言う事特に無い!
前書き要らなくねと思いましたね!
報告し忘れてましたけど、来週更新できないです。てへぺろ
「……」
「…部長、ドラレッド君、相当やばいですよ…!」
「はぁ…どうしたものかしらね…」
オカルト研究部部室。
ソファーに沈み込むように座り、焦点のあってない空ろな瞳で天井を見詰める男が居た。時折、呟くようにおっぱいと言っている。兵藤一誠であった。
そんな一誠をオカルト研究部の面々が遠巻きに見守りつつ、コソコソと対策を練りあう。
「……」
「まるで女房に逃げられた駄目亭主…」
「うふふ、酒瓶があれば完璧ですわ」
イセリアが旅に出て2週間と2日。ライザーとの試合まで、あと14日。
イセリアが居なくなってから、日がたつごとに一誠がこのような状態になる時間が増えていってた。戦闘技術自体は上昇しているものの、禁手(バランス・ブレイカー)の継続時間は落ち、訓練中の戦闘能力も段々と低下していってるのだ。
説明しよう!
兵藤一誠は本来ならば女子更衣室を覗いたり、女子の前で堂々とエロ本を読むほどのスケベになっているはずであった。しかし、中学校時代にイセリアが現れたことにより、そのスケベ根性は全てイセリアに向いていたのだ。
つまり、別に周りに求めなくてもいつでも覗ける対象があったが故の余裕、周囲に被害が無かったのはイセリアが被害にあっていたためであり、一誠のスケベ根性が無くなってしまった訳ではないのだ!
そして現在、そのスケベの対象たるイセリアは不在。スケベ根性が向かう先が無くなったイッセーは、しかし他の女性に向けなかった! それゆえに今の一誠は仙人への道を歩き始めているのだ!
「仕方がありませんわ…はぁい、いらっしゃいドラレッド君」
「っ!?」
両手を広げて一誠を待つ姫島朱乃。
一誠の視線は、朱乃が持つ100センチ超(リミット・ブレイカー)の胸に釘付けになっていった。鼻息も荒く、指をワキワキとさせながら凝視し続ける。目まで血走り、その姿は一般人が見たら即通報物であった。
「…ぐぬ、ぬぬ…!!」
だが、その表情は直ぐに苦悶の表情へと変わる。
浮いていた腰を沈めようと、朱乃の胸を見ないよう視線を下に向け必死に耐えていた。
「…えいっ」
「ぐわっ!! …はっ!? 俺は、…一体」
「大丈夫。ドラレッド。大丈夫よ」
「ぶ、部長!?」
塔城小猫によって後頭部をペシンと叩かれ、一誠は正気に戻った。
その様子を見て、リアス・グレモリーは一誠の頭を優しく撫でる。リアスにとってここ最近の一誠の様子は、自分の婚約問題すら忘れてしまうほど、痛ましくて仕方が無かったのだ。
これが、ここ最近繰り返されてきた光景である。
「うふふ、ドラレッド君って素敵ですわ。ね、そう思うでしょう?」
「朱乃さん、そのわりに顔がSモードですよ…」
「あら。だって苛めたくなっちゃうほどいじらしいのですもの。本当はHな事をしたい筈なのに、私の誘惑も簡単に振り切ってしまえるほどヴァルブルーを思っているのですわ」
「…そうですね」
朱乃の言葉に木場は頷いた。これほどの美人達に誘惑されても、一誠は触れようともしないのだ。2人は一誠の精神力を素直に評価していた。何より、一途に思い続けるその姿は見ていて心地よかったのだ。
「奪っちゃいたくなりますわね」
「え?」
◇
上海の港。波止場のビット(よく映画でかっこつけて片足を乗せる奴)の上に座りながら船を眺める。
大きな荷物が出来てしまったせいで、海を走って日本まで行くのが困難だと気付いた今日この頃。何とか密航しようと、日本行きの船を物色中だ。
