エクストラダンガンロンパZ 希望の蔓に絶望の華を   作:江藤えそら

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今回のトリックはエクロンの集大成といったクオリティに仕上がりました。
まだまだ無理矢理な部分もあって未熟ですが、次回作のζではさらに腕に磨きをかけて皆さんを驚かせたいと思います。


Chapter5 非日常編③ 学級裁判後編

「伊丹が、自殺……!?」

 当然、一番驚いたのは前木君だった。

「驚くのも無理はないと思う……。でも、彼女の死の直前の不可解な行動や発言を説明するには、彼女自身の目的を自殺と考えるほかはないんだ」

 自分でもそんなことを言うのは辛かった。

 でも、真実は一つしかない。

「…‥っ!!! …………。……理由を、聞かせてくれ…」

 前木君は一瞬感情的になりかけて、吐き出しかけた言葉をすぐに胸の中にしまい込んでそう問いかけた。

 

「まず、亡くなる直前の伊丹さんの行動を思い返してほしいんだ。彼女は金属の線を持って立っていた……」

 

【提示コトダマ:事件直前の伊丹

 屋上に突入した時、伊丹は銀色の線のようなものを両手に持って立っていた。

 もみあいになった際に銀色の線は伊丹の手から離れた。

 

 

「今までの議論から、中央塔に巻かれていた金属の線……つまりピアノ線は、落雷から直接電流が流れていたということが分かった。その金属線を握っていたってことは……」

「感電死を図っていた、ということですか……?」

 山村さんの言葉に俺は頷く。

「そう考えないと、辻褄が合わない。…伊丹さんは、感電による自殺を図っていたということだ」

「……状況の説明だけじゃ納得できねーよ。動機が分からなきゃ納得なんて…」

 前木君が苦しそうに声を押し出す。

 感情的になって怒鳴ろうとするのを必死に押さえつけようとしているようだった。

「動機は……分からない。伊丹さんは昨日、俺に言ったんだ。『私は殺人なんかしない』って。…とても、思い詰めているようには見えなかったんだ。そんな彼女が自殺をするなんて、俺にも信じられない」

「感情論なんて話し合うだけ時間の無駄よ。話を聞く限り、伊丹ゆきみは自殺をもくろんでいたってことで間違いないと思うけど?」

「…私も小清水様の意見に同意します。理由はどうあれ、感電しようとしていたとしか思えません……」

 裁判を引っ張る二人がそう言うと、裁判場の空気はほぼ決まったようなものだ。

 

「…じゃあ、あの爆弾はなんだったんでありんすか……?

 と、吹屋さんが口を開く。

「仮にゆきみんが自殺を図っていたとして、じゃああの爆弾は何のために…? そもそも金属線を握って感電死しようとしていたのなら、爆弾なんて意味ない気が……」

「それは……上手く感電できなかった時のための保険とか?」

「保険……。伊丹はそこまでして自殺したかったのか……?」

 前木君はまだその事実を認めたくないようだが、現実は残酷だ。

 

「では、ピアノ線を加工して中央塔に巻いたのも、爆弾を用意してそこに置いたのも、全部伊丹ゆきみということになるわね。でもそうなると、最初の方に棚上げしていた問題を解決しなければいけなくなるわね」

「棚上げしていた問題……?」

「”技術室の入室方法”よ。モノボンドと校則で守られていた技術室の扉をどうやって開いたのか……。

 小清水さんが提示した問題は確かに重要なものだ。

 先ほどは重要視せずに流していた議題だが、技術室に貼られていたモノボンドの防御をどうやって解除したのかを解明しないことには先に進むことは叶わない。

 

「…そもそも、そんなタイミングで都合よくモノクマがボンドなんか出してきたのが怪しいのでありんす! きっとそのボンドは欠陥品で、ゆきみんだけがそれに気づいてたのでありんすよ!」

 と、吹屋さんが声を張り上げる。

『そんなワケないでしょーが! モノボンドはボクが説明したとおりのスペックだし欠陥もないし効き目にムラがあるわけでもありません! ていうかそういうところに穴があるとミステリーとしていろいろヤバいの! ボクが望むのはあくまでも公正公平な学級裁判だからね!』

「公正公平な学級裁判………」

 小清水さんがモノクマの言葉を反芻して呟く。

 

「とにかく、分からないことは話し合うほかありません。私たちが聞いたモノボンドの特性も含め、一度再確認してみましょう」

 入間君の言葉で再び議論は動き出す。

 今なら、真実が手に取るようにわかる……気がする。

 一体これは、どういう感覚なのだろう。

 

 

【ノンストップ議論開始】

 

山村巴:「モノボンドは非常に強力なボンドで…」

山村巴:「一度接着すると私の力でも剥がすことができませんでした!」

入間ジョーンズ:「その代わり、熱に非常に弱く…」

入間ジョーンズ:「お風呂のお湯程度の熱でも溶けてしまうとか…」

前木常夏:「でも、それを見越して入間が…」

前木常夏:「モノクマに校則を追加させたんだよな」

小清水彌生:「校則によると、『熱い物体を部屋から廊下に持ち出すこと』が禁じられているようね」

小清水彌生:「ただ、『校長による許可が出た場合はその限りではない』とも…」

吹屋喜咲:「分かった~!」

吹屋喜咲:「犯人はモノクマを上手く言いくるめて…」

吹屋喜咲:「熱いものを廊下に持ち出す許可を得た

のでありんすね!」

前木常夏:「そんなにモノクマの判定はガバかったのか……?」

 

「吹屋さん、それは違うよ!」

 

【使用コトダマ:追加校則

 『熱いものを部屋から廊下へ持ち出すことを禁じます。どうしても必要な時は、校長に申し出ること。校長が判断します。』

 モノクマ曰く、許可の申請に来た生徒は一人もいなかったという。

 

 

 真実が見える。

 弾丸はまっすぐに打ち出され、そして吹屋さんの議論の弱点を的確に撃ち抜いた。

 

「技術室に入った人間は、モノクマに許可を得たわけじゃないんだ。…なぜなら、他ならぬモノクマ自身がそう言っていたから」

 俺はそう言ってモノクマの顔を見つめる。

『その通り! 急に追加した校則なので柔軟に対応できるように相談可にしたんだけど、実際にはボクに許可を得ようとした人は伊丹さん含め一人もいませんでした! そして、この校則は誰にも破られていません!』

「これで分かったでしょ? 技術室に入った伊丹さんも、他の人も、モノクマに許可を得ることなく…でも校則を破ることなく技術室に入ったんだ」

「いやいやいや! ますます分かんないでありんすよ! だったらどうやって技術室に入ったんでありんすか!!」

 その謎も、今では少しずつ突破口が見え始めている。

 やはり鍵になるのは”校則の文章をどう解釈するか”だろう。

 そこを攻めていけば、一つの結論にたどり着くはずだ。

 

