この話だけ異常に長くなってしまいましたので、お読みになる際はご注意ください。前回の倍くらいありますので。次回からはある程度短くまとめる予定です。
感想、批評、誤字報告など随時募集中です。書いてくれると作者が狂い悶えます......喜びでな!!
どうも、日向涼(りょう)です。英名をアルトリウス・エリオット・ヒューガーです。長ったらしいので、アルとでもお呼びください。只今ピカピカの小学1年生です。
「アルーー!いっしょにかえろー!!」
この女の子の名前は春日野さくら。俺が産まれてすぐから続く幼なじみで、このストリートファイターの世界の所謂『原作キャラ』というやつである。
「今日はしゅぎょうの日だったよね?じんぱちおじーちゃんたちもいるんでしょ!たのしみだなーー!!」
「嬉しいのはわかったからその手を1回離そうか?痛いから。割りと本気で痛いから」
最近では俺と一緒に父さん達から一緒に修行をつけてもらっている。原作では確かリュウのストリートファイトを目撃したことがきっかけでファイターの道を目指すようになったはずなのだが......ドウシテコウナッタ。
最初は俺が修行しているときに遊びに来たサクラが、暇を持て余して道場に突撃してきたんだっけ。そのまま何故か修行に参加することになったんだよな。
さすがに父さん達も、よその子にいきなり気絶するほどの特訓をするわけがなく、修行内容自体は俺とは違ってかなりソフトなものだったが。
「今日の『くみて』ではまけないんだからね!」
「......ちゃんと休憩の後でだからな?絶対だぞ?」
この前なんて修行の後に休憩もなしに組手に無理やり持ち込まれたせいで、組手終了とともにぶっ倒れてしまったんだからな。
「えーー。でもそのときだってアルがかったじゃない。そのまえもサクラがまけちゃったし」
どっちもギリギリだったけどな。つーか今まで俺がどれだけ修行してきたと思ってるんだ。気の修行に関していえば6年以上なんだぞ?一ヶ月程度のトレーニングだけで追いついてくるとかこのチート娘め。
「じぃーーーー」
ん?サクラのやつ急に静かになったと思ったら何見てんだ?......駄菓子屋さんのお菓子に目が釘付けになってますね。自分から急かして俺を無理やり引っ張ってきたというのに寄り道しようってか。やれやれだぜ。
「......サクラ」
「ビクッ!!え!?なに?サクラよりみちしようなんておもってないよ!!ほんとだよ!!」
「......今日はお母さんがプリンを作っ「なにしてるの!!はやくいこう!!すぐいこう!!」だから引っ張ったまま走るんじゃあない!アーーーーッ!!」
結局家に着くまで離してもらえませんでした。そんなに鍛えてないはずなのにめちゃくちゃ力とか強いんだよなぁ、サクラのやつ。才能の差をヒシヒシ感じる。あと、腕がいてぇ。そして今日も腕と心にダメージを受けながら下校するのであった。
「こんにちはーーー!!」
「た、ただいま」
「あらサクラちゃんこんにちは。今日もとっても元気ね。アルもおかえりなさい。お義父さん達はもう来てるわよ。着替えたら道場の方に行ってあげてね」
帰宅するとアリス母さんが迎えてくれた。......今更ながらとても小学校の子供がいるように見えない。あとサクラ、少し落ち着け。そしていい加減に手を離すんだ。
「ね~、アリスさん。またおなかさわってもいい?」
「ふふっ、良いわよ。優しくね?」
因みに現在妊娠中である。お腹も目立ってきているので、数カ月後には弟か妹が出来る予定である。正直な話、両親はいつまで新婚気分でいるんだって思うくらいラブラブだったので、今まで出来なかったのが不思議なくらいだったしね。
相変わらず息子の前でもお構いなしに惚気やがって!!俺がどれだけ(主に夜中)気にしないように苦労していると思ってるんだ!おのれぇ...許せるっ!!......だってゲームではあんなだったからね。アリスはウルの嫁、異論は認めない。
「っ!!今うごいた!!うごいたよ!!」
「あら!本当ね。サクラちゃんに触ってもらって嬉しかったのかもね」
「ほんとに!?...えへへーーー」
満面の笑みを浮かべるサクラとそれを暖かく見守るアリス母さん。すごく微笑ましい光景なのに、この後地獄(の修行)が待っているのであまり喜べない自分が悲しいです。
「サクラ、先に逝ってるから」
「あ、まって!!すぐにきがえてくるからーー」
そう言いながらサクラは隣の自分の家に駆け込んでいった。......やっと手を離してくれたよ。お腹を触っている時も何故か俺の腕を掴んだままわざわざ片手だけで触ってたしね。それにしてもそんなに慌てなくてもい「おまたせ~~♪よっと!!」......はやっ!!
「じゃあアリスさん!どうじょういってきますー!!」
「はい、いってらっしゃい~」
「......逝ってきます」
また腕を掴まれました。そのままサクラに引きずられるようにして道場に連行された。どこからかドナドナが聞こえてくるような気がした。
「お!来たなチビ共。おーい親父ぃ、二人共来たぜ~」
「大声を出さずともわかっている。久しぶりだな、涼。サクラちゃんも元気そうで何よりだ」
「お久しぶりです。おじ...師匠(せんせい)」
「じんぱちおじーちゃんひさしぶりーー!!ウルさんも今日はよろしくおねがいします!!」
甚八郎おじいさんのことは、修行中はおじいちゃんではなく師匠と呼ぶことにしている。父さんの方はそのままだけど。アルバートおじいちゃん?そのままですが何か?
