戦闘員オペレーターのボーダー記録   作:チビメガネ

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あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。

国近さん回という名のはじめ処刑回です。
一応、次の話の枠組みはできてるので1週間以内にはまたあげられると思います。

国近さんが可愛くできたと思います、たぶん、きっと。


第37話 はじめは、A級オペレーターには敵わない (1)

 

 

  ランク戦後 嵐山隊

「なあ、はじめ。手伝ってくんね? 」

「手伝ったら、木虎先輩に殺されるの僕なんで頑張ってください」

 涙目で書類に向かっている佐鳥先輩に対して、僕は親指を立てて言う。

 

「木虎さん、はじめを貸してください。この量はきついです」

「何言ってるんですか、先輩。二階堂君も含め、綾辻先輩の解説まで全員で事務処理していたのに、先輩が逃げた分きつかったんですよ。だから逃げ出した分以上の仕事をしてください」

 臨時で作られた佐鳥席なるものまで移動して、書類の束を机の上に落とし睨みつける木虎先輩…凄い大きい音したんだけど、一人での処理は厳しくない? 佐鳥先輩も思わず、「げっ」って声漏らしてるし。

 ドンマイです。手伝わないですけど、心の奥では応援してます。口には出さないけど…木虎先輩から仕方ない、あの人怖い。

 

「はじめ、マジで手伝って。木虎にも言って、マジで」

「だからあんな般若が後ろから見えてる人に言えるわけないでしょ」

 ようやく書類を一枚完成させた佐鳥先輩が机に突っ伏しながら言ってくるので、僕は小声で佐鳥先輩にそう返す。

 

 僕は、木虎先輩に聞こえないように言ったつもりではいたのだけど、どうやら聞こえてしまったらしい。だって背後から感じるんだ、命の危機を。

「へえ、どこの誰が般若なのかしら。ねえ…二階堂君」

「ははは、嫌だな。言葉の綾じゃないですか。ねえ、木虎先輩」

 背を向けていた状態から瞬時に向き直り、木虎先輩と戦闘態勢で向かい合う。2歩そして、3歩そのままの体勢で下がる僕。

 気を抜いたら負けだ…相手がもう2歩踏み込めば手刀が飛んでくる。この間合いの感じは、小南先輩のせいけん突きで訓練してきてる。

 似ている点は、僕が悪いという点だ。うん、僕のせいですね。これからは気をつけよう。

 

 木虎先輩が、息を吐く。そして、1歩踏み込んでくる。

「二階堂君。あなた頭悪くないんだから、言葉の綾ってどういう意味か知ってるわよね」

 ひとまず、トリオン体になるか。いや、救援を呼ぶべきか。ここはアフェーとはいえ、嵐山隊の隊室なのだ。救援の仕方はいくらでもある。

 僕は、あちらのソファでどら焼きを両手で持って食べ続けている綾辻先輩に視線を送る。ふふふ…木虎先輩、これで僕の勝ちだ。

 

 どら焼きを皿に置き、お茶を一口含んだ後に綾辻先輩は言う。

「藍ちゃん。二階堂君にはこれからバレンタインの話をしてもらうんだから、いじめちゃダメだよ」

「…はい、そうですね。すいません」

 あの? 木虎先輩。どんだけ嬉しそうな顔してんの。絶対この人この後の話、からかう気満々だよ。とことん言ってあげるわと言わんばかりの様子であちらのソファに座る木虎先輩。

 あちらのソファには綾辻先輩、その右隣には時枝先輩、嵐山先輩と座っており、今左隣に木虎先輩が座ったことで布陣が完成した。これで僕が向かって座れば見事な公開処刑場の完成である…これから昨日の、2月14日の話を先輩達に話すことになっている。なんでオッケーしてしまったんだろうか。

 

  全ては先程のランク戦前の会話で加古さんにいつ籍入れるの? と煽られてしまい、部屋くらいは昨日も上がったことあるし、もうちょっとだからと口が滑ったことが原因だ。それを隣に座っていた綾辻先輩に当然のことではあるが聞かれてしまい、今回の公開処刑が決まったのである。そう僕のせいではない、加古さんのせいである…というか風間さんもなにが、「加古…こいつはまだ籍を入れられる歳じゃない」ですか。呆れたように溜息吐いても口元が上がってるのは、きちんと分かってるんですからね。僕のことからかってるのは理解してるんですからね!!

