というより完成六割でなんで放置してしまうのか……
追記
蓮君の部分を大幅改定しました。
色々あって、本当に申し訳ない。
―――殴られる。
我慢する。
頬に奔る痛みを無視して食い縛る、そうすればそのうち終わるから。
―――殴られる。
我慢する。
身体に奔る痛みは罰で、それを受けるだけの理由があったから。
――――――殴られる。
我慢する。
いつかは元に戻る、いつかはどうにかなる。 そう信じていたから。
殴りたければ殴ればいい、苦しめたければ苦しめればいい、自分に対して、個人に対してである間はそれは我慢できる納得できる、だって家族なのだから。 いつかはまた昔みたいに一緒に笑いあえるはずだ。 そう思えば我慢することなんて容易い、痛みは勝手に治っていくのだから。
―――なのに、どうして?
――何故そんな恐怖に引き攣った笑みを浮かべているんだ、■■?
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
鈍い痛みと吐き気を催すような虚脱感のせいで否応なしにアタシの目が覚める。
直前まで見ていた夢も加わって目覚めは最悪。
薄らと瞳を開けば日光があまり入らず、明かりをつけていない部屋の中。
相応に暗くて、だけど明るい。
輝く様に、いや、実際に輝く金糸のような髪の毛を持つ女、フィーネがいるからだ。
「―――野卑で下劣、生まれた国の品格そのままの劣等。 そんな輩に必要以上の情報も、ましてや聖遺物について話す必要なんてないわよねぇ?」
直前まで電話をしていたらしく受話器を置き、嘲笑いながらフィーネは問いかけるようにアタシに近づいてそう言った。
「ねぇ――――クリス」
「ぅ――――」
アタシの顎をくいっと持ち上げて肯定の意を尋ねるようにフィーネが問いかける。
だけどアタシはその動作だけで胸部に奔る痛みが刺激され、声を上げる事しか出来ない。
フィーネは当然、その事を知っていて、嗜虐的な笑いをしながらアメジストみたいな瞳を近づける。
「苦しい? 貴女が戸惑うからよ。 誘い込んだツァラトゥストラと小娘一匹、それもその内のどちらか一体をどうして完全聖遺物を二つ持っている貴女が捕まえられないのかしら? 手間取ったどころか――挙句の果てに形成での一撃まで貰うだなんて」
「――――っぅ!」
胸部に奔っている痕をなぞりながらの問いかけ。 まだ癒えたばかりのそれには先ほど以上の痛みが貫き、言葉を出すことなんか到底できやしない。
痛みに引き攣った声と生理反応で瞳から涙が出る中、重たい頭はどうしてか冷静にその場を観察して―――フィーネも私の反応を理解していて、あくまで問いかけは形式的なものに過ぎず、傷跡を甚振るってアタシの声を聴くのが本旨だと判断する。
だから―――尋ねた。
「―――これで、いいんだよな?」
「なぁに?」
予想通り、前後の脈絡ないアタシの声にフィーネは聞き返した。
「アタシの目的を叶えるには、お前に従えばいいんだよな?」
「ええ、そうよ。 だから貴女は私に従いなさい。 じゃないと―――嫌いになっちゃうわよ?」
「――――ッァァアアアアアアアアアアアアア! ! !」
そう言って離れたフィーネが近くのレバーを降ろし―――瞬間電撃が身体を巡り、焼く。
スパークが奔るほどの雷は体全身に奔り、身を内側から焦がすように全身に流れ、脳が真っ白になり体は自然と拒否反応のように喉から悲鳴を上げる。
ガクガクと震える全身から走る痛みの信号はもはやオーバーフローして意識が落ち、しかし直ぐにその意識が痛みで戻りまた信号を発し続ける無間地獄。
思考回路もグチャグチャになるその痛みが終わったのが10秒後なのか、1分後なのかさえ分からないほどの精神的拷問。
終わった瞬間にもその後にも痛みは後を引いて、呼吸すらおぼつかない。
喘ぐアタシを見ながら、喜色に富んだ声でフィーネが耳元でささやく。
「覚えておいてねクリス。 痛みだけが人の心を繋ぎ、絆を結ぶもの。 それが世界の真実だという事を」
「―――――ん」
声に出すのも億劫で、頷きながら最低限の声で肯定の意を告げ――――少しだけ疑問が過ぎる。
―――痛みが人と人を繋ぐ絆、なら……
ならあの夢は、あの夢に出てきたアイツはどうして苦しそうに顔を歪ませた?