「では、涼は今から私と基礎の復習からだな。それが終わったら狼司(ウル父さんの日本名)と組手をしてもらおう。サクラちゃんはその間狼司に稽古をつけてもらいなさい」
「は~い!!」
「はい!」
「うむ。良い返事だ。では始めよう」
こんな感じでいつも修行が始まります。今日はおじいちゃんが居るのでスペシャルコースです。実は基礎の復習が一番過酷なんですよね。さり気なく内容がどんどん厳しくなってきている気がするし。いつの間にか錘が増量されてたりするし、いつまでたっても楽になる気配がしない。
「よし、今日は通信販売で購入したこの『岬越寺式おぶさり地蔵くん改』を背負って走るように」ドサッ
「」
遂に隠しもしなくなった。何キロあるかわからないが石で出来た地蔵を背負ってランニングさせられました。皆さん忘れてるかもしれませんが、俺はまだ小学校一年生です。
「なんかアルたいへんそうだね~」
「そうだな~」
ほのぼのとした雰囲気で、修行中の俺をチラ見しながら打ち合うサクラと父さん。サクラはまだ格闘スタイルが決まっていないので、自由にやらせるだけにとどめている。随分と余裕そうだなおい。
その後、なんとか地蔵ランニングを終えて筋力トレーニングなどもやりきることが出来た。まあ、この後父さんとの組手があるんだけどね!
「お!終わったのか。じゃあ次は俺とだな!」
「じゃあサクラはじんぱちおじーちゃんとしゅぎょうしてくるね~」
「ハァ...ハァ...っはい!お願いします!」
そして父さんとの組手に入るわけだが......
「遅ぇ!!」
「......っ!!せいっ!!」
そもそも技量で圧倒的に劣る上に、体格差があるためリーチでも負けている。結果として一発も当てることが出来ず、既に三十分以上フルボッコ状態です。サクラの時のほのぼのはどこにいった。
「ふい~~。今日はこのくらいにとくか。やり過ぎるとまたアリスに叱られちまう。だいぶ動きも良くなってきてると思うし、ついやり過ぎそうになるからな」
「ゼェ...ハァ...ありがとうございましたっ」
褒めているけど無傷の状態でそんなこと言われても、信憑性がないと思う。オデノカラダハボドボドダ。
「次はサクラちゃんとの組手かな?ひとつ見物させてもらうとしようか、狼司」
「そうだな。おーい、サクラちゃーん。アルが空いたよー」
「はーーーい!!」
庭のほうで何故か木にぶら下がっていたサクラに父さんが声を掛ける。アカン、これ休憩なしのパターンや。
「ちょっとま「よーし!!いっくよーーーー!!」危なっ!!」
FIGHT!!
こちらに到着すると同時に殴りかかってくるがなんとか躱すことが出来た。完全に下校時のやりとりを忘れてやがりますね。体力は限界に近いんだけど、やるしかないか。
「とぉーー!!」
荒削りながらも形にはなっている鋭い蹴りを放ってくる。いつも思うが、絶対に小学生の蹴りの威力じゃない。さすがにこれを受ける訳にはいかない。残った力を脚に回して紙一重で躱しカウンターを仕掛ける。
「...シッ!!」
「あぅ!いたたぁ~...ゆだんしちゃった。ならこれならどうだぁーーーー!!」
カウンターで掌底を当てることには成功した。しかし、たたらを踏んで少し後ろに下がりはしたがサクラに怯む様子はなく、それどころかどうやら一気に勝負を決めるつもりらしい。恐らく連撃を繰り出して来るだろう。さて、どうするか。
先ほど仕掛けたカウンターで距離が開いているので、なんちゃってパワー◯イザーを使えば効果的な牽制になりそうだが、今は皆に秘密にしているので使うわけにはいかない。
ん?なんで秘密にしてるのかって?気が扱えることがバレたら修行内容が加速度的にひどくなるのは確定的に明らか。俺はまだ死にたくないんだ。
まあ、それは置いておいて突っ込んでくるサクラの対処だ。リーチの差は殆どないがあちらには勢いがある。ならばそれを利用してみるかな。
「せやあぁーーー!!」
十分に勢いの乗った突進突きを繰り出すサクラ。これは今の体力では躱しきれないので受けるしかない。
「グゥ...ッ!!」
ガードした腕の上からでも痺れが残るほどの一撃だ。サクラはすかさず追撃をしようとするが
「――あ、あれ!?」
「足元がお留守ですよ!!」
戸惑って隙を晒しているサクラに足払いを掛ける。動揺していたためか見事にすっ転ぶサクラ。そのまま仰向けに倒れたサクラの目の前に拳を突きつける。
「―――ふぅ。俺の勝ちだね」
「うーーー。まけちゃったぁ」
YOU WIN!!
目に見えてテンションが下がるサクラ。うーうー言いながら悔しがっている。おそらく、なぜ追撃が出来なかったのかがわからないので納得がいかないんだろう。
「ふむ。今回は涼の作戦勝ちといったところか。相手の技を先読みできたのはなかなかだったな」
「サクラちゃんもいい線いってたけどなー。才能あるよなー、やっぱり」
流石に大人組は理解してるみたいだ。実際大したことはしていないのだけど。サクラが仕掛けてきたのは勢いのある突進突きだった。それを受ける際に少し自分から後ろに飛んで、突きの勢いを殺さないようにしただけなのだから。
つまり、俺にヒットした時になくなるはずだった勢いがそのままになって体勢を崩したのだ。そのため気付かずに追撃しようとしたサクラは技が出せず隙を見せてしまったのだ。
因みに実戦でこれを行うのは難しい。今回サクラの性格から来る技の種類と、今での経験でタイミングがわかっていたから出来ただけである。違う相手との対戦では絶対に無理。
「いけるとおもったのになぁ......。なにがダメだったんだろ」
ショボーンという効果音が聞こえてきそうなくらい落ち込むサクラ。休憩がなかったから俺も倒れる寸前なんだけどな。
「よし!今日の修行はここまでにしとくかね。サクラちゃん夕飯食べていくだろ?」
「うん!!」
復活早いな、おい。
「では夕飯が終わってからいつも通り反省会と行こうか。サクラちゃんはまずは汗を流してきなさい。私達は最後に瞑想をしてからいくからね」
「は~い」
そのままトテトテと母屋に向かって歩いていくサクラ。今更だけどサクラの家での馴染みかた半端ないな。そういえばいつの間にか俺の部屋に
まあ、何にしろ今日の修行は終了だ。サクラとの組手を短期決戦で終えることができたとはいえ、本当に倒れる寸前だしね。今は妊娠中の母さんについていることが多いので、カレンさんは参加していないのは助かった。剣術の修行は格闘技とは違ったキツさがあるからな。
