戦姫絶唱シンフォギアAA   作:マアア

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ネフシュタンの鎧の存在を知って、まず誰よりも衝撃を受けたのは風鳴翼だった。

だが、それと同等に衝撃を受けたのは二課本部の面々だった。

 

「ネフシュタンだとぉッ!?」

「まさか奪われたネフシュタンがこんな形で出てくるとはねぇ……ちょっと、かなり不味いわ」

 

二課の指令である弦十郎が驚愕を隠せず叫ぶ。

聖遺物研究の一人者である櫻井了子もまた、普段より表情を険しく、声色を抑えて状況は悪い方向に向かっているという。

 

―――否、櫻井了子だからこそ、この状況の何よりも不味い理由が分かる。

ネフシュタンの鎧を確認した時、すぐさま目の前の機材を用いて過去にとってあるネフシュタンの鎧のデータと、モニターに映り記録されるネフシュタンの鎧のデータを並べたからこそ、現状の旗色の悪さを誰よりも先に近くできていた。

だから真っ先に弦十郎へとそれを伝えるべくモニターに出して、声を掛けた。

 

「弦十郎君ッ!」

「何だ、了子君ッ!」

「不味いわよ……あのネフシュタンの鎧は―――って話聞くよりモニター見て頂戴ッ! そっちの方が速いからっ!」

 

口頭で説明するより視覚で伝えた方が速い。

熱くなった自身の思考を覚ますようにあえて一旦間を置いて、モニターを分割してそこに四人分の聖遺物についてわかりやすく表したグラフが現れる。

それを見て、弦十郎はさらに驚愕に目を見開くことになる。

 

「これは……ッ!?」

 

弦十郎の見開いた瞳の先に映るソレ。

聖遺物のエネルギー出力を表す赤いゲージが4本並んでいるその中で一本だけ大きく突出している状態。

すなわち、翼と蓮と響の三人分の聖遺物のエネルギーを合わせても届かないほどにネフシュタンの鎧は高出力であることを、聖遺物としての位階の差を示していた。

 

(―――さて、これで改めて計らせてもらうわ……)

 

誰もが現状の悪さをグラフという分かりやすくまとめられたもので理解し、状況の打開を図ろうとする中、全てを知っている了子は一人だけ一瞬だけ口をゆがめ、目を金色に輝かせていた。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

ネフシュタンの鎧に着いて俺が知っていることは少ない。

最低限、ボワ・ド・ジュスティスと一緒に起動させられる予定だった完全聖遺物という事、そしてそれが何者かに奪われたという事だけだ。

だが――――それでも、此処までだとは思っていなかった。

目の前に映る少女が纏っている全身を包む白銀の鎧、ネフシュタンの鎧の全身から発せられる雰囲気というべきか覇気というべきか。

それだけで自身より相当上であるということが一瞬で分かる。

同じ完全聖遺物を扱っているはずなのにここまで差が出るのかという驚愕さえ覚えるほどに。

だからこそ警戒心を全開で高め、僅かな動作でも見逃さないようにと集中してそいつを見つめ――――敵は笑った。

 

「へぇ……さっきそっちの青いのが言ってたけど―――この鎧知ってんだな」

「ああ、知っているとも」

 

少女の笑いに翼さんがそう返して、先ほどまで響に送っていたものとは比べ物にならないくらいの殺気をそいつに送りつける。

やっと、見つけたとでもいうように餓狼のように形相を歪めて、今にも飛び出しそうな様相で、しかし、ギリギリで踏みとどまっている。

 

「私の不備で奪われた、私のミスで奪われたそれを忘れるものかッ! !」

 

傍にいる俺ですら脂汗が滲み出るほどの殺気を直接受けて、しかしそいつは楽しそうに顔を歪める。

 

「ッハっ! イイねイイねぇっ! やる気満タンってカンジじゃねぇーか。 オラ、こいよ人気者、遊んでやるからさぁ?」

「戯言を――――!」

 

話は無用、敵とわかるのであればまずは倒すことが先決と翼さんは腰を落とし突進の構えを見せ、その少女も鎧に備え付けられた宝石状の鞭をしならせて対応しようと動き―――。

 

「だ、ダメですよ二人ともッ!?」

 

翼をその少女、両者を止めるように翼の腕を掴んで響は動きを止めた。

今にも踏み出す瞬間に割って入られたせいで二人とも動きを止め、その間に響が必死に止めようと動く。

 

「ひ、人が人と争うなんて絶対ダメだよッ! 話し合えば分かり合える、まずはどうして戦おうとしてるのか話してからでも――――」

「「戦場で何を馬鹿な事をッ!!」」

 

