うむ、一月ぶりですな。
……俺は……俺は悪くねぇぞ。
だって会社が言ったんだ……。そうだ、会社が働けって!
こんなことになるなんて知らなかった!
誰も休めって言ってくれなかっただろっ!
俺は悪くねぇっ! 俺は悪くねぇっ!!
え? 別の書いてたろって? お、俺は悪くねぇっ!
しかも、何時もより短いです。この分だとコカビエルを倒す前にアニメが始まってしまいますな!
勝負に負けたら何でもお願いをきく約束をしたのに完全に出遅れてしまった。
イッセーのお願いは、恐らく問題ない。なんだかんだと言って、イッセーは最後まではしないだろう。多分キスくらいだ。…ま、まあ、イッセーが最後まで求めてくると言うのなら、べ、別に私はか、構わない。お金だってちゃんと貯めてるし、も、もし、こ、こここ子供が出来ても1人くらいなら幼稚園も問題ない! おば様に教わりながらでもちゃんと育ててみせる。良し、問題無し!
だが、レイナーレの方は別だ。あのイジワル堕天使は何を要求するかわかったものではない。さっさと着替えねば。
私の部屋にダッシュで戻って押入れを空け、下の段にあるタンス代わりのカラーボックスから改造した戦闘服を取り出した。
前腕の部分が大きなフリルになっている袖、正直フリルは邪魔だけど、母上のデザインだから押し通された。実はこいつにはギミックが仕込んであり、ラグナイトのナイフ(小さいドリルみたいなの)がフリルの中にある。
ふとももまである足の甲冑には私の意見が通り、完全ラグナイト製で出来た甲冑なのだ。つまり、武器になるという事。家の中では流石に履くわけにはいかないので、止め具の部分の調子を確かめる。
これらに水着のような服を着てスカートっぽい腰布をつけて完成ということになる。しかし、この世界に来て改造を加えて白の布地に青で装飾した金太郎の腹掛け、格好よく言うとアメリカンスリーブをつけて、首に大きな赤いリボンを着け完成だ。前掛けはラグナイト製ではないから簡単に破けてしまうが、無いよりは良い。
腹掛けで露出が減ったからイッセーが怒りそうだけど、対策として脇の部分はそのままだから大丈夫の筈。
「良しっ」
姿見の前に立てば、そこには立派な魔法少女の姿が!
…いかん、ミルたんさんに影響されすぎてた。あと、角を忘れてた。いかん、いかん。うん。角をつけてしみじみ思うが、やっぱり螺旋が無いとヴァルキュリアじゃないな。
よし、いざ行かん、駒王学園! …と、その前に出立の挨拶をせねば。
おば様のいる茶の間へと戻ろう。
「ぶひぃ!」
「イセリアちゃん、良く似合ってるわね」
「えへへ、そうですか?」
部屋に入るとポルコを抱いたおば様に戦闘服が褒められた。頑張って腹掛け部分を縫った甲斐があったというものだ。ポルコもきっと褒めてくれているだろう。
それにしても、この部屋どんよりしてる。このどんよりオーラは部屋の隅に居る2人組みから出ている。教会から来たと言うゼノヴィアさんと、イリナさんの2人だ。完全に戦意喪失してる。
正直、神様が死んでるとか言われても、知らないおっさんが死んだ程度の衝撃しか私は無かったんだが、この2人は違うらしい。
神様が死んだとか、日本の神話を知ってる身からするとオオクニシみたいな感じでその内生き返るんじゃないの? としか思えない。
「そこの2人組みは戦いに行かないのか?」
「……嘘だ…嘘だ…」
「…ブツ…ブツ」
駄目だこれ。完全に自分の世界に入り込んでる。というか、傍目からみたら怖いんだけど。
「うーん、さっきからこの調子なのよねぇ」
「…ぶひ」
おば様でもお手上げみたいだ。ポルコもどん引きしてるし。宗教やってる人は本当に解らん。ヴァルキュリアの島でもそんな人居なかったし。
「ではおば様、行ってきます。必ず、コカビエルの御首級(みしるし)をあげてみせます。あと聖剣とか言うのもついでに折っておきます」
「あ、あはは、聖剣とか首はいらないから、無事に帰ってくるのよ。みんな怪我無くね」
首を取ることよりも、怪我無く、か。
中々厳しいかもしれないけどやり遂げよう。おば様への恩義もある。首級をあげる事と、怪我をしない。両方やってこそと言うものだな。
「ポルコ、家が留守になってしまう。お前がおば様とおじ様を守れ」
「ぶひっ!!」
ポルコも私の使い魔らしく、力強く頷いた。
うん、暫く会っていなかったが、たくましい豚になった。明らかに大きくなってるしな。
縁側まで行って足の具足を装着する。足にベストフィットだ。
「…ま、まて」
「?!」
足元から声。庭下を見ると、タキシード仮面が血だらけで倒れていた。
既に襲撃だと…! このタキシード仮面は結構強いはずだ。それが、こうも易々と…!