「「「「「「いただきます」」」」」」
修行も終えて汗を流し終わり、現在食事中である。家の家族3人に祖父母、サクラの六人で食事中だ。いつもは俺と母さんだけ、もしくは帰宅した父さんの3人でとることが多い。今日は祖父母が遊びに来ているし、父さんは休日でサクラも居るので大変賑やかだった。
「「「「「「ごちそうさまでした」」」」」」
うむ。いつものことながらアリス母さんの料理の腕は絶品である。疲れた身体に染み渡るぜぇ。
「デザートにプリンがあるから今用意するわね」
「「わ~い!!プリンだーーーー!!」」
ちなみに今のはサクラとウル父さんであって、俺ではないのであしからず。最近は妊娠中の為、余りデザートを作らなくなっているので気持ちはわかる。でもはしゃぎ過ぎだと思う。特にウル父さん年を考えろ。
「そういえば今日は修行の方はどうだったの?」
参加できなかったカレンさんが問いかけてくる。ん?なんでおばあちゃんって呼ばないのかって?......察しろ。
「うむ。久々だったが、なかなかのものだったぞ。涼は基礎の鍛錬を怠っていないようだし、サクラちゃんの成長の早さには驚かされる」
「まあ、アルはまだ俺に一撃も入れられないけどな~」
「でも、サクラきょうもまけちゃったんだ~。やっぱりアルはつよいな~」
「......へぇ。そうだったの」
おや、カレンさんの様子がおかしい。なんだか雲行きが怪しいぞ。
「涼、後で久しぶりに稽古をつけてあげる。木刀を持って道場にいらっしゃい」
この後道場で剣術修行が行われ、盛大にボコボコにされて気を失いました。気づいた時には自分の部屋のベットに寝ていて次の日の朝になってました。あひぃ。
さも当然のようにサクラが隣で寝ていたが、割りとよくあることなので気にしない。きっと疲れて家に泊まることにしたのだろう。起こさないように抜けだして朝練をするために庭に向かいました。
朝練を終えて汗を流したところでサクラが起きてきたので朝食を済ませて一緒に登校する。学校までは小学生にはかなりきつい距離があるので、早めに出ないと遅刻してしまうのだ。なんでも2年生になる頃にはスクールバスが出るようになるらしいが、今はまだ皆歩きで登校している。
「サクラ、忘れ物とかしてない?」
「うん。だいじょうぶ。ちゃんとあさみたもん」
「今日体育あるけど体操服は?袋持ってないみたいだけど」
「へへーん!もうはいてるんだよ!これならわすれないしね、ほら!!」ピラッ
「いちいち見せなくてもいいから!!スカートを捲るのを止めなさい!!」
ぺろんとスカートをまくり上げブルマを見せてくるサクラ。やめなさいここは普通に人通りのある道だぞ!?危ない人が見てたらどうするんだ。
「サクラ~!アルくん~!おっはよー!」
「あっ!ケイちゃん!おはよー!!」
「おはよう千歳さん」
俺とサクラに挨拶してきたのは千歳ケイ。茶色っぽいロングヘアーに白いヘアバンドをした、小学校に入学してすぐにサクラと友達になった女の子だ。実はサクラのムービーとか勝利後とかにチラッと出てくる原作キャラだったりするが、本人はいたって普通の女の子だ。
「ねえねえ、アルくぅ~ん。今日がっこうおわったらいっしょにあそびにいかな~い?」
「ごめんね。今日も用事(修行)があるんだ」
「そっかー......。ざんねんだなー。...じゃあサクラでもいいや」
「サクラもアルといっしょ(に修行)だからむり~」
「ねえそれどうゆうこと!?く、くわしくおしえなさいよ!!」
「?」
確かケイってイケメン好きだったな。正直あまり目立つキャラじゃなかったのでよく覚えてないんだけど、そんな設定をどこかで見たような気がする。どうやら俺の容姿(踏み台転生者風男の娘)も射程内だったようで、時々こんなかんじで遊びに誘われる。まだ小学1年生なのにおませさんなこって。サクラなんてまるでついていけてないよ。
「ほら二人共、止まってないで進もうね?流石に遅刻はしないだろうけど、他の人の迷惑になるからさ」
「はーい!!」
「くぅ~。サクラ!!あとでぜったいみんなにはなしてもらうからね!」
そんな感じのやりとりをしながら学校に到着した。ちなみに何の変哲もない普通の小学校である。グラウンドが前世の小学校の倍広いけど、この世界ではこれが普通なんだよな。
「今日のいちじかんめってなんだったけ?サクラおぼえてる?」
「さんじかんめはたいくだよ!!」
なぜ三時間目を答えた。体育が好きなのはわかったけど、ちゃんと勉強もがんばれよ。そんなだから将来『高校生の制服着ている期間長くね?え、もしかして留ねry』とか言われるんだよ。
「......一時間目は算数だよ」
「あ!そうだった。アルくんありがと~♪」
授業の内容は殆ど前世と変わりがない。歴史だけは微妙に違っているが、小学一年生ではまだ習わないので授業はかなり退屈である。流石に足し算や引き算は間違えないしね。だから隠れて家から持ってきた本や図鑑などを読んだりするのは仕方ないよね?ね?
キーンコーンカーンコーン
「たーいーくーだーーー!!」
「サクラうるさい」
三時間目にサクラのテンションが天元突破した。サクラってこんなキャラだったけ?とあらためて原作知識の当てにならなさを実感しました。あ、今日の体育はドッチボールです。
「うわあーー!!サクラがボールをもったぞーー!みんなきをつけろー!!」
「ちょっと!サクラ!すこしはてかげんしなさいよ!」
まだ入学して間もないというのに既にこの扱いである。前回の体育の授業での惨劇(俺以外の全員顔面にボール直撃、しかもセーフ判定でゲーム続行)は小学生にはトラウマものだったようだ。
「いっくよーー!!それぇーーー!!」
ゴウッ!!と受けたら身体に炎型の痣ができるんじゃないかと思うほどの勢いで放たれるボール。しかもたちの悪いことに吸い込まれるかのように顔面に向かっていく。
「グフっ!!」
「ギャンっ!!」
「ドムっ!!」
「ゴックっ!!」
「ベアッガイっ!!」
あっという間に5人が犠牲になった。しかも顔面セーフだから外野に行けないという地獄。このままだと前回の二の舞いになってしまう。てか、なんか悲鳴がおかしかった気がするんだけど......特に最後のやつ。
「よーし!このままかつんだからーー!!」
その前にお前はルールを理解しろ、頼むから。このままじゃ犠牲者が増えるだけでルール的には永遠に勝てないからね。それに......
