「さて…東岸の状況ですが」
そう言って東岸の状況整理に入る三上先輩。
「現時点では、三雲隊長と那須隊長の撃ち合いを軸に進んでいます。鈴鳴第一はその撃ち合いのなか那須隊長との距離を詰めている」
「鈴鳴第一は、東岸の膠着状態を見て、空閑隊員がこちらに当分来ないと踏んだんでしょう」
三上先輩の解説に対して、説明を入れる迅さん。
那須先輩が西岸で一人である以上は、那須先輩を狙うのは当然だろう、数で押し切れるというのと、三雲先輩の撃ち合いの隙も狙えるという点もある。
ただ、相手は那須先輩でしかもこの天気。スナイパーは逃げるか、2人体制で相手の出方を見ながら撃つという作戦にするかのどちらかだろう。
後者の方法の場合も密集している以上、那須先輩から見たら狙いやすい。かなり厳しくなるのは明らかだ。
「今回の河川敷MAPは、川による分断だけじゃなくて、スナイパーを上手く活かせないこういう状況で那須単体でも優勢で進められる…という意味もあるわけだ」
「なるほど」
太刀川さんの言葉に頷く三上先輩。
那須隊は全員揃ってこっちで刈り取る予定だったと考えると、恐ろしい。転送位置から考えて2名のエースがいないため、確実に東岸4名は落とされていただろう…今でも東岸は那須先輩優勢だが、1人な分だけ考えてはないものの手はあると思われる。
そう考えると、玉狛の判断は間違えてはいないだろう、空閑先輩がいない分厳しい状況は変わらないとはいえ。
そう、厳しいという状況は変わらないだろう。
「三雲隊長が那須隊長の猛攻に体勢を崩した」
那須先輩のバイパーが三雲先輩を襲う。
那須先輩は、自分の周りに斜めの円軌道のキューブを作るいつものスタイルで三雲先輩との距離を詰めていく。
1つの軌道につき、おそらく40以上のキューブ。
そのうちの4つのキューブを同一の射線選択で放つ。
4つのみならまだ対処ができるが、その4つの組を6組ほど一度に放つ…当然1組ずつ射線が違う。
従って…
「三雲隊長は、どこに目を向ければいいか分からない様子。心なしか足も先ほどより止まってしまっている」
バイパーを目で追って、レイガストのシールドで対処しようとする三雲先輩…那須先輩相手に歩みを遅くすることは禁止事項だ。
射線選択ができる那須先輩に、この動きは落としてくれといってるようなものだ…アステロイドで隙を狙っていたとしても、
「上です」
「三雲隊長が放ったバイパーに気を取られているうちに、バイパーをもう1組放っていた。屋根の上から三雲隊長に降り注ぐ」
僕の言葉に反応し、そう言う三上先輩。
バイパーが下に曲がってくる瞬間に気づいた三雲先輩は右手を挙げて、それを防御…左手にアステロイドを生成してる今防ぐ手段がなくなっている。
「手が塞がっているなか、無慈悲に那須隊長のバイパーが襲う」
三上先輩の解説の通り、4射線4組が三雲先輩を獲りにかかる。
焦ったためか、その場で那須先輩に向けてアステロイドを放ってしまう三雲先輩。
アステロイドとバイパーが当たり、相殺される…ということもなかった。
「アステロイド届かず。予知していたかのように華麗に曲がるバイパー」
那須先輩自身もアステロイドを避けるために動いてはいるものの、放ったバイパー自体はアステロイドに当たることもなく16本のバイパーが三雲先輩に襲い掛かる。
三雲先輩は後ろ向きに防御しながら走っていき、路地を右に曲がっていく。
ただ、前のバイパーだけに気を取られてはならない。
通り過ぎたとしても…
「通り過ぎたと思われたバイパーは後ろから三雲隊長を襲う」
三雲先輩の背中を削りにかかるバイパー…しかしこれは三雲先輩の後方シールド展開で防がれる。
「三雲は、とりあえず今那須が展開してるバイパーをなくす方向に策を変えたんだろうな。攻めようとキューブを生成したところを狙ったほうがいい。そうすれば防御できないしな。空閑の選択肢がない今、隙を作るという選択肢より隙を突く選択肢のほうが取りやすい」
「釣りが使えないから…ということでしょうか」
「そうだな」
ぼんち揚げを食べながら軽く言う太刀川さんに確認をする三上先輩。
那須先輩を獲りにか…
「三雲隊員は、前後のシールドでバイパーを躱しながら、住宅地を曲がっていく。遮蔽物も用いてバイパーを防いでいく」
ただ今、動いてるとこが来馬先輩の近くなんだよね…正確には太一先輩の近くだけど。太一先輩の位置は最初の転送位置から見ておそらく玉狛は把握していないだろう。
でも来馬先輩は最初の転送位置から考えて、雨取さんから視認できた…かな。
「三雲隊長の後を追い、那須隊長も曲がっていく」
そうだすると、今の逃げも狙っている可能性がある…となると鈴鳴第一に那須先輩を鉢合わせることになる。これはこれで釣り、とか?
