明日に波動拳   作:路傍の案山子

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 遅くなって申し訳ありません。

 本当はクリスマスイブに「これが俺からのクリスマスプレゼントだっ!」って感じで投稿するつもりだったんです。ちなみに今回一万字オーバーです。でも戦闘シーンがないんだ、ごめんね。

 しかし、活動報告にも書きましたがPCのハードディスクがどうかしたらしく、パソコンのドキュメントが開けなくなるという状態に。そんなに悪いことした覚えはないのにサンタじゃなくてサタンが来たようです。ちくせう。

 インターネットはどうにか使える(時々謎のフリーズ発生)のでケータイで書き直して投稿してから編集する感じでなんとか今年中に投稿することができました。クリスマスに一度書いた文章を書き直すのは精神的に堪えました。買い替えないといけないなぁ。年末は色々と出費がかさむのに。

 ......ということで、

 「これが俺からのお年玉だっ!」


13.5話 2ラウンド目 開廷のリバーサルアタック

《メトロシティ裁判所 被告人控室》

 

 

 ――どうしてこうなった。

 

 

 被告人控室で今回の事件の担当弁護士となったフェニックス・ライトは何度目かわからないため息をついた。現在今回の事件の被告人、つまりは彼が弁護をする人物であるコーディー・トラバースは既にこの部屋にはいない。何故なら......既に裁判開始の十分前なのだ。被告人である彼は一足早く法廷へと連れて行かれたのだった。今この部屋にいるのは弁護士のフェニックス・ライトとその助手、綾里サマヨイの2名だけである。

 

 「ねーねー、ホントに大丈夫?なんか顔色が悪いよ?なんて言うんだっけ?ビリジアン?そんな色してる」

 

 「ビリジアンって結構な緑色だからね?そんな色だったらこんな裁判所(とこ)じゃなくて病院に直行しなきゃいけないじゃないか」

 

 「あれ?そうだっけ?まあいっか。それより裁判だよ裁判!しかも生だよ!なんだか興奮するよねっ!」

 

 「......君は気楽でいいね。俺は緊張でそれどころじゃないんだけどな。はぁ...」

 

 そうして、またため息が一つ増えるのだった。

 

 

 

 

 

 どうも皆さんこんにちは、新米弁護士のフェニックス・ライトです!今回は此処、メトロシティの市長であるマイク・ハガー氏とその娘のジェシカさんの依頼ということで、イギリスの枢機卿であるアルバート・S・エリオット様からこちらに派遣されてまいりました!被告人であるコーディー・トラバースさんの無罪を証明するために全力を尽くすぜ!

 

 

 ......ふぅ。さて、建前はこれくらいでいいかな。あ、どうも皆さん改めましてこんにちは。もう気づいてると思うけど、日向涼と申します。英名ではアルトリウス・エリオット・ヒューガーです。普段は日本で小学生やってます。本当に何度考えても『どうしてこうなった』って言葉しか浮かんできません。ドウシテコウナッタ。

 

 そもそも何故こういった状況になったのかというと、アメリカ旅行中にいきなりかかってきたアルバートおじいちゃんの電話が発端だ。いきなり国際電話をかけてきたかと思ったら『やあアルトリウス、今アメリカに旅行中でしたよね?突然ですが貴方には今からメトロシティである人物の弁護をしてもらいます。これも修行の一環です。いいですね?』ですよ?いいわけあるかっ!!こちとら現役小学生だぞ!常識的に考えろよ!無理に決まってんだろ!!いつもなんかずれてるんだよなぁ、アルバートおじいちゃん。格闘技を習いに行ったはずなのにいつのまにか礼儀作法の勉強になってたりするし。 

 

