そしてイッキたちも《ソレ》と対面した。メタビーが回復してから一分も経たずに現れた《ソレ》を。
「な・・・!」
『んだよ、コイツは・・・!?』
森の中より現れたのは真っ白な体をした無貌の人型の何かだった。それを見て真っ先にイッキが思い浮かべたのは《ワイヤエイリアン》など宇宙人をモチーフとしたALN型メダロットだが、そうではない。確かに似たような形状だが、両手には敵を引き裂くためであろう大きな爪を持ち、触覚のような角も備えたこいつはむしろ映画などに出てくるエイリアンそのものだ。関節や機械的な見た目などからかろうじてメダロットであろうことは分かるが、果たして本当にメダロットなのか?
そんなイッキ達の動揺など気にせず、《ソレ》はまるで死んだように固まっている。
『おい!テメエらは知ってんだろ、なんだコイツ!?』
「何って、メダロットだ。多分な」
「多分?」
「詳しいことは後々、な。それよりいいのかジッとしてて?死ぬぞ?」
クイっと《ソレ》を指し示すユウトの言葉に合わせて、もう一度二人が注意を向け直したときだった、
「っ、危ないメタビー!!」
『うおあっ!?』
文字通り目と鼻が触れ合うような至近距離まで詰めていた《ソレ》がゆっくりとその腕をメタビーへと伸ばす。なんてことのない触れ合いのような仕草、だが二人は全くの同時に否と断じて、
(よく分かんねえけど、コイツに触られるのはヤベえ・・・!)
メタビーは全身の力を足に込めて思い切り飛び退る!
イッキたちが注意を離していたのはほんの僅かな時間、だがその僅かな間に《ソレ》は二人に一切気付かれることなくメタビーに接近していた・・・
「・・・なるほど、普通じゃないね」
ここに来てようやく、「得体の知れないモノ」ではなく「脅威となるナニカ」に対する警戒へと認識が変わる。そしてなんとなく察する、今巷で有名な「野良メダロット失踪事件」 それに何らかの形で関わっているのはユウトではなく・・・
『とりあえず・・・ぶっ飛ばしていいよな?』
「・・・いけそう?」
『誰に聞いてんだよ?』
「・・・だね。」
確認はそれで十分。流石に警戒と緊張はまだ抜けないが、やることは決まった。いつも通りの二人として、このナニカを叩く!
「切り替えはえーな。もうちょい時間かかるかもとか考えてたんだけど」
「気になることは山ほどあるし頭の中こんがらがってるけどね・・・とりあえず僕らが今やりたいと思うこと、やらなきゃいけないことを優先するよ。
・・・後で君にも色々話してもらうからね」
意識は目の前に向けたまま、しかし一応はと返した返事にユウトは一瞬呆けたような顔をしたが、
「モチロン、オレも隠す気はないし何でも答えるぜ。今はお前らの戦い方が見れるならそれで十分だし・・・向こうも用意は出来たみたいだからな」
クックと笑いながら近くの木にもたれかかり完全に傍観にユウトは徹するようだ。
そして彼の指摘どおり、《ソレ》はまるで獲物を前にした肉食獣の如く四つんばいの姿勢でメタビーを見ていて、
「気を引き締めろよ?さっきも言ったけど《ソレ》はお前らにとって最悪なはずだからさ」
『忠告感謝する・・・ぜ!』
台詞と同時に開始早々《ブラスター》が火を吹く!遠慮も容赦も様子見も一切ない、攻撃方法こそ通常のガトリングだが、一発一発の弾丸が頭パーツやメダロットにとっての急所といえる部分に放たれている。まともに食らえば無事ではすまないが・・・
「な!?」
全弾命中、間違いなく狙い通りの全ての部位に直撃した。が、しかし弾丸は全て《ソレ》に当たった瞬間まるで何事もなかったかのように消失し、何の効果も得られていない。
(無効化系の能力!?でもシンプルだからこそ何の属性も持ってないガトリングを無効化する能力なんて・・・)
即座に思いつくのは《完全防御》と《完全無効》、だが前者の能力は自身ではなく味方を守るものであり、後者の能力も発動した形跡が全くない。
『なら、こいつでどうだっ!』
考察するより攻めるほうが早いと判断し、次にメタビーは《バリスター》を放つ!絶対命中と絶対貫通、《火薬》属性を持つメタビーの代名詞ともいえる武装もしかし、先のガトリング同様に《ソレ》に触れた瞬間に消失する。いや、ミサイルが命中することで発生する爆風が起こっていないことを考えると着弾すらしていない・・・!?
