エクストラダンガンロンパZ 希望の蔓に絶望の華を   作:江藤えそら

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七か月ぶりの更新となりました。
最早生存を疑われていたかもしれませんが、この通り生きてます。
四章もちまちまと書き進めているので、近いうちに公開できればな、と考えております。
去年のクリスマスあたりから考えてた番外編です。恋バナです。


ギリギリの恋 前編

 

 ◆◆◆

 

 

 

 同じ学園で一つ屋根の下に暮らしていると、どうしても生まれてしまう―――”恋心”という概念が。

 希望ヶ峰学園75期生の彼らが過ごすこのクラスも例外ではなかった。

 でも、中には、日々自分が抱いている感情が恋なのか恋でないのか、分からないまま毎日を生きる者もいる。

 

 

 その一人が彼女、亞桐莉緒だった。

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

「あいつは絶対夢郷のことが好きなんだよ!!」

 放課後の教室でそう熱弁したのは前木常夏だった。

「だと嬉しいんだがね」と冷静に返すのは、他ならぬ夢郷郷夢本人。

「そうか? いっつも乱暴に扱ってるから嫌いなのかと思ってたが…」

 土門隆信は怪訝そうな顔をした。

「それが”好き”の裏返しなんだよ! なんだかんだいつだって夢郷と絡んでるし、逆にそれ以外の男子と話してるところほとんど見たことないだろ?」

「ははは、どうせならすぐにでもこの胸に飛び込んできてほしいものだが」

「だから俺はさあ、ギリオの心を確かめたいんだよ!」

 夢郷の言葉を完全に無視する形で前木はそう言い放った。

「確かめる? どうやって?」

 

「ズバリ、ドッキリだ!」

「……??」

 土門はますます訝し気な顔をした。

「それは……僕がどこかに転校するとでも言えばいいのかい?」

「いや、そんなんじゃ甘い! 一生の別れくらいじゃないとアイツの本心は聞けないと思うんだ。だから夢郷が病気で死ぬことにする」

「いや無理だろ!!!!!!」

 即座に土門の叫びが炸裂する。

「まあ、普通はどっかで足がついてバレるような嘘だ。けど、ここは恐ろしい才能が集まる希望ヶ峰学園。多少の無理なら可能にできちゃう場所だ。カルテは三ちゃんと伊丹に作らせる。夢郷と昔から親友の入間にも声をかけてみよう」

「なるほど、それは面白そうだね」

 夢郷ニッコリと口角を上げる。

「なんだかなあ…手間暇かけてまで人を騙すなんて性に合わねえな……」

「あのな、土門! ウソにはいいウソと悪いウソがあるんだ。俺は煮え切らないギリオの心をはっきりさせたいんだ。それで夢郷のことが好きなら付き合っちゃえばいいし、ダメなら親友として関わっていけばいい。高校は人生の中で一番青春してる時期なんだぞ! 人の恋路は応援してやるのが友達の義務ってもんだろ!?」

「人の恋バナ大好きなJKかお前は!」

「まあまあ。余興の一つくらいの軽い気持ちでやればいいと思うよ。僕としても楽しそうだしね」

 夢郷が笑みを浮かべて土門をなだめた。

「うーん……。別に止めはしないけどよ…。てか、夢郷自身はアイツのことどう思ってるんだ? 好きなのか?」

「僕かい? 僕はまだ恋愛という概念を探求しきれていないからね…。何とも言えないが…」 

 そして、一呼吸おいてこう答えた。

「まあ、亞桐君の態度次第、かな」

「…悪い奴だな、こいつも」

 土門は呆れたように言った。

 

 

 

 

「もちろん協力するわ」

 話を聞くと、伊丹ゆきみは即座に同意した。

「おーっ、よかった! 正直反対されるんじゃないかと心配してたんだ!」

「だって、恋する莉緒が見れるんでしょう? そんな尊みの塊を私が放っておくと思うの?」

 どこか動機がズレていることを感じながらも、前木はほっと胸をなでおろした。

 

