明日に波動拳   作:路傍の案山子

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 うん、またなんだ。すまない。

 気づいたら今回も二万字を超えてました。

 前回、多分一万字くらいとか言ってたけど、倍あります。

 今回長い上に戦闘がありませんが、よろしくお願いします。

 それではどうぞ。



13、藪からアイグーアパカッ

 どうも、日向涼です。英名はアルトリウス・エリオット・ヒューガ―です。ナッシュさんとの思わぬ出会いから3年程の月日が流れ、俺は小学5年生になりました。この三年間色々な出来事(トラブル)があったけど、シャドルーが襲ってくるようなことはなかったよ。ナッシュさん以降原作キャラとも遭遇してないし、今のところ修行以外では死にそうになってはいません、修行以外ではね。

 

まあ、その拷問めいた修行のおかげでこの3年でかなり強くなれたと思う。基本的な身体能力が向上したし、新しい技も幾つか形になったしね。そしてなんと今現在までサクラとカリンに一度も負けていないんですよ!あの才能の塊のような二人にですよ!修行内容が変わって組手をする機会はかなり減ったけど、これは快挙ですよ!その事実だけでどれだけ俺が修行を頑張ったのかある程度わかってもらえると思う。

本当に修行が鬼畜だったんだよ!絶対に小学生用のメニューじゃないよあれ!だって、内容を聞いたダンが「うわぁ...」ってガチで引いてたからね。あの忌まわしい地蔵シリーズも重くなるだけではなくてバリエーションまで出てきやがったからね。なんだよ、『岬越寺式全身ギチギチ型地蔵くん~春の新色カラー~』って。もはや地蔵じゃなくて新手のアイアンメイデンだったぞ。

 

 そんな修羅の国もかくやという修行の日々を乗り越えて、今日は4月1日。現在は始業式が終わってそれぞれ新しい教室を確認して移動したところである。

 

 「オーホッホッホ!!お待ちしていましたわ!サクラさんにアルさん!今年も『また』ご一緒ですわね!!」

 

 教室に入ると同時に高笑いが聞こえてくる。声の方に視線を向ければ何故かドヤ顔をしているカリンが目に入る。お待ちしていましたって、始業式が終わると同時に1人だけ先生の号令を待たずに教室に向かったからだろうに。相変わらずフリーダムである。

 

 「あ!カリンちゃん!また一緒のクラスだね!アルとケイも一緒だし凄い偶然だよね!!ラッキー!」

 

 いいえ、偶然ではありませんよサクラさん。ウチの学校は毎回ある程度生徒がバラけるようにクラス替えがあるんだよ。まあ、4人くらいなら同じこともあるかもしれないがカリンの自慢気な顔見てみ?絶対に同じクラスになるように圧力かけてるから。

 

 「ていうか、神月さんまた勝手に式の途中で抜けだして!あの後の校長の話、めちゃくちゃ長くて退屈だったんだよ?」

 

 「ふっ!タイム・イズ・マネー(時は金なり)といいますでしょう?時間は有効に活用してこそですわ!」

 

 ケイがカリンに話しかける。サクラの友人であるケイと、自称サクラの宿命のライバルであるカリンはサクラを接点として自然とある程度話すようになったのだ。それにしても時間を有効に使った結果が教室の中に鎮座している貴女の席なんですかね。今回は和風テイストの、豪華絢爛で昔の帝とかが座ってそうな感じの席だ。毎年毎年デザインが違うんだよね、しかも季節や行事によって形が変わったりするし。タイム・イズ・マネーとか言っているけど絶対にお金の使い方が間違っていると思う。

 

 「今年も一年間よろしくね、カリンさん」

 

 「ええ、よろしくお願いしますわアルさん。なんといっても私(わたくし)達は『ト・モ・ダ・チ』なのですから!!」

 

 この三年間、カリンの認識を変えるべく地道に努力を重ねた結果、遂に「まあ、友人ということも吝かではないと言えないこともなくはなくってよ」的な発言を引き出すことに成功したのだ。その一言をすかさずサクラにわかりやすく伝えた結果、「本当!?じゃあこれからはライバル兼友達だね!!やったぁーーー!!」という感じでサクラがキラキラとした瞳で詰め寄ることで陥落したのだ。ケイはまだ一応友人扱いでは無いが、最近の会話の感じからそう遠くないうちに友達になると思われる。

 

 そこからは何か吹っ切れてしまったらしく、事あるごとに友達を強調してくるようになった。やはりサクラ(とついでに俺)が初めて出来た友人であったらしく、抑圧されていた今までの反動からか今回のクラス替え(サクラと同じクラスになれるように干渉)のようにかなり露骨な行動に出るようになった。所謂デレ期である。しかも無駄に高い行動力とそれを可能にするだけの財力があるからね。場合によっては非常に面倒な事になったりする。しかも基本的に善意や好意からくる行動なのでたちが悪い。

 

 「うん!カリンちゃんは友達だよ!!えへへ~~」

 

 「......!!そ、そうですわね!オ、オーホッホッホ!!」

 

 サクラは余程カリンと友達になれたのがよほど嬉しかったらしく、こういった発言があるたびに花が咲いたような笑みが浮かぶ。それに呼び方も昔は神月さんだったのが友達になった瞬間にカリンちゃんになったしね。ちなみにカリンの方はまだストレートに友達と言われるのに慣れていないらしい。高笑いで誤魔化そうとしているが、耳まで真っ赤にしていては照れているのがバレバレである。そんなカリンを微笑ましい気持ちで眺めていると、先生が教室に入ってきた。ちなみに担任の先生も二年の頃から変わっていない。

 

 「......はい、皆さん席についてください。今日は授業はありませんので簡単なホームルームだけです。新しいお友達ができたり、いつもより早く帰れるからといって浮かれて寄り道などしてはいけませんよ」

 

 「「「はーーい!」」」

 

 先生も流石にある程度なれたらしくカリンの席を見てもある程度は大丈夫になった。少しだけフリーズしてはいたが、復活までの時間は毎回短くなってきている。けど今でも俺にサクラやカリンは任せっきりなんですがね!そのせいで『問題が起こったらとりあえず日向』みたいな空気が出来てんだけどどうしてくれるんですか。小学生の問題なんでそこまで酷いのはあんまりなかったんだけど、数がね。ちょっと擦りむいたとか飼育小屋のエサがないだとかいちいち俺に言いにくるけど、保健係も飼育係も俺じゃなくて別の奴だったからね?この学年では同じことにならないように気を付けよう。

 

 ホームルームは簡単な自己紹介と明日からの授業の説明だけで三十分程度で終了した。まあ初日の学校なんてこんな感じだろう。こういった事が短いせいで校長先生の話が長すぎると感じてしまうんじゃないか、等とくだらないことを考えているとカリンが話しかけてきた。

 