『なんだ、コイツ・・・!?』
「メタビー、退がって!」
驚愕している暇などない、《ソレ》はメタビー目掛けて矢の如く襲い掛かり、禍々しいその爪を伸ばす!
ギリギリでイッキの声に反応し攻撃を避けるも、僅かに爪の先がメタビーの体に触れる。それは掠り傷とさえいえない小さなものだったが、
『なっ・・・!?』
グラッと、腰を抜かしたかのようにメタビーが崩れ落ちる。
「メタビー!?」
『問題・・・ねえ!っと!?』
再度襲い掛かってきた《ソレ》の攻撃、今度は逆に力が入らなかったことで転げるような形になり掠ることなく躱すことに成功する。正直運が良かったとしかいえないが、それによってできた僅かな時間で体勢を立て直して大きく距離をとる。
『・・・イッキ、確かにコイツはヤバイぜ。こっちの攻撃が通じないだけじゃねえ、あいつの爪が掠っただけで全身の力が抜けちまった』
「ウィルスやバグみたいな《変動》?それとも・・・」
『そういうんじゃねえ。なんつうか、力が吸い取られるみたいな感覚だった』
力が吸われる、メダロットの攻撃技でそんなものをイッキは知らない。ということはコイツは新型なのか?いや、そんなことよりも
「攻撃は通じず触れるのもダメ・・・ってことは接近戦も無理そうだね」
『さっきまでは思いっきりぶん殴ってみんのもアリかと思ってたんだけどな、正直アイツに触りたくねえ』
「・・・彼らはひょっとしたらそのことを知ってたのかも」
木にもたれ掛かってこの戦闘を眺めるユウトと、同様に静観しているロクショウ。彼らの口ぶりからこの相手のことは知っているようだったし、その性質も知っていたとしてもおかしくない。となるとロクショウでは相性が悪いから自分たちに任せている・・・?
『かもな。けどもしそうだとするとよ・・・』
メタビーもその考えに至ったらしい。ユウトたちの目的は分からないが、自分たちの力が必要だと言っていた。だが現在のところ加勢する気もないらしい。それが自分たちを試しているからなのか別の理由があるのかは分からないが、どちらにせよ、
「僕らには、コイツを倒す術があるってこと」
『だとするとそいつは・・・』
ミサイルもガトリングも効かなかった。恐らく変形しても結果は変わらないだろう。だが、まだ手がなくなったわけではない。イッキとメタビー、彼らにとって最強の技はまだ試していない。
「いくよメタビー、《メダフォース》だ!」
『了解!』
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
次にとるべき行動が決まり、メタビーは力を貯め始める。《カブト》メダルの代表的にして最強の技、その発動のために。
「流石、スピリットやブラックデビルを倒した経験と実力は伊達じゃねえな」
二度の攻撃、そして掠ったとさえいえない僅かな接触で敵に何が有効的なのかを即座に思いつき、実行しようとしている。それが本当に効くかどうかは別にしても、自分たちが見たこともないような得体の知れない敵を相手に、緊張や恐怖心は決して小さくないはずだが、冷静さをほとんど失わずに次なる手を打とうと模索する・・・簡単そうに見えて、それは誰もが簡単に行えることではない。
「ま、宇宙人だの人間じゃない連中だのに何度も襲われるわ、ゴッドエンペラーの暴走に巻き込まれるわ、なんて修羅場は相当なもんだしな。あの二人ならこんくらいは出来て当たり前か」
正直、期待以上だ。やはり彼らの力は利用できる。一人、いやもしかしたら二人以上倒してくれるかもしれない。
『・・・やけに嬉しそうだな』
「そりゃあな。仲間候補は強いほうがいいだろ?」
