戦姫絶唱シンフォギアAA   作:ザミエル(旧翔斗)

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大変長らく、実質六か月と長い間お待たせしました。

長い間に書き方も若干変わってしまい、違和感を覚えるかもしれません。

あと……9月13日というビッキーの誕生日に間に合わなかった不甲斐ない作者ですまない。本当にすまない。




 

 

 

 ここ一月の間に急増していたリディアン音楽院を中心としたノイズ発生の事例。そして二年前に消失したが三日前に突如女に纏われて表れたネフシュタンの鎧。相次ぐ二課に対するハッキングに今日起きた二課の後ろ盾、広木防衛大臣の暗殺。全てを偶然と片付けるには都合が悪すぎる、だが逆に言えばこれらのいくつかはほぼ確実に繋がっており、最悪が全て繋がっているというパターンが考えられる。そしてこれらの事態に日本政府は最悪のパターン、繋がっている場合を考え、その時に原因となるであろう物を二課本部にある完全聖遺物、サクリスト―D。『デュランダル』があるせいだと仮定したらしい。そこで二課はデュランダルをここから持ち出し、永田町の特別電算室へと運ぶという指令を受けた。だが、ノイズや防衛大臣を襲ったテログループの襲撃、そして何よりもネフシュタンを纏ったアイツが来る可能性もあり、一般人にも被害を出さないようにと考えられた結果、作戦決行は明朝5:00となった。……と、今日起きたこととそれに関わることをつらつらと頭の中で反復して改めて思う。

 

―――正直に言ってここ最近、色々な物事が発生しすぎじゃないだろうか?

 

 ノイズの発生は本来人がその短い一生に通り魔に出会う位の確率と言われている。それは国が表立って対処するには多く、しかしノイズには活動限界ともいえるごく短い時間、20分ほどしかいられないこともあり、多くの国が表立っての世界的な対処をあまり行わなかった理由の一つになっているという話だ。だがここ最近のリディアン周辺は三日に一度というペースでノイズが出現している。ある意味ラスベガスより治安が悪そうなレベルだ。だが、明らかな異常だがこれに対して俺が出来る事は唯斃すだけ、だからこれで終わりだ。次に考えるのはネフシュタンの鎧の女。どういうわけか知らないが二年前から活動していた俺はともかく響までも知っていて、どこかに連れ去ろうとしたアイツ。アイツが誰だかは関係ない、唯斃すべき敵というだけだが重要なのは纏われているネフシュタンの鎧とその裏だ。アイツがいつ、どこで、どうやってネフシュタンの鎧を手に入れ、更に響に対する情報を手に入れたのか? 考えられるのは二つで一つは先にも言った二課に対するハッキングによる情報の流出。だが二課の防衛システムは了子さんが組んでいるって話だ。となるとまず突破は難しい。だがそうなると考えられるもう一つは……二課の内部にあの女の知り合いが誰かいて、そいつが情報を漏らしているということになる。つまり、裏切り者、スパイがいるって話になる。

 

「……そうなると、俺はもうお手上げだな」

 

『蓮君なにかいったー?』

 

 無意識に漏れた呟きを拾ったらしい了子さんに何でもないと返し思考を続ける。正直に言って俺はあまり頭が良くない。響ほどじゃないが未来によく馬鹿に、というより呆れられていたレベルだ。そんな俺に対して尻尾を掴ませるほどスパイなどが生易しい存在な訳がない。俺に気付けるときにはとっくの昔に了子さんや緒川さん、そして師匠が気付いているとみて間違いない。だからこれ以上は考えても無駄だろう。そこで思考を切り上げて次に移ろうとしたところで、音が鳴る。

 

『はい、検査終了よー! 蓮君上がっていいわ』

 

 ガシャリと音を立ててCT検査の機械のような形をした聖遺物の検査、測定器から拘束が解かれ、潔く身体が自由になる。20分ほど微動だにせずにいたせいで固くなった身体をほぐして立ち上がり、軽く伸びをする。

 

「―――はぁ」

 

 息を吐いて、慣れもしない考え事に使っていた頭の思考を切り替え、定期検査をさっさと済ませるために計測室から出る。

 

「お疲れさま、蓮君」

 

「お疲れ様です了子さん」

 

 出たところで機器の操作をしていたのは了子さんに返事を返し、ふと疑問を覚える。普段からやってもらっていることだし特に違和感などはないけれど、しかし今は明日のデュランダル護送があり、そのために細部を煮詰めたりしなければならないはず。今日はもう休むだけの俺はともかく了子さんに定期検査をする暇はあるのだろうか?