 「アルさんとサクラさん、ちょっとよろしくて?」

 

 「ん?なになにカリンちゃん!」

 

 「どうかしましたか?」

 

 どうやら俺とサクラに用があるようだ。基本的にカリンは授業が終わると挨拶だけしてすぐに帰ってしまうことが多い。今回のように話しかけてくることはかなり珍しいのだ。なんでも、武術等の習い事が分刻みでスケジュールに入っているらしく『対サクラさん&アルさん用トレーニング』の時間を少しでも多く確保するためなんだとか。

 

 「これをお二人に渡しておこうと思いまして」

 

 そう言ってカリンはバッグから何やら封筒を取り出した。ちなみに他の生徒はランドセルだが、カリンだけバッグ(高級ブランド品)で登校している。学校から公認で許可がでているあたり、流石は神月財閥のお嬢様である。

 

 「えーと、『招待状』?」

 

 「はい。もうすぐサクラさんの誕生日ですわよね?ですので今年は私の屋敷でささやかながらパーティーを開催させていただきますわ!勿論サクラさんやアルさんのご両親には既に許可をいただいてますわ!!」

 

 サクラの誕生日は4月9日だ。今まではサクラの家でケイ等の数名の友人で誕生会をしていたのだが、カリンはその日がサクラの誕生日だと知らなかった為に予定が入っていて参加できなかったのである。後日、そのことを知ったカリンは物凄い形相で『来年こそは私も参加いたしますわ!!絶対に!!』と叫んでたっけ。それで今年は絶対に参加するために自分の家で誕生会を開くらしい。既に親への根回しが完了しているあたりにかなりの執念を感じる。よっぽど参加できなかったのが悔しかったらしい。ちなみになぜか毎回ダンはちゃっかり出席していたりする。

 

 「えっ!!カリンちゃんが誕生会開いてくれるの!?やったぁーーー!!とっても嬉しいよ!!行く行く!絶対行く!!」

 

 「そういうことなら俺も喜んで参加させてもらうよ」

 

 断る理由なんて無いしね。それにカリンは『ささやかながら』なんて言っているが絶対にそんなことはない。神月のお屋敷には何度かお呼ばれしたことがあるが半端無く大きいんだよね。そんなところで開く『パーティー』が豪華でないはずがない。これは参加せざるをえないだろう。

 

 「ちょっと神月さん!私に招待状は!?」

 

 「あら千歳さん、居たんですの?」

 

 「ずっといたでしょ!?ていうか1回会話成立したじゃない!!」

 

 ここで今まで近くに居たのに無視され続けてきたケイがカリンに詰め寄った。カリンが転校してきた時はそのキャラの濃さと家柄に圧倒されていたが、今ではかなり遠慮のない話し方で接している。俺はいまいち敬語が抜けないんだよな~。まあ、昔(前世)から同い年の人とか年下の人でも敬語で話す方だったしね。

 

 「......仕方ありませんわねぇ。サクラさんのつ・い・でにアナタもよんで差し上げますわ!」

 

 「ふんっ!サクラの誕生日会なのに『親友』の私が行かないなんておかしいからね!『友達』の神月さん!」

 

 一見すると険悪な雰囲気の会話だが、大体いつもこんな感じである。そもそもカリンは最初からケイにも渡すつもりだったみたいだいね。だってちゃんと招待状に千歳さんへってしっかり書いてあるし。ケイの方も言葉はキツイが若干表情がにやけてるし。喧嘩するほど仲がいいと言うやつかな。微笑ましいねぇ。

 

 「ぐぬぬっ。......まあいいでしょう。サクラさんとアルさんに招待状を渡すという目的は達成しましたし、私はこれで失礼致しますわ!それではサクラさんとアルさん、ついでに他の皆さんもご機嫌よう。オーホッホッホ!!」

 

 「じゃーねーー!!カリンちゃん!また明日ーーー!!」

 

 「また明日ね、カリンさん」

 

 高笑いを残して帰宅していくカリン。お、今日はヘリじゃなくて車なんだな。真っ赤なオープンカーとか実物初めて見たよ。

 

 「ねえサクラ、この後どうする?暇だったら私と遊びに行かない?この前いい感じのお店見つけたんだ。あ!アルくんも一緒にどう?」

 

 「うーん、俺は遠慮しとくよ。この後ちょっとやることがあるし。サクラは今日は暇だっただろ?」

 

 「うん!ねえケイちゃんお店って何のお店?美味しいもの売ってる!?早く行こうよ!じゃあまた後でね、アル!」

 

 「え!?ちょ、ちょっと落ち着きなさいよサクラ!?手を引っ張らないで!?それにお店は食べ物屋さんじゃなぃきゃああああーーー!!」

 

 ケイがサクラに引きずられて連れて行かれた。その速度は心なしかケイが少し浮いているように見えた程だ。あれってかなり痛いんだよな~。ケイは犠牲になったのだ、俺の平穏のためのな!

 

 「さて、俺も行くとしますかね。『サイキョー流道場』に」 

 

 

 

 

 

 

  

 

 数十分後、俺はサイキョー流道場内の清掃をしています。なんでかって?それはこの道場の主が不在だからだ。ダンは半年ほど前から日本を離れており、今はここには居ないのだ。ちなみに一ヶ月ほど前までは台湾にいたらしい。あまり懐に余裕がないらしく、全然連絡してこないないから今どこにいるかはわからないけど。というか、その一ヶ月前の手紙しかなかった。

 

 そもそも何故ダンが旅に出ているのかというと、通い始めて1年もしない内にダンが俺達に教えられることが殆どなくなってしまったからなのだ。サクラなんて半年くらいでダンが剛拳から習った技とサイキョー流を習得してしまっていたしね。最初は全く撃てなかった波動拳も、一ヶ月したくらいに発生したある出来事がきっかけで撃てるようになってたし。本当に才能って理不尽だと思う。

 

 まあ、元々サイキョー流は実践的な技が少なかったというのも理由の一つなんだが。技の八割強が挑発ってどういうことだよ。俺ですら一年位でサイキョー流の技をほぼ全て覚えられた程だ。そんな感じでサイキョー流の技を習得してからの一年半は、ずっとサクラと一緒に技の改良とかをやっていた。いや、もちろんダンもアドバイスとかしてくれてたよ?

 

 回想の中のダン『そうだ!もっとこう、腰に捻りを加えて!さん!はい!ちょー余裕っす!!』

 

 回想の中のダン『そこでジャンプしてからのひゃっほー―!着地と同時にローリング挑発だーー!!』

 

 ......あれ?おかしいな。ためになるアドバイスの記憶が無いぞ?これじゃあダンが月謝ドロボウみたいじゃないか!待つんだ!よーく思い出せば......

