赤い龍と蒼の魔女(仮)   作:イマーZ

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オッス! オラ作者。
とりあえず投稿すっぞ。
全く話が進んでないように見えるけど、きっと気のせい!


つまりこの剣がないかぎり、わしを倒すことは出来ん!!

『……オキナイト、コロシマス。……オキナイト、バラバラヨ』

 

今日はヤンデレボイスか…。

手を伸ばしてカチリとボタンを押して目覚まし時計を止める。

 

「……ふぁ」

 

時刻は4時。

何時もより1時間も早い。まだ朝日も昇っていない時刻だ。

今日俺がこんなに早く目覚ましを仕掛けたことには理由がある。それは、イセリアの朝食の準備を手伝おうと思ったからだ。

イセリアは何時も俺より早く起きてご飯の用意をしてから俺を起こしに来るからな。偶には俺だってイセリアに楽をさせてやりたい。というわけだ。

 

「……んっ」

 

さっそくベッドから起きようと手を着いて立ち上がろうとした俺の耳になにやら悩ましい声が。そして、ベッドに手を着いた筈の手は、ベッドにあるまじき柔らかい感触を伝えてくる。

 

「…あっ」

 

…なんという柔らかさ。何だこれは、何度でも揉みたくなってくるぜ! 何度でも揉むぜ! もむぜぇ~。超もむぜぇ~。

 

『相棒、いい加減にしないと起きるんじゃないか?』

「………ドライグ。これは一体どういう事だ。…そっか、また神器の精神空間だろ? またまた~」

『いや、現実だ』

 

またまたご冗談を。だってこんな美味しい話が俺にあるわけ無いじゃないか。アレだろ、ここで調子に乗ったらカメラとドッキリって書かれた看板持ったエルシャさんが登場だろ? そして先代の赤龍帝たちにもみくちゃにされるんだろ? 

 

「……ん」

 

もっかい一揉みすると、再び艶やか吐息が漏れる。前みたいに消える気配は一切無い。

……まさか、マジで本物? 

 

『だから言っているではないか。本物だと』

「ま、マジで…?! 何が一体どうしてこうなったんだ…?!」

 

ベッドイン+朝チュンってマジか?! 

え? 俺大人の階段登ってんの? マジでぇ?! 全然っ憶えてないんだけど?!

初体験って、こんな感じで卒業なの?! ちょっ、俺の初体験がそんなバカなっ!! 思い出せ俺! 今こそ動け、灰色の脳細胞!! ふざけんなよ! 全部思い出せぇ!!

 

『お~い、相棒。早く正気に戻れ』

「くっ! ドライグ、俺は今、自分に失望している…!!」

 

くそ、何も思いだせねぇ! 

どういう事だ、このムッツリドラレッド(命名小猫ちゃん)と呼ばれたこの俺が…!

こ、こうなったら、もう一度……。

 

「こうなったら、その体で初体験の記憶を思い出させてもらおうか…!!」

『落ち着け馬鹿者。それより、寝たふりをしろ』

「?」

『いいから、早くしろ』

 

襲い掛かろうとしていた俺だが、ドライグの真剣な声に押されて大人しく布団の中に戻って布団を被る。すると、もぞもぞと動き出す銀色の物体。

黄色いヒヨコ柄パジャマに身を包んだイセリアだ。胸元が肌蹴ているのは決して俺がモミモミしたせいじゃない。

 

「…ふぁ、おはよう、イッセー、ドライグ」

『うむ、おはようイセリア』

 

つい俺もおはようと言いそうになったが、それよりも早くドライグが返事をして俺を押し黙らせた。

目を覚ましたイセリアは上体を起して俺の左手を手に取る。

なにやらジーッと見つめられているようだ。

 

「うん。今日も問題なさそうだな」

『ああ。どうやら影響は少ないようだ。これならばいつでも安心だろう?』

「そうみたいだな。杞憂で済んで良かった……。…朝食の準備をしてくる」

『ああ』

 

そう呟くと、イセリアはそろりと音を立てずに部屋から出て行く。

…つまり、どういうこと?

 

『…コカビエルの時の事を憶えているか?』

「え、ああ。最近の事だしな」

『最後に俺たちが模索していた新しい力を使っただろう。あれが相棒の体に悪影響を与えていないか、経過を見ていたのだ』

 

デュランダルの攻撃を防いだあの時か。確か、鎧が変形していった。

力が俺の体に悪影響を与えないため…。

そういえば、普通の禁手化でも俺の体に負担をかけてるって言ってたな。

 

『あれ以来イセリアは、何時相棒に何かあってもいいようにお前が寝た後に入り、お前が起きる前にこっそり出て行っていたのだ。お前に余計な心配をかけないようにな』

「マジかよ…」

 

うわ、何か俺って情けねぇな…。

心配かけてて、しかも全く気付いてなかったって…。

 

『と、言いつつ顔がにやけているぞ』

「い、いや、こんな尽くされてて喜ばない男はいないというか…」

 

いかんいかん、反省しねえと。

これ以上イセリアに負担をかけないようにしないと。

…そういえば、何で一緒のベッドに寝てたんだ? 俺の調子を見るだけなら、前みたいにクローゼットに潜むとかしてそうなんだけどな、イセリアなら。

 

『一緒のベッドに入るように言ったのは俺だ』

「マジか!? ありがとうございますドライグ閣下!!」

『はっはっは、もっと称えろ』

 

ドライグが左手に現れて誇らしげに輝いた。

マジパネェっス! 超カッコいいっす!

