「自己紹介をしよう」
突然の乱入者の登場とこの状況に戸惑うイッキ、未だ警戒を緩めないメタビー、そして憮然とした態度で腕を組み乱入者を睨み付けているであろうロクショウの中心に立ち、少年は突然そんなことを言い出した。
「親睦を深めるにしても互いの名前が分からなきゃ深めようもないからな。その必要がないって奴らもいるかもしれんが、まあオレたちは名乗り合おうぜ!今後のためにもな!
さて、まずは誰から名乗る?」
「・・・・・・」
『・・・・・・』
『・・・・・・』
・・・・・・・・
「って、何だこの重苦しい空気!?ねえ誰かなんか言って!?暗いよ重いよ自己紹介って感じじゃないよ!?」
『知るか。そうまで言うならお前からすればいいだろう』
「バカ、俺は最後の方がいいだろうが。物語だと喧嘩し合ったヤツは熱い友情を結ぶって言うだろ。だったらまずはお前らから・・・」
『この状況を見て俺たちが仲良くなれたと思うのか?』
呆れたようにそう言われ、ユウトも改めて三人を見回してみるが・・・
「・・・見えねえな」
『だろう?』
「いや、十中八九お前のせいだよな!?見るからにボロボロだし!?」
『バカを言うな。指示したのはお前だぞ?俺が悪いというならお前も同罪だ』
「だーかーらー、オレはここまでボコボコにしろとは言って・・・!」
「あの~・・・ちょっといい?」
困惑しているイッキと警戒しているメタビーをよそに、ギャーギャー口論を始めた少年とロクショウの姿に、イッキはつい口を出してしまう。
というより、突然のことについボーッと眺めていたが、ロクショウとは先程まで戦っていて、この少年の乱入によってそれが中断された形なのだ。彼らの関係、そして目的を調べなければ。
「ん?ああ、悪い悪い!肝心の主役ほったらかしてたな。
どうする、イッキ君から自己紹介する?」
「あ、いやそうじゃなくて・・・」
・・・・・・ん?
「あれ、どうして僕の名前・・・?」
「そりゃあ知ってるさ。メダリンピック優勝チームのリーダーにしてメダマスター。
自分が思ってる以上に君は有名人なんだよ。それに・・・」
スッと視線を横にずらしてイッキの隣、メタビーを見つめる。その視線などお構い無しで、メタビーはメタビーで少年を睨みつけているようだったが、
「――作り手じゃない方とはいえ、マザーに一太刀浴びせた《レアメダル》もいるからさ」
「!?」
『テメエは・・・っ!?』
その言葉は二人が動揺するに十分なものだった。メタビーが《レアメダル》だということを知っていることも驚きだが、今の発言。彼は数年前のあの戦いを知っている・・・?
「お、いい反応するねえ~二人とも。警戒と驚愕、そんなとこか。
なあロクショウ、やっぱ合格だろ?この二人はさ」
『お前の基準は俺が考えているものとは違っていそうだが・・・確かに実力は認めよう。特に天領イッキのレベルは大したものだ。
が、二人とも甘すぎる。危うすぎるぞ?』
「そこがいいんじゃんか。そんなもん経験次第でどうとでもなんだろ?つーか現時点でそういう甘さがないようなら逆に信頼できねえよ」
『・・・・・・』
『おいコラ、オレらを無視すんじゃねえ!』
再び自分たちそっちのけで話を進めようとしていた二人を見かね、若干キレ気味なメタビーの声が響く。とはいえイッキも内心同じような気持ちだ。いきなり襲ってきたと思ったらマスターの乱入で止め、今は自分たちそっちのけで話を進めている。流石に怒ってもいいだろう。
「ああ、スマンスマン。どうもオレってば説明が苦手なもんでさ・・・えっと」
『俺を見るな。お前に任せる』
「・・・後で覚えてろよお前?
