「や、やめてくれ、い、命だけは」
男の命乞いを無視し、紺色のポンチョを着た男は頭上に剣を振りかぶる。
その剣はとても歪な形をしていた。
先端は尖っていて、その刀身は中央にかけて曲湾状に曲がり、また中央を過ぎると広くなる。
「こ、紺色のポンチョに、魔剣、ブルートザオガー。ま、まさかお前、ラフコフ№2、『吸血鬼』――」
この言葉が、男の最期の言葉だった。
男をポリゴンに変えた、紺色のポンチョを着た男は――
酷く腐った目をしていた――
カルマ回復クエストを終え、俺はホームに帰宅する。
ベッドで横になりながら、ふと今の俺の状況を考える。
レッドギルド・ラフィンコフィンの№2
これが、俺の裏の顔。
攻略組トッププレイヤー。
これが、俺の表の顔。
このことを知っているのはラフコフ上層部と、俺と同じく攻略組に潜入している構成員(系統上は俺の部下)のみだ。
だから顔なじみの攻略組が真剣な顔しながらラフコフ対策を俺に相談したりしてくる。
これが面白くってしょうがない。最近の楽しみはコレと自作したMAXコーヒーと酒を飲むことになるまである。←オイ未成年。
話は変わるが、表の顔と裏の顔を使い分け、かつばれないようにするには二つの秘訣がある。
一つは、徹底した武器の交換。
俺の場合、攻略組として使う武器は伸縮槍、『神鉄如意』だ。
これは26層のLAボーナスで、使用者が望まなければ折れも曲がりもせず、一方使用者が望めば曲がったり、伸びたり、または分裂したりする。魔剣クラスの槍だ。(ただし、代償あり)
この槍を手に入れた瞬間、伸縮槍というスキルが表れたため、おそらくエクストラスキルだろう。伸縮槍手に入れた奴あと一人知ってるし。
そして、ラフコフの仕事で使うのは片手直剣、『吸血鬼(ブルートザオガー)』だ。
これは20層のLAボーナスで、コイツも魔剣クラスだ。
そして、コイツの真骨頂はPKにある(と、俺は勝手に思っている)。
コイツが魔剣クラスである所以は、この剣の能力(といかスキル)にある。
交戦者がこの剣に直接もしくは間接的に触れている時に自身のHPを注ぎ込むとその相手に傷をつけることができる。
その傷の大きさ・深さ・数は注ぎ込むHPの量に依り、大量のHP(高レベルのプレイヤー1人分)を込めれば強力なフロアボスでも一撃で倒すことが可能である(らしい)。
この能力の発動条件は、武器や防具で剣その物を防いでも満たされるため、武具で受ける形での防御は不可能。ただし、剣と剣を掠らせる・いなす・弾くなど、相手にHPを込める間を与えない防ぎ方ならば防ぐことは可能。
基本近接戦闘しかないSAOにとってはかなり有効に使えるものだ。
(因みに、どうやらこれはブルートザオガーを入手した者が手に入れられるユニークスキルのようだ。ただし、ブルートザオガーでしか発動しない)
もう一つは、情報統制だ。
これは簡単に言ってしまえばフレンドは極力作らないことだ。
ラフコフ上層部、攻略組潜入員、アスナ。
これは俺がフレンド登録しているメンバーだ。
ん、何か余計なのが混じってないかって?
実はその通りなのだ。
俺も消したかったのだが、消したらトラウマになるレベルで死ぬほど怒られた。(というか、圏内でソードスキルを大量にくらった)
詳細は割愛させてもらう。今のところは。
攻略も早70層台。
ラフコフの活動も活発になってきてるし、攻略組もラフコフ対策に本腰を入れつつある。
そろそろ、衝突する頃かな。
攻略組に長く籍を置いたため、情が湧いてしまったプレイヤーもいる。
衝突した時、俺はソイツ等を殺せるだろうか。
そのことが、ここ最近の俺の懸念事項となりつつある。
???side
「なあ、アルゴ、“あのプレイヤー”に関する情報は新たに入手できたか」
「イヤ、ダメだったネ。そもそも目撃して生きているのが少なすぎるネ」
「そうか……」
“あのプレイヤー”
俺たちがそう言ったプレイヤー、ソイツはラフコフ№2の男だ。
ソイツは紺色のポンチョを着ていること、ブルートザオガーと呼ばれる魔剣クラスの片手直剣を使うこと。『吸血鬼』と呼ばれていること。この三つしかわかっていない。
ラフコフは最高幹部が五人いるとされている。
首領のPoH、№3の赤眼のザザ、№4のジョニー・ブラック
この三人しかプレイヤーネームは明らかになっていない。
それでも俺が『吸血鬼』の情報を求める理由。
それは――
月夜の黒猫団の仇だからだ。
Side out
さて、サチは生きているのか死んでいるのか。
どうしようか......