お止めくださいエスデス様!   作:絶対特権

49 / 54
罠を突く

鉄の階段を駆け下る時の如く連続した硬質な音が三十二回ほど連続して響き、前方に蟠った煙を二門の主砲が無理矢理飛ばした。

 

全門斉射で消費するエネルギーは恐らく一割。確か全門斉射は三回目だから、突撃と合わせてこれで六割のエネルギーが失われたことになる。

 

確保された視界に、ナイトレイドのメンバーは居ない。

彼等彼女等は夜の闇に隠れて、得意の夜襲の機を伺っていた。

 

(無駄なんだよねぇ……)

 

確かに、夜襲は脅威だろう。綿密な連携と必殺の帝具を組み合わせての波状攻撃。これは怖いとしか言いようがない。

 

が、何が怖いのかと言えば『不意を突かれるのが怖い』だけだった。

 

偽物である彼女の二輪では本家であるハクの戦車には、火力・装甲・機動力で負ける。

これはどうせ劣化コピーなのだから仕方がなかった。

 

が、勝っている点がひとつだけある。

 

「どこから来るのかなぁ……」

 

中々の演技派である彼女らしく、チェルシーは怯えているように周囲を見回し、闇を恐れるように怯んだ。

 

手は、照準器代わりのタッチパネルにある。

コンソールを操作し、三キロレーダーを作動。自身を中心に電波が円形に飛び、いとも容易く標敵を掴んだ。

 

「っと」

 

レーダーの情報を照準器に読み込ませ、標敵を指定。十字型のレティクルが真逆にいたマイン以外のナイトレイドを捉え、用心深く位置を変えながらこちらを射撃してきているらしいマインの放った光弾を避けつつ機体を右に切って旋回する。

 

四回目の一斉射撃。いきなり位置を掴まれたことに驚いたのか、敵の動きは鈍い。

しかも意地の悪い面制圧型の『バラ撒く』射撃であるが故に、ナイトレイドの面々は致命傷こそ避けられても無傷とはいかなかった。

 

流石にブラートはミサイルこそ槍で弾いたものの爆風と弾き用のない光の束で装甲を削られる。

 

ミサイルを二発避け、一発を斬り落としたアカメはこれまた斬り落とした瞬間に大爆発するように仕組まれたミサイルの破片と爆風によって左腕を負傷した。

 

ナジェンダを庇ったスサノオも二発弾いて二発を喰らい、修復中の身体の内部でソルメタルと呼ばれる新金属の塊であるミサイルが爆散、更なる修復を余儀なくされる。

 

レオーネは追尾誘導弾に左右から挟まれて爆発に巻き込まれる形で瀕死の重症を負い、タツミは新たに得た帝具で刻み、或いは防ぐことによって重症こそ回避したが右腿に鉄片が突き刺さった。

 

ラバックは抜け目なく糸の結界で防ぎ切り、身に受けたのは爆風のみ。

 

レーダーをチラ見しつつ、暗視スコープ付きの双眼鏡で確認できるナイトレイドの被害を分析したチェルシーは、ミサイルと立てた音と風向きから大体の被害を予想する。

 

実際はレオーネは一発を殴って逸し、逆から来た一発に激突させた時の爆風を食らっただけではあるが、この観測ミスには理由があった。

操縦・観測・索敵を一人でこなさねばならない忙しさが災いし、彼女もそう長く一人に構ってはいられなかったのである。

更に観測対象がレオーネだったこともあり、彼女の危機意識はあまり高くはなかった。

 

これがハクと互する実力を持つブラートであったりスサノオであったり、或いは即死刀を持つアカメであったならば時間を裂いたであろう。

が、レオーネの帝具はハクの下位互換であることと奥の手が自動回復能力の増幅であることもあり、チェルシーは正直、舐めきっていた。

 

「うーん……」

 

重症を負ったレオーネを仕留めに行くか、アカメやブラートを削りに行くか。

一見すると行動における三択だが、実質はこれからの行動指針を決める為の二択である。

 

