明日に波動拳   作:路傍の案山子

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本当に、本当に長い間お待たせしてしまって申し訳ありませんでした。
前回の活動報告ではもう少しで投稿できるというようなことを書き込んでおりましたが、諸事情により嘘をついてしまったような形になってしまったこと、本当に申し訳ありませんでした。

投稿が遅れた理由つきましては、活動報告に書かせていただきますが、あまり気分のいいものではありません。どうしても気になる方以外はご覧になられないほうが良いかもしれません。結局は言い訳になってしまいますし、気にならないなら「しょうがない奴だなぁ」って流してそのまま本編だけ読んでいただきたいです。この作品はどちらかと言えばそういう作風なので。

とにかく、本当にお待たせいたしてしまいました。
それでは、どうぞ。


14話 燃やされたぜ昇龍裂破

──前回までのあらすじ

 

「ケン、昇龍拳で来い...!」

「昇龍...裂破ァ!!!」

「え?ちょっ!?待っ ぐわあああああーーーッ!!」

「「「あ、アルトリウーーース!?」」」

 

 

 

 あっ、どうも。全力を尽くしたにも関わらずケンにまともに一撃をいれることもなく無様に敗北した日向涼ことアルトリウス・E・ヒューガーです。本当に調子にのってすみませんでした、はい。あと、一応言っておくと将来的に斧を持つ予定とかは特にありませんよ!

 

 あの後、俺はしばらくして意識を取り戻したんだけど、その間にサクラ達とケンの試合は全て終了してしまったらしい。医務室でジョンさんが教えてくれた。

 俺が起きるまで待つという案もでたらしいのだが、サクラが「アル?大丈夫へーきへーき!いつもこんな感じだけどそのうち起きてくるから!そんなことよりケンさんはやくファイトしようよ!!もうさっきから早く闘いたくってウズウズが止まらないんだ!」と試合を始めることを強引に決めてしまったらしい。

 自分の欲求を抑えきれなかったのだろう。一応その場にいた医療班の人が本当に問題はないかを確認してくれたらしいが、少しくらい問題があったとしてもあの戦闘狂(サクラ)は押し通していただろう。俺はサクラへのお仕置きを厳しくすることに決めた。具体的にいうと『おやつ抜き』である。

 

 で、結果としては体が温まっていたケンに押し切られて敗けたらしい。まあ、サクラとケンはかなり似たタイプのファイトスタイルだからね。同じような闘い方なら地力の差がもろに出るからなぁ。

 それでもサクラは自慢の瞬発力を活かしてかなり食い下がったらしい。俺が当てられなかった有効打も何発かいれることに成功したらしいのだが、最後は春雷拳を放ったところをクロスカウンター気味に迎撃されてダウンしたとか。俺の時みたいに油断しているわけでもないケンを相手に食い下がれる小学生か......コーディー達との手合わせの時に思ったけど、控え目にいっても化け物です。

 

「あっ!アル起きたんだ!ケンさんすっごく強かったね!私まだワクワクがおさまらないよ!」

「そうか。楽しかったのは十分伝わってるよ。だから俺の服を掴んで揺さぶるのをやめような?な?」

 

 負けたというのにもの凄くイイ笑顔である。それにしても本当にこの興奮すると俺を揺さぶる癖どうにかならないかな。こっちは気絶から起き上がったばかりなんですよ。まだ2発の昇龍拳...いや、昇龍裂破のダメージが抜けてないんだからな。ちなみにサクラはちゃんと良いところで静止が入ったらしく、気絶とかはしてないらしいです。......ちっ!

 

「やはり敗北とは悔しいものですわね。...しかしっ!今回は相応の手応えがありましたわっ!!次にまみえるときはこのカリンが勝利を手にしてみせますわ!!何故なら私は神月かりんなのですから!!オーホッホッホ!! 」

 

 カリンも敗北したわりにはいつも通り高笑いを響かせている。俺やサクラとの組手で敗北を繰り返した結果、原作よりもそういったことを気にしなくなってきている...というよりそれをバネにさらに強くなっていくような気がするのだ。

 自身の勝利へのこだわりなどは変わっていないらしく、『敗北を糧にしてさらなる高みを目指しますわ!』という感じで原作よりかなり敗北を前向きにとらえることができているようだ。というか、徳川家康的な思考とでもいえばいいのだろうか?そういうものを習得して精神的にどんどんタフになっている。なんというか、原作でも凄まじかった王者の風格が更に増してきているんだよね、最近。

