赤い龍と蒼の魔女(仮)   作:イマーZ

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オッス! オラ作者。
ま~たまた来週の投稿できっか不安だから今日投稿すっぞ!


あの時に撃ち落しておけば・・・!フリーザだけではなかった・・・甘かったのは・・・!

下着泥棒を取り逃がしてから暫く経った。あの下着泥棒はあれから私達の前には現れておらず、世間を騒がせた下着泥棒事件は嘘の様に無くなった。部長達も何時覗かれているか解らないと暫くは警戒をしていたが、今ではそんな事もなくなっていた。

 

喫茶マウンテンキングは本日、定休日。時刻は午前10時ごろ。

洗濯と掃除を終えた私は、散歩に出かけていた。白のタンクトップの上に黒のロングカーディガン、デニムパンツで川沿いの堤防を歩く。やはりスカートよりも動きやすい。なんか、イッセーは不満そうにしているがズボンが一番いいと私は思うんだ。

1人で散歩より、本当はこの間知り合って友人になったスーザンさんとでも遊びに行こうかと思ったのだけど、スーザンさんは生憎大学の授業がある。ミルたんさんも予定が合わなかったし、イッセーも学校。おば様も今日はエステとかで居なくて暇なので、こうして1人寂しく暇つぶしに出かけている。

澄み切った青空と、堤防を吹き抜ける風。1人で散歩でも、こんなに天気がいいとやっぱりいい気分になってしまう。だから、ついつい鼻歌を歌って歩いてるんだけど、すれ違う人たちが笑顔になっているあたり、私の歌唱力は相当に上がっているに違いない。さっそく部長との特訓の成果が出ているんだな。

 

「あ、あんた…ププッ! ど、どんだけ下手なのよ…!!」

「…? お前は……」

 

振り返ってみれば、私服姿のレイナーレと修道服のアーシアがいた。あと、何かゴスロリ金髪娘もいる。何だか全員薄汚れている。

ゴスロリ娘とレイナーレは何故か腹を押さえて蹲っている。? 笑ってる? アーシアに視線を送ると何故か逸らされる。どうしたんだ?

 

「いきなり何をしているんだ、お前達。アーシア、レイナーレと其処のゴスロリ、お腹が痛いんじゃないか?」

「あ、いえ、…その、が、頑張ってくださいっ!!」

「お、おぅ…?」

 

何か力一杯励まされた。解せぬ。

 

「…ヒィ、ヒィ、…クッ、フフフ、じ、自覚無しですよ、レイナーレ姉様…!」

「…お、落ち着きなさいミッテルト…!! こ、これはトラップ、ププッ!!」

 

…なんだろう、お腹を押さえて蹲ってるこいつらを見てると、何故か殺意が湧いて来るんだ…。つい、腰の盾から槍を引き抜きそうになる。

 

◇5分後◇

 

顔を真っ赤にしているが、なんとか立ち上がったレイナーレとゴスロリ娘。

 

「…ふぅ、久しぶりね、イセリア・ヴァルキュリア。……そ、そうジト目に成らなくてもいいじゃない」

「やかましい。……で、何しに来た? 再戦にしても1月も経ってないぞ。それに、他2名はどうしたんだ?」

「ああ…あいつらね…!!」

 

何故か急に憎憎しげに顔をゆがめるレイナーレとゴスロリ娘。その横ではアーシアが悲しげに顔を伏せた。喧嘩でもしたのかこいつら。

 

「あいつらなら裏切ったわ。アーシアと、この私を、よりにもよってコカビエルなんかに売ろうとしてね…!!」

「私の首まで差し出そうとしたっス……!!」

 

裏切り者か…。まあ、自分の命が懸かっているんだ。そういう人間も出るのも当然か? でもこいつら、一体何と戦ってるんだ? コガビール? 新手のお酒か?

