シリアス?な感じの文章を書くとスピードが落ちるんです。すいません。
それではどうぞ。
バーディーとの戦闘は、サクラとカリンとの三人がかりでもその戦力差は歴然としたものだった。二人を拘束され全力での波動拳も通じず、このまま負けてしまうのかと絶望しかけたその時、思いもよらない救世主が現れた。
「ここからは俺が相手だ!掛かって来い!」
その人は白い道着と鉢巻を身にまとい、そして裸足でしっかりと大地を踏みしめ立っていた。その姿は間違いなくストリートファイターシリーズの主人公でサクラの憧れの人、リュウだった。
「......痛ぇじゃねえか。さっきから人の顔に不意打ちかましやがってっ!邪魔すんじゃねえぇ!!」
続けざまに二度も波動拳を顔面に喰らって激怒するバーディー。余程興奮しているのか、肌の色が赤くなってきている気がする。なにあれ超怖い。
「女の子の首を掴んで持ち上げるような奴に容赦はしない。悪いが不意をつかせてもらった」
「てめぇ、その
この世界では『国際路上格闘規定法』が制定されるくらいストリートファイトが盛んに行われている。そんな世界で『道着』というのは格闘家の証、つまりは『私はストリートファイトOKです』みたいな意味合いを持っている。ダンやリュウが道着のままで外を出歩いても大丈夫なのはそのためだ。
バーディーも道着からリュウが格闘家であると判断したらしく、現状で最も厄介な相手だと認識したようだ。リュウに向かって猛烈な勢いで突進していった。
「フンガァッ!!!」
「ぬっ!?」
恐ろしい威力のありそうな一撃を繰り出すバーディー。リュウは躱したが今までのパンチよりも速い上に鋭い。どうやら俺達と闘った時は余力を残していたようだ。......最初から本気を出されていたらと思うとゾッとするな。
「......今の一撃、大したものだ。それだけの腕があれば格闘家としてもやっていけるだろうに」
「その格闘界が俺を追放しやがったんだよぉーー!!確かに何度か相手をぶっ壊しちまったけどよぉ、そりゃぁアイツ等が弱えのが悪いんだっ!!」
どうやらこの世界のバーディーも原作同様格闘界を追放されているようだ。しかし何か少し違和感があるな。やり過ぎはしたけど卑怯なこととかはしてないみたいな感じに聞こえたんだけど、もしかしたらその辺りは原作と違うのかもしれないな。腕にシルバー(チェーン)巻いてないし。
「喰らいやがれぇ!!」
再びリュウへと突撃していくバーディー。しかし、先程よりほんの僅かだが動きが鈍い。もしかしてさっきのやりとりで動揺したのか?だがその隙を逃すほどリュウは甘くはなかったようだ。
「!そこだっ!!せいっ!!」
「ぐぉ!?」
リュウの拳がバーディーの顔面にカウンター気味にヒットした。流石にこれは堪えたのか突進の勢いも止まり、逆に仰け反り距離が開いた。すかさずリュウは追撃を仕掛ける。力強く地面を蹴りだし技を放った。
「竜巻旋風脚!!」
「ごはぁっ!!?」
本家の竜巻旋風脚がバーディーに炸裂し、巨体を物ともせずに吹き飛ばしダウンを奪った。
......ダンの竜巻旋風脚とはえらい違いだ。というか、実際に見るとあの技ヤベェ。あのとんでもない威力の回し蹴りが、あの間隔で連続で襲ってくるとか怖すぎる。しかもそこまで速いとは言えないが前進してこちらに向かってくるのだ。回し蹴りなのであのくらいの距離ならほぼ避けられないし、ガードできても連続で蹴りを受けることになる。まさに『竜巻』、その技名に偽りなしだ。
ちなみにこの時、さっきまで苦しそうにしていたサクラがすっごいキラキラした目で技を見ていた。レベルが違いすぎて俺達じゃ加勢なんて出来ないし、下手に手を出せばさっきみたいに人質にされて足手まといになってしまうかもしれない。だから、俺達にやれることはないので別にいいのだが、なんというか、さすがに場違い感が凄いぞサクラ。
「......ぺっ!今のは効いたぜぇ......っ!!あの腑抜けレスラー共なんか目じゃねえな。口の中に血の味がするのはいつ以来だったか忘れちまってたってぇのによぉ。あの時組んでたデカブツ並だったぜぇ、あぁんっ!?」
バーディーは立ち上がったがダメージは大きいようだ。吐き出した唾に血が混じっている。しかし流石は元プロレスラー、タフさは並では無いらしくまだ戦意は消えていないようだ。むしろ更に燃え上がっているような気さえする。......あの時組んでたデカブツって誰だ?
