お止めくださいエスデス様! 作:絶対特権
「シェーレェェェエ!」
一番最初に反応したのは、未だ未熟な少年剣士。アカメ・レオーネ・ブラートの三人に正面の強敵の相手を任せ、彼は半ば反射的に後方のサイレントキラーに飛び掛かる。
同時に崖の上から極太の光線がチェルシー目掛けて放たれた。
昂ぶった感情の分だけ強くなれる帝具・『浪漫砲台』パンプキンは使い手の親友を殺された怒りで、凄まじい火力を吐き出していたのである。
大金星を挙げたあと特有の危機が不幸な彼女を襲っていたといえた。
普通ならば、彼女はここで死ぬだろう。
だが彼女は、正面から自分と比べるのも馬鹿らしいほどの剣士が突っ込んで来、頭上から彼女を十二度殺してもお釣りが来るような大火力が迫るという危機に対して震えながらも、笑った。
「キャー、助けてハクさーん」
「わざとらしいな。が、真実味もある」
ナイトレイドの三人の網膜に写った肉体が霞む速さでアカメとレオーネの間を駆け抜け、勢いを殺してチェルシーの身に負担をかけないように速度を調節しながら腰を抱えて踵を返す。
チェルシー方面からたった今通り過ぎていったアカメ・レオーネ・ブラート方面へ。
極太の光線が背後に突き刺さった瞬間、ハクは迫りくる仮面の少年剣士の仮面を勢いそのままに殴り抜いた。
パキリ、と。仮面の正中線に罅が入る。
「若いな、少年」
その一言で仮面が粉微塵に砕け散り、タツミの身体が後方へかっ飛ぶ。
二度、同じところを攻撃したのだ。確実に破壊することができる。
わざわざ一度目の迎撃で殴り難い顔面を殴ったのは、この未熟さに賭けたが為と言ってもよかった。
レオーネが辛くも受け止めたからよいものの、そのままであったら石壁にぶつかって死んでいただろう。
それほどに、彼の移動速度とその速度を借りた一撃は凄まじい物があった。
「檄する気持ちはわかる。私とて同僚が二人ほど殺されているからな」
竜船で殉職した同僚二人の墓に三日に一度はチェルシーを帯同してに墓参りに行くだけあり、彼の仲間意識は外見よりも高い。
人並みに感情はあるし、仕方ないことだという諦めもある。
僅かな寂寥感を漂わせながらそうこぼし、ハクは崖の出っ張りに着地。両手でスカートを抑えているチェルシーを降ろした。
「はやい」
「すまない」
最早演技でも何でもなくぐったりしているチェルシーは、いつもの小悪魔的な外見に合った調子すら取れず、適当な抑揚の元に忌憚なき感想を吐く。
はやい。速すぎる。烏煙よりずっとはやいとか何とか言っている場合ではなく彼女は抱えられた瞬間、本当に身体が腰から両断されると思った。
「内臓が、こう……ぐォッと来たんだけど」
「すまない」
手加減してよかった。本気だったらお前は死んでいたぞ。
心の中でそう呟き、ハクは『腰から輪切りの如く真っ二つに裂けるチェルシーの図』を想像し、頷いた。
非常に有り得そうだから困る。
「……笑いごとじゃないし」
「笑っていたか。すまない」
「笑ってないけど、雰囲気がさ……」
纏う雰囲気に何か、出来の悪い弟子を見るような憐れみと慈しむような愛があった。
恐らくチェルシーはその雰囲気を目敏く察知し、マイナスな気分にあることも手伝って負の方面に受け取ったのだろう。
普段ならば憐れみよりも出来の悪い弟子を見るような慈しむような愛の方に過剰反応しているはずであった。
「溶けたバターのようにスッパリと斬れそうだからな。お前の身体は」
「無駄な戦闘用の筋肉ついてないからね。後、骨も太くないし」
腰を抱えて突っ走った経験上、ハクはエスデスにはチェルシー独特の柔らかさのようなものに触れている。
普段ならばそんなこと言われたら確実に喰い付くであろうチェルシーが、ハクばりの事実報告のみで済ませたあたりにその憔悴ぶりがわかった。
「……切り替えー」
「そうだな。切り替えだ」
アカメとレオーネを迂回して躱し、追撃及び射線に捉えることがまず不可能な崖の出っ張りに立つ。
このことによってハクとチェルシーは体力の回復と策戦の再構築を計っていたのである。
チェルシーが自分の頬を二回叩くことで、策戦の再構築は為されようとしていた。
が、そうはうまくいかないのがこの世界である。
『現実はいつも理不尽なものであり、理想とはいつも美しいものである』とは、誰が言ったか。
兎に角、この二人は不運であった。
「天叢雲剣ッ!!」
崖に飛び乗れないなら、崖ごと斬ればいいじゃない。
几帳面なスサノオらしからぬ凄まじく大雑把な対応は、二人のこれから標敵・策戦の決定期間ごと足場を薙ぎ払う。
『禍魂顕現』。所有者の命を吸う代わりに絶大な力を得るという、諸刃の剣を具現化したかのような奥の手。
その奥の手によって絶大な力を手に入れている形態となったスサノオは、遥か東方の島国に伝わる三種の神器を冠した武器、或いは力を操ることができた。
これは天叢雲剣。絶大な破壊力を持つ攻撃用の武器である。
「パワーが上がっているな」
「ヤバイんじゃないの、これ」
竜船でもこの武器は使用された。だがそれは、今は破壊されてしまった『超力噴出』バルザックによって無理矢理引き出した紛い物でしかない。
それが、『スサノオの最大火力であろう天叢雲剣では崖を切断できない』というハクの判断の狂いを生み出している。