 

「コカビエルってのはアザゼル様とシェムハザ様の邪魔ばかりする戦争狂の糞野郎よ。まあ、悪魔と天使を皆殺しにするのは賛成だけどね」

「そうか…まあ、頑張れ」

「あんたなんかに言われずとも…って待ちなさい!!」

 

あんまり興味なかったから通り過ぎようとしたら肩を掴んで妨害してくる。

ゴスロリ娘も両手を広げて道を塞いでくるし相変わらずよく解らない奴らだ。アーシアも呆れて苦笑してるぞ。

 

「なんだ? 見かけたから挨拶しとこうってことじゃないのか?」

「そんな訳ないでしょう!? 誰が挨拶のためにあんたなんかに話しかけるか!」

「あんまりウチ等を馬鹿にするんじゃ無いぞ、この銀髪お惚けおっぱい魔人!!」

「っんな?! 誰がおっぱい魔人だっ、このゴスロリ娘!」

 

このゴスロリ娘、なんて失礼な奴だ! それ禁句だぞ! 母上だってそれ言われたらマジ切れしてたぞ! 大体、お前の隣にいるレイナーレだって十分おっぱい堕天使だろう!

 

「だれが、ゴスロリ娘っス?! 私はミッテルトよ、このおっぱい魔人が! 何よこれ、馬鹿みたいに自己主張しやがって!! 人間の癖にっ! 謝れっ! 全国の慎ましい胸に謝れっ! 私の慎ましい胸に謝れっ!」

「み、ミッテルト…?」「ミッテルトさん…?」

 

な、何だこの子、いきなり真赤になって怒り出したぞ。レイナーレとアーシアも困惑してる。目が充血してるし八重歯むき出しで凄い気迫だ。でも何だか涙目で必死で可哀想になってくる。

この前、店長から習った激励のポーズで励ましてみるか。店長曰く、イッセーが落ち込んでいる時はこれで元気になるらしいし。えと、両手を前でガッツポーズ…?

 

「その……ガンバッ!!」

「っ!?…胸強調しやがって!! むっかつく~!! レイナーレ姉さまっ!! こいつぶっ殺してくださいっ!!」

「え、ええ」

 

店長から教わったポーズ、全く持って駄目だったらしい。顔から蒸気を出しそうなほど真赤になったミッテルトがレイナーレをけしかけて来る。というより、自分じゃやらないんだな。

とにかく、困惑しながらも私に向かって殺気を向けてくるレイナーレに向き直る。いつでも炎を展開できるようにしてるから不意打ち対策も万全。高だか数週間で何が変わったのかも解らないが、向かってくるなら返り討ちにするだけだ。

 

「…まあいいわ。さあ、イセリア・ヴァルキュリア。今度こそ殺してあげるわ。この私の新しい力でね!!」

 

自信満々に右腕を掲げるレイナーレ。その右腕にドライグのような竜の波動を感じた私はすぐさま後方へ飛びずさり距離を取った。そして、腰から盾を取り、槍を引き抜く。

恐らく奴の自信の源は神器(セイクリッド・ギア)。神器についてはドライグからある程度の説明を受けている。それぞれが固有の能力を持ち、相性によっては自分より格上の相手すら倒せる。ならば、私が警戒しなくてはならないのは目に見えない特殊能力ということ。

どんな攻撃が来てもいいように、左足を一歩前にして腰を落とし、左手の盾を前へ、右手の槍で思い切り突ける様に後方へ構えた。もしも奴の神器が遠距離攻撃だったとき用に槍を回転させて炎を強くさせる。

 

「龍の手(トゥワイス・クリティカル)よ!」

 

レイナーレの右手に現れたのはイッセーの赤龍帝の篭手(ブーステッド・ギア)によく似た神器で紫色の篭手。なんらかの龍を封印したものだろう。能力についてはドライグから聞いたことのある奴だ。

それを見た私は安心と落胆を感じていた。確かに力を2倍にする能力は強者が使えば驚異的だろう。だが、使用するのはレイナーレだ。正直レイナーレの力が2倍になったところで、だからどうした? と言った所だし、第一にレイナーレはその神器を手にして間もない。いきなり能力を向上させても、普通はその上昇した能力に戸惑って慣れるまで時間が掛かるものなのだ。

 

「やってやるッス! レイナーレ姉さま~!!」

「あ、あの、止めたほうが…」

「アーシア! レイナーレ姉さまの応援をしなさいよ! ホラ! ガンバレ~!」

「は、はいっ! 頑張ってください、お2人とも!」

「おっぱい魔人まで応援してどうすんのよ!」

 

外野がうるさい。ミッテルト、そのボンボン何処から取り出したんだ?