「考えられる可能性をあげていこう。その中にきっと答えがあるよ」

「考えられる可能性って言われても………」

 

 

 

【ノンストップ議論開始】

 

 

入間ジョーンズ:「考えられる可能性……」

入間ジョーンズ:「やはり無理矢理ボンドを剥がしたと考えるしか…」

山村巴:「そもそも扉を使わずに部屋に入ったのでは!?」

前木常夏:「どれもピンとこないな……」

小清水彌生:「熱で溶かしたと考えるしかないでしょう」

吹屋喜咲:「だーかーらー! それは校則で封じられてて…」

吹屋喜咲:「許可を取ろうとした人もいなかったのでありんすよ!」

山村巴:「そうだ! 指でこすって摩擦熱を発生させたとか?」

入間ジョーンズ:「あのボンドのべたつき加減では指でこするのは難しいでしょう…」

山村巴:「……………」

小清水彌生:「この議論で何も見えてこないのなら、今一度校則をじっくり読み返す必要があるわね」

入間ジョーンズ:「………??」

 

「小清水さん、君の言うとおりだ」

 

【提示コトダマ:粉入り袋とビニール袋

 手作り感のある布袋。外側にはぬめりのようなものが付着しており、袋の中には土と黒い粉が大量に入っていた。技術室のゴミ箱の中に何個か捨てられていた。

 また、チャック付きのビニール袋も一緒に捨てられていた。こちらは倉庫にあったもののようだ。

 

 

「やっぱり犯人は、摩擦ではなく”熱のある物体”を使うことでモノボンドを溶かし、技術室に入ったんだ。それが技術室に落ちていた正体不明の布袋なんだ」

「でもよ…」

「うん。確かに校則で『()()()()()()()()()()()()()()()()()()』は禁じられている。でも、この文章をもう一度見てみてほしいんだ」

 電子生徒手帳を開きながら俺は全員に自分の理解を伝えていく。

「この校則は、”温度の高いものを部屋から廊下に持ち出す”という行為のみを縛っている。つまり、廊下に温度の高いものが存在すること自体を縛っているわけじゃないんだ」

「……? どういうことかさっぱり分かりません!」

「つまり、部屋から廊下に持ち出した時点では熱くないけど、廊下に移された後に熱くなるものを用意すれば、この校則を突破できるってことさ。そうだよね、モノクマ?」

『日本語ってムズカシイネ! 正解だよ、葛西君! 基本的に校則は書いてある通りの効力しか持たないから、書いてある通りのタブーを犯さない限りは罰せられることはないんだよ! まあこれは以前犯人の人に質問されて答えたことだけどね!』

「えっ!? さっき誰も自分に質問はしなかったって言ってた気が……」

『人の、じゃなくてクマの言葉を勝手に拡大解釈しないでほしいな! 『温度の高いものを廊下に持ち出す許可やそれに関する相談を求めに来た生徒』は一人もいないって言ったけど、『校則に関して質問をした生徒』がいないなんてボクは一言も言ってないからね! あー日本語ってムズカシイムズカシイ!』

 わざとらしくそう言って胡坐をかくモノクマ。

 

「時間差で熱くなるもの、といえばアレが思い浮かびますが…」

 そんなモノクマをよそに一人考え込む入間君。

「そんなものはこの校舎内に存在しなかったと思いますが…」

「まずは結論を出そう。”時間差で熱くなるもの”というのが一体何なのか」

 入間君の問いに答えるのは後回しにして、俺は全員の顔を一瞥する。

 

 校則の穴をかいくぐってモノボンドを溶かすことができた物体。

 自分のタイミングで温度をあげられ、しかも風呂のお湯よりも高い温度にできるもの。

 そして、技術室で見つけたあの布袋の正体。

 

 閃いた言葉を再び脳内で形に置き換え、成形していく。

 

 

『使い捨てカイロ』

 

 

「犯人………もとい伊丹さんが使ったのは使い捨てカイロだよ。アレなら任意のタイミングで温度をあげられて、しかもかなりの熱量が見込める」

 俺の言葉に入間君がうなずく。

「技術室の布袋の中に入っていた黒い粉は、カイロの中で酸化反応を起こした酸化鉄だったんだよ。そして、袋の外側に付着していたぬめりは、溶けたモノボンドだったんだよ」

「やはりそうなりますよね。私もそう思ったのですが、確か記憶が正しければここの倉庫には使い捨てカイロに類するものは置いていなかったのですよ」

 そうだったのか…?

 倉庫は調べる時間もなかったし、普段から出入りする場所でもなかったので見落としていた。

 けれど、問題はない。

「カイロはなくても大丈夫……というより、ない方が自然なんだ」

「……どういうことですか?」

 

「爆弾と同じさ。作ったんだよ、犯人が」

「なるほど…。でもよ、爆弾の方と違ってカイロは材料も作り方も用意されていないんだぞ。そんな状態で作り出すことなんてできるのかよ?」

「あまり専門的な知識が無くても、カイロを作るのは意外と簡単なんだよ。…そうだよね、小清水さん」

 俺がそう言うと、彼女は苛立たし気にため息を吐く。

 …利用するのはお互い様だろ? 

 

「一般的な使い捨てカイロに含まれているのは鉄粉と水、吸収剤の園芸用土、触媒の食塩。食塩水を吸収剤が吸って鉄に酸化を促すことで発熱反応が起きるっていう仕組み。…果たしてそれだけの材料がこの場所にあるの?」

 あるとも。

 ちゃんとそれらの物証は見つけている。

 

【提示コトダマ:植物園倉庫の紛失品

 植物園の倉庫の中は物が散乱しており、誰かが物を漁った後のように思える。

 植物用土の一部とブルーシート、スチール製のバーベキューの網が無くなっていた。

 

「布は倉庫にたくさんある不織布を。食塩は厨房で、水は自室でいくらでも手に入る。大事なのは鉄粉と園芸土だけど…。植物園倉庫を捜査した時にブルーシートと一緒にそれらが無くなっているのを見つけたんだ」

「なるほど! 何の意味もない発見かと思っていましたが、こんなところに繋がってくるわけですね!」

 山村さんがガッツポーズを決める。

「ちょっと待ってくれ。お前らが見つけたのは”バーベキューの網”なんだろ? 網がスチール…つまり鉄だってのは分かるけど、それってただの網であって粉末じゃないよな?」

「きっと網をニッパーで細かくちぎって入れたんでありんすよ!」

「いや、粉末じゃないと表面積が足りなくて急激な酸化反応は起きないはずだぞ。葛西、どうなんだ?」

 前木君はいいことに気づいてくれた。

「そう。このままじゃ鉄粉としてカイロに使うことはできないんだ。だからこそ、伊丹さんはバーベキューの網に加工をしなければいけなかった。その証拠がこれだ」

 