 

『ま、お前を喜ばせるだけが目的ではないがな』

「? 何か理由あんのか?」

『無論だ。悪魔の駒(イービル・ピース)がイセリアに無反応だったことを憶えているな?』

「おう」

 

アレのせいでイセリアはわざわざ他の候補を探そうと旅に出たしな。

 

『イセリアが異世界出身というのは伊達ではない。それゆえ、神器の呪いや魔法の呪いの殆どは、イセリアに効果を及ぼしにくい。所詮、世界の法則に縛られた力だからだ。異世界の法則で生きてきたイセリアには効き目が薄いのだ』

 

え? 何それずるくないか?

 

『まあ、完璧という訳では無い。殆どというだけで少しは影響があるようだしな。それに物理的に影響のあるもの、例えば直接力としてぶつける攻撃、炎を生み出す攻撃やグレモリーの滅びの力等はそのまま通用するだろう』

「ほうほう」

 

まあ、そんなのまで無効化とかなったら無敵だしな。

 

『まあ、これはイセリアの世界の物理法則が俺たちの世界に似ていたからだろうな。だからあいつはこの世界の食べ物を食べ、空気を吸って普通に生活できる』

「良い事ずくめだろ? なんか問題あるのか?」

『ある。例えばアーシア・アルジェントの持つ神器”聖母の微笑み”や冥界の回復アイテム”フェニックスの涙”の力が通用しないだろうということだ。いや、フェニックスの涙はどうだろうな…』

 

そうか、アーシアの持つ傷を癒す神器の力が通用しないのは、結構危ないかも。大怪我をしたら自力で治さなければいけないと言うことか。

でもラグナエイドもあるし、イセリア自身もヴァルキュリアの力で傷は直ぐ治るからあまり問題なさそうだけどな。

 

『毛生え薬の様に、薬等にして直接投与するものは影響を与えるようだしな。まあ、それはいいのだが』

「いいのだが?」

『これが一番厄介なんだが、どうやら病気に対する抵抗力が低いのだ。まあ、考えれば当たり前だろう。異世界とは違う病原菌などに抵抗力があるわけが無いからな』

「な、なんだって?! いや、だけど、イセリアは今まで病気なんて一回くらいしか…」

『今まで病気にならなかったのはあいつの予防意識が高かったからだろうな。しかし、風邪をひいた時を思い出せ。異常なまでの高熱を出していただろう。しかも、炎も暴走気味だった筈だ。あの時は俺が力を送り続けたからようやく治ったようなものだ』

 

それってやばいんじゃないか?! もし何かの病気にかかったら不治の病になっちゃうって感じなのか?! というか、よく考えたら病院に連れて行って治せるのか?!

 

『相棒、そこまで心配することは無いぞ。お前と一緒に眠らせて俺の力を送っているからな』

「つまり?」

『日々俺の力を送る事で病気に対する抵抗力をつけていっているというわけだ。まあ、あいつの肉体に少なからず影響はあるが、病気になるよりずっと良いだろ?』

「す、すげぇ、さすがドライグ先生…! 何時もよりずっと輝いているぜ…!!」

 

俺がそう言うと、ドライグはさらに輝いた。

カッコいいっす! ドライグ先生!

 

『そうだ! 褒めろ! 称えろ! 崇め奉るがいい!』

「カッコイイ!! よっ! 世界最強!」

『はははははっ!!』

「最強の神器、ドライグ先生!!」

『そうだ、俺が最強だ! もっと褒めろ!』

「ステキ! 抱いて!!」

『ははは! キモイぞ、相棒!!』

 

――ガチャ…。

『「!?」』

 

俺の部屋の扉が開く。その音に、一気に俺たちの興奮は収まっていた。

そして、扉が開いた先には、何か凄く申し訳なさそうに目を逸らすイセリアの姿が…。

 

「…そ、その、最近いろいろあったからな。疲れているんだろう? 今日は、ゆっくり休んで? ね?」

「ちょ、ちょっと待て」

『おい、勘違いするんじゃない!』

 

すッごい優しい瞳! 

労わる想いで溢れてるよ、アレ! やめて、病んでいるわけじゃないんだ!

 

「ドライグも、今日はゆっくり休んで」

『ちょ、おま、待』

「学校にも連絡しておくから、ね?」

 

――ぱたん。

伸ばした手はむなしく空を切った。

 

 

「はぁ……」

 

あの後何とか誤解は解けたが、疲れた…。

寝起きのテンションに要注意だな…。

 

『おかけになった電話番号は現在使われておりません。ピーッという発信音のあとに…』

 

あのイセリアの可哀想なものを見る目にダメージを受けたのか、ドライグはずっとこの調子だ。

大丈夫かよ、これ…。

 

「朝っぱらからお疲れね~。噂の彼女とやりすぎたせい?」

「出たなエロメガネ二号」

「誰が二号よ。誰が」

「ツッコムとこそこかよ…」

 

こいつの名は桐生 藍華(きりゅう あいか)。三つ編みの眼鏡女子で、平気でエロイ事を口走ったり、眼鏡を通して”男性の尊厳”に関わる物を数値化する能力を持つ恐ろしい人物だ。このクラスの男子は全員被害にあっていると良いって言い。

 

「イッセー君、そんな卑猥な事を毎日してると天罰が下っちゃうわよ。ああ主よ罪深い…イテっ」

 

自分がダメージ受けてどうすんだよ…。

イリナは部長の眷属悪魔に転生してから俺のクラスに転入してきた。ちなみにゼノヴィアも一緒だ。

何でイリナがダメージを受けたかというと、悪魔に転生した時点で聖句も祈りも弱点になってしまったからだそうだ。

 

「そんなにやってるなら私と子作りしてくれても良いじゃないか」

「学校で妙な事を口走んな! お前のお蔭で俺は二股鬼畜野朗扱いなんだけど!?」

 

そう。ゼノヴィアはまだ諦めていなかったらしく、学校内でぶっ飛んだ発言をしてくれたお蔭で俺は暫くクラスメイト達からゴミを見るような目で見られるようになった。中二病扱いのころの方がいい扱いってどうゆうことなの?!

