この世界に転生してからもう4年が経った。新しい家族や生活にもすっかり慣れて、今は近所の幼稚園に通っている。
これだけ経つとさすがに色々なことがわかってくるが、やっぱり『この世界』が何の世界であるかわかったのが一番大きな収穫だろう。
格闘ゲーム『ストリートファイター』シリーズ
前世の俺が居た世界ではそう呼ばれたゲームが、いわゆる『原作』で間違いないと思う。......両親や祖父母はシャドウハーツの登場人物だったけど。
2歳くらいの時に、ウル父さんが読んでいる(ふりをしている)新聞の一面記事に『ムエタイの帝王サガット!6連覇!!』ってデカデカと書いてあったからね。ソレも写真付きで。まだ髪の毛があったしかなり若かったけど、眼帯はもうしていたし間違いなくあの『サガット』だった。初代ストリートファイターのラスボスで、ソレ以降のシリーズでは主人公リュウのライバル的なポジションで登場するキャラクターだ。
違う日の新聞には、『超大型ルーキー!ザンギエフがレスリングで世界を制す!』という記事が載っていた。こちらも写真付きだったが俺が知っている姿とほとんど変わらなかったので一瞬でわかった。気持ち若いような気はしたけど。ザンギエフもストリートファイターシリーズに登場する人物で『元祖投げキャラ』、『脅威の吸引力』、『ダルシムと波動拳はやめて』など様々な称号?をもつキャラクターだ。それにしても、リアルで見ると筋肉がムキムキすぎてやばい。
この二人がいる時点でほぼ間違いないと思ったのだが、それを更に補強するかのような情報を入手したのはリビングでアリス母さんと一緒にテレビを見ていた時だった。
番組の変わり目によくあるニュース番組で、前世では無かったはずの法律が聞こえてきた。その名も『国際路上格闘規定法』。基本的にどのような場所でも、双方の合意があれば格闘戦をおこなっても罪に問われないというものらしい。ただ、相手を死なせてしまったり、同意を得ずに無理やり襲った場合はちゃんと罪に問われるようになっているらしく、今回のニュースは後者のケースの事件らしい。
何だこの法律!?って最初は思ったけど、ここがストリートファイターの世界なら違和感のない法律ではある。周囲の人間は傷ついたり、所有物が壊れそうになったりしないかぎり決闘を妨害できないとか迷惑極まりないと思うのだが。
......そして確信に至った最大の理由が、今俺の眼の前に居るんですよねぇ。
「ねえー!はやくおにごっこにまざろーよー!!」
現在進行形で俺を鬼ごっこに誘うこの幼女、家の隣の家に住む幼なじみで、赤ん坊の頃俺から華麗に裏拳でKOを奪ったのと同一人物だ。サガットやザンギエフの記事を見るまでは、普通の女の子かと思っていたのだが......
「はーやーくー!もうはじまっちゃうよー!!」
「わかったよ。今行くから落ち着けって『サクラ』」
そう、彼女の名前は『春日野さくら』
ストリートファイターZEROシリーズから登場するセーラー服で戦う駆け出し女性格闘家、つまりは『原作キャラ』というやつになる。『原作キャラ』と同い年の幼なじみ、いわゆる『巻き込まれフラグ』ですねわかります。確か地獄で鬼灯さんも、原作に関わることになるって言ってたしね。
ショートカットがよく似合う元気な女の子で、よく見てみれば確かに原作の容姿の面影がある気がしないでもない。
「みんな~!わたしとアルもまぜてよー!」
「いいともー!」
幼稚園児にはアルトリウスは長くて呼びにくいらしく、略してアルと呼ばれることが多い。日本語の方の名前で呼んでくれる人が少ないのは、俺の容姿が外国人に見えるからだろう。あ、因みに俺の名前の漢字もわかりました。日向涼と言います。今後ともヨロシク。
「じゃあ、さいごにきたからアルがおにだよー!!」
「10かぞえるんだぞ!!みんなにげろー!!」
きゃっきゃとはしゃぎながら逃げていく園児たち。いつの間にか隣に居たはずのサクラも姿を消している。正直な話、子供のテンションに合わせて遊ぶのは凄く疲れるんだけどな。しゃーない、アレで行くか。10数えてと...