 あ、なんでアメリカに旅行中だったかというとサクラの為だったりします。サクラがリュウに憧れている事を知った神月かりんが、アメリカにリュウの同門であるケン・マスターズがいるという情報をもたらしたからだ。世界的大企業である神月財閥の跡取り娘であるカリンのリサーチ力は凄まじく、ケン・マスターズが現在アメリカで全米格闘大会に参加するために実家に帰っているということを突き止めたのだ。『おーほっほっほ!これくらい、このカリンなら容易いことですわ!!』とかいってたけど、実は何かのパーティーで偶然会ったらしいんだ。ほら、ケンの実家のマスターズも世界的大企業じゃないですか。所謂セレブなパーティーってやつですよ。

 

で、勿論そんな情報を聞いてサクラが黙っていられるわけもなく、ちょうど学校が冬休みに突入することもありその日のうちに神月財閥の所有するプライベートジェットでアメリカに旅行に行くことになったのだ。何故か、俺まで。いや、嫌ではないんだけどね?ケンには会ってみたいしさ。でも返事をする前にいきなり腕を掴まれたと思ったらそのままサクラに引っ張られてヘリに乗せられて空港ですよ?しかも母さん達には既に神月から説明済みで荷物まで用意してあったからね。そういった手回しをする前に俺に一言いっておいて欲しいんだ。なんでいつもそこだけ手を抜くんだ。

 

 「リュウさんと同門の......マスタードさんだっけ?なんで会えなかったんだろね~?色々教えて欲しかったのに~」

 

 「マスターズな。ケン・マスターズさんだからな。そんな刺激的な味がしそうな名前じゃないからね。だいたい相手の予定を確認する前に行動するからこういうことになるんだよ、サマヨ......今は誰もいないしいつも通りでいいか。いいか、サクラ。相手は世界的大企業の御曹司でしかも全米大会を控えて調整中なんだぞ?確かにかなり待たされてるけど都合をつけて会ってくれるってだけでも凄いことなんだからな?」

 

 カリンから聞かされた当日にアメリカに着いたはいいが結局そこで数日のお預けをくらうことになったのだ。ケンにだって普通に予定があるし、しかも今は大会に向けて調整中という非常に大切な時期だ。カリンは無理矢理突撃しようとしたが、流石に相手も世界的大企業の御曹司。いくら神月財閥でもそこまでの無理は通せなかったらしい。で、数日間待たさされることになって、その間にサクラやカリンとアメリカ観光とかをしていたら例の電話ですよ。自由の女神を眺めながらそんな電話を受けた俺の心境はどんなものだったか想像して欲しい。『俺には自由なんてなかったんや』ってなぜか関西弁で絶望してましたよ。

 

 「あ、今ライト君って呼ばなくて大丈夫なんだ。ねーねーアル。なんで変な名前使わなきゃダメなの?間違えそうになるからやめたいんだけど。この長い髪も動くときにうっとうしいし」

 

 「我慢してよ。俺なんてこの『神月製デラックスシークレットブーツ』と『神月製特殊擬似腕部七式』とかいう竹馬とマジックハンドもどきをずっとつけっぱなしなんだぞ?しかもこの仮面、レンズが赤くて見えにくいしなんだか蒸れるし。カツラと衣装だけのサクラより何倍も大変なんだからな」

 

 神月財閥の科学力は世界一ぃーー!!出来んことはなぁい!!って叫びたくなるくらい高性能な竹馬とマジックハンドだけどね。腕と脚を入れこむように装着するんだけど、動かすのに殆ど支障が出ないんだ。指だってちゃんと中で曲げたとおりに曲がるからね。なんでも現在医療用に開発中の新技術らしい。科学の力ってすげー。あ、ちなみに声の方は自前です。俺、声帯模写とか得意なんで。特技は『一人ジブリシーン再現』です。

 

 「もう一つの方の『アヤサト風女性弁護士セット』にしとけばよかったんじゃない?そしたら服とニセオッパイだけでよかったのに。似合ってたし」

 

 「断固として拒否する」

 

