エクストラダンガンロンパZ 希望の蔓に絶望の華を 作:江藤えそら
いやあ、手ごわいクロでしたねえ。めでたしめでたし。
次回、オシオキ編をお楽しみに!
◆◆◆
「この事件は、まだ……!!」
私がそう叫んだ直後でした。
『大正解だぞよ♡』
その声が聞こえたのです。
それは、私の、いや、ここにいる全員の記憶にはっきりと残る声でした。
「ぎひゃーー!!???」
驚きの声を上げたのは、モノパンダも同様でした。
「まさかあいつ……”開けた”のか!?」
『何やってんだよアホパンダ!! 教室の管理もできない無能な教頭なんて、ボクは大っ嫌いだからね!!』
モノクマが怒鳴り声をあげながらモノパンダをポカポカと殴りました。
「みー…ちゃん…??」
亞桐様が呟かれた名前こそ、私が一番に思い浮かべた声の主でした。
「みーちゃんの声……しなかった??」
「そ、んな……だってあいつは確かに……」
前木さんが仰るとおり、安藤様は伊丹様の看護もむなしく、息を引き取られたのです。
当然ですが、裁判場に安藤様の姿は見受けられません。
では、今の声は一体……?
「はあ??? 何よ、せっかくいいところなのにぶち壊してんじゃないわよ、クソ翻訳者が!!!」
小清水様は額に青筋を浮かべて私に怒鳴りかかってきました。
「どうせ夢破れるなら最悪の犯罪者として醜く強烈に死んでやろうと思ったのに、お前のせいで台無しになったじゃないのよ!!! どいつもこいつも私の邪魔をしやがって!!! 空耳ごときでギャーギャー五月蠅いんだよ、人間どもめ!!!」
そう叫ぶと、苛立たし気に弁論台をたたく小清水様。
彼女には、安藤様の声は聞こえていなかったのでしょうか……?
いえ、聞こえていたが意に介さなかった…ととらえる方が自然でしょうか。
「空耳、か。そうなのかもしれないが、ここにいる全員が聴いているという確固たる事実もある。興味深い出来事じゃないか」
夢郷君がそう呟いて不敵に笑いました。
元来、彼は不可解な現象に遭遇するとこのように笑う癖があります。
頼もしくもあり、恐ろしくもありますね…。
「その件も気になるけど……。入間君、あなたが投票を遮った理由を先に聞かせてちょうだい。…まだこの事件には続きがあるの…?」
気になって仕方がないといったご様子で、伊丹様が尋ねられました。
その言葉とともに、全員が私の方に向き直ります。
裁判の最終局面である投票を引き留めたのですから、生半可な理由では納得していただけないでしょう。
当然、皆様を引き留めたのには理由があります。
何しろこの事件、まだ解明されていない謎があまりにも多い。
小さな疑問ですが、例えば……
【提示コトダマ:ウイルスについて
致死性の高い危険なウイルスで、摂取すると瞬時に体内に流れて患者を侵す。感染すると数十分~一時間で死に至る。高温多湿を好む。
「まず一つ。ウイルスの件について疑問が生まれました」
私はモノパンダ氏の方を見ました。
「捜査時間中、前木さんと現場の見張りを交代してもらった私は、化学室でモノパンダ氏にウイルスについてのお話をお聞きしたのです。彼はモノウイルスについて、こう言っていました。『体内に入り込むと、瞬時に胃腸まで流れてモノトキシンXを生成すると』」
…きっと、葛西さんも気付いておられたはずです。
◆◆◆
【Chapter3 非日常編① 捜査編】
「ぎひゃーひゃひゃひゃ!!」
「わわっ!!」
箱を見ることに集中していたこともあって、普通にビックリしてしまった。
振り返ると、どこからか現れたモノパンダがゲラゲラと笑っていた。
「よく見つけたなー!! そいつはオイラ特製『モノウイルス』だぜ~!!」
「”モノウイルス”…?」
こいつらはモノトキシンXにとどまらず、そんなものまで作ったというのか。
