エクストラダンガンロンパZ 希望の蔓に絶望の華を   作:江藤えそら

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次の6月6日でエクロンZは五周年を迎えます。
思えばかなり長い旅路です…。


Chapter6 非日常編② 波瀾編

 ◆◆◆

 

 

 

 

 今はもう遠い昔となってしまった、在りし日の記憶が脳裏に浮かぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夢郷君は柔らかな笑みを浮かべて「それで、花嫁と旅行には行ったのかい?」と聞く。

 

「それで、花嫁と旅行には行ったのかい?」

 

 その言葉に対して入間君は一瞬怪訝そうな顔をしつつも「教えませんよ」と笑いながら答えるだろう。

 

「教えませんよ」

 

 そして「花嫁という言い方はやめてください」と付け加えるだろう。

 

「花嫁という言い方はやめてください」

 

 その次は……。

 

 …おや、小清水さんがボクに話しかけてくるみたいだ。

 また自分の研究室にボクを誘いたいのか。

 

「か、葛西君…。あ、あの……もし良かったら……」

 彼女は、虫に触れている俺を見たいようだ。

 しかしにべもなく断ると彼女が傷つく未来が見える。

 だからこちらの選択肢をとろう。

「明日の放課後、でいいかな…? 今日は映画の収録現場に立ち会わなきゃいけなくて…」

 あくまでも延期、そういう意図を見せれば彼女は顔を明るくして俺の両肩を掴む。

 次に出てくるのは、エールの言葉だ。

「本当? 頑張ってね!」

 

 

 

 全部ボクが見通した通りの行動、感情、仕草。

 彼らがすることは全て分かる。

 頭の中に組みあがった脚本をなぞって動いていくのだ。

 

 

 いつからこの能力(ちから)が備わったのかは分からない。

 幼少の頃から、気が付けば周囲の人の”真実の脚本”が見えるようになっていた。

 

 だけど、無条件で誰でも未来を見渡せるわけじゃない。

 

 万有引力の存在を知らなければリンゴが木から落ちることを予想することはできない。

 それと同じように、ボクの能力もまた対象人物への”理解”が必要不可欠だ。

 その人の性格、心理、本性に至るまで、全てを完璧に把握していなければこの”脚本”は正確に機能しない。

 

 

 ボクが数年間共に過ごしてきた同級生たちは、十分にこの条件に当てはまっていた。

 だからこそ、ボクは彼らの全てを見通せる。

 近い時間であれば100%、遠い時間でもほぼ確実に脚本を作れるのだ。

 

 ボクは今までもそうやって”脚本家”の地位を築いてきた。

 脚本の登場人物に近しい人格の人間を見つけて、近付く。

 その人のことを知ることで、その人物にとっての”真実の脚本”を描き出す。

 後はその”真実の脚本”を本来書いている架空の脚本の中の世界でシミュレーションすれば、リアルで臨場感のあるキャラクターの動きが導かれる。

 

 脚本の中のキャラクターの動きは、ボクが考えて”動かしている”のではない。

 キャラクターが”勝手に動く”様子を予測しているに過ぎない。

 つまり、そのキャラクターの行動を決めるのはキャラクター自身であってボクではない。

 

 現実世界でもそうだ。

 ”あの人物がああ動く”ということは予測できても、”あの人物をああいう風に動かしたい”ということを自在に操ることはできない。

 無論、”どういう条件であればどう動くか”を把握するのは容易なので、目的に合わせて周囲の環境を変えればそちらに誘導することはできる。

 

 すなわち、ボクの頭はただの演算装置なのだ。

 与えられた条件から未来を導くのは容易いが、()()()()()()()()を作り出すのは容易ではない。

 

 ボクは脚本家だが、脚本を自分で”作り上げた”ことは一度もなかった。

 ボクはその世界の中で起こる事実を代弁しているに過ぎない。

 

 ボクは脚本を”作るもの”ではなく、”書き上げるもの”でしかないのだ。

 

 

 

 そんなボクが生まれて初めて自分の手で”作りあげよう”とした脚本、それがこのコロシアイなのだ。

 ただ与えられた未来をなぞって書き上げるのではなく、自分の意志をそこに介在させた確固たる”脚本”をボクは作りたかったのだ。

 無論、そんなボクが脚本を作るには”協力者”の存在が必要不可欠だった。

 

 

 だから、ボクは―――――。

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

『おや、感傷に浸っていたらいつの間にか大変なことになっているね』

 

 

 ”奴”の忌々しい言葉などどうでもよかった。

 

