明日に波動拳   作:路傍の案山子

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お待たせいたしました(五体投地)

いつものように深夜の投稿なのでチェックとかできていません。しかも、ちょっと書き方で色々実験してみたりしてるのでいつもより不安です。あっ、郵便屋さんお疲れ様です(白目)
本当にいつも誤字報告とかしてくださる方ありがとうございます!

それではどうぞ!




15話 3ラウンド目 本日の天気は疾空閃、後に春雷拳が吹き荒れ、ところにより鳳凰がでるでしょう

━Side ハン・ジュリ━

 

 

 ───いつからだろうか?

 

 あんなに楽しかったはずの闘い(ファイト)が、つまらなくなっちまったのは?パパに頼んで入れてもらえた時は、本当に嬉しかった。最初は怪我をするかもって理由で反対してたのを、覚えたての上目遣いで無理矢理お願いしたっけなぁ。

 才能は、あったんだと思う。同年代との試合で負けたことはなかったし、すぐに年上にも負けなくなった。大会で優勝すると渋ってたはずのパパやママも喜んでくれて、『さすが私達の娘だ』って褒めてもらえた。自分が強くなると実感できると、それだけでも嬉しかったんだ。

 

『女が最強になんてなれるかよ!!』

 うるせぇ

 

『娘さんの素行には少々問題があるかもしれませんねぇ?』

 うるせぇ...っ!

 

『ジュリちゃんごめんね。私達が弱いせいで』

 ......関係ねーよ

 

『お前がいくら頑張ったってこの道場の代表はこのパクなんだよ!!』

 うるせーつってんだろっ!!この雑魚が!!思考の中でまで蹴り殺したくなる(ツラ)ぁしてんじゃねーよ!!......はぁ。あのヤロー(師範代)が一番上になってからパクのヤローが調子にのりやがっておかしくなっちまったのは確かだけど、それにしても最近はほんっとにつまんねー毎日だった。でも今は...

 

「はぁ!せい!!」

「アッハ!そらぁ!!お返しだ!!」

 

 ハハッ!たのしいタノシイ楽しい!愉しいねぇ!!ウチの門下生(他の男共)なんて比べ物にならねいじゃねーかおい!正直あの怪しいオッサン(ダン)のことなんてこれっぽっちも期待してなかったってのによお!まさかこないだの大会の決勝で当たったやつよりも()りがいがあるなんてなぁ!!何気なくボロい飯屋に入ってみたらすげー美味い飯が出てきた感じ?最初はあんまりにも人形みてーなきれーな面してやがるんでフニャフニャですぐ終わっちまうんじゃねーかと思ったけどよぉ、蓋を開けてみりゃどうだ!

 

「ほらほらぁっ!!」

「なんのっ!」

 

 脆いどころかガッチガチに硬えじゃねーか!あいつらだったらとっくに倒せるくらいの蹴りはぶち込んだはずなのにピンピンしてやがる!しかもしっかり反撃までしてくれやがる!それに見かけとちがってえげつねー腕力してやがるなぁ、おい!気を抜いたら一瞬でこっちがイッちまいそうだぜ!そうだよこの緊張感だっ!このスリルが足りなかったんだよ!さあ!もっと感じさせてくれよぉ!!

 

「風破刃っ!!」

「波動拳っ!!」

 

 このやり取りも何度目だろうなぁ!今までこれに対応できたやつは同じくらいの歳のやつにはいなかったのに、完全に相殺されていやがる。理由は簡単だ...あの波動拳って技の方が、アタシの風破刃よりも、速いってだけだ。アタシの技をこんなに簡単に上回られるってのは悔しいがそれ以上に新鮮で嬉しくなってきちまうぜ。......本当なら道場に通ってれば普通に体験できそうなもんだけどな。今更だけどウチの道場の連中のダメさ加減がよーくわかるよな。

 

「これはどーお!?」

「サイキョー流防御ぉ!!」

 

 それにしても頑丈だなぁ、おい!!さっきからかなり力を入れてんのに防ぎ切られちまってる。今の踵落とし(ネリチャギ)は結構威力には自信があったてーのに訳分かんねー力で逆に弾かれちまったぜ。単純に見た目よりタフってだけじゃねーな、こりゃあ。アタシより年下のくせに防御の技術は今まで()った奴の中で一番上手いんじゃねーかコイツ?正面からだと生半可な攻撃じゃ崩せそーになねーな。......と、なると奴の意表を突くような一撃がいるな。さっき何かに気を取られた隙に叩き込んだ連撃はまともにダメージになってるみてーだしな。奇襲でひるませた後、全力でそのご自慢の体力を一気に削りきってやる。本当ーはもっと楽しみてーところだが、お互いにガチで闘い始めたあたりから結構良いのを貰っちまったからな。もちろんこっちも何発も蹴りを打ち込んでやったがあの異常なタフさのせいでこっちの方が余裕がねぇ。勿体ねーが、それ以上に負けたくねーからなぁ!速攻でかたをつけてやるよ!だからさぁ?───出し惜しみはなしだっ!!!

