明日に波動拳   作:路傍の案山子

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1、オープニング・ムービー

 

 

 

 

 

 「申し訳ありませんでした」

 

 

 

 あまり気持ちが篭っていない感じの、かなり渋めのイケメンボイスに俺は顔をあげて辺りを見回した。

 

 

 ......ここ何処だ?なんか豪華な作りの和風な神殿?ぽい空間にいるんですけど?

 

 「ほら大王も早く謝罪を」

 

 「すいませんでした嗚呼あああっっっっっっっっ」

 

 最初に聞こえた平坦な声と、途中から悲鳴のようになってしまっているオッサンの絶叫が響く。そちらの方に意識を向けてみる。それにしても体の動きがなんだか鈍く感じるような......普段なら反射的に声のかけられた方を向けるはずだが、意識がまだ鮮明じゃないからか躰の動きが鈍い気がするんだよね。......なんか見えちゃいけないものが見えてしまってるし。

 

 俺の視界には二人の人物がいる。一人は黒い着物の青年で、もう一人は妙に体格のいい豪華な着物を着たオジサンだ。ここまでは問題ない。オジサンは俺に頭を下げているので顔が見えない......というか、頭を下げさせられて地面に顔面がめり込んでいる。隣の青年が持っている『巨大な金棒』によって。

 

 「痛い!痛いっ!鬼灯くん!するから!金棒で押さえなくても謝罪するからね!」

 

 「誰のせいでこうなったと思ってるんですか、少しは反省してください」

 

 鬼灯君と呼ばれた青年はそう言いながら金棒で押さえつけるのをやめることもなく、こちらに振り向き隣で死にそうになっているオジサンをスルーして話しかけてきた。......むしろ押さえつける金棒に捻りが追加されてとどめを刺そうとしているように見える。

 

 ......この人には逆らわないようにしよう。

 

 「もう一度謝罪させていただきます。この度は誠に申し訳ありませんでした」

 

 ......やはり見間違いではない、『角』が見える。

 

 そう、鬼灯と呼ばれた青年には『角』が額から確かに生えている。だいぶ意識ははっきりしてきたけど、見た限りでは作り物のようには全く見えない。

 

 「もしもし?」

 

 「アッ、ハイ」

 

 角に気をとられていたせいで、何も反応を返せてなかった。心配そう?に問いかけられて、思わず変な声が出てしまった。

 

 「あの......」

 

 「はい、何でしょうか?」

 

 「ここは何処なのでしょうか?それに、なぜあなた方はなぜ私に謝罪を?正直なところ、状況が全く理解できていないのですが......」

 

 とりあえず今の自分の置かれた状況を確認するために疑問を口にしてみた。謝罪されている理由にも心当りがないし、此処がどこで、いつ自分がここに来たのかさえわからない。

 

 そんな俺の様子を見た鬼灯さん(仮)は「ああ、そういうことですか」と何やら納得のいった様子でこちらの質問に答えてくれた。

 

 「......なるほど、まだ『此方』の空気に慣れていなかったのですね。申し遅れました、私はここ『地獄』にて『閻魔大王』の第一補佐官をしている鬼灯丸と申します。あと、ここは地獄の入り口にある裁判所の法廷です」

 

 「」

 

 言葉が出ない。先ほどの鬼灯さんの発言に含まれた単語のもたらす衝撃に、リアルに心臓が止まりそうになる。あ、ここが地獄ってことはもう止まってるのかも。そう思って左胸に手を置いてみる。

 ......心音聞こえないんですが。

 

 「安心してください。別に貴方を地獄に堕としたりはいたしませんよ。このたびお呼び致しましたのは、こちらの不手際についての説明をするためですから」

 

 「そうだよ~。だから怖がらなくても大丈夫だよ。あ、自己紹介まだだったよね。閻魔大王です。裁判長やってます」

 

 あ、閻魔大王(オジサン)復活した。......タフだな、床にヒビ入ってるのに。

 