 

「別に大丈夫よん。起動していない完全聖遺物に対して起動して、しかも稼働率が上がり始めた完全聖遺物だったら得られる情報量が雲泥の差なの。あとは私が睡眠時間をちょちょいと削れば問題ないだけの話だから気にしなくていいわよ」

 

「気にしますよそれ……」

 

 言葉を返したが本人が軽く言っているのだからそこまで気にする程の事でもないのかもしれない。それに検査の結果は俺が見てもわからないようなことばかりだからよっぽどのことがなければ聞きに来なくていいしこちらからも特に言わないと言われているし明日も早い。一礼してから部屋を抜けて、

 

「お、終わったか蓮。待ってたぞ」

 

「……師匠?」

 

 部屋を出て真正面の壁に寄りかかっていた師匠が出待ちしていて面食らった。師匠もまた明日のデュランダル護送で色々やることがあるだろうに、しかし言ったのは俺を待っていた。という言葉、つまりそれなりに長い時間ここにいるということだ。

 

「一体何ですか?」

 

「ちょっと話したいことがあってな。少しいいか?」

 

「……わかりました」

 

 どうしてなのかと考えたが結局話せばわかることだし、なにより俺が師匠の話を断る理由がない。だから承諾する。

 

「そうか。なら一旦腰を落ち着けるとするか」

 

 そういって歩き出した師匠を追い、着いていった先は二課の軽い休憩スペース。自販機とソファと新聞紙がいくつか置かれているだけという本当に数十分休むための場所だ。まあ座れと言われて腰を落ち着け、師匠に紙コップに入った飲み物を手渡される。

 

「あったかいものだ」

 

「あったかいものをどうも」

 

 渡されたコーヒーを口に含む。確かに温かい、むしろちょっと熱いぐらいのそれをそれなりの時間検査に使い、のどが渇いていたのもあって一気に飲み干す。舌が火傷しそうと思われるかもしれないがその程度で傷つくほど軟な体じゃなくなっている。空になった紙コップをくしゃりと握りつぶして、ゴミ箱に投げ捨てた。

 

「で、話って何なんですか?」

 

「――――蓮について。そして明日のデュランダル護送についてだ」

 

「……俺について?」

 

 何かしただろうか。少なくとも俺の記憶の中にこうやって呼び出されるような用事は、逡巡されるような事をした記憶はない。皆目見当も想像もつかず、鸚鵡返しに問いかけた。

 

「三日前の戦闘の時、『正義の柱』を形成しただろう? あの時の戦闘の様子を後で記録として確認しなおした時に理解した――――お前はあの時あのネフシュタンの鎧を身に纏った少女を斃すのではなく殺そうとしていたと」

 

「……それは」

 

 確かにそうだ。俺はアイツを殺そうとしたし殺すと決めた。そうしなきゃ翼さんと響に被害が行く、俺は俺の大切なものに手は出させない。大切な日常を脅かしにくるなら俺は相手が脅かす前に守ると。そう祈って、右腕の力を形成した。

 

「それが悪いっていうのか?」

 

「悪い……とは一概には言い切れないな。確かに俺たちの仕事を考えれば奪われたネフシュタンの奪還もまたしなければならない。そしてその過程で人の死が、相手の死が起きることは否定しようもない。だが……」

 

「だったらなんだっていうんだよ? 別に問題ないなら―――」

 

「それは響君の目の前で、人を殺すという事であったがそれを理解しているか?」

 

「――――あ」

 

 師匠の一言に思考が凍り付く。人を殺すところを見る。誰が? 響がだ。そうなった時アイツはどうなる? 思考がその先がどうなるのかを想像するのを拒否して、拒絶して、気分が悪くなる。そして何より――――そのことに気付かなかった自分自身に、そのことを僅かでも考えられなかった自分自身に吐き気を催した。