 今回のケンとの手合わせでもカリンが一番健闘していたんじゃないかと思う。ケンに何発か有効打を当てた上、三人の中で一番長く試合をしていたというのだから驚きである。最後にはラッシュで押し切られて静止がかかったらしいが、大健闘といえるだろう。今回の手合わせでなにか手応えがあったようだし。流石に次に会うときに越えるのは難しいだろうが、いつか本当に勝ちをもぎ取りそうで困る。だってその過程で俺が踏み台にされてるビジョンがありありとみえるような気がするんだ。

 

「お!気がついたのかアル!最後の一撃は手加減をミスっちまったからハラハラしてたんだ!サクラちゃんは大丈夫っていってたけど、やっぱり実際に確かめないと心配でな!......それにしても本当に大丈夫そうだな。久しぶりに凄ぇ良い一撃が入った感触があったんだがなぁ」

 

 サクラ達と話しているとケンが話しかけてきた。試合後の汗を流してきたのか、少し長い金髪をタオルでぬぐっているし、道着も新しいものになっている。

 そういえばケンの髪はまだそんなに長くないな。これがZEROシリーズの時は凄いロン毛になるから時期の特定に役立つかもしれない。ZEROシリーズの時は諸悪の根元であるベガの動きがかなり活発っぽいからね。要注意である。

 というか手加減ミスってたんですね。どおりで凄まじい威力だった訳だ。実際、顎が割れるかと思いましたよ。それはそれでダンディーさがアップするかもしれないけど、この顔立ちだとどうしてもアンバランスになるからなぁ......。

 

「心配してくれてありがとうございます。大変不本意ではありますが、慣れているので」

「そうそう!アルってすっごく丈夫なのによく気絶するんだ!なんでだろうね!」

「あはは~、なんでだろうなぁ!原因(サクラ)!」

 

 大抵お前のせいだからな!後はおじいちゃん達の修行だけど、だいたいトドメ刺すのお前(サクラ)だからな!

 

「そ、そうか。まあ大丈夫なら良いんだけどよ。それにしても本当に今回の手合わせは燃えたぜ!三人とも将来が楽しみ「...ケン?」違う!そういう意味じゃないから!格闘!格闘的な意味でっ!!」

 

 一瞬イライザさんの瞳からハイライトが消えたように見えたが、慌ててケンが訂正するとすぐに違和感はなくなった。......うん!きっと気のせいだね!

 

「と、とにかく!三人とも本当に手強かったぜ!ぶっちゃけ最近のスパーリング相手より普通に強かったしな!......特にアル!『鬼灯』だったか?あれには本当にヒヤッとしたぜ。思わず手加減を忘れちまうくらいにな!」

「え?でも俺だけ有効打とか入れてないみたいですし...」

 

 結果だけみると一方的にボコボコにされただけなんですけど。

 

「そんなことはありませんわよアルさん。私達三人の中で、最もマスターズ氏の本気を引き出していたのは間違いなくアルさんですわ。普段とは違った格闘スタイルでしたが、あの一撃に至るまでの過程はお見事でしたわ!悔しいですけれど、私には彼に手加減を忘れさせることは出来ませんでしたもの。まあ!それでこそ私の宿命のライバル2号なのですけれど!オーホッホッホ!!」

「まっ、そういうこった。誇って良いと思うぜ?なにせその歳でこの俺に一瞬とはいえ本気を出させたんだがらな!ハッハッハ!そんなに暗い顔しなくてもいいんだぜ?」

 

 カリンとケンがそう評価を口にする。余りにも不甲斐ない俺をフォローしてくれているのかと一瞬考えたが、どうやら心からそう言ってくれているみたいだ。まあ、途中まではほとんど作戦通りに運ぶことはできてはいたし、この年にしては頑張ったほうなんじゃないかと少しは思わないでもないよ?でも、それじゃあまだ足りないんだよなぁ。

 

 

 ......さて、いきなり話は変わるけどストリートファイターの原作ストーリーにおいて、一番最初の起点はどこかといえば、それは『リュウがサガットを倒す』という出来事ではないだろうか。それは初代ストリートファイターのエンディングであり、同時にストリートファイターシリーズの始まりでもあるからだ。もちろんそれ以前にも色々と事件などがあったりするんだけど、やはり一番わかりやすいのはここだろう。

