エクストラダンガンロンパZ 希望の蔓に絶望の華を   作:江藤えそら

61 / 65
メリークリスマス!皆様はどうお過ごしでしょうか。筆者は2日ともバイト漬けの日々でございます。
そんな中ではありますが、合間の時間を縫って番外編の第二弾を書かせていただきました。
うちの子の平和な姿というのは見慣れないものでしょうが、どうか見守ってやってくれると嬉しいです。



希望の贈り人

 もうすぐクリスマスだ。

 街に遊びに出かけると、色とりどりのイルミネーションが私たちを出迎えてくれる。

 たまに降る雪は、その光景にさらに幻想的な光をもたらす。

 そんな街中を、仲睦まじい男女が歩いている。

 二人とも、輝かしい笑顔だ。

 

 私は一人で歩く。

 特に感慨もない。

 私は一人が好きだ。

 一人でいることに負い目など感じない。

 そんなことに負い目を感じるのは、群れることがステータスだと思っている愚か者の偏見。

 私はそう思っている。

 

 書店に寄った。

 ほしい参考書がある。

 今回の実験に関する詳細がまとめられている書だ。

 

 参考書を買うとき、書店のバイターが私の顔をじっと見ていた。

 私が釣銭に全意識を集中させているとでも思っていたのだろうか。

 下心が見え見えだ。

 気持ちが悪い。

 仲良くなりたいなら声でもかければいいだろうに。

 そんな勇気もなく、ジロジロとこちらを見つめるだけの男など、軟弱もいいところだ。

 私は別に彼と仲良くなろうなどという意欲はないので自分から声などかけない。

 

 

 そして私は学園に戻る。

 もう日はすっかり落ちていた。

 学園にも御大層なイルミネーションがかけられていた。

 こんなものを用意する予算があるなら予備学科などという制度は排除してしまえばいいのだ。

 教育の質は本校とは比べるべくもなく低いのに、ネームバリューのためだけに高額な授業料を搾取するあの学科は大人達のエゴが生んだ箱庭に過ぎない。

 本校に所属する私がこんなことを言っても、予備学科の生徒には嫌味にしか聞こえないのだろうけど。

 

「伊丹、遅かったなぁ!!」

 学園の門をくぐるとすぐに声をかけられた。

 前木常夏―――私たちのクラスの”超高校級の幸運”。

 顔は中性的だけど中身は良くも悪くも男子高校生。

 日常の場面で特に幸運らしいところはなし。

 

 またこんな時間まで外で遊んでいたのね。

「おう伊丹…今日って外出許可出てたっけ?」

「担任に申請して許可をもらってあるわ」

 

 こっちは”超高校級の建築士”―――土門隆信。

 彼は前木君ととても仲がいい。

 明朗快活で運動好きなところも一緒。

 だけど、彼は”男子高校生”と呼ぶにはふさわしくない。

 彼は、言うなれば”大人”―――それも、社会の苦境を乗り越えてきた”頑強な大人”。

 そんな強かさ、温かさ、包容力を感じる。

 この年でそこまでの人格をにおわせる人間はそうそういない。

 そう―――この”希望ヶ峰学園”を除いては。

 

「いいなー。俺も外出てえよー」

 前木君がサッカーボールを蹴りながらつぶやく。

 背後には校内へと引き上げていく他クラスの生徒たちの姿。

 なるほど、放課後に他クラスの有志達を募ってサッカー…というわけね。

 こんな寒さの中大したものだわ。

「あのな、まえなつ。遊びの目的で街なんてそうそう出られるものじゃねえんだぞ」

 土門君はいたって正論で前木君を諭した。

「参考書買いに行くって言って少しだけ遊んでも…」

「いーや、バレる!! ちゃんと成績上げて認めてもらう方がいいに決まってる!!」

「ロマンがねえよそんなの!」

 普段は仲のいい二人だが、こういうところでよくぶつかる。

 端的に言えば、土門君は規則やルールを基本的に遵守する。

 前木君はスリルや破天荒を求める。

 真面目と不真面目の葛藤。

 正義は土門君にあっても、年頃の男子として自然なのは前木君だ。

 こうなると二人のやり取りは終わらない。

 だが、それが不思議と見ていて楽しい。

 

 これだからこの学園は好きだ。

 

