明日に波動拳   作:路傍の案山子

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 大変お待たせいたしました。

 活動報告にも書きましたがちょっとリアルの事情で投稿が遅くなりました。

 その分、今回はかなり長めです。

 それではどうぞ


12、不意打ち気味にソニックブーム

 《サイキョー流道場での邂逅より遡ること数時間、日本某所にて:ナッシュ視点》

 

 

 

 「お前から連絡とは珍しいな。......何かあったのか?俺は現在任務の関係で国外にいる。もし本国でのトラブルなら生憎だが力にはなれないな」

 

 『知っているさ、日本だろう。これでも諜報部なんだ。それくらいのことは把握しているさ』

 

 どうやら俺が日本にいることを知ったうえで連絡してきたらしい。......もしかすると『例の案件』について何か進展があったのか?

 

 「わざわざ私が日本にいることを知ったうえで何の用だ。世間話がしたくて連絡してきたわけでもないだろう?」

 

 『なに、お前が日本にいると小耳にはさんだんでな。少しばかり”裏”の方をあたってみたのさ。そうしたら一件だけ気になる事件があったんでね。しかも、昨日起きたばかりで場所もお前がいるはずの所からそう遠くなかったんでな。こうして連絡したという訳さ』

 

 俺の現在位置も把握しているようだな。わざわざ周辺の情報を調べたらしく、その際に〝気になる事件”とやらをつかんだらしい。確か、彼は今週は休暇中になっていたはずだが。......仕事熱心なことだ。 

 

 「ふむ。それで?その〝気になる事件”とやらはなんなんだ?」

 

 『簡単に説明するなら小学校のバスがジャックされた。事件は既に解決済みだ』

 

 解決済みのバスジャックだと?それも小学校の?いつもの『奴ら』関係の事件とは少しばかり毛色が違うな。

 

 「......この回線、盗聴の心配は?」

 

 『安心しな。軍用の、しかも諜報部自慢の特殊回線だ。盗聴の心配はない。周囲に誰も居なければだが』

 

 「ならば単刀直入に聞こうか。......その事件、『奴ら』が関係しているのか?白昼堂々小学校のバスを狙うようなケースは今までになかったはずだ」

 

 解決済みの事件であるならば、一番重要なのはその点だ。盗聴の心配がないのならそこは確認しておきたい。

 

 『そのバスには神月財閥の一人娘が乗ってたのさ。襲撃する理由としては十分だ』

 

 成程。『あの』神月財閥になら奴らが手を出していても不思議ではないな。だが......

 

 「しかし、ターゲットが神月財閥の一人娘だったからといってもそれだけでは根拠としては少し弱いな。それこそ身代金目的の犯行かもしれない。......わざわざ連絡してきたんだ。なにか他にも理由があるんだろう?」

 

 『流石は空軍期待のエース様だ。話が早くて助かる。まあ、被害者であるはずの神月財閥が情報を規制していたせいで得られた情報はそう多くはないんだがな。いくら世界的な大企業とはいえあのガードの固さは正直異常だ。おかげで随分と骨が折れたよ。それで今回の一件だが、簡単に言ってしまえば襲撃犯についてかなり不審な点がある。不審というよりは、不釣り合いといった方が正しいかもしれないな』

 

やはり他にも理由があるらしいな。詳しくはわからなかったと言っていたが彼のことだ、ある程度は裏付けがとれているのだろう。

 

『その不審な点についてだが、まず襲撃者は全員で5名だったんだがその内の一人は助っ人と呼ばれていたらしい。裏の情報では他の四人の襲撃者達以外の依頼人が助っ人とやらを手配したらしい。これは確認がとれている。依頼人については何もわからなかったがね』

 

「...少なくとも襲撃者以外に、何かの思惑をもった介入者がいるということか」

 

その依頼人が何者かわかれば話が早いのだが、”裏”とはそういうものだ。決して依頼人の情報は漏らさないだろう。

 

『その通りだ。しかも、調べてみれば神月に確保されて素性がわからない助っ人以外の襲撃者達はどうにも小物ばかりだ。それなのに銃器等の装備はかなりのものだったようだ。銃なんてウチの軍で使ってるところもあるくらいの品だ。それに神月のお嬢様から護衛が外れるタイミングを知っていた様子すらある。そこまで頭が回るような奴らじゃないし、そもそも犯人の一人が拐って渡せば金になると叫んでいたらしい』

「...詳しくはわからなかったと言っていたが、それなりに情報はあるんだな」

『流石に神月財閥といえども、年端もいかない子供達全員の口を閉ざさせるのは無理があったようでね。お嬢様のご学友ならなおさらさ。それでもいつもの十倍近くの労力が必要だったがな。...で、どう思う』

 

目撃者の大半が子供、それもお嬢様とやらのクラスメートだったために神月財閥も手荒な事はできず、そこから情報が漏れたらしい。それにしても事件から一日しかたっていないというのにその犯人の素性もあらかた掴んでいるようだ。日本のポリス達も無能ではないだろうに、流石は諜報部といったところか。それにしても無能な襲撃者に不釣り合いな装備か......成程、奴らお得意の『捨て駒』というわけか。

 

「確かに“匂う”な。......それで?」

 

『...それで、とは?なにか気になることでもあったか?』

 

 それだけの情報を伝えるために連絡して来たわけではないだろうに。肝心なところがまだはっきりしていないしな。

 

「俺に頼みごとがあるんだろう。当ててやろうか?ある程度の情報は集まったが決定的に〝奴ら”が関わっているという証拠が出なかった。だからちょうど現地にいる俺に調査をさせたい。そんなところか」

 

『おや、ばれてしまったか。まあ、流石にこちらとしても決定的な確証がないと迂闊に動けないんでね。なに、そう面倒なことではないさ。調査の対象は既に目星がついている。......ついてはいるんだが、どうにもそこだけ特に神月のガードが固くてね。直接会う以外に現状では手段がないんだよ』

 

 確かに確証もなしに動けるような案件ではない。それにちょうど日本に俺がいるのだ。これを利用しない手はないだろう。俺だって同じ状況なら同じようなことを依頼するだろう。それに今回の任務はわざわざ日本まで来たというのに拍子抜けするほど楽な任務だったからな。正直、少しばかり身体を持て余していたところだ。 

 

 「それで、その対象というのは?神月が確保したという“助っ人”とやらか?」

 

 『いや、その5人目の男については完全に神月の管理下にいるらしくてな。接触するのは難しいだろう。それに一応身元は判明しているんだが、最近裏に入ったばかりの新人だったらしい。実力の方は確かだったらしいが、“奴ら”と関わっている可能性は低いだろう。お前に接触してもらいたいのは事件の解決に関与したとみられる...小学校の生徒2名だ』

 

 「......なんだと?」

 

 小学生の生徒が事件の“解決”に関与した?単に関わっていたわけではなく?

