あしからず
プロローグ・Ⅰ
―――――夢を見ていた。
学校に行く夢だ。
それだけなら只のありふれた夢だけどそこは自分の知っている学校ではない、いつも行っている中学校とは全然違う学校。
制服も、教室も、先生も、友人も、誰一人として知らない学校に行く夢だ。
身体は意識に影響されずに勝手に動いて、学校のある教室の一つの席に座る。
おそらくこの夢の俺の席なのだろう。
座わり、椅子に体を預けるのと同時に、俺を見ていたらしい生徒が近づいてきた。
「おはよう■■君。今日もつまらなそうな顔ね」
近づいてきた黒い長髪の女生徒は口を開くなりそう言う。
多分きっとクラスメイトなのだろう。
だけど俺にとっては全く知らない人物でどう返せばいいのか困惑する。
「おいおい言ってやるなよ■■■■。■がこんな表情なのはいつも通りだろうよ」
俺が惑っている間に後ろから来たらしい男がそう彼女に声を掛けた。
後ろから前に来たその男は金髪で制服を着崩し、軽薄な笑みを浮かべて立っていた。
「ちょっと□□君! ■■■■って言い方いい加減やめて頂戴!」
「あー、はいはい今度な。で、どうしたよ■。今日はいつもに増してボケてんじゃねえか?」
男がそう尋ねてくるが、正直に言ってそれも当然だと言いたい。
だって俺は―――――お前たちを知らないんだから。
所詮夢の、俺の記憶の誰かのイメージでしかないはずだから。
「はぁ? オマエマジでボケたのか? 俺を忘れるとか普通あり得ねぇだろ」
「■■君、流石にそれは酷いわ。あんなに激しくしたのに……」
……何をだ?
「何って、そりゃあお前アレだろ? ナニ」
「べ、別にそんなことやってないわよ□□君! ちょっと、■■君! 貴方も何か言ったらどう!?」
そう言われてもナニがなんだかよくわからない。
そもそもおかしいことだらけだ。
どうしてこんな知らない奴ばかりの夢を見ているのか、どうしてこんなに現実味に溢れ、リアルなのか、どうしてこんなに、
―――――懐かしいと、心が思うのか。
分からない、解らなくて可笑しくなりそうだ。
でも、何故か、
この空間は嫌いじゃないと、そう思っていた。
「なあ――――――」
だからだろうか?
こんな不思議な、それこそ夢みたいな夢の中で、とりあえず思ったことを、なんとなく言ってみようと思ったのは。
きっと、この言おうとする言葉もきっと二人は知っているような気がして。
二人が、つまらなさそうに、面白そうに此方を見ている男と、めんどくさそうに、続きを促すようにこちらを見ている女の二人が見ている中、口を開いた。
「俺さ――――」
続く言葉を紡ごうと喉を震わせようとした瞬間―――――
「おにいちゃーーーーん! 朝だよぉーーーーーーッ!」
-----そんな声と共に、強い日差しが体を覆った。
「……ッ!?」
眠りについていた脳と目が強い日差しを受けて覚醒を促され、微睡をあっさり飛び越えて覚醒させられる。
「ぁ――――」
そして何よりも熱い。
初夏の日差しが躊躇なくカーテン越しではない直に体を照らす。
その熱に当然耐え切れずに起き上がり、目を開けることになった。
「おはようお兄ちゃん! 今日もいい朝だよッ!」
「……ああ、おはよう響」
目を開けた先にいた太陽の日差しよりも濃い色の髪の妹、立花響の屈託のない笑顔にこの起こし方を採用したことについての文句を掻き消され、溜息として吐き出してそう返した。
「……着替えてすぐ降りるから戻ってくれ」
「わかったッ! 間違えて二度寝しないようにね、気を付けてね」
「しねえよ。 完璧に目が覚めた」
軽口を返し、扉を閉じながらそう言って、すぐさまハンガーに掛けてある制服に着替え、ポスター一枚とベッド、それと音楽プレイヤーとその充電器に最低限の勉強道具ぐらいしかない自室から出て居間へと向かう。
ドアを開けて、居間に入ればそこには三人、家族がいた。
「おはよう祖母ちゃん、母さん」
言葉を返してくれる二人、祖母ちゃんと母さん、それに響は既に食卓についている、俺もすぐに座って、誰から言うこともなく同時に手を合わせた。
「「「「いただきます」」」」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「それじゃぁ行ってくる」
「行ってきますッ!」
「はい行ってらっしゃい、気を付けてね、二人とも」
母さんに見送られながら、夢とは違う通い慣れた道をゆっくりと歩く。
朝食の時は別段考えなかったが、登校時の退屈な時間も相まって自然と夢の事を思い返していた。
金髪の男、黒髪長髪の女。
心当たりも、記憶にもない全く知らないはずの二人、だけど男の方は
知っていると体が反応しているけれど知らない人物。
どういうことか……?