 女装をするくらいならこの格好の方が百倍マシだ。ちなみに今更だが綾里サマヨイの正体は春日野さくらである。今回弁護を担当するにあたって流石にそのままの姿では色々まずいことになるし、そもそも弁護なんてさせてもらえないので変装する事になったのだが......何故か話を聞いたカリンが一番ノリノリで変装道具などを提供してくれたのだ。おかげで現地調達する手間は省けたが、俺とサクラはカリンに着せ替え人形のように様々な衣装を着せられるはめになった。その時に真っ先に女装を勧められて無理矢理着せられたよ。ご丁寧にパッドまで入れる徹底ぶりで。しかも全員から『凄く可愛い』的な事を言われてしまった。あの真面目そうなカリンの従者の柴崎ですら『よくお似合いですよ』とか言ってきたからね。俺の男としてのプライドがズタズタですよ。

 

 確かに俺が成人男性に変装するとなると今みたいに顔を隠した上で体型もカバーしないといけない。女装なら体型は殆ど誤魔化す必要もないし、そちらの方が都合がいいのはわかるんだよ。真っ先に勧めるのも道理だとは思うよ?でも絶対楽しんでたからね皆っ!だってサクラと俺の時の態度が全然違ったし!カリンなんか笑いを堪えきれてなかったしねっ!俺は男だよ!男なんだよっ!!おのれぇ白澤ぅ!!

 

 ......ふぅ。まあ、女装云々はもういいとして、何故か用意された変装セットには見覚えがあるものが多かった。具体的に言うと『逆転裁判』ってゲームの衣装がほとんどだった。いや確かにストリートファイターとは販売元が同じ会社だし、裁判だからそれっぽいアイテムになるのはわかるけど、この仮面は裁判とか関係ないだろ。絶対あのカフェイン中毒の検事のだろ。つーかなんだよアヤサト風って。サクラのなんて『アヤサト風霊媒士見習い装束セット』だぞ、限定的すぎるやろ!!なんで裁判の為の変装セットで霊媒師が出てくるや!?しかもなんでそれを選ぶんだよサクラァ!!

 

 「というか、なんでサクラはその服にしたの?他にも色々あったじゃないか」

 

 「え?なんか格好良くない?この変な石とか」

 

 どうやら決め手は勾玉のアクセサリーだったようだ。最近の女の子のセンスは理解できそうにないな。え?俺の格好はなんなんだって?いやー、せっかくだからと逆転裁判の主人公である『成歩堂龍一』に限りなく近づけてみたんですよ。後は顔を隠すためにコーヒー好き検事の仮面と、口元を隠すためにマスクをつけたら何故かカリンのツボにハマったらしく『その衣装で決定ですわ!!それか女装のどちらかしか認めませんわ!』といわれて泣く泣くこんな怪しさ満点の格好になりました。だから偽名も成歩堂龍一の外国版での名前である『フェニックス・ライト』にしました。サクラの方も服装の元ネタである綾里真宵(あやさとまよい)にサクラのサの字を足して『綾里サマヨイ』に。確認したけど逆転裁判の人達(ナルホドくんやマヨイちゃん)はこの世界にはいなかったので多分こんな安直な偽名でも大丈夫だろう......多分。

 

 「失礼致します。フェニックス・ライト弁護士。お時間になりましたので法廷の方に入場願います」

 

 「あ、はい。わかりました。......よしっ!行くよ!サマヨイちゃん!」

 

 「うんっ!アr...ライト君!」

 

 係官が呼びに来たので法廷へと移動を開始する。さあ、いよいよ本番だ!法廷バトルの始まりだぜ!......俺、弁護士の資格なんて持ってないけどね。なんかアルバートおじいちゃんからそれっぽいバッジが届いたのでそれをつけているだけだ。まあ、多分大丈夫だよね。ダンボールで作ったバッジでも大丈夫だったんだし......ゲームの中では。うん、あまり考えないようにしようそうしよう。

 

 

 

 

《メトロシティ裁判所 第一法廷》

 

 

 

 「静粛に!皆さん静粛に!......ゴホン。それではこれよりメトロシティ二番地区にて発生した暴行殺人事件の裁判を開廷致します。検察側、弁護側、双方ともに準備はよろしいですか?」