 

「イヤッホーーゥ!!疾空閃ッ!!」

「ッ!?」

 

 まだまだぁ!!

 

「そらっ!そらそらぁ!!」

 

 空中から気を使って急降下しながら蹴りの連撃はさすがに堪えるだろぉ!?さっきの妙な防御で開かされた距離を一気に詰めてやったからなぁ!仕切り直しになんてさせねーよ!

 

「喰らいなぁっ!穿風車ァッ!!!」

 

 今のアタシの技ん中で一番威力のある連撃の蹴り技だぜ!?とくと味わいな!!

 

「...ぐぅ!?(つぅ)...ッ!オオォーー!!」

 

 ───ここだっ!!完全見た目詐欺なタフさのお前ならこの技にだって耐えぬいて、その上で硬直を狙って反撃までしてくると思ってたぜ!だがなっ!!今回はその打たれ強さが狙いなんだよ!穿風車を撃ち終わった体勢からはこれ以上の攻撃は無理だと思っただろぉ!?だけどアタシの攻撃はまだ終わってねーんだよ!この一撃がテメーに風穴を開ける『奇襲(本命の一撃)』だ!!

 

「───フッ!!!」

 

 穿風車を打ち終わると同時に相手を蹴った反動でそのまま身体を限界まで逆側に勢いを加速させながら反らして自身の()()()()爪先蹴りを放つ。相手の意識の外、本来なら攻撃が来ることなど有り得ない角度から放たれて相手へと突き刺さる“とある生物”の動きを模したような体勢で放たれる一撃。『サソリ蹴り』だ。本来は本当に意表を突く()()しか出来ないような技だが、アタシのは違う。ちゃーんと本物のサソリみてーに喰らった相手の意識を一撃で掻っ攫うくれーの威力(ドク)があんだぜ?いくら丈夫なテメーでもただじゃすまねー筈だ。後は倒れるまで蹴りまくってイかせてあげるよ!!

 

 そして私のサソリ蹴りは狙い通りに相手(アルトリウス)の横っ面に吸い込まれ───る、はずだった

 

 

━ハン・ジュリ視点終了━

 

 

 どうも、アルトリウス・E(エリオット)・ヒューガーです。日本名は日向涼です。

 

  さて、現在ストリートファイターの原作キャラであるジュリとガチバトル中なので挨拶とかは手短でご容赦願いたい。いやー、ほんと強いわ。原作よりもだいぶ幼いとはいえ凄まじい足技です。......いやまあ、なんだかんだで現状は若干優勢に闘えているわけなんですが。

 俺の武術の才能はあまり高くない。低いというわけではないし、見切りとかの“眼”に関してはかなり高い...らしいのだが、やはりサクラやカリンなどの才能チート勢と比べてしまうとどうしても見劣りしてしまうんです。しかし、前にも言ったことがあるかもしれませんが、俺はまだサクラとカリンには組手で()()()()()()()()んですよね。

 現に今も、サクラやカリンと同じくらいに才能溢れていることが立ち合うだけではっきりとわかってしまうハン・ジュリを相手にして互角に、いや、()()()()()()闘えてしまっている。それは、彼女たちにはないものを俺が持っているからだ。

 

 ───それは経験だ。もちろん彼女達だって格闘に関してはかなりの経験を積んでいるだろう。ジュリに至っては歳上だしね。だが、『自分よりも優れた資質を持つ相手』や、『自分よりも実力の高い相手』にボロキレのようにズタボロにされた...ゲフンゲフン、じゃなくって日常的に組手や厳しい修行をつけてもらった経験は俺が一番多いという確信がある。つまり自分より強い、もしくは近い実力の相手と闘った経験値だ。要するになにが言いたいかというと......今現在、この自分より才能のある相手(ジュリ)との戦闘は、俺にとっては()()()()ということだ。しかし、『この環境』から予想していた通りジュリの方はそうではなかったらしい。なのでっ!