「お前この前数学のテスト何点だった、ぁあ!?」

「は、自分がちょっとくらい調子よかったからってなんだよ!!」

 やはり終わりそうにないわね。

 放っておいてもいつか勝手に仲直りするでしょうけど、できれば今この場で亀裂を防いだ方がいいのは確かね。

 何か効率的な言葉は……。

 

「メリークリスマス」

 

 三人の時間が止まった。

 

 頭の中の辞書から、どうしてその言葉が出てきたのか皆目見当もつかなかった。

 しかし、少なくとも二人の言い争いを止めるという意味ではこの言葉は有効に働いた。

 二人は驚いていた。

 二人の頭の中には、今日がクリスマスイブであるという認識すら及んでいなかったのかもしれない。

 二人は今までどんなクリスマスを過ごしてきたのだろう。

 

「………メリー……クリスマス……」

 それだけ言って、土門君はバツが悪そうに校内に戻っていった。

 私も後に続いた。

「ごっ、ごめん!!ごめんごめんごめん!!!」

 少し経って、俯いていた前木君は突然土門君を追いかけ始めた。

「ごめん、ごめんって!! 怒んないで!! 怒んないでよぉ!!」

 そしてその勢いのままに土門君の背中に飛びついた。

 彼は男子高校生らしい一面と、このように寂しがり屋で子供っぽい一面を兼ね備えた不思議な”幸運”だ。

 私はクスリと笑った。

 

 

 校内に入ると、ロビーに大きなクリスマスツリーが飾ってあった。

 イルミネーションにプレゼントを模した飾りに頂部の大きな星。

 これ以上ないくらい典型的なクリスマスツリー。

「あーっ、ゆきみん!! おかえりなりー!」

 クリスマスツリーの陰から飛び出てきたのは、サンタガールの衣装に身を包んだ”超高校級のコスプレイヤー”、津川梁。

 私の最も愛しいクラスメート。

「見て見てー! 他クラスの人とも一緒におっきいクリスマスツリー作ったなりよー!」

 嬉しさにぴょんぴょん跳ねながらリャンは私にそう報告した。

「よく頑張ったわね」

 私はお返しにリャンの小さな頭を何度も撫でた。

 ああ愛しい。孫にしたい。

 

「がはははは!!! 樹液を塗りたくってこの木を虫さんの楽園にしてやるぅぅぅぅぅ!!!」

 狂気的な声を上げて筆のようなもので樹にドロドロの何かを塗り付けているこのマッドサイエンティストは、”超高校級の昆虫学者”、小清水彌生。

 クリスマスツリーをカブトムシの餌場にでもする気かしら。

 季節感もわけが分からないし、寒さで本当に脳をやられているみたいね。

「あぁあぁん!! リャン様のツリーを汚さないでー!!」

「がはははは!!! 集まれ大自然の民達よぉぉぉぉぉ!!!」

 本来なら止めるべきなのだろうけど、リャンの泣き顔が可愛いので少しだけ傍観することにした。

 

 

 マッドサイエンティストにチョップの制裁を下したところで、私は食堂に赴いた。

 …が、今はまだ夕食には少し早い。

「あ、ゆきみんだ。お疲れー。外は楽しかった?」

 先客として食堂にいたこの子は、”超高校級のダンサー”、亞桐莉緒。

 うちのクラスの中では数少ない常識人の一人。

 頭と尻が軽い以外は大して特徴もない普通の女の子ね。

「いや紹介文でディスんなや!!! 尻軽ちゃうわ!!! まだまだこの身は純潔じゃい!!!って何言わせとんねん!!!!」

 そうそう、彼女を語るうえで特筆したいのがこのツッコミ力。

 何しろ地の分にまでツッコむその執念には驚かされるばかりよ。

 一つのセリフで四回ツッコむテンポの良さもさることながら、的確に言葉の節をついてくる攻撃力。

 この子、本当は頭いいんじゃないかしら。

「いやバカが前提みたいに言うなや!!! つかツッコミの解説とかいらんわ!!!」

 まあ、そんなこんなでダンスの基礎を教わったり一緒に遊んだりと、クラスメートの中では十五番目くらいに仲良くさせてもらっているわ。

「ビリじゃねーか!!! ダントツのビリじゃねーか!!! 割とマジで傷つくやつだぞこれ!!!」

 脇で騒ぐ莉緒を尻目に私は、テーブルの隅で黙々と裁縫作業を進める少女に目を向けた。

 

 ”超高校級のエンジニア”―――御堂秋音。

 人づきあいが嫌いな孤高な天才少女。

 だけど、その心のうちは誰よりも暗く、弱く、儚いのを私は知っている。

 秋音は眼鏡をかけて淡々と何かを縫っていた。

 彼女が眼鏡をかけるのは、普段ならよほど大事な勉強の時だけ。

 この作業にはそれと同じくらい大事な意味合いがあるということだろうか…?