「......どうやら俺は少し思い違いをしていたようだ。お前はまだ戻って来れる!!来いっ!!お前の全てを見せてみろ!!」
「っ!?...オォオオオーーー!!ハンマーナックル!!」
「グッ!?」
バーディーの一撃がリュウを捉える。跳躍して勢いをつけたパンチの威力はガードしたリュウを後ろに1メートルほど下がらせるほどだ。その衝撃で硬直するリュウに更にバーディーは畳み掛ける。
「掴んだぜっ!!うぉりゃー―っ!!」
バーディーはリュウの足を掴むとその腕力に物を言わせ後方へと高く放り投げた。そして振り向きながらリュウの落下地点に猛烈な勢いで突進していく。
「これがぁっ!!『ザ・バーディー』だぁっ!!!」
「がはぁっ!?」
空中で満足に防御出来ないリュウにバーディーは自身の代名詞でもある渾身のヘッドバットを連続で叩き込む。ザ・バーディーはゲームではスーパーコンボ、つまりはバーディーの最強技の一つだ。その威力は先程俺が受けたブルヘッドの倍以上はあるだろう。リュウは受けてしまったようだが果たして大丈夫だろうか。2,3メートルは吹き飛ばされたぞ。
「はぁっ、はぁっ!......どおだぁっ!!これで......!?」
「......凄まじい連撃だった。だが、凌いだぞっ!!」
自身の最強の技を直撃させたのだ。倒しきったと思っていたのだろう。バーディーの表情には驚愕がありありと見て取れる。どうやらリュウは空中という不安定な場所でも身体を捻りながら衝撃を逃していたらしい。
「へ、へへへっ!!化け物めっ!楽しくなって来やがったぜぇ!!なあ!おいっ!!」
「そうだともっ!!強い奴と戦うのはいつだって心が踊る!いくぞっ!!」
何か二人共すっごいいい笑顔で笑ってるんですけど。おかしいな、いつの間に熱血バトルになったんだ?さっきまで俺達の命運を賭けた、それなりにシリアスな状況だったと思うんだが。
「ていやっ!!」
「ぐふっ!?......まだまだぁ!!ふうんっ!!」
リュウの蹴りがヒットするがそれでもすかさず反撃を返すバーディー。苦し紛れのようにも見えるが、その拳はしっかりとリュウを捉えている。お互いに一歩も引かず至近距離での殴り合いだ。
「っ!?やるなっ!!ならばっ!!」
「うおぉぉーりゃーー!!」
リュウが畳み掛けるように拳での連打を放てば、それに負けじとバーディーが腕力を活かして場をひっくり返すような一撃を返す。リュウは波動拳で距離をとって攻めることも出来るはずだがあえてそれをせず闘っているようだ。『拳で語り合う』というやつだろうか?なんというか、凄まじい闘いだ。
「ぐうぉおおらぁっ!!」
「――!はあっ!!」
バーディーのパンチにリュウが腕を振るって合わせるように防御する。その動きは完全にバーディーの一撃の威力を殺している!あれってもしかして『ブロッキング』!?その防御に驚いたのは俺だけではなかったらしく、バーディーも一瞬動きを止めてしまっていた。
「昇龍拳っ!!!」
「ぐぅ......が...」
ドサァッ!!昇龍拳によって打ち上げられたバーディーが地面に落下する。意識はあるようだが、流石に起き上がることは出来ないようだ。というか、意識があるだけで凄いと思う。初めてビデオで見た時から1年経つわけだが、確実に威力が上がっている。直接この目で見ると、剛拳が禁じ手にしたのも納得していまいそうになるほどだ。あ、言うまでもないだろうけどサクラの瞳の輝きは天元突破していました。
「......ちっ。......負けちまったかぁ。......身体が動きやがらねぇ。......なあ」
「お前は間違いなく強かった。そしてお前は今、拳で語った。お前の拳は、力強く、まっすぐだったぞ」
「......そぉかい」
本当に拳で語っていたらしく、なにやらいい感じの雰囲気に。なんていうか、すっごく青春してる。川べりの土手で殴りあって友情を再確認した直後みたいな。......でもこれ、誘拐犯(未遂だが)とそれを止めに来たヒーローのやりとりなんだぜ?
