友情、努力、勝利!!よりエロ、おっぱい、勝利!!な気がする 作:ニュイン
あなたとの自由を、美しい世界を。
少年は求める。
大切な者を守る力を、そして幸せを。
傍観者は嘆く。
その愛は報われない。その想いは褒められない。
1人の少女と少年の想いは届かず、世界は廻り続ける。
あれから師匠に連れられ自分と同じ境遇になった者や、鬼へと成ったが救われた者がいる集落がある場所へと向かった。その道中、月さんは娘がいるとのことで帰っていったが僕は鬼について気になったことを師匠に聞いていた。
「師匠。初期段階の鬼化なら救えたって言ってたけど、段階って何なの?」
「まぁ何てことはねぇよ。人から鬼へと成るまでの段階さ」
話を聞く限り纏めると初期段階の”侵食域”、2段階の”寄生域”、3段階の”憑依域”、最終段階の”転成域”の4つの段階に分類されるらしい。
「初期の侵食域と2段階の寄生域は、人の姿でありながら鬼の意思に支配されてる状態さ。所謂、人が魔が差すっていうのはこのせいだ。3段階の憑依域からは鬼に心を食われていって、最終段階で人の面影は無くなって鬼そのものに成るんだが少し時間が掛かる」
「だからお母さんは、赤黒くなってたんだ」
つい先程のことを思い出す。もしもあの時お母さんの姿ではなく、”鬼”であったなら少しは気持ち的に楽だったのだろうか? いや、そんなたらればのことを考えても意味は無いのかも知れない。不安とも寂しいとも言えない気持ちを紛らわすために繋いだてに力がこもる。
「んだよ、痛ぇな。これだからガキは」
口では悪態をつく師匠だが、その手は優しく力強く握り返してくる。それは”心配するな、安心しろ”とでも言っているようで嬉しくて堪らなくなり手の力を強めたり、弱めたりの繰り返しをしていると師匠が言っていた目的の場所に着いていた。
「ここがさっき言ってた」
「そう”桜花村”だ。まぁ入るには結界が張り巡らされてるから気をつけろよ?」
そう言った師匠は右手で何か印を結ぶと視界が白く塗りつぶされる。すると今まで関所が1つポツリと、あるだけだったのが沢山の人が生活していた。
「この人達は?」
「鬼化から救った者やお前と同じ境遇の人間達さ。まぁ、これでも一部の数だけどな」
師匠は僕の疑問に答えるが、その淡々とした返答が怖かった。ざっと見るかぎりでも数百人くらいの人数だったからである。すると、1人の髭を生やした老人がこちらに向かって来た。
「これは”戦巫女様”お帰りで……はて、その子どもは?」
「あぁ、こいつは無動裕也。ん~、簡単に言えば新しいここの一員だな」
「ほほぉ、そうでしたか。私は一応ここの長をやっている源三というものです」
「ねぇねぇ、お爺様! この子は誰?」
――いつの間にか僕と同い年位の女の子が源三さんの後ろからひょこっと現れた。
「こらこら、愛美きちんと挨拶しなさい」
「えへへ、ごめんなさい。……えっと、私は愛美っていうのよろしくね!」
「ぼ、僕は無動裕也。これからここでお世話になると思う。その、よろしく」
愛美(マナミ)と自己紹介した子は、肩口辺りで切り揃えられた黒髪の女の子だった。古風な着物を着ているが、それは彼女の容姿と相まってとても似合っていた。
「そうなんだ! ねぇ、お爺様。私がここのこと案内してもいいでしょ?」
「そうだね……。じゃあ私は戦巫女様とお話があるからお願いできるかな?」
「うん! じゃあ行こ」
愛美ちゃんは僕の手を掴むと急に走り始めた。僕はというと同い年の女の子と手を繋ぐという行為が数える位しかないので緊張していて、このうるさくリズムを刻む心臓の音が恥ずかしくてどうか彼女に聞こえないでと願うばかりだった。