【提示コトダマ:伊丹の個室

 伊丹の個室は整理整頓がされた綺麗な部屋だった。

 モノパンダのヌイグルミやカッター、工具セット、裁縫道具などが置いてあった。

 

 

「俺が最後に捜査した伊丹さんの部屋。そこには、工具セットも置いてあった。そしてその工具セットの中には、金属やすりも入っていたんだ」

「金属やすりなら網を削って粉にできる……ってことか」

 前木君がうつむきながら呟く。

「手織りの布袋に材料をすべて入れて、素早く倉庫から持ってきたビニール袋の中に入れて空気を抜き、袋を縛って密閉する。こうすれば簡易の使い捨てカイロが完成するんだ。あとはそのカイロを廊下に持ち出し、袋を破って発熱反応を起こさせれば……」

「それでモノボンドを溶かせるってことでありんすか…。ホエー…。でもよく溶かしてる時に見つからなかったでありんすね…」

「屋上や図書室はよく行ってたが、二階はあまり行く用事もなかったしな…。夜時間じゃなかったから山村の見回りが無かったし……」

 日中も誰かが見回りをしていれば防げたのだろうかと思うと悔やまれる。

 だけど、起こってしまったことにイフは禁物だ。

 

 

「でもやっぱり、そんなの認められない」

 

 

《前木常夏の反論》

 

 

「前木君……」

 俺の推理に立ちはだかったのは、誰よりも伊丹さんを愛していた彼だった。

「感情論だって言われたらあながち否定はできない。けど……それでも納得できないんだ!!」

 

「いいよ。俺はいくらでも相手になる。例え辛くても真実は一つしかない。ちゃんと話し合って、そして一緒に真実に辿り着こう」

 

 

前木常夏:「伊丹が自殺だっていう推理は一理ある…」

前木常夏:「でも、自殺ならあんな酷い死に方を選ぶはずがないだろ!?」

前木常夏:「自殺なら……何もあんな死に方しなくたって……」

 

「…それは確かにそうかもしれない……。でも、伊丹さんの本心は伊丹さんにしか分からないんだ。そういう方法を選ばなきゃいけない理由があったのかもしれない」

 

 

《発展!》

 

 

前木常夏:「理由…? 理由ってなんだよ」

前木常夏:「逆に俺はこの方法を選んだ理由を聞きたいくらいだよ。だってよ…」

前木常夏:「雷をアテにしたトリックなんて、運任せすぎるじゃねえか!」

前木常夏:「天気が分かってなきゃ、そんなトリックを準備するなんて不可能なんだよ!!」

 

 

「その言葉、斬らせてもらう!」

 

 

【提示コトダマ:ア報知ドリ

 吹屋が売店で入手した怪しい気象予報装置。スイッチを押すとアホウドリ型の人形が今日と明日の天気を読み上げる。 

 モノクマ曰く、的中率は100%。コロシアイ当日の朝から食堂に置かれていた。

 

「天気を事前に知るなんて普通は不可能だ。でも、今に限っては伊丹さんには……いや、俺たち全員にもそれが可能だった。吹屋さんが売店で入手した、”ア報知ドリ”のおかげでね」

「どっひゃー!? あちきが見つけたスーパーアイテムが役に立ったんでありんすか!?」

「ある意味では役に立ったのでしょうか……悪い意味でですが」

「どういう原理かは分からないけど、ア報知ドリは天気を100%言い当てることができるらしくて……。実際にア報知ドリが予報した雷雨は時間もぴったり当たっていた。これまでさんざんモノクマの超技術を目にしてきたし、伊丹さんがこの鳥の情報を信用したのも無理はない」

「では、伊丹様はこの鳥の予報を聞き、雷雨というところからヒントを得てこのトリックを実行したわけですね……」

 前木君は言葉を失っていた。

 

 

「しかし……伊丹様の個室から道具が見つかった以上、それが証拠であると言わざるを得ませんね…。今回の事件、クロは被害者である伊丹様自身だったのですね……」

 入間君の悲痛な声が響く。

「そんな……バカな……あんなに強い目で”生きる”って言ってたのに……。…いや……俺にあいつを攻める資格なんてないよな……。俺も裏切ろうとしてたもんな……」

 ぼそぼそと言葉を並べる前木君の表情もまた悲痛だ。

 

「動機はハッキリしないけど……これから明らかになるかもしれない。とにかく、一度事件の流れを整理しよう。これが―――」

 

「真実の脚本だとでも言うの?」

 

 

「!!」

 

 議論を締めくくろうとしていた俺に突き立てられたのは、小清水さんの言葉だった。

「この事件は伊丹ゆきみによる自殺…? そんな結論で終わらせるつもり?」

「…どうしてですか? 今更何が疑問なのでしょうか?」

 山村さんが怪訝そうな顔をする。

「根拠なんてないわよ。私は何も捜査などしていないのだから」

「……え?」

 あまりにもあっさりとそんなことを言うので、思わず間の抜けた声が出てしまった。

「でも、違和感はあるでしょう? 自殺の保険のためだけにわざわざ手の込んだ爆弾なんて用意するものかしらね?」

「…………」

「そもそも本当に死ぬだけなら、落雷を利用する必要もない。ただフェンスを越えてタワーから落ちればいいだけよ。なのに伊丹ゆきみはなぜあんな手のかかる真似をしたのかしら?」

「伊丹さんが何を考えてたかなんて今更私たちに分かるわけないじゃないですか…! これだけ証拠も揃ってたら、もう自殺以外の可能性なんて考えられますか!?」

「ともちんの言う通りでありんすよ…」

「…………」

 言われてみると……引っかかることが多い。

 でも……これ以上どんな謎が残ってるっていうんだ……?

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

『 屋上で待ってる   死ぬ時は一緒  』

 

 

 

 

 

 

 

『あなた達、どうして!?』

 

 

 

 

 

『お願いだから来ないで!! 私の計画を邪魔しないで!!』

 

 

 

 

 

『私がクロにならなきゃ!!! クロにならなきゃいけないのに!!! あなたがクロになる前に!!!』

 

 

 

 

『でも……”脚本”が……』

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 彼女が死に際に発した数々の言葉……。

 あれはいったい何を意味している??