うつ伏せになっていたタキシード仮面をひっくり返して上体を起すと、仮面以外の生身の顔の部分が血まみれで真赤になっていた。さらに股間の部分から謎の蒸気が出ている。
…これは、酷い。もしかしたら、この出血量はもう助からないかもしれない。
「しっかりしろ、傷は、傷は浅いぞ…いや、浅いのか?」
「ぎょ、凝視しないでくれたまえ。そこは男にとってデリケートなんだ」
変態仮面の股間の蒸気がさらに強くなった。なんだ? あそこに何か付いてる。
……十字架が、あそこに巻き付けられていた。
「イセリアちゃん、投げ捨てていいわよ。変態にも程があるわ」
「そうですね、おば様」
「ま、ま、待ちたまえ!! これを取ってくれ!」
最悪だ、この男。自分の股間に弱点の十字架をつけて、女にとってくれと迫る男。ここまで変態だと、更正の道は無さそうだ。おば様ももう匙を投げた。
こんな奴をこの家に置いていたかと思うと、正直寒気すら覚える。
「イセリアちゃん、この変態は殺しても大丈夫よ。悪魔だから殺人じゃないでしょ」
「そうですね、そのほうが世の為ですね」
「ま、ままま待ちたまえ!! これをやったのはミッテルトだ!! あの堕天使がアーシア嬢に抱きつかれて幸せのあまり放心していた私の股間に巻き付けたんだ! 流石の私でもこんなプレイはしないぞ!!」
立ち上がって力説する変態。変態の股間から立ち上る蒸気がさらに強くなる。
他人のせいにするとか、何処まで性根が腐ってるんだこの男。ミッテルトがお前の股間なんぞ触るものか。
「く、クククク…!!」
「……フフフフ、はははは…!!」
茶の間の奥から聞こえた不気味な気配と笑い声に振り向けば、ゼノヴィアさんとイリナさんがユラリと幽鬼の様に立ち上がっていた。手には聖剣と呼ばれる伝説の剣。しかし、その剣から立ち上るオーラは魔剣といわれたほうがしっくり来るほど邪悪なオーラだ。
そこはかとなく危険な香りがしたので、タキシード仮面の傍からおば様とポルコと一緒に離れた。
「…主を…」
「…ここまで…」
「…侮辱するなど」
「万死に値するわ!!」
「死ね!! 変態悪魔がァ!!!」
「ご、誤解だ!! ヌオオオオ!!」
交互に喋りながら、やがて声を張り上げて襲い掛かる2人組み。
ゼノヴィアさんの横殴りの一太刀で触れてもいないのに3枚の襖が消し飛び、庭への風通りが完璧に成ってしまった。
しゃがんで紙一重で剣を避けたタキシード仮面は、そのまま後方にジャンプ。そこにイリナさんの突きが襲い掛かる。踏み込んだイリナさんの剣は意思を持つかの如くその刀身を伸ばしながら、空中へ跳んだタキシード仮面の心臓を追う。心臓を貫くと思った瞬間、タキシード仮面は背から翼を広げ体を回転させて回避。
「ぐおっ! こ、股間に響く…!!」
「きっさまあああああ!!」
「十字架を、外しなさい!!」
逃げるタキシード仮面を追いながら剣を振り回す2人。特に迷惑なのがゼノヴィアさんの剣。迷惑な事に刀身の周囲に謎の力場があって庭の地面がベコンベコンだ。イリナさんの方の剣は伸びたり形を変えたりと面白い武器だけど、庭と家の被害は少ない。
