明日に波動拳   作:路傍の案山子

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 本当に、本当にお待たせいたしました。

 というか、活動報告に今六千字であと半分くらいとか書いてましたけど、なんか三万字くらいになったので実際五分の一でした。何度か途中で切って投稿しようかと考えましたが、ニンジャが出るところまで書いたらご覧のありさまだよ。ちなみにこれでもかなり削ってたりします。読むとなんとなく削ったところがわかってしまうかもしれません。

 次回からは短めに話を区切って投稿していこうとおもっているのでこんなに一話が長いのは多分今後はそんなにないと思います。多分。

 色々とありましたがお待たせしてしまったのは事実なので、おまけ的なのもあとがきにつけさせていただきました。

 それではどうぞ。




13.5話 4ラウンド目 逆転のトルネードアッパー

「とにかく双方ともその目撃者が証人になることには賛成のようですね。それでは係官、この事件の目撃者を証言台にお連れしてください」

 

 裁判長が係官に指示を出す。アウチ検事いわく次の証人は、情報を提供することで『被告人(コーディー)に報復されることを恐れていた』のでギリギリまで名乗り出なかったということらしい。話だけ聞けば、まあありえなくもない。なんせ相手はコーディーだしね。俺だって巨大犯罪組織を三人で壊滅させるような奴の恨みなんてかいたくはない。まあ、そうだとしたらソドムの可能性は低くなるのでそこだけはありがたいが。だってシャドルーの秘密基地にトラックで突っ込んでいくようなKAMIKAZE精神をもった奴だし。

 

 「次の証人ってどんな人かな~?アr......ライト君」

 

 「怯えていたっていうくらいだから女性なのかもしれないね。......まあ、変な人じゃなければだれだっていいよ、俺...じゃなくて僕は」

 

 その方がきっとお互いのためになると思うんだ。弁護側の精神的にも、検察側の(主にアウチ検事の)肉体的(危険を避けるため)にも。

 

 「あっ!来たみたいだよ!」

 

 扉が開かれる音に反応したサマヨイちゃんが声をあげる。その声につられて俺を含めた裁判所の視線がドアへと集中する。そして係官に連れられて入ってきた証人を見てーーーアウチ検事以外の皆が首をかしげた。

 

 「......アウチ検事ェ」

 

 「どうかなさいましたかな弁護人?何やらバイザーから煙も出ていますし」

 

 いや、どうしましたじゃねーよ。『怯えていた』証人が『勇気を出して』証言しにきたんじゃなかったのかよ。そんなん言われたら誰だって女性かどうかはともかく気が弱い感じの人物を想像するだろうが。なのにーーーー

 

 「ガチムチやないかいっ!!」

 

 「ひぅ!?」

 

 思わずそう叫んでしまった俺は悪くないと思う。どう見ても気が弱いように見えないんですけど!!まず身長は190はあるし服の上からでもわかるくらいに筋肉がついてガッチリしてるし!!服装からして黒いレザーの世紀末ファッションだし!!あと髪ぃっ!!モヒカンやないかい!バーディーと比べれば短いけどモヒカンやないかいっ!!どう見ても怯える側じゃなくて脅す側じゃねーか!!ソドム(筋肉モリモリマッチョメンで鎧を着た変態)よりはましだけど充分アウトだからな!!

 

 「べ、弁護人気持ちはわかりますが落ち着いてください!その、気持ちはわかりますが」

 

 「ライト君、口調口調」

 

 「............おっと。アウチ検事、その方が次の証人で間違いないのですね?」

 

 「え、ええ」

 

 いけないいけない。僕としたことが見た目だけで人を判断してしまった。そうだよ、きっと見た目はモヒカンのゴリラが服を着て歩いてるみたいな感じでも心はウサギさんなんだ。あの服装もそんなグラスハートを隠すためのカモフラージュ、自己防衛本能からくる反動みたいなものなんだ。そうだ、そうにちがいない。

 

 「どうやら弁護人も落ち着いたようですし、審理を続けましょうか。それでは証人の方、簡単でよろしいので自己紹介をお願いします。なにぶん、此方はまだ貴方のことを何も知りませんので」

 

 「名前はキーヨウ・シンジャー。職業は......自営業です。あの日は急に夜の散歩がしたくなりましてねぇ、あの辺りを歩いていたんですよ。そしたら偶然事件を目撃してしまったんですよ。目撃していたのはバレてはいなかったようですが、もしかしたら自分も殺されてしまうかもしれないと怖くなってしまいまして。名乗り出るのが遅くなってしまいました」

 

 「いえいえ!大変ご立派ですぞシンジャーさん。なにせ相手はあのメトロシティの元、そう!元英雄なのですから!一般人のあなたが怯えてしまうのも無理からぬことですぞ!」

 

 どうやらアウチ検事は目だけではなく耳も悪いらしい。今目撃者すげー棒読みだったぞ。それに職業も自営業ってかなりぼかしてるし。あと容姿があからさまに一般人じゃないだろ。丁寧な口調にも違和感しか感じないし、そのメガネちゃんと度が入ってないんじゃないの?

 

 「それではシンジャーさん、目撃された事件について証言をお願いします」

 

 「ええ、わかりました」

 

 

 ~証言開始~

 

 「先程も言ったように私はあの日、夜の散歩をしていました。その時あの公園を通りかかったのですが......、何やら争っているような声が聞こえてきまして。それで気になって、つい見に行ってしまったんですよ。そしたらそこの被告人と被害者の男性が街灯の下で争っているようでした。そして被告人が被害者を蹴り飛ばしたあと......倒れた被害者の胸にナイフを突き立てたのです!!私は怖くなってしまってその場から逃げてしまいました。ですのでそれ以上は何も見ていません」

 

 ~証言終了~

 

 ”ザワザワ”  ”ザワザワ”

 

 「静粛にっ!傍聴席は静粛にしてください!!」

 

 ......ふむ。なんというか逆転裁判らしい目撃証言だな。こちらに必要な情報はないのにそのまま通すと負けてしまうな。どうやらまた揺さぶって必要な情報を引き出さなきゃいけないようだ。まあ、逆転裁判の証言らしく突っ込みどころもかなりありそうだが。

 

 「ふっふっふ。どうですかな弁護人!これはもう尋問をするまでもなく決まりではないですかな?もう負けを認めてしまって「裁判長、尋問に入ります。よろしいですか」無視ですとっ!?」

 

 アウチ検事が何か言っているがどうでもいいな。ささっと尋問に移ろう。さっきから暴発しそうなコーディーやサマヨイちゃんだけじゃなく、僕......いや、『俺』にだって我慢の限界というものがあるのだ。さっきからあのリーゼントをどうやって毟りとってやろうかと考えそうになるのを必死で抑えているんだぞ。

 

 「それでは尋問に移りましょうか。証人はもう一度先ほどの証言をお願い致します」

 

 ~尋問開始~

 

 「先程も言ったように私はあの日、夜の散歩をしていました。その時あの公園を通りかかったのですが「待った!」......なんでしょうか」

 

 「散歩ということですが、証人はよく事件現場の近くを通るのですか?」

 

 まずは軽いところから質問してみる。こういった何気ないところから意外に重要な情報が出てきたりするからな。とりあえず揺さぶれそうなところはすべて『ゆさぶる』。これは基本だ。

 

 「......いいえ。私が住んでいる場所は遠いのですが、あの日は少し遠出したい気分になりましてね。あの公園を通ったのは初めてです。なんとなくそんな気分だったのですよ」

 

 「わかりますぞ。私もなぜか唐突に散歩に行きたくなったりしますからな。ついこの間も夜中に少し散歩をしていたら『ちょっとお話しいいですか』と警官に挨拶されましたし。夜に少し遠出したくなっても何もおかしなことなどありませんぞ」

 

 アウチ検事が証人をフォローするように同意する。というかアウチ検事、検事なのに職務質問されてません?どうでもいいですけど。......うーん、あんまり重要な情報は得られなかったな。せいぜい証人があの場所を訪れたのは初めてだったということくらいかな。

 

 「それでは証人、続きを」

 

 ~尋問再開~

 

 「何やら争っているような声が聞こえてきまして。それで気になって、つい見に行ってしまったんですよ「待ったっ!」...なにか?」

 

 「争っているような声が聞こえたとのことですが、それはどのような?内容などは聞こえましたか?」

 

 「そうですね......恐らく被害者だと思うのですが、どちらかが一方的に罵りながら相手を責めているような感じでした。距離が離れていたせいか最初の方はよく聞こえませんでしたが、大体そんな感じでしたねぇ。......ここんなところでいいですか?弁護士さん」

 

 「......ええ。証言の続きをお願いします」

 

 とりあえずは、ね。今はもう少し情報を集めよう。

 

 ~尋問再開~

 

 「そしたらそこの被告人と被害者の男性が街灯の下で争っているようでした「待ったっ!」......。」

 

 うわぁ、目付きが悪くなってきたぞ。だんだんメッキが剥がれてきてません?無言で睨まないで欲しいな。確かに『待ったっ!』し過ぎだとは思うけど、これが逆転裁判のデフォルトなんで。むしろこれでも少ないくらいだからね?

 

 「あなたが目撃したのは本当にコーディーさんと被害者だったのですか?それと、どのような位置で二人のどのような争いを目撃したのかも教えていただけますか?」

 

 「ええ、もちろんです!間違いなく被告人と被害者でしたとも!二人が争っていたのはちょうど街灯の下だったのでねぇ。私が二人の姿を確認してすぐに被害者が被告人に殴りかかりましたね。それまでは言い争いだけだったようですが。ああ、それと私はどちらかというと被告人側の植え込みの辺りで見ていましたよ。距離は離れていましたが、私は視力は良いので見間違いなどあり得ませんねぇ」

 

 ━━━へぇ。それはおかしいですねぇ。

 

 「つまり貴方は被告人と『被害者の顔』をしっかりと見た訳ですね?この写真の人物で間違いはありませんか?」

 

 「......さっきからそう言ってるじゃないですか。私が見たのは被告人とその写真の被害者で間違いありませんよ。最初は被告人は後ろ姿でしたが、現場から離れる際に振り向いたので間違いないですとも。どちらの顔もしっかりと見えました」

 

 「ありがとうございます。裁判長、審理を続けてもらって構いません」

 

 今のは迂闊な発言でしたね。効果的なタイミングで反撃に使わせてもらいうとしましょう。......今更だけど証人は一人称『私』っていうのやめてくれないかな。服装や見た目とのギャップで違和感がヤバいんで。絶対普段は『俺』とかだろ、もしくは俺様とか。

 

 ~尋問再開~

 

 「そして被告人が被害者を蹴り飛ばしたあと......倒れた被害者の胸にナイフを突き立てたのです!!「待ったっ!!」......あぁン?......おっと、何でしょうか?」

 

 今明らかに素が出ましたよね?っと、そんな事よりこの証言は崩させてもらおうかな。

 

 「『コーディーさんが被害者を蹴り飛ばした後に、倒れた被害者を刺した』間違いありませんか?」

 

 「ええ。先程も言ったように被害者が殴りかかると被告人はそれを捌いて、次の一撃を避けると同時に被害者の腹を蹴り飛ばしていましたね。そして被告人は"取り出した"ナイフで仰向けに倒れた被害者を『 異  議  あ  り  っ  ! ! 』ウホゥッ!?な、何だってんだ!?」

 

 突然の異議に証人はハトが豆鉄砲......いや、ゴリラがバナナ鉄砲くらったような声を出した。何だってんだ?っと訊かれたら、答えてあげるが世の情けというものだ。お望み通り答えてあげるとしますかね。あ、アウチ検事が焦ってる。まあ、流石に気づきますよね~、ついさっきまで議論してた訳だし。ーーーもう遅いけどね!

