メダロット・・・それはテクノロジーが生み出した、全く新しいロボット。
宇宙より飛来し、人と同じように高度な知性を宿した未知なる鉱物《メダル》を人体の骨格や筋肉に当たる骨組み《ティンペット》に搭載。そして外装となる《パーツ》を装着することで無限の能力を引き出し、時にはお手伝いとして、時には家族や友達として、今では隣にいるのが当たり前に思えるほどの身近な存在だ。
しかしメダロットにおいて最も重要な《メダル》は何故宇宙から飛来したのか?その力の源は?メダロットが広まって十数年以上。しかし謎の大部分は未だ解明されてはおらず、いつしか「《メダル》の秘密を解き明かすことはすなわち、宇宙の神秘も知ることが出来る」と科学者たちの間で半ば確信を持って語られるようになっていた。
「ふう・・・やはり一筋縄ではいかんのう。どうしても詰まってしまうわい」
カタカタとキーボードを鳴らす手を止めて、眉をひそめるのは一人の老人。
研究者特有の白衣を着ている以外はぱっと見どこにでもいそうな老人に見えるが、何を隠そう彼こそがメダロット開発の祖にしてメダロット界の権威。そして《メダル》研究の第一人者である《メダロット博士》である。
「まあよいか。そうでなければ研究し甲斐がないからのう。
どれ、一息つくかの」
トントンと自分で肩を叩きつつ、孫娘のナエが淹れてくれていたお茶をゆっくりと飲む。すっかり冷めてしまっているが、自分のために淹れてくれた孫娘の優しさがとても温かかった。
「――失礼します」
その温かさに浸っていたのも束の間。入口から聞こえてきた若い声に先程と同じように眉をひそめながら、椅子を向ける。とはいっても別に声の主が苦手なわけでも嫌いなわけでもない。むしろ全幅の信頼すら置いているほどだ。しかし・・・
「来おったかレトルトよ。ということは・・・」
「ええ、例の事件について分かったことを報告したくて。
・・・すみませんお忙しいところを」
「いや、構わんよ。ワシもちょうど一息ついていたところじゃからのう。
して、報告とは?」
現れたのは全身を真っ黒な衣装で固めてその上にマントを羽織り、シルクハットと怪しげな仮面を身につけた青年だ。およそメダロット博士と関係がありそうな人物には見えない。
そんな怪しい格好をしている青年ことレトルトだが、実は立場上自由に動くことの出来ないメダロット博士に代わり危険なメダルやメダロットの鎮圧、及び回収を一手に引き受ける凄腕のメダロッター。自称華麗なるメダルハンターにして通称《快盗レトルト》なのである。
――ちなみに余談ではあるが、天領イッキ少年他数名のみ彼の格好をカッコイイとして、尊敬していたりする――
そしてそんな彼が博士の指示で調べた案件、それこそが博士の顔を曇らせるものに他ならず、
「・・・件の野良メダロット大量失踪事件、やはりタダの噂ではありませんでした。僕が確認できた限りでも自然公園・おどろ山・ウミネコ海岸、そしてフユーン跡地で多数の野良メダロット達が三ヶ月ほど前から姿を消しているようです。そして、消えたメダロット達は今も戻っていない」
「ということはやはり偶然、という線はなさそうじゃな?」
「ええ、現場を調べたところ土や辺りの植物が不自然に荒れていました。
それに・・・争ったり抵抗したと思われる痕跡も」
それを聞いて博士の顔はますます曇っていく。予想は出来ていたことだったがやはり・・・
「ふむ・・・レトルトよ、近い内にユウキ君の下へ飛んでくれんか?」
「ユウキ、ですか?」
「うむ、この件については彼にも協力を頼んでおってな。空から地上の様子を監視してもらっておったのじゃ」
ユウキというのはメダロット研究所とは深い関係である《メダロット社》の若き副社長で、現在は「地球で最も宇宙に近い都市」と称される空中都市《ヘブンズゲート》に居を構えている。個人的にも博士とは親交があり、最近は会う機会こそ減ったものの互いの近況や研究成果を報告し合っている。
「もちろん彼とて暇ではないし、データをまとめるのに時間もかかるとのことじゃった。じゃがそろそろ一通りの情報はまとめ終わっておる頃じゃろう。ワシの代わりに聞いてきてほしいのじゃ」
「成程・・・ユウキも動いてくれていたのなら色々な情報が聞けそうですね。
分かりました。では今夜にでも《ヘブンズゲート》へ発ちます」
「任せたぞ。まあ彼には立場もあるしあまり長居はできんじゃろうが、懐かしい友との再会じゃ。楽しんでくるといい」
博士の言葉にレトルトは半ば照れくさそうに頷くと、マントを翻して研究室から去ろうとする。博士もまたパソコンの前に向き直り研究の続きをしようと、
「・・・時に『ヒカル』よ。ワシが頼んでおいて何なのじゃがお前さん、学校は大丈夫なのかの?」
不意に浮かび上がった疑問に、ついそんなことを聞いてしまう。その疑問に今まさに部屋から出ようとしていたレトルトはビクリと立ち止まったが、
「・・・大学は結構自由が利きますからね、心配はいりませんよ。では、失礼します博士」
そう返すと今度こそ研究室から出て行った。
「あれは後で泣きを見る結果になりそうじゃな・・・ワシが頼んだこととはいえやはりヒカルだけでは負担が大きすぎたか。とはいってもキララ君はあやつ以上に動かしにくいしのう・・・」
快盗レトルト、彼は確かにメダロット博士の懐刀だが、その中身はメダロットが好きな現役大学生である。彼には彼の生活があるし、昔のようにレトルトとして働かせるのも難しくなってくるだろう。それは援護やサポートを増やしても根本的解決にはならない問題だ。
