お止めくださいエスデス様!   作:絶対特権

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誓いを突く

「ハッ!」

 

即死刀が描く横薙ぎの軌道を丹念に見切り、ハクは余裕を持って体を屈ませる。

 

185センチのブラートやその他男勢と膂力を競う上では不利な178センチの矮躯が、彼の持つ異常な視力と経験則による回避性能を更に底上げしていた。

 

「フゥ―――……」

 

横薙ぎの一斬を避けられ、反撃の拳を半身になって躱したアカメは深呼吸をし、頭の中身を切り替える。

 

一撃の重さ、正確さを重視するよりも手数の多さで攻める方が、今の鎧なきハクには適しているとアカメは早々に判断したのだ。

 

「……手数で来るか」

 

一撃でも掠れば即死の呪毒が身体に回ってしまう常時一撃必殺である刀の連撃は、純然たる暴威を以って荒れ狂う。

避けられないことはないが、彼には時間をかけてはならない理由があった。

 

合体技でほとんどの体力を削りきったであろうスサノオの、再生の阻止である。

逃したら確実に厄介なことになるであろう生物型帝具が完全に回復しきれば、残りの体力的に再び追い詰めるのは極めて難しいのだ。

 

「コードC!」

 

避け、殴っては躱され、また斬りつけられては避け。千日手と化した戦局をなんとかすべく、チェルシーは反動から立ち直った身体を宙に舞わせる。

背後で伝えられた符牒に何かを悟ったのか、ハクは即死刀相手にインファイトを挑むという無謀極まりない戦闘法を切り替えた。

 

後ろに跳び退き、片膝をついて右脚に力を溜め始めたのである。

 

無論近距離からの戦闘から逃がすアカメではないし、力を溜める隙を与えるアカメでもない。

すぐさま開いた距離を詰めるべく、彼女は駆けた。

 

その時である。

 

「―――――ッ!」

 

鼓膜を引き裂くような怪音波が宙に舞う蝙蝠の口から漏れた。

彼女の変身した超級危険種は、声帯を超音波で敵を破壊する帝具『大地鳴動』ヘヴィプレッシャーに、翼の器官を『月光麗舞』シャムシールに使用されている。

 

つまりその姿に変身したチェルシーもまた、加工されていない物のそれに似た能力を使うことができた。

 

「ッ!?」

 

怪音波に対し、思わず塞いだ耳。

目の前で、陽炎の如く消えた敵。

その音と驚きとが、完全にハクの接近に対する警報を殺していたのである。

 

「後ろだと思ったな」

 

咄嗟に感じた気配に誘われるままにアカメは反転しながら即死刀を振るった。

右に持った刀が半円型の弧を描き、空を切る。

 

超音波を振り切り、振り切った即死刀のすぐ横に、彼はいた。

 

(しまっ―――)

 

ミスディレクションか。

 

そう気づいた時にはすでに遅い。

 

「先ずは一つ」

 

膝を大地に突きながら放たれた回し蹴りが音を超え、肋骨を二、三本圧し折りながら突き刺さる。

 

彼の長靴はエスデスの長靴からヒールをなくした黒い男版である。

音を置き去りにする疾駆で摩耗しないようにとレアメタルで作られた靴底と踵は、一種の凶器であると言ってもよかった。

 

「二つ」

 

意識が飛びかけるほどの衝撃を腹部に受け、飛来しているところを追いつかれた末に更に一撃。

火花と煙を散らしながら速度を徐々に殺していき、ハクは追いついてからの横撃が成功したことを踵に残った感覚で悟る。

 

速さによる機動性を生かした高速戦闘は、鎧を纏っている時では見られないものであった。

 

「む」

 

チェルシーが負傷者を狩りに行ったことを目で見てとり、ハクは再び加速する。

タツミを殺すことはない。帝具を失ったのだから、その戦力は半減されたと言ってもよいのだから。

 

が、万一を考えて敵戦力を潰していくのがチェルシーのやり方であった。彼女からすれば今の戦力を潰していくハクのやり方はただの手温さに写るのだろう。

 