 

 「コーディーさんが取り出したナイフで被害者を刺した。それはおかしいですね。ーーーー事件で使用されたナイフは『被害者の持ち物』だというのに」

 

 「な、なんだとっ!?」

 

 「今この法廷に立ったばかりの貴方は知らないでしょうが、つい先程の尋問中に証明されたばかりなのですよ。さて、証人。もう一度お伺いします。ーーーーアナタはコーディーさん、つまりは『被告人』が『被害者の』ナイフを取り出す所を目撃したというのですかっ!!」

 

 「ウホァ!?そ、それは、その......」

 

 "ザワザワ" "ザワザワ"

 

 フッフッフ、傍聴席のざわめきが心地よいわ。ついさっきまで話し合われていた内容だから傍聴席にもムジュンがわかりやすかったはずだしね。これで法廷全体の心証もだいぶ良くなってきたんじゃないかな。

 

 「裁判長!これは......そう!ちょっとした見間違いですぞ!事件があったのは夜でしたし被害者と被告人の位置を見間違えたのかも『甘いなっ!!』......ぐぬぬぅ!今度はなんですかなっ!」

 

 証人の発言をフォローしようとアウチ検事が裁判長に発言する。でも、いま思いついたであろうフォローではねぇ。しかしっ!このストレイ...じゃなかった、フェニックス・ライト容赦せんッ!!

 

 「証人は『街灯の下で争う二人』を目撃した、しかも『顔をはっきり見た』、『写真の人物に間違いない』と先程証言していまます!証人は二人の人物を正確に見分けることができています!よって!被害者と被告人の位置を見間違えた筈がありませんっ!!」

 

 「のほぉ!?」

 

 「さあ、どうなのです証人!!」

 

 こういうのは勢いが大事なのだ。多少自信がなくても大きな声で凄んでみると、意外といけてしまったりする。逆転裁判のナルホド君なんて、指摘した後に『あれ?案外これはいいんじゃないか?』とか考えたりしてるからね。......それでいいのか法曹界。

 

 「う、ぐっ。と、とにかく俺は、いや、私は見たんだよ!!そこの男が被害者を刺す所を!......っ!それにもしかしたら私が目撃する前にコーディーがナイフを奪っていたのかもしれないじゃねぇか!!」

 

 「そ、そうですぞ!もしかしたらなんらかのやりとりがあって被害者のナイフを被告人が所持していた可能性がありますぞ!」

 

 「これから争うかもしれない相手にナイフを渡したとでも?それにその状況だと被害者は自分のナイフを持っているとわかっていながら襲いかかったということになりますよ?これは不自然ではないでしょうか」

 

 これから喧嘩吹っ掛ける相手にナイフ(凶器)持たせるとかありえねーだろ、普通。あと、俺だったら相手にナイフがいった瞬間に逃げるね、超逃げるね。

 

 「と、とにかく裁判長!尋問の進行を!」

 

 「ふぅむ、そうですねぇ。可能性は低そうですが一応考えられないこともありませんし、いったん次の証言に進みましょうか。それでは証人、続きを」

 

 アウチ検事め、逃げやがったな。まあ、いいかな。ーーー本命は次の証言だからね。

 

~尋問再開~

 

 「私は怖くなってしまってその場から逃げてしまいました。ですのでそれ以上は何も見ていません」

 

 『  異  議  あ  り  っ!!! その発言はムジュンしていますっ!!!』

 

 「な、なんだとぉ!?い、今の証言のどこに問題があるってんだっ!!いい加減なこと言ってんじゃねーぞゴラァ!!」

 

 「ひぃっ!?シンジャーさん!?ど、どうしたのですかな?」

 

 おい完全にメッキ剥がれてんぞ。まあ、その程度の威圧では僕......いや、俺にはたいした効果はありませんよ?なぜなら日常的に殺気を浴びなれているからね!むしろアウチ検事が怯えてしまっているのでその怒声はあなたにとって逆効果です。

 

 「『怖くなって逃げたので何も見ていない』......それはおかしいんですよ、証人」

 

 「べ、弁護人!い、いったい何がおかしいというんのですかな!先程のシンジャ―さんの証言にはどこにもおかしなところなどありませんでしたぞ!」

 

 「ええ、()()()()()()()()証言とは...ね」

 

 「そらみたことですか!......ん?シンジャ―さんの証言〝とは”ですと?」

 

 そう、今の証言は今までの証人、つまりキーヨウ・シンジャ―の証言とは一応ムジュンしていない。では、誰の証言とムジュンが生じるのか。答えは簡単だ。事件が発生したときに同じ場所にいて事件を目撃した人物がもう一人この法廷にはいるのだから。つまり――――

 

 「アウチ検事、貴方はもっと自分が呼んだ証人以外の証言にも注意しておくべきでしたね。そう例えば、この事件のもう一人の〝目撃者”でもある――――コーディーさんの証言にね!!」

 

 「ひ、被告人ですと!?し、しかし被告人の今までの証言にそんなものはなかったはずですぞ!!いい加減なことを言わないでいただきたい!!それに、もしも情報を隠して証言しなかったというのならそれこそ被告人が犯人であるという証拠に「甘いなっ!!」のはぁ!?」

 

 自分のことを棚に上げておいてよく言うなぁ。それに......

 

 「何を言っているんですアウチ検事。そもそも被告人の証言を途中で遮ったのはあなたではないですか」

 

 「ほ、ほへ?な、なにを」

 

~回想~

 

 回想の中のコーディー「あの公園...つーか広場か?街灯くらいしかない場所で奴が絡んできやがった。服装は昼間と同じだったし、多分間違いねえな。そこで」

 

 回想の中のアウチ「おっとっ!そこまでで結構ですぞ、コーディーさん。ありがとうございました。裁判長!お聞きになりましたかな!」

 

 回想の中のコーディー「お、おいちょっと待てよ!まだ話は」

 

 回想の中のアウチ「被告人は少しお静かに願えますかな?貴方はまだご自分の立場がわかっておられないようだ。......アナタには基本的に発言権はないのですよ」

 

 回想の中のコーディー「なんだと......っ!」

 

~回想終了~

 

 「あ゛っ」

 

 「そういえばあんときゃあ話を途中で邪魔されたんだったけなぁ~。なぁ、検事さんよ」

 

 「すっごくドヤ顔で言ってたけど、すぐ後にア...ライト君に同じような事を言われてたよね!」

 

 自分がコーディーの証言を邪魔したことを思い出したのかアウチ検事が変な声をあげた。そしてコーディーもその時のイライラを思い出したのか拳をバキバキ鳴らしている。表情自体は笑顔なのだが......笑顔が本来攻撃的な性質だったということを実感できたような気がした。なんというか『凄み』が違う。

 

 「それがどうしたってんだよ!!そんな野郎の証言が続いたところでどうなるってんだ!!」

 

 「簡単な事ですよ、シンジャ―さん。途中で遮られたのでわかりにくくなってしまっていますが......コーディーさんは被害者と争いになった際に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 「な、なんですとぉーーー!?そ、そんな情報は一言も証言はなかったではないですか!」

 

 「だからアナタが途中で遮ったんでしょうに。それにコーディーさんはちゃんとこう証言しています。『服装は昼間と同じだったから多分間違いない』、とね」

 

 そう。そこが今回の証人、つまりキーヨウ・シンジャ―の証言の最大のムジュンなのだ。

 

 「しかし二人は街灯の下で争っていたのですぞ!夜だったからといって顔が見えないはずはありませんぞ!!」

 

 「それは違うよ!!......じゃなかった、違いますよアウチ検事。被害者の事件当時の服装を思い出していただきたい。被害者の上着には『フード』がついています」

 

 「ふ、フードだとぉっ!?」

 

 事件当時の被害者の服装はフード付きのパーカーである。現場写真でもちゃんとフードが写っていたしね。つまり...

 

 「コーディーさんが被害者と争ったとき、被害者はフードを被っていたんですよ!!コーディーさんは顔ではなく服装や体格等で被害者だと判断したのです。だから『多分間違いない』なのです!!」

 

 「そ、そんな...馬鹿な!?......はっ!!そうですぞ!裁判長!これは弁護人が今考えたこじつけですぞ!あの時に本当に被告人がそう証言したとは限りませんぞ!」

 

 確かに実際にコーディーが証言をした訳ではないのでそう考えることも出来なくはない。しかし、あまり甘く見ないでいただきたい。

 

 「残念ながら、アウチ検事。今の弁護人の証言はこじつけ等ではありませんよ」

 

 「さ、裁判長?それは一体どういう?」

 

 予想外の所からの否定に一気に勢いがなくなるアウチ検事。なんだかだんだん可哀想になってきたな、、追求はやめないけど。

 

 「弁護側は開廷前の時点でコーディーさんの証言についてまとめた資料を法廷に提出しています。その資料にはっきりと被害者はフードをかぶっていたので顔が見えなかったとちゃんと明記されていますな。今確認したので間違いありません。確か、検察側も事前に閲覧することが出来た筈ですが?」

 

 「だから言ったじゃないですか、『自分が呼んだ証人以外の証言にも注意しておくべき』だと。その時点では被害者がフードを被っていたかどうかは重要視されていませんでした。つまり、コーディーさんが嘘をつく理由がないのですよアウチ検事」

 

 正直アウチ検事がその書類をちゃんと確認していれば状況はかなり違っていた筈だ。まあ、恐らく確実に勝てる裁判だと油断していたのだろう。浅はかなり。

 

 「そ、そもそもその証言が出鱈目かもしれねーだろうが!被告人の証言なんだぞ!?だいたい、被害者がフードを被る必要なんて「異議ありっ!!!」ウホゥ!?」

 

 「被害者はナイフを所持していた状態でコーディーさんに争いを仕掛けていますっ!殺意があったかはともかく、後ろめたい状況に変わりはありません!目撃されることを恐れて顔を隠すためにフードをかぶっていたというのはおかしなことではないでしょう。実際アナタが目撃している訳ですし、被害者がフードを被っていた理由としては十分です!!」

 

 実際は視界が悪くなるとか、そもそも目撃されることを想定してなかったとかの理由が考えられるけどね!まあ、コーディーは実際にフードを被ってる被害者に絡まれたと証言しているので弁護士としてここは強気で押し切らせてもらう。

 

 「ぐ、ぐぬぅ。だ、だから何だってんだよっ!!被害者がフードを被ってたことが何だってんだっ!!えぇっ!?コーディーの野郎が顔を見てねーだけだろうーがっ!!」

 

 違うな、間違っているぞキーヨウ・シンジャー!!

