エクストラダンガンロンパZ 希望の蔓に絶望の華を   作:江藤えそら

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ほぼ二か月ぶりの更新です。
10月から社会人になったえそらは非常に忙しい日々を送っております。
早いとこ完結させないとヤバい。


Chapter5 非日常編② 学級裁判前編

 ◆◆◆

 

 

 

お客様、もうすぐですよ。

 

もうすぐすべてが終わります。

 

ですが、最後まで目を逸らしてはいけません。

 

すべては”現実”。

 

一つの偽りもない人間の真実そのもの。

 

決して、画面の向こうの出来事だと思ってはいけませんよ。

 

 

 

 

 

 

この物語は、”脚本”と名付けられただけの、”脚本”ではない何かなのですから。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

「…………」

 エレベーターの中は無言だった。

 これから始まる裁判の緊張感に身を委ねるわけでもなく、俺達は既に裁判で話し合うことで頭がいっぱいだった。

 状況や凶器、アリバイ、証言。

 もう裁判は始まっていると言っても過言ではない。

「………」

 みんなが不安な顔で互いの顔を見回す。

 

 前回の裁判で、亞桐さんの悲惨な死とアルターエゴのオシオキと引き換えに、俺達は固い結束を誓ったはずだった。

 こうなるのも、やはり全てモノクマの想定内だったのだろうか。

 まるで、全てを見透かしているかのような態度は一体……。

 

『ちょっと待って!』

 裁判場の扉の目の前で、、突然天井から降ってきたモノクマが俺達の目の前に立ちはだかる。

『君たち、そんな濡れた体で裁判場に入るつもり? ダメだよ! 電子生徒手帳と違って裁判場の機械は防水加工されてないんだから!』

 そういえば、大雨の中で捜査をしたから体がびっしょり濡れていたんだった。

「じゃあ、乾くまでここで待てっていうのか?」

 前木君が口をとがらせて言うと、モノクマは『そんなわけないでしょ!』と返す。

『時は鮭なりって言うでしょ! この”モノドライヤー”で全員まとめて瞬間乾燥するからね!』

 モノクマが両手を掲げると、天井からモノクマより大きなドライヤーが降ってきた。

 モノクマがスイッチをオンにすると…。

「わっ!!」

 ものすごい勢いの温風が襲い掛かってきた。

「きゃー!!!」

 山村さんが慌ててスカートの裾を押さえる。

 こんな暴風を生み出すドライヤーがあるのも驚きだが、その反作用を受けるモノクマは吹き飛んだりしないのだろうか。

 …と、そんなことを考えていたら風が止んだ。

『ちゃんと乾いた? じゃ、改めて裁判場へどうぞ!』

「すごいですね…これ……」

 俺は自分の体や服を確認してみたが、きちんと全身が乾いているようだった。

 モノクマの超技術にはもう驚かなくなったが、相変わらず不思議だ。

「…なんだか調子を狂わされた感はありますが、裁判場に参りましょうか」

 入間君の言葉に俺は頷き、扉に手をかける。

 

 扉が開かれる。

 誰に促されるでもなく俺達はそれぞれの裁判台に立つ。

 

 ここまで生き残った六人が、裁判台に立ち終える。

 この中の一人が、この裁判で消えるのだろうか?

 本当に、伊丹さんを死に追いやった犯人がいるのだろうか?

 

 真実は……いつも残酷だ。

 

 

「伊丹……俺は勝つからな。勝って絶対生き残るからな……」

 前木君が胸に手を当てて呟く。

「お前の想いは絶対に無駄にしない……! こんなコロシアイはもう終わらせる!」

 彼の言葉に俺は小さく頷いた。

「そうだ。俺達はもう立ち止まってはいられない。ほんの少しずつだけど、黒幕への真実にも近付いているはずだ……」

 

「これが最後の裁判だ。みんな、気を引き締めていこう!」

 

 

 

 学級裁判・開廷!

 

 

 

『学級裁判では、被害者を殺害した犯人をみんなで話し合い、投票で決めてもらいます! 正しいクロを指摘できればクロだけが、指摘できなければクロ以外の全員がオシオキされ、クロは卒業と以下略!』

「以下略と言いつつほとんど説明しちゃったでありんすね!!!」

 吹屋さんのツッコミから学級裁判が始まった。

 

「裁判とは言いますが……今回の事件は本当に事件なのでしょうか?」

 入間君がそう切り出す。

「確かに……。状況だけ見ればむしろ事故のようにも思えますね……」

 山村さんも同意する。

「だけど死体発見アナウンスが鳴って捜査と裁判が行われている以上、誰かが伊丹を殺したのは間違いないはずだ……。そうだろ、モノクマ」

 前木君がモノクマに呼びかけると、モノクマは『ふえ?』と素っ頓狂な声をあげた。

『そう! クロはオマエラの中にいるよ! ……って言いたいところだけど、例え事故死だったとしても、生徒が死んだ以上はその謎を明かすために学級裁判は開くことにしてるよ』

「……ではその場合、クロは誰ということになるのでしょうか……?」

『事故死だったら誰も犯人じゃないから、伊丹さん自身に投票してくれれば正解ってことにするよ! 本当に事故死なら、ね!』

 事故死……。

 本当にそうなのか?