『否定はしない。実際あの二人は大したものだと俺も思う。だが・・・』
「ああ、だな」
グルグルと肩を回しながら、木から離れる。見物の時間もそろそろ終わりだ。
「――そろそろ動くぞ、メタビーが食われる前にな」
まだ決着がついていないその戦場へと、ロクショウに指示を出して・・・
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『おおおおおお!!』
メダフォースで倒す、そう決めたはいいが実現するのは困難だった。何故なら、
『ギ・・・!』
『うおあ!?』
目の前を掠める敵の爪。ただそれだけで溜め込んでいたフォースの一部が奪われ消えていく。
間違いない、コイツはメダロットにとっての脳であり命である《メダル》が生み出すフォースを吸収する力を持っている。直撃は勿論、掠ることすら許されない。つまり、この相手に対しては「敢えて攻撃を受けることで、逆にフォースをチャージする」というロボトルにおける一つの戦術が取れないのだ。本来であれば既に準備が終わっているはずなのに未だ発動出来ない原因はそこにある。更に、
シャ・・・・・・ッ
『クッ、コイツまた速くなってねえか!?』
力を溜めれば溜める程に、それに比例してメタビーだけではなくこの敵の動きもより速く、より鋭くなっているように見える。つまり、メタビーの力に合わせて強くなっている。
(かといって普通の攻撃が通用しねえしな・・・)
力を溜めれば相手が強くなる、ならばメダフォースはむしろ最悪の結果を招くのではないか?そんな考えが一瞬チラつく。が、ならばどうする?他の手段が通用しないのは既に実証済み、逃げるなんて選択肢は端から存在していない。そんなカッコ悪い真似は出来ないし、そもそも実行できる相手でもないだろう。この相手はここで倒さねばいけない、使命感や義務感ではなく本能的にそう感じるから。
「メタビー!」
『分かってらあ!』
くだらない考えはそこで終わり。敵の猛攻に耐え続けて――間違っても逃げていたわけではない――いた時間はもう終わりだ。
『・・・ギッ』
『って、言ったそばからかよ!?』
まるでこちらの考え、行動を先読みしたかのごときタイミング。《ソレ》は先と同様一気にメタビーとの間合いを詰めてその両腕を伸ばす!
躱・・・ダメだ、この間合いでは相手の爪が届くほうが早い。なら、
『クソッ!』
人間でいうところの脇腹、そこに相当するであろう箇所に向けて渾身の蹴りを叩き入れる!こちらの力を吸収する謎の敵、今の一撃で再びチャージの時間を稼がねばならないかもしれない。それでも攻撃をまともに食らうのは避けねばならず、距離をとるためにも反動を利用するために行動だった。
そして、その行動は功を奏す。《ブラスター》も《バリスター》も無効化した相手だが、蹴りによる衝撃は無効化できなかったのか、あるいは当たり所がよかったのか。どちらにせよ相手は吹き飛ばされ、メタビーも距離をとることに成功する。
(なんだ、意外と肉弾戦だったら効いたのか?いや、それより・・・)
思いっきり触れてしまったはずなのにメタビーの体にはそれほど大きな異常はない。多少フォースは吸われたようだが、この程度なら秒もかけずに取り戻せる。
対して相手は吹き飛ばされ地面に倒れた状態からまだ復帰できていない。すなわち、好機!
「行くよ、メタビー!」
『ああ、キツイのかましてやるぜ!』
ジャキィッと両腕の銃身を《ソレ》に合わせる。ここからは素早く動きまわる移動砲台ではなく、大威力の固定砲台になる時間だ。さあ、《カブト》メダルの代名詞。最強の砲撃の威力をとくと味わうがいい!
