モンスター達が劇的に強くなっていったのはいつからだろうか。
あるモンスターは単純に身体能力が強化され、またあるモンスターは毒に耐性を持ち、
あるいは爪牙に猛毒を宿すようになった。
モンスター達が急激に強化された原因ははっきりしていないものの、一説では日々進歩し、自然を蝕みつつある人間に対抗するためではないかと推察されている。
草を草食種が食み、草食種を肉食種が捕食するという食物連鎖から逸脱しかけた人間を再びその連鎖へと戻すべく、自然の意思がモンスターを強化しているのではないかと。
強靭になった多種のモンスターがまるで団結したかのように人間の王国を急襲した事件があった。
王国の人々は瞬く間に虐殺され、一夜にして王国は陥落。
王国が火の海に包まれるとモンスター達は何処へと去るという、王国を滅ぼすことだけが目的であったかのような事件。
かろうじて王と妃、将軍と少数の親衛隊のみが逃げ延びたものの、国がなくなって生き延びても、ただただ虚しく、彼らは各自、剣を手に取り、故郷を葬ったモンスター達に復讐することを亡国の臣民に誓った。
力尽きる度に怨嗟の言葉を紡ぎながら何度でもモンスターに立ち向かった復活妃リナーシタ。
数多のモンスターをその知略で捕らえていった束縛王レストリ。
あらゆる強固な鱗も甲殻をも断ち切った破壊将ディストル。
復讐は悲しみの連鎖を生む、してはならないことだと言われるが、それを肯定することは出来ない。
復讐という目的があるからこそ国を失った者達は気力を失わず、遥かに強力なモンスター達を狩る力を得ることが出来た。
何よりも、復讐を為し終えない限り、前に進むことなど出来はしない。
しかし、強靭なモンスター達をいつまでも無事に狩り続けられるはずもない。
復活妃は蘇ることも不可能な程に切り裂かれ、束縛王は逆にモンスターの罠に掛かって絞め殺され、
破壊将は強過ぎる己の力を制御できずに身を滅ぼした。
結局は復讐は己を滅ぼすから止めておけということなのだろう。
それでも復讐を願う。復讐とは他者の為よりも、むしろ己の為にやることだからだ。
かつての何も為すことが出来ずにのうのうと生き延びた己を戒める為の、弱かった己と決別する為の儀式。
その矛盾を抱えたまま復讐を誓った一団の最後の一人は仇敵の一頭を追いかけて亡き故郷からは遠い遠い場所まで辿り着く。
その生き残りは数多の戦いを勝ち抜いた猛者ではあったが歳をとり過ぎ、もはや仇敵と対峙する体力も気力もなかったのでその地のハンターに討伐を依頼した。
「俺達、亡国の一団が使った武器は全て王国を滅ぼしたモンスターの素材を使用して作ったものだ。人を滅ぼしたモンスター達が今度は逆にモンスターを滅ぼす存在に生まれ変わる。これこそ奴らにとって屈辱の復讐だろう?だから、依頼したモンスターを討伐したらその素材で剣を作ってくれ ……」
亡国最後の生き残りの男はその昔、ある地方のモンスターを絶滅寸前にまで追いやった狩人であったが、今では見る影もない。
男は傍らに立て掛けていた、随分と使い込まれた大剣の柄を、仇敵の討伐を依頼したハンターに差し出し、
「これは俺が全盛期から使っていた大剣なんだがな、こいつを手に取ってから今まで一度もこの剣から聞こえる嘆きが止んだことはない。この嘆きは同胞を斬ることに悲しむ剣に宿ったモンスターの魂の慟哭なのか、それとも復讐の連鎖の中で生きざるをえなかった俺の悲鳴だったのか・・・。報酬の前払いとしてこの剣をあんたに譲ろう」
数多のモンスターを屠ってきた嘆きの大剣を感慨深く眺めながらハンターに向き直って言った。
「あんたは……、この嘆きを止められるかい?」