 

「まずは伊丹さんの死の前後で何が起きたかをハッキリさせないと事故か事件かも分からないですよね……」

 山村さんにしては珍しくまともなことを言っている。

「オイコラ!! オレにしては珍しくまともなこと言ってるって顔してやがんだろ!!!!」

 豹変した彼女は置いといて、まずは伊丹さんの死の状況から整理していこう。

 そこから何かが見えてくるはずだ。

 

 

 

 

 

【ノンストップ議論開始】

 

前木常夏:「俺が屋上に行ったとき……」

前木常夏:「伊丹が金属の線を持って立ってたんだ」

山村巴:「その後、前木君と伊丹さんがもみ合いになって…」

入間ジョーンズ:「その時に落雷があった……ですよね?」

山村巴:「…で、気付いたら前木君も伊丹さんも、私達も吹き飛ばされていたんですよね」

吹屋喜咲:「じゃあ、これは落雷による事故で間違いないでありんすね!」

吹屋喜咲:「現場には特に怪しいものもなかったんでありんしょ?」

小清水彌生:「本当にそうかしら?」

 

「吹屋さん、それは違うと思う」

 

【使用コトダマ:山村の証言

 屋上に駆け付けた時、中央塔のすぐそばにブルーシートで覆われた大きな物体があったという。

 事態が急を要していたため、ブルーシートの中身を確認する暇はなかった。

 

 

 小清水さんの言葉に呼応するかのように、俺は再び言葉の弾丸を解き放つ。

 その弾丸は、吹屋さんの口から放たれた議論を真っすぐに打ち砕いた。

 

「少なくとも事件が起きる直前、現場には見慣れないものが置いてあったらしいんだ…。そうだよね、山村さん?」

 俺が問うと、「はい…」と山村さんが頷く。

「夜だし雨が降っていたので見えづらかったのですが、落雷の前、確かに中央塔の根元のあたりにブルーシートに覆われた何かが置いてあったんです。そんなものはバーベキューの時にはありませんでしたよね?」

「確かに……そんなものがあればすぐに気づくはずですよね」

 と、入間君が続く。

「落雷の後、肝心のブルーシートは吹き飛んじゃったみたいで確認できなかったけど…。山村さんが確かに見たっていうなら間違いないね。今回の件はたぶん事故じゃなくて事件だ。誰かが現場に何かを仕込んだとしか考えられないよ」

「彼女の証言が嘘じゃなければ、ね」

 小清水さんが釘を刺すと、裁判場の空気が少し悪くなったように感じられる。 

 だけど、この不穏さにももはや慣れている。

 この中に犯人がいることは、これまでの裁判の経験からもう分かり切っているんだ。

 

「それは……。証明する方法がない以上、信じてもらうしかありませんが…」

「信じるよ」

 山村さんが不安げに言った言葉に、俺は自らの言葉を重ねる。

 そう、この中に犯人がいることは分かりきっている。

 だからこそ、疑うことよりも信じることが大事になるんじゃないか。

 それに、この信頼は無根拠のものじゃない。

「おそらく山村さんが目にしたブルーシートは何か事件の重要なヒントになっているはずなんだ」

 ブルーシートと他のものを結びつける予想も立ててあるけど……。

 まだ考えが固まりきっていないし、言うのは時期尚早だろう。

 

「でも、もし仮にそんなものが置いてあったとして、一体何のためにブルーシートなんか置いてあったんでありんしょ…? 置いたところで何の意味があったのか……」

「何かを隠しておきたかったんじゃないの?」

 吹屋さんの言葉に小清水さんの鋭い答えがあてがわれる。

「ブルーシートなんだから、ただ置いておくだけでは何の意味もないはずよ。本来の用途として使うのなら、ブルーシートの下には何かがあったはず」

「そんなバカな…! 俺達が屋上を捜査した時には中央塔の根元には何も置かれてなかっただろ?」

 そう、そこが今回の議論の重要なポイントでもあるんだ。

 ”そこに置いてあったはずの何かが消えた”……。

 この謎をどう解釈するかで、真相に大きく近づける気がする。

 

「確かにブルーシートがあった場所には何も置かれてはいなかったけど、屋上を捜査していて不審な点はいくつかあったよね。そこを話し合えば、もしかしたらブルーシートに関する謎も解けるかもしれない」

 着想を得るにはまず情報を得なくてはならない。

 そのつもりでみんなに言ったつもりだったんだけど……。

 

「じゃあ俺の話を聞いてくれ!」

「ユキマルは覚えてるでありんしょ?」

「私の考えとしては……」

 