「あ、そうだ! ねぇ、裕也君。この村のことで他に聞きたいことある?」
休憩場所として村の奥の小高い丘にある花どころか、もう枯れてしまっているんじゃないだろうかと思う一本の桜の木の根元で彼女が質問してくる。ここで生活するルールであったりと、正直この村のことで聞きたいことは聞いた気がする。いや、1つだけ聞きたいことがあった。
「あのさ、君や村の人達は”鬼”のせいでここにいるんだよね?」
ここでこの質問をしたのは間違いだった。明らかに彼女の纏う雰囲気が変わりまだ夏だというのに鳥肌が立ち、僕と彼女を中心に温度が下がった。
「知りたい?」
そう聞き返してくる彼女は今まで見せていた花が咲いたような笑顔ではなく、まるで人形のような無表情だった。”鬼”というワードは彼女にとって逆鱗であったと理解したが、もう口にしてしまった言葉は覆せない。
「――知りたいなら教えてあげる。私達は鬼の被害者って言えばいいのかな? ううん、違う。きっと私達は鬼そのものなんだと思う」
「鬼……そのもの?」
正直、今すぐにでもここから逃げ出したい。でも、身体が動かず視線は彼女に固定される。彼女の眼が僕に言っているのだ、”逃げるな”と。
「そう、ここにいるのは鬼に襲われた人や鬼化から救われた人の集まり。だけどね、鬼へとまた成ってしまうかもしれない危険、鬼に負けてしまう恐怖が付きまとう。――いや、きっと鬼に成る。だからそうなってしまった時に何時でも殺される為にこの村で暮らし、戦巫女様に監視されてるの」
言葉が出なかった――というより言葉を発することができなかった。
「私達はもう、人としては2度と生きられない。……うん、ちょっと違うかな? 生きてはいけないが正しいかな」
「どうして、泣いてるの?」
そう、彼女は泣いていた。その涙を見て僕は、彼女の心の叫びを止めたくて仕方なかった。
「……質問を質問で返すけど、裕也君は神様を信じてる?」
僕は首を横に振ることで否定する。だって神様という存在がもし、いたとしたらお母さん達を助けてくれたはずだからだ。
「うん、正解。この世に神様は存在しない。だって神様は”世界”そのものなんだから」
「世界そのもの?」
「そう、世界。例えばこの土、草、水。――全てが神様であり世界を創造してる材料」
彼女が掴んだ土や草がポロポロと手から溢れ落ちる。
「だから正しく願わなければその望みは叶わない」
そう言い彼女は近くの花を一本、指さす。
「例えばこの花は、綺麗に咲きたいと願うとする。土に、草に、空気に、水に、陽の光に。するとその願いは叶い綺麗に咲くことができる」
「じゃ、じゃあ人は何に願えばいいの?」
「それが間違いなんだよ」
――間違い。彼女は天を仰ぎ見ながら悲しい声音で否定する。それは眼に溜まった涙を、溢さないように。
「人はね、同じ人という神様にすがり付いても、どんなに願っても叶わない。だから、別の神様に頼るしかない。たとえそれが正しくない選択だったとしても……ね」
それは違うと、彼女を否定したかった。でも、できなかった。僕は否定するだけの答えを持っていなかったから……。
「幸福と不幸。真実と虚偽。善と悪。――そして、人と鬼。この意味、分かる?」
「表裏一体……だから?」
「そう、幸せがあるから不幸がある。真実があるから嘘が生まれる。善が存在するから悪が存在できる。だから人は己の鬼に委ねてしまうの」
何となくだけど言いたいことは分かった気がする。彼女が何故泣いているのかも。諦めたのだ誰かに助けてもらうのを、止めてしまったのだ誰かに期待するのも。だから、己の鬼に心を許してしまったのだと。