「そいつは体内に流れ込むと、あっという間に胃腸まで到達して大感染!! 30分以内に感染者を死に至らしめる魔法のようなウイルスなのだぜー!!」
◆◆◆
「…あまりにも小さな疑問ではありますが…。モノパンダ氏はこう言っておられました。”体内に入り込むと、すぐに胃腸に到達してそこで感染する”と。この言葉をそのままとらえるなら、ウイルスを経口摂取しても口内には残らないはずです」
「…つまりどういうこと?」
亞桐様の問いに答えるべく、私は視線を彼女に向けました。
「…安藤様は、”ウイルスに感染していなかった可能性がある”ということです」
「……はぁあ!!??」
亞桐さん同様、その場にいる全員が驚きを隠せない様子でした。
当然でしょう。
それは、ここまでの議論を根本から覆す仮定なのですから。
「バッカじゃないの!!?? ウイルスの説明には、”感染性ウイルス”ってはっきり書いてあったでしょうが!!!」
小清水さんが牙をむいて怒鳴り散らしますが、私にも考えがあります。
「確かに感染性とは書いてありましたが経口感染とは一言も書いてありません。唾液ではなく腸液・消化物などを介して感染するタイプのウイルスであれば、口移しだけでは感染するはずがないのです」
私が生物学者である彼女にウイルスの知識を語るなど、思えば不思議な状況です。
「だ、だったらなんで安藤は死んだんだよ!!! ウイルスが体に回ったからじゃねえのか!!」
前木さんの言葉はもっともです。
「それに関してなのですが、私に一つ考えがあります。私のお話を聞いていただけないでしょうか?」
コホン、と咳払いをして私は全員の顔を見回しました。
◆◆◆
思えば、先ほどは積極的に発言して議論をリードしていた夢郷君は、一変して全く発言を行わなくなりました。
満足げな笑みを浮かべて、私を見守っています。
…いくら付き合いなれた関係とはいえ、今ばかりは少し不自然な気がします。
しかし先ほど、夢郷君が話していた時は、逆に私は殆ど発言をしませんでした。
何故でしょう……。ずっと考え込まずにはいられなかったのです。
そう考えると、このコロシアイ学園生活で行われる裁判は、少し異常な気がします。
常に議論をリードする一人の人物がいて、他の皆様はそれに意見を出したり、たまに反論する程度。
これは議論と呼べるのでしょうか。
まるで、初めから結論が定まったシナリオを演じているかのようです。
前回と前々回の裁判、それと今回の裁判の前半までは葛西さんが主人公で、彼が絶望に倒れてからは夢郷君に、そしてその次は私にバトンが渡された、ということでしょうか。
そう考えると、よくできた”シナリオ”ですね。
◆◆◆
……さて、話がそれました。
議論を続けてまいりましょう。
「もう一度話し合いましょう。安藤様を殺した死因は何なのか」
とにもかくにも、議論を効率的に進めるには皆様の発言を促すほかありません。
私の声とともに、裁判場は再び緊迫した空気に包まれました。
【議論開始】
入間ジョーンズ:「考えてみてください……」
入間ジョーンズ:「安藤様の死因は何だったのでしょうか?」
小清水彌生:「そんなの、私のウイルスに決まってんだろーが!!!」
小清水彌生:「私がウイルスを作って仕込んだ本人だぞ!!?」
小清水彌生:「それ以外の死因なんてあるわけないでしょーが!!」
亞桐莉緒:「もしかして、事前に外傷を受けていたとか…?」
夢郷郷夢:「病気を患っていた可能性もあるのでは?」
伊丹ゆきみ:「ミスリードされていたけど、モノトキシンXが凶器になっている可能性もあるかもしれないわね…」
入間ジョーンズ:「そうです、伊丹様。あなたの意見に賛成します」
……私の頭に、一つ浮かんだ可能性。
限りなく小さい可能性ですが、”辻褄が合ってしまう”以上は吟味せざるを得ません。
「もし、安藤様が飲まれた解毒薬が、モノトキシンXだった《b》としたら…?」