説得の言葉に帰ってくるのは当然の罵倒。

どだいそれで済むような段階は存在しないに決まっている。

翼はその少女の存在を許す気はないし、そもそも少女は理由は分からずとも戦意をこちらに向けている時点で戦いに来ているのは分かりきっている。

だからこそ、この場で俺が取るべき行動は―――――。

 

 

 

 

「響ッ!」

 

三者に声が渡る様に大きく出し、全員の意識が向いた瞬間にその敵に向けて力を放出する。

敵がそれをどう対処するか知らないが今の一瞬で出来た隙に全力で走り、響を後ろから左手で米俵のように抱え込む。

―――そう、俺が今この場で取るべきは戦うべきでない存在を戦場から遠ざけること。

一目見て分かるほどにある力の差に響がこの場に居てはこちらが危ないと判断したが故の最適解。

 

「お、お兄ちゃんっ!?」

「喋るな、舌噛むぞ――――翼さんッ!」

「無論、言われるまでもないッ!」

 

響を黙らせ、翼さんに動作だけで何をするのかを伝えた後、全力でわき目も振らずに後退する。

力を籠めて、一歩、二歩と地が抉れるほどに力を籠めて走り、遠ざかろうとして―――。

 

「逃げられると思ったか? 甘ぇんだよッ!」

 

風切り音と危険を告げる勘に従って足を止める。

直後此方の進行方向目の前ギリギリに鋭く鞭が突き刺さり、地面が豆腐のように抉れる。

爆ぜた土が体に降りかかる中、もう一つの鞭が風を切り、こちらへとしなる音が聞こえるが―――。

 

「お前の相手は―――私だろうッ!」

 

翼さんがそれを打ち払った。

 

 

 

――――否、正確には打ち払おうとして、弾かれて翼さんの手に在ったアームドギアが砕かれる。

 

「なっ!?」

「ハッ! ちょっせぇッ!!」

 

一瞬で剣を砕かれたことで翼さんに生まれた僅かばかりの動揺、その間隙を敵は逃さず、一足で踏込み、翼さんの腹に蹴りを一撃入れて吹き飛ばした。

 

「がぁ――――ッ」

「翼さんっ!?」

 

苦悶の声が響く、響の叫ぶ声が響く。

だけどそれを耳に拾うより先に此方を向いた敵の踏込みからの拳の一撃が迫ってくる。

響を抱えている左腕は使えない―――だから右腕を咄嗟に前に出して。

 

「オラァッ! オラオラオラッ! どうしたよニイチャン、へっぴり腰が板についてんぞッ!」

「ックォ――――おも、てぇッ!?」

 

息を吐くことが出来ないほどの連撃。

単純な拳を握り、殴りかかるだけのテレフォンパンチ。

平時ならばまだなんとか避けられるであろうそれは響を抱えているせいで右腕しか使えないという条件と、相手が異常に速いという二つの理由が原因で回避は不可能、故に防御を選択することになり―――一撃、二撃と受けるために想定をはるかに超えた思いダメージに腕が軋む。

何とかそれを防いだ先には右フリック、左ストレート、軽いジャブと言った感じで連続して織り交ぜられた先ほど以上の連撃。 それもまた、どれか一つでもまともに貰えば大ダメージは免れないから全力で捌き、護ることで対処する。

 

「ハッハァー! おせぇ、おせぇおせぇオセェッ! なんだよ欠伸が出ちまいそうなほどに弱っちいなオイッ!」

「なんだと―――」

 

口では強く言うが現実は回避に手一杯なのが全て。

寧ろ今という今まで避けられているのは師匠の特訓の御蔭と、こいつが近接に置いては素人という事の二つがあるからだ。

パンチは大振り、振り直しにかかる時間もおそらく師匠の方が速い。

だが、それでも避けに専念するのは単純なスペック差による速度の差だ。

 

「オラァッ! 逃げなニゲナァッ! ま、逃がさねえけどよッ! !」

「――――ッぉあ!?」

 

大振りなテレフォンパンチと思いスウェーをしようと動いた瞬間に、そいつは強く笑いを深め、足払いを仕掛けてきた。

回避機動の読まれ、意識の範疇外からの攻撃に足は容易く掬われ、体が宙に浮く。

そして改めて構えられるは単純な拳。

咄嗟に響を抱えたままの左腕から突出し、右腕を胸部に構えて―――右腕の防御ごとあっさりと吹き飛ばされた。

 

「ヒューッ! 派手にぶっ飛ぶじゃねぇかッ!」

「がっ……がふッ……」

 

吹き飛んで、木々を二三本へし折ってようやく止まる、右腕はへんな方向に曲がり折れていることを示している、胸部にも少なくないダメージ、おそらく数本アバラが折れ、肋骨が肺に突き刺さっているのだろう。