 

 「そこなんですよ、キーヨウ・シンジャーさん......アナタの証言が"ムジュン"しているのは」

 

 「......あっ。ああぁーー!?」

 

 どうやらアウチ検事もムジュンに気が付いたようだ。そう、コーディーが襲われた時に被害者の顔をはっきりと見ていない。しかし、この法廷には()()()()()()()()()と証言した人物がいる。

 

 「シンジャーさん。アナタは先程から被害者の顔をはっきり見たと何度も証言しています。写真を見て間違いないとも言い切った。―――なぜ一番近くにいたコーディーさんが見ていない被害者の顔を、()()()()()()()()()()()筈のアナタがはっきりと見ているのですかっ!!」

 

 「............ウ......ウホォォオッ!?」

 

 「つまりシンジャーさんっ!!アナタは嘘をついているっ!!!」

 

 ちなみに今もちゃんと相手に向かって人差し指を突きつける例のポーズは忘れてませんよ。追求するときにはこのポーズは基本ですよ、基本。

 

 「さ、裁判長っ!これは、えーと、そのとにかくアレなのでとりあえず異議を……」

 

 「アウチ検事、落ち着いてください。さすがにそんな異議は認められませんよ。それで弁護人、証人が嘘をついているとはどういうことですか?」

 

 俺がなにか言う前に裁判長に異議を却下されるアウチ検事。具体的な事がなに一つなかったので当然だが。なんだよ、『とにかくアレ』って。

 

 「事件当時、最も被害者の顔をはっきり見ることが出来たのはコーディーさんです。距離が近かったうえに向かい合っていた訳ですからね。ですがコーディーさんは被害者の顔をはっきりとは見ていません。現場写真ではフードは脱げていたので、被害者のフードが脱げたのはコーディーさんが反撃で蹴りをいれた時、つまりは被害者が地面に倒れた時になります。しかし!証人は被害者が倒れた後に近寄ることなく逃げたと証言しています!!その証言が事実だとすれば証人が被害者の顔をはっきり見ることが出来るタイミングが存在しないのです!!」

 

 「ウホォア!?」

 

 俺の追及にダメージを受ける証人。というか、さっきからウホウホうるさいんですけど。口調もだんだんと化けの皮が剥げて荒くなってきてるし、人間からゴリラに退化してきてるのかもしれないな。

 

 「シンジャーさんあなた―――倒れている被害者に近づきましたね?」

 

 「な、何を言い出すのですか弁護人!?倒れた被害者にシンジャーさんが近づいたですと!?それではまるで ......ま、まさかぁ!?」

 

 「そのまさかですよアウチ検事。弁護側は証人...いや、―――キーヨウ・シンジャーをこの事件の真犯人として告発します!!」

 

 

 ”ザワザワ”  ”ザワザワ”

 

 「......ん?悪い、少しうとうとしてたわ。んで?今どんな感じ?」

 

 「......んあ!?あ、ライト君もう終わった?で、誰をぶっとばせばいいの?アウチ検事?」

 

 俺の告発に今までで最大のざわめきが沸き起こる。というかコーディーとサマヨイちゃん、今まで随分静かだと思ったら居眠りしてたの?確かに少し説明長かったとかもしれないけど酷くね?俺必死に頑張ってたんですけど!あとコーディーに至っては仮にも自分の裁判でしょうが!!......しかし、さっきから傍聴席とかに殺気めいた剣呑な気配が感じられるんですが。それもたくさん。複数とかではなくて本当に()()()()。不本意だけどサマヨイちゃんが言うように誰かをぶっ飛ばさないといけないかもしれないな。まあアウチ検事ではないんだけど。

 

 「というかサマヨイちゃん。連絡はまだなのかな?多分そろそろだと思うんだけど」

 

 「え?連絡?......あ!そうだった!!ごめんねア...ライト君!『もう間もなく電話にてご連絡いたしますわ』ってメール?が少し前に来てたみたい。それにしてもこの機械凄いよね!さすが神月特製だよね!」

 

 「そういう大事なことはちゃんと伝えてほしかったな。というか電話で?その端末にはついてないみたいだけどどこにかかってくるんだろう?」

 

 サマヨイちゃんことサクラが手に持った機械を確認しながら伝えてくる。ちなみにこの機械は昨日裁判用にととある人物からサクラに渡されたものだ。電話の機能こそついてはいないがなんとメールのやり取りができるのだ。メールもあまり普及していない今の時代(1994年)にあるまじき高スペックさなのだが、サクラは打ち方まではわからないようで基本的には一方通行なのだが。まあ、今はそんなことはどうでもいいか。どうやらそろそろこちらの『切り札』が用意できるようだ。

 

 

 

 「せ、静粛にっ!傍聴席は静粛にお願いします!」

 

 裁判長が必死になって傍聴席のざわめきを鎮めようとするがなかなかおさまらない。しかし、そこにある意味場違いな笑い声が響いた。

 

 「ウホッ、ウッホッホッホ!!何を言い出すかと思えば!!俺が真犯人だとぉ?笑わせやがるぜ!なあ!検事さん!!」

 

 「え!?私ですかな!?そ、そうですな!まったくもってその通り?ですぞ!!............はっ!そうですぞ!!証拠!!証拠がありませんぞ!!先程の弁護人の反証は被告人の証言しか論拠がないではありませんか!!物的証拠がないのに告発などできませんぞ!!」

 

 お前が言うな。裁判の最初のほうで速攻でコーディーを有罪にしようとしてたくせに。というか絶対発言の途中で思いついただろ。まあ、確かに物的証拠がないのは事実なんですけどね、()()

 

 「その通りだこのお面野郎がっ!!弁護士だかなんだかしらねーがさっきから好き勝手にベラベラと!!証人として出てきてやった俺を嘘つき呼ばわりの上に挙句の果てに犯人だぁ!?ふざけるのもたいがいにしやがれ!!オラァ!!どうした!!さっさと俺が犯人だっていう証拠を出してみややがれよ!出せるもんならなぁっ!!!」

 

 「............」

 

 「弁護人。もし証拠がないようでしたら残念ですがその告発は無効となります。確かに証人の証言には不審な点がいくつかありましたがそれだけでは犯人として扱うことはできませんよ」

 

 「ほれ見なさい!!さあ!黙っていないで何とか言ったらどうなのです!証拠がないならやはり犯人は被告人ということ『トゥトゥットゥトゥ~トゥ~~チャカチャン♪』な、何ですかないきなりこの音は!?』

 

 どことなくヒロイックな、それでいて妙に気がぬけるような場違いな音楽が裁判所に鳴り響いた。......サマヨイちゃんの胸元の勾玉から。え、それって電話だったの!?というかこの着信音トノサマンのテーマじゃね!?

 

 「おい嬢ちゃん。なんか鳴ってんぞ、ソレ」

 

 「あ!本当だ!えーと......これかな?えい」

 

 『オーホッホッホ!!サマヨイさんにライト氏、お待たせ致しましたわ!!』

 

 サマヨイちゃんが勾玉を弄るととても聞き慣れた高笑いが聞こえてきた。どうやらようやく待ち望んでいた結果が出たようだ。

 

 「べ、弁護人、これは一体どういう?」

 

 「ああ申し訳ありません裁判長。まさかこんな形で連絡してくるとは思っていなかったので。まあ、簡単に説明するなら先ほどからアウチ検事達が提示するよう要求している―――『物的証拠の準備が出来た』、といったところでしょうか」

 

 「な、な、な、なんですとぉーーー!?」

 

 本日何度目かわからない驚愕の声をあげるアウチ検事。証拠を出せと言っていたのはソッチでしょうに。

 

 『オーッホッホッホ!ライト氏、結果の方は既にそちらに向かわせましたわ!私(わたくし)達も今そちらに向かっておりますが、別の者がそちらにお届けしますわ。なんでも"足には相当な自信がある"とのことでしたのでおまかせいたしました』

 

 「っ!裁判長!今の会話ではどうやら弁護人のいう証拠はまだ到着していない様子!!それでは証拠はないも同然!!ささっ!判決のほうを!「待ったっ!!」っ!?いいえ今回はこちらも引きませぬぞ!!大体どこの誰が証拠を持ってくるというのですか!待っていたとしても届く確証は「拙者でござる」......はい?」

 

 その人物はいつの間にか弁護側のコーディーのとなりに立っていた。服装は胴着を忍装束風にアレンジした感じだ。なぜか全体的に忍ぶのには不向きな赤というド派手な配色をしているが。さらに足元にはこれまた同じ色のスニーカー、いやスニイカーをはいている。あんまりアレには見えないが、ここはあえてやらせてもらおう。

 

 「ニンジャ!?ニンジャナンデ!?」

 

 「アイエエエエーーー!!」

 

 ちなみに後の叫びはサクラです。ネタは俺が仕込みました。ニンジャを目撃したらとりあえず叫ぶ。実際奥ゆかしい形式美なのだ!古事記にもそう書かれている。

 

 「む、貴殿がコーディーの弁護を担当されている弁護士でござるか?拙者、武神流第39代伝承者でガイと申す。此度の助太刀、感謝いたす」

 

 「ドーモ、ガイ=サン。フェニックス=ライトです。弁護士、やってます。ヨロシク」

 

 「ドーモ!ガイ=サン!アヤサト=サマヨイです!えーと、助手!やってます!ヨロシクね!」

 

「う、うむ。よろしく頼むでござる」

 

 アイサツは基本。さて、この一見忍者には見えないニンジャはガイ。本人が先程言った通り武神流という忍術の第39代伝承者という由緒正しいニンジャであり、ストリートファイターに登場する原作キャラの一人である。ストリートファイターではベガやセスとかの悪役達の野望を阻止するために独自に動いていた。性格は(昔はヤンチャしていたらしいが)悪を許さぬ正義漢でかなりかなり厳格なタイプの性格をしている。

 

 『拙者』や語尾の『ござる』、そして『ガイ語』といわれる横文字の独特な発音などの独特な喋り方と、上記の服装などのせいで色物扱いされることもあるが本人はシャープな顔立ちの和風イケメンである。ちなみに美人の許嫁もいるらしいぜ!......あれ?でもZERO3とかでなんかローズといい感じの雰囲気を出していたような気が......。リア充はしめやかに爆発四散しろ!!