「カカ□ットォ......カカ...カカッ□ットォォォーーー!!!」
「げぇ!!ブ□リーだぁ!!やべーぞ!!みんなはやくにげ「捕まえたぁ」ヒイィィィヤアァァ」
「くそ、矢武茶(やぶさ)がやられちまった!!」
俺が鬼になった場合5分の1くらいの確率で発動する伝説の超野菜人モードで逃げているやつを追いかける。別に捕まえたからといって岩に叩きつけたりはしないのだが、追いかけるスピードとプレッシャーが通常よりも凄いのでなかなかに好評(?)である。
「そうだみんなでべつべつのほうこうににげれ「みつけたぞぉ」ウァアアアーー」
「く、くるなぁーーーー!あぁぁぁあーー」
「虎楠(とらくす)ぅーーーーー!!栗林(くりばやし)ぃーーー!!」
「もうだめだ......かてるわけがない......」
そんな感じで結構簡単に皆捕まえることが出来ました。......サクラ以外。これでも生まれた時から結構努力しているのでそれなりに身体能力は高いはずなのだが。さすが原作キャラ。才能が服を着て歩いているようなもので、今もジャングルジムを利用して幼稚園児とは思えない立体機動で縦横無尽に動きまわっている。巨人でも狩りに行くつもりなのかお前は。チート乙。
「きょうこそは、にげきってみせるんだから!!」
「あ!!フ○ーザ様!!」
「え!?どこ!?わたしもみたいよ!!どどりあもいる!?」
ハッタリに見事に引っかかるサクラ。当たり前だがそんなに辺りを見回しても宇宙の帝王()はいませんよ。あと、ザ○ボンさん忘れんな可哀想だろうが。
「すきやきぃ!!」
「はっ!?しまったぁーー!?」
気づいて逃げようとするサクラだが時既に遅し。あっさりと捕まえることが出来ました。
「もぉー、ブ□リーじゃなかったの?キュ◯はずるいよよーきたないよー」
「汚い花火だがらしょうがない。皆捕まったから、次の鬼を早く決めよう」
「つぎのあそびはまけないんだからねー!!」
こんな感じでそれなりに幼稚園生活を楽しんでいます。幼なじみだから気安いのか、やたらサクラが絡んでくる気がしなくもないが。
さて、ここで『この世界』の特徴と、俺の近況について一旦整理して考えてみようと思う。
まずこの世界はストリートファイターの世界だが、前世の世界と比べると色々とおかしなことになっている。特に格闘関連の扱い全般。
この世界は本当に『格闘技』が盛んであるらしく、頻繁に大会などが開かれているらしい。新聞ではスポーツ紙でもないのに頻繁に一面に格闘家の記事が載り、テレビでも野球中継よりも多い頻度で格闘大会の中継が放送される。他にも中学校や小学校にまで必ず複数の格闘技系のクラブがあるほど、この世界では格闘は身近に存在しているのだ。因みに前年の幼稚園から小学校低学年までの男子の将来の夢で一番多いのは『格闘家(ファイター)』もしくは『チャンピオン』だったらしい。少しこの国の未来が心配になった。
なぜここまで前世の世界と違って格闘技が流行しているのかというと、こっちの人々の身体能力が高いことが最大の理由だろう。
俺が転生前にトラックで轢かれたり鉄骨の落下を受けたりしても死んでいなかったように、この世界の人達はかなり生命力が高い。一般人でも銃で撃たれてたとしてもなかなか死なないくらいには頑丈なのである。多分、そのへんに居るおばさんとかおじさんでも前世の世界の格闘家くらい強いんじゃないかな。
それだけ身体能力が違うと、当然銃器などに対する認識も変わっているらしく「銃?そんなのより殴った方が速いし強くね?」というのが一般的な認識となっているようだ。実際この世界では、戦車や戦闘機よりも優秀な戦士一人のほうが役に立つらしい。
