フォトン・ブレット~白色の光弾~   作:保志白金

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第4話~変身~

「これは、父さんの字!いったい、何が書いてあるっていうんだ?」

 

 父の筆跡であるとすぐさま判断した巧人は両手を震えさせながらも、急ぐようにして手紙の中身を確認する。

 

『巧人。これがお前の手に渡り、そして読んでいるということは、おそらくお前の身に危険が迫っているのだと思う。だから、まずは助かるためにお前がどうしたらいいのかを手短に伝える。巧人自身が仮面ライダーとして戦うんだ』

 

「俺自身が……仮面ライダーとして?なんだよそれ、どういう……」

 

 その手紙の中身は今の危機的状況にある巧人にとって、書いてある文面の意味が半分以上理解できないものだった。しかし、巧人が戸惑っている間にもサイドバッシャーとガストレアの戦闘は繰り広げられており、今度は、サイドバッシャーは掴んだガストレアをそのまま投げ飛ばしていた。それはまるで、巧人に手紙を読ませるため、時間を稼いでいるようにも見えた。

 

 それを見た巧人は、自分の父のことを信じてみようと直感的に思ったのである。

 

「……なんで、こんなものを父さんが持っていたのかわからないけど、今はそんなことで迷っている場合じゃない!」

 

 巧人は覚悟を決め、手紙に書いてある通りに準備を進めていく。まず、巧人は自分の腰にケースに納められていたベルトを巻いて、ビデオカメラらしきものを右腰の空いているジョイントに取り付ける。

 

『ベルトを巻き、ビデオカメラ型のツールを右腰にセットしたら、残ったグリップに特定の言葉を音声入力してから右腰にセットしたそれに刺し込む。手順はそれだけでいい』

 

 巧人は手紙を確実に読み進めていき、ケースに残った最後のものを握り締めていた。そして、目でガストレアを捉えつつ、グリップを自分の口元へと持っていく。その時、なぜなのかはわからないが、巧人の手の震えはいつの間にやら治まっていた。

 

『そして、その言葉は……』

 

「変……身!」

 

『Standing by』

 

 巧人はシンプルなキーワードをそのグリップに吹き込んで、

 

『Complete』

 

 一片の迷いもなく、おもいきり刺し込んだ。そうすると、ベルトからは白いラインが四肢と首元へ伸びていき、巧人の体全身に張り巡らされ、最終的には青白い光がここ一帯を包み込んでいった。それから光が収まるとその場には黒いスーツに橙色のバイザー、そして白いラインが全身を巡っている鎧を纏った戦士。ーー仮面ライダーデルタが立っていた。

 

 デルタに変身した巧人はふと見下ろして、今降っている雨によってできたであろう水溜まりを覗きこむ。そこには鏡のように自分の姿が写されていて、本人はその姿形に驚いている。

 

「写真でも見た通りの仮面ライダーの姿。これが俺……なのか?」

 

 しかし、悠長にしている暇をガストレアが与えてくれるはずもなく、さっきまで戦っていたサイドバッシャーを無視して巧人に向かって跳び掛かってくる。

 

「……ハッ!」

 

 巧人は真下に沈めてその攻撃を回避すると、その不安定な体勢のままガストレアの体にアッパーカットの要領で拳を叩き込む。カウンターをまともに食らったガストレアは体液を体のいたるところから撒き散らしながら後方に吹き飛び、コンクリートの壁に激突した。

 

「……す、すごい。これがベルトの力……」

 

 自分が今やったことをまだ信じられないのか、殴った右拳に目をやり、感嘆の声をあげる。吹き飛ばされたガストレアは少しの間、動きを止めていたが、あの程度の攻撃で絶命するはずもなく、長い8本の脚をピクリと動かし再び行動しだした。

 

「やっぱり、ガストレアはそう簡単に死んではくれないか。……ならやるしかない、かかって来い!」

 

 突進してくるガストレアに対して、巧人は両手の指を開いては閉じてを数回繰り返してから、左腕を前方に伸ばして右腕を胸の前に持ってきていき、さらにそこから体を半身にさせる。その構えは空手の組手で最も一般的なものであり、巧人にとっての一番戦いやすいスタイルであるとも言えるだろう。

 

 さっきと同様、本能的かつ無策で飛び込んでくるガストレアに今度は、横にスライドしてしなやかに避けてから頭部に裏拳を一発打ち込み、ほんの一瞬怯んだところに回し蹴りで追撃する。凄まじい勢いの遠心力を持った鋭い蹴りは、そのガストレアの特徴的な長い脚の関節部を的確に捉えて、そこから確実に破壊した。

 

 しかし、両断したはずの脚は無くなった先っぽの部分を再生でもさせようとするかの如く、露出した筋肉がグズグズと活発的に動き回るのだった。

 

「あの手紙に書いてある通りで、格闘技はあまり効いてない、か。……だったらこれで」

 