まあいいや。とりあえずアレだ、ちゃんと説明はすっから二人とももう少し警戒緩めてくんない?」
苦笑しつつイッキ達に振り返りそう言う少年だが、果たして彼の言うとおりにしていいものか。 とはいえ、いつまでも警戒していては話が進まないのも確かなのだが・・・
「一応聞く気にはなってくれたみたいだな」
「一応、ね。とりあえず君たちは何者なの?なんで僕らを襲ったの?目的は?」
「いっぺんに聞いてくんなあ~」
まあ纏めるとそんなとこだよなあ、と頭を掻きつつ笑う少年。少しだけ何から話すか考えていたようだったが、
「とりあえずオレたちの素性から明かしとくか。オレはユウト、陸奥ユウトだ。
こっちは連れのロクショウ。色々あって二人であちこち放浪してる」
「色々?」
「そ、色々。長くなるからそれはまた今度な。
で、目的だっけ?こっちは単純だ、お前さんの問い2にも関係ある」
すなわち何故イッキたちを襲ったのか。いよいよ本題に入ることでイッキとメタビーに緊張が走る。果たして彼は件のメダロット失踪事件に関わっているのか・・・?
そして一拍の間を置き、少年の―――ユウトの口からその目的が明かされて、
「―――お前たちの力を貸してほしいんだよ。な、勇者!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
なんだ、どういうことだ?聞き違いか・・・?
「えっと・・・」
「ん、なんだよ聞き逃したのか?しゃあないな、もういっぺん言うぜ。
頼む、オレたちに力を貸してくれ!」
言い方は異なるが意味は同じ。どうやら聞き違いではないようだが、
「僕たちの力を借りたい?」
「ああ。手荒な真似をしたことは謝る、けどどうしても必要なことだったんだ。お前達の力がどの程度のもんか分からなかったから。
その上で、お前達の力を見込んだ上で頼みたい。力を貸してほしい」
「ちょ、ちょっと待って!」
突然の頼みに思わず混乱してしまう。僕らの力を貸してほしい?何故、何のために?
『ざっけんな!いきなり攻撃してきて「君たちを試したんだよ」とか言い放ちやがって。挙句の果てには力を貸せだぁ?ふざけてんのかテメエ!?』
「至って真面目だ。オレにはお前らの力が必、」
『ユウト』
「・・・なんだよ」
いよいよ本題に入り互いに熱くなり始めたそのとき、静観していたロクショウが不意に顔を上げユウトの名前を呼ぶ。流石に話の腰が折られすぎている――前半は自業自得なのだが――ことにユウトも苛立ったのか、不機嫌そうな声でそれに応じた。
「俺に任せるっつったよな?何か文句でもあんのかよ?」
『いや・・・だがどうやら時間切れのようだ。そろそろ来るぞ』
その返しにユウトは素早くロクショウへと振り返り、イッキたちもつられる形でそちらを見る。
見ればロクショウは真剣な面持ちである一点の方向を見ている。いや、これは見ているのか?むしろ・・・
「マジか?のんびりし過ぎたな・・・距離は?」
『ここから約300メートルといったところだ。先程の暗闇での戦闘でほぼ永続的に使い続けていたせいで《索敵》の精度も若干落ちてはいるから、これ以上詳しくは測れんがな・・・囮は?』
「七個置いてきた。けどアレもロボロボメダルみたいなもんだからな、長くは保たないと思うぜ」
『では彼我の距離と囮に釣られる時間、そして速度から考えると・・・』
「遅くても3分・・・完全回復させるには一体しか間に合わねえな」
再びイッキたちそっちのけで話し始める二人。が、今回は二人の間に遊びやおふざけの空気は一切なく、
「・・・しゃあねえか。メダロット転送!」
溜め息と共に新たにメダロットを一体転送する。突然のの行動にメタビーが臨戦態勢に入りかけるが、
「スマン、状況が変わった。話の続きは実戦の後にさせてくれ」
新たに現れたメダロットはまるでツインテールを思わせる頭パーツと、スカートとハイヒールを履いているかのような脚部パーツを持った女型のメダロット。白と青の二色で構成された機体色が見る目を惹きつけ、なんというか一部の男性メダロッターたちから人気そうなデザインだ。その見た目から恐らくはアリカの愛機・ブラスと同系統のメダロットだと思われるが、しかしイッキはこの機体を見たことがなかった。