(が、それでお前が死んではどうしようもあるまい)

 

超音波で平衡感覚を失ったレオーネの片腕を翼の器官から放った真空の刃で切断し、地面に転がってタツミにとどめを刺そうと降下したところに復帰したブラートが槍を突き出した。

 

チェルシーの帝具、『変幻自在』ガイアファンデーションはある程度の制限はあれど様々な生物へ変化することができる。

まあ、アメーバのような生物には無理だが、人と対して変わらない身体構造―――脳・心臓・肉・血―――を持つならば、身体の構造をも変化させることができるのだ。

 

つまり、超級危険種だろうが何だろうが、見たことがあって解剖された内部を覚えていればその異能すらも再現できるのである。

 

が、耐久力は変わらない。

強固な外甲があるならばともかく、いくら巨大な体躯を持った生物に変化しようが、生身をブッスリやられたら即死であった。

 

「させん」

 

槍を掴んでブラートを引き寄せ、インクルシオの肩部装甲に舞うような踵落としを喰らわせる。

 

チェルシーの肩にあたる翼に手を掛け、ハクは相当な熱を持った脚を垂らした。

 

「光に変化しての瞬間移動とかが、奥の手なのか……?」

 

瓦礫の中から現れたブラートの身体には、未だインクルシオが装着されている。

前回の戦闘ならば、ここで解除されていた。

 

(確実に、進化しているのか)

 

飛翔の要である肩を抑えられているからか、いつになく不器用に羽ばたくチェルシーにぶら下がりながら、ハクは律儀に答えを返す。

 

「奥の手ではない。第一に、鎧は質に出している」

 

「じゃあ、別の帝具かなんかか?」

 

「素だ。元来脚の速い方でな。まあ、最早全力では戦えん」

 

彼の脚の速さは、偏に『間に合わねば助けられない』という執念と鍛練によるものであった。

 

故に全力で疾走して加速する分には問題ないが、蹴りや何やらを繰り出したり急に止まったり方向を変えると足が軋む。

 

走るだけでも攻撃になるから使えなくはないのだが、身体が急制動に耐えきれないのである。

 

「嘘言うなよ、圧倒してんじゃねぇか」

 

「折れかけだ。蹴り技は強いが、負担が重い」

 

加速した勢いと運動力を叩きつけるから、威力は高い。

が、先の合体技と同じく反動もでかいのだ。

 

威力の高い技の宿痾というべきであろう。

 

「チェルシー、翔べ」

 

「持つ位置変えてよ……」

 

肩を持たれては、ほとほとスピードが出ない。無論、避けられる程度の速さは出るが、一撃離脱戦法を使う為のマージンがこの速度では取れない。

 

慎重派な癖に追撃好きなあたり、彼女も大概矛盾していた。

 

「追撃狂に最速での自由行動を許せば何をするかわからんからな。赦せ」

 

「私に対する信頼は!?」

 

「している。お前は必ず的に隙あらば追撃するという信頼は何があろうが揺らがん」

 

時々降下して『月光麗舞』シャムシールや『大地鳴動』ヘヴィプレッシャーらノーマークだったワイルドハントの帝具を回収しながら、ハクはエクスタスの安置されている方角を見、溜息をつく。

 

スサノオが復活し、ガッチリとエクスタス及びレオーネ・タツミ・アカメ・ラバックら負傷者に対するガードを固めていた。

 

「シュラ、退くぞ」

 

「あぁ!?これからだろうが!」

 

負傷しているとはいえ、奥の手発動中のスサノオとタイマンをはりながら未だ無傷なシュラは、繰り出された天叢雲剣を手首で弾く。

 

彼は、未だに無傷であった。帝具も使用を節約している為まだまだ使用することができるし、何よりもこの目の前の生物型を突破したら負傷者四人と四つの帝具を回収できる。

 

彼にとって、それは喉から手が出るほど欲しい大金星だった。

 

「その防御は、あと五分でなくなるぞ。防御なしにブラートとスサノオと戦えるならば止めはせんが」

 