 

 …今言っても仕方ないな。今も綾辻先輩が期待の眼差しをこちらに向けるし。話さなければこの状況の打破はできない。

  覚悟を決めて、あちらのソファに移動していく。後ろから佐鳥先輩の悲鳴が聞こえるけど、そんなことに構っている場合ではない。これから木虎先輩の、仲がいいのねとニヤニヤして言われたり、綾辻先輩に…何言われるか分からないけどニヤニヤされ、嵐山先輩と時枝先輩に優しい笑顔をされるという休憩時間全てを使った戦場に向かうというのに、佐鳥先輩の屍にまで気を回していられないのだ。今度東先生にツインスナイプ用の訓練ができるように話をしてみますから許してください…まあ無理だろうけど。

 

「えっと、まず数日前に家に来いと言われたんで家に行ったんですよ」

 綾辻先輩の真向かいに座り、数秒おいて口を開く。

 

「そういう日に国近もやるな」

「ですね」

 お茶を飲みながら微笑みながら言う嵐山先輩と時枝先輩。そして…

 

「攻めるね、藍ちゃん」

「そうですね、先輩」

 ニヤニヤしながら次の言葉を待っている女子勢。

 

「俺もからかいたいわ…くっそ」

 あちらの席でのキーボード音を聞きながら、僕は再び話始める。

 

 

  前日 2月14日 国近邸

 

「お、お邪魔します」

「はいはい、入ってー」

 玄関を無事通り過ぎた僕は、そのまま2階に招かれ国近先輩の部屋に入っていく。

 

 まあ、良かったのは、先輩の親がいたのは救われましたね。別に2人きりが良かったわけでは…ないわけではないです、はい。でもほら本当に2人なのはまずいと思うんですよ。太刀川隊室で2人きりになったこともあるけど、ボーダー内だし。いや、まあどの状況の2人きりでも手が出せないヘタレではあるけど、気分が違うじゃないですか?

 ああ、親には当然お邪魔しますという意味の挨拶はしましたよ、ええ。何故かいつものことながら肩叩かれながら、頑張りなさいと親指立てられました…そういうのはせめて先輩が目の前にいないときにやって欲しいです。

 

 まあ、そんなことはひとまず置いておいて、先輩と部屋に行ったわけです。それで…

 

「別に初めて入ったわけじゃないんだし、そんなキョロキョロしなくてもいいんじゃないかな」

「緊張するもんは緊張するんですよ…察してくださいよ」

「女の子に求めるものではないと思うよ」

 仕方ないなー、と笑いながらこたつのスイッチを入れ、こたつに入っていく先輩。

 僕もそれに続いて、部屋の入り口からこたつに移動し入っていく。

 

「さて、今日は14日だね」

「…はい」

 足だけでなく手もこたつに閉まっている先輩が、真正面に座った僕の顔を真っすぐに見てくる。それに対して僕はその視線に耐えられず、先輩の後ろの勉強机のほうに視線を向けてしまう。

 明らかに教科書、参考書よりも携帯型ゲーム機やそれで行うソフトの数の方が多い。少し視線をずらし、机から離すと携帯型ゲームに加え、据え置きゲーム機とソフトが散乱している。机の隣の本棚には攻略本やゲーム雑誌が並べられており、その隣にはその本棚では足りなかったのかゲーム雑誌が積まれている。

 

 やはりいつ来ても思う。

 これは、リアル女子高生の部屋ではなく、ゲームマニ…

「はじめくん…話聞いてる? 」

「あー、はい。今日は14日ですよね」

 僕がどうにか緊張を和らげようと顔を動かさずに、目だけで辺りを見渡していると先輩に笑顔で注意されてしまう…危なかった。もう少しで思考がバレるところだった、あぶない。

 

「ほんとに聞いてた? 」

「ほんとです、もう超聞いてました」

 先輩が眉間にしわを寄せて聞いてくるので、僕は動揺を完璧に隠して先輩の方を見て言い切る。

 

 …ウソです、めっちゃ苦笑いでした。だって仕方なくないじゃないですか?