 だからこの世界がストリートファイターの世界だとわかってからは、サガットが参加する大会等のチェックをかなりの頻度で行っていたんですよ。最近は下手すると片腕がなくなるかもしれなくなったので尚更チェックする回数が増えていたしね。それに、今は無名であるリュウは、どの大会に参加するかわからないしね。

 

 まあ、そんなわけでサガットの動向に注意をしていたのだが......最近になってその大会らしきものが開催される事が判明したんですよね。

 

 あまり初代ストリートファイターに参加するキャラクターを正確に覚えていないので、絶対にその大会だとはいえないんだけどね?だって本来参加する筈だったバーディーとか参加してないし。

 でも、烈とかいうお坊さんみたいな人や、激とかいう忍者みたいな人、それにバイソンのそっくりさんなボクサーのマイクという人が出場しているらしいのだ。あとは李という中国人も出場していた。たしか、原作キャラのユンとヤンの親戚なんだっけ?ただ、イーグルと元は確認出来なかったんだけどね。でも、ここに『無名の日本人青年格闘家』が破竹の勢いで勝ち上がって本選に出場したという情報が加わるのだからほぼ確実だと思うんですよね。......そして、その大会は開催中なのだ。現在進行形で。

 

 ━━━つまり、ついに原作が始まってしまうのだ。だから今回のケンとの手合わせは、俺の今の実力でどこまで『原作』に通用するかを確かめるという目的があったのだが....

 

「......でも、根本的には一撃も当てれてませんよね?」

「サクラ、3日間おやつ抜きね」

「ごめんなさい!!アル!だからそれは許してぇ!!」

 

 確かにその通りだし俺が仕込んだネタだけども、今この状況で(ミスト)を発生させられるとさすがにイラッとしてしまう。ついおやつ抜きの期間を2日も増やしてしまったが俺は悪くない。まあ、とにかく俺はまだ、原作キャラレベルの相手にはまるで歯が立たないという結果が出てしまったのはサクラの言うとおりなのだ。原作に介入し、『改変』するためには実力が足りなすぎる。......現時点で原作介入するのは諦めるしかない...のかなぁ。

 ストリートファイターは格闘ゲームだが、シャドルーという秘密結社(というか犯罪集団)が存在しているし、その首領であるベガが敵として登場する。そのため原作ストーリーにも様々な悲劇がおきていた。親族や友人を殺害されたり、恋人を拐われた上に洗脳されたり、乗っていた飛行機を墜落させられてジャングルで強制サバイバルさせられたり。これでもほんの一部なのであるから全く笑えない。既に起こってしまったものもあるが、原作ストーリー中に発生するものも当然存在するのだ。例えば......ナッシュさんのMIA(作戦行動中行方不明)とか。

 

 ナッシュさんが生死不明となるのは今行われている初代ストリートファイターからストリートファイター2の間である。つまり、あと2年もしないうちに発生してしまうのだ。しかも間というだけであって、実際はもっとはやく訪れるかもしれない。ナッシュさんとは3年前の初遭遇からそれなりに連絡をとりあったりしていて以前よりも親しみを感じているし、どうにか避けることができないかという想いが強くなった。甚八朗おじいちゃんのサインを送った時の普段からは考えられないテンションのお礼の電話とか凄かったのよ、ほんとに。ソニックブームの撃ち方とか、電話でだけどレクチャーしてもらったりもしたしね。

 

 だから、この三年間努力はしてきた。サクラやカリンにはいまだに敗けていないし、並の大人なら余裕をもって勝てるようになってきたしほんの少しだけ自信もあった。せめて原作キャラにまともにダメージを与えられるくらいになれば、もしかしたら何かを変えることが出来るかもしれないと淡い希望を抱いてたりもした。原作知識を利用すれば、格上相手でもそういう一撃を叩き込むことは可能かもしれないと思ったりもした。だから使いやすい技ではなく、隙があっても威力重視の『鬼灯』を習得したのだ。努力してきた...つもりだった。

 

