番外編に投稿予定のクリスちゃんの方の構想を練っていたら気が付けばテスト前並み感で時間が取れてないのです。
すまない……本当にすまない……
それともう一つ皆様に謝ることが。
今回ちょっと有名なキャラクターがこの話だけだと訳の分からないモブのような感じに登場しています。
この人について正確に開示されるのはだいぶ後になってしまいますがそれゆえになぜここで登場したのかなどはまだ聞かないで頂けるとありがたいです。
「おやぁ? これはまた随分と珍しい時間帯まで残っていますねぇ」
気が付けば寝ていたらしい、唐突にそう声を掛けられて、ハッと目を覚まして気付く。
聞こえた声の主は知っている存在、だけど俺がこの部屋にいる時間帯にこの人は基本帰って来ないはずなのにと疑問を抱き、時計へと目を向けて―――少しだけ目を見開く。
「時間の経過にも気付かないくらい悩んでいるとは……いやはやよっぽどのご様子」
呆れたようなその声が示した通り現在時刻は普段ならとっくの昔に仕事を終えて帰宅、もしくは二課での仕事に向かって30分と言った時刻、こんな時間までここにいるなど今日が初めてなほどだ。
すみませんと謝り、筆記具とかを仕舞って立ち上がろうとして、その人に呼び止められた。
「―――まあ帰る前に老人の茶に一杯、付き合いませんかね?」
そう言って自身で茶の用意をするその人は、一目で見れば蜘蛛のような50半ばの男性。
年齢に似合わずスラリと伸びた背筋と、細長い両手足がその身長以上に大きく不安定に見えるその人、幽鬼のような風貌からは考えられないほどの茶目っ気のある性格が校内でもひそかに人気を博している、このリディアンで用務員をしている人だ。
「で、付き合ってくれますかね?」
そう言いながら既に二人分のお茶を用意している姿が見える。
拒否するには少しだけ遅そうで、自然と肯定することになった。
「ええ、お付き合いしますよ、六条さん」
「おっと、立花君いつも言っているでしょう、私の事は下の名前で呼んでくださいと」
「―――すみません、朱虫さん」
宜しい、そう言ってその人、六条朱虫さんはにっこりと、朗らかに笑った。
促されて、再び席に着いた所で目の前にティーカップやお茶請けなどが置かれる。
「――――あ、手伝いましょうか?」
「いえいえ、まだまだ気を使われるほど年は取っていませんよ」
「ですけど……」
手伝いの申し出をやんわりと断り、テキパキと準備を終えた朱虫さんはそのまま流れるような動作で紅茶を淹れる。
目で追うだけでも動きに淀みがなく、洗練されているとわかる動作だ。
確かにこれなら邪魔になるかもしれないと思った時には既に準備が終わっている程にあっさりと、二人分のお茶の準備を終えて対面に座っていた。
「ほら、あったかいものどうぞ」
「あったかいものどうも………!」
目の前に置かれたティーカップを手に取り一口、口内と舌が紅茶に触れたその瞬間に衝撃が体を包み、シンプルな一言が浮かぶ。
「―――美味い」
ほっと落ち着く様な、暖かい味わいに自然とそう言葉を零していた。
「――――美味しかったです」
「ええそうですか、それは光栄ですねぇ、何分私こういう事しか取り柄がない物でして……して、立花君。 何かお悩み事があるようですが?」
お茶の席が始まって五分ほど。
俺も、朱虫さんも一服したところで彼はそう切り出してきた。
関係ないと切り捨てるには容易いのだけれど――――。
「そんなこと……とは言えないぐらいには」
お茶を飲んで気が緩んでいるからか、一人で悩むことに疲れて誰かに言いたかったからか、気付けばそう返していた。
湯呑を机の上に置き、前を向けば朱虫さんがそうだろうと納得したかのように頷いている。
「おやおや……重大膨大、心労大と言った様子……若いうちから大変なようですねぇ。 それは私のような他人には言えないことで?」
「はい……家族の事ですから」
「それはそれは……どうにも厄介な事の様で」
からりからりと砂糖を入れてティースプーンを回す音が響く。
やがてそれも止まり紅茶を飲むだけの暫くの無音、心配してくれた朱虫さんには申し訳ないけれど言えない内容だから口を閉じるしかない。
せっかく誘ってくれたのに、美味しい紅茶を貰ったのに空気をぶち壊してしまい申し訳なくなる。
少しだけ重くなったと感じる空気の中紅茶に再び手を付けたところで、ではと朱虫さんが切り出した。
「例えてみたらどうですかねぇ?」
「例え?」
「ええそうです。 何も直接話す必要なんてないのですよ。 一人称から二人称へ、直接から比喩へ、現実から虚構へ――――少し変えて、重要な部分は喋らず掻い摘んで言ってみたらどうでしょうか?」
「でも――――」
提案を受け入れたい。
自分一人で悩み続けた結果ひと月たっても何も解消しやしない、だけど尋ねられる相手が、話しても良いと思えるような人がいなかったからそう考えれば渡りに船かも知れない。