「ゼノヴィア!!」
「応っ!!」
イリナさんが剣を伸ばし、縦横無尽に空間を駆け回ることでタキシード仮面の逃げ場を一点だけ残す。その空間に、空かさずゼノヴィアさんが剣を振り上げつつ突進。避ける隙間の無いコンビネーション。破壊の鉄槌が動けないタキシード仮面を襲う。
だが、タキシード仮面は体を捻りながら垂直に飛び上がる。マトリックスさながらだけど、見た目蛇みたいな気持ち悪い動きで剣の隙間を縫って避けきった。その際、股間の十字架がゼノヴィアさんの剣が掠った事によって真っ二つとなって地面へと落下した。
…いいのか、コレ。切られるべきは十字架よりもタキシード仮面だったのでは…。
「…やった、やっと解放されたぞ!! はははははっ!!」
喜びの笑いを挙げるタキシード仮面。声に反応してタキシード仮面を見て、私は後悔した。
…ズボンごと、切られていた。…アレも、見えて、いた。さ、最悪でしょ、もう。しかも、家の塀に立って仁王立ちしてるし…。
「ぜ、ゼノヴィア…な、なんてこと…」
「…わ、私は、私は、…何と言うことを…!!!」
真っ二つになった十字架の前で、涙を流しながら両膝を付く2人組み。
この2人は別に悪くないと思うんだけど。悪いのはあそこで仁王立ちしてる下半身丸出しの変態だと思うんだ。
「ははははっ!! 落ち込む事は無い! 君達は私を助けてくれたのだからな!」
「いいからズボンを履け! この変態が!!」
「うお!? すまないご母堂。しかし、私はご立派だからな。見られたところで問題ない」
「やかましい!! さっさと履け!」
さ、さすがおば様! 動じることなくズボンを変態に投げ渡した。
「「主よ! 死して詫びます!!」」
うわ、自分に聖剣を突きたてようとしてるし! 何を血迷ったのか自殺を図る2人組み。
幾らなんでも思いつめすぎでしょう!! 世話の焼ける!!
直ぐに私は炎で自らを強化し、さらに足の甲冑に力を集中させる。飛び掛るようにして両足を広げ、自身の首に突き刺そうとする2人の聖剣を踵落としで同時に蹴り落す!
「ぇぃやああああああ!!!」
腹掛けの御蔭でパンツ丸見えにならないからこそ出来る攻撃! 久々に張り切って全力キックだ!
――バキッ!!
ん? 今、何か変な音が?
「…あ、ああ…!」
「……!!」
唖然とした表情で着地した私の足元を見る2人。そんな2人につられて私も足元を見る。
「……おっふ…」
…オレテーラ。
私の足元には木っ端微塵になった聖剣の姿が…!
モロッ!! 伝説の剣、脆すぎ! 絶対これ、パチモンでしょ! エクスカリパーでしょ!!
…いや、今は剣の真贋なんて考えてる場合ではない! というか、どうしよう…!
な、なんなのだこれは…! どうすればいいのだ…?!
と、とにかく謝ろう…!
「あ、あの、あの、そのご、ごめんなさい…!! けど、あの、死ぬのは良くないぞ? ね?」
い、いかん、凄いドモってしまった。
しかも全然効果なし、2人の顔が凄い絶望モードで固定されてる。もうコレ、絶対に許さないよ! 状態だよねこれ…!