ミッテルトのせいで人が集まってきそうだ。さっさと片付けさせてもらう。相手の攻撃を仕掛ける瞬間、虚を突くべく私はレイナーレを睨みつける。

 

「いくわよ!」

「…っ!」

 

レイナーレが叫んだと同時に、私は駆け出した。ヴァルキュリアの力によって生み出された脚力は足元のコンクリートを爆砕させ、瞬時に人間では到達し得ない神速の世界へと私を突入させる。その速度内でも私の両目は正確に敵を捉えて離さない。

 

「へぶっ!!」

 

そして、勝負は一撃で決着がついた。私の蹴りは顔面に突き刺さり、レイナーレは堤防の上から川の中へと回転しながら飛んでいった。

……よわっ! そんな空気じゃなかったよね? なんだかんだで、凄く善戦しそうな雰囲気だったよね? 何だったのあの自信。

 

「レイナーレ姉さまぁ!! 何となくこうなりそうだったけど、あんまりにも早すぎっスよ! 今助けますっ!」

「れ、レイナーレ様……ああっ主よ、止められなかった弱い私をお許しください」

 

巨大な水しぶきを上げて沈んだレイナーレを追いかけてミッテルトとアーシアが川へと走る。

ミッテルト、解ってたんなら煽らずに止めるべきだろう…。

何だかミッテルトとアーシアではそのままレイナーレを岸に上げ切れずに一緒に流されてしまいそうだ。私もレイナーレの救出に向かおう。

 

「お前達はそこで待ってろ」

「元凶が何言ってるっス! 人間が馬鹿にするんじゃない!」

「あの、すみません、イセリアさん」

「泳ぎは得意だから大丈夫だ」

「ふんっ! どうせその胸の浮き袋の御蔭だろっ!」

「? 泳げないのか?」

「私がペチャパイと言ってるわけ! このおっぱい魔人!」

「お前も一片頭を冷やせっ」

「あべしっ!」

「ああっ! ミッテルト様!」

 

◇3分後◇

 

堤防の高水護岸に大の字で転がる馬鹿堕天使2人と涙目で必死に看護するアーシア。

私もレイナーレのお腹を押してやる。水を結構飲んでしまっていたのかレイナーレの口からまるで噴水の如く水が出た。何だか面白い光景だ。ミッテルトの方もお腹を押すと、これまた噴水の様に水を吐き出す。…あっ、小魚。

しかし、こいつらのお蔭で楽しい散歩がすっかり台無しだ。私の服まで水でびっしょり濡れてしまってる。もう、さっさと家に帰ってシャワーを浴びたい。

 

「ゲホッ…く、くく…や、やるわね…!!」

「クククッ! …ゲホッ…だけど、私達の真の目的は戦うことじゃないっスよ…!」

 

気が付いた途端に転がったまま偉そうになる2人組み。さっき水を噴いてたところをビデオで撮っておけば良かった。

何だかよく解らないが、後ろから何かが飛んでくる気配を感じたのですぐさま振り返って槍で弾く。

弾かれたものは堕天使の使う光の槍だった。しかも弾いた6本の光の槍の軌道は、私だけではなくレイナーレとミッテルトにまで狙いを定めていた。一体どういう事だ?

 

「フフフ…混乱してるみたいね」

「実を言うと、レイナーレ姉さまの竜の手はコカビエルの所からパチッたって訳よ」

「そして、その追手を撒ききれなかったからアンタに押し付けに来たのよ! どうよ、この策略!」

「ごめんなさい! ごめんなさい! イセリアさん!」

 

口の端が三日月みたいに吊り上がっているレイナーレとミッテルト。その姿はまさに悪役なんだが、未だに立てないのか堤防の草原にうつ伏せのままだし頭に葉っぱがついてるから緊張感ゼロ。アーシアもこんな2人に付き合わされて非常に可哀想だ。

要するに、追手に殺されそうだったから私に助けて~ってことだろうに。

 

「へぇ…今のを防ぐか、おもしれぇ人間だぜ」

「それに、かなりの上玉だな」

「キヒヒッ! こりゃ、殺す前にかなり楽しめそうだ! 良い胸してやがる」

「おおっ! 透けてやがるぜ、へへへ良いね、イイネェ!」

 

気色の悪い面を晒す堕天使4人。こいつらは何処の世紀末なんだ。

堕天使っていうのは獲物の前で舌なめずりしないと生きていけないのか? 大体、何でこんなクズっぽい奴を追手にするんだか。

気色悪い奴らの視線を追えば、私の胸だった。タンクトップだったから濡れたせいで下着が透けてしまっている。こんな奴らに見せるような安っぽい体になった覚えはない。素早くカーディガンの前を確り閉じた。