「ちょっとよろしいかしら?」
「......よお、お嬢ちゃん。なんだ?トドメでも刺しに来たのか?」
カリンがそんな雰囲気など全く気にせずにバーディーに話しかけた。流石は神月かりん、天上天下唯我独尊を地で行く少女である。
「倒れている相手に追い討ちを掛けるような趣味はありませんわ。そんなことより、今回の件について答えてもらいますわ。よろしくて?」
「......まあ、しくじっちまったしな。別にかまわねえよ」
どうやら今回の襲撃についての尋問を行うようだ。もっとも、どうやらバーディーに隠す気はないらしいが。
「では今回の件、あなた達に依頼したのは一体どこのお馬鹿さんなのかしら?」
「......詳しいことはわからねぇが、バスの中でアンタを脅していたやつがリーダーだったらしい。そいつはどうやら誰かに指示を受けてたみてえだな。俺は『裏』の情報屋に用心棒として奴らを手伝うように言われただけだからな。まあ、後はバスの中で情けなく寝ちまってるやつから聞くんだな」
「......そうですの。ではアレから後で聞き出すことにいたしましょう」
どうやらバーディーは本当に助っ人として雇われただけらしく、詳しいことは知らないらしい。カリンも少し残念そうだ。
「......ただよぉ、一瞬だけだが奴らに指示を出してる奴を見たかもしれねぇ。まあ、あのリーダーと話してるのを偶々見ちまっただけだがな」
「なんですって!?どのような相手でしたの!?」
バーディーは一瞬だけではあるが、襲撃の指示を出した奴を見ていたらしい。思いもよらずもたらされた情報にカリンも興奮したのかバーディーに詰め寄りながら問いただす。
「見た目はどこにでもいそうなスーツの特徴のねえ男だったな。ただ、首筋に刺青があったから堅気じゃあねえとは思うがなぁ」
「刺青?いったいどのような?」
カリンが刺青について尋ねる。確かに有用そうな情報は刺青だけだしね。まあ、流石にそれだけじゃ神月財閥でも特定とかは難しいと思うけど。
「......確か趣味の悪いドクロに羽がついたようなやつだったな。生憎だがそれ以上は見てねえな」
特定しました。
うん、多分アレじゃね?神月財閥にちょっかい出してるドクロに羽のマークってアレしかなくね?