それでも、話すべきことじゃあないと少しだけ思う。
それがでもと言葉を作り――――
「なにより、私ももう年かあまり物覚えが良くなくてですねぇ……昨日の献立すら忘れるような様なのですよ。 だから立花君の話を聞いても明日には忘れていますよ」
「――――まだ若いじゃないですか」
そう言いながら少しだけ笑ってしまった。
それに、ずっと思いつめてて笑う暇もなかったのにあっさりさせられて改めてこの人には敵いそうにはないと思わされる。
「実は――――」
だから、逃げだとわかっていても、少しだけ頼っても、話してもいいんじゃないかと紅茶で口を湿らせた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「なるほどなるほど……まあ面倒くさい話ですねぇ」
要点を掻い摘んで説明すれば別の仕事を受け持っている俺の仕事に妹が気付いて、それを手伝おうとして、必要ないと言っているのに勝手に受けてしまったという説明に終わる。
問題点があるとすれば―――その仕事を止めさせようとしても聞かない事だ。
「妹さんの学業方面の成績は……?」
「あんまりよくない……ですね、それに同じ寮の部屋の友人にも迷惑を掛けてるみたいで」
「ではそちらからのアプローチは?」
「やったけど聞きませんでした」
おやおやと息を吐いて肩を竦められる。
朱虫さんは少し眉根を顰めて、眉間を少し揉んでいた。
「―――ふむ。 一旦簡潔に纏めましょう。 立花君は妹さんに仕事をやめてほしいのにやめてくれない。 あっていますね?」
「はい、夜遅くまでかかりますしただでさえアレな学業にも支障が出てるらしいので」
「だけどそちらを理由にしてもやめないと……困った物ですねぇ、本人はどういっているのですか?」
「へいき、へっちゃらとしか……最近は会話をすることもめっきり減りました」
「それはそれは……」
困った内容だと言いたげに朱虫さんは苦笑いをしつつ紅茶を飲み干した。
そしてティーカップを置いてさて。 と切り出す。
「では立花君、私から一言、助言をさせていただきましょう――――少し妥協をしてみたらどうでしょう?」
「妥協―――ですか?」
「ええ、貴方の発言を聞いていて思うことがあるのですよ―――――すなわち、覇を唱えすぎていると」
ジッと瞳を向けられる。
少しだけ――――居心地が悪い気がした。
「立花君は危険だからやめてほしい―――それを妹さんは無視し、拒否している。 そこにはおそらくですが押しつけが過ぎる所があると思うのですよ。 ただ否定するだけでは人は受け入れることは出来ません」
「でも――――」
それは出来ない。
危険だから、危ないから、そんな目には合ってほしくないから俺は戦ってきたのだから。
そう言葉を返して、しかし朱虫さんは苦笑を交えたままそれを肯定した。
「貴方の様な、妹さんの様な子を前に見たことがありますよ。 自身の決めたことはそれが本当の本当に間違いだと気付くまで曲げない、気付いても譲れないことなら結局曲げない子、そのくせ大切な人にはそんな気持ちをわかってほしい――――今思えば本当にめんどくさい子でしたが……その子は結局大切な人に全てを打ち明ける前に失ってしまいました―――そうなる前に立花君、君は話すべきです。 何せ今の世の中はただでさえ物騒な化物がいるのですし、無くしたものは戻らない、失ったものはどうにもならないのだから、話せるうちに」
老人のお話はこれで終わりですと朱虫さんは締めくくった。
「忠告は警告ではなく、あくまでも心に留めるもの。 それをどうするかはあなた次第です。 それでもと言い続けるか、少しだけ受け入れてみるか―――――まあ、私はどう転がろうと応援していますよ――――立花君」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
お茶会を終えて、今日は二課でやるべき主だった仕事はないためそのまま帰る日のはずだと思い返してから、扉を閉める。
廊下は大分時間が経ったことを示すかのように職員も、生徒の人影もない一種の寂とした雰囲気を放っている。
自身の歩く音が響くだけの静寂――――一人に満ち溢れたそこは一種の空間だ。
「――――妥協、受け入れること。 か」
だからこそ、さっき朱虫さんに言われたことが心に染渡る様に思い返される。
そして―――話す前より思うことは少しだけ増えていた。
響が戦うことは未だ認められない。
アイツが戦う事なんか望んでないし危ない目に遭ってほしくない。
それは未来と交わした約束で、自身に誓ったことだ。
だけど―――アイツはそれを受け入れない。
理由は分からない―――へいき、へっちゃらだから、私は大丈夫だから。 ノイズとの戦いで半分涙交じりにそう言っていただけだ。
―――なら、どうしてそう言って受け入れないのか?