 「不手際...ですか?」

 

 このオジサン(閻魔大王)なら普通に有り得そうきがする。随分とイメージと違うし。

 

 「そうなんだよ~。ちょっと聞いてくれる?なんかさ~回ってきた輪廻転生関係の書類にミスがあったらしくてね。五道転輪王の管轄の書類がこっちに紛れ込んじゃってたみたいなんだよ。それをさ、係の人がそのまま処理しちゃったらしくてね。本来転生する場所とは違うところに生まれてしまった子が出ちゃって。あ、ちなみにそれが君ね。で、二十年くらいかけてようやく君が見つかったわけなんだけどさ、その、一歩遅かったといいますかなんというか」

 閻魔大王の微妙に長くなりそうな説明を鬼灯さんが引き継ぐ

 

 「ここからは私が説明します。つまり、この阿呆(閻魔大王)が確認を怠ったせいで違う場所に生まれてしまった方(俺)をようやく見つけたわけです。そしたら、本来なら居ないはずの貴方がその世界の、関わるはずのない事件に巻き込まれて死んでしまっていた。ということですね」

 

 あ、やっぱり死んでたんですね。今までの記憶とか経験とかは会話の途中ではっきりしてきたけど、全然その辺りのことは記憶に無いんですが。表情に出ていたのか、鬼灯さんが何やらCDのようなものを取り出しながら説明してくれる。

 

 「自覚はないかもしれませんが、残念ですが貴方はすでに「あちら」の世界ではお亡くなりになっています。ちなみにこれがその時の映像になるんですが...観てみますか?」

 

 とりあえず、何も覚えていないので見てみることにしました。自分の死に様なんて見たくないけど、そこの記憶だけポッカリなくなているようなのでどうも気持ちが落ち着かないんだよね。俺が頷くと、鬼灯さんが何処からともなく大きな鏡を取り出して、CDのような記録媒体をその鏡の鏡面に近づけると、ずぶずぶとそのまま飲み込まれていく......ディスクの表面に天空の城◯ピュタて書いてあった気がするけど気のせいだよな......

 

 「これは浄玻璃の鏡(じょはりのかがみ)といって、本来なら罪人の過去を写して裁判の時の判断材料にするための道具なんですが、こういった使い方もできんですよ。それではさっそく映しますよ。ポッチとな」

 

 どれどれ。......いきなり五歳くらいの少女に突っ込んでいくトラックが映し出される。......転生モノのSSなんかにありがちなテンプレのトラックですねわかります。二次小説とか結構好きで読んだりしていたのでかなり既視感を覚える光景ですね。記憶とかがはっきりしてきた今考えると、「神様の不手際で死ぬ」ってこれも神様転生とかいうジャンルのSSにありがちな理由だよな。そんなことを考えている間にも映像は進み、予想に違わず少女を突き飛ばし代わりに俺が跳ね飛ばされた。すげえ痛そうだな、いやマジで。幸いにも少女は軽い擦り傷だけで済んだみたいだ。良かったな俺、無駄死じゃなくて。

 

 「ここからが凄いんだよね~」

 

 どことなくのほほんとした口調の閻魔大王の言葉に首を傾げる。え?終わりじゃないの?

 

 あ、画面の俺がよろけながらも立ち上がろうとしている。何故立てるんだ俺よ?結構なスピード出てたぞ、あのトラック。ちなみにトラックは電柱にぶつかって停止している。運転席は、多分潰れてるんじゃないかな。あまり想像したくはないけど運転手は即死なんじゃなかろうか。

 

 「このトラックの運転手の男性は即死でした。事故原因は飲酒による酩酊からくる居眠り運転ですね。先ほど此方での裁判も終わったので、既に地獄に堕とされることが決定致しました。未遂とはいえ酒に酔って人を轢き殺しかけたわけですから、当然といえば当然ですが」

 

 鬼灯様が補足説明をしてくれている間に立ち上がった画面の中の俺は、何かに気づいたようで顔を歪めたと思ったら、突然走りだした......血だらけのままで。おい無理するなよ、死んじゃうぞ。あ、もう死んでましたね。