「ジロジロ見るな。うっとおしい」

 秋音は短く吐き捨てるように言った。

 この子の喋り方は大体いつもこうだ。

「何を作っているの?」

 しらばっくれても無駄だと判断したのか、チッ、と舌打ちした後、秋音は答えた。

「何かと聞かれれば、靴下だ」

「靴下?」

 そんなはずはない。

 靴下を作るにはあまりにも生地が大きい。

 これでは巨人の靴下だ。

「あーっ、もしかして!」

 声を上げたのは莉緒だ。

「アレっしょ!! サンタさんにプレゼントもらう用の!!」

 

 私は言葉を失った。

 そんなはずがない。

 これがロマンチストの女子高生、とかなら話は別だ。

 だが、私もそうだから気持ちはよくわかるのだが、秋音は数式が好きな徹底したリアリスト。

 現実に存在確率が0に等しいサンタクロースの到来を信じるなど、万が一にもありはしない。

「ああ、サンタクロース用の靴下だ」

 ほらこの通り、秋音がそんなおとぎ話を信じるはずgぅぉぇえええぇえぇえええええ!?????

「へー! 秋音ちゃんも意外とかわいいところあるじゃん!」

「黙れ、貴様ごときに褒められても微塵も愉悦など感じない」

「もう、つれないなー。で、何欲しいの?」

「バカが! 言えるはずなかろう! これは私の胸の中に秘めた秘密事項なのだ!」

 私は口をぽっかりと開けたまま二人の会話を聞いていた。

 まさに茫然自失。

 感情という感情が体からすっぽり抜け落ち、魂のない抜け殻となってただ座りつくしていた。

 それだけの衝撃だったのだ。

 

「な、んで……」

「あ?」

「いるはずのないものを…」

「”いるはずがない”?フン、詭弁だな。”いない”と誰が証明した?」

 秋音の言葉はさらに驚くべきものだった。

「確かに、サンタクロースが”いる”ことを証明する手立ては現時点ではない。だが、それと同様に”いない”ということも証明することはできないのだ。全世界のあらゆる場所を一斉にGPSか何かで調べることができるか? いや、それができたとしても、雪山の洞窟にでもいれば見えはしない。いることの証明ができずとも、いないことの証明ができない限り、いる可能性といない可能性は五分。百歩譲ってソリやトナカイが空を飛ぶという事象が物理的にあり得ないものであっても、”子供にプレゼントを配る老人”自体は存在したところで何もおかしくはあるまい? だから私はサンタクロースが私にプレゼントをくれる可能性を信じる。生まれてこの方クリスマスプレゼントなどもらったことのない私に、一人の老人が善意を及ぼしてくれる可能性を信じている。何か問題でもあるか?」

 

「………」

 そんなものは言葉の綾だ。

 言いようでどうにでもなるじゃないか。

 そう言い返すのは簡単だった。

 だが、この時の私には、ある一つの感情が新しく浮かび上がり始めていた。

 

 ”秋音の希望を奪いたくない”。

 この不器用で歪んでいてとてつもなく哀れな少女が、ようやっと家族以外の”希望”を抱いた。

 それが衝撃であるとともに、とてもとても嬉しかったのだ。

 

「か、感動したよ秋音ちゃん!!」

「触るな、気持ち悪い」

 私はさっきと同じように、莉緒と秋音のやり取りをただ見つめながら茫然と座っていた。

 

 

 夕食後、秋音の個室の前には不格好な大きな靴下がつりさげられた。

 個室が完全施錠されている以上、枕元に置いたのではサンタクロースがプレゼントを置きに来れないという配慮からであった(そもそも部外者が真夜中に学園内に入ること自体が不可能であるという指摘は野暮であるようなので黙認することとした)。

 高校生になってなおサンタの到来を信じる者は秋音をおいてほかになく、部屋の前に靴下を下げたのは秋音ただ一人だった。

 だが、誰も秋音を笑いはしなかった。

 

 

 翌朝、クリスマス当日。

 

 