 

 回想の中のダン『ダウンを奪ったらすかさず挑発だ!!ギャラリーを沸かせてこそ一流の格闘家なんだぜぇ!!え?時と場合による?......確かに』

 

 回想の中のダン『なあ、アル。ちょっとだけ月謝の前払いとか出来ねえ?今月ちょっと厳しくってよぉ。え!?また夕食によんでくれんのか!?ゴチになりやす!!』(この後ダンは無茶苦茶修行させられました)

 

 回想の中のダン『お!今のはいい感じだったぜ!後はもう少し掌に気を集める時に片腕だけに集中するように意識してみな』

 

 あった!なんか余計な記憶も出てきたけどダンはやっぱりちゃんとアドバイスもしてくれてたよ!まあ、そんな感じだったけど俺とサクラが通っていた期間中の月謝と、出発前に続けて優勝した大会の賞金で少しばかりダンの懐に余裕が出来たのだ。俺達に教えられることがなくなってきているのも相まって、『サイキョー流を世界に広めるための活動』とやらをするために海外へと飛び立っていった。

 

 で、その間は自由に道場を使っていいと鍵を預かっているのだ。交換条件は汚くなり過ぎないように掃除することだけだった。正直練習場は自宅の道場で間に合っているのだが、サクラやウル父さん達に秘密にしたい修行をする際に都合がいいので結構利用しているのだ。そんな訳で現在掃除中なわけですよ。今は中の清掃が大体終わった所なので次は外の清掃だな。道場の周りの雑草がすぐ伸びるんだよな。実際今日も来るときに確認したが、結構な範囲で俺の背丈よりかなり高い草とかも生えてて藪で前が見えない程だ。

 

 「ふう。それにしても背が高い植物多すぎるだろ。本気で前が見えないし」

 

 とりあえず道場の周りの草だけでも刈っていくとしますかね。そう思って俺が作業に取り掛かろうとした時だった。

 

 ガサガサッ

 

 何かが草をかき分けて進んでくる音がした。何かだんだんと近づいてくるな。でもコッチにあるのは道場だけだし......まさか入門希望者?いや、それはないな。今までダンが色々と宣伝や勧誘をしていたけど、結局一人も来なかったしね。そんなことを考えている内にすぐ近くまで音が近づいて来た。もうすぐ目の前の藪から出てきそうだな。音の感じだと人っぽいけど、犬とかだったら個人的に凄く嬉しいんだけどなぁ。さて、何が出るやら。

 

 ガサガサッバサッ

 

 「......」

 

 「......」

 

 藪から出てきた人物と目が合った。なんというか、凄く大きいです。身長はおそらく二メートルは超えているだろう。しかも剃りあげているのか頭髪は無くスキンヘッドである。服装はローブの様なものを着ているのでよくわからないが、足は裸足でバンテージのようなものを巻いているだけだ。とにかく途轍もない威圧感を覚える風貌をしている。そんな男の『片目』が先程から俺を見据えている。え?もう片方の目はどうしたって?眼帯してるからわかりませんね。

 

 ......て、てててっててて帝王だぁーーーー!!?野生の帝王が出たぁーー!!?藪をつついて蛇が出るどころか帝王が出てきやがった!!なんでこんなところに『サガット』がいるんだよ!?

 

 「......おい、小娘」

 

 「は、はい。何でしょうか?」

 

 俺は男だから小僧だけど、とてもそんなこと言い出せる雰囲気じゃない。というか、今の時期のサガットはアカン。今だって話しかけると同時にいきなり殺気混じりのプレッシャーをぶつけてきたしね。ちくしょう、ナッシュさんとの遭遇以来この三年間原作キャラとは出会ってなかったから油断してた。しかも、遭遇した原作キャラがサガットである。今の心境を例えるなら、某ゲーム開始直後のマ◯ラタウンの草むらでいきなりレベル100のサワムラーが飛び出してきたような感じだ。うん、逃げるコマンドが成功しないと即死ですね。

 

 『サガット』はストリートファイターシリーズに登場するキャラクターの1人だ。というか、初代ストリートファイターのラスボスである。それ以降の作品でも主人公リュウの宿敵(ライバル)として登場している。隻眼のムエタイ使いであり、若干15歳にして当時のムエタイ界の帝王を倒し、それ以降帝王として君臨し続けている現在この世界で最強の呼び声が最も高い男である。スト2やZEROシリーズではシャドルー四天王(ベガ、サガット、バルログ、バイソン)の内の1人であり、立ち位置としてはヴィラン(悪役)寄りの人物だ。

ゲーム上の性能は、上下に打ち分けられる飛び道具のタイガーショット、無敵時間もある対空技のタイガーアッパーカット、速度が速くヒット硬直も優秀な突進技のタイガーニークラッシュを兼ね備えており、基本的にどのようなキャラが相手でも対応できる。長身のせいで当たり判定が大きく、地上での機動力がないので基本的にはタイガーショットで牽制して飛び込んできた相手を迎撃する戦法を得意とする(特にCPUが)。作品によって異なるが、設定を反映してか強キャラであることが多い。俺も初めてやったスーパーストリートファイター2で、ラスボスであるベガの前に登場するコイツに何度ゲームオーバーにされたことか。勝利時の高笑いが一時期トラウマになるレベルで負けまくったからね。反動で『あれ?ベガって思ったより弱くね?むしろサガットのほうが強くね?』と思ったほどである。もっとも、そんな考えはZERO3の時に見事に打ち砕かれたけどね。全画面サイコクラッシャー怖い。

打ち砕かれたけどね。全画面サイコクラッシャー怖い。

 

 性格は作品ごとにかなりの違いがあるが、()()()には悪人ではない。初代でリュウに敗北してからは作品が進むごとに雰囲気が変化していき、俺の知っている最新作のスト4ではまさに真の帝王と呼ぶに相応しい人格者になっていた。というか、子供に歩調を合わせたり、シャドルーときっぱり縁を切っていたりしていて普通に良い人である。

 

 だが、それはリュウに敗北した後の事だ。今、俺の目の前にいるサガットはまだリュウに負けていない。サガットが負けたとしたら全世界に速報が流れて新聞の一面を飾るくらいの騒ぎになる筈だが、今朝までにそんな騒ぎは微塵もなかった。ということは、性格が改善される前の最もヤンチャしてた時期ということになる。遭遇するタイミングとしては、リュウに負けた直後の次ぐらいに最悪だろう。まだシャドルーに所属していないだけマシだと考えるべきなのかもしれない。

 

 「ほう。このサガットの威圧を受けてまともに受け答えができるとはな。他の誰かを呼ばせるつもりだったが丁度いい。小娘、俺を『神月ドーム』まで案内しろ」

 

 「......は?」

 