え? 犯罪? きこえんなぁ。ちょっとついでに乗せていってもらうだけです。寛大な心で見逃してほしい。
後ろ髪が短くなったせいでスースーして、凄く落ち着かない。今の私の髪は、後ろ髪だけ横一文字に首の真ん中辺りで切られてしまっている。
幾らお腹がすいても山に入ってご飯探そうとか、考えちゃいけないということを思い知らされた。
「…はぁ」
私の手の中にある、切られてしまった髪を眺める。本当にショックだ。
イッセーは長いほうが好きって言ってたし、私だって生まれてからずっと伸ばしてきた髪で愛着があった。
あの時油断さえしなければなあ…。
◇
大きく振りかぶられた拳。
正面から受けるものにとってはその巨大な拳の威圧感に身が縮んで避けることすら出来ないだろう。しかし、巨漢のヘラクレスの拳は狙った獲物に当たることなく空を切る。拳はそのまま後方の樹木に突き刺さった。
ヘラクレスの拳を受けた樹木は、爆音と共に木っ端微塵に吹き飛ばされた。拳による威力だけではなく、ヘラクレスがその身に宿す神器、巨人の悪戯(バリアント・デトネイション)の能力によって爆破させられたのだ。
「ハッハッハー! どうした、どうしたぁー!! 避けるしか能がねーのか!?」
ヘラクレスの猛攻を避けるイセリアは、そのヘラクレスの嘲笑に無表情で答えた。
イセリアにとってヘラクレスの攻撃は全く脅威にならない。動き事態もイセリアにとっては遅く、技術も無い力任せの攻撃などに当たる気は全くない。爆破によって飛び散った破片ではイセリアの炎を突破できる威力も無い。拳にどんなに威力が伴っていおうと当たらなければどうと言う事はないのだ。
(相手は人間、殺さずに無力化するなら…やはりアレか)
イセリアの思考の合間も振り下ろされるヘラクレスの拳。イセリアは焦ることなく盾で眼前まで迫った拳の甲を弾き、後方へと一気に跳んで距離を取った。イセリアに弾かれた拳は地面へと突き刺さり、巨大な爆発を起して土煙を発生させた。
発生した土煙はイセリアまで届き、視界を塞ぐ。
(…意外だな)
土煙の中、気配を殺して走りよってくるヘラクレスの位置を正確に捉えつつ、イセリアは感心していた。
ヘラクレスはその性格、神器の性質から小細工をしない、寧ろ出来ないと思っていただけに、この行動は意外すぎた。イセリアは無意識の内に侮っていたヘラクレスへの警戒レベルを引き上げた。
煙を突き破って後方から殴りかかってくるヘラクレスに対し、イセリアは右手の槍を盾へとしまい込み、拳に触れないようにしながら突き出される腕を掴み取る。振り向きながら身を逸らし、ヘラクレスの腕の運動に逆らわず、只掴み取った腕を引っ張った。
攻撃が空をきれば、どんな達人でも僅かな隙が生まれる。まして、全力で殴りかかる最中に、思わぬ力で引っ張られれば尚の事。体勢を大きく前のめりに崩されたヘラクレスの表情が驚愕に歪んだ。
「…奥義、金的…!!」
イセリアがこの世界に来て学んだ最終奥義が、ヘラクレスに炸裂した。
ヘラクレスの腕を引くことで自分の上半身を後方へ反らし、軸足である左足をつま先立ちにする。体の軸、足の筋肉を正しく使った美しいまでの膝蹴りは、攻撃を逸らされて体勢を崩したヘラクレスの股間へと、まるでそこに当たるのが運命といわんばかりに、流れるように吸い込まれていった。
キーン!!
擬音にすればこんな音だろう。そんな音が、山中に木霊した。
イセリアは勝利を確信した。
だが、しかし!
