戦姫絶唱シンフォギアAA   作:マアア

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「ノイズッ!?」

「ノイズだとぉッ!?」

「嫌、嫌っ! 何でノイズがこんなところにぃ!?」

 

特異指定災害『ノイズ』。

その存在がライブ会場の中心近くより出現し始めた瞬間、会場は阿鼻叫喚の嵐に包まれた。

すなわち絶望の声、先ほどまでのライブの続きを求める歓声ではない死への恐怖が篭った声だ。

 

ノイズの出現を間近で見た者たち、すなわちライブ会場の中央付近の席を取っていた人たちがノイズから全力で逃げだそうという動きが始まり、それより早くノイズの行動は始まる。

すなわち、人が多い方向へとノイズたちは動き始める。

 

「ひ、いや――――やめっ」

 

まず最初に犠牲となったのは中年の恰幅の良い男性。

その体格が災いしてか周りより遅く、足音は重く。 それゆえになめくじノイズは反応し真っ先に彼へと突撃をした。

悲鳴が漏れるより早く、ノイズは、その男性は、色素を失い恐怖の表情に顔を歪めたまま服を残して灰となり崩れ落ちた。

 

「ひ、いやぁぁぁぁぁああああああああッ!?」

 

女性の悲鳴が鳴り渡り、それがノイズを寄せる。

人型のノイズが駆け寄る様に近づくのを半狂乱になりながら女性は手に持っていたカバンを投げ、ノイズはそれを透過して近づき、槍のように変化して女性を刺した。

 

「いや、助け―――――」

 

それ以上言葉は紡がれることなく、女性は物言わぬ灰に成り果てる。

人には抗えぬ厄災、人では触れることも対抗することも出来ぬ厄災。

これこそが特異災害指定される異形。

極彩色の炭素の化物―――――『ノイズ』

 

 

人々は蜘蛛の子を散らすように非常口から出ようと殺到する。

当然、俺達も周りの人達から少し遅れたが早く逃げるために動こうと荷物を確認して響の腕を取ろうとして、その響が呆然としているのを見た。

 

「響ッ!? 何してんだッ! 早く逃げないと……」

「ねぇ、お兄ちゃん、あれ、ツヴァイウイングが――――!」

 

厄災が振りまかれる中響はただ茫然とそう告げ、指を指した。

何を言っているんだと思いつつそれでも自然と目は指を追う。

 

そして指の先にはステージを掛け、ノイズ溢れる観客席へと飛び出したツヴァイウイングの天羽奏の姿があった。

 

「―――――っなにしてんだッ!?」

 

逃げるべきノイズの方向へと飛ぶ彼女に対する驚きに言葉が漏れると同時に、その声は奏でられていた。

 

人として死しても、戦士として生きる(Croitzal ronzell gungnir zizzi)

 

言葉が意味として紡がれると同時に天羽奏の体は光に包まれ、地に降り立つと同時にその身は黒とオレンジの装束に装甲が着いた装備に身を包んでいた。

腕を掲げ、その腕の装甲が変形して槍となり、指でそれを掴み彼女、天羽奏は歌を唄い始めた。

 

 

 

《君トイウ音奏デ尽キルマデ》

「――――――――っ♪!」

 

 

 

唄い出すと同時に槍が輝き、周り、風を生み出しノイズへとその暴風を打ち出す。

しかしノイズには透過する力があり、

 

しかしそれを無視して風はノイズを抉りとり、崩していった。

天羽奏はそのまま地を蹴り、一気に5m程飛び上がり手に持った槍を撃ち出し、ノイズを粉砕していく。

それを見て、俺は響と同じように呆然とするしか出来なかった。

 

「なん……だと……?」

 

眼で見て、口からこぼれ出たのは驚愕の言葉。

それは当然であり、必然の驚愕。

 

ノイズに兵器は効かない、人では倒せないという既成概念を現実を打ち壊す力への困惑だ。

 

 

―――――否違う。

 

それ以上に何故か、別の事に困惑していた。

でもそれが違うとはわかるのに、なぜかそれが何なのかわからなくて、困惑する。

 

「―――なんで奏さんが戦ってるの……?」

 

それでも、たとえ困惑しても、響の声を聴いて、やらなきゃいけないことは直ぐに思い出せた。

肩を叩いてから響の腕を掴む。

困惑した表情を向けられながら、口を開いた。

 

