―――聖遺物というものを、ご存じだろうか。
それは聖者が残した遺物ではなく、遥かな昔の先史時代、いわゆる縄文などの時代よりも前、紀元前4000年より前の遥かな昔の時代に作られた物全ての事を指す。
そんな時代は存在しない? 馬鹿げている?
……結構、そう思うのならそう思ってくれて構わない。
だが現実にそんな時代の代物が出土しており、それは現代の技術を遥かに超えた異端技術として聖遺物と呼ばれている。
つまり。
この話は現実の話という事だ。
さて、聖遺物についてはさきに話した通りであり、その通りであれば突き詰めれば聖遺物とはその時代の物であれば何でもいいという事になる。例えば武器、たとえば乗り物、あるいはそこらにある本や公共物から最悪艶本でもいいと言える。
先史時代に作られた物であれば何でも聖遺物たり得るということなのだから。
それが事実だとして、もし仮にそれらが発掘されたとして、そんなものが完全な形で出土するだろうか?
例えば災害。
隕石の落下から地震、津波など様々な異常気象にそれらは耐えきれるだろうか?
或いは人災。
人の業は深いもの、無知蒙昧たる愚者がそれを壊したりしないと言い切れるだろうか?
―――――答えは無論、多種多様。
耐えきれるものもあれば耐え切れないものもある。
壊される物もあれば壊されないものもあり、砕けてバラバラになるものもあれば綺麗に残ったものもあるだろう。
そもそも全部壊れている、全部無傷など起こりようがない。
現代よりも発達した技術で作られている故にそこ辺りの対策は現代よりもはるかに優秀であるのは至極当然であるが、当然数万年、数十万年の長い年月に置いて完全に残った物はそう多くない。
故に完全にそろっているそれを機能に支障が全くない物を人は完全聖遺物と呼んでいる。
通常の聖遺物はもはや普通に起動することはないが完全聖遺物は機能は十全であり誰にでも扱えるだろう。
――――だが。
もし本当に完全聖遺物があり、仮に起動したとして、安全装置がないと思うだろうか?
例えば、起動して直ぐに誰にでも使える核兵器があるだろうか?
否、そんなものはありなどしない、あってはならない。
故に理由が必要だ。
扱える理由が、使うことが可能である理由が。
だから、彼が完全聖遺物を、あの武器を扱える理由は直にわかると思うよ。
まあ、■■■の■■でしかない私にはそれを見る機会はない以上、あくまでも推測だがね。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
知らないはずの、自身が主観でない夢を見た気がした。
意識が体に回帰し、夢は夢として形を終えて意識は現実へと戻る。
目を開けようとして、まばゆい光が瞼越しに網膜を焼こうとしていることに気付いた。
「――――――」
何度か瞬き、ボヤケタ視界が纏まる様に、ズレたピントが合うように視界が揺れ、やがて目の前の光景を映し出す。
白い光、動くナース服を身に纏う人の姿。
口元に付けられた酸素マスク。
それだけあれば、どこに居るのか、どうしてこうなったのかは理解できた。
病院のベッドの上にいると、それはつまり―――――。
「――――生き、てる……」
口からこぼれた言葉がすべてだった。
「――――ッ!? 先生、患者が意識を取り戻しました、至急来てくださいッ!」
微かに漏れ出た言葉を聞いていたらしいナース服の女性が驚きを露わにしながらそう言うのを聞き流して、体を起こそうとする。
全身に力を籠めて起き上がろうとして、腹部と頭部、そして脚部に走る激痛に中断することを余儀なくされた。
「―――――ッ!」
痛い、そう言いかけて歯を食い縛り、手で頭と腹を抑え――――――。
気付く。
「……手が、ある?」
頭を触った右手は意識を失う前の自身の最後の感覚では千切れていたことを思い出し、可笑しいと気付く。
持ち上げ、頭を触った拍子に見えた肘には何もなかった。
ならば最期に見た物は、激痛は幻覚だったのか?