通常ならば、相手が普通の男であったならば、この時点で戦闘不能、寧ろ不能となって勝負は着いていただろう。だが、イセリアの戦っている男は英雄の魂を持つ男。正しく規格外の人間なのだ。
「っ何?!」
右膝から伝わる感触、それは、数多の玉を潰してきたイセリアにとっても初めての感触だった。まるで鉄塊を蹴ったかのような硬さ。人間では絶対に鍛えられない箇所である筈の股間が、まるで鋼の如き強度を持っていたのだ。
「うおおおおおりゃあああああああ!!」
「っ!?」
驚愕し思考停止したイセリアに、横殴りに振るわれる豪腕。思わぬ反撃ではあったが、咄嗟に左手の盾を振るわれた肘に当て、その威力に逆らわないようにイセリアも跳ぶ。
宙に浮いたイセリアの体は、盾から伝わるヘラクレスの力によって吹き飛ばされる。しかし、イセリアの飛ばされた先には木があった。人外の域まで己を高めた者たちにとってはあまりに脆い木。だが、イセリアにとっては体勢を立て直すには十分な強度を持っていた。
両足を同時につけ吹き飛ばされた衝撃を余すことなく木へと逃す。馬鹿げた速度でぶつかった衝撃によってメキメキと音を立てながら木はしなっていく。やがて、力に堪えられなくなった木は中ほどから裂ける。完全に千切れる前にイセリアは軽やかに跳ねた。
そうして不敵に笑うヘラクレスを睨み付けた。
(見事だ…。まさか、こんな男が居るとは)
まさに鋼の○玉を持つ男、ヘラクレスへの賞賛をイセリアは禁じえなかった。
今までイセリアの金的を受けた者たちは悉く泡を吹いて前のめりに倒れていった。だが、この男だけは違った。金的を受けても、何のダメージを負わずに反撃を繰り出したのだ。
まさに英雄の魂を持つ男。英雄の玉(ヒロイック・ボール)のヘラクレスだったのだ。
心のまま、賛辞を惜しまずヘラクレスへ言葉を送ろうとして、イセリアは気付いた。
「ヒッヒフー、ヒッヒフー…こ、この程度、な、何とも無いぜ」
ヘラクレスの額から大量の汗が流れていた。顔だけは不敵に笑いながら、苦痛に耐えていたのだ。
…単なるやせ我慢だった。
それでもイセリアの金的を耐え抜いた英雄の玉のヘラクレスには違いない。だが、もう一撃金的をお見舞いすれば、ヘラクレスは確実に不能に、…戦闘不能になる。
そんなヘラクレスを見て、イセリアは戦闘態勢を解いた。もはや戦うまでも無く勝敗は決していた。
「…もう、終わりだな。それでは満足に動けないだろう。…仲間にならないなら、それでいい。もう貴方には関わらない」
イセリアはヘラクレスへと背を向けて歩き出す。
この戦いに勝利したところでヘラクレスはグレモリー眷属にはならない。
もともとグレモリー眷属を集めるための旅で、はぐれ悪魔との戦闘でヘラクレスの力を見たから駄目もとで誘ってみただけ。イセリアにとってこの戦いは、戦う理由も無い無駄そのものだった。
「…待てよ、まだ、終わっちゃいねーぜぇえええ!! 禁手化(バランス・ブレイク)ウゥゥゥ!!!」
「何?! 禁手化?!」
ヘラクレスの叫びに、イセリアは驚き振り向いた。
ヘラクレスを包む光はある意味イセリアにとって見慣れた光だ。兵藤一誠が禁手である赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)を発動する際に出す光に酷似した光がヘラクレスを包んでいた。
ヘラクレスを包む形を持たなかった光は、やがて腕、足、背中で形を形成していく。
光がゆっくりと消えていく。現れたのは、全身をミサイルのような突起物で覆ったヘラクレスだった。
「これが俺の禁手! 超人による悪意の波動(デトネイション・マイティ・コメット)だァアア!!! こうなってはもう止められんぞォオオオオオ!!!」
「…うわぁ、気持ち悪い…」
「こらぁぁあああ!! カッコイイと言えやァアアア!!!」
「す、すまない…。私、そういうブツブツしたの苦手なんだ…」
心底気持ち悪そうに自分を抱きしめるようにしてヘラクレスを視界から外すイセリアは、必死に肩を擦って寒気を押さえようとしていた。
「く、はっはっはっは!! 此処まで、…此処までコケにされたのは初めてだぜえええ!! てっめええは必ず殺す!! 死ねええええ!!!」
「っ!!」
ヘラクレスの怒声と共に、一斉に発射されるミサイル。1人の人間を殺すには多すぎる無数のミサイルが、イセリアたった一人へと襲い掛かる。
イセリアはミサイルが発射されると同時に、ヘラクレスに背を向けて走り出した。槍と盾は構えはしていても、ヘラクレスの禁手の能力が解らないうちは決して槍や盾で受け止めようとはしない。もし、ミサイル破壊と同時に毒が散布されたりしたら、それだけでイセリアは死んでしまうからだ。
