時系列は飛びシンフォギア一話の本編編スタートです。
といっても今回の話はあんまりどころか全く進んでませんが……
後ビッキーと未来さんも出ないし。
望まぬ覚醒の鼓動・Ⅰ
東京都心より大分離れた静岡と山梨の境目にある御山。
その麓にて戦う人たちがいた。
緑と茶色の迷彩柄で彩られた衣装に身を包み、銃器で身を固め、戦車の前面に出る彼らは国を護る使命の元戦う男達、自衛隊の隊員達だ。
相対するは極彩色の異形、特異災害に指定される『ノイズ』。
人類の天敵であり、人を炭化させる能力と攻撃を無効化する透過能力を兼ね備えた化物だ。
当然、両者の間にある力の差は大きく、自衛隊がノイズを一体殺す間に人が5人以上死んでいく。
今も、また――――。
「ひ、っぁ―――――――!」
『――――――――』
「曹長ッ!? っのヤロォッ!!」
悲鳴、雑音、怒声。 流れるように音を奏でていく。
男が地に膝を着けた姿勢でロケット砲を撃てば爆発音が鳴り響き、爆炎にまぎれて突撃するノイズに身体を貫かれる、誰かがそれを見て炭化していく仲間の体ごとショットガンでノイズを消せばその男に別のノイズが突撃して炭化させる。
最初は200名あまりの中隊であった自衛隊の面々は瞬く間にその数を減らし――――3分の1が死んだところで自然と後退していく。
しかしノイズは人を逃さぬというかのように徐々に数を減らして行く彼らへと狙いを定めて進撃してくる。
ただ近づいてくるだけのノイズには弾が届かず、故に近づくのを止めることは出来ない。
「やっぱり無理だっ……勝てるわけがないッ!」
―――やがて恐怖に負けた誰かが声を漏らした。
それは隊の中に少なからずあった人の声であり、現実を説明した言葉だ。
人の身ではノイズに勝てないのは当然のことなのだから。
銃声の中嫌に響いた声、そのせいかジリジリと恐怖が勝っていくかのように前線の面々の足が一歩二歩と後ろに動く。
「狼狽えるなッ! 私たちが下がればその分市民が死ぬと思えッ! 死ねとは言わん、だが逃げるなッ!」
「――――隊長ッ!」
そんな中その男、彼らを率いる立場の30半ば過ぎの男はそう言った。
それは低く、重いながら響く声であり、しかし只の声でしかない。
それでもその声に下がっていた自衛隊員たちは死ぬとわかっている前に出た。
―――何故か?
勝てない勝負に進んで挑むのは相応の理由がいる。
彼らの場合それは護るためだろう。
国を護るため、人を護るため、自分の家族を護るため。
それを思うからこそ此処にいる者たちは特殊災害対策部隊という自衛隊の中で唯一自己申告制でしか入れず、任務従事時の死亡率50%を超える部隊に進んで居るのだから。
隊長もその一人であり、その思いを強く信じているが故に彼は重火器を手に前線に立つ。
「怯むなッ! ッ撃ェーーーーー!」
自身も手に持ったそれを撃ちながら、そう叫ぶ。
隊長が前線に出るのは正気の沙汰ではなく、本来あってはならないことだとわかっていながら、それでも隊員を鼓舞するために前に進む。
先が死であると知りつつも。
「隊長ッ! 右ですッ! !」
声に反応し彼は即座に撃つのを止めてズボンに着いている手榴弾のピンを抜き、衝撃を与え、落とすように手離しながら全力で下がった。
直後ノイズがその場に2体、突き刺さり、その姿を見ながら手榴弾が爆発するのを見た。
攻撃の瞬間透過を解くノイズの特性により彼はダメージを受けず、二体のノイズを倒しきる。
しかし――――爆風による衝撃の為に姿勢を低くすることを余儀なくされる。
―――それを見逃すほどノイズは甘くはなく、慈悲もない。
一般的なアイロンノイズと称されるそれは自身を槍状にして相手を貫く。
それは表面積が少なくなるという事であり、爆発によって飛び散る破片のダメージを最小限にし、爆風に乗って彼を串刺しにしようと迫っていた。
「―――隊長ぉーーーーッ!」
―――いかんな、避けられん。
背後からの悲鳴のような声に、目の前に近づいてくるノイズの槍に冷静にそう判断して、此処が墓場かと、最後に少しだけ後悔の言葉を紡いだ。
「――――死ぬ前に、一目会いたかったなぁ―――よ」
その言葉が言い切られる前にノイズは彼に迫り――――。
「――――断て」
「―『
目の前でノイズが地面事裂けると同時に、若い男の声と歌声が響いた。
その声を隊長は知っていた、否、その少女の歌声を皆が知っていた。
なぜならその音は、その声は、その少女は――――国民的アイドルなのだから。