一人を確実に潰していくか、何人か纏めて仕留める為の布石として、この二輪の超火力を使うか。

つまるところは一兎を追うか二兎を追うかの選択肢であり、ここで二兎を追うことを決めれば後に一兎のみを追う方針に変えることは困難だった。

 

中途半端は身を滅ぼすと、彼女はよくよく知っていたからである。

 

「……きーめた」

 

彼女が瀕死であろうと判断したレオーネから標敵を外し、次なる標敵をアカメに定めた。

アカメの即死刀は脅威だが、肉弾戦をしない限りはただの刀。

 

何よりも、あの刀はハクを殺し得る可能性を濃厚に持つ。

排除した方がいいというのが彼女の私情混じりの判断だった。

 

「―――やっぱこれ、ちょっと改良が必要かな」

 

レーダーで敵影を捉え、暗視スコープで敵を視認し、照準器で照準し、操縦して一射逃走という組み合わせを一気にこなせないのは、レーダーだけでは『どこにいるか』しかわからず、『誰なのか』がわからないことを踏まえると少しきつい。

だからこその暗視スコープであるわけだが、暗視スコープを使えば片手が塞がる。更には照準するときに片手を使うから、その間は操縦桿から手が離れる。

 

つまり、本気を出せば音速を超える速さの機体を手放しで運転することになってしまうことになるのだ。

自転車の手放し運転とは訳が違うのである。やればもれなくお陀仏だった。

 

彼女は、目があまり良くない。もっともそれはハクの『10キロ先の針まで見える』とかエスデスの『5キロまで視野』とかいう気違いじみたものでないだけであり、日常生活に支障はないレベルである。

ただ、平均よりも少し低い。

 

その為、彼女は夜目が利かなかった。『星の光があるなら昼の如く見える』、『獲物は視覚と嗅覚と感覚で狩る』と言う連中とは違い、暗闇だと全く見えない。

その夜目の利かなさを揶揄する意味もこめて鳥女と言われているわけだが、そこはあまり関係がなかった。

 

「……見えない」

 

真昼に宮殿の屋根に転がって天体観測できる奴等とは人種が違うのである。

文字通り北の異民族と、西の異民族との混血的な意味で。

 

赤色系の髪は西の異民族という噂に違わず、彼女は母が西の異民族出身だった。

 

西の異民族は、騎兵と変な肉体改造術を作り出す技術力の高さが著名であろう。

彼女は、その西の異民族の典型だった。

 

乗り物の操縦が巧みで変態技術を駆使することができるし、西の異民族から盗んできた秘術とやらにも適性がある。

 

目が悪いのと近接戦闘能力が皆無なのを除けば西の異民族が理想とする騎兵であった。

 

「ッダァ!」

 

直進してくる二輪へ、大型の鋏を持ったタツミがコクピット付近目掛けてそれを突き出し、それと同時に刃を開く。

 

丁度決まれば斬首コースだった一撃に、チェルシーは非常に怜悧に対応した。

 

彼女は予想外の出来事には障子紙の如く弱いが、想定内の出来事には滅法強い。早々にレーダーを駆使して位置を掴んでいた彼女の脳内には迎撃の方法が浮かんでいる。

 

操縦桿を握る手に力を込め、推力を弱めるに比例させるように浮力を増加させ、突っ込んできたタツミにエンジンの排気口を向けたのだ。

 

三つの排気口を列ねてタイヤの両脇に付けた大型二輪の排気口から漏れる空気の圧は、凄まじいの一言に尽きる。

突っ込んだ来た勢いを相殺され、思わず顔に腕をやって空気から目を守ろうとした瞬間、地面を走る為に縦に備え付けられていた後輪が横に半回転し、あたかも丸鋸の如き勢いを帯びた。

 

丸鋸と化した後輪が横の旋回速度とこれまで出していた推力をも束ね、タツミの腹に突き刺さる。

 

(……って、手応え変だね。防がれたのかな?)