「本当にごめんなさい! 私が出来る範囲でなん…」
「いや、イセリア嬢。私達の誰が悪いと言うわけでは無い。あえて悪をあげるとすれば、コカビエル。奴がこの家を揺らすことさえしなければ…私の股間に十字架が巻きつけられる事も無かった」
聖剣を折った事は全面的に私が悪かったので謝ろうとしたとき、変態が私の肩を掴んで止めた。そして、責任転換でコカビエルのせいにしようとする。
ちょっと無理が無いか? あと、触らないで欲しい。シッシと肩に置かれた手を払う。
「私の股間に十字架を巻きつけられたのはコカビエルのせい…私の股間に十字架を巻きつけられたのはコカビエルのせい…」
「ちょっと、待て」
仮面を外して怪しく光る目で2人を見つめる変態。
こいつ、放心状態の2人に催眠術かけようとしてる。何処まで卑劣漢なんだ、この男は。
「…そうだ。そうだ、コカビエル!! 奴を倒すまで死ねん!! ウオオオオオ!!!」
「…私は、私は…」
催眠術はゼノヴィアさんの方が効果が合ったらしい。
ゼノヴィアさんの方は雄たけびを挙げながら学園へと走り去り、イリナさんの方は破片を見詰めたまま何事か呟き続け、動かなかった。
というより、武器消失したまま走って行ってしまった! まずい!
「先に行く! そっちは任せた! 適当に縛っておいてくれ!」
「ふむ、任せたまえ。 …どんな縛り方が…」
自殺防止のために言ったんだけど、何か不吉な台詞が聞こえた気がした。しかし、武器無しの生身の人間が堕天使に特攻しようとしてる今、無責任かもしれないが優先順位はゼノヴィアだ。
すまない、紫藤イリナさん。君の犠牲、無駄にはしない!
◇
ビルや家の屋根を乗り越え、ついに学園へとたどり着いた俺達。
直ぐに会長たち生徒会は、学園を囲む様に配置について結界を張ってくれた。これで中で幾ら暴れても外にばれない。でも、暴れすぎると結界が壊れてしまうからスマートに戦わなければならない。
『相棒、体力は問題ないな』
「応っ! イセリアから貰ったペンダントのお蔭で回復済みだぜ」
ドライグの問いかけに力強く答える。
イセリアから貰ったペンダントはラグナイト製、何とラグナエイドと同じ効果を発揮してくれた。コレによって禁手化によって消耗した体力の回復が早まって禁手化の連続が可能になったのだ。
『よしよし、…中々…改造…進んで…上出来だな…』
「え? 何だって? ドライグ」
『ん? なんでもないぞ、相棒』
何か不吉な単語が聞こえた気がしたが、ドライグにはぐらかされてしまう。なんか、やめろショッカー! 的なことが進んでる様な…。
「戦う前に1つ言っておく事があるわ」
そう言って腰に手を当て、全員を見渡すレイナーレ。
オカルト研究部一同、何を言い出すのかと怪訝そうに見詰める。裏切る可能性も考えてか、みんな凄く警戒している。
そういえばこいつ、以前俺の命を狙ったこともあったんだよな。イセリアが顔パンして投げ捨てて有耶無耶になったから忘れてた。
「コカビエルは私の手で始末するわ。赤龍帝に悪魔共、手出しするんじゃないわよ」
「何言ってんだよ?」
いきなり何を言い出すかと思えば…。賭けをイセリアに持ちかけておきながらこんな事を言うなんてどれだけイセリアに言うことを聞かせたいんだよ。
そう思って呆れ顔でレイナーレを見詰めれば、俺の視線にも部長達の視線にも全く動じずないレイナーレ。その表情は真剣そのものだった。
「あんたらがコカビエルを倒せば世界に悪影響よ。只でさえあいつの暴走で戦争が起きそうなのよ。堕天使は堕天使の手で始末しなければならないわ」