 

 ざわついていた傍聴席を静かにさせてから裁判長は裁判の開廷を告げた。立派な白ひげを蓄えた禿頭(とくとう)の老人である。......なんだかどこかで見たことがある気がするんですけど。こらサマヨイちゃん、サンタさんみたいとか言わないの。裁判長なんだぞ。印象を悪くするかもしれないだろ。......あ、ちょっと嬉しそうだ。よかった。

 

 「検察側、準備完了しておりますぞ。......くっくっく。なんでも弁護側はアメリカでは今回の事件が初めての新人だというではありませんか。此処は一つ、法廷の先達であるこの『アウチ・ターケフーミン』が揉んであげましょう!さあ、胸を借りるつもりでどんと来なさいな!」

 

 そこはかとなく小物臭がする、少ない金髪を無理矢理リーゼントにしたような変な髪型のメガネをかけた検事が準備が整っていることを裁判官に告げる。ついでに何やら胸を借りるつもりで等とこちらに言ってきたが、言葉とは裏腹にこちらを馬鹿にしている事がありありと窺える。まあ、勝手に油断してくれているみたいなので別にいいが。......コイツもどっかで見たような......気のせいだな。知らない人だ。

 

 「弁護側、準備完了しております。本日はよろしくお願いしますね、アウチ検事。お言葉に甘えてどんと行かせていただきます。......ドンッとね」

 

 「ドーンとねっ!!私の拳が火を噴くよ!」

 

 こら、おとなしくしなさい。それはまだ早いから。まあ、もしかしたら必要になるかもしれませんけどね。

 

 「双方とも準備は大丈夫なようですね。......それでは係官、被告人を証言台に連れて「待ったっ!お待ちくだされ裁判長!」む?どうかしましたか、アウチ検事?」

 

 「いえいえ、裁判長。先程も言ったとおり弁護側は今回がこちらでの裁判は初めてだそうで。ひとつ試しに簡単な質問をして緊張をほぐして差し上げようかと」

 

 おっと、開始早々にアウチ検事がなにやら言い出したぞ。それにしてもその髪の毛の先端をトントンしながら喋るのやめてほしいな。なんかイラッとくるから。

 

 「ふむ。まあいいでしょう。あまり時間を掛けない簡単なものでお願いしますよ」

 

 「ええ勿論ですとも。それでは弁護人、今回の事件の『被告人』が誰かは勿論わかっていますよね?」

 

 こちらを馬鹿にしているとしか思えない質問だが......恐らくなにかしらの狙いがあるな。まあ、今はどうしようもないので素直に答えるとしよう。

 

 「コーディー・トラバースさんですね。それがどうかしましたか?」

 

 「よく出来ました!そのとおりですぞ!そう、今回の事件の被告人は“あの”コーディー・トラバースさんですな!あの犯罪組織マッドギアを“武力行使で鎮圧した”、“元英雄”ですな!」

 

 いちいち言い方が厭味ったらしいなこの人。でも、なんとなく狙いはわかったぞ。

 

 「“元”をつけるのはまだ早いですよ。それで?それがなにか?」

 

 「いえいえ、それはさぞかしお強いんだろうなぁと思いましてねぇ。......それこそ“人を殺せても不思議ではない”くらいに」

 

 「――待ったっ!! 裁判長!!検察側の発言は不当に被告人を貶める可能性があります!」

 

 「......そうですな。アウチ検事、質問ということでしたがだいぶ話がずれていますね。そろそろ先にすすめてもよろしいかな?」

 

 「おお!そんなつもりはなかったのですが。ええ勿論構いませんぞ!......ふっふっふ」

 

 『コーディー・トラバースには人を殺せるだけの力がある』そう印象づけるために小芝居をうったというわけか。ただでさえ聴衆は情報操作でコーディーが犯人であるという風潮が強い。まずはギャラリーを味方につけようってことか。うん、意外としたたかな検事なのかな。小物っぽいけど。