 

「さあ! イセリア! やってしまいなさい!」

「頑張れ、おっぱい魔人! おっぱい光線で倒してしまうっス!」

「ごめんなさい! ごめんなさい!」

 

後ろの馬鹿2人、まとめてぶっ殺してやろうか? アーシア、もう謝らなくてもいいと言うに、本当に不憫な…。

 

◇10秒後◇

 

「凄い! 地面に犬神家っスよ、レイナーレ姉さま!」

「今のうちに止めを刺しておくわよ」

「はいっ!!」

 

嬉々として私が打ち落とした堕天使の男達に止めを刺すレイナーレとミッテルト。アーシアが苦しげな表情をしていたので、目隠しをすると、ワタワタと暴れだした。普通に暮らしていた? 女の子が殺人の現場なんて見るものでは無いしな。レイナーレ達と一緒に行動しているのなら、何度か見たこともあるだろうが、本来ならこんなものを見るべきではない。

 

「止めなくて良かったの? アンタ、殺しを嫌ってるんじゃ無かったの?」

「他人のする事まで止めはしない。…こいつらを生かしておけば、お前達はずっとこの下種どもに追われるんだろう? なら、止めはしない」

「ふ~ん」

 

レイナーレのしたり顔に腹は立つが、此処は無視する。それに、一応感謝もしている。この男達は、放っておけば碌なことをしなかっただろう。例えば、おじ様とおば様を人質にとったり、一誠の友達に襲い掛かったり。だから、レイナーレとミッテルトには感謝しておく。

まあ、レイナーレたちを見逃した時も復讐を警戒して部長達に私達の関係者の警護の強化をお願いしていたけど、今回は部長達に迷惑をかけずに済んだというわけだ。

他人に殺人を任せるなんて最低なことだし、本当なら私自身の手で殺すべきなんだろう。今回はアーシアが狙われていたし、綺麗で居たいとかそんな事を言ってる場合ではないはずなんだが、どうしても私は戸惑ってしまった。一般人のアーシアが見ていたせいか、それとも、私自身がすっかり平和ボケしてしまったか。

 

「へくちっ………私は、もう帰るぞ。全く…じゃあな」

 

さっさと帰ってお風呂に入ろうと踵を返して元来た道を引き返す。まったく、今日は碌な目にあってない。せっかくのいい天気だというのに。

もう関わり合いになりたくないというのに、何かついて来てるんだけど…。

 

「……なぜ、ついて来る」

「何を言ってるのかしら。たまたま、一緒の道なだけよ」

「そうっスよ、おっぱい魔人は本当に自意識過剰ねっ」

 

明後日の方向に目を向けて白々しく口笛を吹く2人。アーシアだけが、申し訳なさそうに目を伏せている。一体どういうつもりなんだ?

だけど、今日はもうこいつらに付き合うつもりはない。

 

「あっ! 逃げた!」

「待てこら!」

 

後ろで何か言っているがもはや知ったことではない。私のスピードなら例えあいつらが空を飛んだところで逃げ切れる自信がある。が、もしものことを考えて、直進で家に帰るのではなく遠回りして帰宅することにした。これで、私の家なんてもう解らないだろう。

そのはずなんだが……

 

「なんで、此処にいるんだ?」

「馬鹿ね! 既にあんたの家は調査済みよ!」

「ウチら撒こうなんて10年早いっスよ!」

「ご、ごめんなさい、イセリアさん」

 

玄関前で仁王立ちしてるし、何なんだこいつらは。玄関に触っていたら部長達の作った堕天使用トラップが発動しているはずなんだが、どうにもこいつらは私に解除させるつもりなのか?

 

「入れないぞ。断じて」

「まあ、待ちなさい。私達の話を聞きなさい」

「もう、この時点で胡散臭い」

 

両手を祈るように組んで私に言うレイナーレ。此処までこのポーズが似合わない奴がいるのだろうか? 凄く迷惑なんで直ぐ帰って欲しい。

 

「あんたに敗れてしまった私達は、堕天使の陣営を追われ、追手におびえながら当ても無く彷徨っていたのよ。そうして、下着を盗まれるわ、道に迷うわ、さらに仲間に裏切られて隠しアジトすら無くなり、眠る場所にも困る始末……これも、それも、お前のせいだぁ!! 死ねぇええ、え、グフッ!!」