 

 走りだした先には、先ほどのトラックが突っ込んだ衝撃の影響なのか、距離にして30メートルくらい先にあった工事現場のクレーンが運ぼうとしていた建材(鉄骨)が、今にも傾いて落下しそうになっている。よく見ると、倒れた電信柱の電線が絡まるようにしてクレーン部分を傾けていた。

 

 

 ......たちの悪い冗談みたいだが、もう間もなく鉄骨は落下するだろう。タイミングの悪いことにちょうど近くを歩いていた小学校低学年くらいの男の子に向かって。

 

 

 そしてその今にも惨劇が起きそうな現場に突進していく画面の俺......マジでか。

 

 鉄骨が落下した瞬間にぎりぎりで間に合ったように見えた映像の俺。上がる土煙、鉄とコンクリートの奏でる不協和音が鳴り響く。

 

 

 

 

 

 そして、土煙が収まった時にそこに広がっていた光景は蹲りながら震えている小学生(おそらく無傷)と、それなりに大きな鉄骨や鉄パイプから、少年をかばうように背中で受け止めた俺だった。

 

 

 なにそれこわい。

 

 

 てか生きてるんですけど。まだ画面の中の俺生きてるんですけど!鉄パイプはともかく10メートルくらいから降り注ぐ鉄骨受け止めて生きてるんですけど!ありえないだろ、頑丈とかのレベル超えてんぞ。ブリー◯のチャ◯かよ!!

 

 「凄いよね~。鬼灯君もそう思うよね?」

 

 「確かに明らかにあの世界の人間の耐久力の限界を超えてますね。......いい亡者になれますよ、貴方」

 

 「いや、嬉しくないです」

 

 なんか遠回しに拷問のしがいがありそうだとか言ってくる鬼灯さん。......怖えぇよ。

 

 まあ、これで自分がどうして死んだかわかった訳だし、二人も子供の命を救えたんだから俺にしては上等なんじゃ「ここからさらにアレだもんねぇ」

 

「ええアレですね」

 

......ゑ?まだなんかあんの?

 

 確かにまだ映像は続いていた。画面の中の俺はとりあえず背中の鉄骨を少年に当たらないように地面に落としていた。さすがに周辺も騒がしくなってきた。あれだけでかい音が2回も続けざまにしたら、そりゃ他の人も気づくよね。

 

 あ、ちなみに映像の中の時間は午後4時41分だった。なんか上の方に時刻が表示されてる。意外にハイテクだな浄玻璃の鏡。

 

 おそらく近所に住んでいる人たちのものだろう慌ただしい声が聞こえてくる。女の子の方は無事に保護されたみたいだ。良かった良かった。

 

 「大丈夫ですか!?」

 

 画面の中の俺に声がかけられる。下校途中なのだろうか、制服姿の女子高生が心配そうにこちらを覗きこんでいる。大丈夫じゃないです。

 

 「すぐに救急車呼びますから!頑張ってください!」

 

 よーし、お兄さん頑張っちゃうぞ~!とか言いたいところだけど、画面の中の俺は満身創痍の血塗れで、今にも死にそうである。うん、それ無理。携帯電話を取り出して必死な様子で救急車を呼ぼうとしてくれる女子高生。見ず知らずの人の為にこんなに必死になってくれるなんて......ええ娘や(確信)

 

 

 しかし、そんな心優しい女子高生に悲劇が襲いかかろうとしている。俺は朦朧とした様子で彼女の方を見ていたわけだが、その視界にかなり大型のナイフを構えてこちら、というか女子高生に向かって走ってくる不審者の姿が!......なんでやねん!!