 

「蓮、お前は響君を守るといったな。だが、彼女の目の前で人を殺すしたときに、お前は彼女の心を守れているのか?」

 

「それ、は――――そんなことは……ない」

 

「だろうな。―――二年前から変わらないな、蓮。人を護ることはただ身だけを護ればいいんじゃない。人の心も守らなければ真に守ったとは言い切れない。……蓮お前は響君を守りたいなら、少なくとも人を殺すべきではない」

 

「……そう、かもしれない」

 

 気分が悪い、頭の中が冷え切っている。だから余計に師匠の言葉がはっきりと理解でき、それが正しいこともまたわかって、俺が間違っていることを告げる。……だが。

 

「なら、俺はどうすればいいんですか。―――俺の聖遺物は、『正義の柱』はギロチンです。人を殺す道具です。それで、それでどうやってアイツを止めろと、斃せっていうんですかッ!?」

 

 俺が使っている力は聖遺物本来の力だ。そしてそれは断頭の呪いで、人を殺すための力だ。ノイズと戦えているのはあくまで副次的なものであり、本質は対人戦にある。そして、対人戦の時のこいつの使い方はすなわち相手の首を切り落とすことだ。だけど人を殺すことは、首を切り落とすことは響を曇らせることになる。ゆえにダメ。――――なら俺はどうすればいい? 俺の問いかけに対して師匠は―――。

 

「それはお前が見つけるべき答えだ」

 

「……何ですかソレ? 散々人を惑わしといて結局丸投げかよッ!? ふざけてんのかッ!」

 

 そうするべきじゃないと言っておいて、そのくせじゃあどうするのかは示さない。そんなの無責任だ。自分の言動に責任を持たないのは大人のすることじゃないだろう。グシャグシャで纏まらない頭でそう掴みかかりながら問い詰めた。

 

「―――ああ、そう思うだろうな。だが、自分の考えで道を選ぶのもまた、それが責任だ、蓮」

 

「――――っ」

 

「最初に護ると決めたのはお前だろう? 蓮。なら、その方法は自分で探さなければ意味がない。一から十まで教えてもらったそれでは駄目だ。ただ視野狭量になって道を狭めるのは、それでいて間違えてしまうのも駄目だ。何を選ぶのかを見守り致命的な間違いを正すのが、大人の務めだ」

 

―――もう、何も言えずに手をだらりと下げた。わからない。どうするべきなのか、どうやるべきなのかがわからなくなって、思考回路がぐちゃぐちゃで何をすればいいのかさえわからなかった。

 

「……俺の話は終わりだ。デュランダル護送前に話すようなことじゃなかったかもしれない。だが、それでも俺は今話すべきだと思ったから話した。それだけだ。……答えが出来たなら、その時に言ってくれればそれでいい」

 

 師匠は以上で終わりだと告げ、去っていき、俺はその場に残された。

 

 

 

                   ◇

 

 

 

 師匠の話が終わって何分経ったのかは覚えていない。ただ、暫く経ってから俺はそういえばもうそろそろ寝なきゃならない時間だとふと思い、フラフラと歩き始め、明日の仕事のために泊まることになった二課の泊部屋の一つに入った。

 

「お帰りーってアレッ!? お兄ちゃん元気ないけどどうしたのッ!?何があったの!?」

 

「……響?」

 

 なぜこの部屋に響がいるのか。それがわからず少し惚けて、しかし直ぐに思い出した。師匠と了子さんの勧めもあって相部屋を使うことになったからだ。しかし、だとすると少しまずい所を見せてしまったかもしれない。少なくともこんな姿を俺は見せたくはなかった。

 

「……別に、なんともない」

 

「いや、なんともなくないじゃんッ! 明らかにお兄ちゃん目が死んでるよッ! ごみぃちゃんになってるよ!?」

 

「……平気だから気にすんな」

 

「へっちゃらじゃないッ!! 少なくとも今のお兄ちゃんを見て放っておくなんて選択肢、私には絶対に絶対ないッ!」

 

「――――っ」

 