 

 「それでは係官、被告人を証言台へ」

 

 裁判長の掛け声で係官が法廷の外へと出ていった。しばらくして俺達の弁護するコーディー・トラバースを連れて戻ってきて、そのままコーディーを証言台へと誘導する。

 

 

 

 「ではまずコーディー・トラバースさん、貴方に検察側が幾つか状況確認を兼ねた尋問をおこなうことになっています。よろしいですかな?」

 

 「......ああ、構わねぇよ」

 

 証言台に立たされた被告人、コーディー・トラバースが問われて返事をした。この人は俺達が弁護を担当する人であり―― ストリートファイターシリーズに登場する『原作キャラ』の1人だ。

 

 『コーディー』はストリートファイターZERO3とストリートファイター4でプレイアブルキャラとして登場する。実はZERO2のステージで背景にカメオ出演していたりもするのだが、本格的に参戦したのはZERO3からになる。奇抜な髪型や容姿が多かったりするストリートファイター達の中ではちょっとワイルドな金髪のイケメンではあるがそれなりに『普通っぽい』といえる容姿をしている。ただし、縞模様の囚人服姿で手錠まで嵌められているが。

 

 コーディーはストリートファイターシリーズの前に、『ファイナルファイト』というシリーズに登場している。初代では主役(他にも二人選べるけど)を務めており、その後のシリーズにも度々登場している。初代ファイナルファイトの時は青いジーンズに白いTシャツといういたって普通のアメリカ青年といった出で立ちをしている。作中で犯罪組織の『マッドギア』を多くても3人という少数で壊滅させるなど中身は普通の人とは言いがたいが。まあ、とにかくストリートファイターの時とファイナルファイトの時では明らかに格好(というか背景)が違っているのだ。

 

 実はこの2つの作品群の間には共通のエピソードがある。『コーディーが逮捕される』という事実だ。ストリートファイターの時は喧嘩に明け暮れすぎて傷害罪で、ファイナルファイトでは暴行殺人の現行犯としてという違いがあるが、どちらも最終的に逮捕されて投獄されることになる。この世界では容疑は暴行殺人なので後者が近いかもしれないが、現行犯で逮捕された訳ではないらしいので何とも言えない。ただ、ひとつ原作知識からわかるのは、ここが彼にとっての『分岐点』であるということだ。

 

 実際にファイナルファイトの時は荒っぽいがそれなりに快活(?)ではあったのだ。しかしストリートファイターでの登場時は気まぐれで喧嘩好きな点は変わらないが全体的に無気力な言動が目立ち、対戦相手を皮肉る事が多くなるなど『やさぐれた』状態になってしまっている。......もし俺が今回の弁護を成功させれば、所謂『原作改変』とやらを行うことが出来るのかもしれないのだ。それも、改悪ではなく改善の方向で。ナッシュさんの時は知っているのに殆ど何も出来なかった。でも、今の俺には出来ることがあるのだ。だから、最初は無理矢理押し付けられて嫌だったこの裁判だけど――――絶対に負けるわけにはいかないんだ。

 

 

 「それではアウチ検事、尋問を始めてください」

 

 「ふっふっふ、わかりましたぞ。それではコーディーさん、貴方は今回の事件の被害者である......え~と、そうそう『モーブ・ノーワル』さんでしたな。彼が発見された日の前日、つまりは貴方が逮捕された日の前日ですな。その日にメトロシティ市一番地区にあるバー『デッドライン』にて13時頃に食事をしながら酒を飲んでいた。間違いありませんな?」

 

 「......まあ、そうだな。あそこはバーだがハンバーガーが旨いんだ。オススメだぜ?」

 

 物騒な名前のバーだな。......サマヨイちゃん、ハンバーガーなら後で買ってあげるから今は我慢してね。今裁判中だから。流石に無理だから。

 

 「そんなことはどうでもよろしいっ!......とにかく!そこで食事と酒を飲んだ。間違いありませんな!」

 