 

「───はあっ!!」

「なっ!?なんだとっ!?」

 

 ジュリが繰り出した死角からの一撃(サソリ蹴り)に反応し、ヘッドバット気味に額で合わせて受けることも出来る。サクラやカリンと組手を何度かしていれば嫌でもわかる事だが、彼女達と闘う時に"ありえない"と考えてはいけないのだ。こちらの攻撃を直感だけで避けきったり、思いもよらぬところから一撃を繰り出してくることなど日常茶飯事である。特にサクラとかは連続技を繰り出した後に無理矢理『もう一撃!』って感じでなにかと狙ってくるからね。そのサソリ蹴りも想定の範囲内なのさ!原作の必殺技クラスまでは想定していたので、おそらくカテゴリー的には特殊技くらいであろうサソリ蹴りを耐えられない道理はない!無理な体勢から放ったとは思えない威力だったけどね!かなり痛かったがこの前のケンみたいに、『必殺技かと思ったら超必殺技だった』程ではなかったのは助かった。いや、あれは本当にないよね。こちとらあの時まだ小学生だったんだぞ。

 

 まあ、そのあたりのことはともかく......ジュリは今、奇襲を防がれたことで激しく動揺してしまっている。つまり───絶好の反撃チャンスだ。

 

「影喰(かげばみ)!」

「し、しまっ、くぁ!?」

 

 『影喰』は相手の足首と膝裏を両足で同時に挟み込むように払い相手からダウンを奪う日向流の技の1つである。格ゲー風に表現するなら所謂『足払い系』の特殊技になるだろうか。ちなみに地味に2ヒットしているのでゲームだったらスーパーアーマー(一部の技等についている攻撃を耐える)を狩れたりするかも。スト4のガイルやサンダーホークのしゃがみ強キックみたいな2連続で繰り出す感じではなく、ガイやディージェイのしゃがみ中キックに近い感じかな。え?わかりにくい?実際にスト4をプレイしてみればいいと思うよ!さて、ダウンを奪うことが出来たのでここは追撃を「今だアル!そこで挑h」追撃をかける!!

 

「波動壁!!」

「くっ!?」

 

 追撃で放った波動壁を、ジュリは転がるように避けつつ立ち上がった。ふぅん、流石と言いたいところだが甘いぞ遊g...ジュリ!!無理矢理起き上がった為か、体勢がまだ完全に整っていないぞ!そこだぁっ!!!

 

「閃空脚ッ!!セイ!ヤァッ!!」

「がぁ!?」

 

 十分な溜めから放たれた突進回し蹴り───からの蹴りの『連撃』はジュリをまともに捉え、最後の踵落としのような蹴り落としで立ち上がったばかりのジュリを再び床へと打ちつけた。この閃空脚は所謂EX技(ゲージを使用する強化版)である。気を推進力として突進しながらの回し蹴りを放つ通常の閃空脚から更に蹴り上げ、その振り抜いた足を振り下ろすことで蹴り落とすという三連撃だ。現在俺が使うことが出来る必殺技()()威力特化型の『鬼灯』に次ぐ攻撃力をもっている。ゲージ(気合)を使う割に2番目かよとか言ってはいけない。まあ、威力があるとはいってもジュリの残りの体力を全て削りきるほどではないので...

 

「ぐぅ...っ!」

 

 当然まだ立ち上がってくるよね。現状は俺が優位だといえるが、彼女のような原作キャラ(才能の塊)はここからの爆発力が最も警戒しなければならないのだから。さあ、油断せずにいk「そこまで!勝者アルトリウス!!」......はぇ?

 

「な、なんだと...っ!巫山戯んじゃ...ねえ...っ!!アタシはまだ()れるぞ...っ!!」

「この試合の審判は私だ。その私の判断だ。お前の負けだ、ジュリ。潔く負けを認めるがいい」

 

 この試合の審判をしていたジュリの道場の師範代が俺の勝利を告げる。えーと、俺が言うのもなんなんだけど、まだ勝負はわからないんじゃないかな?いや、確かに今は俺の方が優勢ではあるけども。本当に俺が言うのもアレだけどジュリはまだ闘えそうですよ?というか、これからって時に止められるとなんというか不完全燃焼で闘い足りないっていうか。いや俺はサクラほどバトルジャンキーではないけどさ、ほら?こういうの久しぶりだから出来ればもう少し闘いたいなーって。いや本当に俺はバトルジャンキーとかではないんだけど!周りで試合を観ていた女子の門下生たちも「そ、そんな!?あんまりだよ!」って感じでジュリの方を心配そうにしてますしね?ここは続けさせて欲しいなーって。

 

「おいおい!いくらなんでも早すぎんじゃねーかぁ?ここからが良いところじゃねーかよ。ここで止めるのは野暮ってもんだぜ、師範代さんよ?」

「私はジュリには勝ち目がないと判断しました。これ以上闘わせても無様に恥を晒すだけでしょうから、彼女のために止めてあげただけですよ。それにこの試合の審判は私です。ああ、それに試合はそちらの門下生の勝ちなのですからこのままのほうが都合が良いのでは?そちらの望みどおりの展開ではありませんか!」

「い、いや確かに俺らにとっちゃ悪かねーけどよぉ。そういうことじゃなくってな?ほら、本人達の気持ちの問題というか、なんつったらいーかなぁ?」

 

───...るな。

 

 いきなりの決着に傍で見ていたダンが師範代に待ったをかけた。しかし、師範代の方はというと取り付く島もない感じだな。それにしても『無様に恥をさらすだけ』って決めつけはひどすぎやしませんかね?