「ていやぁーー!!......あれ?」
「さて、今度はコッチの番だね?サクラ」
今回は敵チームに俺が居るんだよ。前回はサクラと同じチームの外野にしかなれなかったから惨劇を止めることは出来なかった。しかし今回は違う!!
「あ、ありがと~!アルくん~~!!サクラはあとでおぼえてなさいよ!!」
「む!!ショーブだよ!アルにはまけないんだから!」
もう少しで犠牲になりそうだったケイを庇う形でボールをキャッチする。ケイはサクラに文句を言っているが、どうやら聞こえてないらしい。
「そらっ!」
「なんの!!」
「ていっ!」
「うわっと!!」
「やあっ!」
「あぶない!?」
ふむ、なかなか粘りおる。身体能力と直感に物を言わせた恐ろしいほどの回避力。このままでは無駄に時間がかかってしまうな。......ならば!
「あ!フ◯ーザ様!!」
「え!?どこ!?ドド◯アもいる!?」
「そぉい!!」
バシーン!
「うにゃーー!?しまったーーー!!」
幼稚園の時と同じ手に引っかかるとは...精進が足りんな。そして今回もザ◯ボンさん忘れやがって。あとなんでドドリ◯は毎回気にするんだよ。
「うぅ~。まただまされたぁ~。ひどいよぅ」
「どの口が言うか。まずはきちんとルール覚えろよ。ほら、早く外野に行きなさい」
「ちぇ~~」
しぶしぶ外野に移動するサクラ。これでだいぶ犠牲者を減らすことができるだろう。クラスの皆も救世主を見るような目でこちらを見てくる。そんなに嫌だったのか。
体育の授業をなんとか乗り越え、現在放課後です。
「ねえねえ、さくら。朝はむりっていってたけど、やっぱりあそべない?今日はみんなあそべないらしいのよ」
「え?う~~ん」
どうやらケイはサクラを遊びに誘いたいらしい。しかし、サクラは難色を示しているようだ。おそらく、甚八郎おじいちゃんたちの修行を期待しているのだろう。ここはひとつ援護射撃をしておこう。
「サクラ。おじいちゃん達は知り合いの人に会いに出かけるから今日はいないよ?父さんも仕事で遅いらしいし、行ってあげたら?」
「え!?そうなの!?...うん!わかった!ケイちゃんいっしょにあそぼう!」
計画通り(ニヤリ)。これで今日は人の目を気にせずに修行ができる。
「よっし!それじゃあ、いまからうちにくる?それともいっかいかえってからにする?」
「じゃあ、いっかいかえってからにする!」ガシィ!
おい、なぜ俺の腕を掴む?痛いんだけど。
「いそいでいくからまっててね!」
「えっと、サクラ?なんでアルくんと手をつないでるのかな?」
違います。これは手を繋いでいるのではなく、腕を掴まれているんです。
「いっしょにかえるからだけど?」
「そ、そっかー。うちがとなりだったもんねー!で、でもてをつながなくてもいいんじゃない?」
そのとおりだ、いいぞもっと言ってやれ。毎回毎回帰るたびに腕が痛くなるので困ってるんだ。......それにだんだん慣れていってる自分が怖くなってくるんだ。
「えっ?だってどうせいっしょのおうちにかえるし」
「いっしょじゃないでしょ?となりじゃない」
「きのうはアルとねちゃったから(荷物とか置きっぱなしなので)いっしょのうちにかえるよ?」
「おいおまえいまなんつった?」
ケイちゃん口調変わってますよ!あとサクラは紛らわしいいいかたをするんじゃあない!
その後、何とかケイちゃんの誤解をといて、サクラに引きずられながら帰宅しました。アリス母さんの手伝いや宿題等を終えて、現在修行をするために一人道場に来ています。
因みに、なんとこの道場は家の所有物である。アルバートおじいちゃんは(あんなのでも)枢機卿なので、家はそれなりに裕福だったりします。いつでも修行ができるので、非常に恵まれているとは思う。
「はあぁっーー!!『波動壁』!!」
ドオゥッ!
“波動壁”は小学校入学前に習得した、なんちゃってパワーゲイザーのことです。見た目はアレだが一応俺のオリジナル技です......見た目はアレだが。
「ふう。少しは形になってきたかな」
そうなのです。サクラやウル父さん達の目を盗んで修行してきた成果がようやく出たのか、それなりの高さでそれなりに安定した状態で出すことが出来るようになったんですよ!
......威力はそれなり以下だけどね!全力で力を込めてて撃ったとしても、普通にパンチするほうが余程強い。なので現時点では使い勝手はあまり良くないんだよなぁ。牽制としてそれなりに有効なのがせめてもの救いかな。意表を突きやすいので、目くらましくらいにはなる。
さて、基礎トレーニングは終えたし地蔵ランニングのせいで少し疲れてるから、波動壁の練習はこれくらいにしておこう。次は『アレ』の修行だしね。
まずは全身の気を循環させ活性化させる。そして自身の中で高めた気を組み合わせた掌に集中させ一気に解き放つ!!その名は!!
「――波動拳っ!!」
そして解き放たれた気は掌の中で波動の球となり、手を突き出す動作とともに前方に放たれる!!