 

 『まあ、俺も最初は信じられなかったんだがな。なんでもその2名の生徒と神月のお嬢さんの3人で、襲撃者の4人を無力化したらしいんだ。小物とはいえ銃で武装した成人男性4人を10歳にも満たない子供3人が倒す。......普通なら到底考えられないが、事実らしい。集めた情報でもほぼ一貫してこの記述があったからな。ついでに補足すると、犯人たちは人質までとっていたらしいぜ?ウチ(米軍)にスカウトしたいくらいの見事な戦果だと言わざるを得ないな。流石に五人目の男には敵わなかったようだが、それは偶然にも通りがかった白い道着を来た男が倒したらしい。その男については本当に通りがかりだったらしく、神月の干渉のせいで全く情報がえられなかったが』

 

 「......まあいい。そこは直接あって確かめるとしよう。それで、その生徒2名とはどこで接触できる?お前のことだ、もう調べてるんだろう?」

 

 正直なところいまだに半信半疑だが、ここでいっても話が進まないだけだ。ならば会って確かめたほうが無駄がないというものだ。

 

 『ああ、対象の名前は春日野さくらと日向涼の2名だ。恐らく学校での接触は難しいだろうな。まだ神月のガードがいるだろう。なんでも二人揃って近所の道場...らしきところに最近通い始めたらしいからそこに行くのがいいだろうな。事件の概要と一緒に座標のデータと2名の外見的特徴は送信しておく。......データではその座標は今はただの民家になっているんだがな。十数年前までは何かの道場があったらしいんだが』

 

 武術を習っているなら少しは先程の話に信憑性が出てくるな。通い始めたばかりのようだし、そもそも道場であるか怪しいようだが。それにしても、『日向』か......まさかな。

 

 「では俺はその道場に向かうとしよう。今座標を確認したがそれなりに距離があるようだしな」

 

 『頼んだぜナッシュ。ああそれとわかっているとは思うが、今回は“奴ら”が関わっていそうかどうかを探るだけで十分だ。相手はあくまでも普通の子供なんだ』 

 

 バスジャック犯を撃退するような子供を普通のカテゴリーに入れていいのだろうか。まあ、どちらにしろ最初から巻き込むつもりなど無いが。

 

 「ああ、わかっているさ。では通信を終了するぞ。対象と接触後に再度連絡する」

 

 『気をつけてな。お前の実力なら大抵の事態は問題無いだろうが、今回に関しては万が一ということもあるからな。最近は“上”の方も何やらきな臭くなってきやがったからな。ああ、それと......いや、これは報告の時のお楽しみとしておこうか。かなりの大事件だからな(笑)』

 

 「お前のほうこそ気をつけろよ『レイブン』。危ない橋を渡っているのはお互い様だろう。......それにしても最後のはなんだ?気になるじゃないか」 

 

 最初こそ真剣な様子でこちらを心配していたが、後半は何か笑いをこらえているような話し方だった。雰囲気から察するに大事件と言っているがさほど重要な事では無いのだろう。......かなり気にはなるが。

 

 『まあ、それは後でのお楽しみというやつだ。それと連絡の時は今回の回線で大丈夫だからな。それじゃあ報告を待ってるぜ!またな』

 

 「む、おい!......まったく、相変わらず人を喰ったようなやつだ」

 

 通信が終了されてしまったので端末を収納する。気にはなるが、ここは大人しく移動するとしよう。“奴ら”に関係するかもしれない案件だ。時間は有効に使わねばな。

 

 「......待っていろよ『シャドルー』。必ず貴様らの尻尾を掴んでやる」

 

 

 

 

 

 

 

 移動開始から数時間、座標の位置に到着した。近くまでは軍用のジープで来ることが出来たのだが、どうやら河川敷の周辺にその道場はあるらしく、車を乗り入れることは出来なかった。なので近くの駐輪スペースにジープを止めて、そこからは徒歩にて目的地へと向かう。それにしても妙な場所に道場を建てたものだ。それとも日本ではこういったところに道場を建てるのが常識的なのだろうか。

 

 そんな事を考えながら今回の接触対象である2名の情報に目を通す。さすがに時間がなかったのかそこまで詳細な情報はなく、『春日野さくら』については黒髪のショートヘアであるとしか書かれていない。これではこの辺りの女子児童の殆どが当てはまってしまう。だが幸いなことにもう一方、『日向涼』の容姿はかなり特徴的だ。長めの銀髪にオッドアイというのは日本ではそうはいないだろう。接触する際にはこちらを目印とさせてもらうとしよう。

 

 「この辺りのはずなのだが......む?」

 

 ――はどーけーん!!

 

 目的地があると思われる方角から声が聞こえてきた。どうやら無事に対象と接触出来そうだ。聞こえてきた声にはまだ幼さが残っていたし、何かの技の練習をしているのだろう。道場と思われるところに通っているというレイブンの情報と一致している。声の聞こえた方に移動してみればそこには3名の人物が確認できた。そのうちの二人は子供で、片方の髪色は銀髪だ。こちらに背中を向けているのでオッドアイかどうかは確認できなかったが、恐らく『日向涼』だろう。もう一方の子供も黒髪のショートカットだ。こちらも情報と一致する。残りの一名は道場の指導者と思わしき成人男性だ。......しかしなぜ彼の道着はピンク色なんだ?事前情報がなければ怪しい男にしかみえないぞ。普通に指導をしているだけなのだろうが、傍から見れば年齢が一桁の子供に何やら絡んでいる不審者に見えなくもない。とにかく話しかけてみるとするか。

 

 「うん!わかった!やってみる!!」

 

 「すまないが君たち、少し話を聞いてもいいだろうか」

 

 む、少し間が悪かったかもしれない。『春日野さくら』と思われる少女が何やら気合を入れて技の練習に入ろうとしている時に声を掛けてしまったようだ。もう少し様子を見るべきだったか。

 

 「ん?誰だ?なんか用か?」

 

 最初に反応を返してきたのはピンクドーギの不審者...ではなくて、格闘技の指導者と思われる成人男性だ。確か日本では師範と言うんだったかな。春日野さくらの方は技を出そうとしたところで声を掛けられたせいか、どこか戸惑ったような表情を浮かべている。日向涼の方は......これは何かに驚いているのか?情報通り左右で色が違う瞳には、戸惑いというより驚きの色が浮かんでいる。まるで『なんでコイツがここにいるんだ?』とでも言いたげな感じだ。......俺の事を知っているような反応だがそんなはずは無いしな。とりあえず今は目の前の師範らしき男に対応するとしよう。この男には用は無いんだがな。

 

 「私が話を聞きたいのは君ではなくてそっちの二人なんだがな」

 

 「だから何の用だって聞いてんだろうが!怪しいんだよ!なにもんだテメェ!!」

 

 見るからに怪しいお前に言われたくはないな。しかし、そういえばまだ名乗っていなかった。これでは疑われるのも無理は無い。今回はこちらの落ち度だな。以後気をつけるとしよう。

 

 「おっと、これは失礼した。まだ名乗っていなかったな。私はアメリカ空軍のナッシュだ。階級は少尉。昨日のバスジャック事件について君たちに聞きたいことがあるんだ」

 

 「アメリカの軍人だとぉ?なんでそんな奴がわざわざ日本の事件を調べてんだ、意味わかんねぇぞコラァ!」

 