 結果は何度も言うように『力不足』というものだったが。これではいい方向に改変するどころか、下手に介入すると足を引っぱって改悪なんてことになりかねない。そりゃあテンションも下がりますよ。修行とか比喩ではなく死ぬほどきつかったのに。おなじみの地蔵シリーズの進化は止まらないし、組手も相変わらずサクラとかが容赦なく乱入してくる。この前なんて「山に流れる河に息抜きで遊びに行こうぜ!」とか言って連れていかれたら滝に落とされた。河ではなく、滝に。20メートル以上の落差がある激流に。そのあと『なぜか』丸太が何本も降り注いできたりしましたし。それでもまだ足りないというのか.....。

 

「アル~、元気だしなよ!ケンさんすっごく強かったのになんで落ち込んでるの?私なんてアゲアゲ?...だよ!」

 

 『訳がわからないよ』とでもいいたげな顔で此方を見てくるサクラ。お前と一緒にするんじゃないこのバトルジャンキーめ。俺は繊細なんだぞ!......まあ今回の手合わせが楽しくなかった訳ではないし、勝手に関係ないことで落ち込んでる俺が悪いのだが。

 

「あっ!そっか!!カリンちゃんの試合とかアルはみてないんだっけ。バーディーさんも凄かったしでもやっぱりカリンちゃんが「待ってサクラ」 ん?どうしたの?」

「今バーディーさんがどうとか言わなかった?」

「うん!カリンちゃんの後に少しだけどバーディーさんとケンさんが闘ったんだよ!」

 

 なにそれ超見たい。原作キャラ対原作キャラとか超見たいんですけど!俺が気絶してるうちにそんな激熱イベントが発生してたの!?

 

「...ふん。2、3発打ち合っただけだ。大したことじゃねぇよ。......次はどっちがつえーかはっきりさせてやるからな」

「お黙りなさいバーディー。マスターズ氏は大会に向けての調整中。本気で闘おうとすれば試合を止められて当然ですわ。少しは神月の人間という自覚を持ちなさいな」

「ハハハ!すまんなバーディーさんよ!不完全燃焼させちまったみたいで。大会が終わったらまた闘ろうぜ!..まあ、負ける気はないけどな!」

 

 どうも俺達のケンとの手合わせを観ていたバーディーが、我慢できずに手合わせを申し込んだらしい。しかし、三度程打ち合った段階でお互いが相手の実力を見抜き本気(ガチ)モードに移行しようとしたので審判をしていたカリンに制止されたとのこと。まあ、大会前に闘うには流石にバーディーの本気はまずいよね。凄く見たいけど。

 

「...ふん。なら精々その大会とやらで敗けねーこったなぁ!」

 

 バーディーさんのツンデレ入りました~! 誰得だろう。それにしてもバーディーはリュウとも再戦の約束してるし、これでケンとも再戦の約束が出来た事になりますな。なんというか、凄い主人公っぽいフラグの建てかたですよね。『世紀末モヒカン伝バーディー』とかでも始まるのだろうか。

 

「おいアル、帰ったらスパーリングの回数増やすからな」

 

 なぜぇ!?

 

「お前は色々(と気兼ねなく殴ったりするのに)ちょうど良いからな。...それに何か今くだらねぇ事を考えられたような気配がしたしなぁ?」

「そ、そんな訳ないじゃないですか~。やだな~バーディーさんったら」

 

 す、鋭い。迂闊な事は考えないようにしよう。

 

「ねぇねぇ!アル!もう大丈夫ならトレーニング施設使わせてもらおうよー!もう使ってもいいんだよね?ケンさん!」

「おう!いつでも使えるようにしといてくれってジョンには伝えてあるからな。大丈夫だと思うぜ!なあ?ジョン!」

「はい。いつでもお使いできるようにしております。僭越ながら『KOUETUJI式激流葬プール』用の水着も御用意しております。ご案内致しましょうか?」

 

 えっ!?トレーニング用のプールの名前が予想よりはるかに物騒なんですけど!?なぜだか脳裏にチラチラ地蔵がよぎるし、気絶から起きたすぐに行きたくないんですが。というか、『葬』ってなんだよ!?プールについていい言葉じゃないだろ絶対!?

 

「えっと、ちょっと待っ「お願いしまーーす!!行くよー!アル!!」だから引っ張っる━━アッーーーーー!!」

 

 そのままマスターズ家のトレーニングスペースまで引きずられて連行された。

 

「はぁ~。まだ本調子じゃないのになんでこんなヤバそうなプールに入らにゃならんのだ。実際見てみると禍々しいオーラが漂ってるような気もするし。......やっぱり端の方で見学してよ「おまたせーーー!!とぉーー!」 ゴフぅ!?」

 

 ドボーーン!!