「なにわけ分かんないこと言ってんだオラァッッ!!!」
すかさず山村様の怒号が反論となって飛んできました。
「解毒剤のビンに入ってんだから解毒薬に決まってんだろーが!!!」
……そう、普通はそう思いますよね。
薬品のビンには、ラベル通りの錠剤が入っています。
”誰かが手を加えない限り”は。
【提示コトダマ:《b》解毒薬
伊丹が持ち込み、丹沢と安藤に服用させた薬。瓶いっぱいに中身が入っているが、蓋は空いている。
「……”ビンの蓋”………」
伊丹様が何かに気付かれたようです。
恐らくは、私と同じひらめきでしょう。
「解毒剤と、その周りの薬…。蓋は空いていたのに、中身はいっぱいに入っていた。不自然よ」
「その通りです」と私は付け加えました。
「蓋が空いてあったのに、中身が減っていない。使った形跡がないのです。ひとビンだけなら開け間違いかもしれませんが、奇遇なことに解毒薬全部がそうなっていました。それと対照的なのが、モノトキシンXのビンです」
【提示コトダマ:解毒剤周辺
解毒剤があった場所の周辺には、医療薬の瓶が並んでいた。蓋を開けた形跡はあるが、中身はいっぱいに入っている。
「今までの議論だと、殺害に使われたのはモノウイルスであってモノトキシンではありません。なのに、使われていないはずのモノトキシンXはビンの半分の高さにまで減っています。これも不自然ですね…」
「それはアレじゃないか? 小清水はモノトキシンXが犯行に使われたって思わせたかったんだろ? 偽装するために何錠か処分して減らした…とかじゃないのか?」
前木さんがそう言うなら、本人に確認してみましょう。
犯行まで自白してしまった今、恐らく嘘はつかないでしょう。
「そうなのですか、小清水様?」
「ええ、確かに処分してやったわよ!!! 数は確か………あれ………?」
ここで、それまで凶悪な表情を浮かべていた小清水様に、急に驚愕の色が浮かび上がりました。
「………何錠、なのですか?」
「…………十錠、くらい………」
小清水様の顔はみるみるうちに焦燥と不安に染まっていきました。
モノトキシンXの錠剤はビンいっぱいに入っていたのです。
十錠だけでビンの半分まで減るはずがありません。
「つまり、小清水君以外になんらかの目的で錠剤を減らした人物がいるということだね」
夢郷君の言葉に私は小さく頷きました。
「……それが繋がるのです。先ほどの、”いっぱいに詰まった解毒薬”と関わってくるのだと」
「あ゛あ゛っ!!!! 入れ替えたんだ!!!」
無駄にうるさい音量ですが、亞桐様のおっしゃったことこそ、私が言いたかったことです。
「そうです。蓋が開いていたにもかかわらずいっぱいにされていたのは、”解毒薬の上にモノトキシンXを敷き詰めた”からなのです」
「え、てことは………!」
そこらへんの解毒薬全ての蓋が空いていたのは、犯人が伊丹様が使いそうな解毒薬に目星をつけ、その全てにモノトキシンXを敷き詰めたからでしょうね。
「………当然、錠剤は上から順に使うから………、私が取り出して丹沢君と安藤さんに使った薬は、………モノトキシンXだった……」
伊丹様が無念そうに声を絞り出してつぶやきました。
このトリックによって、犯人は解毒薬を毒薬へ早変わりさせてしまったのです。
「この可能性を確実にするために、モノパンダ氏に一つ実験をお願いしたいのです」
「ほえ??」
と素っ頓狂な声を上げるモノパンダ氏。
言葉で相手を動かすのは私の得意分野ですよ。
「現場に残っていた解毒剤の瓶に、アルコールを流し込んでほしいのです。そうすれば…」
【提示コトダマ:伊丹の解析結果
モノトキシンXは猛毒であり、わずかな摂取でも大量に吐血し、命を失う。一般的な致死量は二錠で、体の弱いものなら半錠でも死に至る。
即効性で、飲んだ瞬間に効果がある。水溶性。
【提示コトダマ:解毒剤のラベル
