから受け取った彼は夜中に単身2-Aに踏み込んだということね」

 伊丹さんが冷静に述べた。

「正体、ってどういうことなの……? 釜利谷って何者だったの……!?」

 亞桐さんも頭を抱えて声を上げる。

「”来る来ないは自由”と言われていたにもかかわらず行ったということは、それだけ自身の秘密を知られたくなかったということですからね…。ただものではない、ということだけは確かですね」

 入間君が顎に手を当てて呟く。

 彼の言う通り、この手紙の存在と釜利谷君の行動とが、彼という人物の謎を解き明かす鍵となっている。

「だが、現時点でそれを考えたところで分かるはずもあるまい。それに、事件の核心はそこではない」

 御堂さんがそう言って話を切った。

 

「その手紙の内容を読んだ私には、釜利谷三瓶の正体とは別に一つの疑問が浮かび上がってきた」

「疑問、だと……?」

 御堂さんの言葉に前木君が頭をかしげる。

「ああ。もし私が犯人ならば、そんな内容を書いたりはしない。少なくとも、”呼び出す”という手法はとらないはずだ。なぜかわかるか?」

 釜利谷君を呼び出すことができない理由…?

 彼にそんな事情があっただろうか?

 別に呼び出し場所に行くぐらいわけないことのはずだ。

 何か行動を拘束されていない限りは……。

 

 ”行動を拘束”…?

 そうか、そうだ。

 拘束されていたじゃないか。

 

【提示コトダマ:山村の見回り

 

「その理由は……山村さん。君だよ」

 そう言って俺は彼女に視線を向けた。

「……あぁ?」

 彼女は腕を組んだ格好で、気難しい表情でこちらを見つめ返してきた。

「何を隠そう昨晩は君が校内を見回っていた。そして俺達の中でそれを知らない人はいないはずだ。そんな状況で、人を呼び出そうなんて思うかな?」

「確かに……釜利谷殿を呼び出したところで、部屋を出てすぐ山村殿に見つかり、怪しまれるのは必定ですからな」

 丹沢君の言うことはもっともである。

「でも、結局巴ちゃんはリュウ君によって気絶させられたじゃない。その後だったら呼び出せるんじゃない?」

 しかし、その意見に対して小清水さんが声を上げる。

「確かに山村巴の動きを封じた後ならば呼び出しは可能だ。だが、部屋に篭っている状態でどうやってそれを知ることができる? そもそも、わざわざ手紙をしたためたということは、呼び出しを行ったのは夜時間になる前のことのはずだ」

 それに対し、御堂さんが冷静に反論する。

 

「むわはははっ! さっぱり分からぬぞよ! 誰か分かりやすく教えてたもれ!」

 安藤さんの諦観の笑い声が響く。

「教えてあげるから耳を貸してくれ。知見を共有するには、密着することが大切なのさ」

 すかさず下心を発揮する夢郷君。

「何をおっぱじめる気だよ、あんたら!」 

 亞桐さんの呆れたお叱りが飛ぶ。

「異性間不純交際はエロ漫画の中だけにしてくだされ!!」

 丹沢君のフォローもフォローと呼んでいいのか微妙なラインだ……。

 

 

「つまり」

 御堂さんの苛立った声が、いったん解けた緊張を再び呼び起こさせた。

「釜利谷三瓶を呼び出した人物は、山村巴が見張りとして用を為さなくなることを知っていたからこそ呼び出せたのだ。さあ、これで分かったな。釜利谷三瓶を呼び出し、恐らくは殺害したであろう犯人が」

「はあ!? 犯人が分かっただと⁉」

 前木君がひどく動揺した様子で大声を上げた。

「推測の域を出ないがな。可能性がある人物は一人に限られる」

 

 釜利谷君を呼び出すことが可能だった人物は、山村さんが襲われることを事前に知っていた人物…。

 つまり、リュウ君が動き出すことを知っていた人物?

 そんな人間がいるのか?

 仮にいたとしても、それが誰であるかを割り出す方法なんて……

 

 

「………!!」

 

 一つ、脳裏に浮かんだ可能性。

 そう、あの人ならば。

 

 

 

【人物指名】

 

 

 

 

「釜利谷君を呼び出した人物は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は、”それ”の方を向いた。

 

 

 重く、強いまなざしで正面を睨み続ける遺影。

 

 

 

 

 

「第二の被害者であるリュウ君だ」

 

 

 

 そうだ。

 そもそも山村さんを襲った本人ならば、知っているのは当然のこと。

 

 

 

「彼が呼び出し状をしたため、そして釜利谷君を殺害したんだ。首の骨を折るくらい、彼なら容易いことのはずだ」

 

 

 場内が騒然とする。

 