 「さっきも言ったが間違い無えよ。しつけえ奴だな」

 

 ......確かにしつこいくらいに確認しているな。何かあるのだろう。

 

 「ムフフッ。いえいえ、ただの確認ですぞ、お気になさらず。そして、15時頃に被害者と賭け事して貴方が勝った。そうですな?」

 

 「ああ。あっちから仕掛けてきたのにてんで弱かったぜ。掛け金はそれなりだったが酒代くらいにはなったかな」

 

 『賭け事』ねぇ。一体どんな賭けだったんだろう。そういえば内容は聞いていなかったし、ちょっと質問してみようか。

 

 「その賭けって何だっ「弁護人!今はまだ私の尋問中ですぞっ!少し待っていただきたいっ!」......む」

 

 ちょっとくらい良いじゃないか。......それとも、賭け事のことを聞かれたくなかったのか?これはちょっと覚えておこうかな。

 

 「やれやれですな。これだから新人は。法廷マナーがまだわかっていないとみえる。......さて、その時は被害者は大人しく帰ったのですな?」

 

 「少しいちゃもんをつけてきやがったが、あの賭けは別にイカサマが出来るようなもんじゃなかったしな。ちょいと睨んだら帰っていったぜ」

 

 本当に『ちょいと』だったんだろうか。まあ、コーディーに威圧されたらそりゃあ逃げるよね。俺だって迷わずそうする。

 

 「そして、17時に貴方は店を出た。そして違う店、えーと『スナイピングヘッド』で夕食をとりまたお酒も飲んだ。19時半頃に店を後にしてそのまま自宅への帰路についてその途中、被害者が発見された小さな公園で喧嘩になった。そうですな?」 

 

 だから店名が物騒なんですけど。流行ってるのか?

 

 「ああ、そうだな。あの店はトマトをたっぷり使った『ブラッティーピザ』が最高なんだ。あの公園...つーか広場か?街灯くらいしかない場所で奴が絡んできやがった。服装は昼間と同じだったし、多分間違いねえな。そこで「おっとっ!そこまでで結構ですぞ、コーディーさん。ありがとうございました。裁判長!お聞きになりましたかな!」お、おいちょっと待てよ!まだ話は」

 

 「被告人は少しお静かに願えますかな?貴方はまだご自分の立場がわかっておられないようだ。......アナタには基本的に発言権はないのですよ」

 

 「なんだと......っ!」

 

 まだ始まったばかりだというのに仕掛けてくるつもりか。というかコーディーさんをそんなに刺激しないでほしいんだけど。アウチ検事が襲われても俺じゃ止められないからね?......あとサマヨイちゃん、ピザは昨日食べたじゃないか。我慢しなさい。

 

 「裁判長っ!お聞きの通りコーディー・トラバースは被害者と喧嘩をしたことを認めました!そして被告は被害者と喧嘩をする直前にアルコールを摂取したことも認めております!つまり!今回の事件は――被告が『喧嘩の際に酔っていたからいつもより過剰に暴力を振るい殺してしまった』といういたって単純な事件だったのですぞっ!!被告人はあのマッドギアを壊滅させた程の格闘家です。酔っていたとしても被害者との実力差は歴然だったでしょうからねぇ」

 

 「な、なんと!そうだったのですか!?」

 

 おい裁判長信じるの早過ぎるだろ。大丈夫かこの裁判所。

 

 「......なに勝手な事を抜かしていやがる!俺は「黙っていただきましょうか!これ以上の発言はアナタには認められていないとさっきも言ったではないですか!これ以上逆らうようなら別の罪が増えてしまうかもしれませんなぁ」......んだとっ!!」

 

 「と、いうことで事件は解決!彼は有罪ということですな。ささっ!裁判長どの判決をお願いしますぞ!」

 

 

 「 待 っ た ! ! 」

 

 

 「な、なんですかな弁護人!?きゅ、急にそんな大声を出して!」

 