 そして、面倒くさいと嫌がる釜利谷の髪や耳を引っ張って無理やり偽カルテを作らせた。

 

 

 ◆◆◆ 

 

 

 

 翌日。 

 ドッキリ一日目。

 

 

 『STEP1:下校時に吐血』

 

 

 

「起立、礼!」

「さようならー」

 丹沢の合図で担任教師に礼をすると、作戦開始。

 前木をはじめとする数人は素早く別室に移動し、御堂秋音が製作し夢郷のカバンに仕込ませた小型カメラで夢郷の様子を確認する。

 

「全く、こんなくだらないことに私の時間を使わせるとは……」

 舌打ちをしながらぼやく御堂だが、その視線はモニターにくぎ付けである。

 やがて、教室に残る面子は携帯をいじる亞桐と席に座り続ける夢郷、残って本を読んでいる入間(彼も仕掛け人)だけとなった。

「OK夢郷、開始で」

 前木がモニターに呼びかけると、夢郷が片耳に差しているイヤホンを通じて指令が届く。

「さて、僕も宿舎に戻ろうかな…」と夢郷はのっそりと立ち上がった、その時…。

 

「んっ、ゴホッ、ゴホッ!!!! ゴホッゴホッゴホッ!!!」

 わざとらしく大きな咳をした。

 そしてすかさずハンカチで口元を抑え、HR(ホームルーム)の前から口に含んでいた血糊をハンカチに噴き出す。

「…あれ、亞桐のやつ、反応しないな」

 土門が不思議そうに呟く。

「…莉緒、イヤホンしてるみたいよ」と伊丹。

 まさかの事態である。

 だが、これは前木達も想定済み。

 

「おや、夢郷君? どうかしましたか?」

 すかさず入間が立ち上がり、亞桐の前を横切って夢郷に近寄る。

 これに気付いた亞桐はふと顔を上げ、イヤホンを外した。

「あ! 血が出てますよ!? 大丈夫ですか!?」

 入間がただならぬ口調で呼びかける。

 翻訳業を生業としているだけあって見事に感情の入った話し方である。

「え? 何? どうしたの?」

 亞桐もこれにはたまらず声をかけてきた。

 

「いいぞ…! ここで『ウチが保健室に連れていくよ!』とか言えば満点だよな」

 前木がグッと拳を握りながら呟く。

「入間君に任せて帰ったら脈無しってことね」

「そんなつまらん結果は御免だな。やるからには私を楽しませろよ、亞桐莉緒…!」

 

「うわぁ…血出てるじゃん…ちょっとヤバくない…?」

 亞桐は困った表情でおろおろと入間と夢郷を交互に見た。

「こ、こういう場合はどうすればよいのでしょう…?」

 如何にも慌てている風に入間が言った。

 どうするも何も”保健室に連れていく”一択なのだが、その選択は亞桐が自分で導かねば意味がないのだ。

 

「何をやっている…!! 早く夢郷郷夢を連れ出せ…!! そして言え…!! 『君が死んだら、私生きていけないよ』と!!」 

 顔を真っ赤にし、モニターに顔を寄せて誰よりも熱心に御堂は言った。

「御堂……お前って意外とロマンチストなんだな…」

「アッ………ち、違う、そういうのじゃないぞ愚か者!! 恋なんぞにはまっっったく興味はないが‥…その……今度作るロボットの参考にするだけだ!!!」

「どんなロボットだよ」

「(ハア……秋音も莉緒も尊い……)」

 

