獣の牙と俊敏さ、竜の鱗と圧倒的な力。
その両方を持つ者こそ王者にふさわしい。
かつて、生まれながらに優れた力を持つ牙竜が、
自らが王であることを示すかのように咆哮を上げた。
しかし、獣も竜も自らとは異質な存在を認めることはなく、
獣からも竜からも孤立してしまった牙竜は、霊峰へと追いやられてしまった。
まどろみの中で牙竜は思う。何故、己は王になれなかったのだろう?
あるいは、己が頭を垂れるにふさわしい王がいるのだろうか?
例え力があろうとも、獣でも竜でもない曖昧な存在は、
王たる資格はないのかもしれない。
微睡む瞳の前で、一筋の光が横切った。雷光虫……
そして、それを追って愚かにも我が領域まで慌ただしく入ってきた好物のガーグァ……
腹が満たされ、また微睡んできたところに、先程の雷光虫がうっとおしい程に周りを飛び回っている。虫一匹相手にしたところで仕方あるまいと思い、眠りについた。
微かな羽音らしき音で、ふと意識が覚めた。
瞳を閉じているのに、やけに眩しい。
瞼を開けると、辺りには無数の雷光虫が飛び回っている。
……ガーグァに喰われそうになっていた雷光虫が繁殖した?
あるいは仲間を引連れてきたのだろうか?
煩わしいことこの上ないが、やはり虫相手に癇癪を起すのも馬鹿馬鹿しい。
また眠るという気にもならないから、獲物を捕りに下山してみるか。
山を降りて茂みから渓流を覗くと、丁度良くケルビの群れを見つけた。
……が、己の背後にはぞろぞろと雷光虫の群れが、わざわざ霊峰からついてきていた。
ケルビは何かに気付いたように慌てて駆け出す。虫達が眩しすぎて気づかれたか?
ジロリと虫たちを一睨みするが、飛び去る気配もない。
突如、強烈な風圧が頬を叩いた。黄金と白銀に輝く二頭の竜が降下してきた。
ケルビはこいつらに気付いて逃げ出したのか。
……二頭と目が合い、気付かれてしまった。向こうは耳をつんざく咆哮を上げ、
臨戦態勢に入っている。こうなっては仕方がないか……
流石に竜の中でも最上級の力を持つ2頭相手では分が悪い。
最早、これまでかと闘志が消えかかった時、雷光虫の群れが竜に襲いかかった。
もしや、助けようとしてくれているのか?
相手は竜であり、その脅威はガーグァの比ではない。それなのに、お前達は……
消えかけた闘志に再び火が付く。蟲達よ、お前達のなんと勇敢なことか。
咆哮を上げると、それに呼応して蟲達が周囲に集まり、我が身に雷を宿す。
雷鳴と化した我らに敵う者など無く、屍が横たわる。
己の王は己である。そして、己は蟲の王となろう。
無双の狩人ジンオウガ、ここに誕生す。