「ちょ、ちょっと! 一度に言われても聞き取れないよ!」

 俺の叫びもむなしく、それぞれの話を進める一同。

 だけど混乱した議論ももう慣れっこだ。

 向こうがこちらの言うことを聞いてくれないなら、こちらが向こうに合わせるほかはない。

 耳をすませろ。

 そして真実を撃ち抜くんだ。

 

 

 【パニック議論開始】

 

 

議論⑴前木常夏:「中央塔の根元には何もなかったけど…」

議論⑵吹屋喜咲:「さっきあちきが屋上で見つけたのは…」

議論⑶入間ジョーンズ:「屋上のフェンスが重要だと思います」

 

議論⑴前木常夏:「金属のワイヤーが巻き付いてたよな?」

議論⑵吹屋喜咲:「回路の部品とか導線でありんした!」

議論⑶入間ジョーンズ:「あのフェンスは……」

 

議論⑴前木常夏:「あのワイヤーって何のためにあったのかな…」

議論⑵吹屋喜咲:「もしそれがブルーシートと関係してるなら…」

議論⑶入間ジョーンズ:「非常に強度が弱かったのです!」

 

議論⑴山村巴:「さっぱり分かりませんね……」

議論⑵吹屋喜咲:「ブルーシートの中身は電子回路だったのでは!?」

議論⑶入間ジョーンズ:「それを犯人が知っていたなら…」

 

議論⑴山村巴:「あれで誰かを縛っていたとか…?」

議論⑵小清水彌生:「あなたにしては論理的なことを言うのね」

議論⑶入間ジョーンズ:「落雷に紛れて伊丹様を……」

 

議論⑴前木常夏:「俺らは縛られた奴なんて見てないだろ?

議論⑵吹屋喜咲:「いつもバカで悪かったでありんすね!!」

議論⑶入間ジョーンズ:「思いきり突き落とすこともできたはずです!」

 

 

「聞こえた! 吹屋さんの言うとおりだ!」

 

【使用コトダマ:回路のかけら

 屋上の床に落ちていた。何かの電子機器を構成する基板や、ゴム製の管に覆われた導線が落ちていた。

 粉々に粉砕されていて、焼け焦げたような跡もある。

 

 おそらく、前木君が言ったワイヤーの件もここに関係している。

 だけど、今拾うべき情報は……。

 

「そうだ。屋上には粉々に砕け散った電子回路の欠片や導線が落ちていたんだ。これもバーベキューの時にはなかったものだし、事件に関わっているのはほとんど間違いないと思う」

「いや、確かにバーベキューの時にはなかったけどさ……。だからってブルーシートの件と関係してるってのは飛躍しすぎなんじゃないか……? ブルーシートの中に電子回路があったなら、どうして事件後にはその場から消えて欠片が散らばってたんだ…?」

「……あ!」 

 山村さんが声をあげる。

「あ、いや、でも……」

「どうしたんだ山村。何か気付いたのか?」

「一つ思い浮かんだんですけど……。でもいくらなんでもそんなことは……」

 恐らく、山村さんは俺と同じことを考えている。

 彼女の迷いを払いのけるべく、道を指し示そう。

 これが真実への第一歩だ。

 

 

 閃いた言葉を、一文字ずつ重ね合わせていく。

 その文字列は、やがて意味を成す。

 

 

『爆弾』

 

 

「ブルーシートの中にあったもの……。それは”爆弾”だよ」

 みんなの表情がそれぞれ変わる。

「そう考えるとブルーシートに関するいろんな謎が一挙に解けるんだ。ブルーシート自体が無くなっていたのも、砕けた部品があたりに散らばっていたのも、爆弾の爆発が原因なら納得できるよね」

「言われてみればそうですね……。どうして今まで気が付かなかったのか……」

 入間君が目から鱗といった様子で同意する。

「それに、伊丹さんやその場に居合わせたみんなが吹き飛ばされた原因が落雷の衝撃波と言うのはあり得ないんだ。だってその直後、捜査中にも何回か落雷を経験しているにもかかわらず、その時は誰も吹き飛ばされていないんだから」

「つまり、伊丹ゆきみを死に至らしめた原因は落雷の衝撃波などではなく……」

 俺が言おうとした結論を、小清水さんが代わりにすらすらとまとめてゆく。

「ブルーシートの中に隠された爆弾の爆発によるものということね」

「そう。俺が言いたかったのはそういうことなんだよ。ありがとう、小清水さん」

 

「だから甘いのよ」

「っ!?」

 味方だと思っていた小清水さんが突如突き刺すような視線と共に敵意を向けてきたことに、俺は少し動揺した。

 

 

【小清水彌生の反論】

 

「爆弾という意見自体は悪くない発想ね。でも残念ながら、この場所で爆弾を作る際には大きな障害があるでしょう? そんなことも忘れてしまうようではクロに勝つなど到底不可能よ」

 人差し指を立てて鬼のような形相で言葉を言い放つ小清水さん。

 だけど、ここで退くわけにはいかない。

 御堂さんの時はもっとすさまじい形相だった。

 今更立ち止まりなんかしない!

