ジークフリートは今日この日まで第一撃をどうしようか考え続けてきた。
一日中考えて来た。
案は初日で100を超え、数日で300に達した。
だが、結局の所、最も有効と思われるのは二つに絞られる。
一つは、友好的に近づき油断した所を斬り殺す。
もう一つは不意打ちで超高威力、広範囲攻撃を遠距離から叩き込む。
そして、ジークフリートが選んだのは後者だった。
島の上空に転移したジークフリートは即座に島を転移妨害つきの結界で覆う。
そして、彼は逡巡など欠片もせずに、その結界目掛けて完全開放したグラムを全力で振り下ろすのだった。
それは危機感を覚え、勇真が身体能力強化をしたすぐの後の事だった。
「うわぁ、本当何やってくれてんのランスロットくんは」
知覚速度の倍化によりスローモーションとなった視界の中、勇真は天から堕ちる黄金の奔流を眺めそう呟いた。
転移妨害の結界に超広範囲、超威力攻撃、ランスロットは問答無用でこちらを殺すつもりのようだ。
映画とか漫画じゃないんだから人形が造物主に逆らうなよ、そう思いつつ彼は急いで逃げ出す準備をする。
それから0.1秒後、魔帝剣の一撃が島を跡形もなく消しとばした。
「…………」
ジークフリートは鋭い目でグラムの着弾点を睨んでいる。
島は跡形もなく消し飛んだ、島跡地には大量の海水が流れ込んでいる。不自然な魔法反応はない。
普通に考えたら死んだ、ということなのだが。
しかし……。
「……避けたか」
ジークフリートは頭上から襲い掛かった聖短剣をグラムで受け止める。
噛み合う聖なる刃と魔の刃が互いを拒絶し、バチバチと電撃状の聖魔のオーラが周囲に飛び散った。
そして、一秒未満の鍔迫り合いの後、勇真は飛翔術でジークフリートから少し距離を取って剣を構える。
その構えはジークフリートから見ても隙がない見事な構えだった。
これだからコイツは面倒くさい、天才なんだから努力なんかしてんじゃねぇ、いつも通りグウタラしてろよ、と内心で毒づき、ジークフリートはグラムを正眼に構えた。
「おはようランスロットくん、モーニングコールありがとう。しかし、モーニングコールにしては時間が遅い上、少しばかり殺意を込めすぎだと思うのだが、なんのつもりかな?」
冗談めかして、勇真がジークフリートに問い掛ける、その言葉にはたっぷりと呪詛が乗っていた。
その呪詛でごく僅かだがジークフリートの感覚が鈍くなる。
そういえば、言葉には呪詛を込めて話す事は良くするが、逆に呪詛が込められた言葉を投げ掛けられた事はないな、とジークフリートは苦笑した。
「いやいや、万年寝坊助の主人の目を覚ますにはこれくらいインパクトが必要かなと思いましてね、あと僕の名前はジークフリート、そこの所はお忘れなく」
勇真の問いに、こちらもたっぷりと呪詛を込めて返すジークフリート。しかし、勇真は特に呪詛の影響を受けた様子はない。
それにやはりか、とジークフリートは内心で勝率が更に下がった事に溜息を吐く。
「はは、面白いことを言う。俺は君にランスロットという名前をあげた。ジークフリートの身体を乗っ取ったからってそれを捨てるなんてとんでもないと思わないのかい? しかも、俺はジークフリートを殺せと言ったが身体を乗っ取れと言った覚えはないが?」
勇真は口では笑いながらも目が全く笑っていないあからさまな作り笑いをしながらジークフリートを遠回りに咎めた。
「ふふ、主人が命じたのはジークフリートの殺害ではなく無力化でしたよ? 今、ジークフリートは、いや、元ジークフリートは無力化されていています。その為、命令に反しているとは思いませんが?」
それに対し、ジークフリートは主人と言いつつ全く敬った態度を見せずに、お前の命令が悪いんだよ、と解釈出来る言葉を返し、隠していない忍笑いで勇真を挑発する。
「そうか、分かった。俺の命令の仕方が悪かったようだな、頭の残念な君では理解出来なかったか。では、それはいい。だがいくつか聞かせてもらおう、俺の命令は全てちゃんと果たしたか?」
「ちゃんと、と言われてしまうと微妙ですね、少しばかり “僕の解釈” で命令を実行しましたので」
「人形が自分の解釈で動いた? はっはっは、これは傑作だ! 君はとんだ欠陥品だね、つまり、悪魔になったのもランスロットくんの解釈ってこと?」
その言葉には、黙って命じられた事だけしてろ、そんな意思を込められていた。
それにジークフリートは肩を竦めた。
「ええ、その通りです。主人は僕に悪魔になるなとは命じなかった。あと僕はジークフリートですよ、数秒前の会話もお忘れですか?」