絶対防御と言われたのは、この訳の分からない無敵状態のことであろうことは、シュラにも薄々わかっている。

が、目の前の大金星が魅力的過ぎた。

 

「シュラ、勝つ算段はあるのか」

 

「ッ―――わーったよ!」

 

空間跳躍の帝具『次元方陣』シャンバラを起動させ、シュラは一人ロマリーの街へと帰還する。

 

逃げ脚の速さならば、シュラがぶっちぎりで帝国一だった。二位はハクだが、その差は極めて大きい物がある。

 

「チェルシー、翔べ」

 

「……後一人いけたような気がするんだけど」

 

「チェルシー、翔べ」

 

急には助けに入れない程度には脚を消耗しているハクは、敢えて聞く耳を持たずに同じ言葉を繰り返した。

どこか手柄に急いているような部下を野放しにできるほど、彼は放任主義に拘っていない。大事なのは命であり、そこは決して違えてはならない箇所であった。

 

「帰るぞ」

 

「へーい」

 

チェルシーの肩から手を離し、ハクは自分の両肩を掴ませる。

高速空戦形態―――所謂合体状態に、二人は再びなっていた。

 

「ブラート」

 

「何だ」

 

空気を読んで未だホバリング状態にとどめてくれたチェルシーを他所に、ハクはインクルシオを解いた好敵手に向けて声を掛ける。

 

「私を討つのはお前の槍であり、お前を打ち倒すのは私の槍であってほしい物だ」

 

それは戦場で見せない彼のこだわりであり、あまりにも子供じみた願望であった。敵味方で仲間を殺し合いながらこのような友誼を結ぶなどはチェルシーには理解できないが、言われたブラートにも笑みがある。

 

全く理解できないが、その癖気味悪くはない。

 

そこには、一種の清々しさのようなものがあった。

 

「そうなれるように、一層力つけてやるよ。覚悟しときな、色男」

 

櫛で髪を整え、ブラートは人差し指を生涯の好敵手に向ける。

越えるべき壁であり、宿敵である。互いに仲間を討った仇同士でもある。

が、平時に街であったならば酒でも酌み交わすのだろう。

 

「楽しみにしている」

 

決して触れることのない拳を突き合わせるように、お互い前に拳を突き出す。

 

本来ならば、共に戦えていたはずの二人だった。

ハクが帝都に来るのが僅かに早ければ、ブラートの決断が僅かに遅ければ。

 

(勿体無い)

 

チェルシーは、心胆からそうこぼした。





Q.チェルシー追撃狂ナンデ?

A.いいのよ。もっと褒めても。

Q.ブラート仲間殺されたのに爽やかすぎじゃね?

A.リヴァ戦を見るに、そこらへん割り切ってそうな感じがする。


ワイルドハント

シュラ
HP:500/500
TP:560/600
特性:慢心(Level10)
自動回復(Level10)

エンシン
HP:0/400
TP:120/300
特性:剣戦闘(Level7)

イゾウ
HP:0/200
TP:0/0
特性:剣戦闘(Level9)

コスミナ
HP:0/200
TP:300/300
特性:人心掌握(Level3)

ハク
HP:780/900
TP:5/400
特性:加速(Level10)
:庇う(Level10)

チェルシー

HP:14/20
TP:140/400
特性:危機回避(他力本願)
:はりきり(Level10)


ナイトレイド

ナジェンダ
HP:300/300
TP:120/500
特性:指揮官(Level9)

スサノオ
HP:400/1000
特性:自動回復(Level9)

ブラート
HP:110/600
TP:180/400
特性:近接戦闘(Level10)

アカメ
HP:80/400
TP:240/400
特性:剣戦闘(Level10)

ラバック
HP:40/450
TP:250/500
特性:抜け目なし(Level8)

マイン
HP:100/100
TP:520/800
特性:狙撃(Level10)

シェーレ
HP:0/300
TP:280/300
特性:ナチュラルボーンキラー(Level9)

タツミ
HP:40/500
TP:250/300
特性:大器晩成(Level10)

レオーネ
HP:258/700
TP:250/500
特性:自動回復(Level4)

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