 『神月ドーム』?案内?いきなり何を言い出すんだ、この男は。神月ドームは名前の通り神月財閥が所有する、格闘技の大会等が行われたりする大型施設である。確かに、格闘家であるサガットが用があってもおかしくはない。行ったことがあるので場所はわかるし、ここからもの凄く距離があるわけではないから案内はできるけども。......あれ?サガットもしかして――

 

 「迷子、だったり?(ボソッ)」

 

 「......何か言ったか小娘」

 

 「いいえ!何も言ってないです!案内させていただきますっ!!」

 

 怖えぇーーー!!今めっちゃ睨まれた!小学生に向けていい視線じゃなかったぞ今。しかもサガットって目が常に白目みたいに見えるから余計に怖いんですよ。よく見ると瞳の色が白っぽいだけみたいだけど。......というか、ホントに迷子なんかい!!しかもなんでよりによってサイキョー流道場の前に来てるんだよ!?ここ、アナタに復讐心持ってる男の道場なんですけど!?......本当にダンが旅に出ていてよかった。居たら絶対にヤバイことになっていた筈だ。主に、ダンの身体が。

 

 「......ふん。ならばさっさと案内するがいい」

 

 「ええっと、それなりに距離がありますけど時間とかは大丈夫ですか?多分、三十分以上はかかると思いますけど」

 

 「3時までに着けばいい。歩きで構わん」

 

 「そ、そうですか。あ、少し待っていて貰えますか?ちょっと荷物をとってきますので」

 

 「よかろう」

 

 うなずいたりする動作がいちいち偉そうというか、威圧的というか。帝王は帝王でも南斗の方の帝王みたいである。せめてイチゴ味の方でお願いします。時間は今が12時半くらいだから、かなり余裕はあるな。それなら徒歩での移動でも問題無いだろう。この辺りはあんまりタクシーが通らないんだよね。とにかく道場から荷物を回収してさっさと案内してしまおう。

 

 「お待たせしました。こっちです」

 

 「......」

 

 せめて返事くらいしてくれ。まあ、俺が歩き出すとついて来てくれるみたいだから大丈夫そうだけどさ。

 

 「......」

 

 「......」

 

 き、気まずい。強面の大男に無言でついてこられるとか何この罰ゲーム。すれ違う人からの視線も痛いです。今日は平日で人通りがかなり少なかったのは不幸中の幸いだった。サガットは俺に歩調を合わせる気はないらしくその大きな身体で普通に歩くので、先導しなければいけない俺は競歩みたいな感じで歩かなければいけなくて更に変に見えていただろうし。この空気をなんとかするためには何か話しかけたほうがいいのだろうか?......ええい!南無三!

 

 「.....か、神月ドームに何か用があるんですか?」

 

 「仕事だ」

 

 ......え!?それだけ!?サガットは一言だけ呟くとそれで黙ってしまった。な、何とか話を広げなくては。ここで会話が終わってしまう。頑張れ!頑張るんだ俺!今頑張らないとこの気まずい空気がずっと続くぞ!

 

 「そ、そうなんですか!ちなみにどんなお仕事なんですか?」

 

 「無駄口を叩く暇があったらさっさと進め。鬱陶しい」

 

 「ア、ハイ」

 

 強制的に会話が終了されました。どうやらこの状況を到着まで続けるしかないようだ。これ以上話しかけたら機嫌を損ねてしまいかねないしね。これはもう諦めるしかないようです。

 

 「......」

 

 「......」

 

 そのまま暫く無言のまま先へと進む。まだ神月ドームまでの道のりは半分も過ぎていない。この空気がまだまだ続くのかと憂鬱になったその時だった。

 

 グルルルゥーーー

 

 俺の背後から虎の唸り声のような音が響いた。無言であったせいで余計にはっきりと聞こえてしまう。えーと、今の音ってサガットから聞こえてきたんですが、もしかしてお腹の音だったりします?え?なにこの帝王、迷子の上に腹まで空かしているの?というか、俺はこの事態にどう対処すべきなんですかね?聞かなかったことにすべきか、それとなく食事ができる所を探すべきなのか。と、とりあえず探りを入れてみるか。

 

 「え、えーと。今目的地まで半分くらいなんですけど、少し休憩でもはさみますか?時間にはまだ余裕がありますし」

 

 「......」

 

 そんな俺の問いかけに帝王様は立ち止まって無言での仁王立ち。そして再び鳴り響くお腹の音。......これは食事に誘った方がいい流れなのか?何も言ってくれないから判断がしにくいんだよなぁ。ここは遠回しに誘ってみるか。

 

 「...あ!そういえば今ってお昼時でしたね!実は今まだお昼を食べてなかったからお腹が空いてしまって。少し食事をとってもいいですか?あ、良かったらご一緒にどうです?」

 

 「......好きにするがいい」

 

 よっし!『あくまでもアナタではなくて俺が行きたいだけなんです』作戦は上手くいったみたいだ。やっぱりお腹すいてたんですね。さて、そうなるとどこか食事の出来そうな所は......あのファミレスでいいか。見た感じ、近くに他に飲食店がないし。まさかサガットにコンビニ弁当というわけにもいかないだろう。ファミレスにムエタイの帝王というのもシュールではあるが。

 

 「ではあの店にしましょう。幸いそれほど他のお客さんはいないみたいですし、あまり時間がかかることもないでしょうから」

 

 「ふん。好きにするがいいと言っただろう。さっさと行くぞ」

 

 そう言うとズンズンと先にファミレスへと歩き出す帝王。心なしかその歩調は速くなっている。そんなにお腹が空いているのか。その姿はさながら『迷える飢えた隻眼の猛虎』とでも言えばいいのかな。簡単に表現すると『迷子の腹を空かせたいい歳した大人』なんだけどね。

 

 「いらっしゃいまひぃっ!?」

 

 あ、やっべ。店員さんがサガットにビビっている。そりゃあ驚くよね。お客さんが来たと思ったら二メートル超のスキンヘッドの眼帯した人だからね。語尾が悲鳴のようになってしまっても仕方がない。だが、このままそんな態度を続けているとサガットがどう動くかわからない。つまり、俺がフォローしないと店員さんの命が危ない。......というか、なんで俺がここまで苦労しなきゃならないんだ。今日はきっと乙女座の運勢は最悪に違いない。

 

 「すいません!2名でお願いしたいんですけど大丈夫ですか!!あ!禁煙席で!」

 

 「ひゃい!だ、だだだ大丈夫でしゅ!こ、コチラの席へどうぞ!!」

 

 対応していたショートカットの若い女性店員さんは、俺の存在を認識して何とか持ち直した。目の前の大男ではなく俺に対応すればいいということに気がついたのだろう。俺の方に向いたその顔は何かを必死で堪えるようなものからに安堵の表情に変わった。......まだ高校生くらいだろうに。トラウマにならなければいいが。

 

 「ご注文が決まりましたらそちらのボタンを押してください。それでは失礼します。ご、ごゆっくりどうぞ!」

 