そして、その視線に耐えられずについ”ふざけるな!! 俺はまだ童貞だ!”と叫んだら今度は生暖かい目で見られるようになってしまった。というか、お前らだって似たようなもんの癖によぉおおおお!! 何がDTだよ、抱かせろオラァアアア!!

 

「おーおー! 朝から女子にモテモテで羨ましいですなぁ! ペッ!」

「ぐぎぎぎ、憎しみで人を殺せたら……!!」

 

最近グレ気味のエロ坊主松田とエロメガネ元浜が現れた。

凄まじい負のオーラだ。これは小猫ちゃんが偶にだす暗黒オーラ並みじゃないか…!?

 

「言っとくが、お前らの想像したような事は一切無かったからな。大体、俺んちには木場もタキシード仮面も一緒に暮らしてんだぞ? エロイことやれると思うか?」

「兵藤ならタイミング計ってやってそうだけど」

「おう、全員の出かけるタイミングは既に把握済みだぜ…って何を言わすか」

「アンタが勝手に言ったんでしょうが」

 

桐生によって情報を引き出されてしまうと、エロ坊主とエロメガネは態度を一変。嬉しそうな顔で俺の肩に手を置いた。

 

「そうだったな、イッセーには恋人がいるんだったぜ」

「そうだったそうだった。最近モテモテで忘れ気味だったけど恋人がいるんだったぜ」

 

何だこいつらの顔。すげえニヤリと悪い顔してやがる。

 

「木場という恋人がなぁ!」

「片時も離れないほどですからなぁ~!!」

 

ぐ、ぐおおおおおお!!!

こ、こいつらまで俺と木場を×算し始めやがった…!!

 

「きゃ!、木場×兵藤って本当だったのね…!」 ヒソヒソ

「違うわよ、ワイルドな兵藤君が攻めよ」 ヒソヒソ

「いいえ、兵藤君はああ見えてヘタレ。つまり、ヘタレ受けよ…!」ヒソヒソ

 

ううう、おおおおおお!!

変態共のせいで女子たちが、女子たちが×算をし始めやがったぁあああ!!

 

「や、やめてくれええええええ!!!」

 

俺は腐海の毒素に耐え切れず、最後のガラスをぶち破った。

 

「ああっ、イッセー君! 授業が始まっちゃうわよ!!」

「イリナ、そっとしておいてあげなさい。兵藤も色々あるのよ…」

 

 

 

 

テーブルを拭く。まずは縦に直角に拭いていき、次は横に平行に、最後に周りを拭く。

うん。既にピカピカだったテーブルはさらにピカピカになった。

次に砂糖と紙ナプキンの補充を行う。

うん。既にパンパンのギチギチだ。入れるスペースが見つからない。

ならば次はフロアの掃除だ。

うん。既にピカピカだ。チリ一つない。さすが私。1時間前にやったからな。

 

「イセリア。アンタも休憩でもしたら? どうせ客なんて来ないわよ」

 

カウンターに座ったレイナーレがやる気ゼロの表情で私を誘ってくる。

 

「こらっ。少しはアーシアを見習って仕事をしろ」

 

そう。アーシアは先ほどから私と同じでしっかりテーブルを拭いている。私の言葉にも謙遜して苦笑しているが、アーシアはしっかり働いているのだ。

 

「何回同じテーブル拭くのよ。客なんて1人も来てないじゃない」

「おーい、私がいるんだが…」

 

レイナーレの言葉に、店内にいる唯一の客、スーツ姿のタキシード仮面が反論した。ちなみにタキシード仮面は会社勤めで今は昼休みだそうだ。

 

「アーシアのストーカーなんて客じゃないわよ」

「これは崇高な愛だというのに…。あっ、アーシア嬢、コーヒーのお代わりを頼む」

「はい、かしこまりました」

「それと…キミも一緒にどうだい?」

「あ、あの…タキシード仮面さん?」

「どうか、セーレと呼んでれ。麗しのアーシア…」

 

キラッと歯を光らせてアーシアを誘うタキシード仮面。しかも、まさかの本名発覚。

しかしその顔面に厨房から飛んで来た雑巾が直撃する。

額に怒筋を作ったミッテルトだ。

 

「お客様。そんなサービス、うちにはないっすよ。ちなみに、お帰りはあちらっす」

「ああ、なんてことだ…」

 

ミッテルトの言葉に、タキシード仮面は傷ついた声をだして項垂れる。

それを見たアーシアがタキシード仮面に張り付いた雑巾を取ってミッテルトに抗議する。

 

「み、ミッテルト様! いけませんよ、雑巾をぶつけるなんてっ」

「アーシア、そんな奴ほっときなっての。構うから調子に乗って追いかけてくるっスよ?」

 

うん。私もそう思う。

だって、アーシアに顔を拭いてもらって凄くデレデレしてるもの。グヘグヘ言ってるもの。大体避けれた筈の雑巾をかわさなかったのもアーシアに拭いてもらうためだろう。

 

「え? でも…」

「アーシアは危機管理の意識が薄いっすよ。そんなんじゃ、何時変態に襲われるか…」

 

アーシアとミッテルトが騒いでいる間に注文のコーヒーを淹れる。

淹れるといっても水出しコーヒーで、前日店長がストックを作っていたものなので私がする事はグラスに氷と一緒に入れるだけ。

 