 

小清水彌生:「あなたの推理は確かに正しい」

小清水彌生:「”本当に爆弾を使えるのなら”…ね」

小清水彌生:「だけど、その爆弾は一体どこから入手するの?」

小清水彌生:「私たちの足の届く範囲には、爆弾を手軽に入手できる場所などないはずよ」

 

「その言葉、斬らせてもらうよ!」

 

【使用コトノハ:簡易爆弾の製作痕

 過去に何個もの簡易爆弾を制作した跡があり、それに応じた分の部品が減っている。しかし、何故か回路に電流を流すか否かを切り替えるスイッチだけが大量に余っていた。

 モノクマによれば、技術室から紛失した部品は全て午後六時以降に無くなっている。

 

 

「小清水さん、君こそ大事なことを忘れていないか? 爆弾を制作する環境は、俺達の身近にあったじゃないか。二階の技術室だよ。あそこには簡易爆弾の制作キットが置いてあって、素人でも爆弾が作れるようになっていたんだ。それを使って犯人は」

「だから、それが甘いのよ!」

 

 

【発展!】

 

 

小清水彌生:「私が知らないとでも思った?」

小清水彌生:「あなたや入間ジョーンズたちは一計を案じて…」

小清水彌生:「モノボンドとかいう物質で技術室の扉を封じていたはずよ」

小清水彌生:「それはモノクマの裁量で新しい校則が追加されたことからも明白」

小清水彌生:「技術室の扉が封印されていた以上…」

小清水彌生:「その中にある爆弾制作キットを使用するなんて無理難題もいいところよ!」

 

「何度でも斬り捨てるさ! それが真実への障害となるのなら!」

 

【使用コトノハ:犯行防止工作

 化学室、技術室、弓道場の扉にはモノボンドによる固定処理が施されており、

 そのままでは中に入ることができない状態になっていた。しかし、捜査時にはモノボンドは無くなっており、自由に出入りできる状態となっていた。

 

 

 俺は心を鬼にして小清水さんの語気に待っ正面からぶつかっていった。

「そうか。君は捜査時間中もずっと管制室にいたから知らなかったんだね。…結論から言うと、技術室の扉に付着したモノボンドは無くなっていたんだ」

「なっ……。なんですって……!?」

 その言葉を聞いて一番驚いたのは入間くんだった。

「本当ですよね。せっかく私たちが一生懸命時間をかけて塞いだのに、あっさり破られていたなんて……」

 山村さんも悲し気な顔でそう呟いた。

 

 考えてもみれば不思議な話だ。

 俺と山村さんと入間君は確かにこの手で扉を塞いだのを確認している。

 だけど捜査時間にはモノボンドは全く残っておらず、容易に扉が開くさまもこの目で確認することとなった。

 いったい誰がどうやって、技術室の封印を解いたというんだ。

 

「…なるほど。手法はともかく、技術室の扉が開いていたのは事実のようね。失礼したわ」

 小清水さんが素直に謝罪するなんて…。

 あまり信用しすぎるのも危険だけど、なりふり構わず俺達と協力しようという意思の表れだろうか。

 

「で、一つ問題が片付いたところでまだまだ疑問は山積みだけど、何から片付けましょうか?」

「まずは爆弾の作り方についてなんじゃないか? よしんば技術室に入れたとして、それだけで”爆弾を作りました”って片付けることはできない気がするぞ」

 前木君の言うとおり、爆弾の話はまだ終わりじゃない。

 きっとまだ爆弾について整合性が取れていないことがあるはずだ。

 

「では、爆弾について思うことを述べさせていただいてもよろしいでしょうか…?」

 入間君に何か意見があるようだ。

 まずは彼の言葉に耳を傾け、何が異議があれば答えるとしよう。

 

 

【ノンストップ議論開始】 

 

入間ジョーンズ:「爆弾が爆発したのは……」

入間ジョーンズ:「落雷と同時でしたよね?」

前木常夏:「そのタイミングで起動させることで」

前木常夏:「落雷で吹き飛ばされたと誤認させるためだろうな」

入間ジョーンズ:「ですが、落雷と同時に爆弾を爆発させるには……」

入間ジョーンズ:「犯人は落雷を観測できる位置

にいなければなりません」

山村巴:「ということは、犯行現場に居合わせた人

が犯人候補ですね!」

山村巴:「って、私もじゃないですか~~~~!!!」

吹屋喜咲:「あちきの持ちネタを奪うなでありんす!」

入間ジョーンズ:「つまり犯人は……」

入間ジョーンズ:「落雷と同時に爆弾のスイッチを押せる人なのです!」

 

「入間君。残念だけどそれは違うよ」

 

【使用コトダマ:簡易爆弾の製作痕

 過去に何個もの簡易爆弾を制作した跡があり、それに応じた分の部品が減っている。しかし、何故か回路に電流を流すか否かを切り替えるスイッチだけが大量に余っていた。

 モノクマによれば、技術室から紛失した部品は全て午後六時以降に無くなっている。

 