そんな訳でどこも国家単位で強い戦士(ファイター)の育成を推奨している。格闘大会が頻繁に行われるのも、『うちの国にはこんなに強い格闘家(戦力)がいますよ』とアピールする代理戦争的な意味合いが大きいらしい。まあ、今の世界情勢は非常に安定しているらしく、本格的な戦争は殆ど起こっていないらしいが(ベガとかはいるけど)。
こういった情報はほとんど新聞の盗み読みとニュースで得たのだが、時々家にやって来るアンヌさん以外の祖父母達が昔は有名な格闘家(カレンさんは剣術家)であったらしく、家で合うとよくその手の話を話題にしているのでかなり詳しく把握することが出来た。
特に甚八郎おじいさんはこの世界でも『必滅を呼ぶ悪魔』の異名は健在らしく今でも軍の情報などが入ってくるらしい。俺が理解できるとは思っていないので普通に近くで会話を聞くことが出来たのだ。少し気にする素振りを見せた時でも何も理解してませんよーて感じで笑っておけば大抵大丈夫だった。
あと、国際情勢が安定しているからなのか、国と国を行き来するのが前世の世界よりも簡単らしい。パスポートとかもすぐに取れるみたいだし、旅費もかなり安いようだ。イギリスまで大人一人5000円だってよ、前世では考えられないね。だからなのか俺はまだ4歳だというのにもう十回以上の海外旅行を経験している。ほとんどがイギリスの祖父母達の家だが、他にもアメリカやロシア、中国等に父さんたちが知り合いを訪ねに行くこともあった。
......その知り合いが皆どこかで見たことがある気がしたのは気のせいだと思いたい。特に変な生き物とか、伯剌西爾(ぶらじる)忍者とか、オカマっぽい鍼灸師とか、ガチムチで語尾が「だっち」の仮面プロレスラーとか。
まあ、そんな感じで国際交流などが盛んなので国際結婚も多いらしく、ハーフ等も非常に多いみたいだ。今いる幼稚園にも結構外国人やハーフの子供がいるしね。
それとこれはかなり驚いたのだが、この世界での日本語の普及率が凄いことになっている。それこそ前世の英語を軽く凌ぐ割合でみんな日本語を使用して会話しているらしい。そういえば海外の旅行先でも、みんな普通に日本語で話していた。
なんと大体の人は母国語と日本語を話せるらしい。どうやら辿ってきた歴史が前世と少し違うらしく、なぜか日本語が全世界の言語のスタンダードになってしまっているようだった。確かにストリートファイターのゲームでも殆どのキャラクターは日本語で会話してたっけ。
まあ、そんなこんなで若干世界がワールドワイドで脳筋気味だが、前世の世界と決定的にかけ離れているわけではなかっただけでも僥倖だったといえるだろう。
さて、次に俺自身の近況についてなのだが......こちらもそれなりに大きな変化があった。
まず、俺の見た目についてなのだが初めて鏡で見た時はかなりショックをうけたね。アリス母さん譲りの白銀色の髪と透けるように白い肌。瞳は左目はアリス母さんと同じ碧で、右目がウル父さんと同じ赤でオッドアイ。幼いながらも既に不自然なほどに整った顔立ち。うん......リーチどころか大三元ですね。
どう見ても踏み台転生者じゃねーかっ!!
なぜ!?なんで!?WHY!?嘘だと言ってよバーニ○ーーーー!!!これ絶対他の転生者が居たら「うわぁ......アイタタターー(笑)。アレ絶対中二病だろ、絶対特典に王の◯宝とか無◯の剣製とかもってるよね~~、ないわーマジでアレはないわ~(笑)......なにかしでかす前に消しておくか」とか言われちゃうよ!!先入観のせいで冤罪で消されそうとか笑えないよ!