「どうぞ、ご注文のコーヒーです」

「おお、ありがとうイセリア嬢。…うむ、美味い」

 

美味しそうに飲むタキシード仮面。

出したコーヒーの代わりに受け取った空いたグラスを下げる。

カウンター内に入る際に見える、ぼんやりとテレビを見るレイナーレの姿。何処か煤けて見えるのは気のせいか…。

その隣に、ミッテルトが溜息を付きながら腰掛ける。アーシアは結局タキシード仮面の話し相手にされてるようだ。

 

「ほんっ…とうに客が来ないっスね」

「………仕方ないのは解っているのよ」

 

グラスを洗い出すと、聞こえてきた2人の愚痴に思わず手が止まった。

 

喫茶マウンテンキング。

以前は客足の途絶えることの無い人気店となっていたのだが、今では同じ商店街の人間しか来ない寂れた雰囲気の店に逆戻りしていた。ちなみにお給金も逆戻り。コスプレもレイナーレがやる気ゼロとなり、今ではウェイトレス姿に逆戻りだ。一応夏服だけど。

 

「……原因不明の爆発を起した店だからな」

「それよ、それ! あの腐れコカビエルが…!!」

「コキュートスだけじゃなくて地獄全部廻らせてやれっての…!」

 

ギリギリと歯を食いしばり、コカビエルへの呪詛を吐き始めるレイナーレとミッテルト。

そうなのだ。部長のお蔭で店は元通り以上に直ったが、あの事件で謎の神父たちに店を爆発された影響がまだ残っているのだ。

インターネットで店の噂を調べれば、”爆弾魔が来る店””店を爆発させる店員””喫茶ボムキング””世紀末喫茶””汚物は消毒喫茶””戦場喫茶”などなど、誹謗中傷がいっぱいだ。

しかも部長が張り切って一日で直してしまったから”不死身喫茶””ゾンビ喫茶”ジェバンニが一晩でやってくれました喫茶”とか呼ばれているし。

 

まあ、誰が命の危険を犯してまでこんな怪しいお店にコーヒーを飲みに来ると言うのか。人気店は一気に不人気店へと転落してしまったのだ。

 

「まあ、良いではないか。私は今の静かな雰囲気が気に入っている」

「アンタはアーシアを独り占めできるからでしょうが」

「ははは。イセリア嬢、会計を頼む」

「はい。1400円です」

 

休憩時間の終わりが近づいたのだろう。

タタタッとレジを打って金額を告げる。タキシード仮面は毎日毎日、日替わり定食とコーヒーを2杯頼んでいくがお金は大丈夫なのだろうか?

まあ、住居と朝食夕食は兵藤家でタダだから出来るのだろうけど…。

 

「では、アーシア嬢。私が社長になった暁には私とのお付き合いを考えて頂けますか?」

「え、え、は、はい」

 

ポンっとマジックの様に手から出したバラを渡しながら、タキシード仮面は言う。

一体何時の時代の口説き方なのだろうか、アーシアはすっかり困惑してしまっている。

 

「大企業に勤めているとはいえ、まだ研修中のペーペーが何言ってんだか…」

「ふっ…、舐めるなよレイナーレ。私は必ず登りつめてみせる。そして、アーシア嬢に社長夫人の地位を捧げてみせる…!! ではまた!」

 

タキシード仮面は時間に押されていたのか、喫茶店を出るとダッシュで会社へと向かっていった。

時刻は午後12時58分。一般的な会社のお昼休憩は1時まで。

頑張れ、タキシード仮面…!

 

「何年かかるっスかね?」

「さあ? 30年くらいじゃない?」 

「そんなにかかっていたらアーシアはおばあちゃんになってしまうっすね」

「そうね、自分で会社起したほうが早いでしょうね」

 

…頑張れ、タキシード仮面!

 

「…はぁ。店長のばばぁ、今日は競馬?」

「今日はパチンコだぞ。数字を聞かれていないだろう?」

 

店長は忙しかった時とは違い、喫茶店よりギャンブルに勤しんでいた。

まあ、客が全く来ないし、私たちというお留守番がいる上、元々店長の道楽で続けているだけの店だから仕方が無い。それでも常連さんたちが来る3時くらいになれば帰ってくるからいいのだけれど。

 

「全く、パチンコはやめろって何時も言ってるのに…。あんな副流煙だらけの所に居て、早死にしたいのかしら。ま、そうなったら店は私のものなのだけれど…」

 

レイナーレは一応店長の心配をしているようだ。店云々いうより、まず戸籍と食品衛生責任者の資格を取らないといけないんだけど。

 

――ぶひっ!

む、ポルコの声。お客様が来たみたいだ。珍しいな、こんな時間に。

 

「「いらっしゃいま、せ……!?」」

 

先ほどまでダラけていたレイナーレとミッテルトは残像を残すほどの勢いで客を迎えに行っていた。

どれだけ売り上げを上げたいいんだ、全く。

しかし、なんか固まっていないか? あの2人。

 

「どうしたんでしょうか? お2人とも」

「なんだろうな、アーシア」

 

アーシアと2人で首を傾げる。

入ってきた客は着流しを着た黒髪の男性。年は20代くらいだろうか? 

