数多のモンスターを駆逐した者のみに与えられる伝説級の防具がある。
その名も秘伝防具。
モンスターを一頭討伐する毎に1枚の証明書が発行され、それを数千枚との交換で
与えられるのが秘伝防具である。
狩人にとっては名誉、実用性を兼ね備えた垂涎の一品である。
その防具を求め、今日も今日とてせっせと狩りに励む男が一人。
ドスファンゴ、ドスファンゴ、ドスファンゴ、パリアプリア、パリアプリア、
ドスファンゴ、ドスファンゴ、ドスファンゴ……
秘伝防具を手に入れるための点数稼ぎに狩りやすいモンスターばかり相手にしてきた。
傍から見れば死んだ魚の目で延々と同じ狩りを繰り返している俺は狂人に見えるだろう。
だが、その繰り返しの中でも最果てに望むモノがある限り、手を緩めることはない。
ある日、未開の地を開拓していたところにモンスターの襲撃を受け、
討伐依頼がギルドに届いたことがあった。
ギルドはこれを受理、重要度の高い優先依頼として開拓地を襲撃したモンスターを
討伐した暁には討伐の証明書を複数枚発行することを発表した。
複数枚の証明書も魅力だが、自分も狩人の端くれ。
まだ見ぬモンスターへの好奇心もあり、討伐に参加することを決心した。
ガタゴトとポポの引く天蓋付の荷車の中で4人の狩人が揺られ、開拓地へと急ぐ。
「それにしても古龍を相手にした実績のある2人はともかく、雑魚狩り専門が
いるのはどういうことかね……」
太刀を杖替わりにして荷袋に座るバケツのようなピンクの鉄兜を被った男がボソリと言った。
間違いなく俺の事を言っているのだろうが、無視を決め込んだ。
「そう言ってやるな。雑魚狩りといっても秘伝防具のためなのだろう?
私だって狩猟を極めた証である秘伝防具は欲しい」
全身が青と銀の鎌蟹を彷彿とさせる甲冑で覆われた鉄兜の中から若い女性の
声が聞こえた。甲冑の中は女性なのだろう。
突如、荷車の端にあぐらで座り、外の様子を窺っていた黒い兜に甲冑、
腰に鮮やかな羽の装飾を付けたトリアカと呼ばれる一流狩人御用達の装備を
纏った狩人が立ち上がった。
「何かが空を飛んで近づいてくる。速やかに戦闘態勢に入れ!」
全員が弾けるようにして外に飛び出した。
空を飛んでいた何かは地に足を付けると首を大きく回しながら咆哮をあげた。
咆哮の声量も凄まじいが、その周囲に蒼炎を錯覚するほどの威圧感。
「リオレイア?いや、だがこれは」
青銀の女狩人が言い終わる前にモンスターがブレスを放った。
通常のリオレイアが吐くような火球ではなく、火柱のような蒼炎の熱線。
息を吸う動作が大きかったから飛びのいて身を躱せたが、熱量が尋常ではない。
骨すら塵と化す惨劇が脳裏を横切る。
対峙するモンスターを改めて視認する。
狩人の数倍の体格に長い首と頑強な咢、左右にはその巨体ほどもある翼。
先端からは毒を滲み出す尾があり、地にはその巨体全てを支える強靭な二足。
姿こそ緑翼の雌火竜リオレイアに酷似しているが、全身黒尽くめで、
桜色の亜種とも金色の希少種とも違う、このような体色のリオレイアは
聞いたことがない。
「想定外だ。無理に仕留めようとするな、撃退に徹するぞ!」
トリアカの判断は適切かつ迅速だった。
まだ一太刀も浴びせてない内からモンスターの尋常でない戦闘力が伝わり、
とても討伐できるとは思えず、かといって逃げ切れる相手でもない。
「しゃあッ!」
裂帛の気合いと共にバケツがダッシュで黒竜に向かい、対する黒竜は尾を振って尾先から
棘を飛ばす。
咄嗟に身を伏せて躱したバケツは再び駆け、鞘から太刀を抜くと同時に
上段から黒竜の首を斬りつけた。
ガキンッ!と金属同士を打ち付けたような音が響く。
「かっ、てぇ―――!」