ポヒュルゥ~~......ポスン
気の抜ける効果音とともに掌から放たれた気の塊、いや、寧ろ気の搾りカスとでも表現するのが正しいだろう『ソレ』は10センチ程度の距離までゆっくりと進んだところでこれまた気の抜ける効果音で霧散した。
......はい、これが俺の全力の『波動拳』です。正直波動壁が出せるようになったので波動拳もいけるんじゃね?とかちょっとだけ考えてました。その結果がご覧の通りだよ。
波動壁ではそれなりの気の塊(火柱)が出せるのに、波動拳だと全く形にならないのだ。一応掌から放つことは出来るようになったのだが、逆に言えばそれしかできていない状態である。
「......恥ずかしいのを我慢して名前まで叫んでいるというのに......」
そうなのだ。なにも好き好んで技の名前を叫んでいる訳ではない。簡単に説明すると、技名や掛け声等を叫びながら出すと『技の威力が上昇する』んだよ、いや本当に。
甚八郎おじいちゃんから初めてこの事実を教わった時は本当に驚いた。なんでも、声に出す事で『技のイメージ』や『力の込め方』を強く認識することができ、威力が上昇したり正確に技を出すことができるというトンデモ理論らしい。
思い出してみれば、ストリートファイターの殆どのキャラは技を出すときに何かしら声を出しているし、特に強やEX技(ゲージを消費してだす強化必殺技)や、スーパーコンボやウルトラコンボ(超必殺技)等の『威力の強い技』で技名を叫ぶことが多いのだ。
本来格闘技において、技を出すときに技名を叫ぶのは余り良いこととはいえない。確かに気合は入るかもしれないが、相手に『技を出しますよ』と教えているようなものだからだ。技と同時に叫んだとしても、『今出しているのはこの技ですよ』と教えているわけで、対策されやすくなる。何より厨二っぽくて恥ずかしい。
それでもこの世界では、プロの格闘家でも当然の如く技名を叫ぶ。それはもう恥ずかしげもなく高らかに叫ぶ。子供から老人まで皆叫ぶ。ウル父さんに見せてもらった格闘技の試合のビデオ等で確認したので間違いない。つまり、リスクを上回る程のリターンがあるのだ。
あ、そういえばそのビデオに興味深い人物の試合があったので後でサクラに見せてあげよう。そろそろ格闘スタイルを決めなければならないので、きっと参考になると思う。
まあ、俺の場合は叫んでも『アレ』だったのであまり意味がなかったんですけどね。ちくしょう、もう一度だ。
パスン
ピスン
ペスン
プスン
ボッスン
うーむ。どうも上手くいかない。最後のだけちょっと違う気がするけど、誤差の範囲だろう。......波動壁と何が違うのだろうか。波動拳の方がずっと長く修行してるんだけどなー。物欲センサー的なものでも働いてるのか。逆鱗が欲しいのに紅玉が出るみたいな。
「はぁ......。根気よく続けていくしか無いか。師匠でもいればちょっとは違うんだろうけど」
残念なことに日向流の技は気を波動拳のようには使用しないので、おじいちゃん達から教えてもらう事はできない。剛拳やリュウも今どこにいるのかなんてわからないので教えを請うことも出来ない。......アテがないわけでは無いのだが、出来ればそれは最後の手段にしたいところだ。
「そろそろかな」
壁の時計を見ながら呟く。早ければウル父さんが帰ってくるだろうし、サクラが帰宅した後に突撃してくるかもしれない。波動拳の修行は今日はここまでにしておいたほうが良さそうだ。
「こんばんはーー!!」
ほらね。ここまで聞こえる声でサクラが挨拶をしている。もう少ししたらここに来るだろう。父さん達がいないので、おそらくすぐに組手を要求してくるだろう。
「アルー!しょーぶしよー!今日はまけないんだからーー!!」
「落ち着けサクラ。まだ準備運動もしてないだろ?そういえば千歳さんと遊ぶのは楽しかった?」
「うん!たのしかったよー!クッキーおいしかったし!!はしってきたからじゅんびはだいじょうぶ!」
ケイの家からここまではかなりの距離があるはずだがそんなに疲れているようにはみえない。寧ろなんだか滾っている。
「......わかったよ。でも昨日よりも余裕があるから簡単にはいかないよ?」
「のぞむところだよ!いっくよーー!!」
「うぅーー。またまけちゃったぁ......」
勝ちました。流石に昨日より余裕がある状態で負けるわけにはいかない。まあ何度かヒヤッとさせられる場面があったけど。そしてまた落ち込むサクラ。ご飯の時間になれば自然に復活するだろうが、自分のせいで女の子に落ち込まれると凄く居た堪れない。
「やっぱりかくとうすたいる?をきめないとだめなのかなぁ。......ねえアル、どうしたらいいのかな?」
そんな雨に濡れた子犬のような眼差しでコッチを見るんじゃあない!し、しかも上目遣いだとっ...俺が可愛い動物的なものに弱いことを本能的に利用してくるなんて!サクラ...!恐ろしい娘!