 

 初出はコーディーと同じくファイナルファイトであり、三人のプレイヤーキャラの一人で主役の一人だ。ファイナルファイト内ではバランス型のコーディーにたいして攻撃力が低い変わりに攻撃速度や移動スピードがはやいのが特長だ。ニンジャだしね。そのスピードの速さからベルトスクロールであるファイナルファイトではいわゆる『パンチはめ』等がしやすく扱いやすいキャラで、コーディーよりも使用者が多く人気もあったらしい。

 

 ストリートファイターでの性能は、全体的に出もはやく判定が強い通常技に、素早いダッシュやステップに三角跳びといった高い機動力も兼ね備えている。ファイナルファイトを再現したターゲットコンボや(特殊な)コマンド投げを持つなど火力もそれなり以上にはあるキャラだ。しかし、高速で相手に接近した後に追加入力で技を出す突進技などの移動するタイプの必殺技が多く、さらに対空技である武神旋風脚の判定が上方にかたよっているなど相手に当てるのに技量が要求される必殺技が多い。あとジャンプが高く跳び過ぎなせいかゆっくりで迎撃されやすく、ニンジャの宿命なのか体力なども多少低めに設定されておりどちらかといえば中級者や上級者向けのキャラとなっている。

 

 しかしニンジャである筈のガイ=サンだがアイサツに少し戸惑っているような?そんなわけないよね、ニンジャなんだし。

 

 「......よぉ。久しぶりだな、ガイ」

 

 「ふっ。みなまで言わずともよいでござる。友の危機となられば駆けつけるのは当然でござるよ」

 

 被告人という立場のせいか少し気まずそうに声をかけるコーディー。たいして『わかっているさ』といった雰囲気でこたえるガイ。これはあれですな。

 

 「ユウジョウ!」

 

 「ユウジョウ!!」

 

 俺とサクラがほぼ同時に声をあげる。ニンジャとその友人の絆を確認するといったらこれでしょう。

 

 「ユウジョウ?なんだ?」

 

 「ふむ、ゆうじょう、『友情』でござるか?本来はそのような単体での使い方はしないと思うが、、、不思議と間違いのような気がしないでござるな」

 

 「あのー、審理を再開したいのですがよろしいでしょうか?」

 

 裁判長から遠慮がちに声がかかる。あっ、そういえば裁判中だった。ネタにはしるのはこれくらいにしておこう。

 

 「くそっ!なんでガイの野郎が......っ!いや、この際まとめて......」 

 

 「し、シンジャーさん?どうしたのですか!?い、いや今はソレどころではないですぞ!なんなのですかその怪しい男はっ!ん?......はて?どこかで見たことがあるような?」

 

 「拙者は先にも申したとおり武神流第39代伝承者ガイにござる。それでは弁護士どのこのフアッイルをお納めくだされ」

 

 「フア?ああ、ファイルですね。ありがとうございます。ーーーなるほど流石の仕事ですね、彼女の所は」

 

 「ああっ!お、思いだしましたぞ!ガイといえば被告人と共にマッドギアを壊滅させた一人ではないですか!?なぜここに!?」

 

 さて、アウチ検事がガイの説明をしてくれたことだし、そろそろこの裁判にも蹴りをつけようか。いい加減ここがストリートファイターの世界だってことを忘れそうになってきたからな。

 

 「彼にはこの事件の捜査に協力してもらっていたんですよ。どうにも検察側からの証拠の開示などがなかったものでね。こちらとしても独自に証拠を集めるしかなかったのです。先ほどこちらに電話で連絡してくれた女性も協力者になります。---さて、アウチ検事。それでは証拠を提出したいと思いますが構いませんね?そちらの要求通りなわけですし。裁判長、こちらの書類をご覧下さい」

 

 「あ、はい。こちらの書類ですね?どれどれ......な、なんと!?これは本当なのですか弁護人!?」

 

 俺から受け取った書類に目を通した裁判長が驚きの声をあげた。まあ、それも当然である。なぜならその書類にはこの裁判を根底からひっくり返すような事が書かれているのだから。

 

 「どうしたというのです裁判長殿!い、一体その書類になにが書かれているというのですか!?」

 

 「どうしたもこうしたもありませんよアウチ検事!この書類に書かれている事が事実ならばーーー犯人は被告人ではなくキーヨウ証人だということになります!!」

 

 「そ、そんな、そんなバナナっ!?いや、馬鹿な!?お、俺が犯人だとぉ!?ふざけるのも大概にしやがれよジジイ!!一体何が書いてあるってんだ!!」

 

 「『被害者の周辺に被告人以外の靴跡あり』、『現場から逃げ去るコーディーさん以外の不審人物の目撃証言あり』、『ナイフから被告人と被害者以外の指紋を検出』、『その指紋は元マッドギアの幹部ーーーキーヨウ・シンジャーのものと判明』......簡単に言えばこんなところですね」

 

 「は?........................ほぁああーーー!!?」

 

 キーヨウ・シンジャーの問い掛けに裁判長の代わりに答えたらしばらくの沈黙の後にアウチ検事が奇声を発した。まあ、今までコーディーを犯人だと糾弾していた根拠である証拠のほとんどが、いきなり自分が呼んだ証人が犯人であると指し示しているのだから。相手に向けてミサイルを撃ってたらいきなり方向転換して自分に降り注ぎ始めたようなものだ。でも少し取り乱し過ぎだと思う。犯人だと指摘されたようなものである証人なんてあんなに落ち着いて笑ってますよ?......ん?笑ってる?

 

 「うほほほほ!いやー何を言い出すかと思えば馬鹿馬鹿しい。この事件は事前に警察が捜査しているんだぞ?それなのに『新しい指紋』だぁ?『目撃者』だぁ?挙げ句の果てには俺が『元マッドギア』だとぉ?笑わせるんじゃねーぞ!!なあ検事さん!この哀れな妄想仮面野郎に何とか言ってやってくれよ!」

 

 証言台を離れ、検察側の席に近づきながらこちらを罵ってくるキーヨウ・シンジャ―。完全にキャラを忘れてしまっているが言っていることは意外とまともだ。確かに今の時点ではこれはただ弁護側が提出しただけの書類である。反論としては一応の筋は通っている。今のところはね。あとその妄想仮面野郎って俺のことか?......『野郎』ってことは男扱いだな?許す!

 

 「はっ!?その通りですぞ!!警察の捜査で出なかった証拠がっ!それも弁護人にとって都合のいいものばかりがこうも出揃うはずがありませんぞ!裁判長!その書類に書かれている事には信憑性がありませんぞ!検察は弁護人にその書類の正当性を証明するように要求します!」

 

 当然そうきますよね。でも、証明するのは実は簡単だったりするんだよね!よーし、今から格好良く決めてや「オーッホッホッホッホ!!わからないのなら説明して差し上げますわ!!なぜならその捜査を担当したのはあの神月グループの最新鋭特殊捜査チームなのですから!そうっ!神月なのです!ゆえに完璧!完璧ゆえに神月!!それ以上の説明が必要でして?」......ああ、このタイミングで到着ですかお嬢様。いや、別にいいんだけどね?別にそんなに目立ちたいわけでもないしさ。でも、もうちょっとさ......ね?

 

 「だ、誰ですかなアナタはいきなり!?」

 

 「オーッホッホッホッホ!!(わたくし)はそちらのフェニックス・ライト弁護士の協力者......名を狩魔(かるま)リンと申しますわ!!神月グループとは個人的に付き合いがありますの。最新の捜査チームに今回の事件を調べさせることぐらいなら造作もありませんわ!」

 

 高笑いをあげてから堂々と腕を組んだ姿勢で狩魔リンと名乗りをあげる謎の美少女。黒と白の二色がベースとなったどこか貴族のような雰囲気を持つ衣装に身を包んでおり、何故かその手には鞭を持っている。いつもはロールさせている金髪をストレートにしているが、聞き覚えのある高笑いからわかる通り......ご存知神月かりんである。衣装や名前は逆転裁判に登場する女検事、狩魔メイを参考に俺が考えました。それにしても恐ろしい程に似合っている。

 

 「『狩魔は完璧をもってよしとする』、そして神月もまた完璧をもってよしとしますわ。つまりアナタ、、、アウチ検事でしたかしら?この狩魔リン、略してカリンの敵となった時点でアナタの敗北は規定事項!確定した運命となったのですわ!!オーッホッホッホ!!」 

 

 おい!略してもいいけどその略し方はアカン。偽名と変装の意味がなくなるじゃねーか!あと、証言台は前に立つものであって、上に立つものじゃないから。とりあえず証言台から降りようか?ね?

 

 「いきなり現れて何を言い出すのですか!?そもそも狩魔等という名前は聞いた事がありませんぞ!裁判長!そこの少女の発言には信憑性が足りませんぞ!神月グループと本当に繋がりがあるかもわからない以上、やはりその書類は証拠としては不十分ですぞ!」

 

 「ならばその足りない分は私が補おう!」

 

 「あ、貴方は......!!」

 

 またも法廷に新しい人物の声が響いた。その声の主を確認した裁判長が驚きの声をあげた。声の方に視線を向けてみれば、そこには......筋肉モリモリマッチョメンなジェントルメンが立っていた。......羨ましい。なにあの服の上からでもわかる逞しすぎる筋肉。黒いズボンに白いシャツとサスペンダーといういで立ちだが、シャツがピッチピッチで今にも張り裂けそうだ。俺なんてこのスーツの中スッカスカなんだぞ!いつの日か絶対に俺もそのくらいマッチョになってやるんだからな!