「……? それはどういうことですか?」

 怪訝そうな顔をする入間君に、俺は答える。

 にわかには信じがたい、だけど確かにこの目で確かめた事実を。

 

「俺が技術室で確認した時…確かに簡易爆弾の部品が減っていたんだ。それも一個じゃなく、何個もね。だけど、スイッチだけが大量に余っていた。…余っていたどころか、一個も使われていないようにすら思えた。犯人が作った爆弾には、スイッチが無かったかもしれないんだ」

「はぁ…!? スイッチが無かったらどうして爆弾が起動したんだよ!」

「それは…‥分からないよ」

 スイッチもなしに爆弾を起動させる方法があるとは思えない。

 

「ちょっと待ってください」

 入間君が口を挟む。

「おそらく犯人は大量の爆弾を一か所に集めたのでしょう。 スイッチ以外の部品は炸薬量の数だけ必要かもしれませんが、スイッチは全体で一個しか使わないはずです。ゆえにスイッチが他の部品に比べて余っているのは当然なのでは?」

「そう言われればそうなんだけど……。どうもスイッチのゾーンには手を付けた跡すら見られなかったというか…」

 ダメだ、上手く言葉にできない。

 俺の目には、スイッチは一個たりとも使われていないように見えたんだ。

 それを上手く伝えられる手段があれば……。

 

「さっきの議論で気になったのだけど」

 すると、混沌とする議論にさらに刺客が現れる。

 小清水さんだ。

「犯人は落雷と同時に爆弾のスイッチを押したと言ったわね? 厳密に同時にというのは不可能よ。落雷が発生してから地表に到達するまでの時間は最速で0.001秒。それに対して、人間の平均反応速度は0.2秒。しかも、落雷の際の閃光と爆音にひるむことなく瞬時にスイッチを押す必要があるわ。どう頑張っても実際の落雷と爆発には最小で1秒程度のラグが生じるはずよ」

 1秒のラグ……。

 俺の記憶では、轟音が頭に響くのと体が浮かび上がったのは同時だったはずだ。

「実際に現場にいたメンツがそういったラグを感じていないのであれば……スイッチを押すというのは現実的ではなくなるわね」

 俺は周りを見渡す。

 前木君も山村さんも首をかしげている。

 あまりに一瞬のことだったし、ハッキリと認識できているかも怪しいことだ、無理はない。

 

「…だけど、一連の議論のおかげで確信が持てた」

 俺は裁判台に両手をついて全員を見渡す。

「やっぱり爆弾にスイッチなんてなかったんだ。なぜなら、そんなことをしなくても爆弾を起動する方法があったからだ」

「……お聞かせ願えますか」

 その言葉と共に俺は入間君の方へ顔を向ける。

 

「爆弾を起動させたのは、天然のスイッチ。……落雷だよ」

「……ふうん」

 小清水さんが興味深そうに声を発する。

「落雷をスイッチに……? そんなことできるのか?」

「理論上はできるはず。いや、確かに犯人はそれをやってのけたんだ。現場に残っているあの証拠がそれを物語っている……」

 もし、ブルーシートのあった中央塔の根本付近に爆弾があったなら。

 その爆弾へ雷の電流を伝える物質が必要となる。

 心当たりがあるのは……。

 

【提示コトダマ:丈夫な金属線

 中央塔の真ん中の柱に、丈夫な金属線が巻き付けられていた。先端は中央塔から2メートルほどの距離まで伸びていた。

 また、伊丹が持っていた方とは異なる方にもう一本先端が伸びており、その先端は熱でゆがんでいた。

 

 

「中央塔に巻き付けられていた金属の線。その線の片方は伊丹さんが持っていたけど、もう片方の端は中央塔の根本付近に降りていて熱で歪んでいたんだ。この線は爆弾に接続されていて、爆発の衝撃と熱で先端が歪んだんじゃないかな?」

「確かに金属の線なら電気は通すだろうな……。…でも、その線と雷にどういうつながりがあるんだ?」

 どうやら前木君は、中央塔が避雷針を兼ねていることを知らないようだ。

「知らないんですか? あの塔に落ちた雷の電流は中央塔を通って床下の蓄電器に伝わるそうなんです! その際の通り道があの場所なんですよ!」

 自分の推理を興奮気味に話す山村さん。

 あの場所というのは、モノクマが説明していた部分のことか。

 

【提示コトダマ:中央塔の感電箇所

 タワー中央塔には電気の通り道がむき出しになっている箇所があり、そこに触れていると感電の恐れがある。

 その箇所は地上から2m以上の高さにあり、背の高い人物が手を伸ばしてようやく届くぐらい。 

 

 

「中央塔の少し高いところには金属部が露出している箇所があって、そこを雷の電流が通るらしいんだ。そして、金属線はまさにそこに巻き付けてあった。金属線の先端が爆弾に接続されていたのなら、落雷そのものがスイッチとなって爆弾の電気回路に電流を流し、爆発を発生させたんだ」