「自分でも仕方ないことだって、自業自得なんだって何度も繰り返し言い聞かせた。……でも叶うのならもう一度だけでいいから、ほんの一時でいいから腕を広げても包み込めない向日葵畑を走りまわりたい!」
「待ってて、愛美ちゃん。今すぐに、とは言えないけど――きっと君を連れていってあげるから、沢山の向日葵が咲く場所へ」
「本当に?」
「うん、”約束”するよ」
この時の僕は彼女の泣き顔よりも笑顔が見たかった、それだけだった。もしも彼女が神様を信じていないなら僕は彼女の、彼女だけの”ヒーロー”になろうとした。だってヒーローなら誰でも助ける存在で泣いてる女の子を見捨てないから。
だって、都合のよい神様は僕らを決して救いはしてくれないのだから……。
◇
「師匠、お願いします!」
僕は、愛美ちゃんと別れ彼女と交わした約束を守るため師匠の所へやって来ていた。
「だから、何でテメェを強く鍛えなきゃなんねぇんだよ」
「敵討ちとかじゃない。”約束”を守るために!」
蓮花は見てしまった。少年の瞳を。その眼には復讐の業火でもなく、その火は小さかったが確かに力強く灯っていた。そう、確固たる決意の火が。
「……はぁ、分かった。テメェに修行をつけてやる、ただし覚悟はしとけよ」
「はい!」
「とりあえずは明日になってからだ。月も明日ここに来るしな」
――翌日の朝、朝日の眩しさに眼を覚ますといい臭いが鼻孔を擽る。自分は師匠の小屋で生活することになり、慣れない場所での就寝のためか些か寝不足気味だった。
「おはよう、月さん。もう、こっちに来てたんだ?」
居間に行くと、月さんが台所で朝食の用意をしていた。自分が寝てしまった後に此方へ到着したのだろう。
「おはよう。どうだい、ここでやっていけそうかい?」
「うん、大丈夫! それより師匠は?」
「そこで寝てるのがそうさね」
月さんが言った通り、指をさす方向を見ると部屋の隅で酒瓶を抱き抱えて寝ている師匠を発見する。昨日は騒がしかったのは、これが原因だったのかと理解し溜め息が自然と出てしまう。
「そうだ月さん! 頼みたいことがあるんだ」
「何だい、言ってみるさね?」
「ある子との約束を果たす為に、月さんにも修行をつけて欲しいんだ!」
この時、月は昨日の夜のことを思い出していた。
『何を考えてるさね蓮花!?』
『だって仕方ねぇだろ強くなりてぇって言ってんだからよ?』
『だからと言って……!』
最初は酒の影響で馬鹿げたことを言ってのける蓮花を止めようとした。だが月は、初めて蓮花の悲痛な面持ちを見て、否定しようと口から出かかった言葉を呑み込む。
『見ちまったんだよ、アイツの眼をさ。思い出しちまったよ、昔の自分って奴をよ……』
『昔の自分って、まさか!?』
『あぁ、あたしも裕也と同じ鬼の被害者だった。そんで、先代の戦巫女と出会った頃のあたしとそっくりの眼を、決意の灯った火を見ちまったら尚更さ』
確かに、今の蓮花は粗暴な性格だ。しかし、親が鬼化してしまったその際に心を閉ざすようになっていた時に先代と出会い、徐々にその明るさを取り戻したのを知っていた。
『あの頃は強くなりたかったのさ。あたしは先代の為に、とにかく誰かの為に強く。それにアイツの眼は最初から死んじゃいなかった、だからあたしはあの時から”師匠”なんて呼ばせたのかもな』
意識を現実に戻し、再び目の前の少年を見る。とても似ている、自分の親友に。弱いくせに強がって、脆く壊れやすいのに儚さとは違う。眼を離してしまうと消え失せてしまう気さえあった。
「……わかったさね。でも、まずは朝食を食べてからさね」
「じゃあ顔、洗ってくる!」