しかも恐ろしいほどに母さん似で女顔だし!!4歳の現在でも改善するどころか更に女みたいな顔になってきてるし!!この前サクラと一緒に遊んでたら姉妹に間違えられたし!!俺は男だよ!!普通に男の子用の青い幼稚園の制服着てたのになんで間違えられたんだよ!?母さんもウキウキしながら女の子用の服を用意しないでくださいっ!!
......もう慣れましたけどね。だって両親の遺伝子を考えるとそこまで不自然じゃないし。全部遺伝だししょうがないかと最近は開き直っている。女の子用の服以外は。
それに前世とは比べ物にならないくらい美形である事は確かなわけで、踏み台っぽいということを除けば生死に関わるほど重大な問題というわけではない。恐らく鬼灯さんがいる限り、そんな奴を転生させたりはしないだろうが。
しかし、だ。俺の外見が
あの女好き(なんちゃって神獣、白澤)の祝福のせいだと思うんだ。割りと本気で。
確か祝福してくれる際に閻魔大王がどんな祝福なのか聞いた時、『初対面の人に少し好かれやすくなる程度』と言っていた。ここで重要なのは“初対面の人”の部分だ。
白澤(はくたく)さんは言っていた、『僕は男なんてただそこに居るだけとしか認識していない』と。
つまり白澤さんの中では『女性=人』、『男≠人』という方程式が成り立っていると考えられる。それを踏まえて考えると『女の人の第一印象が良くなる=イケメンにすればいいんじゃね?』が俺にかけられた祝福の正体として浮かび上がってくる。しかも、白澤さんはこの手の祝福は慣れていないともいっていた。そのせいでこんなこと(踏み台転生者)になったんじゃなかろうか。今の両親のもとに生まれたのもそれが少しは影響しているかもしれないので、そこは感謝してもいいと思っているが。
でもあの世に行ったら鬼灯さんから金棒借りて一発殴らせてもらおう。リアル男の娘とか実際なってみるとまったく笑えませんよ。
少し愚痴っぽくなってしまったが、俺の見た目に関してはこんな感じだ。あと、ウル父さんが日本とドイツのハーフでアリス母さんがイギリスとロシアのハーフなので、俺は日本、ドイツ、イギリス、ロシアのクウォーターで中身生粋の日本人というカオスな感じになっております。
『力』の修行は恐らく順調に進んでいると思う。
力の正体が判明するまではがむしゃらに瞑想とかを繰り返していただけだが、それなりに上手く力を扱えるようになっていた。まあ、いくら手探り状態の修行だったとしても毎日のほとんどの時間を費やしていたわけだしね。あくまでも『それなり』レベルなんだけどさ。
具体的には体の中の力をしっかりと認識してその流れを少し操作することができるくらい。え?全然大したこと無いようにみえる?まだ2歳位の時だしそう考えると頑張ったほうだと思うんだけど。
想像してみてほしい。毎日のほとんどの時間を瞑想とかに費やすんだよ?これがまた恐ろしく地味な癖に精神的に凄く疲れるんだ。ストリートファイター世界だとまだわかってなかった時なので、少しでも死ぬ危険性を減らせるように必死だったから余計に辛く感じた。身体が救済措置でオートで動いてくれていなければ、絶対に周囲に怪しまれていたレベル。
その後、前述のとおりここがストリートファイターの世界だと判明して、力の正体も同時にわかった。おそらく『気』の呼び方が一番しっくりくると思う。転生5日目くらいに試した時はなにも反応は起きなかったわけだが、どうやらドラゴンボ◯ル的な気を想定していたのがいけなかったらしい。
ドラゴンボー◯の気はなんというか電気のようなスパーキングな感じなのにたいして、俺の中の気は『波動』の特性が強い感じなのだ。多分性質でいえば水、もしくは波のようなものといったところだろう。同じように見えて、根本的なところが違っていたわけだ。あ、この世界、前世にあった漫画も普通にありました。もちろん無いのもあったし、内容が変わってるものも多いみたいだけど。まだ漫画とかを読むような年代じゃないので、周囲に怪しまれないように読むのを控えてるから確証は無いが。因みにドラゴンボ◯ルは絶賛放送中で現在人造人間編の最初のほうです。
さて、力が『気』のようなものであると判明したことで俺の修行はかなり変わった。なぜなら具体的な目標が出来たからだ。
それは、ずばり“波動拳”を撃てるようになることです!!