 

 そして水着にもなるというトレーニングウェアに着替えて例の『激流葬プール』を観察しながらサクラたちを待っていたら、ドロップキックでそのプールに突き落とされた。もちろん(サクラ)の仕業である。気絶から目覚めたばかりで本調子でなかったせいか避けきれなかった。

 

「ガボッゴボ!?っぷはぁ!?サクラァ!!いきなりなにしてくれてんだ!!」

「おっ!アルの奴もうプールに入ってんのか。張り切ってんな~。なら最初からもうちょい強めでいっとくか?えーと、確かこの辺に調節用の端末が...あった!これだこれ!」

「わあ!なんだか凄そうだね!このダイヤルでいじれるの?......えい」

 

 にょわぁーーー!?

 

「お、おい!?モードが『最凶』になっっちまってるぞ!?あれはまずいって!!俺でも相当きついんだぞ!!」

「わっ、わわ!?なんか想像以上にすんごい渦が!?ご、ごめーんアル!!すぐ弱くするから!ええっと...こう?」

 

 ギャアアアーーー!?

 

「サクラさん!!なにやら先程より強くなってましてよ!?」

「それは設計してくれた奴が言ってた裏モード!?確か名前は『RYOZANNPAKUモード』だったか!?...ってそんなこと言ってる場合じゃねえ!!ええっと確か緊急停止は...こうだったっけか?」

「こうだね!えい!!」

 

 ぐわあああああーーーッ!!?

 

「ア、アルさーーん!?」

「...ん?間違ったかな?なんか変な表示が出てるね。え~と...『TYOUROU』?なんのことだろうね?」

「サクラさん!私にお貸しなさいな!ここをこうしてああして...こうですわ!!」

 

 と、止まった...のか?はぁ~~、し、死ぬかと思ったぁ。ああ、なんだかピンク色のワニの幻影が視えらぁ...。激流葬に飲み込まれたモンスターの気分がよくわかったよ。俺ルールの中で禁止カード待ったなしなレベルで。プールはどうやらカリンが停止させてくれたみたいだ。後でお礼をしておこう。とりあえず何かデザート的なものを持っていって、サクラの前で見せつけながら二人で食べるとしよう。もちろんサクラはおあずけである。慈悲はない。

 

 その後もサクラは俺がグロッキー状態なのもお構い無しで他のトレーニングマシンへと連れ回した。さすがに激流葬プールほどのクレイジーな器具はもうなかったが、それでもケン用なだけあってどれもレベルが高かった。そして、結局そのまま全マシーンを制覇することとなったのだった。あひぃ。

 

「あ~~~楽しかった!また来たときにも使わせてねケンさん!」

「お、おう。別に構わねーが、アルは大丈夫なのか?なんかすげーぐったりしてるけど」

「......次回は体調が万全の時にお願いします。ええ、本当に」

 

 たとえ万全でも、もうあのプールには二度と入りたくないけどね!

 

「さて、サクラさん。今回の渡米の目的は無事果たせましたし、そろそろ日本へ帰還するといたしましょう。マスターズ氏は、これでもそれなりに忙しいようですし」

「もう帰るのか?まあ、確かに忙しいっちゃ忙しいけどよぉ。そんなに気にしなくてもいいんだぜ?......まっ、確かにイライザとはイチャついておきたいけどな!」

「まあ!ケンったら!でも、嬉しいわ。うふふ」

「...イライザ!」

「...ケン!」

 

 またケンさんとイライザさんが二人の世界に突入しそうになったその時だった。

───その情報が俺たちにもたらされたのは。

 

「失礼いたします!!ケン様っ!!大変でございます!!こちらをご覧下さい!!」

 

 トレーニング施設の片付け等をしてくれていたジョンさんが凄い勢いで部屋に飛び込んできた。そしてケンに何やら端末のようなものを見せている。あっ、さりげなく柴崎もカリンに何かを耳打ちしてる。どうやら柴崎も同様の情報を掴んだようだ。流石だな柴崎。略して『さすシバ』。......ずっと俺達と同じ部屋にいたと思うんだけど、どうやって調べたのだろうか。

 