一誠の禁手化の力を見てきたイセリアだからこそ、禁手への警戒を怠る事は出来なかった。
「どうした、どうしたぁあああああ!!! ビビッてんのかよ!! 逃さねえぇえぜェエエエエ!!!!」
後退するイセリアに自身の優勢を確信したヘラクレスが追い討ちをかけた。自らもイセリアを追いながら次々とミサイルを発射し続ける。
雨の如く降り注ぐミサイルをジグザグと縦横無尽に避けつつも、イセリアは息を止めながらミサイルの爆発を観察していた。
地面に着弾したもの、木に当たって爆発したもの。それら全ての破裂の仕方、どの程度の衝撃で爆発するか、また、ミサイルの爆発をくらった植物が腐ったりしていないか、わざとゆっくりと走りながら一つ一つ観察する。
空から襲うミサイルを自分の炎でなぎ払い、爆発の仕方を観察してイセリアは決定を下した。逃げ始めてから時間にして約30秒、その間にも何十発ものイセリアを襲ったが、全てをかわし切れる程度。ヘラクレスの神器の脅威度は低いと判断したイセリアは反撃を開始する。
「……スゥウウウ」
走る速度を急加速させミサイルを引き離し、呼吸を再開。新鮮な空気を一気に吸い込む。さらに前方にあった木へと向かって跳び、身を翻して両足を同時につける。常識外の力に木がしなり、幹に足がめり込む。
「……っ!!」
ギリギリと歯を食いしばりながら、イセリアは折りたたんだ足を一気に伸ばした。同時に爆砕する木、そして神速の領域に加速する。もはや、ヘラクレスのミサイルでは追いつける速度ではない。
ヘラクレスの失態は2つ。まず初めに何も考えずにミサイルを撃ち続けたこと。イセリアにとって、ミサイルの性能を見切るには十分な量をヘラクレスは撃ってしまった。
もう1つは周囲の物を壊しすぎた事だ。これによってイセリアとヘラクレスを結ぶ直線上には何の障害物も無くなってしまっていた。
一筋の弾丸と化したイセリアは何十メートルもあった距離を一瞬で塗りつぶし、ヘラクレスの正面へと接近した。ヘラクレスはその巨躯故に、イセリアが自分の正面に居る事に気がつくことすらない。ただ、イセリアが居たであろう場所を見続けるのみ。
地響きすら伴う強烈な踏み込み。炎を纏った状態のイセリアの、常ならば踏み込んでもラグナイトエネルギーで甲高い音がするだけのはずの足が、攻撃力すら伴う威力で地面に叩きつけられる。同時に爆音と衝撃波を発生させる。
「歯を、食いしばれ!!」
「…っ!!!!!????」
イセリアの絶叫と足元の爆音と衝撃をヘラクレスが認識した瞬間、イセリアの回転する盾が腹に突き刺さった。
腹部から内臓抉り背中に突き抜けるような強烈な衝撃、さらにはイセリアの盾の回転エネルギーと纏われている炎、それら全てがミックスされた一撃を認識した時、ヘラクレスは空を舞う。
くの字に折れ曲がったヘラクレスの体は、腹に受けたイセリアの盾の回転と同じ回転をしながら空に放物線を描いていった。
「ちょっと、やりすぎたかも…」
イセリアがぼやいた瞬間。目標を見失っていたミサイルたちが、遥か後方で地面へと落下して爆発する。
「仕方ない。ラグナエイドで……っ?!!」
いきなり現れた気配と殺気に反応し、瞬時にイセリアは身を伏せた。完全な死角からの攻撃。後ろから首を切り落とすために振るわれた剣。
何事かと振り向いたイセリアの視界に映ったのは、宙に舞う自らの後ろ髪だった。攻撃に対して反応がワンテンポ遅れたイセリアは、その魔剣を避けきる事が出来なかったのだ。
再び背中から振るわれる剣に、自分の髪の毛を切られて怒りに燃えたイセリアは、手加減すらも忘れて全力で槍を振るった。
盾から抜刀術のように引く抜かれた槍は、高速で回転、イセリアの強力な炎を纏ったそれは、触れただけであらゆる物を削り取る魔槍と化した。しかし、打ち合う剣も尋常ではない魔剣。閃光のような火花と甲高い音が周囲に響くのみで破壊音は発生しない。
魔槍と魔剣の拮抗は一瞬。魔剣の持ち主はイセリアの膂力によって後方へと弾き飛ばされるも、体勢を整えて軽やかに着地する。
「やあ、やるね…って??!!」
イセリアの髪を切った人物は腰に何本もの剣を佩びた白髪の男だった。その姿を確認した途端、イセリアはこの世界に来て初めて全力の、最大級の炎をその男の目の前の地面へと打ち込んだ。
髪を切られた恨みと、男の持っていた剣と、男の体に纏わりついていた霧への例えようのないおぞましさへの恐れがイセリアの理性を飛ばした。
◇
と、そんな訳で炎を本気でぶち込んだ後にあの場を猛ダッシュで離れたわけだが、あの時の最後に撃った私の炎は間違いなく母上クラスになっていた。