 「はい。ありがとうございます」

 

 店員さんは説明を終えるとかなりの速さで裏へと引っ込んでいった。その裏からは『よく我慢したね』とか『頑張ったね!』という他の店員の声が聞こえてくる。本当にお疲れ様です。ちなみにその時帝王はそんな店員さんの存在を気にもとめずにメニューを見ていた。今はステーキ等の肉のページを見ているが、サガットってタイの人だけど肉って大丈夫なのかな?宗教的に牛肉とかダメな人が多いはずだけど。まあいいか。俺もさっさと何を注文するか決めないと。サガットを待たせてしまうことになるしね。

 

 「......」

 

 サガットがメニューを閉じて顔を上げた。どうやら決まったみたいだ。相変わらず無言だったけどね。

 

 「あ、決まりました?なら店員さんを呼びますね」

 

 何も言わないので肯定ということだろう。せめて『はい』か『いいえ』くらいは声に出して言って欲しい。まあ、今更か。ポチっとな。なんか、裏から『お前が行けよ』とか『酷いです佐藤さん!山田には無理ですぅ!!』とか聞こえてくるが気にしないほうがいいのだろう。

 

 「ご注文をお伺いいたします」

 

 注文を取りに来たのはメガネを掛けた男性店員だった。どうやら男性というだけで貧乏くじをひかされたらしい。可哀想に。言葉とかは普通だけど表情が少し引きつっているし。

 

 「この週替りオススメパスタセットで。サガットさんは?」 

 

 「......これの肉を抜いたものをよこすがいい」

 

 そう言って指差したのは何とオムライス。意外である。

 

 「はい、肉抜きのオムライスですね、大丈夫ですよ。お飲み物はどうなさいますか?セット料金でご提供出来ますが」

 

 「要らん。水でいい」

 

 「かしこまりました」

 

 ......この男性店員意外と度胸があるな。結構普通にサガットに対応していやがる。

 

 「お嬢ちゃんのセットのドリンクは何にする?この中から選んでね」

 

 ただ、俺に対する視線がなんというか、妙に優しげというか甘ったるいのだ。俺を女の子だと思っているにしてもちょっと行き過ぎな気がする。もしやロリコンなのか?このロリコンどもめ!!

 

 「アイスコーヒーで」

 

 「......オレンジジュースとかメロンソーダとかあるけど、コーヒーでいいの?」

 

 「はい。あ、砂糖とミルクは要らないんで。ブラックでお願いします」

 

 俺がコーヒーを頼むと『背伸びして大人っぽく振る舞う子供』を見ているような表情になりやがった。こんな見た目でも俺はコーヒー派なんだよ!あとブラックなのは別に格好つけてるわけでもなく前世の名残だから!そんな目で見るんじゃぁない!

 

 「かしこまりました......」

 

 「......なにか?」

 

 「いや、ちっちゃくて可愛いなって思って」

 

 「ちっちゃくないよ!!」

 

 この店員は何をいきなり言い出してんだ!?さっき度胸があると思って上がった株が大暴落だよ!?そんな度胸は要らねぇんだよ!!つーかちっさい言うなや!これでもこの歳の平均身長くらいはあるからな!

 

 ちなみに今更だが俺の容姿は背が伸びたくらいで、ここ3年それほど変化していない。相変わらず踏み台転生者っぽい男の娘のままですよ。あれだけ修行したのに全然身体に筋肉がついてくれないのだ。筋力や耐久力はしっかりと上がっているのに!!おのれ白澤!!

 

 「ああ、すみません。ご注文は以上でしょうか?」

 

 「あ、サガットさん通常サイズで大丈夫ですか?」

 

 あれだけ盛大にお腹の音が鳴っていたんだ。通常サイズでは足りないかもしれない。

 

 「......増やせるなら、増やせ」

 

 「かしこまりました。それでは肉抜きオムライスの大盛りと週替りオススメパスタセットですね。ごゆっくりどうぞ」

 

 注文の確認を終えると変た...男性店員は裏へとさがっていった。今度はなにやら俺について小さいといったことを叱られているようだ。いいぞもっと言ってやれ!!それから五分ほど無言のまま待っていると料理が運ばれてきた。ファミレスの料理にしては本格的で美味しそうである。この店は当たりだったのかもしれないな。ただ、料理を運んできた女性の店員さんのが帯刀していたように見えたんだけど......気のせい、だよね?

 

 ちなみにサガットは料理がくるとそれを黙々と食べ始めた。相変わらず店員のことなどどうでもいいようだ。そのマイペースさが今は羨ましいです。俺も帯刀のことは忘れて食べることに集中するとしよう。

 

 

 

 「ごちそうさまでした」

 

 俺が食べ終わるのとほぼ同時にサガットも食べ終えていた。 俺は食後のアイスコーヒーを飲んで一息ついたところだ。本当はホットコーヒーの方が好きなんだけど、猫舌気味のせいですぐに飲めないからサガットを待たせる可能性を減らすためにアイスにしたのだ。サガットはもういつでも席を立てる状態なのでこの選択は間違っていなかったといえるだろう。

 

 「じゃあそろそろ行きましょうか」

 

 「......」

 

 無言で席を立つサガット。そのままレジまで歩き出した。あ、そういえば支払いどうしよう。やっぱり割り勘かな?でも相手はムエタイの帝王だしそれなりにお金は持ってるはずだし奢ってくれるかもしれない。

 

 「オムライスの大盛りとパスタセットで1800円だな。ほら、さっさと払え」

 

 レジの女の人凄ぇ!あの見た目のサガットに全く怯むこと無く命令口調で会計を迫ってるぞ!?なにもんだあの人!?というかその態度は店員としてどうなんですか?他の人と違う制服で社員の人っぽいのに。

 

 「......」

 

 「なに黙ってんだよ。......まさか食い逃げするつもりじゃないだろうな?」

 

 何も言わずに仁王立ちするサガットにメンチを切るレジの女性。というか、なんでサガットは何も言わないんだ?このままでは食い逃げ犯にされてしまうぞ。

 

 「あの大きい人、どうやら財布を付き人的な人に預けていたみたいだねー。だから多分今お金持ってないんじゃないかなぁ。君が行かないと食い逃げはともかく無銭飲食になってしまうね」

 

 「あ、そうなんですか。教えてくれてありがとうございます。......えっと、どちら様で?というか、なんでそんなこと知ってるんですか?」

 

 気が付くと後ろに立っていた穏やかな笑みを浮かべている『ような』表情の青年が事情を教えてくれた。コックコートを着ているのでこの店の調理スタッフだろうか。......これでも俺はそれなりに気配には敏感な方なんだが、後ろに立たれているのにほとんど気配を感じなかったぞ。情報はありがたいが、そもそもなんで偶然ここを訪れたサガットの情報を知ってるんだ?あとこれは個人的な偏見だが、常に上辺だけの笑顔を浮かべてフレンドリーに近づいてくる人物には気をつけたほうがいい。こういうタイプの人間が実は腹黒かったり、いつの間にか人の弱みを握っていたり、実はラスボスだったりするのだ。この青年からは肉体的な強さは感じられないが、さっきから俺の中の何かが警鐘を鳴らしている。