…何か、父上に似てる。というか、銀髪にしたらドッペルゲンガーみたいになるのではないだろうか? 世の中には似ている人が3人いるというが、本当だったようだ。何か、懐かしいなぁ。

 

「アザ、アザアザアザゼル様……!!」

「いや、どういう名前だそれ」

 

固まった2人の代わりに案内しようとすれば、ワナワナと震えながらレイナーレが呟いた。

知り合い? けれど、問われた本人はそんな名前では無いと否定してるけれど…。

 

「申し訳ありません。…お一人様でしょうか?」

「おー、お一人様だ。案内してくれ」

「かしこまりました。こちらへ」

 

窓際の一番言い席へ案内する。テーブルを5回は拭いたところだ。

レイナーレとミッテルトはアーシアが回収してくれたので任せておこう。

客が席に着いた後メニューを渡し、一礼して直ぐにカウンターへ向かう。そして、お冷とお絞りの準備をしてまたとんぼ返り。

なんだか店長と2人で働いていた頃に戻った気分だ。

 

「ご注文はお決まりでしょうか?」

「このアイスコーヒーとミートスパゲティを頼むぜ」

「かしこまりました」

 

一礼して調理しようとカウンターへと向かう。すると、なにやらレイナーレとミッテルトがアーシアを引っ張りつつコソコソと店から出ようとしていた。

 

「こらっ。お客様の前で何しているんだ」

「ば、ばばばバカ…!! あの方は、あの方は…!」

「?」

 

レイナーレが震えててどうにも要領を得ない。ミッテルトも真っ青でワナワナしてるし、アーシアも事情を解っていなさそうだ。一体、どうしたというんだ?

首を傾げていると、此方の様子を伺っていたお客様が向かってくる。しまった、今日の接客は最悪じゃないか、これ。

 

「ここまで怯えられると流石に傷つくんだがな、なあレイナーレ、ミッテルト」

「も、もももも申し訳ありません…!!!」

 

お客様がそういうと、レイナーレとミッテルトは高速で謝りだした。擬音にするとペコペコではなくブォンブォン。あまりの速さに残像が見えてる。

凄いな、何時の間にそんなにパワーアップしたんだ?

 

「あの、レイナーレ様とお知り合いなのですか?」

 

おずおずとアーシアが男性に尋ねる。

 

「ああ。まあこっちが知ったのは最近なんだがな。…ふぅん。お前さんがアーシア・アルジェント?」

「は、はい。レイナーレ様たちには何時もお世話になっています」

「そうかい。元気そうで何より」

 

アーシアに向けていた視線を此方に向ける男性。何か上から下まで見られてる。

此方を観察するような不躾な視線に、ムッとしてしまうものの相手はお客様。此方は店員。大人しくしないと。

 

「申し訳ありません。直ぐにご注文の料理を準備いたしますので」

「ま、そんなに慌てなさんな。お前さんがヴァーリの言っていたイセリアか?」

「? ええ、そうですが。私の知り合いにヴァーリさんなんていませんけれど?」

「細かいことは気にすんな。……なるほどな。お前さん、随分変わってんな」

 

面白そうに顎を撫でながら男性は言う。

何だ、この人。人のことをいきなり変人呼ばわりとは、なんて失礼な人だ。

私はどう見ても普通の18歳の女性だろうに。

 

「お前ら、本当におもしろいな。これに赤龍帝までいるんだから、ここまで研究意欲をそそられるのは久しぶりだぜ?」

 

その一言に、レイナーレ達を後ろに庇い、何時でも攻撃できるように身構えた。

…イッセーの事を知っている。そして、レイナーレ達の事を知っている。さらに、レイナーレとミッテルトの怯え様。こいつ、堕天使か。しかも、相当高位の…。

 

「下がっていろ、私がやる」

「ば、ばば、ばばば、ばかバカ、お馬鹿! やめなさい! こ、この方は!!」

「お、おおお、おっぱい魔人、や、やめるっス!!」

「こ、こら! 抱きつくな!!」

 

ちょ、いきなり後ろから抱きつくな、こんな時に!!

やばい、こんな状態じゃ何時でもやられる…!!

 

「やる気はねえって。降参降参。ほら、お前らも落ち着きなって」

 

何時でも私を殺せた筈なのに両手を挙げて戦闘意欲がない事を示す男性。

どうやら、本当に戦う気は無いようだ。

ガクガク震えていたレイナーレ達も、その姿に少しは落ち着いたようで、私から手を離した。

 

「今日は見学に来ただけだ。それと、お前さん達の神器を研究させてもらえるかどうかを聞きに来たのさ」

「は、はい、今すぐにでも、幾らでも!!」

 

男性の言葉にいきなり神器を発動させるレイナーレ。何でこんなに興奮してるんだ。

 

「おー!! こいつが例の神器か!? 四神の長が封じられている新しい神滅具候補の神器、名は…」

「黄龍の腕(シャイン・ドラゴン・プライド)と言います! ほら、黄龍、ご挨拶を…!!」

『宿主よ、何をそんなに興奮しておるのだ? それに、そなたは確か…』

「マジか!! 喋りやがった! 意識がハッキリしてんだな! ちょっと触らせてくれ!!」

「はい! どうぞ!!」

 

何これ。

男性が急に子供みたいに目を光らせながらレイナーレの神器をペタペタと触り、レイナーレは光悦とした表情で男性を見てる。何これ。

 

『そなた、そんなに触るでない。やめぬか』

「お、おお! すまんすまん。つい我を忘れちまったぜ」

 

黄龍の声にその手を離して一歩下がる男性。レイナーレはチョッピリ残念そうに眉を下げた。

男性は自分を親指で指差し、

 

「そういや自己紹介もまだだったな。俺はア…」

 

―――ぶひっ!!

