―――夢を見ている。
そう気が付いて夢を見ているとき、決まって知らない人物が現れていた。
金髪の軽薄そうな男、橙色の元気そうな女、黒髪ロングのめんどくさそうな女、蒼髪の軽薄そうな女、紅髪の胡散臭そうな女、金髪ロングの常に笑っている男、薄い青色の巨乳の女、そして白髪無表情の女。
誰もどれも知らない人だ。
だけど決まって、その人物たちとの夢を見るときはどことなく懐かしい気持ちと気分になる。
だから今回もきっとそうなのだろう。
今見えようとしている夢もきっとそうなのだろうと、そう思って夢の中へと意識が埋没していくのを感じてやがて―――――――。
磯の香りがした気がした。
つまり今度の場所は何処か知らない海岸だろうかと予想して目を開いて――――――。
「………ぁ」
その光景に目を奪われた。
予想していた場所で、予想以上のその光景に。
何処までも無限に続く黄金色の太陽に包まれた夕焼け、黄昏の世界。
自由で、穏やかな波が無限に広がり流れ出す海。
緩やかで、起伏のない、なにも起きていないを象徴するような優しい世界。
争いのない、諍いのないそんなその場所を一目見て――――焦がれた。
――――こんな世界に生きたいと。
ゆっくりと砂浜に腰を降ろし、波の音に揺蕩いながらそう思った。
穏やかで、代わり映えのなくていい世界、それが自分の理想だと一目見て理解し、それが今此処にある。
これを幸せと言わずして何と言えばいいのか。
穏やかでいい、変化なんてなくていい、こうしてただゆったりとしているだけで幸せな気分に慣れるこの場所で永劫にこの瞬間を味わい続けたい。
そう思った、はずだった。
「―――足りない」
これ以上ないほどに満ち足りたはずのこの場所、だけど何故か、何かが欠けている気がして周りを見渡して―――――歌声を聴いた。
『―――――――――――』
聞き慣れない言語、故に意味は分からないけれどその歌声はとても慈愛に満ち溢れていた。
一節聞いただけで分かるほどに、その声には慈しみと愛に満ちた声で、誰が歌っているのか気になり体を起こして立ち上がって見渡して――――海岸の砂浜、その後ろの若干丘陵になっているその場所にその少女はいた。
『――――――――――』
一枚の布をドレスのように身に纏い、絹糸のような金髪を細い腕で抑えながら目を閉じて楽しそうに歌っている少女がそこに、いた。
断頭台を背にして、とても楽しそうに歌っていた。
おかしい、とは思えない。
何故かそれは自然であると思え、其処に異論を挟む余地などないと断言できた。
そして、断頭台の上部、その断頭台のギロチンを見た瞬間、右腕が疼くような感覚を覚えると同時に、彼女は此方に気が付いたらしく、その翠色の瞳を開いて俺を見ていた。
「あ、えっと」
「―――――ふふ」
ジッと見られて戸惑うように声を上げた矢先、彼女は今まで以上に綺麗な華の様な笑みを浮かべ、軽やかに此方に歩いて近づき、腕を広げた。
「久しぶり―――――だね、レン」
そう、笑いながら告げた。
だけど俺はしらな―――――。
「俺は、君を……知ってる?」
そう、俺は彼女を知っている。
当然のごとく知っている。
夢の中でしか会えないその存在の名前を知っている。
言われなくても当たり前、なぜ忘れていたと疑問に思えるほどに皆の名前が思い浮かぶ。
皆、皆大切な俺の―――――。
「俺……の……?」
そこから先は違うのだと言うように告げられない。
何かが可笑しいのだと感じ始めた時――――。
「レンッ!」
少しだけ驚いた様な、焦る様な彼女の声が聞こえて……。
『―――――――――♪』