 俺はただ混乱していた。

 突然の揺れと爆音、それに続いて床が吹き飛んで火炎が噴き出してくるという不可解な事象。

 今までに起こった事件をも上回る超現実的な事態。

 そんなことが突然起きて、混乱しない方がおかしい。

 

「皆さん!! 大丈夫ですか!?」

 山村さんの叫び声で俺は我に返る。

 

 いつの間にか、俺は裁判場の隅の方に移されていた。

 隣にいた山村さんが疾風のごとき速さで俺を運んでくれたようだ。

「立ち上がらないでください!! 煙を吸います!!」

 山村さんの言葉に従い、俺は床に伏せる。

 

 裁判場はあらゆるところが炎に包まれていた。

 俺達がいる場所にはまだ火が及んでいなかったが、これではいつここも火に巻かれるか分からない。

「キャーー!! 何がどうなってるでありんすか!!!」

 吹屋さんの叫び声が耳に届く。

 そんなこと、こっちが聞きたいくらいだ。

 

『いいねぇ! ここに来てようやくいい感じのクマった顔になってきたじゃない!』

 聞き慣れたダミ声が俺の頭に響き渡る。

 崩れた残骸の上に立ったモノクマが、ポーズをとりながら俺達を嘲笑っていた。

「い、一体何をしたって言うんだ!! 説明しろ!!」

 モノクマの姿をしていても、中身は”奴”。

 俺は怒りをぶつけるようにモノクマに向かってそう怒鳴りつけた。

 

『言ったでしょ? これは君たちへの最後のボーナスなんだよ。裁判場の床の下にとっておきのプレゼントを用意しておいたよ! 爆破したけど』

「意味ないじゃないですか!!」

『”大事な部分”は燃えないようにうま~く調整をしたボクの努力も認めてよね! 裁判場よりも下に階があったなんて意外じゃない? ここにきてまさかの発見じゃない?』

「あ、そういえば……裁判場ってあちき達が行ける中では一番下の階だったでありんすよね……ってそんなこと悠長に言ってる場合じゃないでありんしょ!!!」

 モノクマはこれまで、俺達が裁判をクリアするたびに新しい階を開放していた。

 ある意味、これもその一環と言えなくもないのかもしれないが……。

 一体なぜ、爆破なんてする必要があったんだ?

 

「か、葛西……」

 背後から聞こえたのは、前木君の声。

「前木君? どうした、の…」

 俺は言葉を失った。

 

 少し離れたところの壁にもたれかかって座り込んでいる前木君。

 その脇腹には、裁判台の破片……即ち、鋭く折れた木の棒が突き刺さっていたのだ。

 

「キャァアァァ!!?!?」

 吹屋さんがますますパニックになって叫び声をあげる。

「!! なっ、何か血を止めるものはっ!!」

 俺は周囲を見渡すが、当然医療用具のようなものはここには存在しない。

「ここには何も…! ちょっと待っててください!! 私の服を破ってそれで縛ります!!」

「縛るって言っても…突き刺さってる木を抜かないと傷口を縛ることもできないよ!?」

「でも、引っこ抜いたら出血がもっと激しくなっちゃうでありんしょ…!?」

 確かに刺さっている木を抜けば出血はさらに酷くなるだろう。

 だけど、そうでなくても確実に彼の脇腹からは血が溢れ出ている。

 どうすればいい…?

 

『うぷぷぷぷぷ!! まさかの爆発クリーンヒットしちゃったね! 全く前木君はボクの予想をいつも裏切ってくれるよ! それでこそ”超高校級の幸運”だね!』

 こんな状況の俺達すらも俺達を嘲笑うモノクマ。

 虫唾が走るが、今は怒るよりも彼を助ける方法を考えなければ。

『でも正直、ここで彼が脱落してくれると助かるんだよね! 君は”第五の脚本”でほぼ役目は終えてるし、むしろいない方がイレギュラーが起こりにくくてありがたいし!』

「…………」

 無言でモノクマを睨みつける前木君だが、その顔には汗が浮かび、見るからに苦しそうだ。

 

 俺はエレベーターの方を見る。

 炎上するエレベーターは完全に機能を停止しており、動かないであろうことは一目でわかる。

 つまり、もう個室にも保健室にも戻れないということだ。

 傷を回復するための唯一無二の手法…モノポーションすら封じられてしまった。

 

 そんな俺達をよそにモノクマは驚くべき言葉を発した。

なんなら、今ボクが楽にしてあげてもいいよ? 苦しいでしょ?

