戦姫絶唱シンフォギアAA   作:マアア

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これにてプロローグは終わり。
ちょっと難産回でした。




 

 

 

夕方、自室、ベッドの上で端末に紙に書かれた番号を確認しながら電話番号を打ち込み、発信ボタンを押して、耳に翳す。

 

「―――――っ」

 

端末の画面の冷えた感覚が殴られ、腫れた頬に当たり、痛みを強く訴える。

暗い部屋の中コール音だけが響き渡り、やがてブツリと相手と繋がる音が聞こえた。

 

『もしもし。 風鳴弦十郎だが』

「立花蓮だ」

『―――返答は決まったのか?』

「ああ」

 

短く、淡々と答えていく。

今の自身の表情はおそらく、きっと鋭くなっている。

 

「決めたんだが、その前に一つだけ条件を付けたい」

『条件? 何だ?』

「それは―――――」

 

俺がやらなきゃいけない、俺がやらないといけない、俺にとって絶対に譲れないもの。

 

「二年後の春、中学卒業までは――――ここに居させてくれ」

 

――――響を今度こそ、護る事。

 

その為にもこれだけは譲れなかった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

俺が親父について知っていることはまあ普通に、一般的な中学生が知っているレベルの事でしかしらない。

身長はそれなりに高く、普通の容貌で、若干プライドが高い所があるものの性格はそこまで悪くはない。

中堅企業の社員で、最近大きめの取引を任され、新しいプロジェクトメンバーに抜擢されたと言って喜んでいる姿は子供っぽいものの本当の喜びに満ちた笑顔で、俺もそんな親父を見てよかったと思える出来事だった。

だが――――。

 

 

 

それは砕かれた。

 

 

 

きっかけはほんの些細な事。

俺と響が入院とはいえ生きて、一命を取り留めたことを親父は喜んでくれたらしい。

それこそ世論がどうであろうと生きてくれたそのことを喜んでくれた。

それを会社でも言って、会社の人たちもまた入院して生きながらえたと言う所もあり世間でのバッシングなどもあまりなく受け入れ喜んだ。

 

だが、取引先の会社にそれが伝わった時、その会社は取引を切った。

取引先の会社の社長の娘、その娘もまたライブ会場にいたらしく、犠牲者だったらしい。

それを契機に新プロジェクトからも親父は外され、周りから徐々に持て余されるような扱いになった。

 

親父はそれに耐えられなかった。

仕事がなかったため早期退社をし、家で酒を飲むように、管を巻く様になり、やがてあれ荒み始めていた――――そこに原因である俺が帰ってきた。

酔っていたこともあるのだろうが親父は泣くように叫んでいた俺を無視して近づき、全力で拳を振るった。

 

その時の俺は当然そんなこと知らなかったから驚きよりも何よりもまず呆然とした。

理由はわからなかったけど喰らった拳には痛みが無かった。

だけど痛かった。

親父の拳は俺には重たかった。

辛かった。

でもそれ以上に受けるしか出来なかった。

俺はまだガキで妹の響にすら身長が、体格が追い付いていなかったから俺を持ち上げて殴る親父に対して取れる抵抗なんてなかった。

いや、そうじゃない。

何よりも――――大切な日常が、家族が、目に見える形で罅が入ってしまったことが嫌でも理解できて、それが辛くて、ただ現実逃避みたいに目を背けていただけだった。

 

それがどれくらい続いたのかわからないけれど、気が付けば終わっていたという気しかしなかった。 痛みは対して感じなかったし(聖遺物)が勝手に治していくから。

そう、気が付けば親父は俺を放り出してまた酒を飲んでいた。

 

でも何故、どうしてと思考は、現実逃避は終わらず、壁に寄り掛かって呆然としたままでいる間にお祖母ちゃんと母さんが帰ってきて、親父がいる理由を知って、納得してしまった。

 

納得してしまったから居づらくなって、部屋に籠って、ひたすらどうすればと考えてた。

罅の入った日常を、砕けてしまいそうなそれを護る方法を。

 

 

 

 

「―――戦い、だよな」

 

それを最初に考えたのは学校で立場に気付いた時からだろう。

戦う事、敵を倒すこと。

ノイズを倒して、人を護る事。

考えれば当然の選択なのかもしれない。

護るために戦うのは男の仕事という考え方、それは俺にも共感できるし納得できることだ。

元々二課に行くことは決定しているのだからそうするべきじゃないかとは考えてた。

 

けど、でも――――。

 

「響を、どうするよ」

 

それを真っ先に考えた瞬間、全ての考えは白紙に戻った。

二課に行くこと。

そうなった時にこの家に残るのは親父とお祖母ちゃんと母さんと、まだ入院中の響。

俺が手を出されたからと言って、響が手を出されないという保証は出来るわけないし確率は殆ど低い。 それに学校も、今までみたいにはいけないはずだ。

 