「ご近所迷惑だ」

 

話をしているうちに興奮したのか、凄まじい形相でレイナーレが飛び掛ってきたので再び顔パンで黙らせる。すかさずアーシアが治すあたりが、なんとも言えない。

 

「ちょっと、おっぱい魔人! いつも顔ばっかり狙って! レイナーレお姉さまの顔に何の恨みがあるのよ!?」

「別に無いけど、お腹よりいいだろう? 子供が産めなくなってしまうし」

「普通そんな事考えないわ! それより、女の顔殴るほうがどうかしてるでしょ! 女の命っスよ!」

「どうせ治ってるし、問題ないだろう」

 

もうレイナーレの顔はギャグ漫画の領域になってる。イメージでいくと、次のコマには傷1つなくなってるあれだ。鼻が折れ曲がって鼻血を噴出そうが、頬がリンゴの様に腫れようがアーシアがあっという間に治してくれるからな。私も何の容赦も無く殴れるというもの。

 

「お、おのれ…くぅううう…!! というわけで、イセリア。私達にお風呂とご飯をご馳走しなさい」

「どういう訳だ。その辺のホテルでも使えばいいだろ。なんか堕天使の特殊能力的な奴でお金は解決できるんだろう?」

「馬鹿ね。そんな事をしたら、直ぐに追手が飛んでくるに決まってるじゃない」

「いい加減観念するっス! 私達に高級ホテル並みの待遇を希望!」

 

なんという厚かましさ。これが人にものを頼む時の態度なのだろうか?

ジャイアントスイングでまた川に投げ込んでやろうかと思ったときだった。その小さな音が響いたのは。きゅ~っと可愛らしく響く音。発信源はアーシアのお腹だった。

 

「……あぅ、すみません」

「…イセリア、あんたはこんな哀れな小娘まで見捨てるというのねっ」

「おっぱい魔人は人間としての情すらおっぱいの成長に変えてしまったというわけっスね…」

「私達堕天使なんかより、ずっとこの女は性悪よ」

「マジっス。こんな凶悪乱暴おっぱい魔人、悪魔にだっていませんよ」

 

顔を寄せ合って囁く馬鹿堕天使達。なんというウザさだろう。こいつらが天使から堕天使になった訳がよく解った。というより、これで天使だったらこの世の理不尽を呪うしかない。

 

「お前らプライドは無いのか」

「そんなものあんたにやられて当ても無く彷徨ってるうちに無くなったわ!! プライドで飯は食えないのよ!」

「何でウチ等がタンポポ食べたり、山に篭ってサル達と餌を奪い合わないといけないの!? 責任とるっス!!??」

「シャワーすらまともに浴びれてないのよ! 滝で身を清めるって何時の時代よ!」

 

ひ、必死すぎる…。なんか前回会った時と微妙にキャラ変わってると思ってたら、赤貧生活をしていたわけか。貧しさは人を変えるんだな…。そういえば、私も母上に追われて逃げ回ってた時から部下達に性格が変わったとか言われたな。仕方ないよな、私も草を食べたり1週間眠らず戦闘続行とかやってたし。

まあ、それでも堕天使達は放置してもいい気がするが、アーシアの方は普通の子だ。放っておくと確かに危ない。だが、堕天使をそのまま家に入れるのは抵抗がある。アレの出番だろう。

 

「ハァ……風呂に入ってご飯食べたら帰るんだぞ。それと、家に入る前にこれをつけろ」

「何よこれ? 首輪? アンタ女王様趣味でもあったわけ?」

「そんな訳無いだろう。これは私の意志1つで爆発する首輪だ」

「そんなの付けれる訳無いっス! 悪魔かお前は!?」

「アーシアはつけなくてもいいぞ。ただし、お前らは付けないと家に入れない」

 

私も元々居候と言う身分だ。だというのに、こいつ等を招いたせいでおじ様とおば様、イッセーの身に何かあったら死んでも死にきれない。これが私に出来る最大限の譲歩だ。

 

「解ったわ…」

「レイナーレ姉さま!?」

「ミッテルト、今はご飯を食べて身を清めることだけを考えましょう…。この程度の屈辱、空腹で倒れることと比べたら…!!」

「くぅ……!! 解りました…!」

 

もっと渋るか、もしくは怒って帰るかと思ったが、意外にもレイナーレは大人しく首輪をはめた。それほどまでに飢えていたのか、それとも部下達に裏切られたのが堪えたのか。短い間ではあったが、以前の邂逅で感じた印象とは本当に変わっている。