「……やっぱりわからん」
「? どかしたのお兄ちゃん?」
「いや、別に大したことじゃない」
夢についての考察で漏れた発言を耳ざとく聞いたらしい響をそう言ってはぐらかす。
夢の中で知らない奴と出会ったなんて話したら笑われるに決まっているし何より。
「未来が手を振ってるぞ」
「え、あ、本当だ、おはよぉーーー! 未来ぅーーーーーー!」
幼馴染が手を振っているのに気付いてるのに話すのを優先するような内容じゃない。
響に引っ張られつつ走り、そして彼女、小日向未来の前で止まる。
「おはよう蓮、響。今日も朝から元気一杯だね」
「もっちろん! なんたって今日の一限は体育だからねッ! 朝からご飯を三杯お代わりしてもう準備万端だよッ!」
「俺はむしろ朝から多く食いすぎて疲れてるんだけどな……つか響、運動前に食いすぎると吐くぞ?」
だいじょーぶッ! へいき、へっちゃら! と根拠のない自身を満々に学校への道を駆け出して早く行こうと響は促してきた。
「アイツは……なんであんなに元気でいられるんだか」
「あはは、でも元気じゃない響がいたらどうしたのか心配だしいつも通りが一番だよ……蓮もそう思うでしょ?」
「……まあな」
実際、響は驚くぐらい元気だ。
うちの家族と未来の家族の間では響を一言で表すのであれば太陽だと全員が言うくらいに明るくて、眩しい。
誰にでも優しく、気を配り、誰かの為に泣ける、我ながらよくできた妹だと思う。
本当に……。
「異性一卵性双生児とは思えないぐらい違うよな」
交差点の近くの店の鏡に姿が映っているのが見える。
顔も髪型も、基本的なパーツは似ているのに内部は全然違う。
響は誰にでも優しいし困っている人がいればすぐさま動く。
俺は親しい身内にしか優しくないし困っている人がいても直ぐには動かない。
趣味も好きなものも違う、本当に双子なのかと思うぐらいには。
「……私はそうは思わないけどな」
なのに、そんな俺を指して未来はそう否定した。
「だって、小学生の頃私が苛められてた時に真っ先に助けてくれたのは蓮でしょ?」
「……たまたまだ。 こっちにも被害がきたしあいつらのやっていることが気にくわなかったから」
「だとしても、だよ。 私が救われたのは事実で、いつも蓮と響が私を引っ張ってくれる。うん、やっぱり蓮も響も似てると思うよ。 なんだかんだ変な所で不器用な所とか」
「―――――――っ」
真っ直ぐ綺麗な陽だまりの様な暖かい笑顔でそう言い切られてしまい、気恥ずかしくなって沈黙してしまう。
それに気付いたらしい未来は少しだけ悪戯っぽい笑顔を浮かべていた。
「照れた?」
「……うるさい、ほら、響が待ちくたびれてるし早く行くぞ」
気恥ずかしさをそっと誤魔化すように、未来の手を取って俺は駆け出した。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
時間はあっという間に流れ放課後。
いつも通りに帰宅準備を終えて鞄を持って立ち上がる。
特にやることもないしこのまま普通に帰ろうと決めたところで、
「おーい、おにいちゃーん!」
響に呼び止められ、振り向く。
「どうかしたのか? 俺、そろそろ帰るつもりだったんだけど、つか同じ教室なんだし呼ばなくても聞こえるんだが」
「んーとね、未来が私とお兄ちゃんに用があるんだって。 なんでも渡したいものがあるとか」
「聞けよ……つか渡したいもの?」
「うん! とりあえずこっちこっちッ!」
引っ張られて未来の席まで動く。
未来は放課後だから隠さず普通に端末を取り出して操作していた。
少しだけ待った所で未来は顔を上げて、ではと俺と響を見た。
「二人に渡したいものがあります」
「「――――――」」
真面目な顔でそう言われ、知らず響と同時に喉を鳴らす。
未来はゆっくりと腕を上げ、端末の画面をこちらに向けた。
「来月のツヴァイウイングのライブのチケットを見事ッ! 三枚取れたので二人に一枚ずつ進呈ッ!」
エッヘンと胸を張りながらそう言った未来に響と顔を一度見合わせ、同時に口を開いた。
「「ツヴァイウイングって……何?」」
未来が唖然として固まり、バランスを崩した。
「知らないのッ!?」
「「うん」」
「まったくこれっぽっちもッ!?」
「「うん」」
「なんでこんな時だけタイミング合うのッ!?」
「わかんない」
「知らん」
酷く呆れた様子で溜息を吐く未来ちょっと罰が悪くなり、口を開く。
「いや、さ。 そもそも俺あんまテレビ見ないし……」
「私も人助けが忙しいし食事の時はご飯食べるのに夢中で……」
「だからって普通全く知らないのはないよ、響はともかく蓮は知ってても可笑しくないと思ったのに」
はぁっと大きくため息をもう一度ついた未来は少し頬を膨らませて、それでと続けた。
「せっかく三枚当たったんだし三人で行かない? というか行こ?」
「私あんまり知らないけど……いいの?」
「他に誘う相手もいないし響と蓮だから誘ってるの」
「うん、わかった! お兄ちゃんも来るよね!」
「まあ……拒否する理由も予定もないしな」
響が了承して流されるように俺も了承する、未来は答えを聞くと直ぐに端末を操作して、ライブのチケットを俺と響の端末に転送した。
チケットを表示し、刻印されている日程を見て、改めて遠いとただ思った。
「……天羽奏に風鳴翼」
知らない名前、一月後に聞きに行くツヴァイウイングの二人。
今はまだ、俺がこの二人に興味を示すことはなかった。
続きは未定、気長に待っていただけると幸いです。
感想、評価次第では早くなる。
……かも