 モニタールームがざわつく中、亞桐は遂に答えにたどり着いた。

「えーっと、とりあえず保健室…かな?」

「なるほど! では早速」

「いけませんぞーーーー!!!!!」

 嬉しそうに放った入間の言葉は、教室に入ってきた第三者に遮られてしまった。

「た、丹沢さん?」

「「「!!?!?」」」

 予期せぬ登場人物に、モニタールームにも衝撃が走る。

「忘れ物をして戻ってみれば……大切なクラスメートが血を吐いているとは!! これは見過ごせませぬ!! さあ!! 拙者と共に保健室に参りますぞ!!」

 仕掛け人メンバーではなかっただけに、この介入に対する手立ては何もなかった。

「よかったー! ウチ、この後ダンスクール行かなきゃだから保健室にいる時間なくて困ってたんだよね! じゃあ丹沢に任せるわ! 夢郷ー、お大事にねー!」

 そう言って亞桐は荷物をまとめ、駆け抜けるように教室を去っていった。

「………」

 入間は何も言えずあんぐり口を開けて立ち尽くしていた。

「……」

 夢郷も咳をやめて去っていく亞桐の背中を唖然と見つめていた。

「何をしているのです夢郷殿! もしや動けぬのでござるか!? ならば拙者が背負っていきまする!!」

 

「…………」

 あまりの超展開に、モニタールームにも沈黙が走る。

「よし分かった、あのチビメガネはグングニルの刑だ」

「秋音落ち着いて秋音」

 

 

 

 

 

「もっ…申し訳ございませぬ!!! まさかそんな計画が進んでいたなどとはつゆ知らず…」

 事情を知らされると、丹沢は勢いよく頭を下げた。

「よし分かっているようだなチビメガネ。まずはそのおかっぱ頭の断髪式を行う」

「ダメよ秋音。ほら、お手」

「ニャン! って誰がペットじゃぁぁぁぁ!!!!」

「まあ、知らなかったんだからしょうがねえよ。むしろ躊躇いなく友達を助けられるお前は立派だと俺は思うぞ」

 御堂と伊丹のやり取りをよそに土門が丹沢を慰めた。

「うん、まあ俺の筋書きも適当だったしな。駿河のせいじゃないよ。次はもっと完璧に仕切りなおそうぜ!」

 前木が言うと、「もちろん! 次こそは全力で協力させていただきまする!」と丹沢は胸を張った。

「やっぱりクラス全員に声かけた方がいいんじゃないか?」

 と、土門が提案する。

「いや、山村は『乙女心を弄ぶなど言語道断!』って怒りそうだし、安藤と津川は演技が壊滅的に下手くそだし、三ちゃんはもう手伝ってくれなさそうだし……」

「……葛西と小清水は……」

 と言いつつ土門が教室の窓の外を見た。

 

 窓の外では、大きな木の下でゴキブリを手に乗せた小清水がはしゃいでいる。

「見て見て! 新種のクロゴキブリさん!!」

「怖いよぉ~~!!! 近づけないでよぉ~~!!!」

 それを見せつけられる葛西は木の陰に隠れて必死に叫んでいた。

「…まあ、あいつらはそっとしておいてやるか……」

 前木が苦笑しながら言った。

 

 

「…ほう、それは面白そうな計画だな。俺も協力させてもらうぞ。なに、演技には自信がある。任せておけ」

 とりあえず前木達は、話を分かってくれそうと判断したリュウにこのドッキリのことを話し、仕掛け人として参加してもらうこととなった。

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 『SETP2:意味深な会話(挨拶編)』

 

 

 ドッキリ開始から一週間。

 

 

 

「やあ、亞桐君、おはよう。今日も妖艶な肌をしているね」

「おはよー。お前いつも一言多いよな」

 登校時、何気ない朝の挨拶。

 しかし、ここにも前木達が仕組んだアクションがある。

「よし、いいぞ夢郷。”あの話”を切り出してくれ」

 例によって別ルームからの前木の呼びかけをイヤホンで聞き取った夢郷は行動に出る。

 