 

 「マイク・ハガー市長!?何故ここに?それに、貴方が補うとはどういう意味ですかな?」

 

 「そのまま意味ですよ裁判長。神月グループの捜査には私も立ち合ったのだ。彼らは最新の機器を使用し、その書類にまとめられている証拠を見つけ出した。メトロシティの市長の名にかけて、その正当性を保証しよう」

 

 「そ、そんな!?それでは書類に書かれている事が本当であるという事になってしまうではありませんか!?こ、このままでは私が、『新人潰し』の異名をもつベテラン検事であるこのアウチ・ターケフーミンがっ!?新人に負けてしまうというのですかーー!?」

 

 『マイク・ハガー』、彼は先ほどのガイと同じくファイナルファイトに登場するキャラクターでマッチョメンだ。初登場は『マッスルボマー』というプロレスゲームであり、コーディーやガイとは違ってストリートファイターにはプレイヤーキャラとしては出演していないので他の二人より若干知名度は低いかもしれない。しかしその筋肉はムキムキである。元プロレスラーでありながらメトロシティの市長を務めており、マッドギアをはじめとした犯罪組織を弾圧するなどしっかりとその役職を務めており、市民からの人望も高いらしい。おまけにその肉体はいまだ衰えを知らない。そのためかイギリスの枢機卿であるアルバートおじいちゃんと親交があったらしく、今回の弁護の正式な依頼人はこの人になる。ちなみに娘さんのジェシカはコーディーの恋人だったりする。......いけないな、つい思考が筋肉的なものにむいてしまう、自重しないと。

 

 ハガーのゲームでの性能は基本的に見た目通りのパワー型である。ファイナルファイトでは動きが遅い代わりに攻撃力が高く投げの威力も他の二人よりも高い。ただ、その速度の遅さゆえにパンチはめ等の難度が高く使用される頻度は他の二人より控え目であったらしい。しかし、マッスルボマーでは周りが皆プロレスラーなのでそこまでパワー寄りという訳ではなく、攻防ともにバランス良く高くかなり扱いやすい性能だったらしい。ちなみにキャラクターとしての人気はかなり高かったようなのだが、某赤きサイクロンさんと枠がもろに被るせいで使用可能キャラとして登場する作品がかなり少なくなったとか。正直相手が悪かったとしか言いようがないよね。そして久々に格闘ゲームに登場したカプコンVSマーブル3での性能は......うん、まあ、上級者向け?みたいな感じかな。皆さんも実際に使ってみればわかると思うよ!

 

 「......ハガーのおっさん」

 

 「遅くなってすまなかったコーディー。そちらがライト弁護士ですかな?こうして直接お会いするのは初めてですな。今回は無理を聞いてもらって本当に感謝している。どうかアルバート殿にもよろしく伝えておいてほしい」

 

 コーディーに声をかけるとハガーはこちらに向き直って感謝の意を示してきた。こちらとしてはアルバートおじいちゃんが『これも修行』とかいうふざけた理由で弁護士ですらない小学生が弁護をしている訳で......感謝されるとなんとも申し訳なくなるのですが。

 

 「ええ初めましてハガー市長。こちらこそ協力してもらいましたし、何よりまだ判決は下っていませんのでそんなにかしこまらないでください。――――さて、アウチ検事。これで証拠の正当性が証明されました。なので改めて言わせていただきます。『 く ら え っ !!! 』」

 

 「の、のほぉおああああーーーー!!?」

 

 俺の『つきつける』によってアウチ検事はダメージを受けたのか大きく仰け反りながら奇声をあげた。なんだか今にも倒れてしまいそうだ。これでこの裁判もようやく終わりかな?どうやら無事に乗り切れそうで良かっ「......ウホッ」...ん?

 

 「ウホ...ウホッ...ウホホッ!...ウホォオオオオアアアーーーーーーーーー!!!」

 

 ドムッドムッドム!!

 

 い、いきなりキーヨウ・シンジャ―が笑い出したかと思ったら自分の胸を両手で叩きながら雄たけびをあげだしたぞ!?ドラミング(ゴリラの威嚇行動)!?ドラミングなのか!?

 

 「ウホッ!ようやくあの忌々しいコーディーの野郎を始末できると思ったのによぉ...っ!!邪魔しやがって!!検事もくその役にもたちゃしねぇし、わざわざ俺様がでばってきたってーのによぉ!!......だが、この際もうどうでもいい...。ガイにハガーまでいるんだ。全員まとめて始末しちまえば問題ねーからなぁっ!!」

 

 「しょ、証人?いきなり何を」

 

 「そうさ!!そこのお面野郎が言った通りさぁ!!全てはっ!!べルガー様を殺したそいつらに復讐するために俺様が仕組んだ計画だぜぇ!!コーディーから一人ずつ消していくつもりだったのによぉ~。まさか神月グループまででばってくるとは思わなかったぜぇ…っ!目撃者までいるらしいじゃねえかよ、え?」

 

 先ほどの雄たけびから開き直ったのか、完全に演技をやめて罪を認めだすキーヨウ・シンジャ―。しかし、どうにも諦めて観念したわけではないようだ。どこか挑発的な笑みをたたえたままこちらに問いかけてきた。

 

 「目撃者は現場から逃げ去るアナタの姿をしっかり目撃していましたわ。書いてもらった似顔絵もアナタそのものでしてよ?こうして本人を前にしてみればあの似顔絵はよくかけていましたのね。言動は少々アレでしたが」

 

 「言動がアレ?どんな人だったの?」

 

 「確か、『モデルの彼女を追いかけてアメリカまで来た』と言っていましたわね。『コーディーって奴が犯人なんだろ?だったら俺が見たゴリラみてーな大男は関係ないかなって思って』だったかしら?まあ、なんというか軽薄というかいい加減そうな男性でしたわね。名前は確か......『天流斎マシス』でしたわね」

 

 その証人が最初から出廷してくれてたらかなり楽になったと思......ん?天流斎マシス?どこかで聞いた事があるような? ......もしかするとその証人が来なかったのはラッキーだったのかもしれない。何故だろう、法廷が今よりも更に大混乱に陥るヴィジョンしか見えない。

 

 「まあ、今更どうでもいいがなぁ!!どうせテメェ等はここで皆殺しだっ!!おい野郎ども!マッドギア復活の時だ!!外の連中にも合図を送れ!!」

 

 キーヨウ・シンジャーが物騒な叫び声をあげると、先程から傍聴席に存在していた敵意をもった連中が一斉に立ち上がった。その数、およそ40人。しかも、外からもこの法廷にそれ以上の気配が向かってきているようだ。

 

 「べルガー様が貴様らに倒されてから、今までに俺様が稼いだ金を全てつぎ込んだんだぜぇ?それなりに稼いでたからなぁ。メトロシティは確かに治安は少しはマシになったかもしれねえがよ~、白い粉はよく売れたぜ?おかげで今回の裁判、マスコミ共を買収したりほとんどの弁護士共を黙らせることもできたしなぁ?......そこの妙なお面野郎が出しゃばってなけりゃあ今頃はコーディーは今頃手錠をかけられて豚箱いきだったのによーーっ!!......ウホッ、しかし、だ。俺様は用心深けーんだ。こんなこともあろうかとすでに手下どもを潜り込ませてたのさ!この日の為に......お前ら三人に復讐しマッドギアを再建するために揃えた120人の手下だ!外にいるやつらもじきにここに来る!!全員まとめて血祭りにあげてその罪はすべてお前に被せてやるぜコーディーッ!!」

 

 「......ふうん。それで?」

 

 「......ホッ!?そ、それでだと!?ふざけてんのかテメェ!!今の状況が理解できてねーのか!?今からテメェは死ぬんだよ!!」

 

 鬼気迫る表情でウホウホと息を荒げながらまくしたてるキーヨウ・シンジャ―。しかし、コーディーは動揺するどころかどこ吹く風と余裕の表情だ。むしろどこか嬉しそうに笑みまで浮かべている。

 

 「つまりはあれだろ?お前ら全員ぶっ飛ばしゃあいーんだろ?こんな裁判をわざわざ開いてもらってわりーけどよぉ......そっちのほうがわかりやすくて助かるぜ。さーてと...いっちょ派手にいこうじゃねか!」

 

 「どうやら戦闘は避けられぬようでござるな。弁護士殿も用心召されよ!ここは拙者達がコンッビネエシィヨンで対応するでござる!ハガー殿!」

 

 「うむ、荒事は久しぶりだが腕は落ちていないさ。警備員や係官は一般市民の誘導と警護を!!さあどこからでもかかってくるがいい!!マイク・”マッチョ”・ハガーの名が伊達ではないことを教えてやろう!!ぬうんっ!!」

 

 ファイナルファイト組がなんか活き活きしだしたんですけど。手慣れているというかなんというか、『やっぱりこうでないとな!』的なテンションを感じるんですけど。ハガーにいたっては来ていたシャツを脱ぎ捨て上半身裸にサスペンダーといういつもの戦闘スタイルになっている。脱ぐというより天空の城ラピ○タの親方みたいに筋肉の膨張で一気に弾けさせていたなにそれ羨ましい。

 

 「やっと出番だね!!よーっし!!がんばるぞー!!かri...狩魔さん!どっちが多く倒せるか競争ね!!」

 

 「望むところですわサマヨイさん!!絶対に負けませんわ!!狩魔流操鞭術を披露して差し上げましょう!オーッホッホッホッホ!!」

 

 ごめん、ファイナルファイト組だけじゃなかった。なんかストリートファイター組の女子2名も張りきりだした。

 

 「......はあ。頑張ったのに結局こうなるのか。二人とも張り切るのはいいけど油断しないでよ?ただでさえ人数多いんだし、強いのも混ざってるかもしれないからね」

 

 「て、テメェ等ァ!!ふざけやがってぇーー!!殺れぇー!!絶対にアイツ等を逃がすなァ!!」

 

 「ひぇえええーーー!?お、お助けくだされぇーー!!」

 

 コーディーや俺達の反応が望みのものと違ったせいか激昂して手下をけしかけるキーヨウ・シンジャー。そして悲鳴をあげて怯える可哀想なアウチ検事。近くに係官や警備員がいるから多分大丈夫だと思うが。

 

 「ヒャッハーー!!死ねぇーー!コーディ…へぶぁ!?」

 

 「ひーっひっひ!!お、女は俺がもら…ぐべらぁっ!?」

 

 「スッゾコラー!ナンオ…グワーー!?」

 

 上から順に、コーディーに飛びかかって顔面に拳のカウンターを喰らったモヒカンA、にやついていたところをハガーに掴まれて地面に叩きつけられたモヒカンB、妙な脅しの言葉で威嚇していたところへガイに一瞬で背後をとられて倒されたモヒカンCである。