「......流石にそれだけでは何もわかりませんわね。一応は後で調べさせるとしましょう。......アルさん?どうされましたの?顔色が優れませんわよ?」
「......心配してくれてありがとう神月さん。多分、さっきの闘いの疲れが出ただけだと思うから、気にしないで」
「......まあ、無理もありませんわね。今回は私も流石に疲れましたわ。帰ったらすぐにシャワーを浴びるといたしましょう」
顔色が悪くなった俺をカリンが心配してくれる。嘘で誤魔化してしまったが、本当のことを言うと色々と拙いことになるので仕方がない。
......恐らく今回の襲撃を企てたのは『シャドルー』で間違いないだろう。
『シャドルー』 それはストリートファイターシリーズの諸悪の根源、『ベガ』が作り上げた秘密結社である。誘拐や兵器の製造と密売、さらには麻薬取引に洗脳やクローンなどの非人道的な人体実験と、その悪行は挙げていくときりがないほどだ。そのためストリートファイターの登場人物たちと様々な因縁がある。原作では神月財閥にも裏で脅迫めいた事をしていたらしい。
俺が何故顔を青くしているのかというと、今回の件でシャドルーに目を付けられる可能性があるからだ。先程挙げたシャドルーの悪事の中に誘拐があるよね。奴らは『素質』がありそうな者、又は既にそれなりの実力がある者を誘拐して洗脳して組織の兵士にしてしまうのだ。『小学二年生にしてバスジャック犯を倒した』という事実は素質ありとみなされてもおかしくない。
しかもシャドルーは、原作ではリュウを最重要ターゲットとして狙っていた。恐らくリュウがサガットを倒した辺りからだろうが、それ以前から目をつけていないとも限らない。つまり、俺とサクラ、カリンの3人はシャドルーの目があるかもしれないところで図らずも『素質』を示してしまったのだ。杞憂かも知れないが、不安になってしまうのも仕方がないと思う。
「......あ、あのっ!!」
俺がシャドルーの影にビクビクしていると、サクラがリュウに声をかけた。今までおとなしかったのは、リュウに声をかけようとして緊張していたかららしい。若干声が裏返っている。
「......俺か?どうかしたのか?」
「え、ええっと!!その......リ、リュウさんですよねっ!!」
「確かに俺はリュウだが......どうして名前を知っているんだ?まだ名乗っていないよな?」
当然の疑問を口にするリュウ。確かに名乗ってもいないのに初対面の女の子に名前を呼ばれたら戸惑うよね。
「えっとっ!ま、前にビデオで闘ってるとこ見ててっ!......ファンなんです!!弟子にしてくださいっ!!」
いきなり弟子入り志願するサクラ。おい、憧れてたのはわかるけどサイキョー流道場に通い始めたばかりだろ。ダンさん泣いちゃうぞ?ほら、言われたリュウもポカーンとしてるし。
「なんですってぇ!!?はっ!!そういえばトドメの技に見覚えがありますわ!?......おのれぇっ!?......羨ましいですわ」
何故かカリンが取り乱していた。サクラの咲桜拳とリュウの昇龍拳が似ていることに気づいて羨ましがっている。最後の所は小声だったけど、俺にはしっかり聞こえましたよ。ツンデレ乙。
「......すまない。俺はまだ修行中の身で、弟子を取るような余裕は無いんだ。師匠も今は弟子をこれ以上取る気はないと言っていたな」
「あうっ!?そ、そうですよね~。......しゅん」
「だが、次に会えたら手合わせをしよう。そこから何か学べるものもあるだろう。君の名前は?」
「私、春日野さくらだよ!!ぜったいだからねっ!!わすれちゃダメですからね!?」
サクラは弟子に出来ないと言われて落ち込んだが、リュウが試合の約束をすると一瞬で復活した。花が咲いたような笑顔を浮かべているが、その理由が格闘技の手合わせの約束って女の子としてどうなんだろうか。
「ああ、忘れないさ。......そうだ、俺も少し聞きたいことがあるんだ。......そっちの君に」
どうやらリュウも聞きたいことがあるようだ。......なんでこっちを見てるんでしょうか?
「君がさっき使っていたのは『波動拳』だね?一体どこで習ったんだ?映像が残る大会では、俺ともう一人の弟子は使うのを禁じられていたからな。気弾を出せる流派は少なくないが、君のはあまりに俺達の波動拳に似ていたしね」
「あっ!!そうだよっ!!アル!さっきの技ってなに!?いつのまにできるようになったの?私ぜんぜんしらなかったよ!?ずるいよ~!!」
「そうですわね。先ほどの技には私も興味がありますわ。説明してくださるかしら」
リュウだけでなくサクラやカリンまで詰め寄ってきた。原作知識で知ってましたって言う訳にもいかないしどうしよう。ダメ元でバーディーに視線で助けを求めてみたが、目をそらされてしまった。しかし、素直に真実を離すというわけにもいかない。......なんとか誤魔化さなければ。......はっ!!我天啓を得たり!!