そんなレイナーレを見て、ミッテルトも大人しく首輪をはめる。此方は、本当に悔しそうに私を睨みつけながらはめた。凄いなこの子。よくこんな恐ろしい爆弾をつけてそんな顔を向けられるな、私では無理だ。

 

「大体、何でこんなもの持ってるのよ、このおっぱい魔人」

「もう、私の名前はおっぱい魔人か…。はぁ、…それは母上が開発した躾け用首輪だ。私も父上も昔よく着けられた」

「お前の母ちゃん何なのよ! 魔王か!?」

「目の前でこれを着けた罪人を爆発させられた時はもう震えたよ…」

「こわっ! するなよ、絶対するなよっ!」

「前振り…? 凄い芸人魂だな…」

「「違うわっ!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ…生き返りますね、レイナーレ様」

「これであの忌々しいイセリアの家じゃなかったら最高なのだけれどね」

「もう、そんな贅沢言ってられないですよレイナーレ姉さま」

 

本当に変った。

そんな事をレイナーレの横顔を眺めながら、アーシアは思った。

3人で一緒に入るには狭い浴室。2人で入るにも少々狭い浴槽。ミッテルトはまだ体を洗っているが、レイナーレとアーシアは2人で浴槽に浸かっていた。以前のレイナーレであれば決して自身が浴槽に浸かっている時にアーシアを一緒に入れたりはしなかっただろう。それが、”さっさと入りなさい、風邪を引くでしょう”などと、まるでアーシアを気遣うように一緒に入る事を勧めた。

 

「ん? 何よ」

「いいえ、イセリアさんが優しい人で良かったです」

「何言ってんのよ! あれの何処が優しいのよ! 悪魔より残酷な女よ! 何回私が殴られてると思ってるの!」

「え? あ……そ、そうですね」

「いい? あの女に気を許しては駄目よ。まず…」

 

必死にアーシアに力説するレイナーレ。どれだけイセリアを恨んでるかを渾身丁寧に説明される。それを聞きながらも、アーシアはレイナーレが本気でイセリアを憎んでるわけではないと気付いていた。いうなれば、好敵手の様にレイナーレがイセリアを見ていることを。

 

変化のきっかけはイセリアに敗れた日。

あれから暫くレイナーレは荒れに荒れ、アーシアどころかミッテルトやドーナシークにも八つ当たりをしてしまっていた。それも仕方が無いのかもしれない。何故ならあの時のイセリアに言われた言葉は間違いなくレイナーレの心に残る言葉だった。それこそ、普段からアザゼル様シェムハザ様と信仰しきっているレイナーレにとっては。そして、だからこそドーナシーク、カラワーナがレイナーレを見限ったのもアーシアには仕方が無いことだと思えた。寧ろ、あれほど辛く当たられてもついて来ているミッテルトの方が可笑しいのだ。

 

「さて、そろそろ上がりましょう。先に上がるわミッテルト」

「はいは~い。ご飯私の分まで食べないでくださいよ」

「其処まで食い意地張ってないわよっ」

 

髪を洗いながらレイナーレをからかうミッテルト、それに噛み付くように言うレイナーレ。少し前では本当に考えられない光景。レイナーレと一緒に脱衣所に向かいながら、アーシアはほんの数週間前を思い出して嬉しくなった。

 

ドーナシークとカラワーナが裏切ってからのレイナーレはとても見ていられなかった。それまでの様に周りに当たるわけでもなく、只沈むように落ち込んでいた。きっと無意識のうちにどんなことになっても部下が裏切る事は無いと思っていたのだ。そんなレイナーレをアーシアとミッテルトは懸命に励ました。

アーシアが嘗て聖女と呼ばれていた時から魔女と呼ばれるようになった時、只神器を抜かれて死を待つ身だった時とその時のレイナーレはそっくりだったのだ。何もかもを諦めた目。まるで死んでしまいそうなほど空ろな目だった。だからこそ、アーシアは逃げる事が出来なかった。だからこそ、ミッテルトと協力して追手からレイナーレを必死に隠した。決して命令や諦めなどではなく、自らの意思でレイナーレを助けたいと思った。

そして、その事をアーシアは後悔していない。ミッテルトとアーシアの応援を受けて決意を新たにしたレイナーレはまるで天使の様に輝いていた。例え戦闘能力は弱くても、無様に殴り飛ばされようともその輝きは失われないし、レイナーレが信仰しているアザゼルやシェムハザにだって決して劣っていないとアーシアは信じている。

 

「おっ、ちゃんと着替えも用意してあるし洗濯もしているじゃない。いいわよ、イセリア。このまま私達のために馬車馬のように働きなさい…! ククク、ご飯が不味かったら目のまで卓袱台返ししてあげるわ…!! くけけけけけ…!!!」

 

…アーシアは信じているのだ!