母上たちの最後の炎をくらってこっちの世界に来てから、レベルアップしそうでしなかったレベルが一気に50レベルくらい上がったっていう感覚だった。
母上の血を受け継いでおきながら、私の炎は母上に遠く及ばなかった。一体何が足りないのかと思い悩んできたけど、相手への殺意とかがトリガーだったのか? 情けを無くすみたいな。
船の中で2日も隠れているのは少々大変だったけど、密航は成功し、もう日本に到着した。
もう直ぐ、イッセーに会える。だというのにわたしのテンションは低いままだった。
「……はぁ」
髪を切られたのは確かに泣きたいくらいショックだったけど、部長達が何とか治せるかもって、こないだの定時報告で言ってたし、今回の旅は概ね良かったとしよう。
でも、髪を切られた事以上の問題が発生してしまった。
確かに今の私は、穏やかな心を持ちながら、激しい怒りによって目覚めた伝説の超ヴァルキュリア人だ。
この力なら、きっとどんな敵が来てもイッセーを守れる。イッセーの力になれる…と思うじゃん。だが実は、ある問題によって私の戦闘能力は大幅にダウンしているのだ。何とかせねばとは思うものの、ヴァルキュリアの島が無いこの世界では…。
…まあ、いい。今はイッセーやおじ様、おば様。部長達、店長達に会うことだけを考えよう。
「……」
「もう直ぐ喫茶店。まずは店長達に挨拶してから、木場君のところに行こう」
私の後ろをガシャンガシャンと歩くのが、頭の上からローブを着ている賽唐猊(さいとうげい)・マクシミリアン君。ちなみに喋る事は出来ない。
水滸伝で出てきた鎧が何故かこの世界では本当に実在していたらしく、壊れかけだった鎧を魔法使いの人が西洋のプレートアーマーと融合させて復元したのが彼なのだ。だが、その分防御力も上がり、ガトリングガンとかミサイルをくらっても、魔法的な力で傷1つつかないのだ。それに魔法的な仕掛けはまだある上、見た目よりもずっと軽い。
賽唐猊・マクシミリアン君は彼を修理した魔法使いの死後、使い手を探して彷徨っていた彷徨う鎧でもある。だけど、そのお蔭で私は彼を仲間にすることが出来た。
プレートアーマーの部分は黒を基調に作られていて金色もプラス、賽唐猊の部分は伝承どおり金色。ヘルメットは鷹をモチーフにしているなかなかカッコイイ鎧だ。使い手は木場君を考えている。
現在の時刻は2時半。この時間ではイッセーたちは学校で授業中だろうし、おじ様は仕事でおば様は買い物に出かけているはず。今の時間で確実に会えるのは店長達くらいだ。
「ほら、あそこがマウンテン、キ、ング……?」
商店街の曲がり角を曲がると、何時もの喫茶店が見える筈が倒壊した建物が見える。…おかしいな、旅のせいで疲れているのかも…。
目を擦って再び見ると瓦礫の前で座り込んでいる人が居る。
…アフロになってるけど間違いない。店長とミルタンさんだ。
「店長! ミルタンさん!」
「にょ? っ! 同士イセリア!!」
「……やっと帰ってきおったか」
2人の元に賽唐猊君と一緒に駆け寄る。近くで見ると、本当に見事なパーマになっているのがわかる。
店と一緒に爆発したのか? いや、そんなドリフみたいな事をレイナーレたちならともかく、店長がする筈無い。
「ふ…これかい? 店の爆発に巻き込まれちまってね」
頭を指しながら、シュボっとタバコに火をつける店長。
…ドリフだった。あと、アフロと相まって凄いハードボイルドおばあちゃんになってる。服装は変わらずウェイトレス姿だけど。
「あんたこそ、その髪はどうしちまったんだい?」
「あ~、これは、敵にちょっと…」
「…そうかい」
プハーっと煙を吐く店長。それっきり、髪の毛については聞いて来なかった。
気を使ってくれてるんだろう。
「同士イセリア。堕天使レイナーレたちを助けてほしいにょ」
「!? レイナーレたちに何かあったのか…?」
神妙な表情で頷くアフロなミルタンさん。よく見れば、魔法少女服は所々破けてしまっている。確かこの服、最新技術を使われて出来ている魔法少女協会の新素材で、結構な防御力を持った服だった筈なのに。よほど凄い爆発だったと言うことか。
「神父の集団に店ごと襲われてしまったにょ。今は、この場所に潜伏しているにょ」
ミルタンさんから手渡される地図。
…潜伏場所は郊外にある廃ビルのようだ。
しかし、神父の集団? 今更になってレイナーレたちに一体何の用だと言うんだ。
「エクスカリバーがどうだのこうだの言ってたにょ。堕天使レイナーレたちが応戦中に凄い剣を持った白髪の神父が乱入してさらに大変になったにょ。その白髪の神父、完全に見境なしで店は爆発させられてしまったにょ」
白髪…? まさか、私の髪を切った奴か?