「……突然だが亞桐君。”死ぬ”とは…どういうことだと思う?」

「…はぁ?」

 英語の単語帳を開きながらも亞桐は眉を上げた。

「なに、またいつものやつ? ウチ、今小テストの勉強で忙しいんだけど」

 亞桐はそっけなくそう答えた。

 

「やっぱり、夢郷っていつも”生きる”とか”死ぬ”とかをあーだこーだ言ってるからなぁ。今更そんな質問したって珍しくないだろ?」

 土門が呆れ気味に前木に言った。

「バーカ。そんなこと俺でも分かってるよ。まあ見てろって」

 しかし前木は満面の笑みでそう返した。

「……?」

 

「ああ…忙しいのは承知している。だが…聞かずにはいられないというか……今のうちしか聞けない、というか…」

 夢郷は語尾を濁しながらそう告げた。

「……え?」

 単語帳を見ていた亞桐は、その夢郷の言葉を受けてすぐに彼の顔を見た。

「…どういう意味? よく分かんないんだけど…」

「……いや、つかぬ事を聞いた。勉強時間を割いてしまって申し訳ない。気にしないでくれ」

 夢郷はそれだけ言って授業の準備に取り掛かってしまった。

 亞桐は何も言えぬまま、ぼうっと夢郷の様子を見つめていた。

 

「嗚呼、莉緒のこの”胸騒ぎ顔”最高。スクショしとこ。ふふふっ、ンフフッ」

「伊丹、笑い方が気持ち悪いぞ」

「それはともかく、今のは確実に亞桐も何かを感じ取ってたみたいだな! この調子でドンドン不穏にしてやるぞー!」

「なんだか趣旨がズレている気もするのですが……」

 前回が前回だっただけに、今回の脈ありそうな反応には仕掛け人たちも胸を躍らせていた。

 

 

 

 その日の体育の授業。

「どうしたんだ、夢郷君。今週はめっきり走れなくなっとるじゃないか」

 体育教師が夢郷の背中をポンポンと叩きながら声をかける。

「申し訳ありません…。少し調子が悪くて…」

 そう返す夢郷の様子を、遠くから亞桐が心配そうに見つめていた。

 もちろん実際は夢郷が体力の低下を演じているだけである。

 

「いいのでござるか…? あんなことをしたら夢郷殿の体育の成績が…」

 ひそひそと心配話をする丹沢。

「いいんだ、駿河。これも夢郷の恋を応援するため。多少の成績なんて気にしちゃいられない。それに俺の成績が下がるわけじゃないし!」

 グッと丹沢にガッツポーズを見せる前木。

「(なかなかの外道にござるぞ前木殿!!)」

 

 

 

 また、古文の授業でも。

「えーと、ここの文の訳を夢郷君お願い」

「…あ、申し訳ありません。考え事をしていてどの部分なのか…」

「おいおい、哲学者だからって授業中に哲学しちゃあ困るよ。授業はちゃんと聞いてくれたまえ」

「申し訳ありません……」

 と、憔悴した表情を見せる夢郷。

 

「普段の授業はちゃんと受ける奴なのに…。やっぱり夢郷、おかしいよ……」

 亞桐がそう呟いたのを、隣の御堂の耳はしっかり捉えていた。

「(ちっ、じれったい。そういうのは本人に面と向かって言ってやればいいものを。早く想いを伝えて、ぎゅっと抱きしめあって…)」

「はい、じゃあ代わりに御堂、訳してくれー」

「ふぇっ!?!? えっと……どこ…でしょうか……」

「お前もかー! どうなってんだこのクラスはー? 真面目に授業受けろよー?」

「(うぐぐぐぐ……なんという屈辱…。こんなくだらない遊びに巻き込まれたばかりに……)」

 

 そんなこんなで、若干数名が成績を犠牲にしつつ、ドッキリ計画は進行しつつあった。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 STEP3:『意味深な会話(女子トーク編)』

 

 

 ドッキリ開始から九日後の放課後。

 