 巧人は右腰にマウントしてあるデルタムーバーを右手で抜いて、引き金を引こうとするが、ガストレアもまだまだしぶとく足掻こうとする。高速で回転する車のタイヤをも止めた粘液を再び吐き出したのである。

 

 その粘液はデルタムーバーを抜こうとする直前の右手と地面に接している左足にこびりつき、巧人は動きを封じ込められた。

 

「……チッ!動けよ、動けッ!」

 

 必死に様々な方向に動かして、まずは左足の方から引き抜こうとするが、粘性が非常に強くてびくともしない。そして、巧人がそうこうしている内に、脚を一部欠損させて不安定なバランスながらもガストレアはゆっくりと近づいていく。その場から動くことのできない、そんな巧人の危機を救ったのは、またしてもサイドバッシャーだった。サイドバッシャーは左手のクローから光の弾丸を連射させてガストレアを攻撃。それを受けてガストレアがもがいている間に巧人にこびりついた粘液を狙い撃った。光弾を受けた粘液はほんの数秒足らずで蒸発し、灰塵と化していた。

 

「止めだ。ウォォォッ……オオオオッ!」

 

 体の自由を取り戻した巧人は、ガストレアに肉薄すると、ほぼゼロ距離の状態でデルタムーバーの引き金を連続で引いていく。そして、ガストレアは大量のフォトンブラッドを浴びせられたことにより、原形を一ヶ所も留めることなく灰をその場に積もらせていった。

 

「ありがとうな。助かったよ。……え~と、サイドカー……さん?」

 

 巧人にとっての初めての戦闘が終わり、巧人は仮面の下で安堵の表情を浮かべながら、自分の危機を何度も救ってくれたサイドバッシャーに感謝の言葉を送った。

 

『Vehicle Mode』

 

 すると、サイドバッシャーは元のビークルモードに戻ってから、ヘッドライトを点滅させて巧人の言葉に応じてみせた。

 

 デルタムーバーを腰にあるジョイント部に戻して、持ち手のみを取り外し変身を解除させようとすると、後ろから足音が聞こえてくる。巧人が振り向くと、そこには走ってくる啓太郎の姿があった。啓太郎はなんとも言えない顔を作りながら口を重たそうに開く。

 

「巧人君。……とうとう、変身したんだね」

 

「……啓太郎さん」

 

 知ったような口ぶりの啓太郎。巧人はずっと黙っていたことを責めるわけでもなく、静かにこう紡いだ。

 

「父さんのこと、仮面ライダーのこと、全部知ってるんですね?知っているのなら、全部教えてくれませんか?」

 

 

 

 

 

◼◼◼

 

 

 

 

 

 デルタとして戦っていた巧人の様子を遠くから見ていた者がいた。その者はガストレアを撃滅する目的でここに来たはずの伊熊将監のイニシエーター、千寿夏世だった。

 

「いったい……何者なのでしょう?」

 

 夏世は信じられない光景を目の当たりにして、夢でも見ているかのような錯覚すら覚えた。

 

(そもそも、あの男の人はバラニウム製の武器をひとつも所持していなかった。……でも、どういうカラクリで一瞬の内に装備したのか一切わからない機械の鎧。そして、拳銃から放たれたビームのような弾丸。その二つがガストレアを打倒することのできる秘密なのはたしかのはず)

 

 「無垢の世代」である千寿夏世はいままで生きてきて、白い救世主、もしくは仮面ライダーという単語を一度も聞いたことがない。それは本当に実在したという事実も、いたのではないかという噂のどちらも聞いたことがないのだ。ただ、自分とは明らかに違う圧倒的な力を持っていながら戦闘に関しては全くの素人。それが、夏世が初めてデルタを見て、感じた第一印象だった。

 

(銃の扱いがいくら不得手な人でも、あんなゼロ距離で乱射するなんて……)

 

「おい、こんなところで何やってんだ?」

 

「……ッ!将監さん」

 

 夏世がデルタのことで思考を巡らせている最中、その後ろからようやく合流した将監が声をかけてきた。

 

「その様子じゃあ、ガストレアを殺ったわけでもなさそうだしよ、いったい何を見ていた?」

 

「……ひとつ質問してもいいですか?」

 

「ん?なんだよ突然」

 

「将監さんはバラニウム以外の物質でガストレアの再生を阻害する効果を持つ、というものを聞いたことがありますか?」

 

「……あ?なんだそれ。んなものあるわけねぇだろうが。……ま、仮にそれが本当にあるんだったら俺も見てみてぇよ」

 

「そう、ですか。変なことを聞いてしまったみたいで、すみません」

 

「……?お、おう」

 

 主に訊いてみても都合よく答えが出ることなどはなく、夏世の頭の中では謎が深まるばかりだった。それから、夏世はもう一度巧人がいた辺りの場所をなんとなく覗き込んで見るが既にもぬけの殻で、その場から居なくなってしまったようだった。

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