そう思ったがしかし、それにしては右腕には謎の異物感が残っていた。
理解できず顔を背けた先には電子時計があり、時は事件より三日過ぎていることを示していた。
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嵐のような主治医の尋問の様な問診、それが終わった後に駆けつけてきたお祖母ちゃんと母さんに涙交じりの抱擁を受け、気恥ずかしくなりながらもそれに返して数日ぶりになる会話をし、面会時間を終えて一人になる。
「――――――――」
大きい病院の一室を独占している。
ナースコールは手元にあり、近くの台にはお祖母ちゃんと母さんが見舞いの品と置いて行った果物とかが置いてあった。
「――――――――」
静寂。
誰もいないからこそ静かであり、眠るにしては三日という永い眠りから覚めた後で目は冴えたまま。
そして何よりも―――――。
「……くそっ」
一度取り戻した意識の中で会場での出来事がリフレインして平静でいることを妨げる。
『響も一命を取り留めて生きているわ。 峠は越したから大丈夫、でもまだ意識は戻ってないの』
辛いのを隠して、無理して笑って告げたお祖母ちゃんと母さんの表情が視界の端にチラつく。
「――――無理してる表情似合わねえよ……どうして言ってくれないんだ」
お祖母ちゃんも、母さんも良かったと言葉を口にするだけで何も言わなかった。
「兄貴なのに、守れなくて不甲斐ないとかさ……言ってくれよ」
それが酷く辛かった。
自身の罪だと明確に分かっているからきつかった。
そう言って、罵ってほしかった。
「俺が……俺がいたから響が大けがしたのに」
俺を運ぼうとしたせいで響は怪我をした。
二人がその現場を知らなかったのはわかる。
でも、それでも、だけど、わからなくても。
兄貴として妹を護れないのはだめだと言うありきたりな言葉でいいから怒ってほしかった。
『私たちは二人が生きていてくれただけでうれしいの』
「祖母ちゃんも、母さんも辛い顔してそう言うくらいなら――――」
それは泣き言で、弱音で、それでも本音だった。
他の人に聞かれれば馬鹿じゃないのとか言われそうなもので、それでも心の奥底から思った後悔の言葉だ。
だからこそ、
「そこまでにしておけ――――泣き言は心の中に仕舞っておくものだぞ。 少年」
「―――――ッ!?」
俺に対して急に掛けられた男の声は重く、響いた。
顔を向ければ赤い髪を荒々しく後ろへ伸ばし、長袖のワイシャツを二の腕までまくり、ネクタイを胸ポケットにしまい込んだ男が部屋のドアを開けて立っていた。
「――――誰だ、アンタ?」
知らない男が唐突に俺に宛がわれた、俺しかいない病室に入っていることに対する警戒でナースコールへと手を伸ばしながらそう尋ねる。
「守れなかった大人だよ。別に怪しい者じゃない」
「……そう言うやつほど古今東西怪しくなかったことはないと思うんだが?」
そういいつつもその男の瞳に、表情に嘘はないと思えて警戒心が初期以上芽生えず、手に持っていたナースコールを手放した。
「で、何の要件なんだ、アンタ?」
「そう急かすな少年。まず名乗ってからでも遅くはないだろう? 俺の名前は風鳴弦十郎、まあしがない只の大人だ」
「……立花蓮、ただの餓鬼だ」
良しと、その男、弦十郎は笑い、ベッドの近くに備え付けられた椅子に座った。
間近で見て、改めてその男、弦十郎を見て気付く。
「……あんた、怪我してるのか?」
気付かれたかと弦十郎は苦笑した。
微かに漂う消毒液の匂いに気付いただけだと返した。
「で、名乗ったんだ。 要件を言ってくれるんだろう?」
「ああ、そうだな。 君の疑問に答えるためだ」
「疑問? 生憎だが俺はあんたが知ってそうな事で疑問に思ってる事なんてない。 休んでる間の教科書の問題でも教えてくれるのか?」
「天羽奏の纏った装備、そしてギロチンについて」
「ッ!?」
何故そのことをこの男は知っているッ!?