けど、それだけはあってはならない。

俺は響を護らなくちゃならない。

それは義務でも使命感でもなく兄として当然のこと以前に大切な存在だから。

大切な人を護れないのに、他者の為に戦うなんて選択肢は俺にない。

だから悩んだ。

悩んで、悩んで、悩んで悩んで悩んで悩んで。

そしてもう面倒くさくなって、弦十郎に直接交渉することにした。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

結果的に言えば許可は下りた。

週に三度ほど二課へと赴き身体検査などを受け、やがて二課に正式に入りノイズと戦うことを条件に。

それでいいのかと、あまりにも簡単に話が通ったことに拍子抜けしながら尋ねてしまうほどあっさりとその要望は通った。

 

『ああ、そんなのは当然だ。 子供の真摯な頼みを答えない大人はいないってことだ』

 

何だそれと思わないでもなかったけど、弦十郎ならそうしてくれる気がしていた。

何の当てにもならない感覚を信じて、上手くいったんだ。

だから――――。

 

きっと、今は罅が入った日常と家族だけど、いつか元に戻ると信じることにした。

 

 

 

 

1週間、2週間と日が過ぎて行った。

響が退院を迎えた後も非日常が少しだけ混じった日常を続ける、学校をさぼるように見せて響に怒られながら二課へと赴いたりして、若干不良のように言われ始め、それが響を非難させないように、俺の方に視線を向けさせて響の傘になる様にして、家で暴力を振るわれようとも受け入れて、どうにかなると信じて―――――――破綻した。

 

 

 

その日は二課に行って泊まった次の日で、土曜の雨の日だった。

二課に行って、検診やらなんやらを色々受け、戦闘訓練などを受けて一日を費やし泊まり込み、朝になって帰ろうと思ったときは結構な雨が降る午後の早い時間帯。

傘をめんどくさがり持って行かなかったせいで若干雨に濡れながら急ぎ足で帰り、家に着いて中に入った時、玄関で響が泣いていた。

 

「――――響ッ!?」

 

声を荒げ、我を忘れるて駆け寄りそっと肩に手を降ろして、どうしたと尋ねた。

 

「あ、お兄ちゃん……」

 

眼は腫れていた、涙で滲んでいた。 顔はくしゃくしゃにして、眉尻もハの字を描いた顔で何も言わずに抱き着いてきた。

普段は真っ先に怒る筈なのに、サボって、どっかいって、何してたのと怒りを露わにするはずなのにそれすらなく、響は抱き着いて、泣き叫んだ。

嗚咽を漏らす響をそっと撫で、落ち着かせようとして、涙に混じった声に思考が停止した。

 

「―――――お父さんが……いなくなっちゃった」

 

―――それを最初聴いた時には冗談だろと言いたかった。

なんでと言いたかった。

どうしてと叫びたくなった。

それでも、今は響がいるから、何も言わずにただ背中を撫で続ける事しか出来なかった。

 

――――口の中に、鉄の味がした。

 

やがて響が泣き疲れたのか寝て、体を起こして部屋に連れて行ってから、居間にいたお祖母ちゃんに尋ねて――――もう、何も言わずに家を飛び出していた。

 

雨の中を傘を持たずにがむしゃらに走り出して、何も見ずに、ペースも考えずに走って、気が付けば川岸についていた。

 

強く流れる川を、呆然と見つめていた。

 

「―――――ぁ」

 

止まった瞬間お祖母ちゃんに親父が零した言葉を伝えられたことを思い出す。

―――親父はもう耐えられなくなって逃げるようにし出て行ったと。

 

「――――ぁあ」

 

口から音が漏れだす、それを止める術はわからない。

―――ずっと殴っているのに反論も、怒りも見せない蓮が恐ろしいと言っていたと。

 

「あ、あぁぁ」

 

膝から力が抜けて、コンクリート製の地面に身体が崩れ落ちる。

――――だから逃げるように出て行ったと。

お祖母ちゃんの言う言葉は親父の真実だった。

だからこそ――――俺には耐えられなかった。

 

「っぁあああぁぁぁぁああああああああああああッ!!!!」

 

他ならない単純な事実。

護りたかったものは、大切な日常を壊したのは俺自身だという事。

 

「どうしてこうなるんだッ!」

 

どうしてこうなってしまうんだ。

本当に―――――。

 

「どうして、こうなっちまうんだよッ!」

 

前に張られた頬が、肉体がズキズキと痛みを訴える。

コンクリートに預けた身体が冷たさを信号として送る。

頬から零れ落ちる滴が心の痛みを気持ちに届ける。

 