「……わからん」
「なぁにが分からないの? 蓮」
「うぉッ!?」
ぼやいた瞬間に突然掛けられた声に驚きで肩が跳ねる。
かけられた声の方、右横へと振り向けば未来が壁に寄り掛かって立っていた。
「――――いつの間に」
「最初から、ずっとここにたっていたよ? 大体五分くらい前から」
つまりは考え事に集中していたせいで気付かなかっただけということ。
体の向きを変えて未来と正面から向き合って、現在地に気付く。
「職員室?」
「響がレポートの提出期限に間に合わなくて居残りで完成させて今提出中。 待っている所なの―――蓮は?」
「俺はちょっと朱虫さんと話してたら遅れてな」
「朱虫さん? ここで有名な?」
頷けば少しだけ驚いた顔を未来がつくる、そんなに意外だったのかと思いながら壁に少し寄りかかろうとしたところで――――職員室の扉が開いて、中から肩を落とした響が出てきた。
「はぁ……つっかれた―――って、お兄ちゃんっ!?」
「―――っ」
出てきて一言、驚きの声と共に少しだけ響は身を竦ませる。
警戒の姿勢であるそれはさっきまでなら俺もそうなっていたかもしれない姿だが。
「―――響」
「……何、お兄ちゃん?」
「レポート、問題なかったのか?」
「へ?」
話すことがあるから、話すためになるべく一月以上前の普段通りにそう言う。
結果は当を外されたのか呆気にとられた表情の響が出来上がり、其処におかしさを感じて少しだけ笑ってしまう。
笑い声は二人分響き、そう言えばと共に少しだけ笑っていた未来が言った。
「私も聞きたいかな、どうだったの?」
「あ、えーっとその……むっちゃ汚くてヒエロなんたらの文字かと言われました」
「それで?」
「――――今回だけは特別だってっ! イェーイっ!!」
少しだけ顔を曇らせていた響はそこで思いっきり手を上に上げて、笑いながらそう言った。
「ほんとっ!? イェーイ!」
「い、いぇーい?」
「っむ! お兄ちゃんテンション低いよ? いぇーいっ!!」
諸手を上げて喜ぶ未来とテンションに着いて行けない俺と、両者をひっくるめてテンションを上げる響、久しく行われていなかったノリに誰からともなく結局全員笑ってしまい。
『立花さんっ! 廊下ではしゃがないっ! ! !』
そう言えば職員室の前だと思い出したのは職員室から先生の注意の声が響いた後。
全員苦笑に留めてやっぱり笑い続けたのは10秒ぐらいの間。
「それじゃあ響は此処で待ってて、教室から鞄持ってくるから」
「いーよそんなの、むしろ私が」
「今日は響が無事にレポートを終えたご褒美。 それに――――」
未来の視線が俺を射抜く。
―――響とお話しする時間を作るから、ちゃんと話してあげてね。
そんな言葉を乗せた視線だと気付かないほど浅い付き合いじゃあない。
勿論、それに頷くことで返した。
「ん、それじゃあ行ってくるっ! ちょっと待っててね!」
そう言って走り去っていく姿は5秒と掛からず角を曲がって消える。
その足の速さに、そういえば未来は陸上部だったと久しぶりに感じた。
そんなことを思い出してからやるべきことへと目を向けて、覚悟を決めて口を開く。
「―――なあ、響」
「――――何、お兄ちゃん」
帰ってくる言葉はさっき未来がいた時よりずっと固い、だが昨日までに比べればずっと、柔らかい。
そして、俺の口調も昨日までを思い返せばずっと柔らかくなっている。
話すため――――話して、知って結論を得るために。
だからこそ、次の言葉は滑らかに出る。
「お前はどうして戦いを選んだんだ?」
昨日までは一度も聞かなかったそれ。
朱虫さんに言われたことを考えて思い出したこと、ただ単に否定することを止めて、一歩でも歩み寄るという事を少しだけ試してみようと思って聞いた。
返答の前に響は息を飲んで、一瞬目を閉じてから、真っ直ぐ此方を向いて、口を開いた。
「―――護りたいんだ。 多分だけど私は大切な人を、ノイズに襲われている人を、たとえ一人でも見過ごしたくないんだと思う。 一方的に、ただ無抵抗に襲われて、命を失うのは間違ってると思うから―――だから、私はノイズと戦うと決めたんだ」
「―――そうか」
答えを聞いて納得、というよりストンと落ちて当たり前だと感じるような答えだった。
同時に、どうしようもなく笑いが込み上げてきた。
当然、笑われたと響は少しだけむっとした様子。
「―――何笑ってるのさ、変なお兄ちゃん」