「......私にいい考えがある」
おもわずどこかの司令官みたいな口調で答えてしまった。恐ろしい破壊力だ。あれ?冷静に考えるとこれって『どうしたらアル(俺)をボコボコにできるのか』ってことなんじゃ。......まあいいか、いつも通りだし。
「ほ、ほんとに!?なに!?なにすればいいの!?」
「父さんが新しい格闘大会のビデオを持ってるからそれを観てみよう。格闘家の人がたくさん出るから。きっとどれかサクラがやりたくなるようなのがあると思うよ。」
「それみたら、サクラもっとつよくなれる?アルよりつよくなれる?」
「ああ、俺よか強くなれるぜ」
一度言ってみたかったんだ、この台詞。余りにもいいパスが来たからついやっちゃたぜ。続けざまにネタに走ってしまった。面白いよね、からくりサ◯カス。
「ほんと!?じゃあいまか「父さん達が帰ってきてからにしような。おじいちゃんもいたほうがいいから明日になるかもね。そのほうがアドバイスも貰えるし」......う~。わかった、がまんする」
そもそもサクラはまだ今日は組手しかしてないだろ。来てすぐ戻ったら道場に来た意味がないじゃないか。
「よっす!チビ共揃ってんな。もう基礎練は終わったのか?」
「あ、お父さんちょうどいいところに。実はこの前のビデオをサクラに見せてあげたいんだ。格闘スタイルの参考になるんじゃないかと思って」
「ん?ああ、あの世界大会の特集のやつか。確かに参考にはなるかもしれねえな。よっし!それならさっそ「お父さんいま来たばかりだよね?それに甚八郎おじいちゃんにも一緒に見てもらったほうがいいんじゃない?」......そ、そうだな。うん。焦りは禁物だな!急がば曲がれっていうしな!」
「......急がば回れだよ、お父さん」
「......よし。アル組手するぞ。かかってこいや」
間違ったことを誤魔化したかったのか、昨日以上にボコボコにされました。お、大人げないぞ、ウル父さんめ。
「ウルさんつよーい!」
「ふっ。まあな」
まあな、じゃねぇよ。6歳児ボコって何やりきった顔してるんですか、お子様ですか。そんなだからシャドーハーツの仲間キャラの中で一番INT(賢さ)の数値が低かったんだよ。狼や子供にすら負けてましたからね。
「親父は今日は帰りが遅いだろうから、ビデオは明日にしような。よし、次はサクラちゃんだ」
「はーい!いっきまーす!!てやーー!」
「ハッハッハ。そう簡単にはやられないぞ~」
おいさっき(俺の時)と随分違うんですけど。まあ、いつもの事なので今更そんなに気にはしないけど。俺は既に基礎トレーニング等も終えているので、軽く流すくらいにしておこうかな。
「あ、アルは終わるまでアレ(岬越寺式おぶさり地蔵くん改)背負ってランニングな?」
「」
本日二回目のお地蔵さんはとても重かったです。解せぬ。
次の日。今日は土曜日で学校はお休みだ。ウル父さんと甚八郎おじいちゃんも今日は暇らしく、早速サクラを呼んでビデオを見ることになった。今回見るのは『世界異種格闘技大会・全年齢クラス別総集編』である。
世界大会と銘打たれてこそいるが、この世界はかなりの頻度で世界大会が開催されるので、この大会もそれほど大きなものではない。しかし、こういったマイナーな大会にも偶に凄い強い人がいたりするので侮れない。実際この大会にもあの人が出てたしね。
「じゃあ、まずは無難に20~30歳のクラスからだな。でも、確かあんまりつえー奴は居なかったと思うんだよなー」
「それを判断するのは私達ではない。サクラちゃんが何かしら感じることがあれば良いのだからな。サクラちゃん、少しでも気になる事があれば言ってくれたまえ」
「うん!わかったよ!じんぱちおじーちゃん!」
確かにウル父さんの言う通り、この年代で印象に残るような選手は居なかった。未熟な俺が言うのも何だが、逆に言えば未熟な俺でもわかる程、世界大会と銘打っているにしてはにしてはレベルが低い。いや、もちろん今の俺よりは数倍強いけどね。
この大会がマイナーな最大の理由もこのせいなんだよなぁ。一番盛り上がる筈の年代が一番つまらないって有名なんだよね。有力な選手が居ないせいなんだけど、例え優勝しても得られるのは僅かな賞金だけ、名声は全く上がらないとくれば、有名なファイターはわざわざ参加などしないだろう。もし負けてしまいでもしたら名声がガタ落ちになってしまうしね。
「う~ん。なんだかびみょーだね」
「ふむ、どうやらあまり参考にならなかったようだな」
「じゃあ、次は30歳以上の試合だな。そこそこ強いのはいたけど、地味だったもんなー」
30歳以上の試合は地味というか堅実な試合が多かった。というのも、30歳以上となっているが勝ち上がっているのは殆ど40歳以上のファイターだったからだ。この年代の多くは力よりも技術で勝負してくるタイプの格闘家が多く、名声とか気にしなくなってきているから強い選手も多い。だから試合も一瞬の駆け引きや高度な心理戦を中心として展開されていた。
確かに、凄いことは凄いのだ。使われている技術は非常に高度なものであり、修行の年輪を感じさせるものばかりだ。しかし、それがサクラ(小学一年生)に理解できるかと別な話だ。つまり......
「......う~~。よくわからないよぉ。ぜんぜんうごかなかったり、うごいたとおもったらすぐにおわっちゃうし。なにがおもしろいのかわからないよ~~!」
こうなるのである。
例えば、目線によるフェイントや、僅かに身体を動かしての相手の攻撃の誘発、普通に構えているように見えて実は当身技(カウンター)の構えをしている等の高度なやりとりが行われていたとしよう。しかし、サクラから見ると、『40過ぎのオッサン(しかも格闘家なので無駄にムキムキ)が無言で見つめ合っている』ようにしかみえないのである。
さらに、そういった読み合いに勝利すると高確率で勝負が一瞬で決まってしまうのでほぼ技が出ない。俺としてはそれなりに学べるものはあったが、サクラにとっては非常につまらないものだったようだ。
「やはりまだ少しサクラちゃんには早かったかな?このレベルの大会にしては強い者が多かったのだが」
「まあ、実際退屈だよな。俺も最初に見た時に面白くはなかったしな。もっと派手な方が好みだし。動きに若さが足んねえよ、若さが」
「最後は20歳以下の試合か。......確か、彼の弟子が出ていたな」
「もしかしてあの一人だけレベルが違ったやつ?え?アイツの師匠って親父の知り合い?」
「ああ、久しく会ってはいないがな。何度か手合わせした事もある。彼は強かったよ、本当にね」