《絶刀・アメノハバキリ》
『――――――――――♪!』
空より降り立つ少女。
その姿に身に纏うは剣。
青と黒と白で彩られた戦装束。
唄いながらその護るための剣で彼女はただ、ただ一振りの剣として敵を切り裂く。
天より剣を降らせてノイズを蹴散らし、それで倒れぬ巨大なノイズは刃を大きくして一閃することで炭へと変えていく。
『――――――――!』
その中に歌が響く、思い出、誇りを無双の一振りへと変えて一つの剣へと昇華させる歌を。
その歌を聴いた隊員の誰もが唖然とする、彼らが知っているその少女、歌い、皆を笑顔にする平時とのその差に。
しかし、隊長は知っていた。
その戦う少女についても、目の前に宙から降り立ち、庇うように背を向けている男も。
「オッサン、いつまで伏せてんだ――――下がってくれ。 じゃないと危ないからな」
「――――すまない、感謝する」
その男を隊長は知っていた。
隊に入り、数度のノイズと戦いながらも何故か長生きできた故に、その男を見る機会があったからこそ知っていた。
至って普通の私服を身に纏い、オレンジが掛かった髪の毛をたなびかせている少年を、その右腕の黒赤腕を。
「礼はいい、下がってろよ―――危ないからな」
「――――ああ」
そう言って前に駆け出す彼をただ見ている事しか出来なかった。
立ち上がり、後退すると同時に沢山の部下に詰め寄られる。
「隊長っ! よかった……」
「隊長、お怪我はッ!?」
「隊長、よくぞご無事でッ! ――――しかし彼らが、危険ではッ!?」
「ああ、そうだが、まずは落ち着け―――あいつ等は特機部二の連中で、ノイズ対策の正真正銘専門家だ」
特機部二、その呼び方が意味することを知らないものはこの部隊にはいないだろう。
特異災害対策機動部二課、ノイズ対策及び聖遺物関連に対して強い力と声を持ち、それゆえに暗に邪魔だと皮肉を込めて言われる字名を。
「あれが、特機部二……」
「そうだ。 あれが
――――そう、俺たちのような半端もんと違ってな。
そう言おうとした口を閉じ、前を見る。
その身全身を一振りの剣と変えて切り刻む乙女と右腕を凶器に格闘を交えて倒す益荒男。
その二人を複雑な心境で見据えて。
「とりあえず今言えることは……アイツらがノイズを殲滅した後、俺達には膨大な書類がでて寝れないってことと、死んだ奴らの遺族に下げる頭の準備をしなくちゃなんねえってことだ」
暗にもう死ぬ危険はないという事を交えた発言の意味を理解したらしい隊員がほっと笑う中、彼は再び二人を見つめていた。
「すまんな、若いの。 お前達に任せる事しか出来なくて」
隊員達に死者を思って暗くなれとは言わない、助かったのだから。
しかしせめて自分位は死者を悼み、今目の前で戦っている戦士二人を応援するしか出来ない不甲斐なさを籠めたその声はノイズが散る音に混じり、聞こえることはなかった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『――――――――!』
それは雑音だ、人を殺す足音を鳴らしてやって来る殺意の群れ。
あの日、戦うことを選択してから約二年の間、十数度戦いに身を投じるうちに自然と慣れたような気がするが、それでも少しだけ緊張する。
故に呼吸を整える、意識を埋没させるように冷静に、基本を思い出してと反芻して、自然に修行の光景が頭に過ぎる。
―――ひたすら坂道をマラソン。
―――映画をまねて調息。
―――足を木材の上に載せて腕立て伏せ。
―――逆立ちしたまま腕立て伏せ。
―――鉄棒を膝で抱えてバケツに水入れ。
―――稲妻を喰らうようにと言われながらサンドバックを殴る。
———そしてタイマンで師匠と殴り合い。
―――――――――
―――――――
―――――
……ロクな思い出がない。
そう自嘲しながらも落ち着いた精神に反応して体は正確に、叩き込まれた通りに脱力、それから中腰に落とし、右拳を引き絞る。
精神が研ぎ澄まされ、前面にいる十、二十を超えるノイズの群れに対して余裕を持って息を吐き捨てた。
「食らいやがれッ!」
体に溜まっていたフォニックゲインを右腕に集め、収束しそれを拳を振り切ると同時に放出する。
あの時、初めて起動した時から変わらないこの右腕で扱える唯一の技。
割断に特化したその一撃は水平に眼前のノイズを真っ直ぐに切り裂いていき、敵の群れに風穴を開ける。