『お呼びですかユウト?』
「ああ。呼び出して早々悪いんだけど、治して欲しいメダロットがいる。頼めるか?」
『承知しました。どの方を治せば?』
「ん、そこのKBT型」
ピッ、とメタビーを指し示す。無論いきなり自分を指差されたメタビーはギャーギャー騒いでいたが、呼び出されたメダロットからしてもその返事は意外だったようだ。両腕が壊れたままのロクショウをチラッと見て、
『あちらにいるお方を、ですか?』
「ああ。あそこで騒いでるヤツ」
『ロクショウではなく?』
『俺のことは気にしなくていい。この程度、少し休んでいればすぐに治る』
「まあそれはアイツも同様なんだけどちょっと急ぎでね。出来るだけ早く治してやってくれ」
『・・・分かりました』
首肯し、メタビーに向き直った女型メダロットはそのまま両腕を掲げて、
『な、何だやんのかテメエ!?』
『静かにしていてください。効きが遅くなりますよ』
『何言っ・・・て・・・?』
反論しかけたメタビーだったが、いつの間にか体のダメージが無くなっているのに気付く。いや、それだけではない。ロクショウに切り落とされたはずの左腕、それが何事もなかったかに様にメタビーの体にくっついている。
「《回復》行動・・・?ユウト・・・君?えっと、この機体は?」
「こっちに住んでるヤツには馴染みがないか?コイツはBLZ型メダロット《ブレザーメイツ》 コンセプトは若干違うが、まあSLR型メダロットの親戚みたいなもんだよ。補助要員としてかなり頼もしいメダロットだ」
見た目はアレだけどな、と笑いながら説明してくれる。そんな事を話している間にメタビーのダメージはみるみる消えていき、
『終わりましたよ』
『お、おお・・・!』
一分もしないうちにメタビーは完全回復し、その事実に本人も驚いて体中を見回している。
「サンキューな。そんで呼び出して早々悪いんだが、早めに戻ってくれ。これ以上ここにいると危ないからな」
「・・・は?」
『了解しました。二人ともお気をつけて』
そしてブレザーメイツはユウトのメダロッチの中に戻っていき・・・
「・・・さて、んじゃこっからが本番だぜお二人さん」
『これからが本番って・・・何があんだよ?』
治してもらったためか少しだけ警戒が薄れているが、これからが本番という発言。そして先程のブレザーメイツにかけた言葉がどうしようもなく不安をかき立てる。それはイッキも同様・・・
「すぐに分かる。ま、一つだけ言えることは・・・」
再びロクショウと同じ方向に目を向けて、ユウトは静かに呟く。何の感情も込められていない、それ故に現実味がある声音で。
「――オレにとっては最高の出会いで、お前らにとっては最悪の出会いってとこかな」
これから訪れるのは紛れもなく危険な敵だということを。
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(さて・・・)
背中に様々な感情のこもった視線が突き刺さるのを感じながら、ユウトは気にせず《待ち人》が現れるのを待っていた。あの日からずっと探していた連中、それに届く情報が、あと数分もしないうちにやって来るのを。
(やっべ、震えてきた)
恐怖ではなく、歓喜の震えが。まだか、まだなのか?一秒一秒すら今の彼には長すぎる。ロクショウが完全回復していなければ、否、敢えてそうなるように仕向けて強く自制しなければイッキたちを押しのけて自分たちが狩りたいと思うし、そうしていただろう。
しかしそれではダメなのだ。以前はそれで失敗している。自分たちの思うままに動いてしまえば、また手がかりを失ってしまう。あのときのように壊しすぎるわけにはいかないのだ。
(だからこの場はこいつらを使うのがベスト。こいつらの力が現状どの程度まで通用するのか量るチャンスでもあるし)
だからガマン。自分とロクショウはそのときまで動かない。もっとも・・・
(・・・来たか)
一人笑みを浮かべて思考を中断。一歩だけ退がり、森の中から現れた《ソレ》を迎える。
「――ようこそ。待ってたぜ、ずっとずーっとな」