「今日はここまでの成果をいったん確認するために、女子トークで亞桐の気持ちを聞き出すぞ!」

 モニタールームに移った面子に前木が言った。

「なら何故私だけこっちに連れてこられたのだ?」

 御堂が苛立たし気に前木に尋ねる。

「だってお前女子っぽい会話できなさそうだもん!」

「ぶち転がすぞこの茶髪メンヘラ小僧」

「御堂様、落ち着いて落ち着いて」

 いきり立つ御堂を入間が何とか押さえる。

「伊丹殿がおらぬ今、御堂殿を押さえられるのは入間殿だけですからな…。頼りにしていますぞ」

 

 そうこうしているうちに、教室に残った伊丹が口火を切る。

「莉緒、今日はダンススクールはないの?」

「うん、今日は休みだから何しようかなーって思ってる」

 亞桐は携帯をいじりながら答えた。

「じゃあリャン様とお話しようなりー!!」

「わー!! みー様も混ぜてだぞよー!!!」

 そこに、同じく教室に残っていた安藤、津川の女子二人が飛び入り参加する。

 

「なんといっても今回の不安要素はこの二人だよなぁ…」

 土門は頭を抱えながらつぶやいた。

「わがクラスの女子の中でもとびっきりに頭のネジの飛んでいらっしゃるお二人ですからね…。何を言い出すやら分かったものではありません…」

 入間も心配そうにモニターを見つめていた。

「伊丹、その二人に話題を逸らされても頑張って引き戻してくれよ。頭のいいお前ならきっとできるって信じてるぞ!」

 前木がイヤホン越しにそう伝えた。

 

「うふふ、じゃあここでしかできない話をしましょうか。三人は、好きな人とかいる?」

 早速伊丹は攻勢に出る。

「えっ…えぇっ!!??」

 突然の質問に頬を赤らめてのけぞる亞桐。

 女子高生としては至極真っ当な反応なのだが…。

「吾輩は〇ラゴンボール×巻に出てくるフ〇ーザの部下の〇ドリアが好きだぞよ!! あのツンツンした造形と中途半端な実力、小物感たっぷりの佇まいがなんとも…」

「リャン様はね、今流行りのバーチャルゲーマーさんが好きー!!!!」

「好きな人って……そういう意味じゃなくない……??」

 相変わらず発想は常人と少し異なる二人である。

「……莉緒は、いないの?」

 二人の答えに苦笑しながらも、伊丹は亞桐に問いを投げかけた。

「え? ウチ…?」

 モニタールームの面々にも緊張が走る。

 

「……いないよ、好きな人なんて」

 亞桐はそっけなく答えた。

「えー!!! 今のは絶対いる反応だったなり!!」

「いないって! ここの男、馬鹿ばっかりだしさ!」

「莉緒たん、正直になろっ?」

 津川は亞桐に詰め寄り、問いかける。

 

「おおっ!? 意外なところから援護が入ったぞ!?」

 前木が驚きの声をあげる。

 予想がつかぬ展開に、他のメンバーたちも固唾をのんで見守るばかりである。 

 

「…そんなこと言われたって……分かんないよ…」

 亞桐は少し口をとがらせ、頬を赤く染めながらそう答えた。

「人を好きになるって気持ちがどんなものなのかが分かんないんだもん…。好きになりようがないよ」

 顔を赤く染めたまま亞桐はうつむいた。

 

「ウヒヒ……莉緒可愛ぃぃぃん……」

 前木達は、通信機から聞こえてくる伊丹の気持ち悪い呟きにドン引きしていた。

 

「リャン様が思うのはね、”好き”っていうのは、どんな大雨の日でも会いに行きたいって思えたり、どんなに一人になりたいときでもその人とだけは一緒にいたいとか、そういう感情なんだと思うなりよ」