 「それについては軍事機密に抵触するゆえ応えることは出来ないな。それよりそろそろ二人と話をさせてもらえないか?なに、そう時間はとらせんさ」

 

 流石に子供を任されている責任者としての意識があるのか、師範らしき男は俺と子供二人の間に立ちふさがるようにして立っている。立派なことだとは思うが、俺にとっては邪魔でしか無い。

 

 「......」

 

 「あ、あの、火引さん。俺達なら大丈夫ですよ。多分この人本物の軍人さんだと思いますし」

 

 師範らしき男が胡散臭そうな目をしたままこちらを見定めようとしてくる。どうやらまだ疑っているようだ。そうして暫く無言で睨まれていると、日向涼が師範らしき男に声を掛けた。どうやら場をとりなそうとしているようだ。......それにしても『俺達』か。性別はデータには書かれていなかったが男だったのか。『さくら』の方は名前から性別を推測できたのだが、涼の方は日本ではどちらの性別の名前でもありえる。見た目も少女にしか見えないので誤解していた。

 

 「本物かどうかなんてわかるのかよ?」

 

 「えっと、おじいちゃんが軍人でしたので、立ち居振舞いで少しは。それにあの人のベストはアメリカ軍のものだったはずです。この前ニュースで見たアメリカ空軍の人が同じものを着てました」

 

「なりきってるだけのえーとなんだ、こ、こすぷれいやー?かもしれねぇだろ!とにかく俺はお前らを預かってるんだ。そう簡単には信用出来ねぇ!」

 

 ......どうしたものかな。この男の信用を得られなければ話が進まないのだが、一応理由に筋が通っているだけに説得しにくい。ややれやれだな。

 

「ならばどうすれば信じてもらえるのかな?軍のライセンスでも見せればいいのかい?」

 

「いいや。......お前、俺と闘いやがれ!!本当だったら強ぇーはずだろ!」

 

ほう。これは面白いことになった。そういうことなら話は早い。ちょうどこの前の任務では不完全燃焼で身体をもて余していたところだ。

 

「......いいだろう。それで信頼が得られるというのならこちらに是非はない。すぐに始めるのか?」

 

俺は掛けていたメガネをしまうと臨戦態勢に移行する。

「おうよ!この場所ならちょうどいいしな。サクラとアルは少し離れてな!」

 

師範らしき男は子供達に指示を出すとこちらに向き直り構えた。......今の構える前の腕を回すような動きは必要だったのか?意味があるようには見えなかったが。

 

「先に名前を聞いておいてもいいかな。手合わせする相手の名前くらい知っておきたいのでね」

 

「いい心掛けだな!俺の名は火引弾!サイキョー流の技ぁ!とくと拝みやがれっ!!いくぞコラァ!!」

 

サイキョー流という流派は聞いたことがないが、果たしてどれ程のものかな。見せてもらうとしよう!

 

「......mission start」

 

 

《ナッシュ視点終了》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうもこんにちは、日向涼ことアルトリウス・エリオット・ヒューガーです。只今混乱中です。

 

今日は何事もなく学校を終えてサイキョー流の道場に来て修業をしていたんですが、そこで思いがけない事態が発生しました。

 

サクラが才能で竜巻旋風脚(春風脚)をあり得ない速度で習得するというある意味いつも通りのイベントのあと、何の前触れもなくナッシュが声を掛けてきたのだ。

 

ナッシュは原作キャラの一人であり、ガイルの戦友で同系統の技を使う軍人だ。ジ○ジョ3部の花〇院のような特徴的な前髪をしている。 名前はストリートファイター2の頃からでていたが、参戦したのはZEROシリーズからだ。キャラ性能は、優秀な飛び道具のソニックブームと対空技のサマーソルトシェルをもつバランスのいい溜めキャラである。ガイルとキャラのバックグラウンドが似ているため同じような技が多いが、ソニックブームを片手で撃てたり、サマーソルトシェルが相手に背を向けるようにしながらの前面宙返りキックだったりと動きはかなり違ったりする。性能はほぼ変わらないけど。

ちなみに作品が出たのはZEROシリーズの方が後だが、ゲーム内の時系列でいうとZEROシリーズはストリートファイター2の前になる。このあたり少しややこしいよね。3より4の方が前の出来事だったりするし。

 

さて、この世界で原作キャラに会うのは実はそんなに難しくない。サクラの近くにいればカリンみたいに勝手に寄ってきたり、ザンギエフみたいに何処で何をしているがわかりやすいのがいるからだ。他のキャラも大体はそのうち会おうと思えば会えるだろう。一部会いたくない奴もいるけど。ただし、ナッシュだけは別である。

 

そもそもなぜ俺がナッシュには会えないと思っていたのか。それは彼のゲーム内での設定にある。ストリートファイター2の時点で死亡している......ということになっているのである。ガイルの戦う理由なんて『ナッシュの敵討ち』だ。

 

ナッシュをプレイアブルキャラとして使用出来るのはZEROシリーズだが、ZEROとZERO2のエンディングではラスボスのベガを倒したと思ったら返り討ちにあってしまう。ZERO3のエンディングでは見事にベガの基地を爆撃した上で生還するが、隠しキャラであるガイルのエンディングで基地の中でベガを足止めして爆撃に巻き込まれて生死不明という結末を迎える(しかもこちらが正史扱い)。

 

こんな感じでかなり濃厚な死亡フラグ(仮)が立っているのだ。いくらこの世界が原作とは違うといっても、多少は同じ展開が発生することもある。サクラが同じZEROシリーズからのキャラであるとしても、会える可能性は低いと思っていた。

 

まあ、そんなわけで 会える可能性が低いはずのキャラが不意討ち気味に出てきたのでかなり驚いてしまったのだ。しかもその動揺が消えないうちにナッシュとダンが戦うことになっていた。わけがわからないよ。一応ナッシュが本当に軍人であることを伝えようとしたのだが、無駄になってしまった。

 

なんでもファイトで片付けようとするのはこの世界の人々の悪い癖だ。あれだ、遊〇王の『おいデュエルしろよ』に近いものがある。実際警官とかに追い詰められてもファイトで倒せればなんとかなりそうで怖い。バイソンとかが特にそんな感じがする。

 

で、肝心の試合の方なのだが......