 

 「先に仕掛けてきたのはそっちだから『正当防衛』ってやつだよな?それにしてもずいぶんと歯応えがねぇな。数は多いがそれだけかよ?」

 

 「クソがぁっ!!お前ら!一斉にかかれぇ!!」

 

 「「ウオォーーー!!」」

 

 キーヨウ・シンジャーの号令で一斉に襲いかかってくる手下達。そして大乱戦がはじまった。

 

 ところで話は変わるがコーディーはストリートファイターの登場人物だ。ストリートファイターでの性能は、どちらかといえば接近戦に強い万能キャラといったところ。判定や硬直が優秀な技が多く、対空性能も高い。タイミングを調節できる飛び道具にガード削りのナイフ等、攻撃の手札も豊富である。特にⅣの時はゾンクナックルという飛び道具無効で上半身無敵な超判定の技が強力だった。ボタンを押し続けるタイプの溜め技なので乱発は出来ないし行動に制限がかかるのだが、高難易度のCPUや一部のプレイヤーはそんなの関係ねぇ!とばかりに本当に溜めているのか疑わしいタイミングや間隔で使用してくる。本当にやめてほしい。ただ、バックステップや通常移動の性能が悪く、切り返しに向いた技がかなり少ないので守勢にまわると意外と脆かったりするのだが。

 

 まあ、そんな感じで俺の中でのコーディーは『一対一が基本の格闘ゲーム』のイメージだったんだ。うん、この光景を見るまではね。彼の出身が『雑魚を薙ぎ倒して進むベルトスクロール』だということを思い知らされた。

 

 「オラァ!!」

 

 それは暴風だった。彼が腕を振るい蹴りを繰り出す度に周囲にいたキーヨウの手下達が吹き飛ばされる。それも複数同時に。コーディーには一番多く敵が群がっていたのだが、それを全く物ともしていない。囲まれて死角となる筈の背後から攻撃を仕掛けられても当たり前のように躱して逆にカウンターをいれていた。いや、それ自体は俺でもできなくはないがあまりにも動きが自然体でスムーズだった。まさに『息をするように』って感じ?しかもその吹き飛ばした相手を更に別の敵に蹴り飛ばしたりしてるし。まさに手が付けられないほどの大暴れである。あれだ、まさにコーディー無双である。もしくはコーディーBASARA。

 

 「ハッハーーッ!!どうしたぁっ!!俺を殺すんじゃなかったのかよ!!」

 

 「く、くそぉ!!こうなったらコーディーに戦力を集中「でえいやーー!!」「グワー-!!」...集ty「ぬうん!!」「ぐびゃ!?」...ええい!!お前等なにしてやがる!!それだけの人数がいてなぜ抑えきれねーんだ!!いったいいくら払ったと思ってやがるんだぁ!!」 

 

 「で、でもよぉ!!コイツ等強すぎるぜボスぅ!?一人でもヤベーのに3人とか話が違うじゃね ぎぃやば!?」

 

 コーディーだけでなくガイやハガーの暴れぶりも凄まじい。ガイは縦横無尽に裁判所内を駆け巡り一般人を狙っているやつや、ナイフなどの武器を持った厄介そうな相手をつぶしてくれている。それにしても恐ろしくキレのある身のこなしである。スピードもそうだが、それ以上に動きの無駄のなさや急所への正確な攻撃が際立っている。なんというか、『速い』というより『(はや)い』のだ。さすがニンジャ。手数の多さで囲まれても全く問題になっていない。ワザマエ!

 

 ハガーは手近な敵からちぎっては投げちぎっては投げといった感じでキーヨウの手下を片付けていく。基本的な攻撃スピードは投げを織り交ぜているのでコーディやガイより遅いが、ほぼ確実に一撃で相手をダウンさせているので二人のペースと比べてもなんら遜色はない。敵に囲まれた時に繰り出した『ダブルラリアット』なんて見ているだけでぞっとするような迫力だった。あの丸太のように太い腕が高速で回転しながら襲い掛かってくるのだから敵にしてみればたまったものではないだろう。実際喰らったキーヨウの手下たちは見事に全員吹き飛ばされてダウンしていたし。

 

 「先にガキや弁護士を人質にすりゃあいいだろうが!!はやく「いっくよー!!はあっ!!」「ごふぅ!?」「オーッホッホッホ!!オーッホッホッホ!!」「ありがとうございばずっ!?」......ホッ?」

 

 どうやらコーディー達の動きを制限するべくサマヨイちゃんや狩魔リン、ついでに俺を人質にしようとしたみたいだが......悪いがそこまでみんな弱くはないんだ。サマヨイちゃんや狩魔リンの中の人、サクラとカリンはそもそも非常に才能に恵まれていた。カリンは神月の名に恥じぬようにと様々な格闘技の修練や最新の技術や器具を使用したトレーニングで既に並の大人では相手になれないレベルの実力者だ。神月邸に重力トレーニング室があった時は柄にもなくオラすんげーワクワクしたぞ!!......ゲフン、失礼ちょっと思い出したら興奮してしまった。

 

 サクラもそんなカリンに負けじと家の道場での修行や、サイキョー流の道場でダンから教わったリュウ達の流派の技を体得するなど凄まじい成長をみせ、カリンとの模擬戦でもほぼ互角に戦い、勝ち越してさえいる程だ。もともと原作でも憧れで格闘を始めて短期間であるにもかかわらず、カリンを相手に勝利した程の才能の塊だ。それよりも前にしっかりとした指導を受けるとどうなるか、考えるまでもない。考えたくもなかった。

 

 「はああぁーー!!『春雷拳(しゅんらいけん)』!!」

 

 「ぎゃばぁっ!?」

 

 サマヨイちゃん......いや、サクラの正拳突きを腹に受けた敵が崩れ落ちる。実はこの正拳突き、ただの正拳突きではないのだ。殴った瞬間に我道拳の要領で気弾を発生させて威力を底上げしているのだ。たかが気弾と侮るなかれ。サクラは瞬間的に波動を発生させることに凄まじい適正があったらしく、飛距離はほぼゼロだが波動拳すら上回る威力をはじき出す。この技を習得することによってサクラの火力が劇的に向上した。原作でのサクラはどちらかといえば高火力なキャラだったが、それはコンボ等の手数によるところが大きい。つまり一撃の重さはなかったのだが、その欠点を補う結果となった。

 

 ......実はこの技、俺が発案したんだよね。名前も俺がつけました。春の雷のような鮮烈な一撃って感じで。いや、サクラが強くなるのは一向に構わないんですが、その高くなった火力で一番ダメージを受けるのは俺な訳で。自分の首を全力でネックハンギングツリーしてしまった気分ですよ。日に日に俺への攻撃力が増していくんです。組み手とか、技の練習のときとかに後悔が押し寄せてきます...もう手遅れだけどね!

 

 「オーッホッホッホ!!狩魔(神月)流操鞭術が一つ、『円舞』!」

 

 「あひぃ!?」

 

 「ぐへぇ!?」

 

 「んほぉ!!」

 

 円を描くように振るわれた鞭はカリンの周囲に迫っていたキーヨウの手下を凪ぎ払う。どうやら本当に鞭を習得しているようで、倒せこそしていないが複数の敵に相当なダメージを与えている。心なしか嬉しそうな奴がいたような気がするが、そのあと追撃を喰らって普通にダウンしていたので問題はないだろう、たぶん。

 

 「糞アマがぁ!!俺は鞭で打たれるのは趣味じゃねーんだよ!あとどちらかといえばロウソクとかが好きだァー!!」

 

 少し離れた位置からそう叫びながらカリンに突進していくキーヨウの手下。どうでもいいが後半のカミングアウトは必要なかっただろ。というか結局お前もMなんじゃねえかよ。

 

 「あらあら、熱いのがご希望でして?ならお望み通りにっ!『神月流!獅吼拳(しこうけん)』っ!!」

 

 「ごぱぁ!?こ、これは、これで、、、がくっ」

 

 鞭を自分の上空に放り投げてからカリンが両手で放った赤い色の気弾に顔面を撃ち抜かれ、哀れ変た...キーヨウの手下は崩れ落ちた。倒れる瞬間に少し嬉しそうだったのは気のせいだと思いたい。......というか、さっきから変態の割合多くない?新生マッドギアとかいってたけど、やはり大部分は急造の寄せ集めなのかな。

 

 そんなことより今はカリンの技についてだよね。俺の波動拳を見てから『自力で習得しますわ!』的なことを言っていたわけだが、本当に習得してきたからねこのスーパーお嬢様。しかも半年かかってないし。ちなみに技名はカリン自らつけたものだ。何でも獣の王者たる獅子の咆哮をイメージしているとのこと。あと、至高(しこう)の拳という意味もあるらしい。性能は波動拳に近いが気弾の色は赤く、しかも何やら熱を帯びている。例えは悪いが熱々のオデンを押し付けらたくらいでかなりのものだ。俺の記憶にあるカリンはケンやダルシムみたいに炎を出したりはしてなかったと思うのだけど、紅蓮拳って技もあるし案外炎を出せるようになるのかもしれない。あと、若干だが形がライオンの頭部に見えなくもない。タ〇ガーバズーカじゃ!!あ、空中に放り投げられた鞭はちゃんと華麗な動作でキャッチしてました。

 

 「くらえやーーー!!」

 

 「おっと」

 

 危ない危ない。サクラやカリンの方に気をとられているとキーヨウの手下が俺にも殴りかかってきた。躱してバックステップで距離をとる。そういえば俺も対象でしたね。幸い強いのは混じってないみたいだし、俺も頑張るとしますか。現状は義手と義足で動きにくい訳だがそこまで違和感はないしね、流石は神月製。耐久性のチェックも兼ねているから遠慮なく使っていいとカリンからも言われてるし、殴ったりしても問題はない。

 

 「なめやがって~~!俺もいってその悪趣味な仮面をぶち割ってやるぜーー!!」

 

 「俺も行くぜ~!!」

 

 先程殴りかかってきた手下とは別に、二人ほど奥からこちらに向かって走ってくる。いい具合に一直線上だな。ここは『アレ』の出番だな!サガットと出会った時からこの三年、俺だってちゃんと強くなってるんだからな!

 

 「おおぉーー!!『螺旋波動拳(らせんはどうけん)』っ!!」

 

 「「「おごぉう!?げはぁっ!?」」」

 

 放たれた波動は螺旋を描くように回転しながらキーヨウの手下3人を『貫いた』。怯んだ3人にすかさず追撃してダウンさせる。うん、義手と義足だからいつもより速度は出ないけど、その分痛そうな音がしたな。

 

 ――説明しよう!『螺旋波動拳』とは最近習得した技で、なんと相手を貫通する波動拳なのだ!つまり、『ガード不能』な技なのである!!どうだ!凄いだろう?威力だって通常の波動拳より高いんだぞ!