「こいつは!?......ハハッ!!アイツめ!本当にやりやがった!!あのサガットを倒しちまった!!───俺も負けてられねーなぁ!!」

「えっ!?アイツって...もしかしてリュウさん!?リュウさんがあのサガットを倒したの!!?すごい!すごい!!」

「どうやらそのようですわサクラさん。まさかあの時助けられた青年が、あの“帝王”サガットに勝利してしまうとは......いずれ私が倒す予定でしたのに」

 

 “サガット敗北”。全世界に激震がはしるレベルの出来事である。きっとあと少し、いや、もう既にテレビ等で速報が一斉に流れているかもしれない。殆どの人は驚愕や、困惑するのではないだろうか。

 ここにいる人の反応は真逆だけどね。確かに驚いてはいたが、それ以上に闘志を滾らせていた。サクラは驚きから既に満面の笑みにシフトして跳ね回りながら喜んでいるし、カリンはなぜかちょっと悔しそうである。ケンにいたっては瞳の奥に闘志の炎が燃え上がり、凄く“いい顔”で笑っていた。それはまさしく“ライバル”の顔だった。

 しかし、最も一般の反応とかけ離れていたのは別の人物だった。

 

「ヨッシャアァァーーーーーッ!!!」

 

 それは、魂の叫びだった。まるで長年悩まされ続けた悪夢からようやく解き放たれたかのような、歓喜に満ちたものだった。

その雄叫びをあげた人物は───(アルトリウス)だ。

 

「あ、アル?どうしたの!?」

「そ、そうですわ!いきなり雄叫びをあげるなんてアルさんらしくありませんわよ?」

「そ、そうね。なんというか、凄く意外な反応だわ。ケンが嬉しそうなのはわかるけど」

 

 いきなり叫んだ俺に戸惑う周囲。まあ、普段は(サクラと比べれば)大人しい方だしね。──でもそんなの関係ないね!俺は賭けに勝った!勝ったんだっ!!今夜はドン勝だ!!これでもうあの憎き虎に片腕を食いちぎられる悪夢に魘されることはない!今度夢に出てきたら返り討ちにして毛皮の絨毯にしてやるぜー!ふぅっはっはーー!!我が世の春が来たぁーー!!落ち込んでいた気分が一気に持ち直してしまった。俺自身が原作介入は難しいかもしれないが、サガットとの賭けに勝ったことによって非常に強力な手札を得ることができた。これで少しは光明が見えてきたぞ!

 

 その後、異様に機嫌が良くなった俺はサクラの今までの暴挙すら許し、オヤツ抜きも解除してケン達に別れを告げて日本へと帰国したのだった。去り際にケンから「また()ろうぜ!」という問いかけに快諾してしまった気もするがまあ今はどうでもいいや!ヒャッハーー!

 

 こうして、色々とあったアメリカ旅行は終了した。弁護士の真似事とか、乱闘とか、ボコボコにされたりとかあったけど、なんだかんだどうにかなったし良かったのかもしれない。ちなみに今は空港にカリンの車(アメリカで使う用の高級車)で移動中で、ちょっと信号で停車してます。おっ!なんか向こうの大きなビルの前に野次馬がいる。どうやらストリートファイトが行われているようだ。こういう光景が日常茶飯事なのはこの世界ならではだよなー。

 

「てめぇスコット!!覚悟しやがれ!!ぶちのめして毛虫の餌にしてやるぜぇっ!!」

「覚悟すんのはお前だマックス!!プロボクサーだかなんだか知らねーがこれ以上俺の雇われたバーで暴れんじゃねーよコラァッ!!」

 

 金髪の白人とゴツい黒人が野次馬の真ん中で対峙している。どちらもボクシングの構えをしている。見たところ実力は近そうだけど......あれは白人の方が勝つな。どちらも怒鳴っているが、白人の方がかなり冷静だ。

 

「オラァッ!!」

「ホデュアァ!?」

 

 ほらね。白人の狙い済ましたストレートが黒人の顔面にもろに入ってダウンを奪っ.........ん?なんかこの光景、どっかで見たことがあるような。なんか俺のゴーストがしきりに『伝説の始まり』って囁いてくるんですが?うーむ、何だったかなぁ?あ、信号変わっちゃった。

 その後、彼らが見えなくなってから『あれってストリートファイターⅡのオープニングの二人じゃねーか!?』と心のなかで絶叫してしまった。いや、だって今初代が始まったところですよ?なんでもうこの二人闘ってんの?もしかしてこの頃から4年先まで同じようなこと繰り返しているのだろうか。まあ、何にせよ凄いシーンを見ることができたのは良かったよね。やはり今の俺にはいい波が来ているようだぜ!今夜はきっといい夢が見れるはずだ!