吐血を抑え、容体を安定させる効用があると書かれている。その他、水溶性、アルコールにも溶ける…など、化学的性質が書かれている。
「そっか!! 解毒剤はアルコールにも溶けるけど、モノトキシンはアルコールには溶けないから、瓶にモノトキシンが入っていれば、アルコールを流しても錠剤が残るってことね!!」
「亞桐様の仰る通りでございます。その実験の様子をここのスクリーンに中継して流すのをお願いしたく…」
「なんでオイラがそんなことをしなきゃいけないんだよ!! そんなことしたら犯人側に不利だろー!!」
今のモノパンダ氏の発言から、やはり真犯人は別にいることが分かってしまいました。
……悲しいことですがね。
「別に実験をやるだけなんだから、ただ情報を開示するのと変わらないだろ? テコ入れにはならないと思うけどなあ」
「………」
前木さんの言葉に、モノパンダは口をふさぐ一方です。
『……いいよ。やってあげなよそれくらい』
許可を出したのはモノクマ氏でした。
「…認めてくれるのですね」
『あったりまえじゃない! ボクは学級裁判が盛り上がるのならなんだってするよ!! 心優しいマスコットキャラってのがウリだからね!』
モノクマ氏が腹を抱えて笑いつつそう言うと、裁判場にスクリーンが降りてきました。
土門さんや御堂様、そして小清水様の動機や過去の映像を映し続けた、あのスクリーンです。
◆◆◆
スクリーンには、食堂のテーブルに置かれた解毒剤の瓶が映し出されました。
…背後の壁に広がる血しぶきが、未だにあの時のトラウマを思い起こさせます。
そこに、同じような瓶を抱えたモノパンダ氏がスタスタと現れました。
瓶のラベルには、アルコール類の薬品が入れられている表記がされておりました。
ピョンとテーブルの上に飛び乗ると、モノパンダ氏は抱えている瓶の蓋を開け、中身を慎重に解毒剤の薬品に注いでいきます。
トクトクと……やがて中身は解毒剤の瓶がいっぱいになるまで注ぎ込まれました。
そこにもう一体のモノパンダ氏が現れ、手にしたガラス棒で瓶の中を撹拌し、かき混ぜていきます。
モノパンダ氏がガラス棒を動かすたびに、中の錠剤が消えていきます。
……いえ、何度かき混ぜても、解けずに残る錠剤がありました。
「ふう……ふう……。はい、オシマイ!! 分かっただろ? ここにはアルコールに溶けない錠剤も混じってたの!!」
モノパンダ氏が汗をぬぐいながらそう叫ぶと、スクリーンの中継は途切れました。
◆◆◆
「決まり……みたいね……」
伊丹様の言葉に異議を唱える者はおりませんでした。
「これで分かりましたでしょうか…? 安藤様を死に追いやったのは、実のところ解毒薬として用いられたモノトキシンだということなのです」
私は皆様の方を向き、自らの意見をまとめました。
「じゃあ、安藤を殺した犯人は、モノトキシンXを解毒剤の上に敷き詰めた奴ってことだよな…?」
前木さんの問いに私は頷きました。
実のところ、私は事件について可能性の話をしただけであって、犯人の目星はまるでついていないのです。
悪戯に議論をかき回しただけだと言われればそれまでかもしれませんが、少なくとも小清水様の反応から察するに、彼女が犯人でない可能性があるのもまた事実です。
つまり、議論は事実上ふりだしに戻ったということに……。
「バカ翻訳者が!!!!」
【小清水彌生の反論】
「小清水様……?」
彼女は相変わらず鬼のような形相で私を睨んでいますが、先ほどとは少し視線から伝わる意志が違います。
我々と同様、真実を追い求めようとする意志を感じます。
そんな彼女が、私に何を言おうというのでしょうか。
「お前の推理は正しいと思った。途中まではね。確かに、何者かによって私のトリックは何者かによって破られた。……でも、お前は大きな思い違いをしているのよ!!」
私の思い違い…?