疑問の答えは出ない、アタシは知らない、私には分からない、疑問の種は生えたまま、芽を開くことはない。
「食事にしましょう、クリス。 一緒にね」
「――――うん」
だから今は、フィーネがくれる物が本物だと信じて、頷いた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
病院から出れば人工ではない眩しい日差しに目を細めることになった。
感覚ではまだ一日だが実際には四日ぶりになる屋外でグッと背伸びをして軽く体を解しながら深呼吸をして新鮮な空気を吸う。
病院特有の消毒液の匂いがしない、空気らしい味を吸えば昨日一日思い悩んで沈んだ気分が大分マシになる。
そのまま屈伸などの軽い柔軟をしながら病院の中という事もあり長らく電源を付けていなかった端末に電源を入れながらゆっくりと歩き始め、病院の敷地から外へ出る。
「っと、結構来てるな」
立ち上げ終えた端末でメールを受信すれば10件、電話に至っては15件と貯まりに貯まっている。
誰からだと確認するためにボタンを押してメール一覧を開き―――、
「……」
全部未来からだった。
まさかと思い不在着信一覧を開く。
やっぱり全部未来からだった。
「………」
若干、少しだけ謎の嫌な予感がするのを無視しながらメールを立ち上げる。
まずは一件目。
『ねえ蓮、響が修行するので自主休講しますって書置き残してどっか言っちゃったんだけど心当たりない?』
『ねえ蓮、響が一日中学校に来ないと思ったら家で死んだように寝てたんだけど心当たりない?』
『ねえ蓮、響が今日も朝いなくなったと思ったら授業中に入ってきて思いっきり怒られてたんだけど理由分からない?』
『ねえ蓮、どうして返信かえしてくれないの? なにか怒らせるようなことしちゃったかな?』
『ねえ蓮、蓮も最近学校にいないけどどうかしたの? 体調悪いの? 大丈夫?』
『ねえ蓮――――』
『ねえ蓮――――』
途中で一度電源を落として目を落とす。
目尻を揉んで、深呼吸して、もう一度画面を立ち上げてメールが続いているのを確認する。
「……………どうしてこうなった」
現実は非常であるというべきか、とりあえず色々現実逃避したいところだが未来が危ない方向に転がり落ちかけているのだけはわかった。
とりあえず返そうと最新のメールを開いて返信ボタンを押し、文を作ってさっさと送る。
『体調崩して三日間位病院にいて端末が使えなかったからそんなに心配するな』とかそんな感じに綴って送り、そっと端末を落として、そのままポケットに入れて息を吐いた。
……とりあえず一旦家に帰ろう。
病院から出たばかりなのに若干疲れた気がしたと思いながら一歩踏み出す。
『―――――――』
聴き親しんだ音楽が鳴り響いた。 お気に入りの音楽であり、端末のメール着信音だった。
「……いま10時半だぞ、おい」
取り出した端末にはメール送信者の名前、予想通り未来の名前が映っていた。
……一分としないうちに返信が帰って来るとは予想外だったしそもそも授業中じゃないのかとか色々言いたい。
少しだけ手が震えるのを抑えながらメールを開いた。
『おはよう蓮。 病院に行ってたって大丈夫? 退院したから連絡くれたんだろうけど調子悪いんだったらちゃんと休んでね。 後今日も響がいないんだけど何か知ってたら連絡おねがい』
「予想外に普通で安心だけどおい」
響は一体何やってるのかと呆れ、知らないとメールを送り返して今度こそポケットに放り込み、息を吐いて、どうしようかと息を吐く。
「今日はリディアンの仕事はないが、家に帰ってもやることないしな……」