 

後輪が僅かにへしゃげたような気もするから、タツミが手に持っている何かは鋏型の帝具『万物両断』エクスタスに違いない。

 

彼女は、極めて適当な感じにそう判断した。

使い手の実戦経験が足りないから、帝具はともかく脅威にはならないと判断したのである。

 

それよりも目下の問題はひしゃげた後輪であった。

ひしゃげた後輪では運転こそできるが急制動の末に変態機動をするといういつもの回避行動をすることができない。

 

それは夜目の利くナイトレイドも勘づいている。

すぐさまブラートとレオーネとアカメが旋回したまま横腹を見せ続けている二輪へと駆けた。

 

こちらにミサイルを収納している先頭部分を向けるべく旋回した瞬間、ブラートを側面のミサイル収納庫を開かせぬように両手で挟み込むように封殺。その隙にレオーネを左廻り、アカメ右廻りから急襲させてコクピットから叩き落とす。

 

それがこの肉弾戦特化の三人の策であった。

が、チェルシーは端から旋回など考えてはいない。何せエネルギーが足りないし、ミサイルを打つにもエネルギーの内の一割が消える。

 

チェルシーは、機体の横腹を晒しながらそのまま壁が迫るが如く三人に向けて推進した。

 

この三人はエネルギーのことを全く知らない。故にこの反応は全く予期できなかった。

それに、平然と横進できるような二輪を三人は知りもしなかった。というよりはこのようにメカニカルな機体を相手にしたことがない為、いくら噴進によるホバー移動が可能だとすぐ前に認識したとはいえ、それがどんな行動を意味するかがわからない。

更に言えばホバー移動がどのようなものであり、どのような行動を可能とすることができるのがまだはっきりとわかっていない。

 

人は認識外の物を見た時にその類似品に当て嵌めようとする。

その所為もあり、ナイトレイドの三人は馬車か何かの類似品だと思っていた。すなわち、変態二輪の変態機動を推測するにあたってのまともな材料が得られなかったのである。

 

「ッぉ!?」

 

いくらインクルシオと言えども1500キロ近い巨重の二輪にのしかかられ、轢き潰されては無事ではすまない。

三人は目配せするでもなくわざとその横撃の勢いを利用して後ろに飛び、衝撃を逃した。

 

そのことも、チェルシーの想定内である。

 

「ほい、発射」

 

チェルシーは機体を素早く旋回させた。

左の操縦桿となっている推進用ステアリングから手を離し、宙に舞った三人をタッチパネルでロックオン。逃走用エネルギーの都合も考えるともう何回もできないであろう一斉射撃を行い、さっさと機体を宙に上げようとした、瞬間。

 

「……ん?」

 

機体の側面に、火花が散った。

 

凄まじい火花と音、滑るような金属音と圧搾音と共に機体が無理矢理に止まり、いきなり速度を殺された反動でチェルシーの身体が宙を舞う。

 

(糸かぁ……)

 

ふっ飛んでいるチェルシーがわかったのは、それくらいだった。




ワイルドハント

シュラ
HP:500/500
TP:600/600
特性:慢心(Level10)

ハク
HP:1000/1000
TP:300/400
特性:加速(Level10)
:庇う(Level10)

チェルシー

HP:20/20
TP:795/800
特性:はりきり(Level10)
:騎乗(Level10)
:???(Level15)

ナイトレイド

ナジェンダ
HP:300/300
TP:380/500
特性:指揮官(Level9)

スサノオ
HP:800/1000
特性:自動回復(Level9)

ブラート
HP:820/900
TP:450/500
特性:近接戦闘(Level10)

アカメ
HP:280/400
TP:400/400
特性:剣戦闘(Level10)

ラバック
HP:440/450
TP:500/500
特性:抜け目なし(Level8)

マイン
HP:300/300
TP:810/900
特性:狙撃(Level10)

タツミ
HP:410/600
TP:400/400
特性:大器晩成(Level10)

レオーネ
HP:610/700
TP:490/500
特性:自動回復(Level4)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。