 いや何ですかじゃないでしょう。何勝手に判決を要求してるんだよ。というか止めないと何もしないまま負けちゃうじゃないか。むしろ何故止めないと思った。もしこのまま裁判が終わっていたらサク......サマヨイちゃんをけしかける所だったぞ。

 

 「......何ですかじゃありませんよアウチ検事。というか、最初の“検察側の”尋問は終わったのですか?」

 

 「え、ええ。まあ、終わりましたが」

 

 「なるほど、では当然次は“弁護側(こちら)”が反証する番ですね。裁判長!これより先程の尋問に反証を行います。よろしいですね?」

 

 「ええ。構いませんぞ。尋問は終了したようですし」

 

 さて、ここからはコッチのターンだ。

 

 「し、しかし既に事件は解決...」

 

 「アウチ検事」

 

 「な、なんですかな?ば、バイザーを光らせるのは止めていただきたい......圧迫感がこう」

 

 「今は“弁護側”の番です。いかに検事といえど、意味もなく『発言する権利はアナタにはないんですよ』......『黙っていただきましょうか』」

 

 先程のアウチ検事の物言いを真似て黙らせる。どうやらコーディーも少し溜飲が下がったらしく、悔しそうに黙るアウチ検事をざまあみろといった表情で見ている。

 

 「さて、先程のアウチ検事の主張は『酒に酔っていたからやり過ぎた』というものでしたね」

 

 「そうですな。主張をまとめるとそのようになりますな」

 

 俺の確認に裁判長が頷きながら答える。

 

 「しかし、その主張は事前に私がコーディーさんから事前に聞いた話しとは大きく食い違っているのですよ」

 

 「な、なんですと!それは一体?」

 

 「確かにお酒を飲んで『まともに』喧嘩をすれば加減を誤ることもあるかもしれませんね「そ、そうですぞ!だから先程言ったとおり」しかし!事件の日はそうではなかったのです!!」

 

 途中でアウチ検事が何か言ったが気にせず話を進める。

 

 「ほう。そうではなかった、というと?」

 

 「そうですね......例えば裁判長が今回のコーディーさんと同じ状況で絡まれたとしたらどうなさいますか?」

 

 「わ、私ですか?うーむ、荒事の経験がないのでよくわかりませんなぁ...」

 

 「では状況を整理して考えてみてください。コーディーさんは『酒を飲んで本調子ではない時に』、『帰宅途中』、『自分よりも遥かに喧嘩の実力の無い相手に』、安い賭けに負けた恨みという『くだらない理由で絡まれた』んです。つまり、コーディーさんは事件の日にまともに喧嘩をしたのではなく......『適当にあしらった』のですっ!!」

 

 「「な、なんですと!?」」

 

 裁判長とアウチ検事が同じ言葉を発しながら驚く。

 

 「考えてみれば自然なことです。早く帰宅したいのにくだらない理由で因縁をつけられた。しかし酒に酔っていて本調子ではないしまともにやりあうのも面倒です。そして都合がいい事に相手は自分よりもかなり弱かった。だから彼はやり過ぎるどころか、結果的にいつもより手加減をしていたんですよ!実際、殴ってきたのでそんなに力を入れずに蹴りをカウンターで入れたら伸びてしまったとか」

 

 「な、なるほど。それは確かに筋は通っている。むしろアウチ検事の主張よりも自然ですな」

 

 もしこれが前世の世界だったならそれでも打ち所が悪ければ最悪死ぬかもしれないが、生憎とこの世界の人間は頑丈だ。それくらいでは一般人でも死にはしない。

 

 「お、お待ちくだされ裁判長っ!」

 

 「なんですかなアウチ検事?」

 

 「えーっと、その.........そうっ!そうですぞ!証拠っ!弁護側の発言には証拠がありませんぞ!被告人の証言だけでは意味がありませんぞっ!!も、もしその主張で被告の無罪を主張するならば証拠を提示しなければなりませぬぞ!」

 

 やはりそこを突っ込んできたか。でも、それは悪手ですねぇ。

 