丁度男性が自らの名前を告げようとしたとき、再びお客様が来た。

扉を開いた先にいたとは、部長と同じ紅の髪を持つ男性と銀髪メイドのグレイフィアさん、そしてイッセーだった。

 

「…アザゼル…!!?」

「サーゼクス…!!?」

 

自己紹介しようとしていた男性と紅髪の男性は、お互い見つめあったまま固まってしまった。

紅髪の男性の前にグレイフィアさんが庇うように立つが、2人の再起動には暫くかかりそう。

とりあえず固まった人たちは放置して、学校をサボったと思われるイッセーの元へ行く。

やっぱり、朝、様子が可笑しかったし、素直に学校を休ませてあげるべきだった。

 

「イッセー。…やっぱり体調が悪かったの?」

「いや、違うんだ。ちょっと、…な」

 

どうにも歯切れが悪い。

やっぱりちょっと病んでしまったのか…。その目に光を感じない。

気を病んしまっている人に対して、なるべくその話題に触れてはならないと聞く。なら、話を逸らして気を紛らわせて上げないといけない。

 

「此方の方は?」

「あ、ああ。さっき町でバッタリ会ってさ。めっちゃいい人なんだよ、部長のお兄さんだってさ」

 

と、イッセーがそこまでいうと、高速で移動してきたミッテルトがいきなりイッセーの胸倉を掴んで揺らし始めた。脳をシェイクするかのような激しい揺さぶりだ!

 

「おいコラァ!! この馬鹿赤龍帝ぇ!! 何魔王なんて連れてきてるっスか!? 町で会った!? 何そのRPGに対する侮辱?! アリア○ンで何でゾ○マと遭遇してるっスか!!」

「あばばば…!!」

「お、落ち着けミッテルト」

「落ち着いてられるかぁ!! おま、おま、せっかく建て直されたうちらの店をまた廃墟にする気かぁ!!?」

 

落ち着く兆候が一切見られないので、ミッテルトをイッセーから引き離す。

魔王? そういえば、何か部長達が言っていたような…。

 

「もうダメだぁ…お終いだぁ…!! また店が爆発して、放浪生活に逆戻りっス……。何でアザゼル様とか、魔王が来るっスか…。せめて1人ずつ来いよ……」

「み、ミッテルト様。落ち着いてください」

「あ~しあ~…!!」

「こうなったら、仕方ないわ…。また、3人で一緒に生きましょう……」

「れ、れいなーれ姉さま…」

「生きていれば、…生きていれば、いつか、きっと…!!」

 

床に両手を着いて深く落ち込むミッテルトを慰めるアーシアとレイナーレ。

凄い悲壮感だ。この世の不幸をそこに集めたかのような負のオーラを発していた。

 

「あ、安心しなさい。妹が建て直すように言ったこの店を破壊する気は無いよ」

「ま、まあ、俺も争う気なんてさらさらねぇよ。安心しろ」

 

冷や汗を掻きつつそう言う2人。

だけど、3人は聞いていないのか落ち込んだまま。

仕方ないなぁ。

 

「3名さまでよろしいでしょうか?」

「ん、ああ。そうだね、アザゼルと同席しても良いかい?」

「よろしいでしょうか?」

「ああ、構わねぇよ」

「では此方へ」

 

お客様を連れたって先ほどの席へ。再びメニューを渡してカウンターへ直行しお冷とお絞りを準備。とんぼ返りで席へと戻る。

 

「ご注文はお決まりでしょうか」

「そうだね、コーヒーを2つ、それとこの日替わりランチを2ついいかな?」

「かしこまりました」

 

席は紅髪の男性、部長のお兄さんが窓際、その隣にグレイフィアさん。部長のお兄さんの対面に黒髪の男性アザゼルさん、その隣にイッセーだ。

部長のお兄さんに確認を取った後はイッセーの注文を取ろうと向き直る。しかし、イッセーは体を100度横に傾けて? いや、倒して私のスカートの中を覗いていた。

 

「うんうん、しっかり働いていたんだなイセリアぶふっ!!」

「どこに話しかけてる!?」

 

人のパンツを見ながら会話なんて勿論許すわけが無く、お盆で撃墜する。

元気になったのはいいけど、部長のお兄さんと知らない人の前で何をやってるんだか、全く!

 

「ご、誤解だイセリア。か、体が勝手に…!!」

「はいはいごちゅうもんをどーぞー」

「ジト目で投げやり?!」

 

思わず投げやりになるのは仕方がないと思う。

顔に集まった熱を冷ますためにメモメモと注文を書いていると、微笑ましそうな表情をした部長のお兄さんとグレイフィアさん、そしてアザゼルさんがニヤニヤしながら声をかけてくる。

 

「ははは、今代の赤龍帝は面白いね。何色だったかい? いひゃいいひゃい、ぐれいふぃあ」

「我が主が申し訳ありません。あと、舞い上がるのはよろしいですがあまり職務を忘れてはいけませんよ?」

「女の尻に敷かれる赤龍帝か、おもしれぇな。俺の予想じゃ白だな」

 

む、むああああ! は、恥ずかしい…!! 何これ、やめてぇ!

 

競歩ダッシュでカウンターに戻り、速攻ッでアイスコーヒーを4つ作り、さっと4人に出す。

再び微笑ましそうに見られて羞恥心が倍増! 