『波動拳』、それは格闘ゲーム史上において恐らく最も有名な必殺技の一つ。組み合わせた両手(一部は片手)から気弾を放つ「かめ◯め波」と並ぶ漢のロマンを体現した技。男の子ならば一度は両手を前に突き出して「はどーけん!はどーけん!!」と真似をしたことがあるに違いない。実際俺もやったことがある。
そんな夢の様な必殺技をこの世界なら実際に使えるようになれるかもしれないのだから、これはもうやるしかないだろう。ゲーム中に波動拳を使えるキャラは(一部は微妙な性能だが)かなりいる。俺にだって可能性はあるはずだ。
―――そう思っていた時期が俺にもありました。
ええ、いまだに撃てませんがなにか?いや、正直舐めてました。『気』を動かして手に集めることはできるんだけど、全く放出ができないんだよね。そんなに簡単にできるとは思ってなかったけど、正直ここまで難易度が高いとは。もしかしたら俺って才能ないのかもしれない。
それでもずっと修行を繰り返していたせいか、やたらと気の移動の精度とスピードだけは成長したんだけどね。しかも、『気』は集中させるとその部分が気持ち強化されるので、結果的に運動能力を向上させることが出来るようになった。
なんというか、『気』って『HUNTER◯HUNTER』の念能力のオーラみたいだよね。きっと俺の資質が具現化系だから、反対側の放出系だと思われる波動拳が習得しにくいとかなんだそうに違いない......よね?。決して格闘全般に才能がないわけじゃないと信じたい。
まあ、修行しているといってもまだ4歳(数えで5歳)なので、そこまで時間がないわけでは無いと思う。原作キャラクターのサクラとは同い年なわけだから、巻き込まれるとしても高校生になってからなのではないだろうか。早くても中学生だろうし、10年くらいは修行にあてることができるはずだ。それにこの世界は人が飛んだり魔法があるわけじゃないんだ、まだ慌てるような時間じゃ「さくらちゃんすげーー!!いませんせいとびこえたよね!!すげー!!」
「へへーん!こ~んなとこだね!!」
前言撤回。人は空を飛ばないが宙を跳ぶ。よく考えればベガのサイコパワーとかローズのソウルパワーとか魔法みたいなのもあったわ。......まだ5歳だというのに人間を飛び越える跳躍力を発揮するサクラを見て修行の必要性を思い知らされました。あんなサクラみたいなチートな奴らの争いに巻き込まれた時に、俺のようななんのチートも持っていない存在が生き残るためには死に物狂いで修行して強くなるしかない。......とりあえず波動拳を早く撃てるように努力しようと思いました。
それから更に一年と数ヶ月。今や6歳となった俺は幼稚園を卒業し、来月からはついに小学生である。さすがに幼稚園の間はそんなにトラブルらしいトラブルはおきず平和に過ごすことができた。
......相変わらずサクラに振り回されてはいたが。
いや、子供は大体テンション高いけど、サクラはマジ元気すぎる。休日に近所の山を朝から晩まで引きずり回された時は流石に死ぬかと思った。体中泥だらけだし、あちこち擦りむいたりしてたので、あの優しいアリス母さんからお説教をされたくらいだ。
「きょうはたのしかったねーー!!あしたはなにしてあそぶ?」
全然反省してなかったけどね。身体能力が高すぎて一緒に遊べる友達が少ないらしく、同等かそれ以上のレベルで動ける俺と遊ぶのが一番楽しいらしい。おとなしくままごととかお絵かきとか動かずにできる遊びをやればいいと言ってみたものの、本人の性質に合わないらしく頑なに外で遊ぼうとする。