「えーと、聞いても笑いませんか?」
「......?あ、ああ」
「実は......小さい頃から練習していたんです。その......かめ◯め波に憧れて」
「......か◯はめ波?」
「はい、かめは◯波です。アニメのドラゴン◯ールでカカ□ットが撃つあれです」
この世界でもドラゴンボ◯ルは放送されている。しかも、かめ◯め波の打ち方は波動拳に凄く似ているのだっ!俺はまだ子供だし、アニメの技に憧れていても何ら不思議ではないはず!たった今考えたにしてはなかなかだと我ながら思う。
「そ、そうなのか。......まさかアニメに波動拳に似た技があるとは」
リュウはどうやら納得しているようだ。まあ、自分の流派に似た技がアニメで使われていることを知って微妙な表情を浮かべているが。ふぅ......どうやら誤魔化せたかな?
「でも、なんで名前はかめは◯波じゃなくて波動拳なの?」
サクラぁぁっ!?くそ!なんでいつも簡単に騙されるくせにこういう時には鋭いんだよ!?
「確かに名前が一緒だというのは偶然にしては少々出来過ぎではなくて?」
カリンも指摘してくる。一度は納得しかけたリュウも、確かにって顔してる。どうしよう。
「え~と、そのままか◯はめ波だと恥ずかしいから......!......そう!日本拳法の波動拳の名前を借りたんだ!波動のところが技にピッタリだなって思って!」
「......確かに日本拳法には波動拳、正式には波動突きという技がありましたわね。それなら一応筋は...いや、しかし」
話してる途中で思い出したからそのまま言ってみたが、それなりに説得力があったようだ。もうひと押しで納得しそうだな。
「......ねぇ、なんで私におしえてくれなかったの?組手の時も1回もつかわなかったし」
サクラが少し拗ねながら質問してくる。どうやら自分に内緒にしていたことが気に食わないらしい。
「......サクラ、俺っていっつも父さんに負けてるよね?」
「え?う、うん。ウルさん強いもんねっ!」
「だからさ、父さん達の知らない技が使えるようになれば、少しはマシになるかなって思って秘密で練習してたんだ。波動拳の方は今日まではあんまり上手く出来なかったから、ちゃんと出せるようになってから使おうと思ってたんだ。......秘密にしててゴメンな」
これは前々からサクラに波動の練習を見られた時の為に用意していた理由だ。ウル父さんに一方的に負けるのが悔しいのは本当だしね。......あれ?今言ってて気がついたけど、俺......波動拳撃てるようになってるっ!!バーディーがそれなりに痛そうにしてたし、あの速度なら成功といっていいんじゃなかろうか。波動の修行も入れれば約7年間の努力が実を結んだというのに、必死過ぎて実感がなかったよ。ダンから我道拳を習うまで無理だと思ってたんだけど、嬉しい誤算だな。うっひゃほい!!