競歩ダッシュでまたカウンターに入って厨房へ向かい料理を開始する。

顔に集まった熱を冷ますために、レイナーレ達の暗黒空間に目を向けるが、この狭い店内。どうしても4人の話し声が聞こえてくる。

 

「しかし、会談を前に不用意な接触は避けるべきではないかい?」

「おいおい、お前さんがそれを言うか? どっちかと言うと、ここは堕天使よりだぜ?」

「イッセー君とここに勤めているイセリア君は我が妹と契約を結んでいる。悪魔よりだと思うが?」

 

なんだか空気が悪いようななんと言うか。

視線をそちらに向けると、イッセーが助けてコールを放っていた。

でも、パスタが出来るまでもうちょっとかかっちゃうのだ。そちらの援軍にはいけない。決して先ほど恥ずかしい目に合わされた仕返しではない。

 

「…アザゼル。一つ聞きたいのだが、どうしてここ数十年神器の所有者達をかき集めている?」

「神器の研究のために決まってんだろ。というか、その辺の事は全部会談で話せばいいだろ?」

「では、ここに来た目的は何だ?」

「可愛い部下の顔を見に来たんだよ。なんたって新しい神滅具候補を発現させた奴だ」

 

なんというか、ピリリとした緊張感があそこから漂ってる。

部長のお兄さんは悪魔、そして、アザゼルさんは堕天使と思われる。そりゃあ、仲が悪いのは当然か。

しかし、イッセー。頑張れっ!一応ドライグに助けてあげてと通信を送っているんだけど…。

 

『おかけになった電話番号は現在使われておりません。ピーッという発信音のあとに…』

 

先ほどからこの調子である。

やっぱり、朝様子が可笑しかったから調子が悪いんだろう。

 

イッセーに頑張れエールを送りつつ、パスタを茹でている間にから揚げを揚げる準備。注意する事はパスタをほったらかしにせずにパスタがくっついたりしない様に、かきまわす事。

油が温まってきた頃にパスタが茹で上がったので、さっと水を切って皿に見た目が美しくなるようにクルクルっと移し、同じタイミングで作っておいたミートソースをかける。そこにパセリで軽く装飾してお終い。ミートスパゲティの完成である。

 

「やっぱり、おっぱいが一番ですって」

「お前は若いからな、胸にばかり目がいくのは解る。だが、太ももの良さを忘れているのはいただけねえな」

「確かに。胸だけに目がいくのは視野が狭いよ、イッセー君。女体は宇宙、もっと広い視野を持たなくては」

 

あったかい内に食べてもらえるようにお盆に載せて運ぶと、何故かおっぱいがどうとか太ももがよいとか、イッセーとアザゼルさん、部長のお兄さんが話していた。

ちょっと目を放した隙に何をやっているんだこの人たち。さっきまでの真面目っぽい話はもういいのか? 

 

「ご注文のミートスパゲティです。日替わり定食の方はもう暫くお待ちください」

「ああ。すまないね」

 

ぺこりと一礼して下がり、カウンターへと戻る。

 

「俺は×××もやった事がある男だぜ?」

「マジで?! なら、”ピー!!”とか”ズキュゥゥゥン!!”とかもっスか?!」

「当たり前だ。伊達にスケベで堕天してねぇぜ?」

「…ほう。ならば私達も久しぶりに○○○でもいひゃいいひゃい、ぐれいふぃあ」

 

スケベ談義はもはや私では何を言っているのか解らない域に突入し始めてる。多分放送禁止用語のオンパレードだ。

部長のお兄さんが、グレイフィアさんにほっぺた抓られて止められてるし、イッセーがアザゼルさんに師匠と呼ばせてくださいとか言ってるし、一体どういうことなのか。

 

料理を作り始めると、ようやく復活したのかミッテルトが帰ってきた。

背中からジッと見つめてくる。特にお味噌汁あたりを集中して見ている。

あからさまに怪しい。何処か狂気を感じさせる姿だ。

 

「……クククッ、これにこの毒を入れてしまえば、幾ら魔王と言えど…」

「やめいっ」

 

本当にやばかった。

完全に目が逝っていたミッテルトの頭をお盆で叩いて正気に戻そうとするが、ミッテルトの興奮は収まらない。

血走った目で味噌汁を狙い続けていた。

 

「店を、店を破壊させるわけにはいかないっすよ…!」

「大丈夫だから、奥に引っ込んでろ」

「み、ミッテルト様、休憩しましょう? ね?」

「は、離せ、やらせてくれ…!!」

 

援軍にやってきたアーシアと2人で患者を奥に押し込み鍵をしっかりと閉じる。これで良し!

途中、壁から顔を半分だけ出してハイライトの消えた目でアザゼルさんを見つめるレイナーレを見たような気がしたが、そんなことはなかった。そんな奴はいなかった。よし、自己暗示は完璧!

 

「遅れてごめんなさい。お手伝いしますね」

「うん。ご飯と、味噌汁を頼む」

「はいっ」

 

から揚げを揚げ終わるころにはアーシアが援軍にやってきた。

ご飯と味噌汁をよそってもらっている間に、漬物を切って、キャベツをササッと千切りに。皿に盛り付けしていく。最後にミニトマトを置いて完成。今日はから揚げ定食の日なのだ。

お盆に載せてアーシアと2人でお客様の元へ。

 

「お待たせいたしました。日替わり定食です」

「ありがとう。それとイセリア君」

「? はい」

「食事の後、少しいいかい? 君に渡したい物があってね」

「はい、大丈夫です」

 

部長のお兄さんが渡したい物? 一体なんだろう?

ハッ…! まさか、中国で山と森を消し去った分の請求書…?!