「リュウが……三ちゃんを殺した…だと……?」

「そ、そんな…あいつは、人殺しなんかしないって信じてたのに……」

「高潔な彼が殺人を犯したというのか……」

 

 だが、その意見を認めない人間も当然いた。

 

 

「テメェはっっ!!!」

 怒号が飛ぶ。

「アイツを人殺しにするつもりかっっ!!!!」

 

 

【山村巴の反論】

 

「テメェ……いくらテメェでも、アイツの意思を馬鹿にすることだけはオレが許さねえぞ!!!」

 烈火のようなオーラを纏い、今にも爆発しそうな表情でこちらを睨む山村さん。

 彼女がそれを認めたがらないのも当然だろう。

 しかし、既にその事実は俺の中で推測の域を超え、確固たる事実として固まっていた。

 これまでに集めた数々の要素が、リュウ君が犯人であることを物語っているのだから。

 

「アイツはオレ達のために戦ったんだぞ!! 殺しなんてするわけねーだろうがッ!!!」

「でも、君を気絶させた彼なら、犯行は十分に可能だ」

「それがどうしたってんだコラァァァッ!!! アイツは人を殺す奴じゃねえんだよッ!!!」

「山村さん……もうやめようよ。見せかけだけの内面で人をはかっちゃダメだ」

「黙れ黙れ黙れぇぇぇぇ!!! アイツがやった根拠でもあるのかぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

「その言葉、切るよ」

 

 

【コトノハ:落ちていた吸い殻

 

 

 山村さんの言葉を断ち切り、俺は自らの見解を述べる。

「まず一つ聞きたい。この中で、実は成人していて、煙草を吸っているという人物はいるかい?」

 一つ、俺は問いかけた。

「いるなら正直に言ってほしい。隠しているととんでもないことになるよ」

 きょとん、とした顔をする一同。 

 なんでそんなことを聞くのか、という顔をしている。

「分かった。本当にいないんだね。よかった」

 そして俺がポケットから取り出したのは、小さいビニールの入れ物。

 その中に入っていたのは、2-Aで拾ったアレだ。

 

「これは、釜利谷君が亡くなっていた2-Aで見つけたものだったね。そうだよね、前木君?」

「あ、ああ。確かに落ちているのを見たぜ」

 前木君の言質が取れたことを確認し、俺は持論を展開する。

「2-Aにこれが落ちていたにもかかわらず、この中に煙草を吸っていた人物はいない。でも、俺は知っている。俺達の中で、一人だけ煙草を所持していた人物がいたことを」

「……あ、リュウ! あいつ、タバコ吸ってるのを見たぞ!」

 前木君の声に俺は頷いた。

 

「そうか。だから御堂君は僕達に釜利谷君とリュウ君の個室を調べさせたのだね」

 夢郷君がポンと手を叩きながら合点したように言った。

「…と、いうと?」

「捜査時間中、御堂君に頼まれて僕と丹沢君で二人の被害者の個室を調べたんだ。その際に『ライターとタバコの形跡に気をつけて探れ』と丁寧にご指導をいただいてね」

「釜利谷殿の個室にそういったものは見当たりませんでしたが、リュウ殿の個室からはライターやタバコの予備が出て参りましたな。なるほど、当時は意味も分からず探っておりましたが、ここに繋がることだったのですな」

 両名の証言から得られた事実。

 それは。

 

「捜査が始まるまでは二人の個室はロックされていた。つまりタバコ関連の道具を犯行後にリュウ君の部屋に置いておくことも不可。よって釜利谷君も喫煙者ではなく、リュウ君のみが喫煙者であるという事実が導かれるわね」

 伊丹さんの言葉にそれが集約されていた。

「だから、リュウ殿が呼び出された釜利谷殿の元を訪れたことは間違いない。さらに言えば、彼を殺害した犯人である公算が大きいと…。吾輩にも納得できる分かりやすいお話であるな!」

 安藤さんがうんうんと頷く。

 

「もう一つ、奴が犯人であることを裏付ける根拠が存在する」

 御堂さんは指を立ててもう一つの根拠を示した。

「葛西幸彦。お前は知っているはずだ。奴の行動原理を指し示す”動機”となりうるものの存在を」

 彼の”動機”となるようなもの……

 

【提示コトダマ:決意表明

 

「”アレ”がリュウ君の行動原理を示す”動機”だね」

 俺が御堂さんに目くばせすると、彼女はポケットから一枚の紙を取り出した。

「奴が記した手紙のようなものだ。筆跡は奴が所持していた手帳と同様であり、奴が書いたものと断定して間違いあるまい。読んでみろ」

 そう言って御堂さんは隣に立つ前木君に手渡す。

 

 