「そうだったんだ!!それならしょうがないね!でも、こんど私にもおしえてね!」
「なるほど。格上の相手との対戦のために意表を突く飛び道具の修練、理にかなっていますわね。そういうことでしたら、まあ納得ですわ。......サクラさんと組手をしているというのは聞き捨てなりませんが」
どうやらサクラの機嫌は直ったようだ。カリンも納得してくれたようだし、リュウも頷いてるので大丈夫だろう。どうやら誤魔化しきれたようだ。そうこうしているうちに、遠くからサイレンの音が聞こえてきた。おそらく、引率の先生の通報で駆けつけたのだろう。
「......サツが来たみてぇだな。ちっ!まさかこんな依頼でしくじるたぁ、このバーディー様も落ちぶれたもんだぜ」
自分自身に悪態を突くバーディー。その言葉とは裏腹に、どこか晴れ晴れとした表情を浮かべている。サイレンの音が近くなってきても、焦るそぶりすらみせない。
「......お前との闘いは楽しかった。またいつか闘おう」
「......ふん、俺はこれから
確かに、誘拐未遂に傷害罪、(バスの中の四人は)銃刀法違反等など、かなりの罪状である。普通に考えて、5年から10年位は出て来られないのではなかろうか。ちなみにこの世界では銃刀法が緩くて、ナイフくらいならだいたい大丈夫だったりする。苦無とかね。
「......バーディーといいましたわね?その力、この神月かりんの為に使う気はありませんこと?」
「......なんだと?」
「神月は有用な人間ならば、たとえ直前まで敵であったとしても取り入れますわ。仮にも私を打ち据えたその実力、腐らせるには惜しいですわ」
なんとカリンがバーディーをスカウトし始めた。マジでか。いや、確かに強かったけども。
「正気かおめぇ?自分に頭突きかました相手を雇うだと?それにさっきも言ったが俺はこれから刑務所に入れられるんでな。そりゃぁ無理ってもんだぜ」
「バスの中でも言いましたわね。あまり『神月』を舐めないでいただけるかしら。『その程度』どうということはなくってよ。さあ、どうなさいますの?時間はあまり残されていませんわよ?」
今さらっと凄いこと言ったぞこの娘。懲役10年がその程度って......神月恐るべし。
「......へっ、いいぜその話に乗ってやる。よろしく頼むぜ『お嬢様』よぉ」
「契約成立ですわね。......柴崎、この男を雇いますわ。後の事は処理しておきなさい。まずは言葉遣いから徹底的に叩き込んで差し上げなさいな」
「かしこまりました。お嬢様、ご無事で何よりです。聞いていたな石崎。その男を運べ。1人では無理?その肉は飾りか?やれ」
いつの間にかカリンの執事の二人が到着していた。警察よりも早く着くあたり、流石神月といったところか。どうやら高級車で駆けつけたらしく、石崎の方が泣きそうになりながらもバーディーを引きずるように車へ運んでいく。
「どうやら案外早くリベンジマッチが出来そうだぜ、リュウさんよぉ。首を洗って待ってな!」
「ああ!楽しみにしているぞ!!俺はさらに力をつけてお前を迎え撃とう!」
バーディーはリュウに向かってそれだけ言うと車に乗せられて、そのまま運ばれていった。
「さて、バスの中のゴミは警察に任せるとして、リュウさんでしたか?この度は助かりましたわ。この後は如何なさるので?よろしければお礼を差し上げたいのですが」
「すまないが、礼はいらないよ。修行を終えて山から降りてきたら、偶々遭遇しただけだからね。人を待たせているんだ、俺はもう行かなければいけない」
流石に恩を感じているらしく、お礼を申し出るカリン。しかし、リュウはお礼を断った。まあ、優勝したのに表彰台をすっぽかして旅に出るような人だからな。らしいといえばらしい。
「でしたらせめてそこまで送らせますわ。どちらまで行かれるのかしら?」
「いや、修行も兼ねて走って行くつもりなんだ。そこまでの距離はないし、乗り物だと入りにくい場所も通るしな。気持ちだけ受け取っておくよ」
「そうですか。ならばこれ以上は逆に迷惑になりそうですわね」
「リュウさん、もう行っちゃうんですか?やくそく!わすれないでくださいね!!」
送迎も断られカリンはお礼をするのを諦めたようだ。リュウは言い終わると早速走っていこうとしていたが、サクラが声を掛けられ立ち止まった。