「やーー!!おそとであそぶのーー!!」
「雨降ってるじゃないか!!放せってシャツが伸びちゃうだろ!!ちょ、引っ張るな!」
「いやーー!!いっしょにあそぶのぉーーー!!えいやーー!!」
「アーーーーーッ!!」
結局その日は雨の中遊ぶことになり、ずぶ濡れになって翌日に風邪をひいてしまった......俺だけな!!サクラ?ピンピンしてやがりましたよ。解せぬ。
そんな感じでほぼ毎日サクラが遊びに来るのだ。家が隣だから休日でもお構いなしに突撃してくる。家族ぐるみの付き合いなので、サクラの親が出かけたりする時は泊まっていくこともあるし、逆にサクラの家に泊めてもらうこともある。一緒に風呂に入ったり同じベットで寝たことだって何度もある。
......今羨ましいとか思った奴はロリコンの可能性があります。6歳児にそんな不健全な欲求は芽生えないからね?救済措置も働いてるし、そもそも俺はノーマルだから。むしろ俺の見た目のほうがロリっ娘ぽいしね......この間銭湯に行った時なんて男湯に行こうとしたら、色んな意味で危ないからと強制的に女湯に連行されたし。
《このロリ(ショタ)コンどもめ!!》
え?今何か聞こえた?俺には何も聞こえませんでしたけど?まあ、こんな感じで巻き込まれフラグは順調に強化されていっているようです。ナンテコッタイ。
そんな訳で着々と危険が近づいてる気がするのに、波動拳を撃つという目標は完全に行き詰ってしまっていた。どれだけ気の操作が上手くなっても一向に気弾が出せないのだ。
もちろん、ちゃんと修行はしている。それに最近ではウル父さんや甚八郎お爺さん、アルバートおじいちゃんに稽古をつけてもらえるようになって、肉体的な鍛錬も本格的に始めることが出来るようになったのだ。
最初は反対されたのだが、「大切な人達(家族や祖父母、友人)を守れるくらいに強くなりたいの......だめ?」とあざとくお願いしたら一発で全員OK貰えました。さすがうちの親族、身内に甘い(特にアルバートおじいちゃん)。チョロい。チョロ甘い。
その修行は全員ジョロキアクラスの激辛だったんですけどね。
「これで終わりか?あくびが出るぜ。そんなんじゃ誰かどころか自分も守れねえぞ?もう一度だ。悪魔流の喧嘩術を教えてやるぜ」
基礎練とかをすっ飛ばして実践形式の組手を俺の意識がなくなるまで続けるウル父さん。この後、目撃した母さんに「やり過ぎです」と叱られて落ち込んでいた。ざまぁ。
「ふむ、走り終わったようだな。では次は逆回りで同じだけ走れ。それが終わったら型の練習に入るぞ。休憩?そんなものはない」
技の基礎練習や軍隊式トレーニングを俺の体力がなくなるまで何度でも続ける甚八郎お爺さん。この後、目撃したカレンお祖母ちゃんが剣を持ちだして「私も教えるわ!」ととてもいい笑顔で更に俺を叩きのめした。あひぃ。
「いいですか、ここでは上流階級としての最低限のマナーを身につけてもらいます。武術?そんなことは二の次です!!」
武術の修行に来たはずなのにいつの間にかマナー講座を俺の目からハイライトがなくなるまで続けるアルバートおじいちゃん。この後、目撃したアンヌお祖母ちゃんに「貴方は何をやっているの?」と説教されて部屋の隅で膝を抱えていた。ざまぁ。
......みんな俺がまだ幼稚園児だってこと忘れてませんかね?そりゃあ、生き延びるために死に物狂いで修行しようと思ったけど流石にやり過ぎだと思うんだ。アルバートおじいちゃんに至っては武術ですら無いし。母さんたちから叱られるのは当然だと思う。カレンお祖母ちゃんは何故か参加してきたけど。