 

「まだ勝負はついてねえっ!アタシは...っ!!」

「現に無様に打ちのめされていたじゃないか。これ以上テコンドーの品位を下げるような真似は許容できんのだよ」

「なっ...!?」

 

───...ざけるな...っ!

 

 現在進行形で師範代(アンタ)の方が品位を下げているとおもうんですがねぇ。...というかですね、あんまり()()を刺激しないでほしいんだが。

 

「そうだぞジュリぃ!!あれだけ大口を叩いておいて結局は男に負けてんじゃねーか!はははっ!!こりゃあーけっさくだなーー!だから言っただろ!女が最強なんて無理だってなぁ!!あーっはっは『ふざけるなーーーーー!!!』な、なんだァ!?」

 

 ジュリを嘲るように笑っていたパクの声を遮るように凄まじい大声が道場に響き渡った。ついに今まで必死に抑えていたらしい彼女───サクラがキレてしまったようだ。

 

「女の子が最強目指すことの何が可笑しいの?──ふざけるなよっ!!周りで観てただけのお前らがっ!闘ってるジュリちゃんを笑うなよっ!!...ああっ!もう駄目!我慢出来ないっ!!!グダグダ言ってないでかかってきなよ!?お前たちなんて私が全員まとめてブッ飛ばしてやるっ!!」

「お、おい君。いきなり何を!?」

「アンタもだっ!それでもジュリちゃんに教えてる先生だって言うの!?ふざけないで!!これじゃあジュリちゃんがかわいそうだよっ!!はぁ、はぁ...っ!!───じゃあ、こうしようよ?私が男子の門下生達(あいつら)に勝ったらこの試合を再開させてよ!」

「なっ!?そんな事を認めるわけが「いいんじゃーかぁ?」な、なにぃ!?」

「こっから仕切り直しってんなら次は俺が審判をしてやんよ。さすがにさっきの判定はねーと思うからな。いいと思うぜ~、俺はよぉ?」

 

 凄まじい剣幕でパク達の方へ迫っていくサクラを師範代が制止しようとしたが、結局サクラの提案でこの試合の再開を賭けて『男子の門下生VSサクラ』の組手が始まることになってしまった。現状この道場で代表者の一人であるダンがそれを肯定したので師範代も強く反対出来なかったようだ。そうして皆が戸惑ってるうちにサクラが試合場の中心へと移動してきた。

 

「アル!!ジュリちゃん!!ちょっと待ってて!!アイツ等なんてすぐにやっつけてやるんだからっ!!」

「アッ、ハイ」

「......チッ。余計なことしやがって。......礼は言わねーぞ」

「いいの!私がぶっ飛ばしたいだけだから!!」

 

 ここまでキレたサクラなんて長いこと一緒にいた俺ですらほとんど見たことないぞ。ナチュラルにジュリのことを『ジュリちゃん』って言ってるあたり、理性とか遠慮とかが諸々ふっ飛んでいるようだ。

 

「アーッハッハ!いいじゃないですか師範代!いきなりの事で驚きましたが...こちらはこの人数ですよ?まるで自分の実力と相手の戦力を正確に把握できてない、無謀な提案じゃあないですか。この俺はな、この前のジュニアの大会で3位だったんだぞ?やれやれ、これだから女ってのは!なあお前ら!」

「勝てると思ってんのかよ!?ギャハハ!」

「俺達が可愛がってやんよ~!」

「さすがに無理だよね~!」

「......なあ、なんかこの流れヤバくね?」

 

 おやおや、さっき俺がジュリと互角に闘ってたのを見ていたというのに。試合が始まる前のダンが、俺かサクラどちらが闘ってもいいって態度だったのを少し考えれば俺とサクラの実力がそう離れていないってことに気づいても良さそうなものだけど。最後の一人以外、火に油を注ぐどころかガソリンかぶって突撃していくような発言である。テコンドーの道場生なのにヤールギレシュ(油を全身にかぶっての相撲)をリスペクトですかそうですか。いや、それはヤールギレシュに失礼だな。ヤールギレシュはストリートファイターの原作キャラであるハカンも使っているようにこの世界でも立派な格闘技だ。焼身自殺に等しい行為と一緒にしてはいけない。サクラはテンションで戦闘力が上下するタイプだからな。もちろん今回の場合はプラスになるケースである。ああそうだ、戦闘前に言っておかないと。

 