「どういう事だよ?」
疑問に思って聞き返せば、馬鹿を見る表情で返された。
周りを見れば、納得顔の部長達。俺だけがレイナーレの言うことを解っていないようだ。
「つまり、堕天使の不祥事を他の勢力に解決してもらった、なんてなれば堕天使の勢力は他の勢力からさらに責められるわ。これを機に各勢力の戦争好き共、大戦の結果に満足していない連中まで騒ぎ出してあっという間に戦争よ。アザゼル様のためにも、アイツは私が倒すわ」
なるほど。レイナーレは戦争を止めたいみたいだな。
…イセリアの言っていた3人組の中のイジワルだけど良い奴って、こいつの事だったのかもな。
「でも、もう今更では無いかしら?」
「うっさいわね。理由はもう一個あるのよ」
部長のツッコミに煩そうに返しながら俺に詰め寄るレイナーレ。
レイナーレもイセリアや部長と同じくかなりの美人だから、つい顔がにやけそうになったが、ビシッと眼前に突き出されたレイナーレの指に硬直する。
「赤龍帝、1つ言っておくわ。イセリアを倒すのはこの私、堕天使のレイナーレよ。それも、あいつの全力を打ち倒すのよ。余計なちょっかいをかけてあいつを腑抜けにする事は絶対許さないわ」
「…!?」
な、何ですと?!
「大体、あいつもこんな性欲の塊みたいな童貞丸出しの人間の何処が良いのかしら? 男の趣味を疑うわ。賭けに勝ってあいつに何する気なのよ、この変態。童貞拗らせて死んだら?」
「うぐぅ…!!」
ご、ゴキブリをみるような冷たすぎる眼差し…! こ、此処まで辛辣に言われた事が嘗てあっただろうか…!!
ど、童貞は関係無いモンね! 童貞は拗れないモンね!!
胸を押さえてショックに耐える俺の左手に、篭手が出現した。
…ドライグ、レイナーレの辛辣さに見るに見かねて俺を助けてくれるんだな…!
『誤解だな、堕天使。こいつは”何でも”なんて言っていたが、キスして貰うだけだ。何故なら、歴代赤龍帝の中でも最強のヘタレだからな!』
「お、おいぃい! だ、誰がヘタレだ!?」
た、確かにキスしてもらうつもりだったけどさ! 自分からするつもりだったし!
ちょ、こっちみんな!! みんなして可哀想なものを見る目をするなぁ!!
「さっさと行くわよ。ミッテルト、貴方はアーシアのお守り。避けるだけで良いわ」
「お任せあれッス!」
「アーシア、辛いのなら来なくても良いわよ」
「…大丈夫です。それに、レイナーレ様を御独りにはさせません」
「…、言う様になったわね。離れるんじゃないわよ」
「はいっ」
懊悩している俺を一瞥した後、何事も無かったかのように喫茶店組みで気合を入れて校舎へ入っていくレイナーレ。
う、見るなとは思ったけど、此処まで完璧にシカトされると何か堪える…!
「良い事あるわよ、行くわよ。ど…ドラレッド」
「うふふ、DTでも良いですわ。どう…ドラレッド君」
「どうて…行きます。ドラレッド先輩…」
ポンポンと俺の肩に手を置きながら慰め? の言葉を残しながら学園の結界の中に入っていく部長達女性悪魔。
どうて…? その先は何ですか…?! というより小猫ちゃんはもう言っちゃってるから!
くっ、チクッショオオオ!! DTで何が悪いんだよォオオオオ!!
失意のあまり膝から崩れ落ちそうになった俺を支える腕。木場と謎の鎧の腕だ。
「大丈夫、僕もだよ…!」
「…!」
グッとサムズアップする木場と、人差し指と中指の間に親指を挟んで握り拳を作る謎の鎧。
2人揃って嬉しそうな雰囲気出しやがって…!