「君が格闘を続ける限り、きっとまた会えるさ、必ずな!他の二人とも、いずれ闘う事もあるかもしれないな」
そういうと、今度こそ走って行ってしまった。俺達の窮地を救い、絶望を昇龍拳で吹き飛ばして。......本当は俺ももっと話したり、波動拳や昇龍拳についてのアドバイスを聞きたかったんだが。ケンでも待たせているのだろうか?かなりのスピードで見えなくなった。折角原作主人公に会えたのに、あっさりとした別れになってしまった。
「......さて、流石にこの状態では授業は休講でしょう。柴崎!」
「は、ここに」
「ヘリの準備を。ひとまずシャワーを浴びたいですわ。サクラさん達もご一緒にどうです?送りますわよ?」
「え!!いいの!?のる!のる!」
「ありがとう神月さん。助かるよ」
どうやらカリンがヘリで家まで送ってくれるらしい。今日は学校は恐らく休講になるだろうし、そのまま帰っても問題ないだろう。今カリンと一緒にヘリに乗れば、警察の事情聴取とかを受けなくて済みそうだし。前世も含めてヘリとか初めてだから、少し楽しみだ。そんなことを考えていると、すぐにヘリの音が聞こえてきた。......早いな。
「それではどうぞ、お乗りなさいな。場所はパイロットに伝えれば大丈夫ですわ」
「うわーー!ちかくで見るとカッコイイね!お空も楽しみ!!」
はしゃぐサクラはカリンに任せて俺は運転手に家の場所を告げる。サクラはどうせ俺の隣の家だしね。そのまま暫く空の旅をサクラと満喫していると、家の上空に着いてしまった。
「成程、家が隣同士。しかもアルさんの家には小さいながら道場もある。組手をしていても不思議ではありませんわね」
「送ってくれてありがとう、神月さん。降りる時はどうすればいいのかな?」
「梯子をおろしますのでそれを使って降りていただきますわ。お二人なら大丈夫でしょう。それと、シャワーを浴びたら私もこちらにお邪魔いたしますわ。その時にまた、いろいろ聞かせていただきますわ。......貴女の実力などをね」
そういうとヘリは高度を下げて梯子をたらし、そこから家の庭にサクラと降り立った。梯子を回収したヘリは、そのまま飛び去っていった。
「......まだ朝だっていうのに、凄く疲れたな。神月さんが来るらしいし、シャワーを浴びとくか」
「あ!私も私も~!」
「アル!?サクラちゃん!?無事だったのね!!良かった...っ」
俺達に気づいて庭に出てきたアリス母さんにいきなり二人まとめて抱きしめられた。どうやら事件のことは既に知っているらしい。本気で安堵しているのがわかる。......そうとう心配させてしまっていたらしい。
「ただいま、お母さん」
「たたいま~!アリスさん!」
「......ええ、おかえりなさい二人共。サクラちゃん、菖蒲(サクラの母)さんたちが心配していたわよ?」
「あっ!私1回家にもどるね!!神月さんがくるまえにすぐにまたくるよ!!」
そういうと、すごい勢いで隣のサクラの家へ駆け込んでいった。まあ、またすぐに家に来るようだが。
「お母さん、シャワー使える?あ、それとこの後クラスの人が1人来ることになってるんだ。サクラじゃないよ?」
「ああ、先ほど連絡してくださった神月さんね?シャワーは今は誰も使ってないから大丈夫よ。着替えも用意しておくわね」
......色々とありすぎてとにかく疲れた。この後カリンとサクラ相手に説明回(という名の取り調べ)だ。もしかしたら組手とかもさせられるかもしれない。俺はさらなる疲労の予感に憂鬱になりながら、風呂場に向かうのだった。
風呂場でシャワーを浴びて、疲れと汚れを落としていたら、「私も入る~♪」とか言いながらサクラが乱入してきたせいで、いつもの事なのになんだか余計疲れがたまった気がした。何故自分の家で浴びてこないんだっ!!
リュウ(勝利)VSバーディー(敗北)
決まり手:ブロッキングからの昇龍拳
次回はカリンとの組手、サイキョー流道場での修行を予定しています。
原作キャラを1人ずつくらいは新しく出していきたいけど、次回は未定です。
追記:次回に登場するキャラが決まりました!髪型に特徴のある軍人さんです!
???「サマソッ!!」