 

 ......実際はそこまで凄い技じゃないんですけどね。そもそも一対一の状況が多い格闘技では貫通させても当てる相手がいないので意味ないし。ガード不能だけど、その分やっぱり気を溜めるのに時間かかるし隙も多くなる。波動拳より威力が高いといっても決定打になる程ではないし。あと、普通に波動拳撃つよりかなり疲れる。つまり、結構な隙をさらしているのに『ガード不能』以外のメリットがほぼないのだ。技の硬直も長いので避けられると今回みたいに追撃とか出来ないし、サクラやカリンとかに使うと手痛い反撃が確定するし。なのでほぼ実戦では使わない技の一つだったりするのだ。......なんかこういう技多いよね、俺。

 

 ちなみにこの技、ソニックブームの練習中に出来た技だったりします。あの技は腕を振るう時に生じる衝撃波を気によって強化して打ち出してる......のかな?いまいち原理がわからなかったので、せめて形だけでも似せられないかな~って思いましてね。気弾の形を変化させられないか試行錯誤してたら最終的に何故かこんなん出来ました。途中で『グレン〇ガン』のシモン(後期)がやってた『掌の上でエネルギー的な何かをドリル状にして回す』を取り入れたのが原因なんじゃないかと思う。

 

 習得した当初は、『魔貫〇殺砲習得きた!これでかつる!』とか思ったりもしたのだが、いざサクラとの組手で実際に使ってみると俺には捨て身で敵を羽交い締めにしてくれるカカ□ットさんはいなかったので普通に避けられてお腹に咲桜拳を叩き込まれました。それまでの組手で一番勝つのが危うかったと思う。現実は非情である。

 

 「く、くそっ!!なんで弁護士やガキ共までっ!?おい外の奴らは何してやがる!!もうとっくに全員ここに来れる筈だろうがぁ!!」

 

 「そ、それが、外にも化け物みてーに強い奴がいやがるんでさぁ!最初は仲間かと思ってたらいきなり暴れだしやがって、しかもあのモヒカン野郎チェーンまで振り回して手がつけられないんでさぁ!」

 

 あ、バーディーもちゃんといたのね。一応カリンのボディーガードだし、いないのはおかしいと思ってたらどうやら裁判所の外で大暴れしているらしい。そのお陰で裁判所に入ってくる人数が少なくなってるみたいだ。あとやっぱり仲間と間違われるよね、あの見かけだと。

 

 「な、なんだとぉ!?ええいっ!それでも人数はこっちが圧倒的なんだ!!囲めぇ!!ん?おい!貴様何してやがる!!」

 

 「!?い、いや~本官は関係ないだろ?だからちょっくら外の空気でも吸いにいこうかと思ってな~。......なあ、見逃せよ。元々同じ男の下で働いた仲間じゃねーか、な?」

 

 こそこそとこの場から離脱しようとしていたのはエディ・Eだ。見つかってからすかさず見逃せと保身に走るあたりはさすがである。

 

 「ふざけんなこの裏切り者のコウモリ野郎がっ!!テメェ等!そいつも逃がすんじゃねぇ!!」

 

 「ぐおっ!?何てことしやがる!?くそっ!!こうなりゃヤケだ!てめー等全員逮捕して手柄にしてやる!!」

 

 どうやら逃走することは無理だと判断したのか一転してキーヨウの手下と交戦し始めた。腐っても元マッドギア幹部といったところか、警棒で殴りつけてガムを食べたり投げ飛ばしたりガムを噛んだりと、キーヨウの手下を倒していく。ガムを噛むのをやめないあたり意外と余裕があるのかもしれない。

 

 エディー・Eのまさかの参戦や外で暴れているバーディーのおかげか、いつの間にか裁判所内の敵はかなり少なくなっていた。大半はコーディーやガイ、ハガーの三人が蹴散らしていたが、サクラやカリン、ついでに俺も何人か倒したので相当なハイペースだと思う。このままいけばもう少しで片付きそうだな、そう思った時だった。

 

 「おい貴様ら動くんじゃねーー!!こいつがどうなってもいいのか!!」

 

 「き、君。な、なにをす「うるせー!!黙れジジイ!!」む、むぅ」

 

 声のほうに視線を向けてみるとそこには銃を突き付けられた裁判長の姿があった。銃を突き付けている男は警察の制服を着ていた。ん?あれってコーディーと最初に会った時にいた性悪警官じゃね?なるほど、警官の姿をしていたから......というかそもそも一応本物の警官だったから裁判長に近づけて人質にとれたわけか。

 

 「おお!!でかした!!お前は新生マッドギアの幹部にしてやるぜ!!おいコーディー!!裁判長を撃たれたくなきゃー大人しくしやがれ!!」

 

 「......なんと卑怯な!!」

 

 「くっ!拙者としたことがまさかあのようなものを見落とすとは...不覚!!」

 

 「......ちっ!」

 

 裁判長を人質にとられ動きを止めるコーディーたち。まだ何人かキーヨウの手下は残っているし、このままでは少しばかり不味いことになりそうだ。まあ、『このまま』なら、だけど。

 

 「ひゃーはっはっはぁ!!どうだコーディー!!人質がいる今貴様らは手も足もでないだろ「 異 議 あ り っ!!!」な、なんだ!?」

 

 異議ありの声と共に左手をビシッと性悪警官に"つきつける"。そしてその姿勢を維持したまま問い掛ける。

 

 「『手も足も出ない』今、あなたはそう発言した。間違いありませんね?」

 

 「なんだぁ?イカれちまったのかぁ?その通りだろうが!!俺はジジイに銃を向けてる。しかもお前等からこんだけの距離がある!!おっと!おかしな真似はするんじゃねえぞ!!少しでも何かしやがったらわかってんだろうな!!」

 

 そう言いながら性悪警官はコーディーやガイ達を見回しながら警戒する。だけど残念、『おかしな真似』はもうしているんだ。あとは一瞬でも銃口が裁判長から離れればいい。

 

 「それはおかしいですね。だってその拳銃......安全装置がかかったままじゃないですか!!」

 

 「あ!?んな訳ねーだろうが!誰が騙されるか!このインチキ弁護士がぁ!......。」

 

 もちろんハッタリである。しかし、人はこういう時、いや、こういう時だからこそ"確認せずにはいられない"ものだ。そして性悪警官も口では否定しながらも安全装置を確認した。そしてその瞬間銃口が裁判長から外れた。今だ!!ひっさぁぁつ!!

 

 「━━ロケットォォパァァンチーー!!」

 

 「な!?ごべぁ!?」

 

 俺の性悪警官に突きつけられていた左腕が勢いよく発射されそのまま顔面に吸い込まれるように命中した。予想以上に速度がでていたし、俺のしているバイザーにロックオンの表示もでていたし流石の神月クオリティー。......医療用って話じゃなかったかな、この義手。まあ今回は役に立ったからいいんだけど。

 

 「今でござる!!でやぁ!!」

 

 「げはぁっ!?」ガシィッ!!

 

 「人質をとるなど卑劣なやつめ!!ぬうん!!コーディー!!」

 

 「おう!━━あんときの分だ!しっかりと受け取りな!!」

 

 怯んだ隙に急接近したガイが性悪警官を蹴り飛ばす。そしてそれをハガーが空中でキャッチしてコーディーへと投げ飛ばす。そして着地予想地点の少し前方には『いい笑顔』を浮かべたコーディーがスタンバイ。鉄拳で叩き落としたあとに蹴りのフルコースをお見舞いした。なにこの連鎖こわい。

 

 「がっ!?やべ!?ぐべ!ギィ!?だば!?」

 

 ドサァッ!!

 

 「ふぃ~。少しはスッとしたぜ!さて...後はテメエだけだぜ?ゴリラ野郎」

 

 「な、なんだと?はっ!?」

 

 コーディーの台詞にはっとしたように辺りを見回すキーヨウ・ジンジャー。いつの間にかあれだけ沢山いた手下は片付けられ、裁判所にキーヨウ1人という状態だった。アメリカだからかかなり広い筈の裁判所はところ狭しとダウンした手下だらけである。

 

 「ま、まだだ!!外に!外にはまだ俺の手下がいる!」

 

 「その手下ってのはコイツで打ち止めらしいぜ?ほらよ」

 

 声と共にキーヨウの目の前に手下が降ってくる。入口に目を向けてみればバーディーが立っていた。いつものパンクな格好だったからかハガー達が一瞬身構えたが、言動からすぐにこちら側の人間だと気づいたようですぐにキーヨウに向き直っていた。

 

 「カリ…じゃねぇや、カルマお嬢様よう。給料分の仕事はちゃんとこなしてきたぜ」

 

 「当然ですわ!仮にもこの私につかえているのですから!オーッホッホッホ!!」

 

 「ぜ、全滅だと!?ウホッ!?そ、そんなバナナァーー!?」

 

 どうやら外にいた手下も全て片付いたらしい。流石はバーディーである。それにしても高笑うカリンと絶望の叫びをあげるキーヨウのコントラストが凄いシュールである。

 

 「う、ウホォォォーー!!これは使いたくなかったが……(プスッ)。ごうなっだらゴーディィー!!貴様だけでもごろぢでやるぅーーー!!ウガァァアーー!!!」

 

 完全に自棄になったのか怪しげな薬品を自身に打ち込みコーディーへと突進するキーヨウ・ジンジャー。その姿はまさにバーサクゴリラ。遊○王にそんなモンスターいたな、確か。

 

 「━━Jackpot!!フンッ! デヤッ!ヘイッ!」

 

 「ウゴッ!?オウフッ!?ウボァッ!?」

 

 薬で強化していたとしても単純な突進がコーディーに通じる訳もなく、顔面に強烈な一撃を受けてその勢いを止めたところに連撃を叩き込まれていた。しかもまだコーディーの攻撃は終わっていない。

 

 「デヤッ!そおら!━━Finish!!」

 

 「ウガ...ッ!!ウ、ウホ...」

 

 ドチャアッ!!