目の前で口の端を吊り上げ邪悪に笑うレイナーレを気にしないようにしながらアーシアは着替えを済ませた。汚れた下着しか持っていなかった筈なのに新品の下着が用意してある。それに、服だって綺麗なワンピースだ。元々持っていた服は洗濯機の中の筈。

長風呂だったけど、買ってくるには早すぎると思ったアーシアだったが、イセリアが消えるように移動していたのを思い出した。あの人なら出来そう、と思いなおした。そして、敵の筈の自分達に此処まで優しくしてくれるイセリアに、アーシアは感謝の気持ちでいっぱいになった。

 

「…ん、良い匂い」

「このチーズの香ばしい匂い…恐らくシーフードドリアね。私達のようなお腹ペコペコ状態になるべく負担をかけない気遣いね。卵黄を使った本格的なグラタンソース、サリー・ワイルが考案した味を目指したようね」

「な、何で匂いだけで其処まで解るんですか?」

「フッ…堕天使にとって、この程度できて当然よ」

「ほえ~、堕天使の皆さんそんな事が…」

「え、ええ」

 

レイナーレとしては冗談のつもりで言った言葉だったが、アーシアはそのまま信じてしまう。将来が不安になったが、レイナーレはアーシアを手放す気はないのでまあ良いかと思いなおした。ミッテルトもアーシアももう手放す事はレイナーレには出来ない。利用価値ではなく、それだけの情をレイナーレも持ってしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はふっ…はふっ!」

「美味しい…!!」

「はふっ! あ、熱いっス!! アーシア~…!!」

「だ、大丈夫ですか? 直ぐに治します」

 

目の前で私の料理を食べる3人。アーシアは上品に少しずつ食べているが、レイナーレとミッテルトは掻き込むように食べている。レイナーレに至っては2杯目だ。

ドリアなんだからゆっくりと食べればいいのに、案の定火傷してる。アーシアも甘やかさないでほっとけば良いのに、直ぐに治すから学習しないんだと思うぞ。

それにしてもアーシアはこいつらと一緒だけど、前より活き活きしてる。あんまりにも酷い様子だったら引き離そうかと思ってただけに、これは意外だ。

 

「ふぅ…食事はまあまあね」

 

結局、お風呂にも入らずこいつらの世話をしてる。本当に何やってるんだろう。着替えただけだし、さっさとお風呂に入りたい。

それに、何でこいつはこんなに偉そうなんだ。このダ天使(ダメダメ天使)レイナーレは。頬にご飯粒ついたままで格好が全然ついてないぞ。

 

「だけど、このブラジャーはダメね、サイズが少し大きいわ。パンツは少しきついし。アーシアとミッテルトはピッタリなのにこれはどういうことよ?」

「お前のそれは私の着てなかった新品だ。アーシアとミッテルトのサイズは脱いだ下着で解ったけど、レイナーレは下着が無かっただろ。痴女なのか?」

「違うわ! 下着泥棒に全部持ってかれたのよ!」

 

机から乗り出してくるレイナーレ。何だ、てっきり下着を着けない事で興奮する人かと思ってた。

しかし、あの下着泥棒に盗まれたのは一般人とグレモリー眷属だけだと思ってたんだが、意外と手広くやってたんだな。あの変態。

…ん? いや、待て。そういえば封印を解いた奴の特徴はイッセーによると怒りっぽい堕天使だったな。

 

「レイナーレ、最近壷を割らなかった?」

「壷? そんなもの知ら…いえ、そういえば割ったわね。百均で売ってるような安っぽい奴だったけど」

「……はぁ」

「な、何よ」

「なんでもない」

 

こいつのせいだった訳か。確かに直ぐ怒りそうなイメージだしな。だったら、下着を盗まれたのもこいつの自業自得。御蔭で私まで盗まれてしまったんだから少し睨んでも悪くないと思う。