気が付けば夢が覚めて、時計のアラームに設定していたお気に入りの曲が鳴り響いていた。
何も言わず、無言でアラームを切ってから起き上がって着替え、インスタントコーヒーの用意をして保温器に残っているお湯を掛けて一口飲んでから、ふっと息を吐き出した。
「―――夢、なんだったけな」
大事な何かを見た気がするのに思い出せない。
気になっても思い出せないから、今はどうでもいい事なのだろうと流して、とりあえずはとさっさとコーヒーを飲み干して、シャワーを浴びて寝汗を流すことにした。
10分ほどでシャワーから上がって、昨夜の仕事の後帰る途中にコンビニで買ったサンドイッチとサラダを食べながら端末を立ち上げる。
メールが二件、家族用ボックスに入っていた。
ボックスを開いて見れば予想通り、響と未来からのメールだった。
画面をタップして開いて、二つとも見て思わず笑いが零れる。
「――――アイツらときたら、似たような内容寄越しやがって……夫婦かっての」
端末を置いてサンドイッチとサラダを食べ終えてから軽く水で洗った後燃えないゴミ箱に容器を捨ててから仕事着に着替え、端末を昨日の夕方の中に用意しておいた鞄の中に入れて、玄関へと歩を進める。
靴を履いてから、もう一度だけ端末を立ち上げてメールを見直す。
『お兄ちゃんへ。 もう2週間ぐらいあってないけど無茶はしてないよね? 今日はなんと私と未来はリディアン音楽院の始業式なのです! お兄ちゃんにも制服姿を見てほしかったので写真を添付しときました、感想おくってもいいんだよ? それと今度暇な時があったらまた会おうねっ! 最近会えなくて私はちょっと寂しいし、未来もなんか話したそうだったよ?』
『蓮へ。 何も言わずに、いなくなっちゃったけど無茶はしてないよね? 今日は私と響はリディアン音楽院の始業式なの。 制服姿、蓮は見たことなかったはずだから添付したけど似合ってるかな? あと最近響が蓮と会えなくてちょっと寂しがってるから余裕があったら今度、蓮が暇な時、日曜日にでもあえない? 私も蓮と直接話したい事あるし……』
「……心配しなくても直ぐ会えるさ」
メールにそう言葉を零しながら玄関の扉を開けて外に出て鍵を閉めてから、直ぐに一方的にだけど会えるだろう二人に何を言おうか考えながら歩き始めた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ここ、私たちが今日から本格的に通う学校である私立リディアン音楽院の始業式が始まって早20分ほど、退屈に話を聞くだけだったほんのさっきまでとは違って今私、立花響は校歌の斉唱の一員として唄っていた。
『――――――――』
その場にいるほぼ全員が歌っているんだろう。
大きい体育館のようなその講堂の中で私達新入生と他の学年全員が椅子に座って校歌を歌っている今、始業式に校歌を唄うのは普通なんだけど……。
チラリと横を見れば前を向いて歌っている未来の姿が見える。
耳を澄まさずとも聞こえる歌声は全員音程がちゃんとしていて強弱とかもちゃんとしてる。
―――やっぱりみんなうまいよねぇ……。
そう思っていたらちょっとだけ音がズレて、未来がこっちをチラリと見るのが見えた。
眉尻が若干あがっているのが見えて、ちゃんとしてと暗に言っているのが分かる。
だから私もちょっとだけ頭を下げて、ごめんと言ってから改めて上を向いて歌うことに集中する。
『―――――――――』
この曲、この校歌の歌詞と歌が私は大好きだ。
太陽を仰ぎ見て、万の愛を学ぶ。
私にとって未来は陽だまりだから、未来を見れば万の愛を学べるのかな?