人の髪の毛を容赦なく切り落とした上に、私の勤め先まで爆発させるとは…! もう何をしても許してやらん。
「ミルたんは店長の護衛で動けないにょ」
「…イセリアちゃん、あの馬鹿娘達を守ってやってくれ。そして伝えな。あんたらの帰ってくる場所は、此処だってな」
店長…! 店を爆発させられても、レイナーレたちを…!
「はいっ、必ず!」
絶対、無事に連れ戻さなければ!
でも、レイナーレたちを助けるなら、部長達に助力を請う事は出来ない。また、イッセーとの再会が遅くなっちゃうけど……。
…? 何か忘れているような気が…。
◇
「ご機嫌だね。ドラレッド君」
「あったりまえだろ。やっと帰って来るんだぜ」
部活が終わり、マイホームへと帰還する俺達。
木場と2人で帰宅中。いつもなら男同士、2人っきりで帰ることに精神的ダメージを受けていたが、今日はそんなもの気にならないくらい俺の機嫌は良い。
何故なら、今日イセリアは中国から日本へと帰ってきているのだ! もしかしたら既に家にいるかもしれん。そう思えば、むさ苦しい現状も苦にならないぜ。
『いいか相棒、イセリアに会ったら首輪を渡して”お前に惚れた、抱かせい”と言うんだぞ』
「言うか! どういう口説き文句だ!!」
いきなりドライグが意味不明なことを言い出した。
大体、首輪を渡してそんな事言ったらふられるわ! 百年の恋も一時に冷めるわ!
『もうそのくらいしないとお前達は駄目だと悟った』
「ドライグほどの台詞じゃなくても、もう思いっきり口説いとかないと、また何処かに行っちゃいそうだよね」
『そうだな。大体相棒がヘタレなのが悪い。イセリアが旅に出るときも応援するだけで反対しなかったのだぞ』
「? なんでだい?」
『リアスのため、とか言いつつ、力になれん自分が情けなくて止める資格が無いとかかんとか』
「あーーー!!! うっさいわ! お前ら!!」
人様そっちのけで好き放題言いやがって!
こうなったら、宣言してやる。ヘタレ、ヘタレ言われて、男としてこれ以上引き下がれん!!
「いいだろう! イセリアに会ったら、出会いがしらに唇を奪う!! もうこれ決定! これでヘタレ扱いできねーだろ!」
『ほう、面白い。どうせヘタレの汚名挽回になるだけだろうがな』
「いや、意外といけるかもしれないよ、ドライグ。ここ最近のドラレッド君は飢えすぎてるからね」
『なるほど。見ただけで理性が飛ぶかもしれんな。そうなれば流石にいけるか…?』
こいつらの俺への評価がよく解ったぜ…! 覚えとけよテメーら。
不快な会話のお蔭で不機嫌だった俺の顔も、家が見えてくる頃にはもう自分でニヨニヨしてきたのが解る。
いかん、いかん、このままではいつも通りになっちまう。今日こそバッチリ決めるんだからキリリとせねば。
「…うわぁ、ドラレッド君凄い顔だ。フニャフニャだよ」
『うむ。キモイな』
「ほっとけ!!」
何処までも失礼な連中だぜ。木場どん引きしすぎだろ、このイケメンが!