 

 

 

「そうは問屋が卸さんでありんす!!」

 

 

【吹屋喜咲の反論】

 

 

「落雷をスイッチに!? そんなことできるわけがないでありんす!」

 

 俺の推理に吹屋さんが突っかかってきた。

 だけどそれも当然だ。

 こんな突拍子もないトリック、普通は考えつかない。

 だからこそ、このやり取りを通じて全員にこのトリックの真髄を分かってもらわなきゃいけない。

 

吹屋喜咲:「落雷で電気が流れるのは確かに納得でありんすけど…」

吹屋喜咲:「犯人がわざわざそんなことをした理由はなんでありんすか!?」

吹屋喜咲:「スイッチで普通に爆発させれば済んだ話でありんしょ!?」

吹屋喜咲:「わざと遠回りな方法をとった理由が全く分からないでありんす!」

 

葛西幸彦:「目的としては、爆発を落雷の衝撃波と誤認させること…」

葛西幸彦:「そのために落雷と実際の爆発のタイムラグを無くさせること…」

葛西幸彦:「このために犯人は落雷で爆発するような回路を組んだんじゃないかな?」

 

【発展!】

 

吹屋喜咲:「全く分かってないでありんすね!!」

吹屋喜咲:「ユキマルは落雷の情報をちゃんと読んだんでありんすか!?」

吹屋喜咲:「あれによると、落雷の電圧と電流はすさまじくて……」

吹屋喜咲:「電子機器も壊れてしまうって書いてるでありんすよ!!」

吹屋喜咲:「だから爆弾に落雷の電流が流れちゃったら……」

吹屋喜咲:「ショートは確定でありんすよ!!」

 

「ありがとう、吹屋さん。遠慮なく斬らせてもらうよ」

 

【使用コトノハ:失われた部品①

 技術室の部品置き場から、抵抗が大量に持ち去られていた。いずれも高い抵抗値を持つもの。

 

 

 吹屋さんにしては目聡い発見をしてくれた。

 おかげでこちらからいろいろ説明する手間が省けた。

「…確かに落雷の説明にもある通り、()()()()()()()が流れたら爆弾の回路であっても壊れてしまうと思う。それは、実際に使われたであろう導線が細くてすぐに焼き切れてしまいそうな見た目をしていることからも明らかだね」

 

【提示コトダマ:失われた部品②

 技術室の部品置き場から、導線が大量に持ち出されていた。

 導線は細く、強すぎる電流を与えると焼き切れてしまいそうだ。

 

 

「だからこそ、犯人は回路にある工夫をすることでこの電流をスイッチとして利用可能な電流に変えたんだ」

 理系な苦手な俺にはなかなか得がたい発想だったけど……なんとかこの結論にたどり着くことができた。

「犯人が使ったのは、技術室にあった部品……”抵抗”だよ」

 

「ふぅん……そういうことね」

 と納得する小清水さん。

「抵抗!? 技術室で乱闘があったのですか!?」

 一方、山村さんと吹屋さんは全く分かっていないようだ。

「山村様、ここでいう抵抗とは電子回路の部品のことなのです。それを繋ぐことによって、回路に流れる電流を小さくすることができるのですよ」

 そんな彼女たちの様子を見かねた入間君が補足する。

「今の入間君の説明で概ね大丈夫なんだけど、それをより詳しく記載したのが、みんなの電子生徒手帳に配られたモノクマからのヒントだね」

 

【提示コトダマ:電気回路の基礎知識

 オームの法則:中学校で習う電気の基本法則。電圧V、電流I、抵抗値Rについて、V=RIが成り立つ。

 直列回路:複数の抵抗を直列に繋げばその分全体の抵抗は大きくなる。

 

「えっと……俺も完全に理解しているわけじゃないんだけど……。このオームの法則って言うのは、”電圧が同じとき、抵抗が大きいほど電流が小さくなる”っていう回路の性質を表す公式なんだ。そして直列回路の情報は、”同じ抵抗を何個も直列に繋げると、その分全体の抵抗は大きくなる”っていうことを示しているんだ」

 理系出身じゃないのであまり上手く説明できている気はしないけど……。

 多分こういう理解で合っているはず。

「…てことは、抵抗をたくさん繋げばその分雷の電流を弱くすることができるってことだよな」

 前木君の言う通り、犯人はそれを狙っていたはずだ。

 なぜなら……。

「その証拠に、技術室の部品置き場から抵抗の、それも抵抗値の大きいものが重点的に抜き取られていたんだ。犯人がそれを使って爆弾の回路を製作したとみて間違いないと思う」

「ですが……雷と一口に言ってもその電圧量は一様ではないでしょう? 抵抗を取り付けるにしても、実際の雷の電圧を正確に把握できていないと、電流が強すぎてショートしてしまったり逆に弱すぎて回路が反応しなかったりするのではないでしょうか? トリックとして用いるには少し不安定な気もします……」