 

 ひょっとすると、俺は今までとんでもないヒントを見逃していたのかもしれない。

 

 伊丹さんの真意は………。

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

「ユ、ユキマル? どうしたんでありんすか? 具合でも悪いでありんすか?」

 下を向いて考えこんでいた俺に、吹屋さんがそう声をかける。

 俺はこう答えた。

 

議論をやり直そう。……この事件の謎は、まだ終わっていない

 

「終わってないって………つまり伊丹は………」

 

「彼女は自殺を遂げたんじゃない。……殺されたんだ」

「………っ!!!」

 裁判場に衝撃が走る。

 

 恐らくだが、確信が持てた。

 ここまでの流れはクロが導こうとしていた結末。

 伊丹さん自身をクロに仕立て上げ、本人が反論できないのをいいことに裁判の結論を決定づけようとした…。

 だけど、小清水さんが投じた一石がによって、違和感が氷解した。

 

 そして残念だけど………クロの目星もついてしまった。

 おおよそのクロが分かってもほとんど動揺しなくなるなんて……。

 こんな慣れ、感じたくはなかったな。

 

 

「葛西、俺も伊丹の死は自殺じゃないって思いたいよ。……でもさ、ここまで証拠がそろったら、もうそう思うしかないじゃんか…。バカな俺でも、感情論なんて無意味だって今までの裁判で散々思い知らされたんだよ…」

「お二人が伊丹様の死を自殺でないと仰るのなら、それなりの根拠というものを求めざるを得ません。当然、そういった類のものは用意していらっしゃるのでしょうね?」

「ユキマル……。あちきは、最近のゆきみんはどこか思いつめた雰囲気があるって思ってたでありんす。あちきがもっと積極的に声をかければよかったって後悔しかないけど……。ゆきみんは自殺したんでありんしょ…?」

「私はどちらの言い分も尊重します! 尊重しますが……。今の状況では葛西君と小清水さんの言うことを安易に信用するわけには参りません! ごめんなさい!」

 四人は口をそろえて俺達の意見に反対する。

 

「…全員まとめて分からせるしかないようね」

 髪をかき上げてため息を吐く小清水さん。

「そのようだね。…まさか、君と再びこんな風に二人で謎を解き明かすことになるなんてね」

「人間風情がつけ上がらないでほしいわね。せいぜい足は引っ張らないで頂戴」

「よく言うよ。捜査の情報はほとんど何も持ってないくせに……」

 俺は呆れながらも手にしたメモ帳を開く。

 

 真っ二つに割れた裁判場。

 相対するのは、四人の”超高校級”。

 対するこちらは二人。

 だけど、不思議と彼女と背中合わせで戦っている限り、全く負ける気がしない。

 

「始めよう。真実の脚本を、今ここに築き上げる!」

 

 

【議論スクラム開始】

Q.伊丹の死因は自殺なのか、他殺なのか?

前木常夏・入間ジョーンズ・山村巴・吹屋喜咲VS葛西幸彦・小清水彌生

 

山村巴:「もう議論の決着はついていますよ!」

葛西幸彦:「いや、まだ決着はついていない。真のクロとの戦いは続いているんだ」

前木常夏:「伊丹が自殺した証拠はたくさんあるじゃねえか!」

小清水彌生:「でもそれだけで他殺の可能性が排除されたと考えるのは早計ね」

入間ジョーンズ:「では、伊丹様が他殺である根拠があるということですね?」

葛西幸彦:「うん、根拠ならあるよ。だからみんな、もう少しだけ議論に付き合ってほしい!」

吹屋喜咲:「これ以上議論したって時間の無駄でありんすよ!」

小清水彌生:「間違えれば私たち全員が死ぬのよ? 時間なんて気にする必要性を感じないけど」

前木常夏:「……本当に、伊丹は殺されたのか……?」

葛西幸彦:「真実は、まだ議論を続けないと分からない。でも、俺はその可能性の方が高いと思ってる」

山村巴:「ずばり、伊丹さんが他殺であると言える根拠は一体何なのですか!?」

 

 

 俺は小清水さんと目を合わせる。

 彼女は視線で俺に語り掛ける。

 俺は微かに頷き、そして声を張り上げる。

 

「これが俺達の答えだ!」

 

 

【提示コトダマ:謎の紙切れ

 夜時間になる際に見つかった、前木の部屋の扉に挟んであった紙切れ。 

 殴り書きのような文字で『屋上で待ってる  死ぬ時は一緒』と書いてあった。

 

 

 

 

「…前木君。君が犯行現場に駆け付けるきっかけになった出来事を思い出してほしい」

「きっかけ……? この手紙のことか?」

 そう言って前木君はパーカーのポケットから一枚の紙を取り出し、広げる。

 

『屋上で待ってる 死ぬ時は一緒』

 

 そう書かれた手紙だ。

「この手紙が、伊丹さんの行動と矛盾しているんだ」

「矛盾………?」

「自殺をしようとしている人間が、何故わざわざ他人を自分の自殺現場に呼び出すような真似をしたのか。そんな場面に遭遇すれば、君が止めに入ることは容易に予想できるし、実際問題そうなった」

「確かに……」

「しかも、伊丹さん自身にとって俺達三人が屋上に現れたことが予想外だったことが彼女自身の言葉から証明されている」

 

 

 

『あなた達、どうして!?』

 

 

「…あの時、伊丹さんは明らかに驚いた顔で確かにこう言った。自分で呼び出したなら、驚くのは明らかに不自然だ。かといってあの場面で伊丹さんが感情を偽る理由もない」

「…状況のせいで全く気にしている余裕なんてなかったけど……言われてみれば不自然だったな……」

「よく思い出してほしい。あの時の彼女のセリフは、意味深なものばかりだった」

「そういえば、その後にあんなことも言ってましたね……」

 

 

『お願いだから来ないで!! 私の計画を邪魔しないで!!』

 

 

 

「計画、というのは一体何のことだったのでしょうか……」

 山村さんも考えこみながら呟く。

 伊丹さんが何を思い、何を成そうとしていたのか。

 まだ今の段階では全てを暴くことはできない……けど。

「彼女の目的を示すような言葉…。あの時、それらしいものを一度だけ聞いたんだ」

 

 

『私がクロにならなきゃ!!! クロにならなきゃいけないのに!!! あなたがクロになる前に!!!』

 

「そうだ…! あの言葉は一体どういう意味だったんだ……?」

「”クロにならなきゃ”…というのは伊丹様の意志ですか?」

 入間君の言葉に俺は頷く。

「恐らくそうだ。どういう理由かは俺にも分からないけど…。彼女には”どうしてもクロにならなきゃいけない理由”があったんだと思う」

「”あなたがクロになる前に”って言うのは……」

「……‥……」

 急に前木君が下を向く。

 

「…言わなきゃ……ダメだよな……」

「どうしたんですか…? 何かあるんですか?」

「………」

 俺は黙って前木君の様子を見守る。

 

俺は……誰かを殺すかもしれなかった………

「…っはぁ!!??」

 吹屋さんが飛び上がりそうなくらい驚く。

「いや、決定したわけじゃないんだ。ただ、モノクマの動機を真に受けちまって……最低四人は助かるっていうのを考え出したら……それもアリかもしれないって……」

 小清水さんは腕を組んで黙って聞いていた。

「つまりモノクマの罠にまんまとハマりかけたということですか」

 入間君の厳しい言葉を前木君は否定しなかった。

 