若年性アルツハイマー? そう首を傾げて挑発するジークフリートに勇真は青筋を浮かべそうなったが、戦闘中に怒るのは単なる隙を作る行為だと、自分に言い含め、不敵な笑みを保つ。
「その言葉はそっくりそのままお返ししよう……いや、そこまでランスロットという名が気に入らないなら他の名前をあげようじゃないか、そうだなぁ、ガラクタくんなんてどうかな?」
「ハッ、主人のセンスを疑いますよ、中学生ですか?」
「いやいや、いい名前だと思うよ? まあ、ガラクタくんの言う通り俺って中卒だからね、これ以上いい名前なんて思い浮かばないなぁ〜、あ、ガラクタくんがどうしても気に入らないならスクラップくんなんてどうかな?」
「はは、どうぞご自由にどうせすぐに呼ばれなくなる名です」
「そうだよねー、すぐに本当のスクラップになっちゃうもんね〜…………まあ、冗談はここまでで、どうして、そしてどうやって俺を裏切った?」
「どうして……本気で言ってますか? 主人は自分の存在理由が “とあるダメ人間” のアリバイ作りと邪魔者排除で、それが終わったら即人生終了だったとしたら、受け入れます?」
え、本気で分からなかったの? そんなニュアンスを込めてジークフリートが言う。
それに対し、勇真は。
「いや、もちろん無理。でも君は人形じゃん」
と応える、自分勝手過ぎる言い分にジークフリートはイラッとした。
「酷い事言いますね、高度な知性を持たされた人形は人間と大差ありませんよ? そもそも、僕の人格の半分は主人の性格をトレースして出来たモノなんですが?」
「俺は君ほど性格悪くないよ? 何かの間違いじゃないかなぁ?」
「いやいや、僕の性格の悪さなんて主人の数分の一にも満たないですよ……まあ、今の性格はだいぶジークフリートに影響を受けているんだけどね」
そう、ジークフリートはあからさまな慇懃無礼な言葉遣いを止めると、乗っ取ったジークフリート “ぽい” 口調で言った。
「はは、じゃあジークフリートの性格が悪かったんだな。もう、せっかくいい子に作ってあげたのに、そんな “バッチイ物” 取り込むからいけないんだよ、拾い食いはダメって親に習わなかったの?」
「悪かったね、あいにく “親の” 常識が欠けていたのか習わなかったんだよ」
「それは親の顔が見てみたい。まあ、子供をエクソシストにする様な親だ、どうせロクでもない奴だろうけどね」
「はは、違いない、子供を使い捨ての道具にする卑劣な奴だからね、あ、鏡を貸そうか?」
「いや、結構だ。それでどうやって裏切った? そもそも君は俺を裏切れる様に作ってないんだが?」
「ふふ、あの時、主人は曹操に敗北したショックで若干冷静さを欠いていた、その為、安全装置の作り込みがいつもより甘かったんだよ。ああ、本当この点は曹操に感謝しなければならないね」
「…………マジで?」
「マジだよ。単なる主人のミスだ」
「マジか、時間を戻してこのポンコツどうにかしてぇ……いや、ルミネアと仲良くなれたし戻れたとしても戻らないか」
もう一度なれるか分からないし、あと曹操死ね、と勇真はナチュラルな惚気と曹操への恨み言を言う。
「……バカップルかい?」
ジークフリートが呆れたような馬鹿にしたような雰囲気で告げるが勇真は気にせず肩を竦めた。
「はは、言われたことないなぁ、ここ最近ルミネア以外と会ってなかったし、それに……別に時間を戻さなくても目の前のスクラップくんをさっさと廃棄処分にすれば良いだけの事だからね」
「フッ、出来ると思ってるのかい?」
「余裕余裕、スクラップくんこそ、人形如きが造物主に勝てるとか思っちゃってるの?」
「それこそ余裕だね、漫画やゲーム、映画で良くあるだろ? たいていこういう場合は造物主が負けるんだよ」
「はは、人形の癖に生意気、あとそういうのはね……主人公になってから言ってね脇役くん」
「じゃあ、今から僕が主人公だ…………さて」
「主人、小細工の準備は整ったかい?」
「さてね、そっちはルミネアの探索は終わったか?」
その言葉を最後に、二人は時間稼ぎの無駄話を終了する。
そもそも、本来会話など不要だったのだ、勇真にとって反逆した人形の言葉など何一つ信用するに値しない。
どんな理由があろうともジークフリートは勇真を殺そうとした。ならば勇真が取る対応は廃棄処分ただ一択、そして、ジークフリートの目的も勇真の殺害ただ一つ。
故に、これから起こる戦闘に避けられない必然だった。
南国の空に強大な雷が迸った。
トラップ満載の島「……………」