 

「おらぁっ!!」

 

「読めている!サマソッ!!」

 

バキィッ!とナッシュの鋭い蹴りがダンの顎を蹴りあげ吹き飛ばす。ダンの動きを先読みしたかのような完璧なカウンターだった。宙返りしながらのキックとか俺は実戦で当てれる気がしないよ。

 

「ぐぅ......っ!ま、まだまだぁ!」

 

「君の力量は既に見切ったよ。その打たれ強さはなかなかだが、それだけでは俺には勝てないよ」

 

少しふらつきながらも立ち上がるダンと、油断なく構えながらも余裕のある態度を崩さないナッシュ。誰の目から見てもナッシュの優位は明らかだろう。

 

試合開始からしばらくはダンが一方的に押しているように見えた。ラッシュの合間に挑発をいれる余裕さえあったほどだ。しかし、実際はまるで逆であった。ナッシュは有効打を全く受けることなくダンの動きを観察していたのだ。

 

そしてダンの動きをある程度見切ったのだろう。そこからはダンが打ち込む度にカウンターを決め、一気にダンを圧倒し始めた。サクラなんて何が起きたのかわからないって顔してたしな。実際「なんで!?」って叫んでたし。まあ、さっきまで優勢だったはずのダンが急に押され始めたのだ。正直俺もナッシュがどういうキャラか知らなければ同じような反応をしていたに違いない。

 

「なめんじゃねぇぞコラァ!!我道拳ー!」

 

「ソニックブームッ!」

 

ダンが片手で放った我道拳を、ナッシュはソニックブームで相殺する。というか相殺って現実でも起こるんだね。ソニックブームと波動拳だと表面積がかなり違うし、普通にどっちも貫通とかしそうだけどなぁ。ソニックブームは波動拳より貫通力高そうだし、波動拳は当たらなかったところがそのまま飛んで行きそうな気がする。......考えても仕方がないか。ゲームだと波動拳が投石とかで消えたりするし。あ、ちなみにナッシュのソニックブームはゲームと同じで片手撃ちである。

 

それにしてもソニックブームは実際に見るとなんといか、凄く痛そうだ。気弾の形状とか回転してるところとか。一体どうやって撃っているのだろうか。......今度練習してみようかな。

 

 「そろそろ認めてもらえないかな?これ以上は時間の無駄というものだ。俺の実力は身を持ってわかってもらえたと思うんだがな」

 

 ダンの我道拳をあっさりと相殺し、ナッシュは余裕な態度を崩さないまま問いかける。どことなく気障なジェスチャーのおまけ付きで。しかし、そんな自信過剰ともとれる言動を裏付けるだけの実力をナッシュは確かに持っている。ダンは挑発等のせいでムラがあるとはいえ、この世界ではそれなりに強いのだ。現に地方で開かれる大会では何度か優勝した事があるようだし。そのダンをここまで一方的に圧倒するのは尋常ではない。

 

 今の二人の体力はダンが2割から3割くらいで、ナッシュが9割くらいだろう。ゲームの中ならかなり絶望的な体力差である。ゲージとかのシステムがあれば多少は違ってくるのだろうが、現実の世界ではこの差は勝敗に直結する。しかも相手にこちらの動きが読まれているというのなら尚更だ。もし今ナッシュと対峙しているのが俺であったならばおそらく既に負けを認めている。ナッシュが言っている通り、元々これは軍人かどうかを判断するテストのようなものだ。このまま続けても体力を消耗するだけである。

 

 しかし、ダンのとった行動は俺の考えとは真逆のものだった。彼はまだ自身の勝利を諦めてなどいなかったのだ。

 

 「何を言ってやがるっ!!時間の無駄だぁ!?見切っただぁ!?勝負はここからだろうがっ!!!」

 

 「......続けるというのなら構わないが。君の動きには無駄が多すぎる。俺はこれでもマーシャルアーツの全米大会で優勝しているんだ。結果は変わらないと思うがね」

 

 そういえばそんな設定を何処かで見た気がするな。というか今の時点でもう優勝してたのか。どおりで強いはずだよ。

 

 「それがどうしたぁ!!アルもサクラもよぉく覚えとけ!サイキョー流には『諦める』なんて言葉は存在しねぇ!!相手が強かろうが弱かろうが関係ねぇ!!どんな相手だろうと自分の『最強』を信じ貫き通す!!それがサイキョー流だぁ!!」 

 

 ......なにこの人超カッコイイ。圧倒的に不利な状況でありながらもその声は力強く、信念にあふれていた。あれだ、某勇者シリーズの主人公みたいな格好良さがある。

 

 「ならば受けて立とう!ソニックブームッ!」

 

 そんなダンにナッシュはソニックブームを放つ。有利な状況であっても油断をせず牽制で確実に攻める姿勢は実にナッシュらしい。軍人の手本のような闘い方である。......しかし今回に限っては少し相手が悪かったようだ。相手はダンである。意外性と可能性は半端ないんだよね、この人。

 

 

 「おおおぉーーーー!!我道拳っ!!!」

 

 「むっ!?」

 

 ダンが両手で放った全力の我道拳は、ナッシュのソニックブームとぶつかったが相殺されずにナッシュへと迫った。ナッシュはそれを躱したがそこにダンが猛然と距離を詰めて突進していく。しかしナッシュは慌てることもなく即座にダンの動きに対応し迎撃の蹴撃を放つ。

 

 「甘いなっ!見切っていると言っただろう!」

 

 ダンの動きを見切ったうえでのカウンター。しかし、その蹴りがダンを捉えることはなかった。

 

 「『みていた』のはてめえだけじゃねぇんだよ!!断空脚!!!」

 

 「ぐはぁ!?」

 

 寸前でのバックステップ。まるでナッシュのカウンターをわかっていたかのような絶妙なタイミングで急速に後方へと飛び退き、その反動すらも利用してダンは断空脚を繰り出したのだ。カウンターを外して体勢が崩れていたナッシュはこれを躱すことが出来ず、この試合で初めてまともに攻撃を受けた。しかも、今の断空脚は三段目が身体を捻りながらの蹴り落としだった。いわゆる『EX断空脚』(ゲージを消費して繰り出す強化版)である。飛び蹴りの三連打にナッシュは吹き飛ばされ、たまらず地面に片膝をついてた。ゲームでいうところのダウン状態というやつだろう。

 

 「どうだぁ!なめんじゃねえぞっ!!あれだけ打ち込まれれば嫌でもカウンターのタイミングは覚えられるぜぇ!てめえの動きは『正確すぎる』んだよ!!ざまあみやがれってんだ!」

 

 「......」

 

 なるほど。ダンはナッシュのカウンターを狙っていたのか。ナッシュの動きの正確さを逆手に取るとはね。でも、やっぱりチャンスなのに追撃をせずに挑発するんですね。折角、綺麗に反撃が決まってダウンまで奪ったというのにもったいない。あと、なぜかナッシュが動きませんね。直撃を受けたとはいえまだ体力的には問題なく動けるはずなのに、片膝をついた姿勢のままだ。

 

 「どうしたぁ!!まだ終わりじゃねえだろ!」

 

 「......いや、もう終わりだ」

 

 そういうとナッシュはゆっくりと立ち上がりダンにこう告げた。

 

 

 

 

 「......この勝負、私の負けだ」

 

 

 

 

 「......は?......えっ!?なんだってぇーー!?」

 

 突然の敗北宣言である。言われたダンは一瞬呆けたようになったが、言葉の意味を理解すると驚きで声をあげた。

 

 「相手の力量を見誤り適切な対処をすることが出来なかった。これでは軍人としては失格だな。この試合の目的は私が軍人かどうかを見極めるというものだったはずだ。で、あればこの状況は私の負けということだろう」

 