「つまり伊丹さんは前木君が人を殺そうとしているのを知っていて、彼がクロになる前に自分がクロになろうと…?」

「だとしたら……伊丹は俺のせいで……」

「いや、ただ単に殺人を止めさせたいなら別の方法があったはずだ。彼女自身にも、”どうしても自分がクロにならなければいけない理由”があったんだ。だから前木君より先に手を打った。そしてその標的は自分自身だった……」

 その理由も、おそらく今回の動機が関わっているのだろう。

 

「……? その論理ですと伊丹様は自殺をしようとしていたということになりますが……?」

「あ~、なんかややこしくなってきたでありんす……」

 考え込む入間君と吹屋さん。

 

 そう。

 そもそも”自殺”か”他殺”かの二者択一を迫られることが間違っているんだ。

 亡くなる直前の彼女の言動には、”自殺を裏付けるもの”と”他殺を裏付けるもの”の双方が存在するのだ。

 この二つを両立させる論理は……。

 

「伊丹さん自身は間違いなく自殺をしようとしていた。でも、他の誰かがそこに介入して、彼女の”計画”を狂わせた。そして最終的には自らの手で伊丹さんを葬り去った……」

 

 

「つまり、この事件は自殺と他殺が複合した複雑な事件だったんだ」

 

 

「そして、俺達が暴くべきクロは……」

 

 

伊丹さんの自殺計画に介入し、彼女を葬り去った真犯人だよ

 

 全員が顔を見合わせる。

 やはりこの中に裏切り者がいる。

 その現実を突きつけられたみんなの表情は、重くならないはずがなかった。

 

 

「なるほど……。やはり、そうなってしまうのですね」

 入間君が残念そうにため息をつく。

「私は…この中にクロがいるなんて思いたくなかったので…伊丹さんの死は自殺だと自分に言い聞かせようとしていました。でも、真実がそうでないのなら…向き合わなきゃダメですよね……!」

 山村さんがそう言って拳を握り締める。

「狙いが外れたクロも相当焦っているはずだ。もう少しでたどり着ける。辛いけど、やるしかない…!」

 

 

 

【ノンストップ議論開始】

 

 

入間ジョーンズ:「真犯人がいるとして…」

入間ジョーンズ:「その目的はなんだったのでしょうか?」

吹屋喜咲:「そりゃもちろん、ゆきみんを殺すことでありんすよ!」

前木常夏:「そんな根本的な話じゃないだろ」

小清水彌生:「この事件のトリックによってどういう事象の発生を期待したのか、ということよ」

山村巴:「爆弾をセットしたのが犯人だとしたら…」

山村巴:「爆殺を狙っていたのでしょうか?」

前木常夏:「確かにそれが自然かもな…」

小清水彌生:「果たして…そんなに単純な話なのかしらね」

 

「山村さん、それは違うと思うよ」

 

【使用コトダマ:屋上のフェンス

 屋上のフェンスは鉄でできているかと思われていたが、実際にはモノクマが用意した特殊な金属だった。

 緩やかにかかる力には強いが、急にかかる力には弱く、破れてしまう。

 なお、フェンスについての情報はほぼ全員が知っていた模様。

 

 

「そもそもあの爆弾は人を殺すほどの威力はないって何度も言われていたじゃないか。たくさん集めて使っても、爆圧は増したけど致命傷を与えるほどではなかった」

 俺が説明すると、山村さんは「確かにそうでしたね!」と手をポンと叩く。

「犯人の狙いは爆発自体による殺害ではなく、爆圧による転落だったんだ。…ある意味では広義の爆殺には含まれるのかもしれないけど…」

「そっか…! 屋上のフェンスは急にかかる衝撃にはめちゃくちゃ弱いってモノクマが言ってたでありんすね!」

「屋上のフェンスのことは全員知っていたようだし、誰が考えついてもおかしくないトリックね」

 誰が考えついても……。

 確かにそうだけど、やはり俺にはあの人が犯人だとしか思えない。

 議論が進めば進むほど、その感情は確信に置き換わっていってしまう。

 

「…じゃあ、伊丹は自殺しようと屋上に来た時、ブルーシートに包まれた爆弾があったのにそれを無視して金属線を巻いたのか?」

 前木君が身を乗り出して問いかけてきた。

「暗いし大雨の中だったので、見えなかったんじゃないでしょうか…? 私は視力が3.0あるので辛うじてブルーシートに気付けましたが、葛西君と前木君は気付かなかったんですもんね?」

「さり気なくすげぇカミングアウトするでありんすね!!!」

「いや、それは”中央塔に近づかずに済むなら”って場合の話だろ? 現実には爆弾につなげられてた金属線も中央塔に巻かれてたんだ、もし伊丹が自分が握る金属線を巻こうとしたなら、爆弾に繋がる金属線の存在に絶対に気付くはずなんだ」

「あれ、確かに……」

 前木君が出した問題によって、吹屋さんと山村さんはだんまりしてしまう。

 

「いや、前木君。伊丹さんは恐らく、死の瞬間まで爆弾の存在には気付かなかった。彼女は屋上に来てから一度も中央塔に近づいていないと思う。彼女が屋上に来てからした行為は、”目の前に置かれている”金属線を握るだけだ」

「…はぁ? それじゃあ、はじめっから金属線が中央塔に巻いてあったみたいじゃないか!」

「巻いてあったんだよ。何故なら、その金属線を巻いたのは伊丹さんじゃなく、真犯人なのだからね」

「えっ!?」

「言い換えてあげるなら、”伊丹ゆきみの自殺計画には協力者がいた。そしてその協力者が伊丹ゆきみを裏切って殺害した”……ということね」

「えっ、犯人はゆきみんの計画を邪魔したんじゃなかったでありんすか?」

「乗っかると見せかけての裏切り……。伊丹は協力しようとした人間に裏切られたんだな」

「そういうことね」

 小清水さん、ナイスだ。

 

 つまりはそういうことだ。

 事件の真犯人は、当初伊丹さんと結託していた。

 しかし、真犯人の裏切りによって悲劇は起きてしまった…。

 

 流れは掴めている。

 犯人はやはり”あの人”しかいない…ように思える。

 だけど……決定的な証拠がない。

 このままでは犯人を当てることはできても、逃げられてしまう。

 どうする………?