 好きな人に目の前でゆったとした口調で、今日14日だね…と言われたんだよ。もうその時点で動揺してるし。そこからの挽回は僕としては無理かなーと思いますね、ええ。

 

「ほうほう、聞いてましたか。そうですか…」

「はい、そりゃもう聞いてましたよ」

「ほうほう、そうですか」

 僕がそんなことを思いながら先輩に苦笑いを続けていると、先輩は右手を出して、こたつの上に置いてあった新品であろうふきんを掴んで、僕の顔に当たるか当たらないかの位置で動かしてくる。

 

「じゃあ14日はどんな日かね、はじめくん」

「どんな日ってそりゃあれですよ、あれ…というかそんな話してないでしょ、今」

「しましたよー。やっぱ聞いてないんだ」

 少し身を乗り出して否定する僕に対して、右手のふきんで僕の顔を往復ビンタすることで応戦してくる先輩…うっとうしい、はずかしい、かわいい。

 

「絶対してないです」

「しましたー」

 ふきんによる攻撃を右手で止めて、もう一度宣言する僕…いやだってこういうふうに攻めてくることは僕だって学んでますから。そんなまじまじと見られたって言ってないとは変わらないですよ…あれ何その感じ。なんで、へえそうなの…とか言うんですか。

 あれ本当に言ってた? マジで?

 

「えっと、言ってました? 」

「だから言ったって言ってるでしょ」

 僕が離した右手から落ちたふきんをもう一度取って、ペチペチしてくる先輩。

 

「ほれほれー、言ってみなさい」

「…バレタインですね」

「それはどんな日なのかな。はじめくん」

 先輩は、ふきんを僕の顔から離し、僕の顔の前でふきんだけをクルクルと回しながら追撃をくらわしてくる。

 

「それはあれですよ。チョコ貰う日ですね。そのー…はい」

「誰が誰にあげるのかね」

 ふきんを置き、左手で肘をつき、顎をその手の平に乗っけながら、右手の人差し指をクルクルと回してくる。これは言わせにかかってますね、だってニヤニヤしてますもん。

 その手には乗りませんよ…いや、まあ言えないだけですけど。

 

 この時だって、ブツブツ言いながら、下向いてただけですよ。はいそうですよ、こういう時に言わないからいつまでもからかわれるんです。でも今回は答えなくて正解だったと思うんです。だって…

 

「まあ、そんな話してないから今回は許してあげましょうかねー」

 照れてうつむいてる僕を見て、先輩は嬉しそうにそう言ってたので。

 

 

 

「…という感じですかね。とりあえずは」

 今目の前にいるのは、こういう話が好きなのかニヤニヤしながらどら焼きを食べながら聞いている綾辻先輩…本当に何で僕はこういう話を人にしてんの?

 僕になにか利益はあるんだろうか…左に座ってる木虎先輩なんてうわあって顔してるし。

 

「想像はしていたけど、ここまでくるとバカップルとかそういうレベルじゃないわね。それにデレデレし過ぎよ、もっとしっかりしなさいよ」

「…おっしゃる通りです」

 バカじゃないのと言わんばかりの溜息をつきながら吐き捨てるように言う木虎先輩に対して、僕は手で頭を掻きながら苦笑いをする。

 

 それに…と続けて自分のターンを続けようとする木虎先輩に、綾辻先輩がまあまあと言って木虎先輩の方を向く。

「でも藍ちゃんもとりまるくんが絡むと、そんな感じだよ? 」

「なっ!! 私はそこまでひどくないですよ! 彼と一緒にしないでください」

「えー、どうだかー」

 僕を指差しながら訴えてくる木虎先輩へのイメージの確認を、右を向くことで時枝先輩にする綾辻先輩。

 

「確かに木虎は人のこと言えないかも…」

「ほらね」

 木虎先輩を横目で見ながら湯呑みに口をつける時枝先輩、そしてもう一度木虎先輩の方を向く綾辻先輩。

 

 こういう時は、乗らなければならない…木虎先輩の烏丸先輩関係をいじり始めたんだ。このまま休憩時間を潰せればこの処刑も無かったことにできる。

 