「ちょっといいかサクラ」

「なに!?いくらアルでもいつもみたいに『やりすぎるな』とかは多分無理だ「違う違う。今回は逆だよ」...へ?」

「まあ、一応は道場で鍛えてるはずだし、死にはしないだろうから───技の使用制限は無しでいいよ。もちろん()()()もね」

「本当!?どっちもいいの!?」

 

 ええ本当ですとも。彼らの発言に怒りを覚えていたのはなにもサクラだけじゃないからね。アリス母さん達から『女性に優しく』という教えを叩き込まれた紳士である俺としては見過ごせるような発言じゃないんですよね。というか、単純に紳士どうこうの前にちょっと人間としてどうかと思うし、俺の許容できる範囲を超えてしまったからな。これはお仕置き案件ですわ。だからさ───やっちゃえバーサーカー(サクラ)っ!!

 

「確かに人数差は圧倒的か。...いいでしょう。もし君がパク君たち男の門下生を全員倒すことが出来たならジュリの試合の再開を認めようじゃないか。出来れば、だがねぇ?」

「話は決まったみてーだな。それじゃあ早速位置に...サクラはもうついてんな。ならそっちの参加する男の門下生は集まんな。......それで全員か?用意は良いか?」

 

 師範代がゲスな笑みを浮かべて了承したのを確認すると、ダンがサクラの相手となる門下生たちに集まるように促す。最終的にはパクを筆頭に10名の門下生がサクラと闘うことになったようである。全員がサクラよりも年上のようで、体格も大きい。一番大きい奴だとサクラ三人分くらいの体重はありそうだ。絵面だけ見ると相当ヤバそうだけど、ダンは全くサクラの心配はしてないな。最近会っていなかったとはいえ、サクラの実力と才能は理解しているからな。それに門下生たちの実力も大体測れているだろうしね。それと、どうやら今回はダンがこのまま審判を務めるようだ。それじゃあ、俺はいったん大人しく観戦といきますかね。

 

「なあ、随分と余裕こいて観戦モードになってるみてーだけどよぉ?大丈夫なのか?お前の連れだろ?」

「例えばですけどジュリさんがあの門下生たちと闘ったらどうなります?」

「あ?そんなもん余裕で全員蹴り殺せるけど?まあ、数だけはいるから鬱陶しいかもしれねーが」

「だったら大丈夫ですよ。だってサクラは───」

 

 ジュリが表向きは気にしていないような感じで聞いてくるが、どうやらサクラを心配してくれているらしい。でも、ジュリが余裕で倒せるなら大丈夫だな。だって──

 

「───戦闘狂(てんさい)ですから」

 

「始めぇ!!」

「オラァ!喰らえ!!」

 

 ダンの開始の合図とほぼ同時に喧嘩っ早そうな門下生がサクラに蹴りかかる。勢いをつけての飛び蹴りで、それなりに威力はありそうなのだが......いくらなんでも直線的というか、迂闊すぎるだろ。

 

「───春雷拳っ!!」

「ごほぁー!?」

 

 蹴りを身体を少しずらすだけで躱し、そのまま鳩尾にカウンターの春雷拳である。もろに受けた門下生は身体をくの字に歪めたまま吹き飛ばされ、そのまま一撃で戦闘不能になった。これであと9人。

 

「......は?」

「波動拳!!」

「へぶっ!?」

 

 状況が理解できなかったのか、呆けてしまい動きを止めた門下生の一人の顔面に波動拳が直撃した。

 

「はぁっ!!とお!!春風脚!!でやぁ!!」

「ごべ!?」「げぇ!?」「がばぁ!?ぐぇえ!?」

 

 さらにそのまま相手が数人固まっているところに飛び込んだサクラは、まず波動拳がヒットした門下生の顎にアッパー気味の一撃を叩き込むとその勢いのまま近くに居た他の門下生にミドルキック、それがヒットした反動をそのまま活かして春風脚からの春風連脚をこれまた別の門下生にクリーンヒットさせた。そしてミドルキックで怯んでいた門下生の顔面に正拳突き。これで一気に3人ダウン。残り6人。

 

「ど、同時にかかれ!!相手は女なんだ!捕まえちまえばこっちの勝ちだっ!!」

「う、うおぉーー!!」

「掴んでやれぇ!!」

 

 4人を一気にダウンさせられたところでようやく立て直したパクの指示で、相手の門下生たちの中でも特に大柄な二人がサクラに掴みかかろうと腕を広げて同時に襲いかかる。まるで柔道のような構えである。おいテコンドーはどうした。

 

「よっと!!」

「「ぬお!?」」

 

 サクラは掴みかかってくる相手の片方に自分から距離を一気に詰めると、まるで跳び箱のように跳躍で相手の頭上を飛び越え、そのまま後頭部を踏み台にするように両足で蹴りをいれた。確か、原作のサクラの投げ技に似たような動きがあったよね。まあ、今回のは投げ技というわけではないけど。