 まっすぐに視線を向けてそう言ってくる響の姿は師匠に弟子入りして鍛え始めたのもあるからか何処か師匠に似ていて、それゆえに先ほどの師匠との会話を猶更思い出して自分自身への自己嫌悪が深まっていく。今ばっかりは落ち着くはずの響の目線に耐え切れなくて部屋を出ようかと思い扉へと振り向こうとして。

 

「ダメっ!」

 

「―――っ退けよ、響」

 

「やだっ! 絶対に退かないから!」

 

 そういって横合いから抱き着くような形でこちらの動きを阻害してくる。払おうかとも思ったけれど器用に腕の関節などの動きがしにくいように固めている辺り師匠の教えの効果が既にあるのだろう。これを無理やり退けるのはつまり、響の体に負担を強いていしまう訳で、選択肢に入れられない。こうなってしまえば後はもう耐久勝負になってくるだろうが……話すという選択肢もまたない。

 

「話して」

 

「断る、話さなきゃいけない理由がないだろ」

 

「そんなの関係ない、話してよっ!」

 

「……断る、話すような事じゃない」

 

「話してってば!! お兄ちゃん!」

 

「断る」

 

 押し問答、暖簾に腕押し。この場合どっちが暖簾なのかなんて定かではなく、お互い意固地になって何度も何度も話せ断るが続いていく。そうなった場合、根負けするのはまず、響の方だ。

 

「あーもう! 話してよお兄ちゃんッ! ……そんなに私って信用ならないかな」

 

 こちらへと視線を合わせるために若干上を向いていた響が少し俯いて不安げにそう言葉を零した。

 

―――人の心を守らなければ、真に守ったとは言い切れない。

 

 師匠の言葉が頭を過ぎり、自然と唇を噛みしめ、結局俺は守れていないのだと言われているみたいで悔しさと、同時にそれが完全に正しかったと証明されたみたいでどこまでも自分がダメだったとわかり自身に対して苛立ちが募る。拘束が若干緩んだのに抜け出す気にすらならない。

 

「話さない。そして信用してない訳じゃねえよ」

 

「だったらどうして話してくれないの!? せめて理由を教えてよっ!」

 

 怒りの対象は、矛先は何処まで行っても自分自身でしかない。そしてそうなった原因を話すのは俺が考えていたことを話さなくちゃいけない訳で……それを話すのが怖いんだ。響にそれは駄目だと言われるならばいい。拒絶されるのも苦しいけど我慢できる。ただ、それが原因で、俺がまた原因という形で大切な日常が壊れてしまうんじゃないかと、そう思い、それが現実になってしまうのが怖いんだ。目の前にいる響が、二年前のように無理した笑いで平気だと告げるような状況になったりするというのが我慢できない。だから若干怯えたように震えている響に対して事実を話すことが出来ないままで、結果何も言わず軽く抱きしめる事しかできなかった。

 

「わ、わわ!? きゅ、急に何! どうして抱きしめてるのお兄ちゃん!?」

 

 赤面して慌てて、しかしそれもすぐに収まり、響がこちらへとまた視線を向けて来る。それは先ほどまでとは違う、疑問というより心配の表情だった。

 

「……どうして震えてるの? どうしてそんな、怯えた表情をしてるの? わかんない、わかんないよお兄ちゃん」

 

「気にすんな。ただ……今はもうちょっとだけ、こうさせてくれ」

 

「……ん。わかった。よくわからないけど、お兄ちゃんが苦しいなら、もう少しだけこうさせてあげる」

 

「……悪い」

 

 結局のところ何も解決していない。ただズルズルと引き延ばしているだけの結果になってしまう。ただそれが、今という時間に響と共にいることが、抱きしめ合うという単純なことが居心地良くて、今という一瞬を、刹那が引き延ばされ、味わい続けられればということを祈ってしまう。

 

―――――そう、時間が止まればいいと思った。

 




この話を書くために半年近くかかりました。

というよりもデュランダルの説明関連を最初に書こうとしてここに蓮君いらなくね?という事でデュランダルの説明辺りを没にしたあと、じゃあそのあとにどうするのかでまず悩み、このままだとクリスちゃんの首が飛びそうだったのでクリスちゃんの首が飛ばないようにするための布石回を考え続けた結果がこの話になりました。


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