『これより俺は”絶望”に対し行動を起こす。

 しかし、万一の場合に備え、真実を記した書をしたためておくこととする。なお、この手記は個室に置けばモノクマ共に排除される恐れがある故、俺が所持しておくものとする。

 

 非常時につき、全てをありのままに記す。

 

 俺の名は”龍雅・フォン・グラディウス”。”超高校級の殺し屋”として入学した。

 俺は自らの目的を失念していたが、とあるきっかけにより思い出すことができた。

 俺の目的は、”超高校級の絶望”の抹殺。ただそれだけである。

 

 手短に話すが、これより記すことは全て俺が知りえた真実である。決して虚実ではないことをここに宣言する。心して拝読されたい。

 

 第一に、モノクマとモノパンダを操るものは”超高校級の絶望”である。俺はこれより奴らを排除すべく行動に出る所存である。

 第二に、この学園生活を過ごす者達にも、”超高校級の絶望”の一味たるものが複数人紛れ込んでいる。その者についても残さず排除する。

 

 念のため、ここに俺が突き止めた”絶望”の正体を記しておく。

 俺が仕留め損ねることはあり得ぬが、万一のことあらば、同級生といえど容赦は無用である。

 その名を、以下に記述し』

 

 

「…ダメだ。ここで破けてる」

 前木君は悔しそうに呟いた。

 だが、破れていた部分を抜きにしても、その手記の内容は俺達を驚かすには十分だった。

 

「”超高校級の殺し屋”……!!??」

「そ、そんな……リュウはそんな才能で入学したっての…?」

「絶望の抹殺、ですって…!?」

 みんなが混乱するのも頷ける。

 

 彼がずっと言うのを渋ってきた正体、それは。

 ”超高校級の殺し屋、龍雅・フォン・グラディウス”だった。

 彼は一体これまでに、何人の人間の命を絶ってきたのだろうか。

 ”殺し屋”という名において”超高校級”の称号をいただいたのなから、相当数の数を殺してきたのは間違いないだろう。

 

「”グラディウス”……!! そうか、彼は……!!」

 その中でも、ひときわ衝撃を受けていたのは入間君だ。

「入間君、何か心当たりがあるの?」

「…皆さんがご存じないのも無理はありません。本来は許されないことですが、今は状況が状況なのでやむを得ません。私が懇意にしていたとある小国の外交官を通じて得た機密をお話ししましょう」

 

 彼が語った話は、俺にとってもその場にいる全員にとっても衝撃であるとともに、大きく現実離れした映画の中での話のようだった。

 

『グラディウス家は数百年前より暗殺家業を生業とする西洋の一族です。生まれた瞬間から暗殺の訓練を施され、現世にて捉えられないターゲットはない、と言われているほどです。

 しかし、グラディウス一族にはしきたりがあります。”人を生かす殺し”のみを行う、ということです。

 ”誰かを殺すことでより多数の人間が生き延びることができる”。そういった状況でないと殺人を請け負わないのが彼らの矜持なのです。

 独裁者、麻薬王、テロリストなど……法では裁ききれない悪人が不審な死を遂げた時、それはグラディウスの暗躍であると噂されることがあります。現に、私が仕事を行った先々の国でそのような噂を何度も聞きました。

 ですが私は迷信とばかり思っていました…。まさか本当に存在するなんて…。

 彼が”戦刃むくろ”氏の存在を認知していたのも頷けました。彼は任務の最中に”フェンリル”との交戦を経験したのでしょう…。 』

 

 ”暗殺家業”……

 ”グラディウスの暗躍”……

 ”フェンリルとの交戦”……

 

 あまりにも超現実的な話に、俺達は感情を表に出すことすら億劫になっていた。

 

『俺の名前も、正体も、時が来たら話すさ』

 彼は生前、俺にそう言った。

 言えたのだろうか。

 自分自身の、恐るべき生い立ちを。

 生まれながらに持った、壮絶で悲惨な宿命を。

 

「ぐぬぬ……。惜しい人物を亡くしたものよ…。彼奴が生きておる間にそれを知っておればノンフィクション実録バトル漫画を描き下ろせたのに……」

 こんな状況でも仕事のことを考える安藤さんは本当に神経が太い。

「それにしても……彼が本当に”人を生かす殺し”を生業にしているのなら、”超高校級の絶望”を殺そうと狙うのも頷けるわね」

 伊丹さんの言葉は正しい。

 彼は、”超高校級の絶望”を抹殺することによって俺達を生かそうと目論んだのだろう。

 

 

「確かに衝撃的な内容ではあるが、今となってはもう奴の正体などどうでもいい。肝心なのは、奴が”超高校級の絶望”を抹殺するという目的のもとで動いていたという事実があることだ」