 結果、サクラを挟み撃ちにするような形で掴みかかっていた門下生の二人は間にいた標的であるサクラが急にいなくなったってしまったわけで、

 

「「ぐべぁ!?」」

 

 見事に顔面から正面衝突である。正確にはサクラな蹴られた方が頭から勢いよく突っ込んでいったんだけどね。見方によっては男同士で熱烈にキスしてしまっているように見...アッーーー!...ゴホン、ふざけるのはここまでにしておいて、頭部に強烈な衝撃を受けて双方ともはじかれる様にして仰向けにダウンした。サクラに蹴られた方はどうやらそのまま戦闘不能になったようだが、もう一人はまだその時点では起き上がれそうだった。まあ、着地したばかりのサクラがその勢いのまま後方にバク宙をしてそのお腹に華麗な着地を決めるまではね。これで後4人。

 

「お、おい嘘だろ!?」

「ええい落ち着けお前ら!!まだこっちは4人いるんだ!!十字に囲んで蹴りまくればいいんだ!タイミングを計って攻め続ければ相手は女だ!すぐに動けなくなる!」

 

 なるほど、自分たちの数の有利を活かした、それなりに理にかなった作戦っすね~。確かに有効な戦術だよなぁ~......指示するのが()()()()せいで実行不可能という点を除けばよぉ~~。

 

「咲桜拳!!」

「がっ!?」

 

 パクが指示を出している間、サクラがただ大人しくしている理由なんてないのだ。この間見事に全米格闘王の座を勝ち取ったケンや、メトロシティの英雄、NINJA、必滅を呼ぶ悪魔などなどのそうそうたる人々から『瞬発力』を評価された化け物だぞ?戦闘中のサクラ(やつ)からすこしでも意識をそらすべきではないのだよ。現に一息で距離を詰めたサクラの咲桜拳によって一人が沈められて3人になってるからね。『禁じ手』の一つであるサクラの技の中でもその威力を誇る咲桜拳がクリーンヒットした門下生は宙へと打ち上げられ、意識がなかったのかそのまま受け身もとれずにダウンした。......自分以外が喰らっているのを見るのは久々だったが、こうしてみるとまた威力が上がっているようにみえるんですけど、気のせいかな?

 

「ぱ、パクさぁん!?」

「く、くそ!?なんなんだこいつ!?お、女のくせに!女のくせにぃーー!!」

 

 まあ、パクが狼狽えるのも無理はない。俺とそう変わらない体格の細身なサクラが、あっという間に7人も自分の仲間を倒してしまったのだから。それに皆さんもお気づきかもしれないが、ほとんどの相手を1、2撃で倒しているのだ。見た目からは想像できない異常ともいえる攻撃力は、彼女をあまり知らない人なら戦慄を覚えることだろう。なんでこんなことになってしまったんだろうなー。え?ワタシナニモシラナイヨー、ホントダヨー。(目逸らし)

 

「次ぃ!!」

「ひ、ひぃ!?」

 

 すでに残った門下生もサクラの気迫にのまれかけてずいぶんと腰が引けている。次の獲物(あいて)を求めて距離を近づいてくサクラに対して、本人たちも意識していないのだろうがじりじりと後退してしまっている。唯一パクだけが下がっていなかったが、その表情からは最初の頃の余裕は微塵も感じられない。さて、そろそろ決着ですね。

 

「う、うわあぁーーー!!」

「そんな攻撃が、効くかぁっ!!オラァッ!!」

 

 恐慌状態でやけになったのか、もはや型もなにもあったものではない蹴りを繰り出す門下生。しかし、そんな破れかぶれの攻撃が怒れるサクラに通用する訳もなくあっさりとカウンターを叩き込まれてダウンした。あと二人。

 

「こ、このぉ!」

「ふんっ!!やあっ!!」

 

 先程の門下生よりはまだ平静さを保っていた門下生がサクラが攻撃した隙をついて蹴りを放ったが、振り払うような肘鉄で対応され、痛みに怯んだその顔面に正拳を叩き込まれて仰け反るように崩れ落ちた。ダウン。......さて、これで後は、

 

「さあ、後はアンタだけだよ!」

「くっ!?なんなんだお前はぁ!?だ、だが!この俺を倒せると思うなよ!!この俺は大会で「それが何?」な、何だと!?」

 

「だって、関係ないよ。アンタが何だろうと私が今からすることは何も変わらない...」

 

「───思いっきりっ!ぶっ飛ばすだけだーーーっ!!はぁああーーー!!」

 

 パクの発言をバッサリと切り捨てると凄まじい気合とともにサクラは距離を詰めていく。その()()に波動の揺らめきを宿して。

 