 

「食べ終わったら洗濯物をコインランドリーに持っていくからついでにお前の下着も買うか」

「何のつもりよ、施しは受けないわ」

「今更すぎる。何を言ってるんだ」

「うぐぅ」

 

ジト目で言ってやると、やっと自覚したのか大人しく席に着くレイナーレ。どうせこいつ高い下着を選ぶんだろうなぁ。でも、買ってやらないと今日は何時までも憑いて来そうだ。それはもう性質の悪い悪徳セールスマンみたいに。

 

「へくちっ……はぁ、今月のバイト代が今日だけで全部パァかも」

「バイト…あんた働いてたのね」

「おっぱい魔人はてっきり牛みたいにニート生活やってるかと思ってたっス」

「また川に落ちたいのか」

 

 

次の日。

あのあと、レイナーレの下着を買った後、コインランドリーにあいつらの服を取りに行ってそこでやっと解散になった。

本当に厄介な連中だった。午後3時まで家に粘られたし。お風呂は部活ギリギリの時間でシャワーだけになってしまったし、レイナーレは結局高い下着を選ぶし、ミッテルトは人のことずっとおっぱい魔人呼ばわりだし。唯一の救いはアーシアが申し訳なさそうにしてた事だけだろう。本当に昨日は厄日だった。

 

「へくちっ…うぅ、悪寒が…」

 

お陰さまですっかり風邪を引いてしまった。時刻は5時、何時もより遅い。起きなくてはいけないんだが、全く起きれない。ご飯の仕度もあるしイッセーを起さ無いといけないのに。

たかが水に浸かってたくらいでこんなことになるなんて…。母上の追手から逃げてる時の方がよっぽど過酷な環境だった筈なのに…。あっ、あの時は炎を出しっぱなしだったからか? 今からでも治るかな? いや、でも子供の頃に風邪を引いたときは結局1日かかったような…。

 

「イセリア? どうしたんだ? まだ、寝てんのか?」

「あぅ、いっせー…?」

 

押入れの扉が開けられて眩しい蛍光灯の光に目がくらんだ。ま、間違いないこの人影はイッセーだ。こんな醜態を晒せば、間違いなく失望される。

伝説のヴァルキュリア人? なにそれワロス、プギャー! ってな感じになるっ。やばい、急いで布団ガードを…

 

『風邪か。…伝説のヴァルキュリア人? なにそれワロス、プギャー!』

「やめんかい、ドライグ!」

『馬鹿め、今が好機よ…!』

 

言われた、一字一句間違いなく言われた! ドライグ、なんて酷い奴なんだ…。想像じゃなくて実際に言われると結構心に響くぞっ。泣くぞ、泣いてしまうぞ。

 

「うぅ、おのれぇ~」

「お、おいイセリア泣くなよっ」

『相変わらず泣き虫な奴め、”母上、ナルヴィ、プレシア、どこなの、独りにしないで”…だったか?』

「!?」

 

な、何故知っているんだ…?! そ、それはイッセーと私だけの秘密の筈だぞ…!!

あ、あの時はまだドライグはまだ居なかった筈じゃないか…?!

 

『ククク、俺は相棒の中にずっと居たのだぞ? そして、あの時からお前の力の波動を受けて目覚めていたのだ』

「ば、ばかな…!」

「な…! もしかして、あの時の俺の台詞も…!」

『勿論。なかなか恥ずかしい台詞を言っていたな、相棒』

 

な、なんてこったい…!

あ、あの時の醜態を、こいつは全部見ていたというのか…!

 

『めそめ「わー! わぁー! …ケホッ、ゲホッ!」そと…むぅ』

「イセリアっ! うわっ! すげー熱いぞ! ドライグ、からかうのは無しだ!」

『チッ…仕方あるまい』

「母さんと父さんには言っとくから、おとなしく寝とけよ!」

 

あっという間に出て行くイッセー。

私の黒歴史、ドライグまで知っていたなんて…。もう最後の炎で爆発するしかない…。これも、あれも、全部レイナーレたちのせいだっ。今度会ったら出会った瞬間爆発してやる!

 

「おわっ! どうした! 熱暴走的な奴か! しっかりしろ! 今日はずっと看病してやるからな!」

「っ!?」

 

なん…だと…?!

た、偶には風邪も悪くないかもしれないなっ! レイナーレにも感謝しないことも無いぞ!

 

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