 「ええ、今の主張には提出する証拠なんてありませんよ」

 

 「ほ、ほれみなさい!裁判長!ここはやはり被告は有罪「そもそも証拠を提示すべきなのは検察側の方ですからね」......はぇ?」

 

 「こちらはアナタの主張に対して反証しただけであって、そもそも今の主張だけで無罪を勝ち取ろうなんて思っていませんよ。むしろコーディーさんへの半端な尋問だけで有罪判決を要求したのはそちらでしょう?では改めましてアウチ検事、『喧嘩の際に酔っていたからいつもより過剰に暴力を振るい殺してしまった』という主張の証拠......提示していただきましょうかっ!!」 

 

 綺麗な軌道を描いて言葉のブーメランがアウチ検事に突き刺さった。思えば『逆転裁判』シリーズをプレイしてるとき『え?これむしろ検察側が証拠足りなくね?なんで弁護側責められてんの?』という場面が何度かあった。まさかいきなりそんな状況になるとは思わなかったが。

 

 「しょ、証拠は......そのぅ......ないですぞ」

 

 「と、いうことです裁判長」

 

 「なるほど。では判決を下すことなどできませんね」

 

 よし。まずは一つ凌げたか。これで少しは裁判長や傍聴席の心証が良くなったはずだ。

 

 「......くっくっく。まったく、ここで負けを認めておれば多少は軽い刑ですんだというのに。裁判長っ!検察側は現場を捜索した警官の証言を要求いたしますぞ!!それではっきりするでしょう。今回の事件の犯人が被告だということが!」

 

 なるほど、次は警官か。さてどんな証言がでてくるか......。アウチ検事はかなり自信があるみたいだ。だがコーディーの主張が真実であるなら当然そこには絶対に『ムジュン』が隠れているはずだ。

 

 アウチ検事は先程不自然なほど裁判を早く終わらせようとした。恐らくコーディーを陥れようとた者たちの予定では自分たちが手を回した弁護士で簡単に終わらせるつもりだったのだろう。しかし、外堀を埋めることに力を注ぎすぎたのか裁判そのものにはあまり干渉できていないみたいだ。だからさっきみたいに俺でも『逆転』できる可能性は十分にある。......それに、『保険』も用意してもらってるしね。

 

 「わかりました。受けて立ちましょうアウチ検事」

 

 「どうやら弁護側も異論はないようですね。それではコーディーさんは弁護側の席に移動をお願いしますぞ」

 

 係官に付き添われてコーディーが弁護側の席に移動してきた...と同時に背中をバシバシ叩かれた。

 

 「なかなかやるじゃねーか!その調子で頼むぜ!さっきは危うくあの陰険メガネを殴っちまいそうだったからな!はっはっは!」

 

 じ、地味に痛い。あ!ちょっと止めて!ズレる!仮面がずれちゃうから!あとサクラァ!!さり気に混ざって叩いてんじゃねーよ!......おっと、ちょっと脳内が素に戻ってしまった。ナルホドモードに切り替えないと。うん。サマヨイちゃん帰りのハンバーガーは無しだからね。

 

 「では係官、現場の調査をした警官を証言台にお連れしてください」

 

 裁判長が係官に指示をだす。さあ、ここからが正念場だ!

 

 

 




 主人公の無駄なハイスペック、声帯模写。ム〇カだろうがナウ〇カだろうがモ□だろうがなんでも再現できちゃう。格闘には役に立たないけど今回珍しく役立ちました、ヤッタネ!しかし、気を抜くと地声であるショタショタしい声になってしまいます。お好きなショタキャラ(もしくは性別不明)の声でご想像ください。

コーディーのゲームでの性能とかの説明は戦闘がある時にでも入れるつもりなので今回はカットしてます。

 ???「拙者の出番はまだでござるか?」

 多分、次回には......出せるかなぁ。

 まあ、そんなこんなで今年最後の投稿となります。それでは...

 皆さん、よいお年をっ!

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