? 何か、家が何時もと違う。妙な雰囲気を出してやがる。
「?!! ドラレッド君! 教会関係者だ!!」
「何?! くっ! 母さん!!」
扉を蹴り飛ばすようして家の中に入った。玄関にはトラップ発動の跡が無かったってのに…! 俺が悪魔に関わってるから、身内が狙われる可能性が十分あるって解ってたはずなのに…!!
妙な気配はリビングから発生している。台所でも2階でもない。
すぐさまドライグを出して戦闘態勢になる。木場も、手に魔剣を作って戦闘態勢だ。俺も、木場も、焦りと怒りで凄い表情になっていく。
リビングへ突撃すると、アルバムを広げる母さんとその両脇に見知らぬ女性が2人、アルバムを覗き込むように見ていた。
くそっ! 位置が悪い! これじゃあ攻撃したら母さんを確実に巻き込む…!
俺達に気づいたアルバムを見ていた女性達、栗毛の女性と緑色のメッシュを入れた女性が、俺が感じた妙な雰囲気を出していた剣を構えた。
「あら、ちょ、ちょっといきなりどうしちゃったのよ、あなた達」
「母さん、今は動かないでくれ」
周りの剣呑な雰囲気に母さんが慌てふためくが、今は落ち着かせてる余裕も無い。あんな風に母さんの両脇に居られれば、俺も木場も、歯噛みしながら睨みつけることしか出来ない。
母さんが人質になっているみたいで、今すぐ殴りかかりたい位だ。木場も、あの剣を見てからさらに殺気が増している。
「お久しぶりね、イッセー君。しばらく会わないうちに色々とあったみたいだね。何で悪魔なんかと一緒に居るの?」
「…誰だ、あんた」
木場をちらりと見ながら、親しげに話しかけてくる栗毛の女。木場が疑うような眼差しで俺を見てくるが知らないっての。
そんな俺の反応を見てか、母さんがアルバムから一枚の写真を取り出した。
写真には幼稚園時代、近所に住んでいた男の子とその親御さんが写っていた。親御さんの腰には古ぼけた西洋剣が携えられている。というより、動くなって言ったでしょ! 危ないっつの!
「イッセー、この子よ。紫藤イリナちゃん。男の子だと思ってたけど、女の子だったのよ。だから、イッセー。知らない子じゃないんだから喧嘩はやめなさい」
「っ?! 男の子じゃなかったのかよ! あ、いや、違った、そういう状況じゃないっての!」
こんな時までボケなくて良いってのに母さんはそんな事を言う。思わずツッコミを入れてしまったが、相変わらず母さんは目の前の2人組みの間に挟まれたまま。状況は一切よくなっていない。
俺達を警戒したまま、もう1人の緑色のメッシュを入れた女が俺達に話しかけてくる。
「今回は、悪魔達と事を構えるつもりはない。私達の敵は他にいる。グレモリー眷属の者達なら、明日交渉に伺う予定だ。…剣を引け」
「信用できると思うかい? 教会の信徒なんかを」
瞳の奥に強い憎悪を滾らせ、彼女達を睨みつける木場。口元からギリギリと音が出るほど食いしばっている。
いつもニコニコと笑顔を絶やさないこいつが、これほど怒り狂っている所なんて始めて見た。
だからこそ、俺は焦る。
現在の状況で木場がこの2人に向かって切りかかれば、母さんは必ず巻き込まれて死ぬ。今、俺がしなければならない事は、木場を踏みとどまらせ、母さんから2人を引き離す事だ。だけど、一体どうすれば…
「そこまでにしてもらおうか」
「「?!」」
何時の間にか目の前の2人組みの首に添えられたナイフ。そうして、ナイフを持った手からゆっくりと色がついていく。やがて全貌を現したその姿は、スーツに仮面をつけた変態!
「変態仮面!!」
「タキシード仮面だ。いや、今はスーツ仮面だ。そして変態ではなく紳士だ」
何が紳士だっての! 遅いっての、このヤロー!!
「さて、君達には語ってもらわねばならないことがある。何故、神父たちは私の憩いの喫茶店を爆発させたのか、などな」