息が出来なくて、呼吸が詰まり、血反吐を吐き出す。

 

「お、お兄ちゃんッ!」

「バ……ガ、ぐんなァッ!」

 

急いで駆け寄る響が見えるが、その後ろで敵が笑い、鞭を振り上げるのが見える。

不味い、急げ、どうにかしなきゃならない。

この場を切り抜けるためにはアイツを倒すしかない。

だから―――力が―――今は力が必要だ。

だけど、無情にもアイツは響へと鞭をしならせて、振り下ろした。

 

 

 

――――そして。

今にも響にネフシュタンの鎧の宝石状の鞭が当たりそうな瞬間。

 

 

 

 

『―――時間が止まればいいと思った』

 

唐突に響いた声と共に意識が暗転した。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

落ちた意識が戻った先の世界は元の様そうのまま、意識が落ちる直前のまま停止していた。

空気が凍り、誰一人として微動だにせず、衝撃も風も吹き抜けない完全なる静止した世界。

 

―――知っている。

俺はその響いた声を知っている、この世界を知っている。

忘れられるはずもないその声、いつ聞いたのかすら覚えているあの声、とても、聞き慣れた(・・・・・)その声と、何もかも止まった無間地獄を。

 

「お……まえ、は――――」

 

徐々に治り、何とか普通に発言できるレベルまで治ったところで目の前に唐突に現れたそいつを――――俺が知らないはずがない。

赤髪、蒼眼、褐色肌を戦装束に身を包んだ男、背後に大きな大時計のような何かと白い大蛇を携えたその男を、俺が忘れるはずがない。

二年前、今にも死にそうな響を助けるために契約したあの時を―――忘れる筈もない。

時間が止まればいいと思った、大切なものを護るために、死なせないために今ある一分一秒すら惜しかったあの時、そう確かに思った。

 

『―――お前は、何を望む?』

 

それは二年前と同じ問いかけ。

二年前と全く同じ声色で、何一つ変わらないまま男は問いかけてきた。

 

『答えろ、お前は何を渇望した?』

「俺は―――」

 

そう、二年前は時が止まることを望んだ。

だけど今は、今、望んでいるのは―――。

 

「力が……欲しい、今この状況を超える力が、響を助けるための力が、大切な人を護るための力が欲しい」

 

このままじゃあ守れない、目の前に広がっていた光景、今にも響に振り下ろされる鞭を止める術を、力を渇望していた。

聞き届けた男は―――昔と違い失望したと言った様子で溜息を吐いた。

 

『やれやれ――それは私の領分ではないのだがね……全くにもって度し難い、無知蒙昧にもほどがある。 ならばギロチンを受け入れたまえ』

「―――え?」

 

先ほどまでとは違い、突然、機微の一切がなかったはずの男がやけに芝居が掛かった口調でそう言った。

ギロチンを受け入れろ?

何を言っているんだこの男は。

理解できず、その思いだけが頭をまわり一瞬真っ白になり――――。

―――ドクン。

心臓が脈打ち、意識が過熱する、頭が痛みを訴える、何よりも右腕が熱く、強く、激しく、辛く何かの信号を発する。

たまらず蹲り、右腕を抑えて伸ばし―――何かが飛来して千切れる音がした。

それが何なのか理解した時。

右腕に何もないことに気付く。

 

「ぁが、ぁああああああああああああっ!!!?」

 

それは昔も一度受けた激痛、痛みにのた打ち回り悲鳴を漏らす事しか出来ない。

転げまわったところで視界の端にギロチンが映っているがそれを認識するのすら今の俺には意識を振り絞らなければならないほどに―――痛い。

 

『君はもう彼女を知っているのだろう? ならばそれを受け入れたまえ――――』

 

蹲り、叫ぶ俺を見ても男は無感情にそう言って振り向いて去ろうとする。

 

「―――っぁあ、阿嗚呼……ま、まてッ!」

『待たぬよ、次の機会にまた――――いずれ形成の次の位階に上り詰めた時にご教授してあげよう』

 

姿を消す前のその男は先ほどまでとは違い陽炎のように霞が掛かり、止めようとしたがそんな意味深な言葉を残して去り――――そして止まった時間は熱され、再び正常に時間は動き出す。

 

 

 

「――――っが、はっぁ……ッ!?」

 

空気が流れたと感じた瞬間、胸部が鋭く傷みを訴える。

突然のそれに目を見開けば映るのは涙目の響が俺に手を伸ばして触れている様子。

 

「お兄ちゃんっ! 大丈夫」

「―――ぁ、ぶ」

 

大丈夫。

そう伝えようとして、口が動かない。

何故かと思い、立て続けに来た痛みで痛む頭を必死に働かせてみればさっき吹き飛ばされた木々に寄り掛かったままの姿勢で、気絶していたことに気付く。

ならばほんの一瞬前までのあれはなんだったのか?