 

 「因みにこの不審な男は彼女のストーカーですね。しつこくつきまとっていたようで、警察沙汰になったことを逆恨みして今回の犯行に及んだようです」

 

 鬼灯さんが今回も説明してくれる。さいですか。ちくしょうめ。なんかこの後の展開が想像できてしまった。これは刺されますね......俺が。

 

 「ウヒャハッハァアアアアー!!死ねよやぁーー!!」

 

 狂ったように笑いながら近づいてくる男。呂律も怪しいし危ない薬でも嗜んでるのか。ダメ、ゼッタイ。

 

 「いやぁーーーー!!」

 

 男に気づいた女子高生が悲鳴をあげる。小学生の男の子はまだ震えているし、周辺の人達はトラックの事故現場付近に居たためにこちらまでは距離がある。そして画面の中の俺は---

 

 彼女の前に立ち塞がり、その身に白刃が吸い込まれていった。

 

 いやぁーーーー!!やめるんだもう一人の(画面の中の)僕!!オイラのライフはもうゼロよ!!そんな俺の心の叫びを嘲笑うかのように男はナイフを(画面の)俺に突き立てた。ちょうど心臓の辺りですね。\(^o^)/オワタ

 

 しかし、化け物(画面の中の俺)は死んでいなかった。あまつさえナイフが刺さったまま男の顔面を殴り飛ばしたのだ。2~3メートルほど吹っ飛んで近くの塀にぶつかり崩れ落ちる男。拳を振りぬいた状態で動かない俺。

 

 

 

 なにこれぇ......

 

 

 

 「えっ......あれ、私......っ!!!大丈夫ですか!!!」

 

 すでに悲鳴に近い彼女の問いかけに、画面の中の俺は答えることはなかった。ゆっくりと腕を戻し、彼女の方に顔を向ける。そして、女子高生が無事だったことを確認すると、安心したような表情を浮かべて---そのまま静かに息を引き取った。......立ったままで。

 

 浄玻璃の鏡の映像が段々と暗くなるようにフェードアウトしていき、少しずつ小さくなってゆく女子高生の悲痛な声が聞こえなくなったところで画面にはデカデカとやけに達筆な『終』の文字が。

 

 「以上が貴方の亡くなった時の状況の一部始終になります」

 

 うん......言葉が出ないや...突っ込みどころが多すぎて。てか、浄玻璃の鏡の映像は視点が移り変わったり、ズームしたり一瞬スーパースローみたいになったりと臨場感たっぷり過ぎだった。やっぱり無駄にハイテクですよねその鏡。お陰で自分の死亡した時間が4時44分という縁起の悪い数字だったことまでわかっちゃったからね。あと、鏡のスイッチ切った方がいいと思う。「バルス!!」って聞こえてきてるから、ム◯カが「目があぁっ!目があぁああ!!」て画面で叫んでるから。

 

 「さて、説明の続きをさせていただきたいのですが、よろしいですか?あ、それと貴方が殴り飛ばしたストーカーはあの後駆けつけた警察に逮捕されました。歯が殆ど折れていたそうですよ、愉快ですね」

 

 ......もうお腹いっぱいなんですが、まだ何かあるんですか。

 

 「ここまでの映像を見てもらっても分かる通り、貴方の耐久力は『今まで貴方が居た世界』では異常なのです。これが『貴方が本来いるべき世界』であったなら、そこまでありえない話でもないのですが......そのせいで常人なら三回は死ねるような死に方になってしまいましたし。他にも色々と説明しなければならないことがあるのですが、今回の件に関しましては全面的にこちらの責任であるということは確かなんですよ。ですので」

 

 そこで一旦言葉お区切り、鬼灯さんはさらりと俺の今後を左右するような重要な発言を投下してくれやがりました。

 

 

 「『コンティニュー』します?」

 

 

 「......え?」

 

 

 

 

 CONTINUE?  

 

 

 

 

 

 YES/NO

 

 

 

 10

 

 

 

 9

 

 

 

 8

 

 

 

 7

  

 

 

 6

 

 

  

 5

 

 

 

 4

 

 

 

 3

 

 

 

 2

 

 

 

 1

 

 

 ⇒YES


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