「そろそろ後任について考え始めるべきかもしれんのう・・・今度
一人呟き、博士の方もまた研究の続きを再開し始めた。
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さて、アリカに半強制的に連れて来られる形で、失踪事件に関する手がかりを探しに来たイッキ達だったが・・・
「も~っ、全ッ然手掛かり残ってないじゃない!?」
「そりゃあそうだよ。今回の事件は一応セレクト隊だって調べてるらしいし、手掛かりとかスクープのネタがあったとしても回収されてるんじゃない?」
「ああもう、普段は全く役に立たないくせに~~!!」
学校から出て十分ほど歩いたところにある自然公園。イッキ達が暮らしているおみくじ町の西側に隣接する形のこの公園はおみくじ町中央にある公園と比べて倍以上に広く、昔からの自然も多いことが特徴だ。その広さを利用した様々なメダロット競技用の施設が設けられていることもあり、
昔からイッキの遊び場としてよく来ている。
そのためちょっとした抜け道から分かりにくい場所まで全て熟知しているイッキも渋々とはいえアリカのスクープになりそうなものを色々調べてはみたものの、変わったところや目ぼしいものは全く見つからない。なのでそういう結論を出したのだが、
「イッキ!あんたのお父さんセレクト隊よね?隊長のトックリさんとも仲良いし、ちょっとセレクト隊まで行って回収したもの貰ってきなさいよ」
「むちゃくちゃ言うなあ・・・そんなことしたら二人に迷惑かけちゃうじゃないか。
それに本当にセレクト隊が持って行ったかも分からないし」
「ならその確認もかねて行ってきなさいよ。あたしよりあんたの方がいいでしょ?」
「・・・とりあえずもう少し話を聞いてからね」
聞き込みも捜査の基本だ。ここにいる野良メダロット達の大半はいたずら好きでいきなりロボトルを仕掛けてくるためこちらから聞きに行くのは難しいが、
「というわけでまずはメダスピードキング競技場へ!」
「・・・あんた、ただ遊びたいだけじゃないでしょうね?」
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「こんにちはー」
『お、来たか天領イッキよ。今空いているがどうだ?レコード塗り替えに挑戦してみるか?』
「え?そうだね、じゃあひとっ走り・・・」
「遊びに来たんじゃない、わよ!!」
「ぐはっ!」
思いっきり背中を叩かれて一瞬呼吸が出来なくなる。が、アリカはそんなイッキの姿には目もくれず何事も無かったかのごとく受付のメダロットに聞き込みを始める。
「ねえあなた。ちょっと聞きたいことがあるんだけど、最近この辺りで何かおかしいこととか無かった?」
『え?いや・・・その・・・特には』
「何でも良いのよ?どんな些細なことでも」
ずずい、と迫るアリカの剣幕に若干押され気味のメダロット。恐らく本当に何も思い浮かばないのだろうが、アリカはそんなことお構いなしに詰め寄っていく。
一方、
「えっ、レコード変わってる!?」
呼吸困難から回復したイッキは壁に貼ってあるランキング表――その下にはトップのタイムも書かれている――の順位を見て軽く衝撃を受けていた。
「はあ?ちょっとイッキ、何サボっ・・・」
『おお、気付いたか!実は昨日見たことの無い奴がフラッと訪れてきてな。長らく変わっていなかったお前の《木と林》コースと<《土と岩》コースのレコードを塗り替えて行ったのだ』
イッキがランキングに気付いたことでアリカから開放されるチャンスだと感じたのかメダロットがズズーっと車輪型特有の音を鳴らしながら近づいてくる。一方のアリカも「見たことの無い奴ってひょっとして・・・」と目を輝かせているが、イッキと話しているほうが情報を掴み易いと思ったのか近づいては来なかった。
「どんな人だった?」
『うん?そうだな・・・走っていたメダロットについては規則なので話せんが、メダロッターの方はお前と同じくらいの年だったぞ?まるで爆発しているようなツンツン頭が特徴で、フラッと来てフラッと去って行った・・・そう、まるで風のようなヤツだったな』
「風・・・」
それはよく使われる比喩だが、イッキは何故かその表現が気にかかった。
とはいえ、考えても答えが出るはずも無く。
「その人について他に何か分からない?」
『さあ・・・名前ならそこに書いてあるがそれ以上は分からないな』
「そっか・・・」
予想通りの答えなので特に落胆はしなかったが――アリカはひどく肩を落としているが――こればかりは仕方ないだろう。
(これ以上は何も分かりそうも・・・ん?)
「仕方ないわね・・・イッキ、次行くわよ!」
「あ、うん。ちょっと待って・・・」
押しかける形になってしまった受付のメダロットに別れを継げた後、イッキアリカを追ってメダスピードキング場を後にする。
(風みたいなメダロッター・《ユウト》か・・・)
ランキングに新たに書かれていた件の少年の事を考えながら、そしてランキング表に
というわけで、次でユウトが本格的に登場します!そして多分メタビーも・・・出せると良いな。
ちなみに敢えてメダスピードキング場で出てきたメダロットを「受付のメダロット」と表記しましたが、彼は4にてコースやレベルをどうするか聞いてくる車両型の《バイバイクーン》です。本小説で一番最初に出したメダロットがメタビーでもロクショウでもなく彼になってしまったのは、《バイバイクーン》には申し訳ないが若干後悔してます・・・スマン二人とも、近いうちにちゃんと出すから・・・