距離が遠かったのに加え一点集中の光は敵のみを切り裂く一撃。 後の光は余剰エネルギーが焼いただけだ。 しかし、それでなお巨大なクレーターを生み出されたのは絶唱の威力を見ていた皆に分からせる。
「翼ちゃんのバイタル急速に低下ッ! 危険ですッ!!」
だからこそ、その反動もまた甚大である。
バイタルオペレーターの声が焦りを隠そうともせずそれを告げる。
それを聞いた、弦十郎は我慢の限界とばかりに二課の椅子から立ち上がり、通信機器の電源を入れた。
「医療班、急ぎ現場に迎えッ! 翼が重傷だッ!!」
「駄目よ、弦十郎君」
バイタルデータは画面に表示されている今にも危険域に突入しかねない危険であるという値を取っている。
しかし彼女、了子は救護班が向かうことを冷たく押し止めた。
当然、弦十郎たちの視線は彼女に向かう、鋭い目に射抜かれ、なおも冷静、いっそのこと冷徹と言っていいほどに鋭く険しい表情だ。
「まだ終っていない、敵の反応が消えていないの」
「馬鹿なッ! 絶唱だぞッ!?」
弦十郎の驚愕が司令室に響き、動揺が走る。
絶唱はシンフォギアの決戦兵装―――聖遺物の機能を最大限に引き出して放出する攻撃だ。
威力は先に見せた通り、小さくないクレーターを作るほど。
その攻撃の爆心地にいた敵が無事であるとは全員想像出来る筈もなかった。
「―――だったら俺が出るッ! 了子君、藤堯、友里、後は任せたッ!」
「言い分けないでしょッ! ―――って、ああ、もうッ!」
静止の声もなんとやら、全く聞き耳を見せずに走り去っていくその姿に呆れつつ、しかし画面を見据えて了子は次の行動への準備を始めた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
光で明滅していた意識が収束して戻る、あまりの衝撃に失いかけていた意識が何とか戻ったのは光が収まった後、翼さんが絶唱を放った場所には巨大なクレーターが出来ている。
絶唱に巻き込まれたがその端の方まで吹き飛ばされて、地面に叩きつけられるも何とか無事だった。
―――とは言い難い。
「―――っぅ……!」
絶唱のエネルギーの余波、切断の概念に満ちたソレを全身に受けて浅くない切傷をくらって血塗れ、服もボロボロだ。
シンフォギアとは違い単に聖遺物を稼働させ、エネルギーを全身に纏っているだけの俺は防御という面において数段劣っている。
そんな俺とは違いシンフォギアが解除されるだけで済んだものの吹っ飛んで気絶しているらしい響の体が上にのしかかる様に崩れ落ちていて、体全身の切傷を刺激し洒落じゃない痛みが全身を駆け巡っている。
それでも幸運で済んだことは、やはり余波だったことだろう。
全身の傷は浅く、聖遺物を起動している今ならばあと十数秒で問題なく動ける範囲のレベルのダメージに過ぎない。
――――今の問題は。
「……翼さん」
絶唱を放った本人、クレーターの真ん中に立ち尽くしている彼女の容体だ。
少しばかり遠いものの細部まで見えるこの目で見えるのはボロボロになり、装甲部分がほとんど砕けているアメノハバキリのシンフォギア。
今の位置からは背中しか見えないが前面がどうなっているのかは予想する必要はないだろう。
傷が癒えたところで、上に載って倒れている響を抱き起す。
「――――っぁ……おにい、ちゃん?」
「あぁ―――立てるか?」
まだ気絶から立ち直ったばかりで上手く起きていないらしい響がそれでもちゃんと一人で立つ、多少ふらついているが問題ないと判断して、翼さんへと駆け寄る。
「翼さん―――――ッ!」
声を掛ければ翼さんが振り向き――――絶句した。
俺の言葉にならないその呼び声に響もハッとして、先ほどの事を思い出したのか同じように呼びかけ、走ってくる。
「……蓮、立花」
「―――――っ喋んなッ! 直ぐに医療班を呼ぶから――――」
「もん、だい―――ない」
絶唱のバックファイア。
全身の穴という穴から血をふき出して、ふらつきながら、今にも倒れそうになりながらも翼さんはそう言った。