 

 連撃の後に蹴りあげてからのとどめのクリミナル━━いや、トルネードアッパーが炸裂した。本当にトルネードのような旋風を伴う一撃を受け、今回の事件を引き起こした真犯人キーヨウ・ジンジャーはそのまま落下して動かなくなった。

 

 「はぁ。薬使ってその程度かよ?つまらねーな。眠くなっちまいそうだぜ」

 

 「お、終わったのですか?良かった」

 

 警備員達に守られていた裁判長が安堵の声をもらす。まあ、人質にとられたりして大変だったもんな。まっ!それはともかく、だ。

 

 「裁判長、お疲れのところ申し訳ありませんがコーディーさんへの判決をお願いします。それで今回の事件は本当に終わりですから」

 

 飛ばした左腕の義手を回収してつけ直しながら裁判長に判決をお願いする。ほら、大乱闘しちゃったけど裁判してたわけだしね。

 

 「おお!それはそうですな。では検察側から何もなければ判決を......アウチ検事?」

 

 「髪が......私の......髪がぁ」

 

 そこには魂が抜けたように放心しながらぶつぶつと嘆き続けるアウチ検事がいた。実はさっきの乱戦の時に、怪我はなかったのだがキーヨウの手下の1人が振り回したナイフによってリーゼント部分がすっぱりと切られてしまっていたのだ。今はいうなれば『落武者ヘアー』である。敵であったがこれには同情を禁じ得ない。

 

 「怪我はなかったけど、毛がなくなったんだね!」

 

 おいサマヨイちゃんなに『私上手いこと言った』みたいな顔してんの?ただのダジャレじゃないか。全然上手くないからね。あと流石に可哀想だから大きな声で言うんじゃありません。ほら、アウチ検事痙攣して白目むきだしたじゃないか。

 

 「えー、どうやら検察側は何もないようなので今回の事件の判決を言い渡します。判決!」

 

 

 

━━ 無 罪 ━━

 

 

 

 「やったーー!!やったねライト君!!無罪だって!!」

 

 「ふう、どうにかなったね。おめでとうございますコーディーさん。......最後の方はかなり荒っぽくなってしまいましたが」

 

 結果はともかく過程がな~。弁護士としては不完全燃焼というかいまいちスッキリとしない。まあ、もともとカリンが来るまで耐えきれば勝ちだったんだけどね!アウチ検事は自分が楽に勝てる裁判だと思ってたみたいだけど、実はこっちの方が有利だったていう。あまりに弁護側に情報がなかったのには驚いたけどね。絶対一度裁判制度を見直すべきだと思う。

 

 「ライト弁護士、コーディーを救ってくれて本当に感謝する!本当に、本当にありがとう!」ガシィ!

 

 よほど嬉しかったのかハガーがハグしてきた。戦友であり娘のボーイフレンドでもあるし無理もないのかもしれ......えっと、ちょっと力強くない?なんか体がミシミシいって痛い痛い!!シャレになってないってマジで!

 

 「はっ!?す、すまない!興奮して少し力が入りすぎてしまった。それにしても弁護士殿は見た目よりもだいぶ細身なのだな。大丈夫ですかな?」

 

 「え、ええ、大丈夫ですよ」

 

 キーヨウの手下と対峙してた時より命の危険を感じたけど。

 

 「サマヨイさんが8人、私も8人。ライトさんが9人くっ!?僅差で負けた!?やはり鞭はやめておくべきだったかしら」

 

 「でもこの服動きにくいよねー、もう少し足とかが開ければア…ライト君にも勝てたのにー」

 

 カリンとサクラが対決の結果でなにやら文句を言っている。二人は俺よりも暴れていたが、ちょっと位置が悪かったな。二人が攻撃した相手の結構な数がコーディーやハガーの攻撃に巻き込まれていたからね。俺は逆にコーディーとかの攻撃から逃げてきた奴とかを重点的に処理していたので結果として"倒した"敵の数はカリンが言った通りになった。

 

 「それにしても流石はメトロシティの英雄達といったところかしら。コーディーさんが32人、ガイさんが25人、ハガー市長が23人。見事な闘いぶりでしたわ!あとはあの警官が4人、バーディーが16人ですか。全部で125人ですわね。あの男、自分の手下の数も正確に把握していないとは所詮人の上に立つような器ではなかったということでしょう」

 

 「そちらもその若さにして見事な手並みでござった。弁護士殿も先程の拳を飛ばす『ロケトォパンッチー』だったでござるか?裁判長を無事助け出せたのはあの一撃があればこそ。まさにナイッスタァイミーングゥでござった。コーディー殿もお救いいただき、拙者もハガー殿と同じく礼を言わせていただくでこざる」

 

 「最後に一暴れできたし、無罪にしてもらったんだ。俺に文句なんかねえよ。まあ、ちょいと暴れ足りなかったけどな」

 

 コーディーは一番多く敵を倒していた筈なのにまだ暴れ足りないらしい。あとガイさんは何で苦手なのにわざわざ横文字使うんだろうか。

 

 「それにしてもライト弁護士。本当に報酬はアレで良かったのかね?こちらとしてはもっと別の形でも構わないのだが」

 

 「いえいえ、大丈夫ですよ。もともとアルバート殿からの依頼という形でしたし」

 

 "報酬は全部アルバートおじいちゃんに請求するのでハガー達からはいらない"とサマヨイちゃんに先に伝えるように頼んでおいたのだ。流石に自分達が直接報酬を支払わないという点にハガーは遠慮しているのだろう。問題ないと肯定しておく。

 

 「ふむ、ならいいのだか。それにしても『我々3人との組手』と『デッドラインのハンバーガー』だけでは少なすぎるような気がするのだが」

 

 ......ん?

 

 「ハンバーガーくらいならいつでも奢ってやるさ。それにあんたらはさっきの奴らより楽しめそうだし俺としては大歓迎だぜ」

 

 んん?なにかおかしいなー。あれ?何で逃げようとしてるのかな~サクラ。

 

 「にゃっ!?え、えーとね、その。にゃははは」

 

 とりあえずこそこそと逃げようとしていたサクラの首根っこを捕まえて無言でバイザー越しに睨んでみる。笑っても誤魔化されませんよ。

 

 「説明」

 

 「その、ライト君、せっかく勝ったんだから今はいいじゃ「説明」コーディーさん達の闘いを見ていたら我慢できなくてやった、今は反省している。あとお腹すいてて、つい」

 

 "つい"で勝手に組手の約束とかやめてくれませんかね!?お前ケン・マスターズと会うのがそもそも今回の目的だっただろ!そこでも組手してもらう予定なんだぞ!しかも『我々3人』ってハガーとガイも入ってんじゃねーか!!しかもコーディーがノリノリだし絶対無事にすまないだろこれ!

 

 「あ!さっきみたいに叫ぶの?あれいいよね!なんかカッコいいし!」

 

 「褒めてもこの後のお仕置きは変わらないからね?まあ、それはともかく言わせてもらおうかな......」

 

 

 

 『  異  議  あ  り  っ!!!』

 

 

 




※この小説はストリートファイターの小説です。

 ストリートファイター5ではゼネラルストーリーが配信されハイスコアガールの新刊も発売された今日この頃、皆さんはいかがお過ごしでしょうか。とりあえず、公式とバーディーの設定が被るとは思わなかったです。というか、ゼネラルストーリーのせいで色々と今後の予定に修正が必要になったりしましたが。おのれカプコン。

 次回は外伝のエピローグと14話の導入部分です。アル達がなぜ複数の敵とそれなりに闘えたのかなども次回で説明します。そして次回はリュウの宿命にして永遠のライバルのあの人が登場予定です!2Pキャラとか色違いとかは言っちゃだめだぜ!眉毛が金色だったり黒だったり、目の色が青だったり茶色だったりするのも突っ込んではいけないぜ!

 赤い道着の金髪「昇龍拳!ってね!」

― おまけのミニコーナー『勝手に勝利セリフ』 ―

―――対 成歩堂龍一(出典:逆転裁判シリーズ)

勝利時:日向涼「とりあえずなぜただの弁護士のはずの貴方がそんなにもタフなのか異議を申し立てたいところですね。......あと、ミサイル(犬)撫でさせてもらっても構いませんか?」

敗北時:ナルホド君「ふう、これでこの勝負は僕の勝ちだね!え?傷害と暴行の現行犯で訴える!?ど、どうしよう真宵ちゃん!反論できないよ!?」

―――対 白浜兼一(出典:史上最強の弟子ケンイチ 割と初期の頃の)

勝利時:日向涼「なんで序盤は全然攻めてこなかったんです?え?女の子だと思ってた?......ほう」

敗北時:白浜兼一「僕なんかと違ってこんなにも綺麗な顔をしているのに......何故だろう?凄くシンパシーを感じる。なんとなくだけど、地蔵的な意味で」

 こんな感じで本編では実現できそうにないキャラとの戦闘後のセリフを考えてみました。活動報告のコメント欄に希望をくれたらわかるキャラなら次の話のあとがきに書いていくかも。ただ、この日向涼(アルトリウス)はその時点での強さをもとにして考えてるので、あまり強すぎるキャラだと今の段階では書くことができないのでご注意ください。


 本編中の新技解説

 『春雷拳』
 サクラに足りない一撃の火力を補うために(主にアルが)試行錯誤した結果誕生してしまった技。飛び道具としての性能は皆無だが、若干リーチは伸びる。まともに入れば(鍛えてない)大人でも一発で沈める威力がある。技のイメージとしてはKOFの紅丸の雷刃拳が近いかな。

 『獅吼拳』

 カリンが編み出した赤い飛び道具。熱を帯びているが現時点では燃えるほどではない。技のイメージというか、作者の中ではらんま1/2の『猛虎高飛車』と同じ原理で出していることになっています。......わかる人いるかな。

 『螺旋波動拳』

 ゲームだと恐らくEX技扱いになるガード不能な飛び道具。発動までが遅く、硬直も長め。貫通するといっても通り抜けるだけで本当に身体に穴が開いたりはしません。天元突破もしません。まかんこうさ○ぽう。

 
 長らく間が空いてしまったので主人公についても軽くおさらい

 名前は日向涼。英名はアルトリウス・E(エリオット)・ヒューガー。見た目はプラチナブロンドでオッドアイな男の娘。春日野さくらとは生まれてすぐからの幼馴染。一応、転生者っぽい存在。原作知識というか、ストリートファイターはウル4までの知識しかありません。格闘の才能はあんまりない。

 こぼれ話としては名字の日向は両親由来で決まったが、名前の涼は『リュウに響きが似てて女とも男ともとれる名前』ということでこの字になりました。リョウという名前は某極限流と同じですが、今のところ彼は出る予定がないのでいいかなってなりました。ちなみに作者の中でのイメージソングは『シュガーソングとビターステップ』だったりします。戦闘時とか決戦時はまた別の曲ですが。

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