「……!!」

 爪をのぞかせたモノクマの目は本気だった。

「そ、そんなバカな…!! 無茶苦茶でありんすよ!!!」

「そうだ……!! お前が勝手に生徒を殺せるなら、今までの裁判は、コロシアイは、一体何だったんだ……!!!?」 

 小清水さんが暴いたルール違反とは比べ物にならない。

 そんな暴挙が許されたら、今までルールに則って俺達にコロシアイをさせた意味なんて…。

 

 俺達の感情は、怒りよりもむしろ唖然と言った方が正しかった。

 だが、モノクマにもう俺達の常識は通じない。

 文字通り独裁者となった”奴”を止められるものはもう誰も…。

 

 いや、一人だけ、”奴”を止められる人がいる。

 

 

 

 山村さんが一人立ち上がり前へ進む。

 

 

 

 

 

「葛西君、吹屋さん……。前木君を頼みます」

 

 正面の敵から目を離さないまま、彼女は穏やかな声でそう言った。

 

 

 

「山村さん!?」

 

 彼女の目もまた、本気だった。

 

 

 

 

 

 待て。

 待ってくれ。

 ダメだ。

 

 

「待って、山村さん!! それだけはダメだ!!!」

 

 一度拳を当てたらもう戻れないんだ。

 君まで失うわけにはいかない。

 

 

「これ以上仲間を失わせるくらいなら……」

 だが、その感情は彼女も同じだった。

「相打ちになってでも止めてみせます」

 もう仲間を死なせたくない。

 その一心で、彼女は赤いオーラを纏う。

 

 そんな覚悟を嘲笑うようにモノクマは肩を震わせて笑う。

 

「セイヤッッ!!!」

 次の瞬間、裁判場全体の空間が僅かに歪んのかと錯覚するほどの衝撃波が伝わってきた。

 直後、花火のような破裂音と共に粉塵が舞う。

 およそ人間の攻撃とは思えないほどの壮絶な殴打だった。

 

 だが気付くとモノクマは山村さんの背後に立っていた。

「!?」

 爪の一撃をすんでのところでかわすと、山村さんは幾度となくモノクマと拳を交わし合う。

『ボクをバカにすんなよ~!! 龍雅君との戦闘データを蓄積した上、あの時は容量の関係で制限していた”才能”もこうやって解放したんだ。戦闘力の劇的な向上と先読み能力を同時に得たボクはもう誰にも止められないだぞよ!!』

 安藤さんの漫画のキャラクターのようなポーズをとりながら自らの実力を語るモノクマ。

「セイッ!!」

 そんなモノクマに山村さんはただ拳で応える。

 

「ユキマル!! 今のうちに何か手を考えないと……」

 炎に包まれた裁判場で両者が戦いを繰り広げる中、吹屋さんが俺の体をゆすりながらそう言った。

 ハッと俺は我に返り、何か手はないか考えこむ。

「待て……手ならある……」

 そう言ったのは、他ならぬ前木君だった。

「小清水…!! 頼む……」

「小清水さん…!?」

 そう言えば、さっきから彼女の姿はない。

 まさかこの爆発で……。

 

「お呼びかしら」

 …などという杞憂を吹き飛ばすかのように、いつの間にか彼女は俺達の目の前に立っていた。

「小清水…”アレ”を…。お前、いつも持ち歩いてるって言ってたよな……?」

 ”アレ”……?

「”アレ”は私にとっても切り札なんだけどね。ここであなたを助けるメリットはあるの?」

 ため息をつきながら小清水さんは言い放つ。

「俺がいなきゃ……黒幕を倒せないんじゃなかったのか……けほっ…」

 前木君の口から血が噴き出す。

 もう時間がない。

「言い合ってる暇はないよ!! 時間は一刻を争うんだ!! 手段があるなら早く彼を助けてくれ!!」

 俺は精一杯の声を振り絞ってそう叫ぶ。

 彼女に縋る形になるのは情けないが、他に方法が見当たらない以上今はこう言うしかない。

「………」

 ようやく小清水さんは自分の懐に手を伸ばす。

 

 

『そうはさせるかーーー!!!』

 

 だが、希望が紡がれたのは一瞬に過ぎなかった。

 先読みの力で俺達の行動も全て”奴”には筒抜けだったんだ。

 山村さんの攻撃の一瞬のスキをついてモノクマは一直線にこちらに向けて飛び掛かってきた。

「!?!?」

 流石の小清水さんもこれは予想外だったのか、その顔が驚愕に染まる。

 

 何故か俺は、モノクマの攻撃を確認する前から動き出していた。

 俺も無意識のうちにモノクマの行動を先読みしていたのかもしれない。

 

 モノクマの爪が小清水さんの体に向けて突き進む。

 時が極限まで圧縮された思考状態の中、俺が出した答えは一つだった。

 