月は少年の走り去る背中を見て、今日もいい天気になると思うと胸の中で呟く。その時、窓から一陣の風が吹き抜けたのを感じた。
「あーくそっ。頭、痛ぇな」
「昨日は飲みすぎさね」
ガシガシと頭を掻きながら文句を言う蓮花に、水を渡しながら注意する月。どことなく夫婦のやり取りに見えなくもないが二人にとっていつものやり取りだった。
洗顔を終えて帰ってくると二日酔いで頭痛が酷いのか、水を飲みながらこめかみを揉んでいた。少しばかり気分が良くなったのか師匠は僕の頭を乱暴に撫でてきた。
「おい、裕也。飯食ったら早速、修行やるから覚悟しとけよ?」
「うん、師匠!」
◇
「師匠、修行にカメラを使うの?」
朝食後、小屋の裏にある広間で待っていると何故かカメラを持った蓮花に疑問が投げかける。
「馬鹿、使うわけねぇだろ!?」
「蓮花はあたし達3人で写真を撮る為さね」
何で写真を撮るのかさっぱり分からず呆けていると、いそいそと準備に取りかかる蓮花と月。
「よしっ! ほら、裕也こっちに来い」
「タイマーは十秒だから時間が無いさね」
言われるがままに2人の間へと急ぐ。右側の方を見るとカメラに向かって笑顔の師匠、左側を見ると微笑みを浮かべる月さん。自分もカメラに目線を向けた瞬間、カシャッというカメラのシャッター音がなった。
「あのさ師匠、何で写真を撮ったの?」
「何、今日からあたしらは家族になった記念ってことで撮ったのさ」
「あ、あの……」
――戸惑い。でも、それ以上に嬉しくて言葉が続かなかった。それを見て優しく笑った師匠はクシャックシャッと僕の頭を乱暴に撫でる。
「確かにあたしらは本当の家族じゃない。でもな、血が繋がってねーと家族と呼んじゃいけないのか? あたしは違うと思う。悩んでること、苦しんでることを打ち明け相談する。そんで、一緒に笑いあう間柄を家族っていうんじゃねぇか?」
涙が溢れて止まらない。自分は一人じゃない、師匠や月さんがいる。でも、愛美ちゃんは違う、きっと長いとも短くとも思える時間ずっと一人で悩んで苦しんでいた。だから僕が彼女の夢を、願いを叶えるんだ。強くなれば彼女を外の世界へ連れていけるのだから……。
――――それから5年の月日が経った。
師匠と月さんの修行は厳しかったが自分が強くなっていく実感はあった。丈夫な身体作りから始まり霊力の練りかた、月さんには護符の作成や使い方を教わりながら過ごした。
「おい、ユウ! 何、へばってんだ終わりなんて言ってねぇぞ?」
「そ、そんなこと言ったって仕方ねぇだろ」
「たく、そういうのは一人前になってから言いやがれ!」
師匠の叱咤に言い返してみるが、さらに叱られてしまう。自分では多少なりとも成長したと思っていても師匠からしてみたらまだまだらしい。
「いいか今、教えた巫流拳術は巫舞っていうのを、人ではなく鬼を滅殺するために編み出し昇華させたもんだ。地味だろうが型を繰り返しやらなきゃ意味がねぇぞ?」
「分かってるよ、そんなこと」
「ならいつまでも寝てるんじゃなくて起きろ!」
言われて地べたに大の字で寝ていた身体を起こす。師匠と出会ってから怒られるのは5年経っても変わらない、いや変わった所はいくつかあった。
一つ、写真を撮ってこれから家族だと言った時から師匠と月さんから裕也ではなくユウと呼ばれるようになったことだ。師匠曰く、愛称みたいなものだそうで少しだけ特別な感じで嬉しかった。二つ、月さんに口調が師匠そっくりだと言われたがこればかりは仕方ない。外の世界で習うような勉強も師匠に教わっていたり、ただでさえ風呂、トイレ、就寝以外はずっと一緒なのだから。
「つうかさ師匠。なんつうかこういうのには奥義とかあるんだろ?」