何が間違っているというのでしょうか?
いや、そもそも凶悪な殺人者たるこの人の言うことを信用してよいのでしょうか?
見定めさせていただく必要がありそうですね。
小清水彌生:「安藤未戝がモノトキシンXで死ぬはずがないのよ!!!」
入間ジョーンズ:「何をおっしゃるのか!! 先ほどの私の推理でモノトキシンXが使われたのは明らかでしょう!!」
小清水彌生:「そう、モノトキシンXは確かに使われていたのよ!!だけど、それだけで安藤未戝が死ぬはずがないのよ!」
入間ジョーンズ:「意味が分かりません!! 使われたというなら、なぜそれが死因にならないと言えるのですか!!?」
小清水彌生:「それがお前の限界か、翻訳者」
【使用コトノハ:伊丹の解析結果
モノトキシンXは猛毒であり、わずかな摂取でも大量に吐血し、命を失う。一般的な致死量は二錠で、体の弱いものなら半錠でも死に至る。
即効性で、飲んだ瞬間に効果がある。水溶性。
「……?」
「伊丹ゆきみ、貴方に一つ聞きたいの」
妙な圧力を感じてたじろぐ私をよそに、小清水様は伊丹様に尋ねました。
「安藤未戝に飲ませた”解毒薬だと思っていたもの”は何錠?」
「……飲ませたのは一錠。症状が良くならないからもう一錠飲ませようかとも思ったけど……副作用が怖くて……」
「…ふぅん。なるほど。じゃあ間違いないわね。伊丹ゆきみ、モノトキシンXの”致死量”は何錠?」
「弱った人なら半錠、健康な人なら二錠……。…ぁああ…っ!!!」
伊丹様は、普段からは想像もつかないほどに上ずった悲鳴を上げました。
そして、私の拙い脳でも小清水様の言わんとすることが見え始めてきました。
「安藤様の健康体では、あの一錠だけでは死に至らない……ということですか?」
「フン、そうよ」
吐き捨てるように小清水様は言いました。
「…そして、これが最後の謎。モノウイルスは経口感染しないはずなのに、安藤未戝は丹沢駿河に口移しを行った直後から吐血と発作を発していた。それは何故かしらね?」
小清水様は続けて私たちに挑戦的な笑みを投げかけながらそう問いました。
彼女にはもうすでに謎が解けている、ということでしょうか…?
安藤様が行ったのは、丹沢さんへの口移し…。
その時に与えた解毒剤も、実際にはモノトキシンXだったということになりますね。
おかわいそうに、既にモノウイルスで満身創痍だった丹沢さんには、モノトキシンXによる苦しみまで課されたということですね…。
しかし、伊丹様のメモでは、”衰弱している方への致死量は半錠”と言っていましたね。
「……ねえ、ひょっとして……」
「…なんでしょう、亞桐様?」
「ウチらはずっと勘違いをしてたのかも…。先入観で判断して、丹沢の死因を見誤っていた気がしてきた…」
亞桐様が仰ったことの意味…。
……そうか!! あの情報を見落としていました!