「テコンドーを舐めるなぁ!!ヨンソクトラチャギ(二段連続回し蹴り)ッ!!」

 

 対するパクは鋭い回し蹴りを2連続で繰り出そうとした......したのだが。 

 

春雷───双拳(しゅんらいそうけん)ッ!!!」

「ごっ!?げはぁーー!?」

 

 最初の回し蹴りがヒットするよりも先にサクラの春雷拳がその胴を捉え、間髪入れずに叩き込まれた()()()()()()()で踏みとどまることすら許されずに試合場の外まで吹き飛ばされ、そのまま動かなくなってしまった。本当に恐ろしい威力だなあの技。春雷拳を2発連続で叩き込むだけの技なのだが、言い方を変えれば春雷拳を2発“も”叩き込むのだ。一発で大人でも倒せる程の威力の一撃を、だ。すっごく痛いです(実体験)。まあ、とにかく相手の門下生は全員倒れた訳ですな。

 

「───ふぅ。これで私の勝ちだね!」

 

「......ほんとうにやっちまうとはなぁ」

 

 パクが起き上がってこないことを確認してから戦闘態勢を解き、サクラは喜びの声をあげた。俺の横ではジュリが驚きと、若干の喜びと好奇とをにじませた声を漏らす。まあ、サクラはこの前のメトロシティの乱闘でゴロツキとはいえ7人くらい倒しているので俺としては全くこの結果に驚きはない。感想といえば、あんにゃろう俺が飛行機であれだけ言ったのに短パンとかをはいてなかったせいで試合中ずっとパンツが丸見えだったということになるだろうか───って!危ない!!

 

「ティミョヨプチャギ(飛び横蹴り)!!」

「───え?」

「サクラッ!!ぐぅ!?」

 

 勝利の喜びで気を抜いていたサクラを狙って繰り出された───ジュリの道場の師範代をサクラを突き飛ばすようにして代わりに受ける。無理な態勢で受けたせいでそのまま吹き飛ばされてしまう。

 

「ふん。パク達も存外使えんな。こんな小娘一人に全滅とは。まあいい。今から私が全員の口を閉ざせばいいのだからな」

「アル!?お前ぇ!!!」

 

 非常に残念なことに、今の俺はジュリとの闘いで消耗している。サクラは殆ど無傷だが、春雷双拳は今のサクラには負担が非常に大きく万全の状態とは言えない。相手の師範代はそこまでの強さは感じないが、まがいなりにも師範代である。現状での対処は流石に厳しいレベルの強さぐらいはあるのだ。これはちょっとまずい状況ですね......俺達だけならな。

 

「さあ覚悟しろ小娘共!この俺が直々に蹴りで教育してや「おい」へばぁ!?」

 

 こちらを見下し切った表情で蹴りかかろうとした師範代は、セリフの途中で殴り飛ばされた。

 

「ウチの弟子になにしてくれてんだコラァ!!テメーのようなゴミはこのサイキョー流のダン様が丸めてゴミ箱にポイしてやらぁ!!こいコラァ!!」

 

 そう、この場には一応俺たちの師匠であるダンがいるのである。ダンは普段は頼りない印象が強いが、結構弟子思いなんですよ。そんなダンが目の前で弟子を理不尽に蹴り飛ばされて黙っていられるわけはない。これで相手の師範代に勝ち目はなくなりましたね。ダンは師範代より強いし。......それに、さっき気づいたんだけどもの凄い気配が猛スピードで近づいてきて───あっ。

 

「くっ!?聞いたこともない弱小流派如きがよくもこの俺を!?テコンドーに逆らうんじゃ「ならば私がテコンドーの神髄をみせてやろう」...へ?」

 

 

 

 

「 鳳 凰 脚 」

 

 

 

 

「アッタタッタタタタタタタッアタァッ!!!」

「!?!???ぐびゃは!?」

 

 高速で飛翔してきた『男』に凄まじいまでの蹴りの連打を叩き込まれ宙に浮いた師範代はそこからさらにサマーソルト、いや、飛燕斬によって蹴り飛ばされそのままぐしゃりと道場の床へと墜落した。そしてこの光景を作り出した男はこちらに振り向くと、キラーンとその白い歯を輝かせるスマイルを浮かべながらこう言った。

 

「待たせてしまったようだね。しかしっ!!私が来たからにはもう安心です!!悪は許さんっ!!しっかりと更生させて差し上げましょう!!このキムの名にかけてね!!」

 

 いや、もう師範代(それ)ダウンしてますよキムの旦那。自分で呼んどいてなんだけど濃いなぁこの人。まあ、とにかく、

 

正義惨じょ...参上!!ってところかな?