「この一月で、大分お前の事が分かんなくなったと思ったけど、変わってないと実感してな」
「むぅ……それ褒めてるの?」
「褒めてるよ、お前は凄い」
何よりも安心したのかもしれない。
俺と違って、力に溺れた訳じゃないという事実に何よりもまず安心した。
心底、ほっと、息を吐いた。
「……ん、お兄ちゃんは―――」
代わりに響がそう此方を向いてそう切り出した。
眼は真っ直ぐと、此方を射抜いている。
「お兄ちゃんはどうして戦ってるの?」
「言う必要は?」
「ある、だって私は言ったもん、言わなきゃ不公平だよ」
「―――護るためだ、お前を、未来を、これ以上危険な目に遭わせない、そう誓ったから戦ってる」
―――だから。
「お前は太陽でいてくれ、陽だまりと一緒に、平和な所にいてくれ。 危険な目に遭わない場所で、平和に暮らしてくれ――――柄じゃないだろ、拳振るうの」
「ん―――ありがと、お兄ちゃん」
とても嬉しそうに、だけど顔を横に振りながら響はそう言った。
「でも、私は戦うよ。 この手に力があるのに、無駄になんてしたくない。 私は、ノイズを倒すから」
真っ直ぐと視線が交差する。
―――妥協すること、受け入れてみてはどうでしょうか。
朱虫さんの言葉がリフレインする。
俺は――――。
「―――好きにしろ」
短くない葛藤の後。
受け入れるかどうするかを散々迷った挙句そう言った。
その言葉を言われるのは予想外だったのかかなり驚いたと言った様子。
「い、いいの?」
「ああ」
「ほんとに?」
「疑り深いな、随分と」
「だって……」
未だ信じ切れていないと言った様子でそっぽを向いて、響はごにょごにょと口を動かす。
「お兄ちゃん頑固だし、意地っ張りだし、その上自分一人で背負いこんじゃうし、そのくせ私が頑張ろうとしたら危ない事はするな、無理はするなとしか言わないのに……ちょっとヘン」
「頑固で意地っ張りで一人で背負い込むのはお前だろうが。 ……この一月の間ひたすらやめろって言い続けて結局響は辞めなかったろ? だったら――――」
響が危ない目に遭うことは今でも受け入れられない。
だけど俺がそれを支えればいい。
「お前がどんだけ無茶を、危険を冒そうとしても俺が守ればいい。 ちょっとめんどくさくなるだけだ」
「むむっ! それはそれでちょっと納得いかないッ! むしろ私がお兄ちゃんを護ってみせるよッ!」
「やれるもんならやって見ろ」
一拍置いてお互いに笑いが飛び出す。
二人そろって同じタイミングでまったく同じ様に笑う――――久しぶりの感覚だった。
少しだけ笑いが響いた後、俺は響に背を向けて、玄関へと向いた。
「―――それじゃ、俺は帰るよ」
「ん、私は未来と用事があるから」
――――また明日。
そう別れの言葉を言おうとした瞬間。
俺と、響の端末が鳴り響いた。
同時に呼び出しがかかるその端末は黒い『仕事用』のそれだ。
即座に俺も、響も息を詰めて、素早く/少し惑いながら端末の電源を入れた。
「「――――はい」」
『蓮君、響君聞こえるか? ノイズの反応を検知した。 今すぐ現場に向かってくれ』
「了解」
「は、はい」
その言葉は予想通りの内容、だから俺は迷わずに駆け出そうとして―――。
「響」
端末を切った響に呼びかけた。
どうしようと困惑した表情を隠そうともせずにいる響を安心させるように頭を撫でる。
「未来と用事があるんだろ、こっちは俺に任せろ―――師匠にも言っとく」
「で、でもッ!」
「最近未来と一緒にいてやれてないんだろ? 俺は大丈夫だから……未来を頼んだ」
返答を聞く前に俺は現場へと駆け出した。
オリジナル? 人物紹介。
六条朱虫
50過ぎた若干老いが濃く見えるOTONA。
あまりきれいではない面と長い手と足が特徴的で、それ以上に独特な声としゃべり方から発生する小粋なジョークがリディアンの中でひそかに人気の用務員さん。
どうやら本人いわく面妖な過去があるようで……?
今回の話は難産でした。
そもそも蓮君が受け入れられるように説得するというのがなかなか浮かばなかったりそもそもシュピ……朱虫さんがこのような説教をやるようなキャラじゃないとか色々問題が山積みだったりで本当に苦労しました並み感。
その上クリスちゃんをprprする話も同時並行で考えていますし気が付けば受験も秒読みのように迫っていたりと————いろいろ大変ですが、この作品は一応完結させます(迫真)なのでどうぞお付き合いいただければ幸いです