「もうどうでも良いわ! おい、謎の鎧はその指止めやがれ!!」
◇
堂々と校門から校内に入った俺達を待っていたのは、巨大な魔法陣とその中央に浮かぶ神々しい輝きを放つ一本の剣だった。
魔法陣は校庭全体にも及ぶ大きさで、その中央の剣はゼノヴィアたちのエクスカリバーとよく似ていた。
「美しいだろう…これこそ、聖剣の真の輝き。私の望んだものだ」
その声の方向、剣の上を見ると悦の入ったキモイ表情で剣を見詰める神父服姿の初老の男がいた。
そのさらに上にはコカビエルが悠然と俺を見下ろしていた。
「3本のエクスカリバーが1本になり、術式も完成した。あと15分程度でこの町は崩壊するぞ?」
「?!」
嬉しそうに、さも愉快そうにコカビエルは言い放った。
15分?! 町が崩壊だと?!
「俺を倒せば止められるぞ? さあ!! 始めるか!!! バルパー! フリード! 雑魚どもはお前達にくれてやる! レイナーレ!! こい、続きだ!!」
コカビエルは興奮を抑えきれない様子で、レイナーレに光の槍を放った。
その大きさは嘗て見たレイナーレやミッテルトの光の槍とは比べ物にならない大きさ、そして速度だ!
『Welsh Dragon Balance Breaker!!!』
「ざっけんなぁああああああ!!!!」
レイナーレたちにその槍が届く前に、禁手化した俺が横から殴りつけた。吹き飛んだ槍は体育館に突き刺さり巨大な爆発を起す。
そんな俺を嬉しそうに、忌々しそうに見詰めるコカビエル。
マジで気色悪い顔してやがる。それだけ戦いが、戦争が好きなんだろうな。だけどな、俺も腹が立ってんだよ…!!
「ふん、相変わらず忌々しいドラゴンだな。だが、貴様は後だ」
「後なんかねえよ…!! お前は今すぐぶっ潰す!!」
「フッ、そう焦るな。お前には俺のペット達と遊んでもらう」
コカビエルが指を鳴らすのと同時に校庭に巨大な魔法陣が出現する。恐らく召還魔法だ。
『グルルルルル…!!』
魔法陣から現れたのは3体の化け物。8~10メートルはある3つの首を持った黒い犬。
餌を待ちきれないのか、涎を垂らしながらその赤い瞳で俺達を睨みつけている。
ちょ、ちょっとやばそうだな…!
『相棒、あんな雑魚相手に何をびびってる。普段からもっとやばい化け物の相手をしているだろうが』
「いや、見た目的に人間としての本能がだな…」
俺がちょっと臆したのを敏感に感じ取ったドライグに叱責されるけど、あの鋭い牙が生え揃った口を見てると神器の空間の中でお前にパッくんされたのを思い出すんだよ…!
大体、普段相手してる化け物ってイセリアの事か? 見た目が全然違うだろ! あっちは可愛いじゃん! こっちは物の怪じゃん! 見た目で言ったらコカビエルよりやばそうじゃん!
「先に行くわよ、赤龍帝!」
『禁手』
ちょっと犬にビビッていた俺の隙をついてコカビエルと戦闘を始めるレイナーレ。禁手をして金色になったレイナーレはコカビエルと空中を高速で飛びまわりながら光の槍を投げあう。
ず、ずるい! 俺もそっちと戦いたいぞ!
『ガォオオオオオオオオオオオオオ!!!』
「来るわよ! ドラレッド!」
「ええい、ままよ!!」
俺の心の叫びは俺達へと向かってくる3匹の犬によって無常にも無視された。9つの首は俺が美味そうな飯にでも見えるのか、完全に俺に狙いを定めている。
もうビビッている場合じゃない…! 時間も無いんだ、手早く仕留める!
「ウォオラァアアアアア!!」
真正面から向かってきた犬に突進し、龍の力と気を込めた拳を打ち込む。訓練時とは違って一切の容赦を無くした俺の全力のアッパーは、正面の犬の真ん中の顎にめり込んでいく。
この勢いのまま振りぬく…!!