そう、今まさに話題に出た人物こそが俺がサクラに見せたかった『あの人』である。あ、試合に出る弟子の方です。あと、甚八郎おじいちゃんが師匠の方と知り合いだったのは初耳だった。
「ねえねえ、はやくみようよ~~」
「お父さん、サクラが待ちきれないみたいだからそろそろ観ようよ」
「わりぃわりぃ。それじゃあポチッとな」
3試合ほど終了したところでやっと目的の人物の試合になった。因みにそれまでの試合は先程の階級と比べて非常に派手ではあったが、逆に言えばそれだけ荒削りな試合が多かった。
『さて!皆様!お~またせいたしましたっ!!続いての1回戦第4試合は優勝候補のご登場だ!!前大会優勝者の19歳!!タイの若きムエタイ使い、激辛キックファイターことトゥム・ヤムクー選手の入場だあーーー!!!前評判通りに優勝することが出来るのか!?ヒッジョーに楽しみであります!!』
実況の男の声で紹介されて現れたのは、嫌に自信に満ち溢れた表情をした青年だった。ムエタイの衣装(アドンみたいな感じ)を着ている。身長もかなり高く185は超えていて、体格もガッシリとしておりなかなかに強そうである。自信満々なのは、今の世間にサガットの活躍によりムエタイ最強説がまことしやかに流れているのでそのせいもあるのかもしれない。
『そんなトゥム選手に対するは極東の地ジャパンからはるばるやって来た本大会出場選手では最年少の16歳、謎のサムライ道着ボーイ!“リュウ”選手だー。実績はないみたいだがなんだか強そうだぞー。頑張れリュウ選手。負けるなリュウ選手。自慢のカラテをみせてやれー』
明らかにさっきより低すぎるテンションで適当に紹介された日本人ファイター。そう、皆さんもうおわかりでしょう。
ストリートファイターシリーズの主人公、『リュウ』の若き日の姿である。白い道着と鉢巻に、強い意志を秘めた眼光。そして当然のように裸足。因みにまだ道着の袖は破けてはいない。16歳でありながら既にゲームに登場した時の片鱗が見え隠れする鍛えあげられた肉体をしている。
セコンドの位置には剛拳(リュウやケンの師匠)らしき姿が見える。編笠を被っていて、こちらに背を向けているのでぱっと見では判別しにくいが、その巌のような肉体は隠しきれていない。
『リュウよ。先にも言ったとおりこの大会では波動拳の使用は禁ずる。よいな?』
『はい、師匠。行ってまいります』
『うむ。しかしやり過ぎるなよ?我らの流派は元を辿れば暗殺拳じゃ。ゆめゆめ忘れるでないぞ。それでは勝ってくるがよい。負けは許さぬ』
『はい。もとよりそのつもりです。もし負けたら一人で留守を任せてしまったケンに申し訳ない』
『次はケンの番じゃから、どうせお主も留守番はせんといかんというのに律儀な奴じゃのう。まあ良い、行ってまいれ』
マイクが拾ったのかそんなやりとりが聞こえてくる。そしてリングにリュウが移動すると、対戦相手の......なんだっけ?トムとかいう奴が声をかけた。
『ふん、貴様が俺の相手か。今すぐ棄権したほうが身のためだぜ?カラテか何か知らんがムエタイに勝てるわけがないからな。もしかしたら不幸な事故が起きちまうかもしれねえぜ?』
こいつはくせぇッー、噛ませ犬の臭いがプンプンするぜッーッ!!アレですか、「きえろ、ぶっとばされんうちにな」ってことですよね?ヤムチ○乙。それにリュウは空手も使うけどベースは暗殺拳だからね?むしろ危ないのはアンタの方だろう。
『俺の拳が通じるかどうか“確かめてみろ”』
“確かめてみろ”頂きましたーー!声が若干高いけどあの有名な台詞ですよ?2回目でもテンションが上ります。
『両者ともよろしいですか~~!!それでは1回戦第4試合、トゥム選手対リュウ選手を開始します!!......始めッ!!』
『くらえぃ!!エクストリームホットニー!!』
最初に動いたのはトゥムの方だった。一気に間合いを詰めて飛び膝蹴りを放つ。当たれば一撃で意識を刈り取れるくらいの威力はあるかもしれない。当たればね。それにしても酷い技名だな。激辛膝(げきからひざ)ってお前。
『......ふんっ!せりゃあっ!!』
『ぐふぅ!!』
まあ、躱されますよね、普通。そこまで速い技じゃなかったし予備動作もかなり大きかった。おそらく今の俺でも躱せたと思う。しかも空中に飛び上がってるせいで隙だらけになったところにカウンターでボディーブローを貰って怯んでいる。
『はぁ!ぜあっ!!』
もちろんその隙を逃すリュウではない。怯んだ相手に鋭いローキックを叩き込み、続けざまに正拳突きを放つ。
『がはぁっ!』
たまらずたたらを踏んで後ろに下がるトゥム。今起きた事が信じられないのか、その表情は驚愕に染まっている。
『......馬鹿なっ!?この俺が、こんな小僧にぃ!!』
あまりの意外な展開についていけてないのか、さっきから実況も観客の声も聞こえない。優勝候補が無名の新人に手も足も出ていないのだから無理もないのかもしれない。
『......掛かって来い!!』
拳を突き出し挑発とも取れる言葉を放つリュウ。その目には微塵の油断も存在しない。そして動揺していたトゥムはその言動に激高した。
『おのれぇーーっ!!グウォォォオーーーッ!!』
もはや獣の如き叫び声をあげながらリュウへと襲いかかるトゥム。しかしそれは余りにも荒々しく、不用意に過ぎた。
『昇』
拳が剥き出しの顎を捉え
『龍』
力強く踏みしめた脚から生み出された力はその拳に集い
『拳ッ!!』
あやまたず天へと撃ち貫いた
『カ......ハッ......』
宙へと浮かされたトゥムの躰がドサリと地面に墜落した。完全に意識を失っている。ピクリとも動かないが大丈夫だろうか。
『......き、決まったぁーーーー!!!トゥム選手戦闘不能!!なんと!なんとっ!!この勝負を制したのは!!東から来たルーキー!!リュウ選手だぁ~~~っ!!!』
トムの負けデ~ス。俺としては予想通りの結果だったが、映像の中の観客には予想外の結果に大盛り上がりだ。中には悔しそうに何かの紙切れを握りつぶして地面に叩きつけたり、ビリビリと破り捨てる人達もいるが。どうやら賭け事が行われていたようだ。
『ホッホッホッ。これは儂の一人勝ちかのぉ』
剛拳さんがだけが一人ホクホク顔で紙を眺めている。アンタもやってたのかよ。
......さて、試合の方は終わったわけだが。原作でサクラが格闘を始めたきっかけとなったのは偶然見かけたリュウのストリートファイトだ。時期はかなり早いけど、きっと格闘スタイルの参考にはなるはずだ。そう思いながらサクラの方に顔を向けてみる。
「......か」
「か?」
「―――カッコイイーーーーーーーー!!!!」
ぐわあぁーー!コイツいきなり耳元でとんでもない大声で叫びやがった!耳がぁ!耳がキーンなってもうたぁ!