「響、逃げるぞ」

「え、だって……まだツヴァイウイングの二人がッ!」」

「俺たちに何が出来るッ!? 理由はわかんないけど事実あの二人は戦えているんだッ! なら戦っているうちに俺たちは逃げなきゃならないッ! ―――頭を冷やせ、ここにいたら邪魔になるだろう?」

 

理由はわからなくても考えることは出来る。

言葉と共に纏ったあの装束が力を与えているのだと考えるぐらいにはだったらあの二人が戦っているうちに俺たちは逃げなきゃならない。

戦っている二人の邪魔にならないように。

 

「――――そっか、そうだよね、お兄ちゃん。わかった、逃げ―――」

 

響が言いきる前に、突然視界が揺れた。

驚く前に、言葉を何か出す前に身体は二人そろって下へと崩れていく。

咄嗟に下を見れば先ほどまで立っていたところが崩れていくのが見え、だから。

 

―――掴んでいた響の腕を引っ張り抱きしめ、自身の体を下に、響の体を上にして、崩れた瓦礫の中に俺たちは落下した。

 

「ッ! が、ぁぁああああああああああああああああッッッ!!!!?」

 

ベキリ、ゴキリと中から異音を響かせながら地面に落ちる。

同時に激痛が全身から走り、口から自分のではないような悲鳴が漏れる。

 

「――――ッ! そんなッ!? お兄ちゃんッ!!!」

 

霞む視界の中、怪我らしい怪我をしていない響の姿が映り、激痛の中少しだけ安心した。

口を開こうとして、血が少し吹き出す、頭が、体が、ダメージを訴えて少しばかりキツイ。

それでも口を開く、言葉を告げるために。

 

「何、してんだ響―――早く、俺を置いて、逃げろ」

「嫌だッ! 嫌だよお兄ちゃんッ! お兄ちゃんを置いて逃げられるわけないよッ! どうしてッ!? どうしてこんなことにッ!?」

 

どうして……か。

全く、頭の悪い妹を持つと兄貴は苦労するってもんかな……。

自嘲しながら血のつかないように気を遣いつつ頭を叩いた。

 

「莫迦、妹を護らない、兄貴なんて。兄貴じゃねえよ……いいから、早く行け」

「嫌だッ! 絶対嫌だよお兄ちゃんッ!」

「いいから、いけッ!」

「―――――――ッ!」

 

少し強めに言う。

聞き分けのない妹はビクリと身体を震わせ、ゆっくりとだが立ち上がった。

 

「……それでいい、お前は逃げろ」

 

そう言って目を閉じる。

もうどうしようもない、落ちたあの時点から見ればこれが最高手だと信じて、せめて響だけでも生きればと思いながら力を抜き。

 

直後体に低くない振動が奔る。

 

「―――――っ、お兄ちゃん重い」

「……いや、お前何、やってんだよ」

 

振動に痛みが生じ、思わず目を開ければ俺の体を無理矢理持ち上げ、背負おうとしている馬鹿の姿が目に映った。

思わず文句をいいかけ、嫌だと再び言われる。

 

「私はお兄ちゃんを置いていきたくない、家族を置いて一人だけ助かるなんて嫌だ。 だから―――――無理矢理連れて帰るッ!」

「莫迦、いうなッ! 人一人連れて逃げれるわけ――――」

「出来るッ! 諦めなければ、絶対叶うって信じてるからッッ!」

 

ゆっくりと、確実に、響は俺を背負い歩き出した。

辛そうにしながら歩き出すその姿に思わず馬鹿じゃねえのと言葉を零す。

 

「そうだよ、馬鹿だもん。だから――――お兄ちゃんの事は絶対あきらめないッ!」

「……ほんと馬鹿」

「馬鹿馬鹿うるさいよ、私に背負えるぐらいちっちゃいお兄ちゃん」

「それは、禁句だって、言ってるだろ……」

 

言いながら力が抜けて寄りかかる体勢になる。

自然と顔は横を向き、ぼやけた視界には槍を回してこちらに来る攻撃を捌く奏さんの姿が見えた。

 

―――護って、くれてるのか。

 

予想通り、思ったとおり邪魔になってしまったというほんの少しの後悔と、響を守ってくれてありがとうという感謝の念を思いながら顔を前に向けようとして、

 

 

直後。

 

 

飛来した何かが直撃し、響の体が横に吹き飛んでいくのが見えた。

 