 

 

「協力者……ですか。伊丹様と非常に仲良くしていらっしゃった前木さんはともかく、そんな形跡のあった方はおりましたでしょうか……?」

「おい、俺は間違っても……。…いや、そういうのは論理で答えるしかないよな。現に俺と伊丹はそういう関係だったし……疑われるのは当然だ」

「前木君………」

「…………」

 沈黙の走る裁判場。

 そこに――――。

 

「ちょっと待ってください!!!」

 

 

《山村巴の反論》

 

 

「葛西君、やはり私は仲間を疑うことにまだ抵抗があるみたいです」

「山村さん……」

「あなたの論理は筋が通っています。でも、伊丹さんの自殺を止めるどころか協力した挙句に裏切って殺すなど……そんな鬼畜がコロシアイ四回に耐えてきたこの仲間たちの中にいるとは思いたくないんですっ!!」

「あの、あちきはまだ一回…」

 山村さんの言いたいことは分かる。

 けれど、感情に流されちゃダメだ。

 そう、この議論で全ての事実関係に決着をつけよう。

 

「私は、私自身の良心に基づいて最後の抵抗をします。もし、それでも私が間違っているのなら…」

 山村さんの全身を炎のように真っ赤なオーラが纏う。

「全身全霊で論破しに来いやぁぁ!!!!!」

 

 あぁ……何故だろう。

 反論も、提案も、否定も。

 全部俺が書いた筋書きを確かにするために存在しているかのように感じてしまう。

 まるで、全てが思い通りに動いているかのような……。

 きっと、この反論も……

 

山村巴:「伊丹に協力者なんていねぇっ!!!」

山村巴:「この事件は、自殺と他殺が……」

山村巴:「独立して起きたに決まってんだ!!!」

 

葛西幸彦:「いや、ここまでの議論を総括するなら、伊丹さんの自殺には協力者がいたと考える方が自然だ」

 

 

《発展!》

 

山村巴:「そんな酷い奴がいてたまるか!!!」

山村巴:「あまりにも伊丹が報われねーだろーが!!!」

山村巴:「推論だけでやるにはあまりにも非情すぎるんだよ!!」

山村巴:「もし、協力者がいるってんなら……」

山村巴:「その根拠をオレに示せバカヤローッ!!!!」

 

「山村さん、君は……!」

 

 

【使用コトノハ:工具セットと裁縫セット

 男子の部屋の棚の中には工具セット、女子の部屋の棚には裁縫セットが入っていた。

 工具セットには金属やすりやハンマー、裁縫セットには糸や針などが内蔵されていた。

 

 

 そうか。

 根拠をハッキリと聞き出すために、彼女はわざとこんな突っかかり方をしてきたのか。

「…………」

 文字通り燃え尽きてうなだれる山村さんに、俺は心の中で感謝を述べた。

 

「根拠はある。さっき話題に出た、伊丹さんの部屋で見つかった”工具セット”だよ」

「工具セット……」

「みんな、自分の部屋の棚って調べたことある? 全員の部屋の棚の中に”あるもの”が入っていたんだ」

「いや、俺は気にしなかったな……」

「そもそもあちきは毎日居候の身でありんす! ともちんの部屋はモノがなくて広々としてるでありんす!」

「変なカミングアウトしないでください!」

「……誰も棚の中に存在するものについては気付いていないということですね」

「そうか。……実は、”男子の部屋には工具セット、女子の部屋には裁縫セット”が置いてあったみたいなんだ。だろ、モノクマ?」

『そうだよー、ボクがミステリーを盛り上げようとずーっと部屋に置いてたのに、誰も使ってくれないからびっくりだよ! 五回目の事件でギリギリ使ってくれたから安心したよ!』

 久しぶりの発言だからか、張り切り気味に言うモノクマ。

 モノクマの言う言葉に嘘はない。

 

「伊丹ゆきみは工具セットを持っていなかった。にもかかわらずその部屋には工具セットがあった。つまり…」

 

 小清水さんは不敵な笑みを浮かべて核心を語る。

 

 

伊丹ゆきみには、男性の協力者がいた

「………!!!」

 電子生徒手帳がない限り、個室には入れない。

 誰かが生徒手帳を紛失したという話も聞いた記憶はない。

 よって、個室に置いてあった男子の工具セットを女子が入手することは不可能。

 あり得るとすれば、男子が自らの意志で彼女に渡すしかない。

 

 この時点で容疑者は三人に絞られた。

 俺の視点からは二択だ。

 

「なるほど、男性の協力者、ですか…。これは厄介ですね……」

 入間君が顎に手を当てて呟く。

「ですがやはり、私としては伊丹様と日頃より親密にしていた前木さんを疑うしかないのです。積極的に推理を進めてくれた葛西さんが犯人とは思い難いですし……」

「入間……」

「私には分からないのです……。何故、愛する人を裏切ることができたのか。全く理解できませんよ…」

 入間君の語調は次第に強く、それでいてどこか悲しさを帯びていく。

「入間、俺は!」

 

 

「もう、やめにしないか」

 

 俺の言葉が、二人の時間を止めた。

 

 

 

 

「今認めれば……まだ君は仲間として最後の尊厳を保てる……気がする……。できるなら……今のうちに認めてほしい」

「私からもお願いします、前木さ」

 

 

 

 

 

「入間ジョーンズ君」

 

 

 

 

 全ての時が止まる。

 

 

 誰もが息を止める。

 

 

 そんな空間の中で、俺は辛うじて声を出す。

 

 

「犯人は君しか考えられない」

 

 

 言った。

 

 このタイミングしかなかった。

 これ以上は……前木君がもたない。

 

 まだ証拠が掴めていないけど……。

 押し切れるか……?

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

「……………」

 

 

 入間君の形相が、一瞬鬼のように変貌した。

 

「っ!!!!」

 

 

 

「あぁ………そうですね。私も男性ですし、疑うのは当然です。取り乱してはいけませんね。いやぁ、失礼しました!」

 そして、いつものような柔らかな笑顔に戻る。

 だが、俺には十分すぎるほどに伝わった。

 彼という人間が抱える、底知れぬ闇と本性が。

 

「…………」

「では、あなたが私を犯人だと思う根拠を聞かせていただきましょうか。もちろん、あるんですよね?」

 

「……金属線を巻いた位置、だよ」

 

【提示コトダマ:中央塔の感電箇所

 タワー中央塔には電気の通り道がむき出しになっている箇所があり、そこに触れていると感電の恐れがある。

 その箇所は地上から2m以上の高さにあり、背の高い人物が手を伸ばしてようやく届くぐらい。

 

「中央塔の感電箇所は、地面から2m以上の高さがあった。あんなところに金属線を巻くには、かなり背の高い人じゃないといけない」

「確か……ジョーちゃんの身長は180cm…」

「…次点は前木くんの170cm。10cmの差があるんだよ。あの場所に金属線を巻けるのは君しかいない」

「…まさか、その程度の根拠で私を疑うのですか?」

 入間君が呆れたように鼻で笑う。

「背丈の問題など、台か何かを持ってくれば誰だって解決できるでしょう。それとも何か、台を持ってこられない理由があったとでも?」

 …そう、こう切り返せば俺は打つ手がない。

 根拠としては、あまりにも弱い。

 

 でも、彼は犯人なんだ。

 …絶対に……。

 

 ………なんで? 

 なんで俺は彼が犯人だと確信しているんだったっけ?

 あれ?

