戦姫絶唱シンフォギアAA   作:マアア

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この話は物語が始まる前の前日端的なプロローグに位置します。
直接的な表現は避けてあるけど名前を隠す気はないのでわかるでしょう。

———dies irae を知っていれば、ですが。



Vorspiel

 

 

―――例えるとしよう。

お前が心酔する人がいたとして、その御方にお前は死ねと言われたとしたらお前は死ねるだろうか?

 

実際にそのような状況になった人は殆どいないと考えた時に考えられる答えはおおよそ是だ。だが、実体としてそうなった時に答えるとなると半数は否と答えるだろう。

 

―――それがどれだけ愚かしい話か分かるだろうか?

 

心酔するものに死ねと言われて死ねない、それは本当に心酔と呼べるだろうか?

 

中にはその心酔相手が間違っていて、それを止めるものこそ真の忠心だという馬鹿もいるかもしれない。だがそれは心酔ではない、そのものに酔えていない阿呆が、愚かしくも対等の存在になろうといううつけ者の台詞だ。

真の心酔とは心酔先の御方がどれほど間違えていようと、愚かしい事をしようとその御方のすべてを愛し、ついていくという事だ。

 

 

 

 

―――故に私はあの御方を、赤騎士を尊敬していた。

 

かの御方の爪牙であることを誉とし、かの御方の為にありとあらゆることをするあの御方は黒円卓の中で、あの御方の配下の中で最も素晴らしい御方だと考えていた。

否―――正直に言ってしまえば黒円卓より遥か昔、あの人の部隊に入った時から私はそう考えていたのだろう。

 

彼女こそがあの御方の配下に最も相応しいと。

 

そして、そんな彼女の部隊に入れたことこそこの身の誉だと言い切れる。

 

 

 

――――だからこそ、あの男は気に喰わない。

 

水銀の蛇、■■■■■■と呼ばれるあの男は筆舌に尽くしがたいというより存在を認めるものなどただ一人、あの御方しかいなかった。

 

それ以外の者たちは一様にあの男を嫌っている、嫌悪や吐き捨てることさえもする。

無論、私もそうだ。

あの男を好いた人物などこの世に誰一人として存在しない存在することなどあってはならない。

あの男は毒であり、劇薬であり、害悪なのだから。

 

生きていることすら許し難い。

 

そのように恨まれてなおあの男が生きているのはもはや謎なのだが、そこは憎たらしい事だが我らが主君、黄金の獣、メフィストフェレス(愛すべからざる光)の名を持つかの御方、■■■■■卿と同格であるということだろう。

 

かの御方に並び立てるという事だけでその格は憎たらしいことだが示されている。

だから私はあの男の事は嫌い、嫌悪し、唾棄し、されど認めていた。

 

あの男は■■■■■卿の友であり、あの御方にだけは嘘を吐くことはないと。

 

だから――――あの時、あの瞬間、私は裏切られたと思ったのだ。

 

 

『―――卿らの働き、真に大儀であった』

 

その日は怒りの日、終末の時で、世界は宇宙であった。

それは世界すら俯瞰する光景、世界を掌握できる場所で私はかの御方の鬣の一つとしてあの男、かの御方の友人である水銀の蛇と戦った。

 

串刺し公が魂を吸い、魔女の鉄槌が足を引き、死を喰らう者と獅子心剣が一撃を入れ、戦乙女が光を指し、魔装砲兵が迎撃し、悪名高き狼がこじ開け、鋼鉄の腕がその先を切り日開いて、そして我らが愛すべからざる光が貫いて――――相討つこととなったのだ、かの水銀の蛇を。

 

『私は今、ようやく、生まれて初めて全力を出して戦った―――その結末がこれだ』

 

我らはかの御方の鬣、かの御方の意の通りに水銀の蛇と全力で死闘()し、その結果共倒れの結末を迎えた。

 

『皆にはすまないと思っている。 だが――――私は確かに満たされたのだ』

 

そこに悔しさも、虚しさもありはしない、ある筈もない。

勝てなかったことは心残りになるかもしれないが、あの御方は確かに満足していたのだ。

故にその結末が敗北であったとしても、あの御方が満足しているのだ、それだけで満足するべきだ。

 

黄金の宇宙が砕け散り、あの御方の鬣が消え去ってゆく。

敗者には当然の真理であり―――それはあの男も同じだった。

 

『卿等に今一度感謝を―――今宵、我らは別れることとなる』

 

そしてかの御方も徐々に輪郭が解れるように消えてゆく。

無論、あの御方の一部である私も。

 

『那由多の果となろうとも、卿等の健闘、そして我らの戦いを忘れることはない―――別れの時だ』

 

徐々に近づく最後の時、名残惜しく、しかし時間は止まる筈もない。

だが――――その時私は見た。見てしまった。

 

『―――貴女に恋をした、貴女に跪かせてほしい、花よ』

 

蛇は、あの御方と同じく崩れて始めていた。

しかし表情には悔いも何もなく、むしろ万事が予定調和で終わったとでも言いたげに笑っていた。

否、事実そうなのだろう。

■■■■■■■■の聖遺物は、あの女は流出に至っていたのだから。

 

『これで貴女の覇道を邪魔する者はいない。貴女が統べる時が来た。その行く末を見届けたいとは思うが、何分私はもうこの先に飽いてしまっていてね―――貴女に抱きしめられたいのだ』

 

それは―――あの御方さえもあの男から見れば踏み台でしかなかったという事を表していた。

全てはあの女にこの座を安全に渡すための芝居。

■■■■■卿を唆したのも黄金錬成も全てそのためでしかないという事を示していた。

この男は■■■■■卿に世界を()させるつもりなどなく、あくまで■■■■■卿さえも道具にすぎないという事だった。

 

――――ふざけるな。

 

激情が漏れだす。

怒りがマグマのように煮え、殺意が形を作り、思いが漆黒を孕む。

 

―――貴様がまだ取るのならば許せた。

 

崩れてゆく体を意思だけで抑える。

怒りだけで体を前に進める。

 

―――だが、知らぬ小娘に、戦ってもいない小娘の為に我らが王の覇道を譲るなど……ッ!

 

永劫破壊のないこの身は所詮髑髏。

だが蛇が許せぬ、我らが王の覇道を策に利用するなどという憤慨で我が身は今限界を超越していた。 

 

『――――――――――――』

 

口から言葉が漏れだす。

空気を吐き出すことさえ本来出来る筈のない身体から意味のある音が漏れだした。

 

―――知っている。

 

それは渇望だ。

私の心の奥底が思う事、望むことが形にするものであり――――私という存在をどこまでも端的に表現したものだ。

 

口から次々と言葉が溢れだす。

 

―――かつて水銀の蛇は言っていた。

 

永劫破壊と呼ばれる物は所詮神に至るための補助輪でしかないと。

 

―――ならば、永劫破壊など窮極なくとも神と等位階になるのは、狂おしいほどの、世界を塗りつぶすほどの渇望さえあれば可能なのだ。

 

 

 

故に。

 

 

 

「―――■■―――」

 

かの日、怒りの日。

私は世界を塗り替えた。

水銀を許せぬ故に、黄金を絶やさぬために、私の渇望が世界を包み込もうとして――――。

 

 

 

 

―――私は、失敗した。

 




またしばらく更新はできないかも……
それと短くて申し訳ない。
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