天羽奏の装備についてはまだおかしくない、冷静に考えてみれば裏があることぐらいギリギリ考え付く。
だがギロチンは別だ。
俺自身若干重い以外には夢なんじゃないかと思っていた位の出来事だ。
「アンタ……何者なんだッ!」
警戒を最大限に再び高め、弦十郎にそう尋ねる・
落ち着いた様子で弦十郎は改めて、もう一度自己紹介しようと言った。
「人類守護の砦『特異災害対策機動部二課』の総司令をやっている風鳴弦十郎だ」
「特異災害対策機動部二課……?」
疑問符を浮かべながらの俺の問いに弦十郎はそうだといった。
「ああ、そうだ。言っちまえばノイズの被害を抑え、ノイズを倒すために設立した日本直属の組織だ」
「日本直属――――だけどノイズを倒すなんて……」
「それを可能にするのがシンフォギア、お前の見た奏の装備だ」
「――――――!」
そうだ。
確かにあの時彼女、奏さんはノイズを倒していた。
それは確かにこの目で見ていた。
「色々話す前にそうだな聖遺物は知ってるか?」
「……ああ、知ってる」
少し意外な表情をされた。
だけど実際知っていることに問題はないだろう、話を省略できるのだから。
「まあそうだな、おかげで話を端折れるが……聖遺物を加工したものがシンフォギア、そしてそれを扱う適合者が奏と翼、ツヴァイウイングだった、二人がアイドル活動をしていたのは――――」
「歌が起動に必要だったんじゃないか?」
「―――そうだ、が。どうしてわかった?」
「戦っている間歌が響いてた、シンフォギアを纏うときも歌っていた。 なら歌が必要ってことぐらいは予想できる」
驚いた表情のままの弦十郎を見ながら本当に予想したのだろうかと我ながら疑問に思う。
普段とは違い始めて喋る相手に言葉が滑らかに出るしすらすらと知識が湧き出る。
本当に自分の知識なのだろうかというおかしなことさえ思う。
「……続けてもいいか?」
「あ、悪い―――大丈夫だ」
「気にするな―――――聖遺物の起動には歌が必要だ。そのためライブ会場の下では聖遺物の起動実験が行われていた。その折にノイズが現れ、起動実験をしていた二つの完全聖遺物が行方不明になった。だが、一つだけ直ぐに行方は分かった――――蓮君、君だよ」
「………続けてくれ」
腕を抑えて、続きを促す。
「実の所起動実験自体は成功していた。起動した完全聖遺物『ネフシュタンの鎧』と『ボワ・ド・ジュスティス』。このうち『ネフシュタンの鎧』の反応は完全にロストしたが『ボワ・ド・ジュスティス』の反応は直ぐに確認された――――君の中に」
「……」
身体の中にギロチンが入っている。
酷く奇妙な言葉で、だけど何故か納得している自分がいた。
本来ありえないことのはずなのに、違和感なく受け入れていた。
「つまり、この右腕はそのボワ・ド・ジュスティスってものなのか?」
「ああ、その肘から下の腕の部分に完全に適合した状態でな。一体どうしてそうなったのかはわからんただ一つ、それがわかったからには君には言わなければならないことがある」
「―――――――」
ここまで聞けば分かる。その先の言葉は大体予測できる。
国の組織である特異災害対策機動部二課。
そのもとで武器にされる予定だった聖遺物を意思にかかわらず関わらず持っていった奴がいる。
ならばやることは単純。
「この腕……ボワ・ド・ジュスティスを回収するのか?」
「いや、違うそんなことはしない。 只、君には二課に入って貰いたい」
「……どういうことだ?」
「そのままの意味だ―――現状君は世界で唯一の聖遺物と物理的融合を果たした人間だ。 何処からか情報が漏れたとして、放って置けば拉致解剖などを受けかねない。それに対処するためだ」
「……………」
「そしてもう一つ、君の力を貸して欲しい。現状二課は人手不足、ライブの後始末などでまともに動けないうえシンフォギア奏者は翼一人しかいない。手が足りないんだ」
「力を貸せって……」
言葉の意味通りであればそれはノイズと戦うという事だろう。
……出来るわけがないと思う。
だが……拒否できるわけもないことは理解していた。
返答に惑う間に、弦十郎は紙をポケットから出して机の上に置いた。
「今すぐにでなくていい、一週間以内にここに連絡をくれ―――戦わず、ただ二課に入るだけでも構わない、戦うことは強要はしない」
「―――――ああ」
どうすればいいのかわからずに。
ただそう返答した。
「―――――すまなかった」
少しだけ間を置いて、突然、弦十郎は立ち上がり頭を下げてそう言った。
それは唐突過ぎて予想と理解の範疇を超えていたが故に困惑し、何故だと思う。
「どうして急に謝るんだ? わけわかんねえぞアンタ」
「子供を護るのが大人の役目だ、だが、君を巻き込んでしまう。君の日常を壊してしまう、力がなくて……すまない」
理解できないと思った。
現実的に考えて今はそう言う状況ではないと思った。
さっきまでの話を聞いて俺一人の事を考えるような事態ではないと言うことぐらい子供の俺でもわかる内容だった。
それでもこの男、風鳴弦十郎はそんな中俺という個人に対して謝るという事を選択した。
力のない事を悔いるように。
だけど今の俺には、何を言うべきかわからなかった。
女神様が入っていないのでマルグリット・ボワジュスティスではありません。
誤字ではないのであしからず。
次回は蓮君の受難の話になるとおもいます。
あと正式に今回の話で初めて主人公こと立花蓮君がフルネームを言いました。
追記
『正義の柱』だけだとボワ・ド・ジュスティスのようですね。
自身の知識の浅さがッ!