「あるにはあるが、まだ早いっつーの。ほら、無駄口を叩いてねぇでしっかりやれ」
地味な反復練習に刺激が欲しくて聞いてみたが、また怒られて渋々修行を再開する。そして、何故か視線を感じ後ろを振り返ってみるが誰も見当たらない。
「おい、どうした?」
「いや、誰かがこっちを見てる気がして」
「はぁ、今日はここいらで終いにすっか。いくらやっても集中できてなきゃ意味ねぇからな」
「……わかった」
修行を早く切り上げたせいか、空を見上げると太陽は自己主張するかのように真上で輝いていた。ちょうど昼過ぎなのか村の人達は疎らで、田畑に農具がそのまま残してあるところを見ると農作業の途中で昼食を摂りに戻ったのだろう。そんなことを考えていると腹の虫が騒ぎ始める。
「……腹、へったな」
「裕也君」
「――愛美ちゃん?」
視線を声がする方に向けると目の前には小さな包みを持った愛美がいた。だが、ふと思う、気配すら感じなかったことに。
「ここじゃなんだし、あそこに行こうっか」
そのまま歩き始めた愛美の後をついていくと、5年前に訪れた一本の桜の木がある場所だった。木の上――枝先を見るとやはりというか蕾すら無い。
「裕也君、こっちだよ」
「え? あ、あぁ」
促され愛美の右隣へと座ると何か、いい匂いが鼻腔を擽る。ふと匂いの元を探すと愛美の手元には包みを開いた弁当箱があり、先ほど持っていたのはこれだったのかと納得する。
「お腹を空かせてると思って持ってきたの」
「ありがと。ちょうど腹、へってたんだ」
「裕也君のこと考えながら作ったの。……はい、いっぱい食べて?」
渡された弁当箱の中身を見ると、色とりどりで食欲をそそるおかずが入っていた。定番の卵焼きを食べようと箸で摘まむと何故か違和感を感じる。いや、感じるだけだと思い一口食べると先ほど感じた違和感は勘違いではなかったと確信する。
「どうかした?」
「いや……大丈夫」
覚悟を決めて一口に頬張る。
ぐじゅり――。
中に入っていた液体が口いっぱいに広がる。
「ふふ。どう、美味しい?」
――ぐらり。
何故か彼女の笑顔が歪んで見える。いや、錯覚などでは断じてなかった。俺はこの口の中で溢れる液体を知っている、何度も修行中に味わったものだ。
――血液。それもきっと彼女のだろう。
「ん、これ? 大した傷じゃないよ。……包丁で切っただけだから。裕也君に美味しいって、言ってもらえるように頑張ってたら勢い余ってやっちゃった」
俺の目線に気づいて包帯を巻いた手首を擦っているが、愛美ちゃんは嘘をついているのは馬鹿な自分でも分かる。普通、料理中に手首を包丁で切るだろうか?
――いや、あり得ない。指を切ってしまうなら分かるがこれは意図的に手首を切り、しかも卵焼きの中に自分の血液を入れたことになってしまう。
「ねぇ裕也君? ずっと黙ったままだけど美味しくなかったかな。……ううん、そんなはずはないよ。だからね、美味しいって言ってよ……痛い思いまでして、沢山入れたのに。だからね、言って欲しいな”美味しいよ”って。ねぇ、聞かせて裕也君の口で、声で、言葉、心で」
早く言わなければいけないのは分かっている。でも、口の中にある卵焼きが飲み込もうとするのを身体が拒否反応を示す。
「どうして何も言ってくれないの? ……あぁ、そっか。やっぱりアイツの作ったのが良いのか……そっか、やっぱりそっか」
「お、美味しい。すっげぇ美味しいよ愛美ちゃん! 味わいすぎて感想いい忘れるくらい!」
「ッ! ほ、本当に? えへへ、ならよかった」
なんとか飲み込むことに成功するが、疑問が頭に浮かぶ。何故、彼女は自らの血を入れていたのか?