『!!』
俺の拳はまるで犬の頭なんて無かったかのように突き抜けた。パァンと風船の割れたかのような音を立て、中身を跳び散らしながら犬の頭は吹き飛ぶ。そして、その勢いのまま犬の体も縦に裂け、その巨体は宙を舞った。
…グロッ! 何これグロッ! やばいって、これ! 俺、こ、こんなつもりじゃなかったぞ! もっとこうイセリアがレイナーレを投げた時みたいなアンパンチ的感じになると思ってたぞ!
『相棒、何を呆けてる!! 2匹抜けたぞ!』
「何?!」
予想外の結果に、動きの止まっていた俺の両脇をすり抜ける様に部長達を目掛けて走っていく2匹の犬。
しまった、前衛が抜かれてどうすんだよ…!
「心配無用よ! 消し飛びなさい、ケロベロス!!」
部長から放たれた禍々しい消滅の魔力が螺旋を描きながら右側の犬へと向かう。
デカい! 前に見た大きさの2倍はある! 犬の首を丸々覆う大きさだ! そして、イセリアの放つ炎の様に魔力は螺旋を描いている!
犬も自らに向かってくる魔力の危険に気がついたのか、真中の首から火球を撃ち出す。が、部長の魔力は犬の炎の真中から穿ち、そのまま犬の巨体を真っ二つに割った。
「イセリアに習った螺旋よ、中々でしょ?」
右目をパチンと閉じて、いたずらっぽく笑いながら俺にウィンクする部長。
正直、可愛いけど怖いっす…。
「この1月で強くなったのは貴方だけではありませんわ!」
左側の犬は、姫島先輩の両手から放たれた雷に打たれて動きを止める。雷は犬を地面へと縫い付けるかのように巨大な足に纏わりつき、その身を焦がしていく。
「隙あり」
「雑魚に用は無いよ」
動きの止まった犬の頭に、小猫ちゃんが踵落としを決めた。そのあまりの威力に犬は地面へと叩きつけられる。
これだけでも死ぬほど痛そうなのに、そんな犬に待っていたのは木場の魔剣で出来た剣山だった。
串刺しになった犬は、他の真っ二つになった犬達と同じように煙を上げながら消滅した。
…ひでぇコンビネーションを見てしまった。即死コンボじゃん…。一ヶ月の訓練でこの人たちもかなりレベルアップしてるよな。変態仮面から魔力の扱い方を詳しくレクチャーされてたし。
そして所在なさげに佇む鎧と黄色いボンボンでフレッフレッと、コカビエルと空中戦をしているレイナーレを応援してるミッテルトとアーシアの2人。何しに来たんだよこいつら。
「おいおい、バルパーのじいさん。こりゃ、本気でやべーんじゃね? いくらエクスカリバーちゃんがチョー素敵仕様でも…」
「心配しなくても良い。君の相手は僕だけだ」
下品な感じがする白髪の神父が老人堕天使に何事か言っていたが、木場がその言葉を遮って剣を向けた。 憎しみの篭った木場の瞳は、真っ直ぐに神父たちとその聖剣に向けられていた。
今の木場は危なっかしい印象しかしない。まるで自分自身も傷つけてしまうような諸刃の剣だ。…大丈夫、だよな…。
「祐斗、勝ちなさい。私の騎士としての役割も、貴方の復讐も、全部果たしなさい。悪魔らしく、強欲にね」
「大丈夫、貴方の剣は負けませんわ」
「祐斗先輩、勝ってください」
グレモリー眷属のみんなから声援を貰い、力強く頷く木場。そして、横目でちらりと俺に視線を向ける。俺はもう、言いたい事は言ってあった。だから必ず勝てという意味を込めて、木場の視線に頷いて返す。
少しだけ、木場の口元が上がった。そして木場から立ち上っていた殺気が消えた。
正眼に構えられた剣。さっきまでとは違う、自分を見失っていない木場。何時も以上に静かなその構え。
もう、俺は心配していない。必ず勝利する、そう思わせるほどの説得力が今の木場にはあった。
「…行くよ、みんな…!!」