その穴に一足で1秒も経たず入り込み、回し蹴りを右側の敵に向けて放つ。
衝撃波を伴った足の破壊力は直撃したノイズを含め5体ほどのノイズを纏めて穿つ。
そして回し蹴りの軸足と蹴りを放った足を入れ替えて左側の敵もまた同じように蹴り砕く。
対抗するかのように人型のアイロンノイズとなめくじ型のスラグノイズが飛び跳ね、上から押しつぶすように10体ほどで山を作る。
当然生身の部分に接触される故に本来であれば炭化する、しかしそれは全身を巡るフォニックゲインに阻まれ、無効化される。
無駄だとはいえこの量は邪魔だ。
「―――っ、破ァ!」
故に息を一度吸い、全身から師匠……弦十郎さんから教えられた発勁の応用技でフォニックゲインを放出し、殲滅する。
炭の雪が降りそそぎ、視界を灰色に染め上げる。
その中で残敵を探し、しかしその灰全てが落ちる頃には、他のノイズは近くで戦っていた彼女、翼が殲滅し終えていた。
「――――終了、か」
言葉にして、確認するように呟いたところで耳に付けていたインカムに通信が入る音が響く。
『ノイズの反応消失を確認お疲れ様、二人とも。 もうそろそろ帰還のヘリが着くから到着次第乗って帰ってきてくれ』
「了解しました」
「ありがとうございます、藤堯さん」
どういたしまして。 と言葉を残して通信のスイッチが切られる音がして、その通信を最後に戦闘に張りつめていた気をフッと抜き、右腕の黒赤腕が只の人の腕に戻る。
翼もまた、シンフォギアを解いたらしくリディアン音楽院高等部の制服に戻って、彼女が顔を上げた瞬間目が合い、一瞬切りつけるような視線とあの日、二年前の戦いを思い出し――――。
「――――まだ勁が未熟だな」
「いきなり嫌味かオイ」
「二年で、極められると、思うのか? であればそれこそ驕りだ」
「極められるとは思ってないけどよ……」
言われた言葉に肩をすくめることになる。
これが、今の俺と翼の関係、すなわち姉弟子と弟弟子というべきか。
心の痛みも、すれ違いも、二年という歳月で少しはマシになったのだろう。
肩を並べられるとは言わないがそれでもあの日、初めて力を扱った時の戦いの時に比べれば大分マシになっているのだと思う。
故に未だ柔らかい表情を見せず、武人のような振る舞いのままなれど、そこにかつてのような敵意の混ざった鋭さはないのだと、そう思いたい。
「ヘリも来たようだ、帰投するぞ――――蓮」
「……ん、わかったよ。 翼さん」
そう、このように少なくとも名前で呼び交わせる程度の距離にはなったのだから。
上空を飛ぶヘリのタラップを先に上り、後から上ってきた翼に手を貸して昇り終えたところでヘリの扉が閉まり、ゆっくりと動き始めた。
ヘリの後部座席に対面になるように座り、改めて息を吐く。
「はい蓮君、あったかいものどうぞ、翼ちゃんは飲まないのよね?」
「あ、あったかいものどうも、友里さん」
「はい、夜9時以降は取らないようにしているので……お気遣い感謝です」
同乗してきていたらしい彼女、友里さんがいつもの言葉と共に渡してくれた言葉にいつも通り返して、コーヒーを啜る。
「――――美味い」
「あら、前は苦いと言っていたのに」
「……むぅ」
自然に出た感想に対するからかう様な発言に若干頬が赤くなるのを自覚しながらそっぽを向く。
視線、目の先にはデジタル時計が映っていて時刻と日にちを指していた。
「――――4月5日、かぁ」
「む、出撃の時間が確かに遅かったがもう変わっていたか……今日はあまり睡眠は取れんな」
「俺も、だな。 今日はもう始業式だしなぁ」
今から二課に帰ったとして、家に着くのは深夜一時過ぎ。 立て込んでいる明日の用事を考えれば睡眠は4時間と取れない。
だがそんなことよりも気になったのは――――。
「……響と未来にどう説明しよ」
「? なにかいったかしら?」
「あ、いえなんも」
小声で言ったからちょっといぶかしがられたもののそれ、今日リディアンでおそらく会うことになるであろう二人、たとえ会わなくても放課後になれば確実に来るであろう二人からのメールに関して少しだけ頭を悩ませることになった。
自衛隊関連はまるっとねつ造です。
漫画版の方には自衛隊関連の話があるとか聞きましたが作者は持っていないので……
タラップを後から上ってラッキースケベなんてありません。
エロゲじゃないので(確信)
それと今回の話のノイズ襲撃は一話の中盤に会ったあれがいろんな原因で前倒しになったっていう話が合ったりなかったり。