「ん? どうかしたの」
「い、いや。何でもないよ、はは……」
彼女は不思議そうに問いかけてくるが言えなかった。言うことは簡単だ。でも俺の言葉で傷ついてしまうかもしれない、そんな気がしてならなかった。
ふと思う。自分はただの偽善者で、己のことしか考えられない浅ましい人間なんだと……。
もしも、if、などというそんな後悔をしたところで意味などない。人間は未来を見ることも、過去に戻ることもできはしない。だからこそ余計に考えてしまう。自分にもっと勇気があればあの結末は変わっていたのかもしれないと。
◇
あれからさらに数日が経ったある日、師匠としばらくの間だが村の外に出る機会が巡ってきた。何だかんだこの村の人達には色々とお世話になっていたので、しばしの別れになるので挨拶をすることになったわけだ。
日が暮れ始めた頃になると、残すは村の長である源三さんと愛美ちゃんの2人だけとなった。
「本当、お世話になりました」
「そんなに畏まらなくても大丈夫だよ裕也君」
「いや、世話になったのは確かさ。形とはいえ挨拶くらいと思っただけさ。……そういえば愛美はどうしたんだ?」
師匠の言葉で、やっと気づく。愛美ちゃんがいない、ということはまだ帰って来ていないことになる。
「俺、ちょっと捜してくるから!」
「……そうか。会ったらちゃんと別れの挨拶しとけよ、あたしは先に帰ってるからな」
「わかってるよ、んじゃ行ってくる!」
――――
―――
――
―
愛美ちゃんを探していると辺りは既に暗くなっており、しかも今日の月は厚い雲に覆われて隠れてしまっている。
「愛美ちゃん……」
ボソッと名前を読んでみたものの見つかる気配が全くなかった。これだけ捜していないということは入れ違いになって家に戻ってしまったのではないか? それならばと思うが、夜更けになるという時間だろう。さすがに訪れる訳にもいかないので自分も小屋に戻り、明日の朝に挨拶をしようと決めて帰路に着くことにした。
この時、無理にでも会いに行けば良かった。きちんと説明すれば、しばしの別れでまた会えるのだと言えたなら。俺は彼女を■■ことになんてならなかったはずなのに……。
小屋で寝ていると突然、人の叫び声で起こされる。何事かと小屋の中を見渡すと、師匠の姿が見当たらない。だが、こういうことは何度か経験している。酔った師匠が暴れたり、奇声を上げたりなど今まで苦労してきた。でも、今日は普段と違い胸騒ぎがした。寝間着のまま小屋を飛び出し師匠を捜す。居場所なんて知らないはずなのに、自分の足は何かに導かれるように動いていた。
しばらくすると、村の中心ぐらいという所で雨が降ってきた。その雨は生温かく、少し粘着質ぽかった。
「アッハハハハハハハハ!!!!」
「ちっ! クソが……」
師匠の声と誰かの笑い声が聞こえる。近づこうと前に1歩、進むがその拍子に暗闇のせいかつまづいてしまう。
――びちゃッ。
手に生温かいモノが触れる。
偶然なのだろうか? その時を待っていたとばかりに雲が晴れたのか、月明かりが辺りを照らし出し視界に映り込んできたのは人であったであろうモノの山だった。
「う、うわぁぁぁあぁぁああ!!!!」
先ほどのは雨ではなくこの中の誰かの血だった。つまづいたのは判別すらできないくらいぐちゃぐちゃにされた人の頭部だった。
「ユウ、どうして……そんなことより逃げろ、早く!!」
逃げろと師匠は叫ぶが身体が動かない。呼吸も乱れ、手足が震える。
「アッ! ユウヤクン。マッテタンダヨ?」
違う。彼女の筈がない。
額に2本の角が生え、髪は白く、眼は紅く煌めいている、鬼のようなヤツが愛美ちゃんの筈が……。
「逃げろ! 最終の転成期に達してる。コイツはもう……ただの鬼だ」
その場から逃げた。ただ無我夢中で走った。後ろで彼女の――鬼の声が聞こえる。
怖かった。止まってしまうと、振り返ってしまうと認識せずにはいられないから。
恐ろしかった。理解することが、師匠はいたが月さんがいなかったことが。もしかしたらあの死体の中に……。