 

 

 

 

 俺は脚本家だ。

 だけど、もう”傍観者”でいるのは嫌だ。

 ”観測者”でいるのは嫌だ。

 

 俺も自分の手で新しい一ページを作りたい。

 

 

 

 

 

「!!!!!!!!」

 

 

 

 

 小清水さんを押しのけた俺の腹に、モノクマの爪が深々と突き刺さった。

 

 

 

 

 肉を裂き、内臓を貫き、骨にまで爪が突き刺さる。

 

 死んだ方がマシじゃないかと思えるくらい、痛い。

 だけど、これでいいんだ。

 

 

 

 やっぱり俺は、君のことが―――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朦朧とする意識の中で、数人の怒鳴り声や叫び声が微かに聞こえる。

 だけど、それらをかき分けてはっきりと聞こえてくる声があった。

 

 

「やっぱり俺は幸運(ラッキー)だ…」

 

 

 

「やれ、小清水。”アレ”を…」

 

 

 

 

 次に聞こえてきたのは、乾いた音。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、誰かの鼓動の音が周期的に聞こえてくる。

 顔と体がとても温かいものに包まれている。

 まるで、赤子の頃に母親の腕の中で寝ているような……。

 

 

 

 腕の中。

 

 

 そう、俺は腕の中にいるんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 小清水さんが左腕でしっかりと俺を抱きかかえていた。

 強く、固く、絶対に離さないという確固たる意志をもってその腕は俺を包み込んでいた。

 

 彼女の体に密着した耳からは、彼女の心臓の鼓動が確かに聞こえてくる。

 とても激しく波打つその鼓動からは、先ほどまでのすました態度とは裏腹に彼女自身が強く動揺していることが読み取れた。

 

 怒りの表情でモノクマを睨む彼女の右手には、小さな拳銃が握られていた。

 銃口から噴き出る僅かな硝煙は、その銃が発砲されたことを如実に示していた。

 

 

 そして彼女の視線の先には、脳天に風穴の空いたモノクマが倒れていた。

 ”奴”が再び動き出すことは、もう二度となかった。

 

 

「やった、みたいだな……」

 

 前木君のかすれた声が頭の中に響き渡る。

 

「やよ様……それは……銃…?」

「いやそれよりも!! 前木君と葛西君が!!」

 体中に小さい切り傷を負って汗だくになった山村さんがこっちに駆け寄るのが見えた。

 

 

 小清水さんは俺を床に寝かせると、今度こそ懐に手を伸ばす。

「…”自分用”にとっておいたんだけどね。まさかこんなところで使う羽目になるとはね。あなた達もあなた達で、こんな万能薬を持ち歩かないなんて馬鹿もいいところだわ」

 彼女が取り出したのは、モノポーションの小瓶だった。

「俺より葛西の方が傷が深い…。葛西の方に多く塗ってくれ…」

 前木君の懇願を聞くまでもなく、小清水さんは腕をまくって俺の腹に指を突っ込む。

「あがっ……!! あぁあっ!!!」

 地獄のような痛みと気持ち悪さで俺は涙を流して呻き苦しむ。

「胃袋に穴が開かなかったことを神に感謝するのね。代わりに膵臓が損傷しているみたいだけど。さて、このポーションは内臓にも効くのかしらね…」

 痛みの後は、冷たいものが腹に入ってくる感触がした。

「だっ、大丈夫なんでありんすか!?」

「こればっかりは小清水さんを信じるしかないですね…。まだ中身は残ってますよね…? 次は前木君を…」

 女性陣の声が脳裏に響く中、俺の意識は遠のいていった。

 

 

 

 

 

 次に意識を取り戻したときには、腹を襲っていた激痛が少しずつ和らぎ始めていた。

「あ…ぅ……」

「葛西君!! 喋れますか!!?」

 山村さんが俺に声をかけながら抱き起こす。

「いき、てる……?」

 俺が最初に発した言葉はそれだった。

 

 記憶が曖昧だ。

 あの瞬間に何が起きたのか、ハッキリと思い出せないけど……。

 俺を固く抱きしめたあのぬくもりだけは確かに覚えている。

 

「ユキマル~~~!!! 生きてるでありんすよ~~~!!!!」

 俺が状況を認識する前に吹屋さんが涙を流しながら俺に抱きついてきた。

「無事そうでよかった…。全く、男二人が女達の手を煩わせちまうなんて情けねえ話だ…」

 そう呼びかけてきたのは、脇腹を押さえながらも自力で立ち上がれるほどに快復した前木君だった。

「傷は……」

「小清水が密かに保健室から持ち出してたモノポーションを使ってくれたんだ。こんなことになるって分かってたら俺も持ってきたんだけどな…」

 やはり、小清水さんが…。

 彼女はどこまでも用意周到だ。

「ですが、拳銃まで持っていたなんてもっと驚きでしたね…。一体あれはどこから…?」

 拳銃…?