 

「おい葛西、なんか答えろよ」

 心なしか前木君の語調も強くなる。

「やれやれ、葛西さんはこれまで必死に謎解きを先導してくれていたので犯人ではないと思っていたのですが…。この様子ではそれも怪しいですね」

 勢いに乗って饒舌になる入間君。

「そんな……。葛西君、何か考えがあるんですよね?」

 山村さんが心配そうに俺の顔を覗き込む。

 やはり……今のタイミングでは無理があったのか……。

 

「私は前木常夏が犯人だと思うけどね」

 ふと、しばし黙っていた小清水さんが口を開く。

「私は知っているのよ。あなたと伊丹ゆきみが夜な夜な密会していたことをね」

「ぎょえぇぇ~~~!!?!? みっ……密会!!???」

「バカ!! ただ話をしてただけだよ!!」

「お世辞にも脱出の道が見えたとは言い難い状況下…。伊丹ゆきみはここにいるメンバーを生きて脱出させるために、自殺に見せかけた殺人を前木常夏に依頼した…。こんな筋書きなら十分あり得ると思わない?」

 小清水さんまでそんなことを…。

 クソッ、どうにかして俺の確信をみんなに共有させる手段はないのか。

 何か………。

 

「ま、待ってくれ小清水! 俺は確かに伊丹とは……愛し合う仲だった…。でも、だからこそ、あいつのことは絶対に死なせないって決意したんだ!! 本当だよ!!」

 前木君は目に涙を浮かべて反論する。

「いえいえ、愛し合っているからこそ相手の意を汲んであげたいと思うのが恋人の性です。私も恋人がいるからわかります。しかもそれが結婚を誓った相手となればなおさらじゃありませんか!!」

 ここぞとばかりに入間君がまくし立て……。

 

 

「………え?」

 

 

 ”結婚”…?

 

 

「入間……どうして知ってるんだ……?」

「は? いまさら何を。あなたと伊丹様が恋人同士であることぐらい、対話のプロである私にはすぐに」

そっちじゃなくて!!! 結婚の話だよ!!!

 前木君が怒鳴ると、入間君は肩をすくめて黙り込む。

「俺は……誰にも言ってないぞ……」

「ちょ、ちょっと待って。何の話?」

 理解が追い付かない俺はしどろもどろになりながらも彼に尋ねる。

 

「俺が伊丹に…結婚しようって言った……それだけだよ」

 前木君は涙を拭いながら答える。

 

「まさか前木っちがそんなこと言うなんて……。こんな状況じゃなけりゃ最高のラブロマンスだったでありんす……」

「もちろん私も知りませんでしたよ……。どうして入間君が知っているんですか……?」

「……………」

 入間君は石のように固まっていた。

 

「あなたが伊丹ゆきみと個人的に話をしたから……でしょう?」

 小清水さんが不気味な笑いを浮かべながら語り掛ける。

「被害者と二人きりで合っていたなんて、事件を話し合う上で非常に大事な情報よね。どうして今まで黙っていたのかしら。人に言えないような用事だったから?」

「…………」

「例えば、事件の協力要請とか」

「……………」

 入間君は魂が抜けたかのような表情をしたまま、一言も答えなかった。

 

「君は……このタイミングを待っていたんだね」

 俺の言葉に小清水さんは答えなかった。

 俺がタイミングを掴み損ねて犯人を逃がそうとしたのと対照的に、小清水さんは犯人を追い詰めるための引っ掛け、それを仕掛けるタイミングを見逃さなかった。

 

「入間……ウソだろ? 今まで一緒に仲間として頑張ってきたよな?」

「入間君…。一緒に土門君を問いただしに行った時のあなたは、あんなに頼もしかったじゃないですか! 今更コロシアイなんて……するわけないですよね??」

 二人がそう声をかけると……。

 

「ふふ……失礼しました」

 またもや入間君は優雅な笑みを浮かべたいつもの姿に戻る。

「結婚の話はですね…。深夜に散歩をしていた際にたまたまお二人の声が聞こえたのですよ。盗み聞きしてしまったので言い出すことができなくて……。申し訳ございませんね」

 苦しい言い訳だ。

「場所はどこだ? 俺と伊丹はどこで話していた?」

 すかさず前木君が問うが、入間君は「やめてくださいよ」と一笑に付した。

「そんなの、あなたがウソをつけばいくらでも答えをでっちあげられるでしょう? いくら疑われているからってその質問はさすがに意地悪すぎますよ」

 さらさらと、息をするように言葉を並べ立てる入間君。

 今までのクロとは段違いだ。

 流石、対話の才能を有しているだけある。

「議論をすっかりひっくり返されてしまって私も困惑しているのですよ。本当に疑うべきはまず彼、前木常夏という人物であるはずですよ。そちらを話し合いましょう」

「確かに…。前木っちの疑いも晴らしてからじゃないと先に進めない気が……」

「うう……私はどちらも疑いたくはないのですが……」

 まずい、また向こうのペースに乗せられ始めている。

 何か、何か証拠は……。

 

「犯人探しなんて簡単なことよ」

 議論を遮ったのは、やはり小清水さんだった。

「モノクマに頼んで男子生徒三人の部屋を調べてもらいましょう。そこに工具セットがあればシロよ」

「!!!!!!!!」

 入間君の顔が一瞬で歪む。

 

 そうか、その手があったか。

 工具セットが部屋になければ、その人物は間違いなくクロだ。

 捜査の時にこれが思いついていれば……なんて今は言ってる場合じゃない。

 

「いやいやいや。小清水様、もう捜査時間は終わったのですよ? 今更追加で情報を集めるなど不可能ですよ!」

 そうだ、入間君の言うとおり、今は分が悪い。

 いくらモノクマも、裁判になってから捜査に協力するような真似をするとは思えない。

「そうかしら。なんなら裁判を中断して私が直接調べに行ってあげてもいいわよ。電子生徒手帳を貸してちょうだい」

「何を言っているんですか、小清水様!!? 今は裁判中ですよ!?!? 裁判場の外になど出られるはずがないでしょう!!!」

 はじめは冷静だった入間君の口調も、次第に荒く乱暴になっていく。

「でも、校則には裁判に関する決まりごとはなかったはずよ。理論上は可能なはずだけど?」

「だ・か・ら!!! それを言い出したら何でもアリになるでしょうが!!!! あなたは学級裁判をなんだと思っているんですか!!!?? こっちは命懸けでやってんですよ!!!!!」

『情報は公平に出した方がいいもんねー。いいよー、じゃあボクが個室調べてきてあげる』

「ほらぁ!!! モノクマもそう言ってることですし、え?」

 入間君は玉座を見つめながら硬直した。

 

 それと同時に降りてきたスクリーンには、三対のモノクマが並んでいる。

 

『さあ、今回特命を帯びて思春期真っただ中の男子の個室を探索してきた三体のモノクマ!!! 果たしてそこには、どんなロマンが待っているのか!?』

 