 あくまでも冷静にそう言い切るナッシュ。戦闘中は『俺』だった一人称が『私』に戻っている。収納していたケースからメガネを取り出し装着しているし、完全に戦闘姿勢を解いているようだ。

 

 「油断はしていなかったつもりだが、どこかで君を侮っていたようだ。すまなかったな」

 

 「えぇ!?いや、なんてーか、そのいきなり冷静になるなよ!調子狂うだろ!」

 

 ダンに向かって頭を下げるナッシュ。そしてパニクっているダン。なんだか一気に妙な空気になったな。

 

 「それでは敗者は去るとしよう。邪魔をしてすまなかったな」

 

 「ちょ、ちょと待てって!いや確かにその理屈だとお前の負けかもしれねえけどよ!?ああ!?マジで待てって!わかった!わかったから!!今回はお前が軍人だって認めてやるからちょっと待って!!このまま帰られたら俺がもの凄く悪いやつみたいな感じになるだろうが!お願い待ってぇ!!」

 

 帰ろうとするナッシュを何故か勝者であるはずのダンが必死で引き止める。その時俺は見逃さなかった。ナッシュの顔に『計画通り』みたいな笑みが浮かんだのを。

 

 「そうか!認めてくれるのか!それでは君たち、早速話を聞かせてもらってもいいかな」

 

 「え、あ、はい。どうぞ」

 

 ダンが許可を出した途端にこちらに向き直り聞きこみを開始するナッシュ。この変わり身の早さ、どうやら先程帰ると言っていたのは演技だったみたいだ。ダンは見事に誘導に引っかかってしまったようだ。

 

 「あれ?俺が勝ったんだよな?なんでこんな状況になってんだ?」

 

 混乱しているダンを無視してナッシュは俺達に改めて挨拶をしてきた。

 

 「君たちが春日野さくらさんと日向涼...君、で間違いなかったかな。ああ、改めて自己紹介をしておこうか。私はアメリカ空軍のナッシュ少尉だ。昨日のバスジャック事件について聞かせてほしいことがあるんだ」

 

 ダンとの戦闘前にも言っていたが、やはり昨日の事について聞きたいらしい。まあ確かにシャドルーが関わってたぽいし、おそらくその辺りの情報が知りたいのだろう。ナッシュは原作でもシャドルーを追っていたしね。そのせいで死亡フラグがたくさん立っているわけだが。......ん?

 

 「......今、日向涼『君』って言いました?」

 

 「ああ。君は男の子だろうからそう呼んだのだが、何か気になることでも?」

 

 「いいえ!!その通りなのでまっったく問題ありません!!俺は日向涼、英名はアルトリウス・エリオット・ヒューガ―です!見ての通りの男です!!よろしくお願いします!ナッシュ少尉!!」

 

 やったぜ!!人生で初めて初見で男の子って言われた!!めちゃくちゃ嬉しくてテンションがヒャッハーしそう!遂に、遂に俺にも滲み出るダンディズムや溢れ出る男気が身についたのかも!!毎晩寝る前に『ザンギエフ式筋力トレーニング!これでアナタもシベリア熊のようなワイルドボディーに!』を実戦してきた成果が出たのかも!とにかくこれは全力でナッシュさん、いやナッシュ大明神に協力不可避ですわ!さあ!どんと来い!!

 

 「あ、ああ。よろしく頼むよ」

 

 「私は春日野さくらだよ!よろしくね、ナッシュのおじさん!それにしてもおじさんすごく強いんだね!あとで私たちの技とかもみてくれない?...じゃなかった、ませんか?」

 

 サクラも挨拶を済ませたようだがナッシュさんにむかっておじさんは無礼だぞ!確かに落ち着いた雰囲気を醸し出していらっしゃるが、まだそんな年齢ではないはずだ。

 

 「お、おじさん。私はまだ23なんだがな。まあ、君たちから見れば確かにおじさんと言えるのかもしれないが」

 

 「サクラ、いきなりおじさんなんて失礼だぞ!ちゃんとこの前こういう時はさん付けで呼ぶようにって教えただろ」

 

 「あ!そうだった!ごめんなさいナッシュのお...さん」

 

 うむ。またおじさんって言おうとしたが謝罪と訂正をしたのでよしとしよう。確かに俺達から見れば大抵の人はおじさんやおばさんだろうけど、この辺の年代の人は結構そういったことを気にするんだからな!......それにしてもナッシュさんってまだ23なのか。てっきり26、7くらいかと思ったんだけどな。

 

 「なんだ、アンタ俺の1つ上だったのかよ。誕生日いつだ?もしかしたらタメかもしれねえな」

 

 「「「え?」」」

 

 「......なんだ?俺なんかおかしな事言ったか?」

 

 ダンってまだ22歳だったのかよ!?正直二十代の後半くらいだと思ってたよ。どうやらダンはかなりの老け顔であったらしい。原作よりかは若いとは思ってたけど、イメージしてたのがスト4(30代半ばくらい)だったからなぁ。サクラもナッシュさんもどうやら俺と同じような認識だったらしく、驚きの声がハモってしまった。

 

 「ま、まあ、それはいいとして事件の事を聞かせてくれないか?なんでも、君たちが犯人を何人か倒したそうじゃないか。それは本当なのかい?」

 

 「うん!アルがね!こう、ドーンッ!てしたらバスがグラグラってなってね!そこを神月さんとアルといっしょにえいやっ!ってかんじでたおしたんだよ!そのあと、うんてんしてた悪いやつをアルがダーン!ってしてそこをギュってしたんだ!」

 

 「うん。大体(説明が下手だってことが)わかったから、次は俺が説明するね?」

 

 どうやらサクラには説明は無理なようだ。まだ8歳とはいえこれは酷い。ナッシュさんの顔がちょっと引きつってるしね。流石に今の擬音だらけの説明では切れ者っぽいナッシュさんでも理解できないだろう。あと今考えてみると、ナッシュさん事前にある程度情報を掴んでいるようだ。そういえば俺達の名前も知ってたしな。......俺の性別も調べてあったのかな。そうだとすると、さっきのがぬか喜びってことになるよね。ちょっとテンション下がっちゃったぜ。

 

 「......?わかったよ。じゃあこうたいだね!」

 

 「ということで、俺が説明します。あ、その前に少し質問してもいいですか?」

 

 「ああ。何かな?」

 

 先にどれくらいの情報を知ってるのか教えてもらわないと、説明が無駄に長くなりそうだからね。性別を知っていたかもついでに聞いてみよう。

 

 「ナッシュ少尉は事件の事や俺達の事を知ってたみたいですけど、どこまで知ってるのかなって。それがわかれば説明しやすくなると思うんです」 

 

 「ふむ。成程、それもそうだな。事件については、まず目的が神月かりんさんの誘拐であること。停車している時にバスがジャックされ、その時点で教員...先生といった方がいいかな?と運転手が降ろされたこと。人質がいたらしいこと。その後、バスを襲撃犯たちが走らせるが、4人が君たちに倒されたらしいこと。残りの1人は通りすがりの格闘家が倒したらしいということ。簡単に説明するとわかっているのはこんなところだな。そこで君たちには犯人たちの情報や、どうやって倒したのかを詳しく教えてもらいたいんだ。君達については正直名前と髪の色と髪型、後は君の目の色しか情報がなくてね。ここにあるらしい道場に通っているという情報がなければ会えるかどうかもわからなかったくらいだ。もっとも、君の髪色や瞳の色がかなり特徴的だったおかげで実際に見れば特定は楽だったがね」

 

 襲撃者の特徴と、どうやってそいつらを子供だけで倒したかを説明すればいいんだな。まあ、本命は襲撃者についての情報の方だろうけど。というか、俺達について知っていることがかなり少なかったな。おそらく神月財閥の情報操作があったからだろう。俺達に警察からの取り調べは無いって柴崎が言ってたしね。まあ、流石にアメリカ空軍の軍人までは想定外だろうからナッシュが来たわけだが。......性別も知らなかった可能性が高そうだな。よっしゃあ!!