「どうして、大切な物ばかり―――――俺のせいで」

 

後悔の言葉、悔恨の言葉、悲嘆の言葉が溢れだす。

それを全て集約した言葉が漏れだした。

 

「なんで、大切な物(にちじょう)ばかり、すぐに壊れちまうんだよッ……!」

 

自分で壊してしまった大切なものの重さを、自分の考えが至らなかった結果の後悔にただ飲まれて叫んでいた。

 

右腕を掻き毟るほどに抱く。

 

悲嘆と、憎悪と自傷の念が体を突き動かしてそうしていた、そうでもしないと耐えられなかったから。

 

「どうして、どうして、どうしてどうしてどうしてどうしてッ! 俺はッ―――――!」

 

激情に身を任せてただ吼えていた。

 

「ただ、大切な日常を護りたかったのに、どうして―――――壊しちまうんだよ……」

 

疲れて吐き出すようにそう零した。

俺が悪いから、そうなる様に神様がそうしてんのかと紡いだし事実そう思った。

だから―――――。

 

 

 

 

 

「違うよ、蓮」

 

そう言って抱きしめられたとき、俺は最初ついに可笑しくなったのかと思った。

 

「私が、全部悪いの」

「――――未来」

 

声の主は幼馴染、小日向未来の声。

最近意図的に合わないようにしていた幼馴染。

偶然会ったとしても顔を逸らして、見ないようにしていた響の、俺の大切な友人が、後ろから抱き着いてそう言い放った。

 

「な、に―――言ってんだよ。 つかお前、どうしてこんな日に外に出てんだよ」

 

抱き着いていることに関して聞くほど余裕がなかったから、そう尋ねた。

 

「―――窓、蓮が、走ってる姿が家から見えたから。 気になって外に出て、追いかけて見たら――――泣いてた」

「別に泣いてなんか」

 

咄嗟にそう言って振り向こうとして、ダメと止められる。

 

「今蓮と向き合ったら、私、逃げちゃうよ。 臆病だから」

「どうして、別に謝るようなことは――――むしろ俺が」

「ライブに誘ったのは私なのに―――私は行けなくて、二人が怪我して、周りからバッシングを受けてる。 ――――冷静に考えて全部私のせいだよね」

「ちが、そんなことはッ!」

「そんなわけないわけないじゃないッ!」

 

遮ろうとした言葉は怒鳴るようなその言葉に閉ざされた。

未来は続けてどうしてと紡いだ。

 

「どうして蓮も、響も私の事を嫌って、怒ってくれないの? 私はこの一月ぐらいの間ずっと待ってたんだよ? 全部お前のせいだって言われたかった」

 

―――そうすれば自分の罪だと認められるから。

 

「私は響に感謝される覚えなんてないんだよ? なのに響は私にありがとうって言ったの、可笑しいよ、可笑しいよっ、可笑しいよッ!」

「どうして何も言ってくれないのッ! どうして罵らないのッ! どうして、どうして――――――ッ!」

 

其処から先を聴く気はなかった。

言わせたくなかった。

大切な友人にそんなこと言ってほしくなくて、無理矢理振り向いて、抱きしめた。

 

「馬鹿野郎、そんなこと言えるわけねぇだろ」

「だって―――私は、私がッ!」

「言えるわけねぇだろッ! わかってんだろ、俺が、響が、どういう性格してんのか……」

 

未来は詰まった。

響は自分の失敗について人に理由を求めない、そして――――。

 

「俺が、お前を、怒れるわけねぇだろ……」

 

こんなに震えている、涙を流している女を怒るなんて、罵るなんて、出来やしない。

 

「俺は、お前が、未来が大切なんだよ――――怒れるわけないだろ」

 

それは原初の誓い。

大切な人に手を上げるなんて、ましてや泣いている女に手を出すなんて出来ない。

たとえ納得されなくても、無理矢理抱きしめて、これ以上は言わせない。

 

「―――未来、お前はいてくれ、俺の大切な日常で、響のひだまりで、ずっとそばにいてくれ―――頼む」

「…馬鹿」

「ああ」

「……馬鹿馬鹿馬鹿」

「ああ、わかってる」

「……馬鹿だよ、蓮は」

「知ってるさ」

 

どれだけ言われても、これ以上日常を失いたくなかった。

たとえ粉々に散って、欠片になってしまったとしても、もう一度拾い集めてみせる。

この胸に抱きしめて、再び物語を紡いでみせる。

俺の日常は――――奪わせない。

 

「俺が――――未来を、響を護る」

 




次話はちょっと端折った二週間ほどの間の二課での話。
それが終わったらシンフォギア本格的に開始です。
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