いやいや、あそこは悪魔の勢力圏じゃないだろう、…多分。

 

 

ここでは少し渡しにくいという事で、場所を変えて兵藤家。

お店の方はミルタンさんに連絡してお留守番を頼み、何故か全員で来ている。

レイナーレ達は部長のお兄さんを威嚇してないで店にいろよ…。

 

「ところで、イッセー君とイセリア君はリアスの事、どう思っているんだい?」

 

リビングでソファーに座ったサーゼクスさんがそう問いかけてくる。

質問の意図が良く解らないが、正直に答えとこう。

 

「友達だと思っていますけど」

「家のイセリアが何時も部長に迷惑ばっかかけてスンマセン!」

 

何を思ったのかいきなり謝りだすイッセー。

失礼な。そんなに迷惑かけてないもんね。

 

「いや、気にすることは無いよ。リアスも君たちの事を面白そうに語っていた。あんな非常識な子達は初めてだとも言っていたけどね」

 

にこやかにそういうサーゼクスさん。

失礼な。そんなに非常識じゃないもんね。

 

「それで、お前が渡したい物って何なんだ?」

 

痺れを切らしたのか、アザゼルさんがサーゼクスさんにそう言った。

アザゼルさんもサーゼクスさんが渡すものに興味があるらしくて、サーゼクスさんに色々言って勝手について来ていた。なんか、堕天使に見せられないヤバイものでも渡すのか? 的な事を言って。

 

「グレイフィア」

「はい」

 

グレイフィアさんが中空に手をかざすと出現する魔方陣。

空間が歪んでいるような不思議な現象が起きると、その歪みの中から黒い盾が現れた。

 

「ど、何処で、それを…?!」

 

それは私にとって、とても馴染み深いもので、何より、ここにあってはいけない失われた筈の物だった。

 

「レーティングゲームの事は知っているかな?」

 

その言葉に頷くと、部長のお兄さんはさらに続けた。

 

「実は、ゲームに使用する空間は次元の狭間に結界を張って作っていてね。これは3年前、レーティングゲームの最中に結界を破って空間内に入ったもので、今まで保管されていたんだ。今までこれが何か解っていなかったが、…そこに、君が現れた」

「……これは、槍です。私達、ヴァルキュリア人の使う。…そしてこれは母の、女王の槍」

 

そういうと、グレイフィアさんが私へ盾を差し出してくる。

部長のお兄さんに確認の視線を向けると、頷かれる。

 

「受け取ってくれ。これは君が持つに相応しい」

 

差し出された盾を受け取ると、盾は一瞬光を発した。

まるで懐かしいものにあったかの様に、歓迎するように柔らかい光だった。

 

「前にイセリアの使っていた槍と色が全然違うけど、使えるのか?」

「槍に使われているラグナイト量が桁違いなんだ。これは母上の力に耐えられるようにと造り出された特別製。私達の使っていた槍とは一線を画す」

 

イッセーの疑問に答え、盾から出ている槍の柄へと手を伸ばし引き抜く。

漆黒の槍は私の力を吸出し、蒼に輝く。それは今まで私の出していた炎を凌駕する、凄まじい密度の炎だった。

…凄い。今まで私の使っていた槍が、まるで玩具だ。

だけどこれ、相当なじゃじゃ馬だ。私が炎を出す気が無くとも、私から無理やり炎を引き出していく。これじゃあ力の弱いヴァルキュリアは直ぐに死んでしまうんじゃないか?

 

「…ありがとうございます、サーゼクスさん、グレイフィアさん」

「いいや、私達はそれを預かっていただけに過ぎないよ。ただ…その力でリアスを守ってくれると嬉しい」

「それは当たり前ですけど、何かお礼を…」

 

そう言うと、サーゼクスさんは嬉しそうに笑みを深くした。

 

「お礼は構わないよ。これからも、我が妹と仲良くしてやってくれ」

「はい」

「はい!」

 

イッセーと2人で頷くと、とても嬉しそうにサーゼクスさんは笑った。

そうか、この人シスコン的感じなのか。フェニックスさんと部長のレーティングゲームの事を思い浮かべると、悪い人ってイメージがあったけど本当にいい人みたいだ。やっぱり部長のお兄さんだな。

 

「なら、俺のとこのこいつ等とも仲良くやってくれよ?」

「アザゼル様?!」

 

ポンっとレイナーレの頭に手を置いたアザゼルさんがそう言った。

レイナーレはアザゼルさんに頭に手を置かれた瞬間、茹蛸みたいに真赤になった。面白い光景だ。

 

「それと、その槍を俺にもちょいと調べさせてくれないか?」

「アザゼル」

 

嗜めるようにサーゼクスさんが言うと、アザゼルさんはチェッと子供っぽく反応した後、立ち上がる。

 

「ま、会談しだいで幾らでも機会は出来るだろ。今回は諦めるとするわ。それとレイナーレ、ミッテルト」

「「は、はい!」」

「お前らは神の子を見張る者(グリゴリ)に帰れるようにしといた。帰りたくなったら何時でも帰って来い」

「「あ、あざぜるさま…!!」」

 

歓喜に打ち震えるレイナーレとミッテルトを置いて、アザゼルさんは帰っていった。

父上に似てる人かと思ったけど、性格は父上とは全然違って誠実そうな人だったな。

 

「では、我々もそろそろお暇するとしよう。グレイフィア」

「はい」

 

サーゼクスさんはそう言ってグレイフィアさんと共に立ち上がり、玄関へと向かっていく。

玄関で靴を履いた2人は、地面に向かって手をかざす。すると、2人の足元に魔方陣が発生して淡い光を放った。

私とイッセーはサーゼクスさんが帰ってしまう前にペコリと頭を下げた。

 

「サーゼクスさん、グレイフィアさん。今日は本当にありがとうございました」

「ああ。何、気にすることは無い。では、今度会うときは授業参観の日だろうから、その時はよろしく頼むよ」

 

魔方陣から発せられた光の中に、2人は消えていった。

本当にいい人たちだったな。これで私の戦闘能力は大幅アップだ。これなら、あの白い奴と戦う事が出来る。

 

…母上の槍にかけて、ヴァルキュリアの王女として。…先の借りを返させて貰う。

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