 

 「大体わかりました。ええっとですね、犯人たちに3人の人質がとられてたんですけど、まず俺が犯人たちの目眩ましをしました。運転していた犯人にもしたからバスが大きく揺れました。その時に、人質をとっている犯人たちに使える中で一番強い技を喰らわせたんです。次に、運転していた犯人を俺が運転席から蹴っ飛ばして、地面に倒れたところにサクラがジャンプしてからの踏みつけで倒しました。後はそのままブレーキを掛けたんですけど、その時に偶然ボタンを押しちゃったみたいで残りの一番強そうだった人がバスの外に転がっていったんです。その後、バスから降りて3人で闘ったんだけど、全然敵わなくてピンチになった時に格闘家の人が助けてくれて一番強そうな人を倒してくれたんです」

 

 本当はもっとしっかりと説明できるのだが、転生時の救済措置のおかげで自動的にちょっと幼い感じに修正された。まあ、7歳児がスラスラ説明できたら怖いよね。実際、今の説明でも結構ギリギリのラインだと思うし。

 

 「ふむ。君が犯人たちに仕掛けたという目眩ましとはなんだい?それと、君とサクラさんはここの道場に通い始めたのは最近らしいが、それ以前になにか格闘技を習ったりしていたのかい?神月のお嬢様は様々な格闘技等の英才教育を受けていると聞いている。そうであれば大人を倒したとしてもそれほど不思議ではないのだが」

 

 あ、やっぱりそこは気になりますよね。目眩ましってぼかしてみたけどやっぱり突っ込まれたか。まあ、今更隠すほどのことでもないんだけど、つい今までの癖で誤魔化そうとしてしまった。あと、不意打ちとはいえ大人を倒せるだけの力を持っているかどうかも普通は疑うよね。格闘技などを習っていたとなればその可能性は上がるが、サイキョー流道場に通い始めたのは本当に最近だしね。俺達の情報はほとんどなかったみたいだし、確認しておきたいのだろう。

 

 「えっと、むずしいことはよくわかんないけど、ウルさんとじんぱちおじーちゃんからいろいろおしえてもらってたよ!!あと、このまえ神月さんとしょうぶして私がかったんだよ!アルもきのうかったばかりなんだ!!」

 

 「ほう、それは凄いな。神月のお嬢様は幼くしてかなりの使い手だと聞いている。それに勝利するとは......ん?ウルとジンパチ?」

 

 俺が何か言うよりも先にサクラが答えた。というか、軍が情報を把握してるとかカリンどんだけだよ。いや、確かにサクラと俺は手合わせで勝ったけども。本当に神月財閥の影響力は恐ろしい物があるな。

 

 「あ、ウルとジンパチというのは俺の父さんと祖父です。俺は2年くらい前から、サクラは1年前くらいから色々習っています。俺は二人以外にも習っていますけど」

 

 「ジンパチ...日向涼......日向ジンパチ。それに先程軍人と...ま、まさか」

 

 あれ?なんだかナッシュさんの様子がおかしい。俺なにかおかしな事言った?言ってないよね?

 

 「もしかして君の祖父の名前は日向甚八郎と言うんじゃないかな?」

 

 「あ、はい。その通りです。知ってるんですか?」

 

 「勿論だともっ!!軍人で彼を知らないものはそうはいまい!『必滅を呼ぶ悪魔』の異名は敵味方を問わず恐れられると同時に多くの軍人にとって憧憬の対象だ!かくいう私も大ファンなんだ!多くの作戦において常勝無敗!そして伝説的なまでの自軍だけでなく敵国への戦死者の少なさっ!更には武術の才能がなかったにもかかわらずその地位まで上り詰めたといううサクセスストーリー!私が軍の道を志したのは彼に憧れたからと言っても過言じゃない。彼の使用する軍式格闘術に独自のアレンジを加えた格闘スタイルを私は非常に参考にさせてもらっているんだ!!」

 

 お、おう。熱意はすっごく伝わったから一旦落ち着こうぜ。なんでどんどん距離を詰めながら語りかけてくるんですか?なんか俺の知ってるナッシュさんと違うんですけど。この人正義貫く『クールガイ』ってキャッチコピーだったはずなんですけど。さっきまでは普通にクールな感じだったのにいきなりグイグイくるんですけど。むしろどっかの元プロテニスプレーヤーばりの熱さを感じるんですけど。

 

 「ええっと、そ、そうだ!犯人についての覚えてることを話しても大丈夫ですか!」

 

 「......ハッ!?す、すまない。少し取り乱してしまった。そうだね、出来れば先に目眩ましの説明をお願いしていいかな?」

 

 どうやらいつものナッシュさんに戻ってくれたみたいだ。いやー良かった、良かった。もしあのままだったら顔面に向けて波動拳を撃ち込むところだった。それくらい鬼気迫るものが会った。

 

 「目眩ましは見てもらったほうが早いかな?じゃあ、あの辺を見ていてもらえますか?......あ、もう少し掛かります。......それではいきます!散陣波動壁っ!!」

 

 説明が少し面倒なので実演することにした。少し離れた場所を見ていてもらえるように頼んだ後、気を溜めて散陣波動壁を放った。指定した場所に立ち上る5本の波動の柱。うむ。我ながらなかなかの技だ......見た目だけは。

 

 「な、なんじゃぁこりゃっ!?アル、お前いつの間にこんなすげぇ技を!?」

 

 「...!!これは驚いた。その歳であれほどの技を出せるとはな。チャージタイムが長いことと、威力がほぼ無いという点を含めても素晴らしい技術だ。確かにこれは不意打ちの目眩ましとしては十分効果的だろう」

 

 「!?し、知ってたし!そ、それくらい俺だって一発で見破ってたぜぇ!!まだまだ修行が足りないな、アル!(マジかよ!?全然威力がないなんて見えなかったぞ!?)」

 

 流石はナッシュさん。一度見ただけで技の威力がスッカスカなのを見破られてしまった。これでも結構自信があったんだけどな......見た目だけは。ダンもなにか言っているが気にしないことにしよう。

 

 「ふむ。これで大体バスの中で何が起こったのかは理解できたよ。それでは犯人達について何か気づいたこととかはないかい?どんな小さなことでも構わないので教えてほしい」

 