 

 そして無事に帰国後、久しぶりの我が家で眠りにつくと早速夢の中にあの憎き大虎が出てきた。しかし!なんといきなり毛皮の絨毯になった状態で出てきたのだ!自分の夢の中とはいえ笑いが止まりませんなぁ!ねえどんな気持ち?ねえ今どんな気持ち?いっつも片腕食いちぎってた奴の夢の中で絨毯になってるのってどんな気持ち?プークスク「GRUWAAAAーーーー!!」

 

 ぐわあああああーーーッ!?こ、こいつ首だけで動きよった!?もの◯け姫のモ□か貴様は!?ち、ちくしょう!!片腕持ってかれちまった!!せっかく賭けに勝ったのになぜこうなるんだぁーーー!?

 

 

 

 




ということで、時間軸的にはついに初代ストリートファイターが始まった、というか、終わったところですね。主人公は次回辺りから中学生になります。サクラも晴れてセーラー服ですよ!さて、次編なんですがちょっとだけこのあとがきで予告編を書かせていただきます。

─Side???─

 ああ、苛つくぜ。

 あの”帝王”サガットが敗けたからって、何が「次の最強は自分達の格闘技だ!!」だぁ?ハッ!笑わせやがるぜ!私に蹴り飛ばされてピーピー喚いてるよーな奴らが何を言ってんだかなぁ?まあ、どうでもいいけどよぉ。

 ああ、それにしてもほんっとに苛つくぜ。何が「お前みたいな女は黙ってろ」だよ。その”女”にぶっ倒されて踏みつけられてたのはどこのどいつだっての!道場の奴ら、師範代までよってたかって気色わりぃ目で見やがって。......パパも最近仕事が忙しそうであんまり褒めてくれねーし。せっかく大会で優勝したのに...。

 でも今、現在進行系で一番うぜぇのは......

「なあ!サイキョー流に入門してくれよ~!!今ならこの洗剤にかっこいいTシャツまでついてお値段なんと驚きの20%OFF!!今を逃す手はないって!!な?ほら!この入門表にサインを」
「ウゼェってんだろオッサンッ!!何度言われたって入んねーよそんな怪しい流派!!この不審者が!!」
「そんなこと言わずに頼むぜー!あの大会で見た蹴りはこの俺様からみてもなかなかのもんだった!お前なら立派なサイキョー流韓国支部の門下生代表に「ならねーよっ!!」そ、そこをなんとかたのむぜー!他の国で入門者がいなか...いや!俺様の目に叶う奴がいなくてもう残高的にあとがねーんだ!」

 何なんだこのしつけーオッサンはっ!!大会で優勝した次の日からずっとこの調子だ!だがこの趣味の悪い不審者、無駄に実力だけはありやがる。おそらくだが通ってる道場の師範代より強い。振り切ろうにも振り切れねーし、もういい加減警察に突き出してやろうか。

「ならこうしよう!今から一週間位で日本にいるウチの門下生を呼ぶからよ!ソイツと闘って敗けたらサイキョー流に入門してくれ!」
「あぁ?」
「お前よりも年下だが二人共なかなかに強いぞー!まっ!俺様には遠く及ばねーがな!」
「───んだと?私が年下のガキに敗けるとでもいいてーのか?舐めてんじゃーねぞオッサン」
「おお!受けてくれるのか!じゃあそういうことでな!!あいつらが来たらまたくるからよ!!首を洗って待ってな!!」
「お、おいちょっと待っ......行っちまいやがった。──まあいいか」

 最近は苛々することばっかだったが───ちょっとは面白くなってきたじゃねーか。

─Side 終了─ 

 次話は期間がかなり空いてしまったので、現段階での主人公とかのプロフィール紹介をさせていただこうと思っています。前回の感想でいただいたミニコーナーへのリクエストはその時にでも消化いたしますので今回はおやすみさせていただきます。
 あ、それと次編はかなり大きな原作改変(主にとあるキャラの年齢や出来事の時期の変更)がありますのでご注意ください。でも最終的にはきっと養豚場の豚を見るような眼で蔑んでくれるようになると思うのでその点はご安心(?)を!

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