 

 「僕はただの調理スタッフだよ。それよりいいのかい?そろそろ危ないと思うんだけどなー」

 

 そう言われてレジの方に視線を戻すと、女性の方がかなりピリピリとした雰囲気を漂わせていた。確かにこれ以上はヤバイことになりそうなので突入した方が良さそうだ。

 

 「......そうみたいですね。情報ありがとうございました。それでは失礼します」

 

 「うん、いってらっしゃい。あ、ちなみにあの女性を宥めるヒントは『若さ』か『食べ物』だよ。頑張ってね~、日向くん」

 

 レジへと向かう俺に後ろから青年が応援の言葉を掛ける。......アドバイスは嬉しいんですが、なんで俺の苗字知ってるんだよ。普通に怖いんですけど。

 

 「......いい加減にしろよ。せめて何か言ったらど「ごめんなさい!!」......ん?なんだお前?」

 

 「えっと、私が財布を持ったままだったの。待たせちゃってごめんなさい、若くて綺麗なおねえちゃん!」 

 

 できるだけ穏便に済ませるためにわざと『いたいけな女子小学生』風に介入する。本当は女の子っぽいしゃべり方をするのは心底嫌なのだが背に腹は代えられないからね。媚を売るために『若くて』と『綺麗な』を付け足してみたけど、どうだろうか。少しわざとらしかったか?でも、綺麗なってのは別に今日がエイプリルフールだからといって嘘ではない。表情こそ険しかったが、レジの女性は抜群のプロポーションを誇る美人である。若くての方?......ノーコメントで。

 

 「......きれいなおねえちゃん。...若くて、おねえちゃん。......ふふっ」

 

 効いている!滅茶苦茶効いてる!余程嬉しかったのか、若干トリップしてしまっている。......えーと、会計をお願いしたいんだけどな。

 

 「あ!私が会計をやるよ!!お嬢ちゃん、1800円だけど、わかるかな?」

 

 少し自分の世界に入ってしまった女性に代わってレジに立った店員が俺に声をかけてくる。俺とほとんど同じ目線で。いや、むしろ少し俺を見上げている。

 

 「......小さい?」

 

 「ちっちゃくないよっ!!......うわ~ん!!小学生にまで小さいって言われた~!!」

 

 いや、だって小学五年生の俺より身長が低いって相当だぞ。バイトしてるってことは多分高校生なんだろうけど、140ないんじゃなかろうか。

 

 「ああ、小学生にまで言われて泣いている先輩も可愛い......」

 

 「かたなし君!?うう、味方が居ないよぅ......。あ!伊波ちゃん!かたなし君が酷いんだよ!」

 

 近くにいたさっきのメガネの男性店員が何やら恍惚の表情でこちらを見ている。......やはり変態だったのか。あ、最初に対応してくれたショートカットの女性店員に殴り飛ばされた。うむ、腰の入ったいいパンチだ。きっといいファイターになれるぞ。

 

 「......ああ、またやっちゃった。って種島さんどうしたんですか?涙目で」

 

 「また小さいって言われちゃった......。しかも、小学生に」

 

 「あ、さっきの可愛い子だ。......でも、種島さんは小さくないですよ。......アタシのなんて壁みたいで...あはは......」

 

 「い、伊波ちゃん?」

 

 ショートカットの女性店員は自分の胸部に手を当てて何やら打ちひしがれている。今までレジの台で見えなかったが、小さな女性店員はその身体に不釣り合いな立派な山脈を有している。対してショートカットの女性店員の方は見事に平原である。恐らくだが、今のサクラより小さいんじゃ......。いや、これ以上考えるのはよそう。死体蹴りはマナー違反だ。

 

 「あのー、誰かお会計を......」

 

 そろそろ後ろで仁王立ちしている人からのプレッシャーがヤバイんで。元々はその仁王立ちしている人が財布を忘れたのが原因なんだけどね。......誰でもいいから会計してくれないかな。

 

 「あ!ごめんね!えーと、2000円からだね。じゃあ200円のお釣りだよ!」

 

 小さい女性店員が持ち直したらしく会計を終えることが出来た。サガットは会計が済んだのを確認するとさっさと外に出てしまった。俺も追いかけるとしますかね。

 

 「......はっ。ん?帰るのか。おいお前ら、挨拶しろよ」

 

 「「「ありがとうございましたーー!」」」

 

 ようやくこっちに戻ってきた社員らしき女性の一声で、入り口に居た3人が俺に向かって挨拶をする。いつの間にかメガネの男性店員も復活していた。なんか変な感じの人ばかりのファミレスだったけど、なんだかんだでいい感じの店ではあったな。料理も美味かったし。機会があればまた利用してみようかな。

 

 「うん!ごちそうさまでした!お料理美味しかったです!ばいばいっ!」

 

 とりあえず幼い感じで別れを告げて店を後にする。ふう、なんだか疲れたな。おかしいなぁ、ただ食事をとっただけだというのに。店を出るとすぐにサガットが立っていた。あ、そういえば迷子だから道がわからないんだっけ。

 

 「......金は着いたら払ってやる。行くぞ」

 

 あ、気にしてはいたんですね。今が1時を少し回ったところである。これなら2時までには無事につけそうだな。

 

 それから暫くまた無言のままの気まずい状態のまま進むこと約20分。遂に神月ドームが見える場所まで来ることが出来た。やっとこの苦行から開放される、そう思った時にそれはやって来た。

 

 「――――ット様ぁーーーー!!どこにおられるのですかァーーー!!サガット様ァーーー!!」

 

 神月ドームの方からサガットを探す声が近づいてくる。こ、この独特な高音の裏返り方をした騒々しい伊◯岡ボイスは!?ま、まさか!?