「おい!!! おい!!!!」

 部屋のドアをたたく音と大声で目が覚めた。

 寝起きのままドアを開けると、顔を真っ赤にした秋音が大きな靴下を抱えて立っていた。

「来たぞ!!! サンタクロースが来たんだ!!! 見ろ!!!こんなにいっぱい!!!」

 子供のようにはしゃぎながら、秋音は満載に詰まった靴下を何度も撫でていた。

「ほら見ろ!!! やっぱりサンタクロースはいたじゃないか!!! いたんだよ!!! これが証明だ!!! はははっ、はははははっ!!!」

 秋音は大口を開けて笑った。

 考えてみると、初めてかもしれない。

 人を見下すあざけりの笑ではなく、心の底から喜んで笑う秋音の姿を見るのは。

 

「はははっ!! ああっ、見ろ!! こんなに暖かいマフラーだ!!」

 靴下の中から出てきた暖色系のマフラーを高くかざしながら、迷うことなくそれを顔に押し付けた。

「ああ、柔らかい! どんな素材なんだ、これは!! こんなものがずっと欲しかったんだ!!」

 だが、靴下の中にマフラーが入っているのは当たり前だ。

 だって、それは昨晩私が編んだ手編みのマフラー。

 それを部屋の前の靴下に投げ込んだだけなのだから。

 だが、秋音はそんなことはみじんも疑いはしない。

 いや、疑わなくていい。

 ほんの僅かでも、この子の希望の邪魔をしたくないのだから。

 

「ん? ははっ、お前、サンタクロースが実在したのがそんなに悔しかったのか? 泣いても無駄だぞ、残念だったな!! はっはっは!!」

「……え?」

 その言葉を聞いて私は、自分の頬に触れた。

 一瞬、身をすくめた。

 びしょびしょに濡れていたのだ。

 考えてみれば、それが当然の反応だったのかもしれない。

 それだけ秋音は私にとって大切な存在なのだから。

 

「…おお! これは! …マスク?」

「え?」

 今度は素で驚きの声が出た。

 秋音が持っていたのは、何かのキャラクターを模したマスク。

 私はこんなものを靴下に入れた記憶はない。

「翻訳書に、漫画の原稿に、工具セット…? 同人誌に哲学書や昆虫図鑑まであるぞ」

 なんということだ!!! 

 みんな私と同じ考えに至ったのだ!!

 そしてどいつもこいつも、私よりはるかに思慮が浅すぎる!!

 こんなにあからさまではバレてしまうじゃないか!!

「ふっ、はははははっ!!! なんて気まぐれなサンタクロースなのだ!! あまり使いそうにないものまでプレゼントしてしまうとはな!!! はっはははははは!!!」

 だが、バレるのではないかという心配は杞憂に終わった。

 ほっと一息。

 

「よし!! 今日は気分がいいから特別に私が朝食を振舞ってやる!! 手伝え伊丹ゆきみ!! 私の指導は厳しいぞ!!」

 秋音は食堂に向かって駆け出した。

「望むところよ!」

 私も、いつになく軽い足取りで走り出していた。

 

 

 

 結局、サンタクロースは実在したということだ。

 この日、私たちは確かにプレゼントを受け取った。

 そう、”希望”という天からのプレゼントを。

 

 

 

 ――――おはよー!!

 ――――おはよーなりー!!

 

 ――――あっ、今日のご飯おいしい!!誰が作ったの?

 ――――な、なんと御堂様が…。うっうっ、わたくし、嬉しくさのあまり涙が…。

 

 ――――まえなつー!! 外出許可もらいにいくぞー!!

 ――――昨日あんなに喧嘩してたのに、ウソみたいね。

 

 ――――せっかくのクリスマスだし、みんなで出かけたいなりね!

 ――――リャン様がそう言うなら吾輩も出陣するぞよ!

 

 ――――御堂さん、そのマフラー似合ってますよ!…いいなあ…

 ――――っち、サンタか何だか知らねーが、俺にもなんかよこせっつの。

 

 ――――あ! 雪だ!

 ――――拙者の出番にござるな! 雪像氷像もお茶の子さいさい!!

 

 ――――葛西君、私最近冬虫夏草にハマってるの!

 ――――それここでカミングアウトする必要ある?

 

 ――――秋音、楽しい?

 ――――た…楽しい……

 

 ――――みんなーっ!! そろそろ写真撮るなりよー!!

 ――――せーのっ!!

 

 

 ――――”メリークリスマス”!!!!

 

 

 

 

 

 

 絶望のコロシアイが始まる二年ほど前の話である。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。