 

 

 

 

 

~こぼれ話とか、裏設定とか~

勝利セリフはリクエストがなかったので今回は設定などを少々おまけで。

 

 

・影喰(かげばみ)

 やっぱりダークな文字が入っている日向流足払い。というか、両足を使って投げているようなものなので下段打撃投げといった方が良いかもしれない。発生が早く受け身のとれない強制ダウン、スーパーアーマー狩りと高性能に見えるが、そこはやっぱりアルの技。ガードされると体勢的に隙が出来るので反撃確定だよ!

 

・咲桜拳

 サクラの成長とともに威力は着実に上がっている。しかし、それを主に喰らっているアルも同時に丈夫になっているせいで、サクラとアルの両方とも威力の上昇を正確に把握出来ていなかった。久々にアルやカリン以外に使用されたが、今回アルが危険性を再確認したため禁じ手のままとなってしまった。

 

・春雷双拳

 サクラのもう一つの『禁じ手』。一撃でさえ威力の高い春雷拳を連続で2発叩き込む現時点でのサクラの最高火力。二発分の気を分けて溜める必要のある、単純そうにみえて実はかなり高等技術を必要とする難易度が高い技。サクラは精密な波動のコントロールは苦手だが、アルとの特訓によりなんとか習得した。というか、サクラは倍以上の気をこめる事で力任せに無理矢理成立させている。そのため、かなり動きが制限されており、気力の消費が馬鹿高く乱発できないというまだ未完成の技。つまり、恐ろしい事にまだ発展する可能性がある。

 

・サクラの攻撃力がヤバい理由

 サクラが一番組み手をしている相手はアル。一番倒したい相手もアル。しかし、そのアルは色々な意味で耐久力がおかしい。そのせいでサクラの凄まじい才能が本能的に効率の良い攻撃の仕方を組み手のたびに追い求めた結果、自然と積極的に急所などのエグイところを狙っていくスタイルに。持ち前の瞬発力も合わさって、一瞬で距離を詰めては致命の攻撃を放ってくるヤバい怪物が誕生してしまった。ちなみにすぐに追撃をしたがる本人の性格上あまりとろうとはしないが、一撃のあとに距離をとることも可能。アサシンとかに向いてそうである。まあ、なにが言いたいかっていうと、こうなったのはアルが頑丈だった事とアドバイスしていたせい。つまり原因はアル。

 

・パク

 顔も実力も悪くはないのに同じ道場の女子からの好感度がドン底通り越してマイナスな門下生代表。本当はここまで小物にするつもりはなかったが、作者が書いている内に師範代にひきずられてしまいご覧の有り様に。普通にテコンドーの才能もあるのでまっとうに頑張ってれば良いところまでいけたという裏設定あり。ジュリの才能に打ちのめされていた時に相談したのが例の師範代だったというある意味不運な男。でもやり過ぎたのは自業自得なので私は謝らない。

 

・パンモロ

 アルの忠告を実行する前だったせいで、門下生達とのファイト中は常に白いものが見えていた。相手を飛び越えた時も、踏んづけた時も、春風連脚で大開脚した時も。そのせいで何人かの門下生が開いてはいけない扉を開いてしまったかもしれない。ちなみにアルはいまさらサクラのパンモロ程度ではなんともなりません。

 

・師範代

 名前もないのに凄まじい小物臭を放つ男。門下生時代に同期の女性にボコボコにされたことを根に持ち続け性格が歪み、ジュリの道場の師範が急遽やめなければいけなくなり、なし崩し的に一番上の立場になったのを機にその歪みが爆発した...という設定を今適当に考えました。

 

・キムさん

悪は絶対に許さない系男子。最後にちょっとしか出てないのに全部持っていかれた気がしてならない。正義おそるべし。




いやはや本当にお待たせして申し訳ありませんでした。

次話はジュリ編のエピローグと次への導入になる予定です。まあ、エピローグがちょっと長めになるかもしれませんが。だってキムいるし。それにジュリについてアルが一番問題視している点が残ってますしね。ヴィラン側に堕ちたきっかけとか。

で、一つ迷っていることがあるのですが...、ジュリ編の次の話なんですが、予定では日常編?的なバトルがないかもしれい話を2、3話分くらい挟んでから次編、もう一つくらい話があって中学生編最大の事件?みたいなのに行こうと思っていたのですが、今の執筆ペースだと凄い時間かかりそうなんですよね。今回程間が開かないように努力はしますが。

なので、ちょっと間の話を削って本筋?を前倒し的に進めるべきか迷っております。感想などいただけるようでしたら、ついでに「日常みたい」とか「本筋はよ」とかそのあたりの意見もくれると嬉しいです。登場ズレるキャラもいますし。ちなみに中学生編の本筋最大の話は柄にもなくシリアス( )な雰囲気になりそうな気配がするかも。あくまでも構想上ではですが。

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