 津川は優しい笑顔を浮かべながら自らの考えを述べた。

「吾輩はたとえマグマが降っててもリャン様に会いに行きたいぞよ!!! だから吾輩と結婚してほしいぞよ!!!」

「ダメ♡ ファンのみんなに怒られちゃうなり♡」

 再びいちゃつき始めた二人をよそに、亞桐は下を向いたままずっと考え込んでいた。

「会いに行きたい……一緒にいたい……そんな人って……」

 

「…莉緒、一つだけ言わせて頂戴」

 いつの間にか我に返っていた伊丹が言った。

「普段一緒に過ごしているクラスメートだって、ある日突然いなくなってしまうかもしれない。もし少しでも自分にとって大切だと思う人がいるのなら、その思いを伝えるのは早い方がいいわ」

「ゆきみん………」

「人生は一度きりなんだから、後悔の無いようにね。じゃあ、私帰るから」

 それだけ言うと伊丹はそそくさと教室を後にした。

 

「リャン様はその百倍みー様のことが好きだもーん!!」

「じゃあ吾輩はその千倍リャン様のことが好きだぞよ!!!」

 謎の言い争いを繰り広げる二人の横で、亞桐はぼんやりと夕焼けを見つめていた。

 

 

 

「よし、いい感じだ……」

 モニターを見て前木が呟く。

「いよいよ大詰めだな」

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 それから約一時間後。

 前木達も解散し、各自の部屋なり部活なりに向かった後のことだった。

 

 

「ったく!! この俺をクソリア充の道楽なんぞに付き合わせやがって……!!」

 釜利谷三瓶は極めて不機嫌に廊下を歩いていた。

「どいつもこいつもやれ青春だの恋バナだの、反吐が出らあ!」

 前木に無理難題を押し付けられ、夢郷の偽のカルテを製作中の彼は今、非常に腹の虫の居所が悪いのである。

 

「…あ、いた!」

「……あ?」

 釜利谷は背後からの声を聞いて振り返った。

「げっ、亞桐………!」

 自分に向かって近づいてくる亞桐の顔を見て、釜利谷はあからさまに嫌そうな顔をした。

 隠し事が下手な自分がドッキリの仕掛け人に向いていないことを彼は熟知しており、それゆえにターゲットである亞桐と直接かかわることはここ一週間避けていたからである。

「ごめん釜利谷…あんたみたいな人じゃないと相談できないようなことがあってさ……」

「な、なんだよ………」

 釜利谷は訝し気に尋ねる。

 大方、数学か物理の問題が分からないとかだろう……と彼はたかをくくっていた。

「………」

 亞桐は恥ずかしそうに少し下を向く。

「…は、早く言えよ……」

 

 

 

「ウチ、夢郷のこと好きかもしれないんだ………」

 

 

 

「…………………………あぽ?」

 

 

 

 

 to be continued...

 

 ◆◆◆

 

 




 ◆次回予告◆


 交錯する希望の高校生たちの思い。

「こんなの嫌だよ……っ!!! 死なないでよっ!!!」

 愛する者の命が空に消えるとき、二人は遂に、愛という言葉の意味を知る―――。

「僕は初めて、人が愛し合う核心に触れられた気がする……」



「へへへ、この女はもらってくぜ!!!」(※変装したリュウ)

「嫌ぁぁぁぁ!! 助けてぇぇぇ!!!」
 
 愛の力は、死という運命すらも乗り越えられるのか―――。

「愛は希望の力! ホープ仮面、参上っ!!!」

「亞桐さん、こいつらは私たちが食い止めます! 早く行ってください!! 夢郷君の体は、もう…!!」

「夢郷…夢郷ーっ!!!」

「彼は最後まで……あなたを愛し続けていたんですよ……」

「嫌だよ……こんなのって………」


『君と出会えてよかった。さようなら、莉緒』


 ―――この夏、全米を震撼させた感動の超大作が幕を開ける。

『ギリギリの恋 後編』 
 近日公開。
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