「さっきからあちきには何を言ってるのか全く分かんねーでありんす!」

「安心してください吹屋さん! 私も全く分からないです!」

 二人の元気な嘆きはともかく、流石に入間君は頭がいい。

 どうも俺の知識では完全な答えを見つけることができなかった。

 

「不可能ではないと思うけどね」

 そんな俺をあざ笑うかのように、小清水さんが付け加える。

「空気の電気抵抗値を加味した落雷の電圧はおよそ1~10億ボルト。一方、一般的なビニル絶縁導線の許容電流は、断面積を1.25㎜^2と仮定するとおおよそ20アンペア程度ね。爆弾が電気信号を認識する下限電流は微妙なところだけど、100ミリアンペアもあれば十分でしょうね。雷への知識があれば、爆弾の回路が信号を認識するよう抵抗回路を作成するのは不可能ではないはずよ」

 小清水さんはすらすらと入間君への反論を述べてゆく。

 …なぜか今回の彼女はやけに俺に肩入れしてくれている気がする。

 何か意図があるのだろうか……?

 

 そして……彼女の反論の矢面に立たされる入間君。

 この二人は殺害未遂の件があってからずっと険悪だけど……今回はいつにも増して凄まじい雰囲気だ。

 今回もやけに小清水さん…そして俺の推理に引っかかって来ているような気がするけどまさか彼が……。

 

「…ありがとうございます、小清水様。理系には明るくない私でも分かるように説明していただき、嬉しく思います。おかげで謎が氷解しました」

 そう言って丁寧に頭を下げる入間君。

 

 ………信じたい。

 こんな彼が人殺しをするなんて、それも四回のコロシアイを付き添ってきた仲間を殺すなんて……。

 そんなことは絶対にあり得ないって、信じなきゃ。

 

 

「すみません、ちょっと根本的な話になるのですが……」

 と、山村さんが挙手する。

「皆さん当たり前のように”金属の線”とおっしゃってますが、その金属の線というのはどこから持ってきたものなのでしょうか?」

「…そういえば不思議な話ですね。あんなワイヤーのようなもの、ここで生活している際には見かけなかったと思いますが……」

 ワイヤーの出どころ……。

 それに関して俺は心当たりがあるはずだ。

 思い出すんだ。

 

 

【ノンストップ議論開始】

 

吹屋喜咲:「あんなワイヤー、見たことないでありんすよ!」

前木常夏:「屋上のフェンスって金属だよな?」

前木常夏:「あのフェンスをほどいて使ったんじゃないのか?」

入間ジョーンズ:「いえ、あのフェンスでは…」

入間ジョーンズ:「ワイヤーとして使うには脆すぎる気がいたします…」

小清水彌生:「元から校内にあったものじゃなく…」

小清水彌生:「犯人が新たに作り出したものである可能性の方が高いと思うけど」

山村巴:「うーん……やっぱり校内にはワイヤーになるものはありそうにないですよね……」

 

「いや、山村さん。ワイヤーはこの校内にあるものだったんだよ!」

 

【使用コトダマ:破損したピアノ

 音楽室のピアノの中に取り付けられているピアノ線が、一部切り取られていた。

 

 

「えっ!? でもワイヤーっぽいものなんてどこにも……」

「いや……少なくとも吹屋さんと前木君は知っているはずだよ。君たちは音楽室を調べた時にあるものを見つけたはずだ」

「あぁ……っ! あれか! すっかり忘れてたぞ!」

 前木君がポンと手を叩く。

「音楽室のピアノから、ピアノ線が切断されていたんでありんすよね! おかげであちきの楽しみがまた一つ奪われてしまったでありんす……」

「まあ、ピアノ自体はモノクマが後で直すんだろうけど……。大事なのは、あの時吹屋さんが言っていたピアノ線の特性だよ」

 


 

【Chapter5 非日常編①】

 

「……ピアノ線って、どういう材質だったっけ?」

 

「ピアノ線は…確か炭素が入った鋼だったと思うでありんす! すっごく頑丈で、ピアノ以外にも工業用のワイヤーとかにも使われてるでありんすよ!」

 

 ピアノを弾けるだけあって、吹屋さんはピアノ線のことも知っていたようだ。

 

「電気は通す?」

 

「う~ん……確か通すには通すはずでありんす!」

 

「そうか……ありがとう」

 


 

 

【提示コトダマ:ピアノ線の特性

 ピアノ線は極めて高い硬度を持つ金属のワイヤーであり、他の金属より電気伝導率は低いものの電気を通す。

 その特性からピアノの弦や工業機械などに用いられる。

 

「ピアノ線は金属を通す線だから、爆弾の電気伝導に使うにはちょうどいい線だね。犯人はあれを何本か切って、端同士をねじり合わせてつなげることで長い線にしたんだろうね」

「ですが……ピアノ線のような頑丈な線をどうやって切断したのですか?」

 と、問いかける入間君。

 山村さんあたりなら素手でも千切れそうだけど……。

 犯人はあれを使ってピアノ線を加工したんだろう。

 