 

「   あ   ぽ   ?」

 

 妙に気の抜けた声が、静まり返った裁判場に響いた。

 

 

『葛西君担当、青モノクマ!! 前木君担当、赤モノクマ! 入間君担当、銀モノクマ! 果たして工具セットを持っていないのはどのモノクマだぁ~!?』

 そして画面が暗転し、マジックショーのようにスポットライトが光る。

 赤と青のモノクマは、それぞれ工具セットを高く掲げていた。

『あぁーっと!! 銀モノクマだけが!! 何も持っていません!!』

 

 銀のモノクマは頭上から降ってきた檻に閉じ込められてしまう。

 映像はそこで途切れた。

 

「勝負あり、かしらね」

 小清水さんが髪をかき上げながら言った。

 

 俺は驚いていた。

 まさかモノクマがあんなことをするなんて。

 

「こん……なの……ムチャクチャ……ダ……」

 小さく呟きながらへたり込む入間君。

「入間君が………? 入間君がどうして……?」

「待ってくれ」

 入間君に詰め寄ろうとする山村さんを押さえたのは前木君だった。

 

「理由を聞くのは後でいい。今やるべきことは……葛西」

「お前がその手で、脚本を完成させることだろ?」

 前木君の重い声が俺の心に響く。

 

「分かった……。これで本当に最後だ………」

 

 もう事件なんて起きてほしくない。

 これで本当の最後にしたい。

 

 そんな思いで、俺は事件の真相を語り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

《クライマックス推理  ――真実の脚本――》

 

 

 

 

 

 Act.1

 

 この事件は、計画も含めて全ての事象が今日のうちに起こった、実に急展開なものだった。

 事の始まりは、今回の被害者である伊丹さんがア報知ドリによって今日の天候を知り、落雷を利用した自殺を決意したことだ。

 彼女は自殺する前、とある人物に自らの自殺計画に協力するよう求めた。…その人物こそ今回の事件の真犯人だ。

 真犯人は自らの工具セットを伊丹さんに貸し与えることで、彼女が植物園の道具を使って手製カイロを製作できるよう取り計らった。

 その甲斐あって技術室の扉を開放した伊丹さんは、金属線を加工するためのニッパーをそこで入手した。

 そしてそのまま音楽室へと赴き、工具でピアノ線を加工して部屋で待機した…。嵐が来るのを待つために。

 だけど技術室の扉を開放してしまったのは、この事件の本当の犯人にもチャンスを与えてしまうことに

 なってしまったんだ。

 

 

 Act.2

 

 伊丹さんがピアノ線を加工している間、真犯人は動き出していた。事前に伊丹さんと会話して彼女の行動を知っていた真犯人は、伊丹さんが開けた技術室に侵入し、簡易爆弾の制作に取り掛かった。

 それも、一個じゃなく何個も作ることで、爆風の威力拡大を図ったんだ。

 爆弾にはスイッチがなく、電流が流れると起爆する仕組みになっていた。犯人は、雷をスイッチとして用いるという斬新なアイデアを思いついたんだ。

 その実行のため、犯人は抵抗を繋げて導線や回路が耐えられるレベルにまで電流を落とし、爆弾が機能するように仕掛けた。

 

 

 Act.3

 

 爆弾を完成させた犯人は、それを屋上に仕掛けた。その際、植物園から持ち出したブルーシートを被せることで

 雨風から爆弾を防護するように画策した。

 それと同時に、伊丹さんから受け取ったピアノ線を中央塔にくくり付けるという仕事も果たした。

 「背の高い自分の方が金属線を仕掛けるのには向いている」…などと言いくるめたんだろう。だけど実際の犯人の目的は、金属線よりも爆弾を配置することにあったんだ。

 名目上は伊丹さんの自殺をほう助するという目的で役目を終えた犯人は、雷雨が始まる午後10時をじっと待った。その傍ら、犯人は前木君の部屋の扉に手紙を挟み、伊丹さんのことを察するように仕向けていた。

 

 

 

 Act.4

 

 犯人の思惑通り、伊丹さんは雷で自殺を図るため、10時過ぎに屋上へ出た。そこに、前木君たちが乱入して彼女の自殺は防がれたかのように思えた。でも、実際はそれこそが犯人の狙いだったんだ。

 落雷によって爆弾が爆発し、前木君と伊丹さんはフェンスを越えて吹き飛ばされ、伊丹さんは帰らぬ人となってしまった…。

 全てを終えた犯人は、あたかも悲劇を目の当たりにしたかのようにふるまい、存在しない架空の犯人への怒りを募らせてみせた。

 

 夜時間前だからと油断して俺たちが単独行動している間に迅速に犯行の準備を整え、天候や電気回路を巧みに用いたトリックを披露した犯人……。

 

 

 突発的とは思えないほど用意周到なやり口で俺達を翻弄し、伊丹さんを死に追いやったのは君だったんだね……。

 

”超高校級の翻訳者”、入間ジョーンズ君!!!

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

「…………」

 歯切れの悪い幕切れだった。

 

 

 まだ謎はたくさん残っているし、今回は自分でもよく分からない思考や言動が多かった。

 

 ここまで勝った気がしない裁判は初めてかもしれない…。

 

 

 ……でも。

 

 でも、今は……。

 

 

 

 

 

「………っふ」

 

 

 

「……ふふふ、くくくく……」

 

 

 

「なるほど、負け犬の気持ちは負け犬にならないと分からないものですね!」

 

 

 

 ………?

 

 何故?

 

 何故、笑う?

 

 

「…まあ、実際バレても大丈夫な戦いではあったんですが……せっかくならと思い抵抗させていただきました。仲間が全力で謎を解いてくださったのですから、私も全力で騙しにいかなければ失礼というものですからね! お付き合いいただきありがとうございました」

 

 違う。

 裁判で負けた人間が我に返るなんてありえない。

 彼は一体……??

 

「入間、君……?」

「では、そんな私から一つ提案があるのですが……」

 そう言いながら彼は自分の電子生徒手帳を取り出す。

 

「皆様、今回の動機は覚えていらっしゃいますか?」

 

 

 彼は生徒手帳の画面をこちらに向けた。

 

 

『ナカヨシコヨシ登録者: 小清水彌生、山村巴、吹屋喜咲』

 

 

「………!!!!!」

 

 

 

 


 

 

『なな、なんと! 今コロシアイをして勝った人には……コロシアイメンバーの中から好きな人を最大三人まで選んで一緒に脱出する権利を与えましょう!』

 

 


 

 

 

 動機で流された映像が脳裏をよぎった。

 

「女性ばかりになってしまって申し訳ないのですが―――」

 

 

 

 

 

 

 

「投票、どうします?」

 

 

 

 

 

 悪魔のように歪んだ笑みとともに、彼は告げた。

 

 

 

 

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