だから走った。走って、走って、走り続けた。そして、たどり着いた先はあの桜の木の所だった。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「フフッ。ユウヤクン、ツカマエタ」
ぐるりと身体の前に回された腕は、鬼ごっこの終わりを告げるものだった。
「し、師匠は……」
「アレハ、カミサマガアイテシテルヨ?」
神様? 何を言ってるのか意味がわからない。別の人というより何か彼女にとっての……。
「ソンナコトヨリ……ユウヤクン。ドウシテワタシヲ、ウラギッタノ?ネエ、ネエ、ネエ、ネエ!!」
背中に痛みを感じてやっと気づく。鬼に組み敷かれ空を見上げる体勢になっていた。
「違う、違うよ。……私はこんなことをしたいんじゃない」
ポタッ、ポタッ。
鬼の眼から――いや、愛美ちゃんの眼から涙が流れて俺の顔に落ちてきていた。
角や髪は、そのままだったが眼だけは紅から黒曜石の様な彼女の眼に戻っていた。
「どうしてこうなっちゃったんだろう? どうして……」
「愛美ちゃん、正気に戻ったの?」
「うん。ずっと止めようとしたけど止まらなかった。……裕也君と2人きりになりたい、一緒にいたいって望んでたから多分きっと……」
鬼――彼女の心が俺と2人きりになりたい、一緒にいたいという願いが叶って一時的に戻れたのか。でも、これもほんの僅かだけの奇跡でまた鬼に成るのはすぐなのだろう。
「私ね、寂しかったの。裕也君に出会えて嬉しくて、楽しくて……でも、君は変わってしまった。私を置いていかれてしまうようで堪らなくそれが嫌で、怖くて、また1人になりたくなくて、君と繋がっているんだっていう確証が欲しかった。それで……!!」
何だ。全部、俺のせいじゃないか。
彼女の為とやっていたことが彼女を苦しめていた、傷つけていた。
「裕也君。君にこれ以上こんな醜い姿を見せたくない、私の我が儘で沢山の人を殺してしまった。だから……」
「違う! 愛美ちゃんのせいじゃない、俺のせいだ。村の人も、君をこんなにしたのも俺の……」
愛美ちゃんは、ふるふると首を横に振って否定する。
「……やっぱり裕也君は優しいな。だからね私の最後のお願い、聞いてくれる? ……私を殺して?」
そんな願いは聞くもんかと彼女から離れる。でも、愛美ちゃんはゆっくりと俺の手を掴み、自分の首にあてがう。
「お願い、裕也君。自害しようとしたらきっと鬼に邪魔される。鬼として殺されるより私として死にたいの。きっと裕也君の手で殺されるなら鬼も邪魔してこないから……」
これは俺が彼女をきちんと見ていなかった罰で、これから一生背負わなければならない罪なのだろう。
そっと添えられていた手に力を込めると彼女の鼓動が、温もりが感じられた。
「ごめんね、裕也君そしてありがとう。……来世っていうのがあったら今度は普通に出会って、恋をしよう。そしたらあの時、言った向日葵を一緒に見に行こう。……だから……それまで……」
――ボキッ。
骨の折れた感触が、彼女の体温がいつまでも手に残っている。
彼女を中心に現れた穴は、そこには元から何も無かったように彼女と共に消えていった。
「何が鬼だ。もう沢山だ……」
『ならば小僧、求めるか力を?』
声の出所は、後ろから――桜の木が赤黒く発光していた。
正直、怪しいとは思う。だが、世界に、自分自身にさえも絶望してしまった。もうどうでもよかった、正常な思考などできない。
「……寄越せ! 全てを壊す力を!」
『いいだろう。……さぁ、再びの戦。狂え、謳え、踊れ、咲き乱れろ! 我らの願いはいつも一つ、そうあれかし! ならば某は胸に凶ツ星を掲げ、鬼と成る!』
桜の木から赤黒いモノが身体に絡みついてくる。
ふと、消えかける意識の中で彼女への想いが溢れ、涙を流す。
涙に反射した今宵の月だけが全てを舞台袖から見ていた。
どうも、作者のニュインです。
色々な理由があり投稿が遅れてすみません。
そして、お気に入り登録などしてくださった皆様、ありがとうございます。この作品はきちんと完結させるつもりなので、よろしければ最後までお付き合い頂けたらと思います。
次回は来月中に投稿する予定です。