その言葉にそんなこと言ってる場合じゃないともはや焦りしか浮かばない。
言葉を無視して駆けより、体をそっと抱きかかえてゆっくりと負担にならないように横にする。
響も駆けより、翼さんを共に支えているがその表情には焦りと動揺しかない。
「大丈夫な分ないですッ! どうしてこんな無茶を――――ッ!」
「それ、が―――防人の、務め、だから」
響の問いかけに翼さんはそう今にも絶えそうになりつつも、咳き込んで血を零しつつも返した。
膝から崩れ落ち、血反吐を地面にまき散らしても、止める言葉も聞かず言葉を続ける。
それはまるで寿命を前に最後の言葉を言うようで――――尚更焦燥する。
焦ってポケットの中の端末を探している間にも翼さんは言葉を続けていた。
「防人、の剣は……民を護る―――立花……貴女は、戦うべきではない、だから……」
「そんな――――わた、私だってちゃんと!」
「――――っ! 響ッ! 口論より先に端末で救護班よべッ! 俺の端末はさっきの余波で壊れてるんだッ!」
急いでいるのに先ほどの絶唱の余波で端末は壊れたらしく用をなさない。
苛立ちを隠せず、それでも出来ることをするために響にそう呼びかけた。
「わ、わかったッ! えっと――――!」
響は気が動転しつつ端末を探し出して登録されている番号へとコールする。
一回、二回と鳴り――――繋がった。
「立花ですッ! 急いで医療班を「その必要は、ねえよッ!」―――ッ!?」
電話が繋がり、急いで要請しようとしたその瞬間、俺の背後から響いた声と共に鞭が真っ直ぐと響の持っていた端末を弾き、砕いた。
「――――ッ! んだとぉ!?」
そんな馬鹿なと驚愕の念しか浮かばない。
絶唱を喰らって無事に済むはずがない、だけど現実としてこの攻撃は間違いなくネフシュタンの鎧の鞭による攻撃だ。
すぐさま振り向き――――躊躇なく心臓目掛けて真っ直ぐ突き刺すように伸びてきた鞭が目の前に迫ってきていた。
「っ!! ぉおぁあああああ――――ッ!!」
咄嗟に右腕を突出し力を放出、それにより若干逸らすことに成功して、腕の外側が大きく抉られる程度で済む。
痛みを堪えて腕の向こうを見れば、煙が晴れ、中から見えた敵の姿は――――やはり無傷。
「……マジかよ」
「あぁ……割とマジで痛かったが、残念だったなぁ? ま、厳然な実力差ってのはこんなもんだろ」
簡単な言葉の交わし合いで嫌が応にも理解できる。
状況は芳しくないから最悪へと傾き始めていた。
「『Balwis――』っ!?」
「おっと、ギアは纏わせないぜ?」
響が状況を打開するためにか歌おうとしても余った鞭を足元に突き刺し暗に警告する。
おそらく聖詠を歌いきるより先に確実に敵は響へと攻撃を加えられる。
一手で俺を払って二撃目で確実に響に攻撃するだろう。
翼さんはダウンしていて戦えないし容体次第では一刻一秒を争う。
―――焦りが増していくのを感じる。
「……どうやって」
「あん?」
故に、少しでも打開の糸口を探るために口を開いた。
「どうやって、さっきの絶唱を防いだ」
乗ってくれればいい、乗らなくても時間を稼げればいいと思った発言に帰ってきたのは馬鹿にしたという溜息。
「おつむの出来は小学生かぁ? さっき言ったじゃねぇかよ、厳然たる実力差ってなぁ? アタシとお前達との差ってやつだよ、お前達只の聖遺物扱っているような雑魚や聖遺物に遊ばれてる程度の奴がどう足掻こうとアタシの力にゃ到底届かない。 当然の結果だ、相性や奇策でひっくり返せるようなもんじゃねぇ……そう言う意味じゃあそこの人気者の行為は失敗だったな、只の無駄撃ち、無意味どころかマイナスだ」
「ッテメェ……!」
命を懸けて、使命を果たすための翼さんの一撃を嘲笑うその態度に沸々と怒りが湧く。
だが悔しいことに現実でもあった、今の俺達ではこいつには勝てない。
なら――――俺が形成できれば。