【提示コトダマ:ウイルスについて
致死性の高い危険なウイルスで、摂取すると瞬時に体内に流れて患者を侵す。感染すると数十分~一時間で死に至る。高温多湿を好む。
【提示コトダマ:伊丹の解析結果
モノトキシンXは猛毒であり、わずかな摂取でも大量に吐血し、命を失う。一般的な致死量は二錠で、体の弱いものなら半錠でも死に至る。
即効性で、飲んだ瞬間に効果がある。水溶性。
「時間、ですよ……!!」
そう、死に至るまでの”時間”。
「モノウイルスでは、体内に侵入してモノトキシンを生成するまでに時間がかかる…とモノパンダ氏は言っておりました。死に至るまでに、ウイルスだと最低でも数十分はかかるのです。しかし、今回の事件で丹沢さんがなくなるまでにかかった時間は五分足らず。特に、安藤様が口移しを行ってからすぐに亡くなりました。つまり…」
「丹沢君にとどめを刺したのは、モノトキシンで間違いないということですね……」
いつの間にか正気に戻っていた山村様の言葉に、私は強くうなずきました。
「でもさ、口移しの後にみーちゃんも血を吐いたじゃん…?? あれはいったいどうしてなの…? そもそもそれがなかったらゆきみんも解毒剤だと思ってたモノトキシンを投与しようとも思わなかったわけだし……」
亞桐さんの疑問はもっともです。
ウイルスが経口では感染しないと先ほど結論付けた以上、安藤様の体に起きた異変は何か別のものによって起きたと考えるしか……。
………??
待てよ……?
「”半分こ”……??」
声を上げたのは山村様でした。
「錠剤を口の中で半分こして、丹沢君にとどめを刺しつつ自らも症状を背負う……」
「そ、そんなことありえんのかよ!!」
…そういえば、あの証言…!
【提示コトダマ:安藤の病状
安藤が倒れた際の初期症状は丹沢のものより軽かった。
初期症状が軽かったというのは、その時点で”半錠”しか摂取していなかったから…!!??
そして、その後に解毒剤だと思われていたモノトキシンX一錠を投与され……
摂取量は”1.5錠”…!?
「伊丹君。安藤君は確かに亡くなったのかい?」
夢郷君が不気味なまでに穏やかな笑みを浮かべて尋ねると、伊丹様は顎に手を当てて思い出します。
「…一瞬しか確認してなかったけど…脈は確かに止まっていたはず……」
「そりゃ1.5錠飲んだんですもの。”仮死状態”ぐらいにはなるはずよ」
小清水様が述べると、全員の顔色が一気に変わります。
「そ、そんな!! じゃあ、みーちゃんは、まだ……!!」
「”生きている生徒は学級裁判に参加しなければならない”。それがここのルール。だからモノクマとモノパンダは仮死状態の生徒を放っておくわけにはいかない……。そうでしょう?」
『クマに二言はないね~』
小清水さんの問いに対するモノクマの反応がすべてを物語っていました。
「…ふふふっ。ふっふふふふふふふふふ、ふははははははははっはははははは!!!!!!!」
小清水様のけたたましい笑い声がその空間を支配しました。
「この私の……この私のトリックをすべて見破って……見破ったうえで、利用したのか!!! 私に全く気付かれないまま、犯行に犯行を重ねた!!! なんて奴なのかしら!!!」
…あの方が、そのような狡猾なことを……?
「そうよ、さっきのは空耳なんかじゃなかったのよ!!! 最初っからずっと、このお遊戯のような裁判を眺めて面白がってたってことよ!!!」
そんなはずがありません。
彼女は、安藤様は、涙を流しておられた。
涙を流し、血を流し、愛する同級生の死を嘆きながら旅立ったではありませんか。
彼女は、丹沢さんの”ヒロイン”だったではありませんか!!