「メダフォース発動!」
「『―――《一斉射撃》!!』」
宣言と共にメタビーの両腕、そして頭部の全ての砲身から銃弾・大砲・ミサイル・果てはフォースを凝縮したようなビームといった、メタビーの基本武装には備わっていないであろうタイプの射撃技に至るまで、ありとあらゆる砲撃が放たれる!その全て、一つ一つの攻撃全てがそれだけで相手に甚大なダメージを与えられるであろう凶悪な一撃。それが十、二十、いやもっと!全てがただ一体の敵に向かって襲い掛かる!
――これが《メダフォース》 全ての《メダル》が保有し、そして生み出しているエネルギー《フォース》を最大限利用して発動する必殺技だ。《メダル》の種類、あるいは世代によって種類や効果は被っていたり異なっていたりと様々だが、純粋な攻撃系にせよ仲間を支援する補助系にせよ、その全てが通常の攻撃技とは比べ物にならないほどの威力や効果を発揮する。正に必殺技、奥義といってもいいだろう。なにせ《メダフォース》は一度発動したが最後、未熟なモノが発動しない限り必ず成功し、且つほぼ全てが絶対に対象に届く。つまり敵に対し発動した場合、相手は絶対に躱せない。対処する術は同様に《メダフォース》で対抗するか、そもそも発動させないかの二択しかない。
そしてメタビーが発動したのは彼の《カブト》メダルが持つ三つの《メダフォース》、その中で唯一にして絶対なる最強の砲撃《一斉射撃》だ。ありとあらゆる砲撃の嵐、その威力はメダロットが装備している射撃パーツの威力の合計値に委ねられる。当然高威力のパーツをつければつけるほどその威力は増していくが、メタビーとその《カブト》メダル専用に開発された《サイカチス》との相性。そして積み重ねられてきた圧倒的な経験値は他のどのようなパーツを装備したものよりも高い精度の攻撃を叩き出す!
「よし、完璧!」
思わずガッツポーズをとってしまいたくなる。威力、精度、どちらも申し分ない。今までどんな難敵をも退けてきた最強の技、その力をイッキは信じている。
倒した・・・もしそうでないとしても決して軽くはないダメージを与えられたはずだ。そう確信する。それは間違いではないだろう。油断、慢心、そういったものとは一切関係ない純然たる事実。だから・・・
『ギギギギギギギ!!』
――《メダフォース》を躱して、メタビーに襲い掛かる敵の姿。それに気付くのが遅れたとしても責めることは出来ないだろう。
「嘘っ!?」
躱された、その事実に驚愕する。耐え切ったのなら分かる、その場合は絶望しか感じないが敵の力の一端を知っている以上《メダフォース》を受けてもダメージが無いというならまだ分かる。だが躱した!?格闘ではなく射撃の必殺技、それも相手が立ち上がるまでの絶妙なタイミングだったはずなのに!?
「まずいっ!」
会心の一撃、だがそれが逆に反撃される上では致命的な隙となる。《メダフォース》を放った直後でメタビーは固まっている。今から反応するのは無理だ。イッキの脳裏に、メタビーが無惨に貫かれる光景が浮かび上がって・・・
「うわあああああああああああ!!」
ダメだ、死なせないぞ絶対に!気付けばイッキは走り出していた。向かうはメタビーの前、《ソレ》の前に立ち塞がるように!
『・・・なっ、イッキ!?』
「バッ、何やってんだお前!?」
ようやく意識を戻したのか、イッキの行動に戸惑いを見せるメタビーと後ろから誰かの声が聞こえた気がするがそんなものは無視だ。このままだとメタビーはやられる、ロボトルによる破壊とは別物の、想像したくもない結果が訪れる。
が、もしこの相手がメダロットならば。「人間」であるイッキの姿を見て攻撃を止めるかもしれない。《メダロット三原則》に対しては内心思うところもあるが、メタビーを死なせたくはない!
『・・・ギッ!』
だが《ソレ》は止まらない。狙いは後ろのメタビー、だが間に入ったイッキも容赦なく躊躇いなく貫くだろう。
(ああ、僕もここまでか・・・)
恐怖はある、がメタビーを見捨てて自分だけ逃げるなんて論外だ。そしてイッキは次の瞬間に訪れるであろう痛みに耐えるためにギュッと目を瞑った。