用務員の仕事は明日から、病院ではできなかった聖遺物関連の詳しい検査は午後からということで日中暇というこの現状。 だが何もやることはないというのはそれはそれで落ち着かないのも事実。 何をすると考え付かず歩き続け————。
———クゥ。
「――――飯、食うか」
少し鳴った腹の音に最後に食ったのは病院食で美味い飯を食えていなかったことを思い出し、それに反応するように煩く食欲を訴え始めた腹に逆らわず飯屋を探すためにぶらつき始める。 どこに行こうかと少し考え、直ぐに思い当った場所へと足を進めた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
のんびりと歩いておよそ三十分。 食事処ということも考慮に入れて11時位にたどり着くように調整して歩き、目的地であるお好み焼き屋、フラワーにたどり着く。
店内へと目を向ければ時間調整した甲斐あり営業中らしく、しかしまだ早い時間ということで一人二人客がいるだけ。 あまり騒がしいのは趣味じゃないしちょうどいい時間帯だ。
「いらっしゃい。 っておや、いつぞやのお兄さんじゃないか」
扉を開けると備え付けの鈴が鳴り、おばちゃんがこちらへと顔を向けて挨拶してくる。
一礼して空いているカウンター席に座り、出されたお冷を口に含んで息を吐く。
そのままメニュー票を開いて少しだけ悩み、注文するものを決めたところで閉じる。
「注文は?」
「―――前と同じでお願いします」
タイミングよく聞きに来たおばちゃんにそう返して、準備し始める姿を見届けると暇になり―――自然と、病院内でも答えの出なかった疑問が頭を過ぎる。
「…………っ」
藤井という名字とメルクリウスという名前。 思考の中でそう言葉を形にするだけでも疼痛すら感じるその二つの名前。 しかしどこか懐かしいと、既知だと感じるソレ、そしてそれらが只の名前ではないと決定付ける
「それらを繋げる鍵が了子さん、か」
だが、肝心の了子さんに尋ねようとは思えない。 問いかけてもはぐらかされるという予感と、聞いてはいけないという悪寒が行動することを否定する。
―――なら他の大人、師匠や緒川さん、藤堯さんといった人に尋ねるか?
だがそれもダメだと直ぐに切り捨てる。
そもそも聖遺物関連の話に置いて了子さん以上の知識人はいない、その了子さんが知らないと言っている以上……いや、そもそも知っていて言っていない可能性だってあり得るか。
だがそうなると誰に尋ねても了子さんに尋ねろという話になるしそもそも全員本当は知っているという可能性だって上がってくる。 誰が白で誰が黒なのか分からないあやふやだ。
そうなるとそもそも二課事態が――――。
「なんか、やけに小難しい顔してるねぇ」
「っ!? ―――おばちゃん?」
思考に没頭していたからか、唐突に掛けられた声に少しばかり過剰な反応を示してしまう。
それを気にせずにおばちゃんは皿の上に載ったお好み焼きをこちらに出した。
「難しい事を考える前にご飯を食べな、お腹空いてる時に考え事しても悪い方悪い方に偏っていくもんだよ。 まずはお腹いっぱい食べて、それからゆっくり考えなさいな」
それが此方を気遣っての発言だと理解して、また少しだけなった腹にそれもそうかと思考を中断して好意に甘えるようにする。
「ありがとうございます。 ―――いただきます」
「はいどうぞ。 妹さんみたいに二枚、三枚とどんどん追加してもいいんだよ?」
「アイツ、どんだけ食ってるんですか……」
さりげなく出た響の話題に苦笑しつつ、難しい事は今は頭の外に放りだして食欲を湧かせるソースと鰹節の香りに抗わずに箸を伸ばした。
前半は意味があり、後半に特に意味はない。
そんな気がする話じゃった……