「そうですよ、木虎先輩。先輩が言うことじゃないですよ」

 そう言って、やれやれだぜという感じに両手を動かすと木虎先輩が睨んでくる。

 よし、これで模擬戦に持ち込めれば休憩時間は潰れる…最悪終わった後土下座ですればどうにかなるな。これでこの恥ずかしい会も終わらせることができる。

 

 しかし、僕のこの策は有能オペレーターによって潰される。

「まあまあ、藍ちゃん。落ち着こう…ね」

「まあこれからもっと言えますからね」

「そうそう。そういうこと」

 立ち上がった木虎先輩を座らせた綾辻先輩は、新しいどら焼きに手を伸ばしていく。

 というかさっき宥めたのに何で今は、そうそうと煽ってるんですかね、綾辻先輩…もしかして僕が木虎先輩を動かす策を見破ってて、わざと僕と木虎先輩を動かしたのか。この手札を切らせた上で、木虎先輩の意識を改めて向けさせる。このことによって木虎先輩を挑発することでしか、この報告会をうやむやにすることができない僕に報告以外の選択肢を取らせない。

 流石は、安定と安心のオペレーター…先に倒すべきはこちらだったというわけか。まあ絶対に勝てないけど。いや、だってあの綾辻遥先輩だよ。先輩の凄いところっていったら、まず…いらない? 分かった、また今度語る。

 

「二階堂君、続きどうぞ。嵐山隊4名に語っちゃってください」

 僕が脳内で綾辻先輩の凄いところを語ろうとしていると、木虎先輩を諫めた綾辻先輩が促してくる。

 もういい…どうとでもなれ。相手が烏丸先輩と宇佐美先輩でないなら情報は流れないはずだ、たぶん。

 

「佐鳥もいますよー」

 か細い声が後ろで聞こえた気がするけど、気にせずにもう一度僕は話始める。

 

 

 

「さてっと。チョコをあげる前に一つ頼み事があるんだけど、いい」

「はい、大丈夫です」

「そんな緊張しなくてもいいよ。大したことじゃないんだし…いや私にとっては大事なことかな」

 こたつから出て太ももをポンポンと叩いた国近先輩は、僕にそう言う。

 

 …私にとって、という言い方で騙そうとしているのはすぐに分かりましたよ。いつまでもそういう言い方で騙されて、デレデレしてる僕ではないんですよ…さっきはさっきで今は今です。まあドキッとはしましたけど、仕方ないよね!!

 

 立ち上がって手招きしてくる先輩に、僕は頼み事聞くために近づいていく。

「そういう言い方はずるいと思いますよ」

 …勝ったな。

 

 僕が心の中でガッツポーズをしていると、先輩は下から僕のことを覗きこみながら言ってくる。

「でも、おおっとは思ったんでしょ。ちょっとニヤけてたよ」

「…ノーコメントでお願いします」

「はいはーい」

 顔を横に向けるものの横目で先輩の表情を確認すると、嬉しそうな顔してたので別に負けたけどいいかなと思えました…はいはい、単純で悪かったですね。

 

「じゃあ、はじめくん」

「はい」

 先輩の目線の先には、散乱したゲームソフトの数々。それを見た後に改めてこちらに向き直り、困ったように、はははと笑いながら見てくる。

 

「掃除、一緒にしてくれないかな? 」

「チョコじゃなくてそっちがメイン…とか」

 僕が軽く目を細めて先輩を睨むと、先輩は顔を背けて視線をゲームソフトの山に戻していく。

 

 そして先輩は、その状態のまま小声で呟く。

「…ノーコメントでお願いします」

 今にでも口笛でも吹きそうな先輩を睨みながら、僕は、相当嬉しそうにその言葉に対して、言い放ったのだろう。

 

「はいはーい」

「…何も言い返せないのが辛いね」

 軽く睨まれました。

 

 先輩は僕の後ろでゲームソフトの整理をしている。後ろで、これここにあったんだやりたいなーとか、このゲームやったの何年前だっけやりたいなーとか言い、電源を入れ始めたのを注意しながら僕は机のゲームを片付けていく。

 

「あはは、ごめんねー。つい」

「これ終わったら好きにやっていいですから、もう少し我慢してください」

「了解です」

 ゲーム機をとりあえず机に置き、先輩は再び片付け始める…先輩の片づけが上手くいかない理由の全てを見た気がする。

 