二人は破片と言い切るのが難しい程の岩石の巨塊が宙を舞う中に浮遊―――もとい、落下していた。
出して起点とすべき炎の翼は、出せない。彼には地を霞むような速さで移動できる機動性はあるが、今は地・海・空を制覇していたかつてのような万能さはないのである。
「八尺瓊勾玉ッ!」
その鋭く叫んだスサノオの筋肉質な巨躯に膨大としか言えない力が纏わりついた。
地面を砕きつつ跳躍したスサノオの身体は、いつもような簡素な容姿ではない。
背後に輪のような物を背負い、髪は白く、角は漆黒に。一目で強者とわかるような凄絶さを纏った姿で、彼は主の後悔とともにそこに居る。
「オォォォォ!!」
素早い跳躍と、大威力の拳。
強化された力を纏う強化された拳が、ハクを撃ち貫かんと繰り出された。
「チェルシー」
「わかってますよっと」
超級危険種、宵蝙蝠。二枚の翼と鷹のような脚を持つ、通称『空の烏煙』と呼ばれるそれにチェルシーはすぐさま変化する。
漆黒の翼の二つ名は伊達ではなく、その宵蝙蝠・チェルシー変身態の翼は濡れたように黒かった。
「合っ体!」
「と言っても、掴むだけだろうが」
頭から地面に垂直落下していた二人は、自称合体をした瞬間にすぐさま体勢を縦に百八十度回転させて立て直す。
迫りくるスサノオも、この自称合体は完全に予想外だった。
闇に溶け込む沈黙の色と、周囲を染める温かな黄金。奇しくも互いに合った色となった闇と光は、息の合った軌道でスサノオへと迫る。
スサノオの振るうは、拳。間合いで言うならば近であった。
近が迫りくるならば、やることは先程と変わらない。
「ホバリング」
「もうしてますよー」
見えない筒を掴むように指が動く。
かつてブラートが直進してくる勢いを利用して武器を出し、痛烈な一撃とそれに伴う連撃を喰らわせるための起点となった武器出しカウンターが、スサノオにも炸裂した。
「チェルシー」
「はいよー」
手に持つは、炎熱の槍。武器出しカウンターで突き刺さったスサノオの身体を一払いで空に浮かべ、無防備となった肉体を石壁の如き突きの雨と飛行による場所取りによって貫いていく。
そもそも、彼は肉体の基礎性能が高いのだ。帝具があろうがなかろうが、彼の強さは変わらない。戦い方が変わるだけである。
「合わせろ」
「知ってますよっ、と!」
空中で旋回し、槍をスサノオに突き出すような姿になったハクを身体を漆黒の翼が包みこむ。
穿孔の錘には、炎熱の槍。
推進力は、漆黒の翼。
「八咫之鏡―――」
所謂合体技が、スサノオの腰部を防御の神器ごと消し飛ばした。
下半身と上半身が泣き別れして落下していくスサノオと、圧搾するが如くきりもみ状に回転し、槍から地面に突き刺さる黒い物体。
この所謂合体技は、『大技の後には隙が出来る』の典型であろう。
どんな壁だろうが圧搾・穿孔してぶち抜く代わりに、隙が極めてデカイ。
何というか、ピーキーな性能であるとしか言えないのだ。
「葬る!」
翼1,5メートル、胴体30センチ、翼1,5メートル。計3,3メートルにもなる長大な横幅を晒して地面にベッタリと倒れ伏す危険種を斬ることなど、アカメには俎の上の鯉を切るよりも容易い。
またも命に危機に晒されたチェルシーは、絶命的な息切れとともに、つぶやいた。
「チェルシーさんは、技の反動で、動けない……」
「体力もないのに反動技を使うからだ」
彼女の貧弱な体力も半分くらい減少しているであろう反動技を指示したのは、ハクではない。何故か彼と組むと無茶を重ねてはっちゃける傾向にあるチェルシーである。
ため息を一つつき、ハクはアカメの前に立ち塞がった。
ワイルドハント
シュラ
HP:500/500
TP:600/600
特性:慢心(Level10)
自動回復(Level10)
エンシン
HP:0/400
TP:120/300
特性:剣戦闘(Level7)
イゾウ
HP:0/200
TP:0/0
特性:剣戦闘(Level9)
コスミナ
HP:0/200
TP:300/300
特性:人心掌握(Level3)
ハク
HP:900/900
TP:135/400
特性:加速(Level10)
:庇う(Level10)
チェルシー
HP:11/20
TP:240/400
特性:危機回避(他力本願)
:はりきり(Level10)
ナイトレイド
ナジェンダ
HP:300/300
TP:240/500
特性:指揮官(Level9)
スサノオ
HP:10/1000
特性:自動回復(Level9)
ブラート
HP:310/600
TP:210/400
特性:近接戦闘(Level10)
アカメ
HP:200/400
TP:300/400
特性:剣戦闘(Level10)
ラバック
HP:50/450
TP:500/500
特性:抜け目なし(Level8)
マイン
HP:100/100
TP:620/800
特性:狙撃(Level10)
シェーレ
HP:0/300
TP:280/300
特性:ナチュラルボーンキラー(Level9)
タツミ
HP:40/500
TP:250/300
特性:大器晩成(Level10)
レオーネ
HP:658/700
TP:420/500
特性:自動回復(Level4)