 

 「おぉおおォーーー!!そんなところにおられたのですかサガット様ァ!!あなたの姿が見えなくなったのでずっと探していたのですよ!!」

 

 「......アドンか」

 

 サガットの姿を見つけた男がこちらへと猛スピードで近づいてくる。その男の名前をサガットが呟く。『アドン』と。

 

 『アドン』、彼もストリートファイターに登場する原作キャラである。異様な角度で逆立った赤い髪型と、しゃくれた顎と剥き出しの歯が特徴的なムエタイ使いである。登場は初代ストリートファイターからで、プレイアブルキャラクターになったのはZEROシリーズからだ。初代ではサガットの一番弟子として登場し、リュウの前に立ちふさがる。それ以降のシリーズでは敗北したサガットに失望して『ムエタイを汚した』と深く憎悪を抱いており、ムエタイの強さを再びしらしめるために活動していた。性格は恐ろしいほどの自信家であり、自ら『ムエタイの神』を名乗っていた。他者を見下したような言動をみせる事が多く、対戦相手に呆れられる事もあるほどだ。ただ、意外と的確なこと言ってたり、スト4では少しだけサガットにツンデレめいた発言をしてたりもする。

 

 ゲーム内での性能は同じムエタイ使いのサガットとは真逆である。飛び道具は持たないが、全体的に動きが早く、リーチのある蹴り技や無敵時間のある対空技と、飛び道具を躱しながら攻撃できる突進技を持ち、相手を翻弄するような立ち回りでの牽制能力の高さが持ち味。あと、何故か初代ストリートファイターでは波動拳の削りダメージ(ガード時に受けるダメージ)がなかったりする。他の作品では普通に削られるが。また、その自信過剰な態度から滲み出る小物臭、スト4でのサガットのオープニングでの噛ませ犬的な演出、髪型などからネタキャラ扱いされることもある。

 

 ......考えてみると意外とダンと共通点が多いな。サガット恨んでて自信過剰でネタキャラ扱いとか。まあ、とにかく印象としては、サガットが大嫌いな自信過剰男......だったんだけど。

 

 「お怪我などはございませんか!?あなたの力は承知していますがここは異国の地っ!!なにか不測の事態が起きないとは限りません!!」

 

 なんというか、実際に見ると想像よりも遥かにサガット大好き感がにじみ出てている。というか、俺は基本的にZEROシリーズ以降のアドンしか実際には知らないので違和感が半端ない。だってゲーム中ではサガットに『お前に引導を渡してやるゥ!!』とか言ってるのに『お怪我はありませんか!?』ですよ?

 

 「......アドンよ」

 

 「何でしょうか!」

 

 「金を出せ」

 

 「ファッ!?」

 

 サガットがアドンをカツアゲしている件について。自分を心配して探してくれていた弟子に対する第一声が『金を出せ』は酷いと思うんですが。

 

 「......ハッ!?お預かりしていた財布のことですね!!こちらです!」

 

 「うむ」

 

 ああ、そういうことか。そういえばあの怪しい青年が付き人的な人に預けたままって言ってたけど、あれってアドンのことだったのか。というか、言い方が紛らわしいです。

 

 「......ところで、そこのガキィ!!貴様はなんだ!!なぜサガット様と共にいるのだっ!!貴様ごときが軽々しくお側にいて良い方ではないのだぞ!!」

 

 アドンはサガットに財布を返すといきなりこちらに顔を向けて怒鳴りだした。今のアドンは原作のイメージに近いな。どうやらサガットだけに態度が違うみたいだ。それにしてももう少し声量を落として欲しい。本気でうるさい。

 

 「よい。この小娘にはここまで案内をさせたのだ」

 

 「......あなたがそう仰るのでしたら。このお方を案内できるとは運の良いガキだ。光栄に思うのだな!!」

 

 「は、はあ。ありがとうございます?」

 

 なんでお前がそんなに偉そうなんだよ。そもそも俺は無理矢理案内させられたんだけどな。しかもお金も建て替えたし、どちらかと言えば俺が感謝されるほうなんですけど。

 

 「そうだ!貴様のような愚図では一生並び立つことなどできん!!サガット様はムエタイの帝王であらせられるのだ!ムエタイは世界最強の格闘技だ!!そのムエタイでサガット様は最強ゥ!!つまりはサガット様は世界最強の帝王なのだァ!!」

 

 凄い大きな声で叫んで叫びだすアドン。うるさい。それにしても、もう尊敬とかいうレベルじゃないなこれ。もはや崇拝だよ、完全なサガット教の信者だよ。この姿を未来のアドンに見せてやりたいね。......いいことを思いついた。

 

 「そうなんですか!!サガット様って強いんですね!」

 

 「ああそうだとも!!この俺様が唯一勝てなかったのだからなァ!!」

 

 よし、乗ってきたな。それではスイッチオンと。

 

 「サガット様はアドンさんよりも強いんですね!!」

 

 「ああそうだとも!!サガット様は俺よりも強い唯一の帝王だァ!!」

 

 「サガット様は世界一ですか?」

 

 「その通りだ!!サガット様の強さは世界一ィイイーーーー!!!」

 

 このくらいいでいいかな。俺は『ボイスレコーダー』のスイッチを切った。相変わらず大きな声で叫んでくれたのでしっかりと録音できたはずだ。しかも『世界一ィ』まで聞けるなんて運がいいね。もし次に会うことがあったらこの音声を再生してあげよう。きっと喜んでくれるはずだ(ゲス顔)。え?なんでこんなもの(ボイスレコーダー)なんてもってるのかって?バスジャック事件の後からもしもの時のために常備してるんですよ。子供の証言は微妙に証拠になりにくかったりするからね。ほら、現にこうして役に立ったわけだし。

 

 「ありがとうございます。サガット様の強さはもう十分わかりました」

 

 「ふんっ!貴様のようなガキにサガット様の崇高さを理解できるとも思えんが、そこらのゴミどもよりは見どころがありそうだ。理解できるよう励むがいい。それから」

 

 「アドンよ、その辺りにしておけ」

 

 サガットが流石に嫌になったのかアドンを静止する。だってここ、普通に人も通る道だしね。さっきから凄い視線を(主にアドンが)集めてたからな。

 

 「む、そうですな。このガキにかまっているような時間はなかったのでした!サガット様、試合の時間が少し早まったそうなのです!まったく、あなたの予定を狂わせるとは使えない奴らだ!!俺は先に会場に戻ります!!あなたは歩いて来られて大丈夫ですのでェ!!それではァッ!!」  

 

 そうして騒ぐだけ騒いで神月ドームへと走り去ってしまった。なんというか、色々と濃い人だったな、うん。

 

 「おい、小娘。......さっきの金だ。釣りは要らん」

 

 「あ、はいどうも。......って一万円!?さ、流石にこんなに貰えませんよ!!」

 

 ダンの2ヶ月分の生活費位だぞ。小学生に気軽に渡して良い金額じゃない。

 

 「ふん。貴様には案内と先程の件で『借り』があるからな。借りは返さなければならない。受け取るがいい」

 

 「は、はあ。そういうことなら」

 

 どうやら『借り』はきっちりと返す主義であるらしい。確かにゲームでもリュウに『借り』を返そうとしてましたもんね。......本当に『そっち』の借りじゃなくてよかったぁ。というか、思ったよりもサガットがまともなようで助かった。まあ、あんまり喋ってくれないのには困ったけども。......もしかしたら、これならいけるかもしれない。『今』のサガットと接触できるチャンスはそうそうありはしないだろう。ここは賭けてみるかな。