【提示コトダマ:大型ニッパー 

 技術室に並べてある大型ニッパー。ぱっと見何の変哲もないが、よく見ると一個に僅かな刃こぼれが見られた。

 

 

 

「技術室に置いてあったニッパーを使ったんだと思うよ。あの中の一つが刃こぼれしていて、使ったような形跡があったんだ。切断だけじゃなくてねじり合わせる用途にも使ったんだろうね」

「犯人は大いに技術室を犯行に使ってるんだな…。扉の固定が解かれたのがつくづく残念だ……」

 前木君がそう思うのも無理はない。

「だけど、確実にトリックを暴きつつあるよ。このまま進めばきっと犯人にたどり着けるはずだよ」

「…だと、良いんですけどね……」

 

「あなた達の脳じゃ全員がトリックの内容についてちゃんと理解できているか分からないし、ここまでの流れをいったん整理しましょうか」

 小清水さんがそう提案する。

 言い方は悪いが、実際問題とても大切なプロセスだ。

「えーと……。伊丹様の死因は犯人が屋上に仕掛けた爆弾の爆発。その爆弾は中央塔のワイヤーと大量の抵抗を通して落雷の電流を受け取り、爆発する仕組みであった、と。そしてその爆弾の出どころは技術室であり、ワイヤーの出どころは音楽室のピアノ線だということですね」

 入間君がすらすらとここまでの流れを語ってくれた。

「ありがとう、入間君」

「……でも、よくできたトリックだな」

 前木君がポツリと呟く。

「回路に組んだ部品も、爆弾を隠していたブルーシートも、全部爆発して証拠は吹き飛んじまうんだもんな。落雷のスイッチの件も含めて、これを考えた犯人は相当熟考したうえでトリックを作ったんだな……」

「あの……爆発で吹き飛ぶという点で一つ気になったのですが……」

 再び山村さんが手をあげる。

「あの簡易爆弾って……人を殺せるほどの威力はないってあのパンダが言ってましたよね…。果たしてそんな爆弾で四人もの人間を吹き飛ばせるのでしょうか……?」

「山村さんの疑問はもっともだね。だからこそ、犯人は一個じゃなくたくさんの爆弾を用意したんじゃないかな。一個なら威力不足でも、たくさん集めることで人を吹き飛ばすのに十分な威力にしたはずだ」

 そう、技術室の爆弾は一個じゃなく複数個減っていた。

 爆弾の数を集めたというところに、犯人の意図が見え隠れしている。

 

「でも……知れば知るほど犯人の意図が分からんでありんす! どうして犯人はそんな殺し方を選んだんでありんしょ……?」

「そりゃあ、バレにくい犯罪だから…」

「バレにくいって言ったって、他にもバレにくい殺し方はたくさんあるでありんしょ? 雷がいつ落ちてくるかなんて文字通り天任せだし……このトリック、”たまたま上手くいった”感がどうしても拭えないっていうか……」

「………!?」

 たまたま上手く……?

 吹屋さんの今の言葉、もしかして………。

 …いや、流石にあり得ない…はずだ。

 

「さて、今までの議論を踏まえて一つ聞きたいのだけど」

 そんな話の流れを遮るように、小清水さんが問いかける。

伊丹ゆきみは屋上で何をしようとしていたの?

「………!!」

 それは、今回の事件の根幹をなす重要な問いだった。

 しかし他の議題を進めるうちに、その話は後回しにされてしまっていたんだ。

「今明らかにしたトリックで最も不思議な点は、”殺害対象が屋上にいなければならない”という点よ。つまり犯人は、殺害すべき人間が屋上に来ることを確信して爆弾を仕掛けていなければならない。そうなると、屋上で何らかのアクションを起こそうとしていたと思われる伊丹ゆきみと犯人の間に何らかのつながりがあったと考えるのは自然ではなくて?」

「そう言われてみれば…そうだね…」

 彼女の言うとおり、伊丹さんは生前に犯人と何か共謀していた可能性がある。

 

 

「伊丹が屋上でしようとしていたこと………」

 前木君がつらそうな顔をしながらも屋上での出来事を思い返す。

 

 

 

 

 

「伊丹さんは……俺達が屋上に来た時……ピアノ線を両手に抱えていた……」

 

「そして駆け付けた俺達を見た伊丹さんはこう言った……『私の計画を邪魔しないで』…と」

 

「さらに駆け寄った前木君にこう言い放った。『あなたまで感電してしまう』

 

 あの時、あのセリフを聞いた時から、この一つの筋は俺の中で出来上がっていたんだ。 

 ただそれを信じたくなくて……。

 

 でも……今となっては、もう言うしかないんだ。

 彼女の行為。

 言葉。

 そのすべてに納得が付く脚本の筋は、一つしかない。

 

 

 

「彼女は……伊丹さんは……。己を殺そうと……自殺を試みていたんだ………」

 

 

 

学級裁判・中断

 

 

 

 

 


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