 御堂さんは相変わらず冷静な声で呼びかける。

「ですが、リュウさんが絶望とやらを排除したがっていたからといって、それが釜利谷さんを殺害することに直結するのでしょうか?」

 入間君が問いかける。

「単純な話だ。釜利谷三瓶は”超高校級の絶望”、すなわちモノクマ共の仲間、もしくは手下だったということだ」

 御堂さんはまたも衝撃的な言葉を吐き捨てた。

「お前っ!! また死んだ奴のことをそうやって悪者にするつもりかっ!!」

「黙っていろ、前木常夏。私が暴くのは真実だ。葛西幸彦、教えてやれ。夢郷郷夢から受け取ったのだろう? 奴の部屋に存在した、例の書類をな」

 釜利谷君の部屋で夢郷君が見つけた”例の書類”といえば……あれしかない。

 

【提示コトダマ:記憶研究書

 

「記憶に関する研究の成果をまとめた書類が、ファイルに収まった状態で彼の部屋に置いてあったんだ。それによると……」

「”14体の被験体の記憶を制御し、封じ込めた”と記してあった。ちょうど我々から奴だけを差し引いた人数に相当するな」

 俺が言葉を濁した部分を、御堂さんが容赦なく述べた。

「奴が記憶を専門にした研究を行っていたことは以前より分かっていた。だが数日前、奴に記憶の研究の進捗について尋ねたところ、奴は”始めたばかりの研究だから進捗などない”と答えたのだ。つまり、奴はこの研究所に書かれている内容を隠蔽した。我々に知られては不都合な研究だった…という事実が導かれるな」

「で、でもさ! 記憶を封じ込めたとか言ってるけどさ……。ウチらには消された記憶なんてないじゃん…? だってさ、みんな生まれてきてから今までで記憶がない空白の期間なんてある?」

 亞桐さんが反論する。

「莉緒。その考えは短絡的と言わざるを得ないわ。記憶というものはとても不可解なものなのよ。”消された記憶がない”という認識も一つの記憶。だとすれば、それが作られたものであるという可能性は否定できないの」

 伊丹さんが静かに亞桐さんを制した。

「記憶を作り出すなどにわかに信じがたい話ではありますが……”超高校級の脳科学者”と呼ばれる彼の才能をもってすれば不可能ではないのかもしれませんね」

 入間君が呟く。

 

「記憶がいじられるなんて怖いのう…。吾輩共が心に抱いている思い出が全て偽りかもしれぬというのだからのう」

「もしかしたら、僕と安藤君は夫婦だったのかもしれないよ。記憶を失っているだけで」

 安藤さんの言葉にすかさず夢郷君が反応する。

「なんと!それならば明日から吾輩の身辺の世話をお頼み申すぞよ!」

「君と夫婦の契りを交わせるなら安い願いだよ」

「はいはい、夫婦漫才はそこまで!」

 亞桐さんがパンパンと手を叩きながらまとめてくれて助かった(夫婦認定しちゃっているところに一種の諦めのようなものも感じるけど)。

 こんなところで議論を止めるわけにはいかないからね…。

 

「具体的に何をいじったのかは知らんが、釜利谷三瓶は我々の記憶を操作したという事実は間違いない。これはつまり、奴が黒幕の協力者に他ならないということだ」

「そもそも釜利谷さんはあの呼び出し状に書かれている内容を見て2-Aに向かったわけですからね…。本人にとって知られたくない本性があるのは明白ですね」

「ですからそれを突き止めたリュウ殿は釜利谷殿を殺害した、ということですな。そして殺害後、その足でモノクマ達との戦いに臨んだ……」

「……そしてそのまま敗北し、息絶えたと……?」

 丹沢君と入間君の憶測に、異を唱える者はいない。

 

「遺体の状態や発見場所から考えて、モノクマとの戦いに臨んだリュウ君がそのまま敗死したことは容易に伺いとれるわね……」

 顎に手を当てて思考しながら伊丹さんが呟く。

「え? じゃあ、リュウがモノクマとの戦いで死んだっていうのなら……人殺しはこの中にいないってこと?」

 亞桐さんの言葉を受けて、ほぼ全員が顔を見合わせる。

「釜利谷君を殺害した犯人がリュウ君である以上、投票は彼にするしかないみたいね」

 小清水さんの言葉が決定打となり……。

 

『……結論は出たかな? じゃあ、投票に』

 

 

 目まぐるしく動く脳。

 錯綜する記憶。

 連想されては消えていくコトダマ。

 

 

 まだだ。

 まだ撃ちきっていない弾丸があるじゃないか。

 

 

 真実という名の脚本は、まだできあがっていない。

 

 

 

「待ってくれないか、モノクマ!!」

 

 

 

学級裁判・中断

 

 

 

 

 

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