 

 「サガットさん」

 

 「なんだ」

 

 「一つ、俺と賭けをしませんか?」

 

 「賭け、だと?」

 

 「はい。これから俺がある予言をしますので、それが当たったら俺の勝ち、外れたらサガットさんの勝ちというのはどうでしょう。勝った方の言う事を一つだけ聞くというものです」

 

 もちろん俺は予言など出来はしないが、この賭けの勝率は低くはない。これから俺が行うのはある意味イカサマなのだが、絶対に確実と言えるものでもないのでグレーゾーンだろう。そう、原作知識である。

 

 「......くだらんな。そのような戯れ言に付き合うつもりはない」

 

 「貴方は負ける。それも、日本人にね」

 

 「ほう、面白いことを言うではないか。......覚悟は出来ているのだろうな?貴様は今、虎の尾を踏んだのだぞ」

 

 うおぉ!?凄い殺気!?しかも悪の帝王っぽい凄みのある笑顔?を浮かべてこっち見てる!?くそっ!!誰だよ思ったよりまともだとか言ったやつ!?これアカンやつや!!ワンピ◯スの覇王色の覇気みたいなのを容赦なく小学生にぶつけてきてる!!......だが!生憎これくらいの気迫で怯む俺ではないのだよ!!慣れてるからな!!修行の時とかに甚八郎おじいちゃんとかカレンさんとか、ウル父さんとかが普通に殺気を出してくるからね!......なんだろう。考えてると凄く悲しくなってきた。俺ってまだ小学生だよね?なんで殺気浴び慣れてんの?

 

 「......それは賭けを受けたと思ってもいいんでしょうか」

 

 「......ふっふっふっ。アーッハッハッハァーーー!!いいぞ貴様!気に入った!!このサガットの気を受けた上でなおその眼に挑みかかるような光を宿すとは!!いいだろう!その賭けとやら、乗ってやる!!名を教えるがいい!!」

 

 よっしゃあぁーーー!!乗ってくれたぁーー!!あの殺気を浴び続けた日々は無駄じゃなかったんだね!おっと。サガットの気が変わる前に名乗っておかなければ。

 

 「俺の名は日向涼、英名ではアルトリウス・エリオット・ヒューガ―です」

 

 「ふっ!その名前、覚えておくとしよう。もしこの私が日本人に負けるようなことがあれば、貴様の望みを一つきこうではないか!だがそうだな、10年、10年以内に負けることがなければ貴様の負けだ。その時は覚悟をしておくといい。その腕の一つでも貰い受けるとしよう!戯れといえども帝王に挑んだことを今から悔やむのだな。私は誰にも負けはしない」

 

 ......大丈夫だよね?なんかこの人が負けるところが想像できないんですけど。えーと、これってリュウが勝たなかったら俺って片腕取られちゃうってことだよね?あれ?やばくない?原作の通りにならなかったら俺の腕がもがれる事になっちゃたんだけど。すっごい怖いけどいい笑顔でさらっと決められたんですけど。......リュウさぁんーーーー!!頑張ってーー!!どこにいるかもわからないけど超頑張ってーーー!!

 

 「それでは私はもう行くとしよう。案内ご苦労だったな小僧。10年後に会う時を楽しみにしているぞ」

 

 それだけ言うとサガットはこちらの言葉も待たずに神月ドームの方へと帰っていった。最後まであんまり俺の話を聞いてくれない人だったな。聞こえてないだろうけど挨拶しておくか。

 

 「......カラダニキヲツケテネー」

 

 主に、胸の傷的な意味で。

 

 さて、何故俺が危険を冒してまでサガットに賭けを持ちかけたのかといううと、今後の安全のためである。サガットは一時期シャドルーに一応は所属している事になっている。つまりはラスボスというか諸悪の根源たるベガの戦力になっているのだ。それを『お願い』でこちら側に引きこむことが出来れば敵の戦力が減ると同時にこちらの戦力が増えるのだ。もしこの先シャドルーに関わった時にサガットが近くにいてくれれば生存率が跳ね上がるって寸法よ。別にシャドルーと縁が切れた後であっても増える戦力があのサガットなら問題ない。クックック、どうよこの作戦、スゴくない?

 

 まあ、リュウが勝ってくれないとどうしようもないんですけどね。原作知識ってあんまり当てにならないんだよなぁ。既にカリンやダンがサクラと出会ってたり、バーディーが神月財閥に雇われてたりするし。リュウが勝ってくれるまで心労が続きそうです。どうしてこうなった。途中までは良かったはずなのに。

 

 ......ふう。サイキョー流で修行するつもりだったのになんだか凄く疲れたよ。今日はもう帰ってアナ(妹であり、大天使)に癒されながら過ごすとしよう。そうだそうしよう。一緒におやつでも食べてゆっくり休むんだ。

 

 結局その日、帰った所をサクラに襲撃されそのままいつもの修行に突入。進学を祝いに来ていたおじいちゃん達も合流し、いつも通り地獄を見せられました。解せぬ。

 

 

 

 

 

 

 それから1年後、帝王は龍の爪にその胸を裂かれ地に墜ちた。

 

 その波紋が大きな波となって、『彼等』の物語の幕は上がる。

 

 さあ、闘い(FIGHT)の時間だ。 




この話の題名はタイガーアッパーカットですが、あれはリュウに敗北した後にの昇龍拳を参考に編み出した技なのでこの時点のサガットは使えません。

あと、サクラの誕生日を原作と変更しています。理由は原作のサクラが3月生まれなだからです。この小説ではサクラは主人公より早く生まれていますので、同じ学年にする為に変更しました。ちなみに誕生日花がサクラです。主人公の誕生日が8月27日なのは、誕生日花は鬼灯だからです。ただ、この誕生日花は俺調べたサイトでこうなっていただけで、違うサイトだと違う花だったりします。

 今回、本当は主人公やサクラ、カリンの成長をもっと書きたかったのですが、それを書くと文字数がヤバイことになりそうなので諦めました。

 次回からやっとストリートファイターの時間軸に突入......していくわけなんですが、その前に3話くらい外伝的な話が入ります。内容は今回の話からサガットが倒されるまでに起こる出来事等になります。外伝とはいっても新しい原作キャラが出たりもしますよ!あと、今回書けなかった主人公達の成長も外伝の中で描かれる、かもしれません。

 毎回毎回文章が予定よりも長くなってしまっておまたせしてしまってすみません。

 そこで少し聞きたいのですが、一つの話を3話くらいにわけて投稿していったほうがいいでしょうか?話がぶつ切りになってしまいますが、それなら投稿の間隔は一応短くなります。それとも今のまま区切りのいいところまで書き上げてから投稿した方がいいでしょうか。

 感想などを書いていただくときに、そのあたりのことにも意見をいただけると嬉しいです。

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