単なる夢だったのかと言われれば違うと断言できる。

理屈は分からないがそうだと言い切れる。

証拠に、今あるこの黒赤の右腕が熱い。

今までとは比べ物にならないほどに、ジクジクと熱して痛みを伝えて、麻痺して動かせない。

だけどまだ戦っている途中のはずだから、とりあえず起き上がろうと体を動かそうとして―――動けないことに気付く。

触れている響に押さえつけられている、のではなく、よく見れば白く、粘々した液が体中にへばりついて、動きを阻害していると理解した。

 

「―――ひ、びき。 状況は?」

「今はそんなことよりお兄ちゃんがッ!」

「教えてくれっ……すぐ治るから」

 

夢と違って、気絶から回復して、意識のある間続く自動治癒が気絶によって一旦停止していた結果治療が遅れていたらしい傷がようやく治り始めた所。

無茶はあまり出来ないが状況を知らないことには何も始まらない。

一拍置いて、響が喋り始めた。

 

「お兄ちゃんが気絶して、駆け寄った所で翼さんがあの子とまた戦い始めて、私はお兄ちゃんを助けようとしている間にあの子が召喚したノイズの液のせいで……」

「仲良く拘束されたって所か」

 

顔を左右に振れば確かに極彩色の見慣れたノイズの姿が映る。

そして寄り掛かるような姿勢で拘束されている響の向こうで、翼さんが戦っている姿もまた、見える。

 

「お兄ちゃん、お兄ちゃんのあの一撃ならノイズを倒してこの拘束を解くことが出来るんじゃ?」

「悪い……無理だ」

 

拘束されている腕の先に確かにノイズはいる。

だけど右腕の感覚がまだ治らない。

その趣旨を伝えれば、響がそれでもと身体を揺らし始めた。

 

「どうしよう―――どうにかしなきゃ……ギアが、私がアームドギアさえ出せればこんな状況、直ぐにだってっ!」

 

響が必死に体を震わせて、粘つく液で動きを固められた全身をどうにか動かして、懸命に拳を握る。

 

だが、何も起きず―――ただ時間が流れるだけ。

やがて咳を切ったように叫んだ。

 

「どうしてッ! 今出せなかったら何のためにっ! なんで私は此処にいるのっ!!」

「――――っひび」

「私は、私は奏さんみたいに戦わなきゃ、護らなきゃいけないッ! じゃなきゃ私が力を持ってる意味なんて―――なのに、どうして出ないんだッ!?」

「――――――ぁ」

 

今出せなければ意味はないと響が吠える。

俺は、その声を聴いて、そんなことないと言おうとして、その力の求め方に先ほど男に言われた言葉を思い出した。

 

「―――受け入れる」

「―――え?」

 

ギロチンを受け入れろ。

現状を打開できるといったあの男の言葉の意味。

それがどういう意味なのか理解できないわけはなかった。

元から一月前、了子さんが零した言葉に、響の今の姿にヒントはあった。

すなわち『聖遺物の形成』、聖遺物の稼働を上げ、実態を持たせること。

言ってしまえばアームドギアの形成と同じそれであり、覚悟を形にすることが一般的だ。

そして、俺の場合はおそらくギロチンを受け入れること――――。

それは言ってしまえば簡単かもしれない。

言葉に出すなら容易いことかもしれない。

けど―――。

 

 

 

 

「――――クソ、出来るわけねぇだろ」

 

俺にそんなこと出来ない、出来るわけがない。

ああそうだ。

あの時は痛みで気が動転して言えなかったがそんな当然の事、出来ると言える筈もない。

あの時の記憶を、二年前の災害を覚えている(・・・・・)からこそ、そんなこと出来る筈もない。

 

―――この手にはギロチンが宿っている。

 

それは二年前のあの日、契約により得た力であり―――腕を刈り取った力でもある。

その記憶を今でも鮮明に覚えているから、先ほどもう一度体験させられたからこそ俺にはギロチンを受け入れることが出来ない。

 

ギロチンが肉を断ち、骨を削ぎ、血管を裂き、血の一滴まで切り刻んだあの感覚を覚えているからこそ、俺に、ギロチンを受け入れることは出来ない。

 

そんな俺の表情を読んでか、響もまたうつむいてしまう。

故にどうしようもなく、現状は詰んでいた。

 

 

 

 

だからこそ————。

 

「立花ァッ! 蓮ッ!!」

 

その、声は何よりも耳に入った。




次回は翼さんからの予定。
つ、次の話には形成に入れる———はず。

後チンピラ何スちゃんは描いてて楽しい。
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