 やっぱり、さっき見た光景は夢じゃなかったのか。

 

「…黙ってて悪い。俺も知ったのはつい最近だったんだ。あいつ曰く、あれはリュウの死体のすぐそばに落ちていたものらしいんだ」

 謝罪を交えながら前木君がそう語る。

「…リュウ君の?」

「ああ。なんであんなところにあったかは小清水も分からなかったみたいだが、たぶんリュウがモノクマと戦った時に使ったんじゃないかな…。本来なら即座にモノクマ達に回収されて当然の武器だが、一時的に全滅して余裕がなかったのか、そもそも気付けなかったのか…。瓦礫の中に放置されているのを小清水が見つけて隠してたらしい」

「やよ様…。銃の扱い方まで覚えてるなんていったい何者なんでありんすか……?」

 

 リュウ君が激闘の果てに取り落とした銃が、こんなところで俺達の命を救うなんて。

 彼の身は亡びたが、その執念だけは滅びずに俺達を助けてくれた……のかもしれない。

 だけど、生前の彼が小清水さんを見たら、果たして許せるのだろうか…。

 

「…小清水さんはどこに?」

「葛西君と前木君の手当てを済ませるや否や、爆発で空いた穴から下の階に行っちゃいました…。”もう時間がない”って言って……」

「確かに…。さっきよりは多少火の手は弱まった気はするが、この裁判場…いや、このタワー自体がいつまで持つか分からない。幸い換気設備はまだ生きてるから煙を過剰に吸う心配はなさそうだが、病み上がりの体でどこまで無理がきくかも分からない。早く最終裁判のための情報を集めに行った方がいい」

「モノクマは……”奴”はまだ生きてるのかな…?」

 俺は目の前に倒れるモノクマの死骸に目をやりながら尋ねる。

「生きてるだろ。こんなことで死ぬような奴がここまで大掛かりなことをするとは思えない。奴はきっと、ここで俺達を待ち受けるはずだ。今までと同じように…」

「それよりも、あちき達がモノクマを攻撃したのって校則違反なんじゃないんでありんすか!? もしモノクマが生きてたら、あちき達は…」

「いや、モノクマがあそこまでルール違反した時点で……」と言いかけて俺はハッと口をつぐむ。

 

「そうか…。”奴”があんな不可解な行動をした理由は、恐らく”俺達にも”ルール違反を起こさせることだったんじゃないかな…?」

「…それは、自分が起こしたルール違反を帳消しにするために、ですか?」

「そうかもしれない。といっても、こちら側のルール違反はほとんど強制されたものだから平等とは言い難いけど…。形式だけでもこちら側にルール違反をさせることで、奴は対等な立場で最終裁判に立とうとしているのかもしれない。ついでに言えば、小清水さんが隠し持っていた”最終手段”も明るみに出すことができたし…」

 いきなり前木君や小清水さんを攻撃した理由も、こう考えればある程度納得はできる。

「…でも、結局俺達がやることは変わらないんだろ。最終裁判で全ての謎を解いて、ここを出るっていう目的は」

 前木君の言葉に俺は力強く頷く。

 

「みんな……迷惑をかけてごめん。行こう」

 俺たち全員は裁判場の中心に足を運ぶ。

 そこには、今までに見たこともなかった”最下層”への穴が広がっていた。

 

 

 

 入間君のオシオキと、小清水さんの糾弾と、”奴”の登場。

 そしてこの爆発にモノクマとの激闘…。

 この裁判場に来てから短時間でいろんなことが起きた。

 けれど、それらを顧みる暇もなく俺達は前に進まなきゃいけない。

 

 

 

 最後の戦い、最後の捜査が、今始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

《モノクマ劇場》

 

 

 

 たまにね、初期のモノクマ劇場やモノパンダ劇場を読み返すんだ。

 

 するとやり取りがすごくサムかったりイタかったりして、すごく苦しい気持ちになるんだよ。

 

 

 

 だけど、それも含めてボクだよね。

 

 あの頃のボクがあるから、今のボクがあるんだよね。

 

 だからイタくても最後まで見守ってくれると嬉しいな。

 

 

 

 まあ、初期に読むのやめた人がここを読むことはないんだけどね!

 

 

 




龍雅の存在覚えてた人マジで0人説。

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