「――――は、がぁッ!?」

 

地面に落ち、痛みに悲鳴を少しだけ洩らしながら響を探して顔を左右に振り、見てしまった。

 

「ひび、き―――――響ィッ!?」

 

胸から大量の血をぶちまけ、壁に寄り掛かって力なく倒れているその姿を。

 

「おい、おいッ、おいッ! しっかりし――――ガハッ!? ……しっかりしろッ! 響ッ!」

 

余りに突然で、唐突に起きた事実を認めたくなくて、血を咳き込みながら叫ぶようにそれでもなお呼びかけ、反応が返ってこない。

 

「ふ、ざけん……な」

 

声が震える、嘘だと言えと言わんばかりに、何かの冗談だと思いたくなるぐらいの悪夢のような現実に視界が明滅する。

 

「なんで……俺なんか、運ぼうとしたんだよ」

 

俺を背負ってのあの足の遅さでなければ飛来したアレにぶつからなかっただろう。

つまりそれは、俺がいたから響はあそこで死にそうになっているということ。

 

「っ響、ヒビキ、ひびきぃッ!」

 

必死に手を伸ばそうとする中、視界をオレンジが横ぎった。

彼女、天羽奏は響を起こして、必死に声を上げる。

 

「おい、しっかりしろ、目を開けろよッ! ―――――生きるのを、諦めるなッ!」

「――――――ぁ」

 

奇跡か、偶然が、響は声を上げた。

奏さんは響が動いたのを確認して少しだけ救われたような表情をしてから響の体を丁寧に置いて、槍を持ち敵の方向へと飛んでいった。

その確認だけで、すこしだけわかったことに安堵する。

 

「まだ、いきてるッ!」

 

そう、響はまだ生きている。

ならまだ間に合う可能性はある。

そう信じて再び体を動かす。

 

「急げ、いそげ、いそげよ体、動け!」

 

―――今動かなきゃ間に合わないかもしれないんだから。

そう思い必死に血を流しながら這いずり、手を伸ばした瞬間。

 

 

 

――――慣れ始めた感覚が体を襲った。

 

それはほんの五分以上前に白昼夢と判断したソレの感覚。

つまり、人も、ノイズも、響も、すべて止まっているソレ。

それを呼ぶのであれば、時間の凍結と呼ぶのが一番正しい。

そして、それが起きたと理解した瞬間。

 

『お前は何を望む?』

 

赤髪、蒼眼、褐色肌を戦装束に身を包んだ男が再び目の前に立ちそう問い掛けてきた。

いきなりの事態の連続、それでも今はそれを無視して体を動かそうとして。

 

『答えろ、お前は何を望む?』

 

再びそう問いかけられる。

 

「うる、せぇッ! 今はそれどころじゃぁ」

『何を望む?』

 

問いかけに答えるまでは退く気はないと言うように目の前に立ったままのその男。

急がなければと苛立ち、言えば退くのだろうと直ぐに思いつき口を開いた。

 

「―――――時間が止まればいいッ! あのままじゃ響が死んじまう、救援が来るまで、響が生きれるようそれまでの間この瞬間が、響が生きてる刹那が永遠に続けばいいッ!」

『――――それが望みなら、契約しろ』

「はぁッ!? っち、ああわかったよッ! してやるよッ! なにがなんだかわかんねぇけど、それで響が救われるならしてやるさッ!」

 

苛立ち交じりに吐き出すようにそう告げた。

武骨な表情のままだったその男は、ふと表情を緩め、

 

『契約は交わされた――――文句なしに合格だ。 頑張れよ、■■■。必ず彼女を―――』

 

そう言って男は消え去り、時間の凍結は解凍された。

 

そして―――――無意識に俺が右腕を伸ばした瞬間。

 

地面からギロチンが生え、伸ばした右腕を中程から切断した。

 

「――――――ぁ? が、あ、あぁぁぁぁぁああああああああああああああああッ!?」

 

最初は事態が呑み込めずに一瞬呆然として、直ぐに激痛が身を焼き、悲鳴を迸らせながら、限界と判断した体がブレーカーを落とすように意識が落ちていく。

突然なくなった腕の痛みにのた打ち回りながら、霞む視界に響の姿を捉えていた。

 

全ては理解できないうちに、始まろうと、否。

始まっていた。

 




腕がちぎれることに縁のある兄妹。
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