うーん、那須先輩の攻撃を受けきれてないというのは演技ではない分どこまで考えてるかが掴めない…考え過ぎか、そんな気もしてきた。
とりあえず、確定事項じゃない分ここで発言することじゃないな、うん。
僕が一人でそんなことを考えてるなかでも解説は続いていた。
「三雲隊長を追いかけるように動くバイパー。那須隊長との距離も近くなってきている」
…まあそれにしても、三上先輩もさっき華麗って言っていたけど、那須先輩のバイパーって
「綺麗ですよね」
「え」
「ほう」
「へえ」
…あ。
慌てて咳払いをしてから一言。
「那須先輩の
「…なるほど」
一番始めに反応していた三上先輩が、口元を緩めながら、一応のフォローをしてくれる…一人で考え事をした後の発言を以後は気を付けよう。
次にマイクをわざわざ一旦取って、国近に報告するとこだったと小声で言った後、マイクを再び取りつけ、
「那須のバイパーは、他のシューターと違って毎回弾道をしっかり引いてるからな。あの量のバイパーをリアルタイムで引けるシューターは、ウチの出水と那須と…こいつだけだ」
僕の髪を掻き回しながら言う2度目に反応した太刀川さん。
「さて…那須隊長に距離を詰められる三雲隊員ですが、ここで那須隊長のストックが切れる」
咳払いをして場の空気を変え、再び解説に戻る三上先輩。
その言葉に応じるように迅さんが口を開く。
「この距離なら、別役隊員の射程範囲内です」
「だな。だが…」
太一先輩が銃口を那須先輩に向けるところの映像が映る。
しかし、その弾丸が那須先輩を貫通することはなく避けられる。
そして、
「那須隊長のバイパーが別役隊員を襲う。軽はずみな攻撃にはお仕置きが待っている」
「さっきも言った通り那須はバイパーの射線選択ができる。玉狛がやられたら鈴鳴だから太一の判断も悪くはないけど相手が悪い」
狙撃を受けないよう塀に隠れてバイパーを生成する那須先輩。
数秒後、弾道解析を終えた箇所にバイパーが放ち、太一先輩を狙う…飛び降りた先の来馬先輩のシールドで
戦闘員関連のことは言われてしまったため、オペレーターのことを述べる僕。
「弾道解析は、射撃の方向の解析ですから、素早さと正確性が求められます。戦闘中は様々なデータが飛び交っては消えを繰り返しますから余計に弾道のデータのみを素早く取る必要があります。加えてこの天気ですから、雨という取りたいデータを乱す情報も入ってきます。このなかで弾道のみをこの速さで行うことは凄いですね」
「そうですね」
オペレーターのことに関しては同調という形を取ってくれる三上先輩。
「雨取隊員が那須隊長から逃げるように東岸の下に移動していく」
「先程の那須隊長の動きを警戒してるんですね。東岸の玉狛第二にとってやはり雨取隊員の力は大きい」
雨取さんのアイコンの動きを解説する三上先輩に対して理由を説明する迅さん。
「那須隊長の縦横無尽の攻撃により、東岸の他の隊員は手をこまねいている様子。東岸も西岸と同じく膠着状態か」
現在の状態のまとめに入る三上先輩。
それに対し迅さんが言う。
「どちらも違う側の隊員のことを気にしてるとはいえ、出方を見てる…いや不用意に出れば落ちてしまう状況ですからね。様子を見ながらも大きな動きをしていない。逆に言えば…」
少し溜める迅さん。
「誰かが動いて仕掛けて、その場の均衡が崩れたときにその場が…そして試合が大きく動くでしょう」
西岸の映像が映る。
「西岸の橋に続く道路では、先程と変わらずアタッカー3人が互いの動きを牽制しあっている」
三上先輩は西岸の映像に移ったため、現時点での状況を述べる。
それに対して太刀川さんと迅さんが続ける。
「一がさっき言ったけど、どこにいるかが分からない日浦が生きてる。くまがエース2人に活路を見いだせるとしたらそれだな」
「そうですね。熊谷隊員が逃げるという選択肢を取らないのは、東岸の那須隊長のための足止めもあると思いますが得点も十分に狙えるというのもあるでしょう」
空閑先輩は右手のスコーピオンで村上先輩を狙い、村上先輩はそれをレイガストのシールドで受けながら、弧月で熊谷先輩を突いて下がらせる。