なぜ………
「…さて、これで事件の真相は出そろったようだね。もう一度、事件の内容を整理してみてはどうかな?」
夢郷君の提案はもっともですが……。
「みんな。これが、僕たちが追い求めた真実だぞ。目を背けるのかい? これが欲しくて、僕たちはこの果てしない議論を続けてきたのだろう?」
「……分かりました。私がやりましょう」
ふぅ、とため息が出ました。
今まで何度もあったことです。
現実は、何よりも辛く苦しいのです。
とっくに分かっていたはずなのですけどね…。
「小清水様の犯行の裏に隠されたもう一つの真実を、この事件の本当の謎を、今明らかにします…」
《クライマックス推理Extra ――真実への翻訳―― 》
Act.5
……超高校級の昆虫学者、小清水彌生様が仕掛けた事件は破られました。ですが、今回の事件はそれで終わりではありませんでした…。
事件前夜、とある人物……この事件の真の犯人が化学室に忍び込みました。その人は、モノトキシンXと解毒剤の瓶を先に開け、モノトキシンXを解毒剤の錠剤の上に敷き詰めたのです。このせいで、伊丹様が解毒剤だと思って投与したのは実はモノトキシンXだった…というわけです。
犯人は解毒剤の作用、そして伊丹様がそれを把握していることもすべて知っていました。だからこそ、モノトキシンXに効果がありそうな解毒剤すべてにモノトキシンXの錠剤を敷き詰めたのです。
Act.6
事件の時、さらに犯人は驚異的な行動に移りました。伊丹様が解毒剤だと思って投与したモノトキシンXを、犯人は口移しで飲ませるフリをして、自分と丹沢さんに半錠ずつ投与したのです。衰弱していた丹沢さんはこれによって即死…。半錠を摂取した犯人にもすぐに症状が現れました。
さらに犯人は、伊丹様が投与したモノトキシンXも体内に摂取しました…。モノトキシンXの致死量は二錠。この時点で1.5錠を服用した犯人は、治療もむなしくやがて仮死状態に陥ったのです。
「小清水様を利用し、完全なトリックで私たちを欺いた真の犯人…」
「普段の姿からは想像もつかない狡猾性と凶悪さを兼ね備えた女性……それは……」
「”超高校級の漫画家”………安藤未戝様です……!!」
◆◆◆
これまで以上に、”達成感”も”勝った気”も感じない、虚しい勝利でした。
誰も言葉を発しようとしません。
「さあ、ずーっと陰で私達を嘲笑っていたんでしょう!!! 出てきなさいよ!! 安藤未戝!!!」
小清水さんが、裁判場全体に響き渡る声でそう叫びました。
……すると、その声に答えるかのように。
『あー。あー。マイクテス、マイクテス』
聞きなれた声がアナウンスとなって聞こえてきました。
バンッ。
先ほどの実験の様子を写したっきり下ろされたままになっていたスクリーンに、恐るべき光景が浮かび上がりました。
「!!!???」
◆◆◆
その場所は、何やらモニターや機械がたくさん並んだ、ハイテクな部屋。
モニターの一つ一つには、なんと私たちが生活している個室などの様々な場所の様子が映し出されているではありませんか。
私は確信しました。
そこは監視カメラの映像を眺める部屋…。
つまり、このコロシアイの管理者の……。
いえ、さらにそれよりも衝撃だったのは。
画面の中央に映った、大きな椅子に腰かけた人物。
満面の笑みを浮かべた安藤様でした。
「おっひさしぶりだぞよ~~~!!!」
「………」
その様子を一言で表すならば、唖然。
誰も声を発すことができませんでした。
「改めまして、このコロシアイの黒幕様である、安藤未戝だぞよ!! みー様とかみー閣下とか好きに呼ぶとよいぞよ!!」
『ち・が・う・だ・ろーーーーー!!!!』
突然、恐ろしい形相でモノクマ氏が怒鳴りました。
『やっぱりそこにいたんだな、バカ漫画娘ーー!!! でたらめばっかり言ってボクを怒らせるんじゃなーい!!!』