まあ、厳しいだけはあって4歳の頃とは比べ物にならないくらい運動能力や技術は成長したのだ。あくまで4歳の時に比べてだが。これだけやれば少しは筋肉がついても良さそうなものだが、肉体的には背が少し伸びたくらいで見た目はほとんど変わらなかった。相変わらずの男の娘状態ですよ、ええ。
肉体的に成長してもまだ波動拳を撃つことが出来なかったんだけどね。俺は毎日「明日こそは波動拳を撃つ」と思いながら修行をしては現実に打ちのめされる日々を過ごしている。しかもこれだけ修行をしているのにサクラと運動能力があまり変わらないという現実。やりきれないぜ......。
「はあ......今日も撃てなかったな波動拳。やっぱり俺って才能ないのかな。これだけやってれば少しくらいは撃てるようになってもいいと思うんだけどなぁ~」
そんな感じで悪態をつきながら項垂れる。誰かが一緒にいると波動拳の練習はやりにくいから、あんまり時間が取れないのになー。大体サクラがくっついてくるし、修行の時は父さん達がいるしね。今日もおそらくあと少ししか練習出来ないだろう。
「気の移動だけは速くなったのになぁ......。まあ、普段の修行で役立つから無駄ではないんだけどね。......あと1回だけやって今日は終わりにしよう」
精神を集中して気を操作、組み合わせた手のひらに集める。そして一気に前に撃ち出すイメージで!!
「波動拳っ!!」
うん、出ませんね。いつものことながらイライラしてきた。やはり、俺に才能はないのかっ...!!悔しいのう、悔しいのう。
「......おのれぇーーー!!リア充爆発しろぉおオオーーーー!!」
怪しげな電波を受信してしまったのか、つい八つ当たりで関係のないことを口走りながら地面を殴りつけてしまった。......手に『気を集めた状態』のまま。
ドゴォォォッ!!
「へぁ!?」
なんか出た!?いきなり少し前方の地面から、蒼い『波動』の火柱が吹き上がったのだ。少し弱々しい感じで高さもなかったけど。
「あ、消えた。......ていうか、今のって『波動』だよね。俺が出したのか?」
波動拳ではなかったが遂に波動を発生させることに成功した!!なんでかわからないけどとにかくヤッターー!!
でも待てよ、この技どっかで......あ。
「どう見てもパワーゲ◯ザーです本当にありがとうございます。......なんで波動拳撃とうとしてたのにパ◯ーゲイザーが出るんだよ!!」
俺、明日こそは波動拳を撃つんだ。結局最後はいつも通りの事を思ってしまった、小学校入学前のとある一日の事だった。
主人公の見た目は踏み台転生者チックな男の娘になりました。両親の特徴を組み合わせただけでそうなってしまった。最初はなんというか冴えない一般人にしようと思ってたのに。
因みに、サクラの好みのタイプは所謂『男らしい』タイプだと思うので、主人公の見た目は何らプラスに働きません。寧ろ弄られる要素が増えるだけです。女みたいなイケメンかザンギエフのような野獣、どちらか選べといわれたら彼女は「ザンギエフ!!」と迷いなく答えるでしょう。
要するに良かれと思ってかけた祝福は、完全に逆効果だったことになります。だいたい白澤のせい。主人公は男らしく見られるように鍛えて筋肉をつけようとしますが、外見的にはほとんど変化が出ないと、もはや呪いの域。