 「う~~ん。アル、何かある?私あんまりおぼえてないや。......あ!私がふんだ人のおなかはあんまりきんにくがなかったよ!」

 

 「う、うむ。そうか。......日向君の方は何か無いかな?」

 

 どうやらサクラは戦闘で頭がいっぱいだったらしく、昨日のことだというのにろくに覚えていないようだ。唯一出てきた情報が踏んだ犯人の腹筋がなかったことってどんだけだよ。期待薄だと判断したのか、ナッシュさんは苦笑いしながら俺に質問してきた。

  

 「そうですね。かなり、ええっと、なんというか頭が悪そうでした。なのに神月さんの護衛がバスに乗ってないことを知ってるみたいだったし、銃とか頑丈そうなロープとかはちゃんと準備してたみたいなんです。その辺りが気になりましたね」

 

 「成程。そういえば1人だけ強い奴が居たらしいけど、そいつについては何か知らないか?」

 

 「すっごく強かった!アルと神月さんといっしょにたたかったのにぜんぜんかてなかったんだよ!でもリュウさんがたすけてくれたんだ!!かっこよかったな~!!あ!そのあと神月さんがバー「サクラ、そこは秘密にしなきゃダメだろ」あ!そうだった!!......今のなしで!」

 

 「そうか。まあ、口止めされているようならば無理には聞かないさ。ふむ、まあこんなところかな。他になにかあるかい?」

 

 一応バーディーが神月財閥に雇われたのはカリンに口止めされてるからな。サクラは忘れてたみたいだけど。無理に聞こうとしてこないのは助かるな。俺達の発言を聞いてからナッシュさんの表情はどうも芳しくない。おそらく今の話で出てきた情報は、既にある程度調べがついていたり、関係のない情報ばかりだったからだろう。他になにかないかと尋ねる言葉にも少し諦めのような感情が伺える。

 

 ならそろそろ欲しい情報を差し上げるとしますか。いや、本当はすぐにでも話したかったんだけど、いきなりピンポイントでそこから話したら怪しまれそうだったからね。

 

 「そういえば犯人達は誰かに雇われてたみたいです。強かった人がそう言ってましたから」 

 

 「...!その雇っていた人物についてはなにか言ってかい?」

 

 気のせいかかけているメガネがキラーンと光ったように見えた。やはり知りたかったのはそこらしい。

 

 「えっと、確かどこにでもいそうなスーツの男だったけ。そんな風に言ってました」

 

 「......それだけかい?」

 

 「ええ。なんでも一瞬見ただけらしいので。」

 

 「...そうか」

 

 態度には出さないが、少し落胆しているようだ。まあ、ちょっと意地の悪い言い方してるしね。それじゃあ今度こそ。

 

 「あ!確か後一つだけなにか言ってましたね。ね、サクラ?」

 

 「え!?私!?う、うーんと。............あ!なんだっけ!?ちょうこく?かなんかが見えたって言ってた!!」

 

 「彫刻?像か何かを持っていたのか?」

 

 「いいえ、違います。サクラ、彫刻じゃなくて刺青だろ?確か首筋のところに小さな――」

 

 俺が刺青という言葉を発した瞬間にナッシュさんの纏う雰囲気が一変し、一気に張り詰めたものになった。次の俺の言葉を絶対に聞き逃すまいとしているように感じられた。そんな空気の中俺は言葉を続けた。

 

 「――趣味の悪いドクロに羽がついていた、そう言ってましたね」

 

 「......ああ、ありがとう。それだけわかれば十分だ。すまなかったね、時間を取らせてしまって。君たちのくれた情報はとても役に立ちそうだよ」

 

 どうやら聞き込みはこれにて終了らしい。シャドルーが関わっていたことさえ確認できればよかったようだ。まあ、これ以上は俺の原作知識以外にはあげられるような情報はないので聞きこみを続けられても何も言えないんだけど。

 

 「ん?もういいのか?本当に早かったな」

 

 「ああ。もう必要な事は確認できたんでね。少しやることも出来たし、この辺りで御暇させてもらうとするよ」

 

 「え~!もうかえっちゃうの?技とかいろいろおしえてほしかったのに~」

 

 ナッシュさんはもう帰ってしまうらしい。サクラは技を教えて欲しかったと言っているが、俺も同じ気持だ。折角会える確率が低いと思っていた人物に会えたんだし。

 

 「ははは、そうだな。もし次に会うことがあれば、ちゃんとしたレクチャーをしても構わないよ。まあ、その必要は余りなさそうだがね。日向甚八郎からも教えを受けているんだ。それに、そこの火引弾からも習うのだろう?」

 

 「そのとーりだぜ!!サクラ!この火引弾様が直々にサイキョー流を指導してやるんだ!こんなスカした野郎に習う必要なんてねえよ!勝負は俺が勝ったしな!!」

 

 アンタめちゃくちゃ劣勢だったじゃねーか。

 

 「ふっ。確かに今回の試合はこちらの負けで構わないが、次はそうはならないさ。君の動きには正直無駄が多すぎる。あとピンク色の道着を着ている君にスカしているなんて言われたくはないな」

 

 「んだとぉ!?」

 

 「まあまあ、火引さん落ち着いて。ナッシュさん忙しいみたいだから邪魔しちゃダメですよ」

 

 ちょっと険悪な空気が流れ始めたのでダンを落ち着かせる。この二人は余り相性が良くないようだ。どちらも自信家だが、根本的な性質が真逆だからだろう。あと、ピンク色の道着は俺も正直センスがないと思います。ナッシュさんに指摘されるのも仕方ないと思う。この世界は民族衣装やスポーツの道着などを普段使いする人も多いので結構奇抜なファッションの人が多かったりするが、やっぱりピンクはどうかと思う。

 

 「ちっ!わーったよ。ほれ、行くならさっさといきやがれ。......まあ、なんだ。オメエもなかなか強かったぜ」

 

 「......ああ。そうさせてもらおう。それでは手間を取らせたね。春日野さんと日向君も協力感謝する。......ところで日向君、もう少しだけいいかな?」

 

 「...?はい、なんでしょうか?」

 

 ダンが誰の得にもならないツンデレ発言をかましてナッシュさんが帰るという時に何故か話しかけられた。はて?これ以上何かあるのかな?甚八郎おじいちゃんのサインが欲しいとか?......微妙にありそうで困る。

 

 「いや、君に私の連絡先を渡しておこうと思ってね。この中ではどうやら君が一番しっかりしているようだしね。もし何か今後気になることや思い出したことがあれば連絡して欲しい。ああ。勿論無理にとは言わないさ。あと、この連絡先は私に直通で国際電話になることもあるだろうが、料金は私の方に発生するので遠慮せずにかけて欲しい」

 

 「はい。わかりました。何かあったら連絡させてもらいます。この連絡先を書いた紙は覚えたら燃やしたほうがいいですか?あ、最近観た映画でそんな感じのシーンがあったんで」

 

 「そうしてくれると助かるが、無理に覚えようとしなくてもいいからな?処分せずともそこまで困ることはない。それではよろしく頼むよ」

 