 机に置いて以降ゲームの誘惑に負けなかった先輩は、次々とゲームを片付け始める。先輩のゲームは減ることはなく増える一方であるはずだ。だからもともとあった箱に収められるか不安だったけど、以前太刀川隊室から持ってきたのであろう棚があったのでどうにかなったようだ…おかしい。この棚の大きさから考えて、綺麗に入れても半分も埋まらないと思ったのに、そろそろ棚全てを使い切るぞ。先輩、どんだけ新作買ったんですか。

 

「いやー、新作を見ちゃうと誘惑に負けちゃうんだよね」

「古いのとかを売るとか考えないんですか」

「まだやれるとやっぱり残したくなっちゃうんだよね。それだけではないんだろうけどね」

「それだけじゃない…思い出とかですかね」

「なかなかいいセリフ言うね、はじめくん。そんなもんかな」

 2人して背を向けて片付け続けているなか、先輩が64のソフトを持ちながらそんなことを言っていた。名作だとクリアしたときの達成感が忘れられなかったりするんだよねと続けて言っている先輩。まあ達成感とかあったりすると、たまにやり直したかったりするんだろうな。全ては理解できないけど、きっとそういうことなんだろう。

 

 ほら、僕と師匠…武富先輩が数多のランク戦の解説を収集し語り合い、懲りずに保存用までCDに焼いて、何度もこのランク戦はここが良かったとか数か月前のランク戦も掘り出して聞いているのと似ているのだろう…違いますか? 似てると思うんですけど…はい、違いますね。僕と師匠は単なる変態ですね、はい。

 

「やっぱりはじめくんの言う通り、隊にあった攻略本のゲームここにあったよ」

 先輩は、例の太刀川隊大掃除の際見つけた攻略本を僕に見せながら言ってくる。

 

 唾を飲んで数秒その本を見つめる先輩。その後、意を決したように本を胸に当て、こちらを見てくる。

「はじめくん…PSP貸して」

「ダメに決まってんでしょ」

 やめて、そんな顔しないで。貸してあげたくなっちゃうから。絶対先輩がゲームを始めたら、片付けるの苦労するのは考えなくても分かるし…それに、先輩のゲームしてる嬉しそうな姿を見たら許してしまいそうな自分がいるのも分かるし。やだ、本当に僕って単純。

 

「ちょっとだけだから…ね? 」

「そんな可愛らしく首傾げたって、渡しません」

「可愛い…ねえ」

「と、とりあえず。早く片付けてください」

 つい口が滑って言ってしまった一言を、早口でごまかしながらPSPの安全な場所へ避難させる。次の話題にいかないと、やばいなこれ。

 

「そういえば、この前の今先輩との勉強会はどうだったんですか? 収穫ありました? 」

   勉強机に置いてあったノートを先輩に見せて、話題を逸らすことにする。勉強の話なら無理やりでも逸れるだろう…今回のテストは、響子先生曰くゲームがかかっているみたいだし。

 

「教えるの上手いからね、凄く助かったよ」

 少し睨みながらも僕からノートを受け取った先輩は、ペラペラとめくりながらそう言う。

 

「ほら、見やすいよね。そう思わない? 」

「まあ上層部が選抜した人ですからね、分かりやすい人を選ぶと思いますよ」

「なるほどね」

 今先輩は、あの米屋先輩のテスト勉強付き合ってたことあったからな。赤点を回避したとかどうとかで米屋先輩が自慢してたことを覚えている。

 あの餅…太刀川さん以上の逸材だからな。陽仲間の陽太郎と同じじゃねと思うこともある。緑って英語でイエローって言うんだぜと言われたときはどうしようかと思った。danger(ダンカー)以上の衝撃である。あれ変わらないか?