「いまのみた!!?ねえアル!!!わたしアレがいい!!!あんなふうになりたい!!!」
わかった。わかったから俺の服を掴んで揺さぶらないでくれ!く、首が絞まるぅ......ガクッ。
「サクラちゃん!首!アルの首絞まってるから!やめたげてぇ!」
「?......あ!ご、ごめんねアル」
久しぶりに鬼灯さんに会った気がしたぞ。あ、白澤さん殴っといてって言えばよかった。
「ゲッホ、ゴッホ。......それで、この人の戦い方が良かったの?」
「うん!たたかいかたっていうか、しょーりゅーけん?がすごいカッコよかったの!!」
未だかつて無い程サクラの目がキラキラしている。余程興奮しているのかグイグイ顔を近づけながら力説してくる。
「サクラ、まだリュウって人の試合があるから一度落ち着こうか。他にも技が見れるかもよ?」
「!!!!うん!みる!はやくみよう!!」
どうにかサクラを落ち着かせ、続きをリュウの試合だけ観ることになった。結局この後もリュウは全く危なげなく勝ち続けそのまま優勝した。試合では相手が弱すぎたのか、技はほとんど使用して居なかった。鳩尾砕きみたいな技は確認できたけど、あれって特殊技だし。
「ふむ、剛拳は良い弟子を育てたようだ。あれだけの闘いでありながらまだ余力があるようだ。しかし、あの流派を学ぶとなるとどうしたものかな......」
「ん?その剛拳って人と知り合いなら稽古つけてもらえるように頼めばいいんじゃね?」
「いや、そうなのだが彼は昔から世界を渡り歩きながら修行しているのでな。所在が掴めんのだよ」
確か、どっかのお城の近くにあるところに修行場があったと記憶しているが、名前までは覚えていないしどこにあるかもわからないな。
「だいじょーぶだよ!!わたしアルといっしょにやってみるから!!いこっ!アル!!」
「え?ちょと待っ、アーーーーッ!!」
そのまま道場まで連行され、昇龍拳の実験台にされました。何発も本気で打ち込まれ何度も宙を舞うことになった。しかも才能があるせいか何気に再現度が高くてかなり痛いのだ。
「サ、サクラ。これ以上はもう無理だから今日はここまでにしてくれないか?ていうか、別に実際に人に当てなくてもいいだろ!あと、せめてちゃんと構えてる掌に当ててくれ!!何故顎や腹を狙うんだ!?」
「え~!だってあのビデオみたいにあてないと『これだ』ってかんじがしないもん。それに、あとちょっとでなにかわかりそうなきがするの!!だから、もうすこしだけおねがい!!」
「......あと1回だけだからな。本当にもう腹と顎が限界なんだから」
「わーいー!アルありがと~~!!だいすき!!」
はいはい、もっと大人になってから出直して来なさい。それにしても、俺ってサクラに甘すぎる気がする。でも、女性には何故か逆らえないんだよなぁ~、アリス母さんから『女の子は大切に扱わないといけません。もちろん、他の人にも優しくしなけれんばいけませんよ?』っていわれてるからな。前世もフェミニスト気味だったし、魂に刻まれちゃってるのかな。でもサクラはもう少し俺に優しくするべきそうすべき。
「じゃあいっくよーーー!!」
そう行って俺に技を出そうとしてくるサクラ。でも、ちょっと距離が遠すぎないか?
「てやーー!」
おい、だからちょっと遠いってば。ほらみろつまずいて転びそうになってるじゃないか。
「うわっとっと!!―――しょーりゅーけんっ!!!」
最後の1回って言っておいたからか、前に少しよろけながらも強引に昇龍拳を出そうとしてきやがった。あれ?これってもしかして......
バキィ!!......トサァ......
「!!......できた。いますっごい『コレだ!』てかんじがしたよ!!やったーーー!!!アル!!やったよ!!......って、あれ?」
咲桜拳じゃねーか。しかも軌道が変わったせいで顎にもろに貰ってしまった。あ、鬼灯さん今日はよく会いますね。今度白澤さん一発どついといてくださいお願いしま...
そこで俺の意識は途切れた。犯人はさくr
「アルーーー!!ほおずきさんてだれーーー!?しっかりしてーーー!?」
あとから来た甚八郎おじいちゃんが気付けをしてくれたお陰で何とかなりました。これ以降サクラの修行に咲桜拳の練習が加わり、俺の身体的負担がさらに増えることになったけどな。サクラが本格的に修行するようになれば少しは俺の負担が減るかと思ったのに、逆に増えてしまった。解せぬ。
―― それから約10ヶ月後、とある場所にて ――
「それで柴崎、お父様からの伝達はそれで間違いないのかしら?」
「は。大巌十郎様からは『少し予定が早まったが、世俗の暮らしを観察してこい』と言付かっております」
「......まあいいですわ。『万事において常に勝利者たるべし』、それが神月に生まれし者の掟。たとえどのような場所であろうとなすべきことは変わりありませんわ。すぐに支度なさい」
「仰せのままに。石崎、何をしている。行くぞ」
部屋から出て行った二人の従者を見届けてから、少女は一人思案する。突然庶民と同じ教育機関に通えといわれたのだ。了承はしたが、納得できるかどうかは別の話だ。
自分は今まで『庶民とは違う』存在であるようにと言われ続けてきたのだ。そのために幼い頃から様々な英才教育を受け、その全てにおいて結果を出してきたのではないか。神月流社会術奥義『蔑みの目』を会得するという目的のために、この年にして既に宇宙から地球を見下ろしたことすらあるというのに。この指示は今までとは真逆のものだ。
「これも試練というのなら見事乗り越えてみせましょう。まずは学園最強の称号を頂戴致しますわ。当然ですわね、なぜならは神月かりんなのですから!!オーホッホッホッホッ!!」
そして少女は高らかに笑う。好きなものは完全勝利。嫌いなものは庶民の考え。名門中の名門、全世界にその名が轟く神月財閥のスーパーお嬢様、
『神月かりん』華麗に参戦。
次回、神月かりん本格参戦。
そして、遂にあの伝説の男が登場する!!
「俺の伝説を見せてやるぜ~~!!」
今回の試合結果
日向涼(勝ち)対春日野さくら(敗け)
決まり手:神様式足払い
リュウ(勝利)対トゥム・ヤム・クー(敗北)
決まり手:昇龍拳