 アメリカ空軍の現役軍人の連絡先ゲットだぜ!あまり使いみちが思いつかないが、貰っておいて損は無いだろう。出来ればこの連絡先が繋がらなくなる事がないといいんだけど。うーむ、何かできることって無いのだろうか。

 

 「これで話って終わりですか?......てっきり甚八郎おじいちゃんのサインでもねだられるのかと思いましたよ」

 

 「......もし今度会える時があるなら是非お願いしたいね。私もまさかこんな状況であこがれの人の孫に会うとは思っていなかったよ」

 

 「なら今度アメリカ空軍宛にエアメールしておきますね。あ、そうだナッシュさん」

 

 一瞬またメガネがキラリと光ったので本当に欲しいのだろう。郵送してとりあえず恩を売っておこう。そしてこれは俺のせめてもの悪足掻き。

 

 「本当かい!!ありがとう!......あ~、ゴホン。それで、何かな?」

 

 「おじいちゃんからの受け売りなんですけど、敵の基地に乗り込む時、特に本拠地とかの重要拠点に乗り込む時は、例え動きが多少阻害されたとしても防刃防弾の装備をしっかりと着込んでいったほうがいいらしいですよ。なんでも強い格闘家の軍人さんは軽装で敵の中枢に乗り込んで銃で撃たれたりして大けがをする人が多かったそうです。あとは爆弾とかにも注意が必要だって言ってましたね。酷い時には味方と信じていた人から撃たれた人もいるそうなんです。暗記できるくらいには言って聞かされてたんですが、俺は軍人になるつもりなんて無いのであまり意味はなかったんですけど。ナッシュさんは軍人ですし、甚八郎おじいちゃんの言葉なんで言っておいた方がいいかなって思ったので」

 

 「......成程。非常に参考になる話だったよ。しっかりと心に留めておくとするよ」

 

 今の俺にナッシュさんの死亡フラグを叩き折れる程の力はない。これは言ってしまえば気休めにすぎない。結果は何も変わらないかもしれない。それでもこのままなにもしないのではやりきれない。たとえ年齢に不釣り合いな発言だと怪しまれたとしても。そんな、もしかしたら起こるかもしれない悲劇を知っているのに何も出来ない『転生者』(じぶん)が、その罪悪感から逃げるための『言い訳』だ。俺にはこの一言で何かが変わる事を祈ることくらいしか出来ないんだ。

 

 「それではこんどこそ本当に失礼するとするよ。それではまたな」

 

 「はい、お元気で。いつか、また会いましょう」

 

 「じゃーねー!ナッシュのおじ...お兄さん!こんどあったら技をおしえてねーーー!!やくそくだよ―!」

 

 「ふんっ。おう行け行け。あばよ!」

 

 別れの挨拶を済ませるとナッシュさんは格好良く片手だけを挙げて応えると、そのまま振り向かずに去っていってしまった。成程、これが所謂クールに去るということか。最後の方は柄にもなくシリアスな感じの思考になってしまっていたな。......でも、よく考えると少しナッシュにも原因があるんだよな。ZERO3の爆発とZEROの背後からの奇襲はしょうがないとして、ZERO2の撃たれるやつは防弾チョッキを装備していれば多少は違ったはずなんだよ。ていうか、せめてベストの下に何か着ろよ。なんで裸の上から直接ベストを着てるんだよ!伊達メガネをオシャレでかける前にベストの前を閉めろよ!何故ベストを尽くさないのか!ベストだけに!......あ、今の無しで。自分で考えておいて何だけどくっそ寒いわ。

 

 「......よぉし!修行を再開すんぞ!ほら、サクラは波動拳の途中だっただろ!」

 

 「あ!そうだった!よーし!!今日中にうてるようになるんだから!」

 

 ダンの声でくだらない思考の海から現実に引き戻される。......そうだな。ウジウジ考えたって仕方がない。俺はまだ弱いんだ。なら、少しずつでも強くなれるように頑張るしかないよね。この世界はゲームじゃなくて現実だ。力尽くで望む未来を掴み取ることだって出来るはずだ。なら俺は......どこまでも足掻いてやる!(キリッ)

 

 「おーい!アルも一緒にやるぞ!お前は我道拳の練習だ!......あとさっきのなんちゃら波動壁って技の出し方を教えてくれ」

 

 「はいっ!!...って、なんで俺が教える方になってるんですか?まあいいですけど」

 

 それじゃあまずはサイキョー流の修行を頑張るとしますかね!千里の道も一歩から!家に帰ればお地蔵さんも待ってるぜ!......あれ?さっそく心が折れそうだぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 《同時刻:とある通信端末での会話》

 

 『こちらスマルト・レイブンだ。それで、ナッシュ少尉。首尾はどうだった?』

 

 「ああ、どうやら“当たり”だったようだ。今回の事件の依頼人にドクロに羽のついた刺青があったそうだ。助っ人の男が一瞬だけだが見ていたそうだ」

 

 『そりゃあ良かった。これでコッチも本腰を入れて動けるようになるというもんだ。これから暫くはまた忙しくなりそうだ。やれやれ、こっちは折角休暇中だったというのに』

 

 「そうだな。ああ、それとあちらで面白ことがあったぞ」

 

 『ん?何かあったのか?』

 

 「ああ。接触対象の日向涼なんだが、なんとあの日向甚八郎の孫だったんだ」

 

 『必滅を呼ぶ悪魔だって!?そりゃあなんともお前さんに嬉しいサプライズだな。ファンだっただろ?サインでも貰えたかい?』

 

 「後で軍の方に俺宛に送ってくれるらしい。それとありがたい言葉も聞けたしな」

 

 『......本当にねだったのか。で、ありがたい言葉ってのは?』

 

 「敵陣に乗り込む時は格闘家でも防弾防刃の装備をちゃんと着用するように、と言われたよ。まったく、耳が痛い言葉だった」

 

 『確かにお前さんは少し軽装で乗り込みすぎだな。俺も気をつけるとしよう』

 

 「ああ。俺も今後は改善するように心がけるよ。そういえば、前回の連絡の時最後に気になることを言っていたな。かなりの大事件っていうのは何のことだ」

 

 『おお!そうだったそうだった!いや、実はな......』

 

 「なんだ?」

 

 『あの堅物のガイルが結婚したんだよ。しかも既に奥さんの腹の中にはベイビーがいるらしいぜ?』

 

 「.........。な、なんだとぉーー!?」 




 不意打ち気味の結婚というソニックブームがナッシュさんを襲う!

 今回こんなに投稿が遅くなったのは、
 
 1、リアルの事情でパソコンに触れなかった。
 
 2、そのあと何とか七千字くらいである程度書き上がる。

 3、神月かりんスト5に参戦決定

 4、テンションが上がる。

 5、なぜか二万字を超える←今ここ

 次回は戦闘は多分ないのできっと短めになると思います。多分。

 そんな次回はなんとあの人が登場します。

 謎の帝王「アイグー!!」

あ、あと少し時間が飛びます。

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