 どっちもまずいな…。

 

 そんなことを思っていると先輩も僕も片づけが終わったみたいで、こたつで一息つくことにした。

 

 

 

「…という感じですかね。あとは、こたつでボケっとしてただけですかね…丁度休憩時間も終わりそうですし、とりあえずこれ以降の話は次の休憩時間でいいですか」

「今までのことから考えて、そのボケっとしている時間が一番あれじゃない…」

 僕が視線を時計に移しながら言っていうなか、木虎先輩が呆れた声で呟いていた…なんのことでしょう、僕にはよく分かりません。

 

「確かに、そろそろもう一度仕事しないとな」

 嵐山先輩が、僕の言葉を受けてそう言ってくれる。

 

 時刻は7時半過ぎ。この時間から考えると、今日の分の事務処理を終えるのに、1時間位はかかる。今日が土曜日で、この仕事を任されているのがA級部隊とはいえ学生である以上、残業だーと言って、学生が夜遅くまでに残るというのはまずい。従って、万が一早めに仕事が終わったとしたら、家にすぐさま帰るのが普通である…と僕は思う。

 1時間後で、8時半。別に学生とはいえ、大人なんだから別に残ってもよくねとも言う人もいるかもしれない。というかもしかしたら僕が気にし過ぎなだけなのかもしれない。

 

 そこで、借りるのが佐鳥先輩の力である。まだ早いな、話の続きをしようかという流れになった場合に、

 

「僕は佐鳥先輩の仕事の手伝いするんで、先輩たちは帰ってもらっていいですよ…この話の続きはまた今度ってことで」

 と言って帰らせれば、問題ない。後はこのことを忘れるだろう日まで嵐山隊に近づかなければ大丈夫。

 佐鳥先輩の量は、1時間程度の残業コース。佐鳥先輩なら、はじめありがとーと抱きついてくることは分かる。

 

 綾辻先輩にも今思った屁理屈で丸め込めるはず…勝ったな。僕が語りながら考えた作戦に抜かりはないはず…もうこれ以上は話したくない。

 

 時枝先輩も嵐山先輩の言葉に同調し、お茶を飲み干し、僕もそうですねと言って立ち上がろうとする。

 

 そう僕は忘れていたのだ。

 

 佐鳥先輩がどういう人物であるかを。

 そして…綾辻先輩は嵐山隊オペレーターである、つまり嵐山隊のメンバーを一番熟知しているということを。

 

「もう、やだ。疲れた。とりあえず休む」

 後ろで佐鳥席の机をドンと叩いて立ち上がって、こちらに向かってくる。

 

「佐鳥先輩。何してるんですか、ちゃんと逃げた分やってくださいよ」

「ちゃんとやったから!! 俺あの量の3分の2は終わらせたから」

 木虎先輩の言葉に、腕を上下に振りながら文句を言う佐鳥先輩。

 

 俺だってやればできるんですと言いながら、佐鳥先輩は僕の肩に手を置く。

「はーじーめーくーん。俺が仕事でヒーヒー言ってる間、よくもあんな話を語ってくれたな」

 肩に置いた手の力が強くなる…先輩。僕にだけ聞こえる小で俺なんて嵐山隊で唯一ファンクラブないというのにとか言うのやめてください。どういう顔したらいいのか分かんなくなるんで…。

 

「嵐山さん。僕の仕事の効率化のためにもここは皆で聞くというのが、いいと思います。僕もこのスピードなら残業せずに皆と一緒に帰れそうです」

 俺も茶々入れたい、皆だけ不公平だと言い始める佐鳥先輩。

 

「本当に3分の2終わってる」

「木虎、俺を甘く見たな…ふふふ。怒りの成せる業だよ」

 佐鳥席に確認をしに行った木虎先輩がもうちょい渡せば良かったとも言いたげな残念そうな顔を浮かべている。

 

「…なんではじめも残念そうな顔してるの」

「あ…いやなんでもないです」

 時枝先輩が僕の顔を見ながら、新しく注いだお茶を一口飲む。

 

「そうだな…賢も終わりそうなら聞いていいんじゃないか。俺も続きが気になるし」

「流石、嵐山さん。話が分かってる」

 僕の隣に座りながら、お茶を入れる佐鳥先輩。

 

 佐鳥先輩の残業がなくなった今、あの作戦も使えない…というかこの時間で3分の2終わらせたということは、残りの3分の1はすぐ終わる。ということは、僕含め6人で残りの仕事もできるということだ。つまり…休憩時間をもう少し長くできるということ。

 

「さて、二階堂君。嵐山隊5人に語っちゃってください」

 僕のお茶を注ぎながら、綾辻先輩は言ってくる。

 

 …この人に勝てる気がしない、改めて僕はそう思うのだった。

 

 

 

 

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