「なんか気に入らねえツラしてんなお前、きぼーがありますって表情だ。 言っとくがアタシがアンタになんかさせる好きにさせる時間を与えると思うな、アタシはテメェかあのガキのどっちか捕まえりゃあそれでいいんだからよぉ?」
「尚更、させるかよッ!」
吼えるが現状では到底勝つの不可能だというのは痛いほどわかっている。
だからこそ敵を斃すためには形成出来なきゃ、しなきゃいけない。
状況は膠着している、なら時間はまだある。
―――受け入れる。
そうするしかない。
聖遺物を『ボワ・ド・ジュスティス』を受け入れて、ギロチンの唄と共に形成に至るしかない。
覚悟を決めて、歯鳴りを抑えて―――腹を括らないといけない。
「さぁて、そろそろお遊びの再開で、終わりだぜ」
「っ!」
覚悟を決めきる前に敵の腕が動き、鞭が連動してしなりその先に光球を作る。
危険だと直感が叫び避けることを選ぼうとして―――無理だ、後ろには響が、翼さんがいる。
当たれば絶対にただでは済まない一撃。
しかも避けるのは出来ない、撃ち落とすのも不可能。
だったら――――今、この場で至るしかない。
「――――!」
大切なものを守るために、いま———この刹那に超越するしか、ないッ!!
息を深く吸い、そして左腕を顔の横辺りに上に掲げ、右腕を十字を作る様に交差させる。
歯が鳴るのを必死で抑えそして目を閉じて、ギロチンを思い浮かべ、思い出す。
忘れもしないあの時、二年前のあの瞬間―――左腕をそぎ落としたあの一瞬を。
「
思い出せ、あの瞬間の痛みを、恐怖を――――この身に刻んだ渇望を。
「
あの時の無力感を――――響を護ろうとして、逆に護られ大怪我させた時の悲憤を。
「
そしてあの時未来に誓った誓いを――――そのためなら俺はなんだって出来るはずだ。
そう目を見開けば世界はこんなにも
つまりまだ時間はある、この身に刻んだあの刹那を脳みその端から奥底の限界まで思い出せる。
「
そして―――ギロチンの渇きを癒す為、六条さんに言われた通り、あの赤い髪の男に言われた通り、受け入れろ。
それが――――俺という存在の在り方なのだから。
時間が加速する―――否ゆっくりと流れているとわかる。
体全身に力がみなぎっていくのを感じる。
全身から放出するだけだったフォニックゲインが体に沿って形作り、収束されていくのを感じる。
―――熱い。
熱くて暑くて火を噴きそうなほどに全身の血が沸騰して出口を求めていると感じる。
目を見開けば風が吹き、顔を吹き抜けていくのが分かる。
「―――これで終わりだ、次起きた時は檻越しだろうなぁ!!」
前を見ればうるさい日常に居ちゃいけない邪魔な奴がいる。
アレを斃すための形ならもうわかっている。
だから―――。
「喰らえぇぇッ!!」
目の前に迫る酷くゆったりとした光球に、迷わず右腕を突き出した。
「――――『
口から決定的なそれを言い終えると同時。
光球ははじけ、爆散した。
違う、縦に割かれ、エネルギーが散ったというのが正しい。
何故なら光球の直線状に、刃が空中に生えたのだから。
―――違う。
その感覚すら間違いだ。
ただ単に
首を落とすようにギロチンが光球を縦に割っただけだ。
「
ならば落ちたギロチンは何処にあるのか?
その答えは視線の先、俺の腕がその答え。
「
黒赤の腕の肘から手首に掛けて、其処から大きく半円を描く様に伸びた刃。
それは歪で、大振りで―――どこまでも首を狩るためにしかないそのためだけの武器。
ギロチンだ。
「―――ギロチンに捧げよう、飲み物を」
ギロチンは形成された―――ならば、敵を斃して終わりだ。
これ以上ジャンル違いに俺の日常を、大切な人を傷つけられないように―――ここで確実に仕留める。
———それは確実にできると確信している。
だから———絶対に、それでいて最速でやる。
悲報・クリスちゃん終了のお知らせ(嘘)
多分次で四話のお話は終わりになると思います。
後補足説明ですがクリスちゃんは割とハッタリかけているだけなので割とガチ目に斬首の危険性があったり。