そんなことを考えながら、一分半ほどの短い校歌は気付けば終わっていた。
『―――続きまして、今年度より新たに皆のご指導をしていただく先生の紹介を……』
アナウンスで次の事に移ったのを聞いて、改めて歌い終わったんだとほっと息をつく。
座席シートに体重を預けると、左隣の未来が小さくつついてきた。
「響……さっきこっち見たけどどうかしたの?」
顔は前を向いたまま、私に聞こえる最小限の声でそう器用に声を出す未来に小さく頷く。
「皆歌上手いなぁって……ほら、私はあんまり上手じゃないから」
「確かに音を外してたけどそんなに言うほどじゃないと思うけど」
膝に手をそっと置きながら未来はそう断言した。
ならそうなのかなぁとちょっと思いつつ、でもと思う。
「私より未来の方が歌上手いし……」
「私は元々歌好きだし……それに上手い下手は今は置いておいて今から学べば大丈夫だよ」
「そうかなぁ……そうだよね。 ありがと、未来!」
小さくはにかんで顔を向ければすごく優しい表情の笑みが返ってくる。
私はそんな表情の未来が好きで、だからこそ思い出す。
未来がその表情を一番向けていた人物、お兄ちゃんの事を。
「――――そう言えばお兄ちゃんも歌上手だったよね」
「蓮も……そう言えばそうだったよね。 すごく意外だったけど」
立花蓮。
私のお兄ちゃん。 いちらんせいそーせーじで同じ日に生まれた双子の兄である人。
めんどくさがりで、いつも眠たそうで、学校をサボったりするけれど優しくて、なんだかんだいっつも一緒にいてくれたお兄ちゃん。
でも中学の終業式の日を境に家に帰ってこなくなってもう二週間以上たつ。
この私立リディアン音楽院が寮生活っていうのもあるけどずっといたのに会えなくてちょっと、すごく、正直に言って寂しい。
「一応メールにはたまに返事してくれてそこから仕事してることはわかったけど……今、どこにいるんだろうね、お兄ちゃん」
「―――私も知りたいかな。 そこ辺りあんまり教えてくれなかったし」
溜息を吐くタイミングは重なって、二人そろってちょっとだけ溜息をついた。
『最後になりますが、今年度より新たに入ってきた用務員の方の紹介です』
会話が途切れたその時は丁度始業式は工程の切り替えのタイミングだったらしくてそんなアナウンスをしていた。
まあどうでもいいよねぇ……用務員さんって基本私達と関わんないし。
そう思って再びチラッと隣へと目を向けて、目を見開いている未来がいた。
「嘘……」
「どうかしたの? 未来」
普段滅多に見れないくらい驚いた様子を見せる未来にちょっと驚いて―――――。
『ええ――――初めまして、皆様』
その聞き覚えのある声にそれ以上の驚愕を覚えて前を向いた。
向いた先にいるのは170前半位の身をスーツで包んで、私とよく似たオレンジ色の髪を短く切りそろえ、よく似た顔をしている男の人が壇上に立っていた。
「まさか――――!?」
少し声が大きく出る、周りからどうしたのかと視線を向けられるけどそんなことその瞬間に気にする余裕はなかった。
『先ほどの紹介どおり――――今日よりこのリディアン音楽院で用務員として働く立花蓮といいます。 まだ若年ですが用務員として精一杯頑張らせていただきたいと思っています、それと楽器などの修理なども簡易ながらできるのでそこ辺りで困った方も是非頼ってくれるとありがたいです。 それでは皆様、よろしくお願いします』
丁寧に一礼して、段を降りるときに一瞬私たちの方を見て片目を閉じるその姿はどうみても2週間前にいなくなったお兄ちゃんの姿だった。
「………とりあえず響、あとで用務員室に行ってみよっか」
「あ、み、未来さん? ……うん、そうだよね……そうすればわかるもんね」
「うん、今まで何処ほっつき歩いてたとかなに年齢詐称してんだとかその他もろもろちゃぁんと説明してもらわないと」
悪戯っぽい笑みを浮かべてこっちを見たお兄ちゃんにどうして私たちがこの席にいるのが分かったとかどうしてここで働いているのかとかいろいろ問い詰めたかったけどちょっと冗談抜きで低い声を出して不機嫌を全身で表している未来を見て私が言う必要はなさそうだと分かった。
まあこの様子の未来だとお兄ちゃんは間違いなく説教コースだけど……お兄ちゃんが悪いから、いっか。
『では、これにて始業式を終わります。 一年生から順番に教室に戻ってください』
「あ、だって未来。 ほら、立って立って、いこ?」
ちょうど放送もかかったしとりあえず今は教室に戻ろう。
低い声で笑っている未来の腕を引っ張りながら私はなるべくそれを聞かないようにお兄ちゃんと久しぶりに何を話そうかと考えることにした。
GXの8話見たけどビッキーのパパクズスギィ!
もしGXまで続いて蓮君がいたら多分確実に殴らせます(確信)
あとこの話の蓮君は髪の色と瞳の色がビッキーに近いカラーリングで想像するとその通りです。
ちなみに言うとdies本編と比べると蓮君はちょっとちっこいです。
現在はズバババンに身長で負けてます。