「むわはははっ!! どうせ誰も使ってない部屋なのだし、ちょっとくらいよいではないか~! まあ、機械はさっぱりいじれぬのだがのう!!」
画面の向こうの安藤様は大きく口をあけて笑いました。
「さっきの空耳もどきも、そこのアナウンスから発していたわけね……」
「小清水殿、大正解だぞよー!!」
「………」
小清水様はぐっと歯をかみしめ、強い目つきでスクリーンの安藤様を睨みつけました。
「ちっくしょー、どうやってそこに入ったんだ……!?? さっさとこっちに降りて来いよー!!!」
モノパンダが両腕を振り上げて怒鳴りつけました。
「うーむ、ここは居心地がよかったのだがのう…。じゃあそっちに行くから待っててほしいぞよー!!」
安藤様がそう言うと、プツンと映像は途切れました。
五分もたたないうちに、エレベーターが動き、中から安藤様が現れました。
「おっは~~!! だぞよ~~!!」
それは、まさしくいつも通りの安藤様。
どんな時でも笑顔でのらりくらりとしている、私たちがよく知る彼女の姿でした。
「みーちゃん……本当に……生きてたんだ」
亞桐さんがやっとの思いで震える口を動かし、声を出しました。
「おかげさまで、モノパンダ殿の超回復術的なアレで治してもらえたんだぞよ~~!!」
いぇーい!と安藤様は右の拳を高くつきあげました。
「あれれ? どうしたのだぞよ? みんなテンション低めだぞよ?」
「黙れ、女狐め!!!!」
小清水様が裁判台をたたいて吠えます。
「この私を欺きやがって……!!! この私の崇高な”野望”を弄びやがって!!!!!! 貴様が……貴様が邪魔さえしなければ……!!!」
「おおーーーー!!!」
「…!??」
しかし、そのような剣幕の小清水様に怒鳴られてなお、安藤様は目を輝かせていたのです。
「カッコいいぞよ!!! 吾輩が書いてきたどのキャラよりも輝いておるぞよ!!! やはりスクリーン越しに見るより生で見るに限るぞよ~~!!! むわはははっ!!!」
「………気持ち悪い人間め……!!!」
小清水さんは目線を逸らして憎悪のつぶやきを放ちました。
「安藤っ、お前、どうしちまったんだよ!!!」
前木さんが涙をまき散らしながら叫びました。
「なんで丹沢を……俺のダチを殺したんだよ!!! あんなに仲良かったのに!!! お前は丹沢のヒロインじゃなかったのかよ!!!」
「君の行動も非常に不可解だ。ほぼ完全な犯行だったのに、なぜわざわざさっきアナウンスで声を発して、自分の存在を教えたのか? それに、君が丹沢君とともに毒を飲んだ理由は? 伊丹君が追加でモノトキシンを飲ませていれば、君は確実に死んでいた。自分が死なない確信はあったのかい?」
夢郷君はこんな状況でもひたすらに冷静です。
「むははははっ!! 質問がありすぎて一気には答えられないぞよ!! …というわけで次回!!! ついに明かされる凶悪犯罪者の真実!! 絶望の先に見えるのは希望か? それとも…!? 次回、『俺のヒロイン達が修羅場過ぎて人類が滅亡しそうな件。』最終話!!! おったのしみにー!!!」
そして、安藤様は膝をついて放心状態になっている葛西さんに後ろから抱きつき、持ち上げるような格好で立ち上がらせました。
「ほれほれ、ゆっきー殿!! 元気出すぞよ!! 次回予告も済んだし、EDのダンスを一緒に踊ろうぞよ~!!」
安藤様は葛西さんの腕を持ち、チャカチャカとヘンテコな動きをさせています。
「絶望ダンス! 野望まみれ少年に~!」
安藤様の唄が裁判場に響きます。
それは、これまでにない大いなる絶望の予兆にも思えました。
ですが、どんな真実が待っていようと、絶望が待っていようと、私は生きねばなりません。
大切な人に……私を待っている、結梨にもう一度会うまでは…。
……絶対に。
「あい~にく! 馬鹿につ~ける! 薬はないよ~!!」