熊谷先輩は村上先輩の弧月を上から抑え、剣先の方向を変えながら余裕を持って後方に下がり、空閑先輩の左のスコーピオンの追撃を捌いていく。
熊谷先輩が劣勢であるのは変わらないが、もう一歩踏み込んでこない分余裕もある。
これも先ほど2人が言ったように日浦先輩の警戒だろう。
踏み込む瞬間は、攻撃体勢の初期動作だ。従って釣りのときを除いて、攻撃をすることしか考えてない。
アタッカーにとってこれ以上の隙もないわけだ。
それに…
「アタッカー3名からは分かりませんが、日浦隊員の現在の銃はライトニングです。万一1発で仕留められない場合でも次の1手が早く撃てます。すぐ仕留めるもよし、アタッカーの次の1手のフォローもよし」
当然、この雨だから当てることより弾数を取ったのもあるだろうけど…。
それに…
「次の1手というのは、こいつら相手だと厳しいだろうな」
当然これには指摘が入るわけで。
「空閑隊員。斬り合いのなかで挟み込まれた」
レイガストのシールドで受け止めたあと、弧月の追撃を受け、右に躱す空閑先輩。
熊谷先輩は、その移動のために足が浮いて身動きが取れないであろう瞬間を弧月で後ろから狙う。
腕からスコーピオンの刃筋を横にする形で発生させた空閑先輩は、上に回転しながら飛び上がり、2人の攻撃を相殺する…予定だったのだろうが右腕が死ぬ。
「ここで、日浦隊員の銃が空閑隊員を狙う」
銃声とともに解説をする三上先輩。
それに対して、先ほどの自分の発言の捕捉を述べる太刀川さん。
「こいつら相手じゃ釣りという戦法が入ってくる。不用意に撃つのはダメだな」
空閑先輩の跳躍は、弾道を超えたため位置の捕捉をされる日浦先輩。
「空閑隊員はグラスホッパーを発生。三つ巴の状況を抜け、日浦隊員の仕留めにかかる」
弾道の方向に向け、グラスホッパーを発生させ急加速する空閑先輩。
日浦先輩への道に足を着いた空閑先輩は、片方の手のシールドを用い、ライトニングの攻撃を防ぎながら近づいていく…このままだと。
「
迅さんが呟く。
それに応じた三上先輩の解説通り、ランク戦には自主
これは文字通り、自発的な
メリットは、言わなくても分かると思う。敵に得点を与えなくて済むということだ。今から迫ってくる相手と自分との力量がある場合、逃げるのも1つの手かもしれない…他の隊員が厳しい状況になるだけだとは思うが。
デメリットとしては、それだ。隊員が1人減ること。このカバーは上手くできることが少ないと個人的には思う。
大体、減っても平気なら人数を多くせずにチームを組んだ方がいい。
数は多ければいいという問題ではない。試行錯誤の結果、上手くかみ合わないのであれば無理に合わせるのは、反対に力を弱くするだけだ。人数多くければその分、失点が増えるって考えもあるだろうし。
原因が火力の場合は、その隊員1人に任せるのが一番いいけど。無理に合わせると、他の戦力をそこに割くことになって、重要な他の場所に戦力割けないし。
ほら、天羽先輩だって1人だったし…あのようなタイプは最終防衛ラインで守ってるのが正しい扱い方なのかもしれない。
…隣の2人もその類に間違いないだろうけど。
そんなことを1人で考えているなか、空閑先輩があと1歩まで近づいていた。
「マンションが崩れた。空閑隊員生き埋めか」
「橋爆破用のメテオラだな。位置が補足されても生き埋めで動けなければ気にせずに撃てる。荒船みたく近づいた後の対策が取れないのであれば、その前に対処するか逃げながらでも撃つかの2択だろうしな」
道路に仕掛けてあったメテオラを撃ったことによる住宅の崩壊を伝える三上先輩の捕捉をする太刀川さん。
生き埋めにするか…生き埋めにする前に崩れていく建物を弧月で木端微塵にされて生き埋めにできなかった人とかいたな、誰とは言わないけど。
その煙幕の中で、空閑先輩の手が見えた日浦先輩がアイビスに持ち変え、手の方向に銃口を向ける。
「仕留めにきましたね」
「そうですね。でも…」
僕の声に反応する迅さん。
「空閑隊員。腕だけを斬り離し囮に使っていた」
あの数秒で、腕を斬り離してコンクリート片に自分の腕をくっつけていた空閑先輩。
そして、日浦先輩の後ろに回り込みながら斬りつける。
『トリオン供給機関破損
最初の1人が落ちる。